説明

スラグの冷却方法

【課題】省スペース化が図れると共に、良好な作業環境下で、短時間で効率的に冷却処理できるスラグの冷却方法を提供する。
【解決手段】上流側端部と下流側端部に、それぞれスラグ供給口12とスラグ排出口13を備え、しかも上流側から下流側にかけて下方へ傾斜して配置される金属製の筒状冷却体11を、その軸心を中心として回転させながら、スラグ供給口12に高温のスラグを供給し、筒状冷却体11内で間接冷却したスラグをスラグ排出口13から排出するスラグの冷却方法において、筒状冷却体11内に冷却水の散水用配管31を配置し、筒状冷却体11内を搬送されてきた温度が900℃以下になったスラグに対して直接冷却水を散水して冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、製鉄所から発生するスラグの冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製鋼工程で発生したスラグは、例えば、骨材や路盤材として使用するため、冷却処理されている。この冷却処理に際しては、発生したスラグをスラグ鍋(スラグパン)に受け、これに水をかけて冷却する方法や、発生したスラグを広大な土間に広げて自然放冷する方法がある。
しかし、スラグを水冷する場合、スラグに石灰成分が含まれているため、冷却水の浸透性が悪く、スラグの冷却に時間を要したり(例えば、半日〜1日程度)、またスラグの処理量に応じて多数のスラグ鍋が必要となる問題があった。また、スラグは断熱性が高いため、スラグを自然放冷する場合、スラグの冷却に更に時間を要したり(例えば、3日程度)、スラグを広げるための場所を確保しなければならないという問題があった。
そこで、スラグの冷却処理を、省スペースで短時間に行う方法として、例えば、特許文献1の方法が開示されている。具体的には、円筒状のキルン内に、その入口側から排出口側に渡って散水ノズルを取付け、キルン内に供給されたスラグに散水して冷却する方法である。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−136942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、キルン内に供給するスラグは1000〜1300℃の高温であるため、このスラグに散水ノズルから冷却水を吹付けると水性ガス反応が起こり、COガスとHガスの合成ガスが発生して、作業環境が悪くなる恐れがある。また、高温のスラグに溶鉄及び溶滓が混入していた場合には、水蒸気爆発を招く恐れもある。
そして、この高温のスラグを冷却するため、スラグに対して冷却水を過剰に散水すると、冷却されたスラグが多量の水分を含有する結果、冷却スラグが搬送設備のベルトに付着したり、またこのスラグがキルンの排出口側内面に付着し堆積する問題がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、省スペース化が図れると共に、良好な作業環境下で、短時間で効率的に冷却処理できるスラグの冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するためになされた本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)上流側端部と下流側端部に、それぞれスラグ供給口とスラグ排出口を備え、しかも上流側から下流側にかけて下方へ傾斜して配置される金属製の筒状冷却体を、その軸心を中心として回転させながら、前記スラグ供給口に高温のスラグを供給し、前記筒状冷却体内で間接冷却した前記スラグを前記スラグ排出口から排出するスラグの冷却方法において、
前記筒状冷却体内に冷却水の散水用配管を配置し、該筒状冷却体内を搬送されてきた温度が900℃以下になった前記スラグに対して直接冷却水を散水して冷却することを特徴とするスラグの冷却方法。
【0007】
(2)前記スラグ排出口から排出される前記スラグの温度を50℃以上100℃以下の範囲内にして、該スラグの含有水分量を8質量%以上12質量%以下の範囲内とすることを特徴とする(1)記載のスラグの冷却方法。
(3)前記散水は、前記筒状冷却体の前記スラグ排出口位置を基端として、該筒状冷却体の上流側へ該筒状冷却体の長さの50%以下から前記スラグ排出口までの間で行うことを特徴とする(1)及び(2)記載のスラグの冷却方法。
【0008】
(4)前記筒状冷却体の内面には、該筒状冷却体内に供給された前記スラグを該筒状冷却体の回転に伴って掻上げる複数の掻上げ部材が、前記筒状冷却体の周方向に間隔を有して設けられていることを特徴とする(1)〜(3)記載のスラグの冷却方法。
(5)前記スラグは、溶融金属を含有するスラグであることを特徴とする(1)〜(4)記載のスラグの冷却方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るスラグの冷却方法は、筒状冷却体内に配置された散水用配管により、筒状冷却体内を搬送されてきた温度が900℃以下になったスラグに対して直接冷却水を散水することで冷却するので、水性ガス反応(即ち、COガスとHガスの合成ガスの発生)を抑制して、作業環境を良好にできる。また、スラグ及び混入する鉄分は、その温度が900℃以下であれば融点以下であり、確実に固化しているため、この高温溶融物(溶滓及び溶鉄)と水による水蒸気爆発の恐れもない。
【0010】
また、筒状冷却体内で冷却したスラグの含有水分量を規定する場合、スラグを発塵させることなく、しかもヘドロ状態にすることなく、スラグを下流側の工程へ搬送でき、作業性を良好にできる。
そして、筒状冷却体内に配置する散水用配管の長さを規定するので、COやHが発生しない良好な作業環境下で、スラグの冷却と含有水分量の調整を容易にできる。また、大きなスラグ塊が投入口から入った場合、キルン入口側に配管があれば、落下衝突による配管の損傷の恐れが大きいが、これも回避できる。
更に、筒状冷却体の内面に、スラグを筒状冷却体の回転に伴って掻上げる複数の掻上げ部材を設けるので、スラグの冷却とスラグへの水の混合を良好にでき、スラグの含有水分量の調整を、更に精度よく実施できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るスラグの冷却方法を適用するスラグ冷却装置の説明図、図2は同スラグ冷却装置の正断面図、図3はスラグの含有水分量と発塵量及び搬送ベルト付着量との関係を示す説明図である。
【0012】
まず、図1、図2を参照して、本発明の一実施の形態に係るスラグの冷却方法を適用するスラグ冷却装置(以下、単に冷却装置ともいう)10について説明した後、スラグの冷却方法について説明する。
図1に示すように、スラグ冷却装置10は、金属製(例えば、ステンレス製)の筒状冷却体11を有している。
筒状冷却体11は、例えば、長さ(以下、機長ともいう)Lが4〜15m程度、内径Dが長さLの1/4〜1/2程度の円筒状のものであり、上流側端部にスラグ供給口12が、下流側端部にスラグ排出口13が、それぞれ形成されている。このスラグ供給口12には、スラグ供給用シュート14が取付けられ、スラグ排出口13には、スラグ排出用シュート15が取付けられている。また、スラグ供給口12とスラグ排出口13には、それぞれ集塵機(図示しない)が設置されている。
【0013】
この筒状冷却体11の軸方向両側の外周には、それぞれガイド部16、17が設けられ、筒状冷却体11が、このガイド部16、17を介して、固定台(図示しない)上に設置されたガイドローラ18、19により回転可能に支持されている。なお、この2つのガイドローラ18、19の高さレベルは異なっており、筒状冷却体11が上流側から下流側へかけて、下方へ傾斜状態(例えば、水平状態を基準として下方へ1/100〜5/100)で配置されている。
また、筒状冷却体11の軸方向中央部の外周にはギア20が設けられ、このギア20が、固定台上に設置され、駆動モータ21によって回転可能となったギア22に螺合している。
これにより、駆動モータ21を作動させてギア22を回転させることで、筒状冷却体11は、ガイドローラ18、19上で、例えば、0.5〜7回/分(rpm)の回転速度で、その軸心を中心として回転できる。
【0014】
筒状冷却体11の上方には、筒状冷却体11の外表面に冷却水を流すための配管23が、筒状冷却体11の軸方向に沿って配置されている。この配管23の基側から先部へかけては、筒状冷却体11に冷却水をかける枝管24が、間隔を有して複数(例えば、3〜20個程度)取付けられている。なお、配管23と各枝管24には、それぞれバルブ25、26が設けられ、散水位置と散水量の調節ができる構成となっている。
ここで、配管23及び各枝管24に設けられたバルブ25、26を開状態とし、各枝管24から冷却水を散水することにより、冷却水は、筒状冷却体11の外表面を流れて下方へ落下し、筒状冷却体11内のスラグが間接冷却される。
このとき、筒状冷却体11の下方に落下した冷却水は、冷却水受け容器27で回収される。この冷却水受け容器27には排水用配管28が接続され、この排水用配管28に取付けられたバルブ29を開状態とし、更にポンプ30を作動させることで、下流側へ排出される。なお、排出された冷却水は、温度を低下させた後に、冷却水として再度循環使用することが好ましい。また、間接冷却として、外周からの散水に変えて、筒状冷却体を二層構造として、その内部(隙間)に冷却水を流通させる構造でもよい。
【0015】
筒状冷却体11内であって、そのスラグ排出口13側には、スラグ排出口13から装入した冷却水の散水用配管31が配置されている。
筒状冷却体11内の散水用配管31には、スラグに対して冷却水を散水する散水用ノズル32が、間隔を有して複数取付けられている。
筒状冷却体11の上流側で、冷却水を散水することなく空冷で冷却したスラグは、そのままの状態では発塵する。このため、この空冷したスラグに対し、散水用ノズル32により冷却水を散水することで、スラグを冷却すると共に、スラグに水分を含ませることが可能となり、スラグを発塵させることなく他の工程に搬送できる。更には、筒状冷却体11の全長を短くでき、よりコンパクトな設備とすることも可能となる。
【0016】
この筒状冷却体11内の散水用配管31は、筒状冷却体11のスラグ排出口13位置を基端として、筒状冷却体11の上流側へ筒状冷却体11の長さLの50%以下からスラグ排出口13までの間に配置している。
ここで、散水用配管31の先端位置を、筒状冷却体11の長さLの50%以下としたのは、鉄皮との間の放熱で冷却された分により、前述のように、水性ガス反応が発生する900℃を下回るまで温度まで、スラグの温度を下げるためである。この散水用配管が、筒状冷却体の長さLの50%を超える場合、筒状冷却体内の散水用配管の配置位置が上流側にいき過ぎ、高温のスラグに冷却水が散水され、水性ガス反応が起こり易くなり、また溶鉄や溶滓の混入の可能性がある場合には、水蒸気爆発を招く恐れもある。
【0017】
以上のことから、筒状冷却体11内の散水用配管31を、筒状冷却体11のスラグ排出口13位置を基端として、筒状冷却体11の長さLの50%以下からスラグ排出口13までの間に配置したが、好ましくは、下限を20%、上限を40%とする。ここで、散水用配管の基端位置が、筒状冷却体の長さLの20%未満になると、散水後に、筒状冷却体の回転で、スラグと水が混合されて排出されるまでの距離が短くなり、スラグの含水及び冷却が不十分になる恐れがある。また、装入するスラグが高温の場合は、散水用配管の先端位置が、筒状冷却体の長さLの50%でも、水性ガス反応がおこる900℃付近となる恐れがあるため、上限は40%が好ましい。
更に、スラグの冷却を効率的に実施するには、例えば、散水用ノズル32の数と、この散水用ノズル32から散水する冷却水の散水角度及び散水量を調整することが好ましい。
散水用ノズル32の数は、例えば、3〜20個程度(ここでは3個)であり、例えば、散水用配管31の長手方向に渡って直線状に1列(2列以上でもよい)配置しているが、ジグザグ状に配置してもよい。
【0018】
また、散水用ノズル32から散水する冷却水の散水角度は、筒状冷却体11の回転方向と対向する方向の角度とすることが好ましいが、順方向の角度でもよい。また、散水用配管31よりも下方へ向けて散水しているが、散水用配管31の側方又は上方へ向けて散水してもよい。
そして、散水用ノズル32から散水する冷却水の散水量は、筒状冷却体11のスラグ排出口13から排出されるスラグの温度が50℃以上100℃以下の範囲内で、スラグの含有水分量が20質量%以下、好ましくは8質量%以上12質量%以下となるように、70リットル/分以上150リットル/分以下の範囲内で調整する。
【0019】
このように、スラグの含有水分量を8質量%以上にした場合、スラグの発塵を防止でき、一方、12質量%以下にした場合、スラグが水分過多になるのを防止でき、搬送ベルトへのスラグの付着を抑制できるので、冷却スラグの搬送時の作業性が良好になる。
ここで、図3に、筒状冷却体で冷却(50℃以上100℃以下の温度範囲)した10トンのスラグを、ダンプカー(荷台高さ1.2m)に積載して処理設備ヤードに運搬し、この処理設備ヤードに設けたホッパー内にダンピングして(移して)、その後、ホッパー下端から全スラグを切り出し、ベルトコンベア(巾:1.5m、素材:合成ゴム製、搬送能力:15トン/時間)にて50m搬送する試験を行った結果を示す。
【0020】
この図3の横軸のスラグ含有水分量は、筒状冷却体で冷却したスラグの含有水分量を示しており、一方、縦軸の発塵量は、ダンプカーの荷台からホッパー内にダンピングした際に、そのホッパー上端部から流出する粉塵の濃度を示し、また縦軸の搬送ベルト付着量は、ベルトコンベアでスラグ全部を搬送してベルトコンベアを停止した際に、そのベルトに付着したスラグ量及びリターン側ベルトから落下したスラグ量の積算値を示している。
図3から明らかなように、スラグの含有水分量が0質量%の場合は、発塵量が多いが、8質量%まで含水させれば、発塵がほんど治まることがわかる。しかし、ベルトへの付着量は、含有水分量の増加と共に徐々に増加していき、12質量%を超えると、急激に増加していた。
このことから、スラグの含有水分量を20質量%以下、好ましくは8質量%以上12質量%以下とする。
【0021】
図2に示すように、筒状冷却体11内には、筒状冷却体11内に供給されたスラグを、筒状冷却体11の回転に伴って掻上げる複数の掻上げ部材33が、筒状冷却体11の周方向に等間隔(例えば、筒状冷却体11の軸心を中心として3〜10度の角度)に取付けられている。
この掻上げ部材33は、ステンレス製のパイプであり、筒状冷却体11の内側面に、その軸方向に沿って全長に渡って直線的に取付けられている。なお、掻上げ部材は、ステンレス製の板で構成してもよく、これを筒状冷却体の内面に直線状又は螺旋状に取付けてもよい。
また、掻上げ部材33は、筒状冷却体11の回転に伴って、筒状冷却体11内のスラグを掻上げては落とすことができればよく、内側への突出高さ(ここでは、外径)を、30mm以上100mm以下とすることが好ましい。
【0022】
続いて、本発明の一実施の形態に係るスラグの冷却方法について説明する。
まず、駆動モータ21を作動させ、筒状冷却体11を、ガイドローラ18、19上で、例えば、0.5〜7回/分(rpm)の回転速度で、その軸心を中心として回転する。このとき、配管23に設けられたバルブ25を開状態とし、各枝管24から冷却水を散水することにより、筒状冷却体11の上方から落下する冷却水は、筒状冷却体11の外表面に沿って下方へ落下する。また、散水用配管31に設けられたバルブ34を開状態とすることで、散水用ノズル32により筒状冷却体11内のスラグ排出口13側に冷却水を散水する。
そして、スラグ供給用シュート14に高温のスラグを供給する。
【0023】
スラグは、溶融金属(例えば、溶銑等)を含有するものであり、例えば、脱硫スラグ又は高炉スラグである。
このスラグは、例えば、700℃以上1300℃以下程度の温度を有しており、粒状となって、そのサイズは、例えば、平均1mm程度で最大100mm程度のものであり、それ以上のものは、グリズリー又は篩選別機などで除去することが望ましい。なお、スラグが固化していない場合は、固化させて粉砕した後、スラグ供給用シュート14にスラグを供給しなくてはならない。
このように、スラグ供給用シュート14を介して、筒状冷却体11内に供給されたスラグは、筒状冷却体11内の掻上げ部材33によって掻上げられ、撹拌されながら、下流側へ徐々に移動する。
【0024】
このとき、筒状冷却体11内の上流側では、筒状冷却体11の外側からの冷却水散水とスラグの撹拌によって間接的に冷却処理がなされ、下流側では、散水用ノズル32からスラグへ直接冷却水を散水する水冷による冷却処理がなされる。なお、筒状冷却体11内でのスラグの滞留時間は、例えば、8〜20分程度である。
ここで、スラグへの冷却水の散水は、空冷により温度が900℃以下になったスラグに対して行う。これは、温度が900℃を超えるスラグに対して冷却水を散水すれば、水性ガス反応(C+HO→CO+H)により合成ガスが発生するためである。このため、スラグへの冷却水の散水を、温度が900℃以下になったスラグに対して行っているが、850℃以下、更には800℃以下のスラグに対して直接散水することが好ましい。
【0025】
一方、スラグの温度が低下すれば、上記した水性ガス反応を抑制できるが、あまり温度を下げた後に散水する場合は、間接冷却領域を長くする必要があり、これにより、筒状冷却体11の機長が長くなる。従って、これを防止するため、現実的には500℃以上の温度とすることが望ましい。
なお、スラグに冷却水を散水することで水蒸気が発生し、これが筒状冷却体11内の上流側へ移動する場合も、水性ガス反応が起こる恐れがある。このため、前記したように、筒状冷却体11のスラグ排出口13側に配置した集塵機により、筒状冷却体11内の空気を外部へ吸引して排出し、筒状冷却体11内を負圧とすることが望ましい。
【0026】
このようにして、散水用ノズル32からの冷却水で冷却されたスラグは、筒状冷却体11のスラグ排出口13からスラグ排出用シュート15を介して排出される。
なお、スラグ排出口13から排出されるスラグの温度は、50℃以上100℃未満の範囲内となっており、スラグの含有水分量が20質量%以下、好ましくは、8質量%以上12質量%以下の範囲内に調整される。
そして、この冷却処理がなされたスラグに対して、例えば、篩選別を行い、例えば、砂代替又は焼結原料として使用する。
【実施例】
【0027】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
ここでは、表1に示す構成のスラグの冷却装置を使用し、各種スラグを冷却処理する試験を行った。
【0028】
【表1】

【0029】
試験を行った操業条件は、筒状冷却体内のスラグに直接冷却水を散水する直接冷却用配管(散水用配管)の位置と、この直接冷却用配管から散水される冷却水の流量を変化させて設定した。この操業条件と操業結果を、表2〜表4に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
なお、表2〜表4に記載された「直接冷却水の散水開始位置のスラグ温度」とは、熱電対を、筒状冷却体の側部に、筒状冷却体の排出口側から筒状冷却体の全長の55%の位置までの範囲に0.5m間隔で設けて測定した温度である。また、「COガス発生」及び「COガス発生量」は、投入口上部20m上の部分に設けたセンサー(赤外線吸収方式)で測定した。そして、スラグの投入は、重機(ユンボ)を用いて、投入速度に併せて一定間隔で等量ずつ投入した。
【0034】
表2に示す実施例1〜5は、直接冷却水の散水開始位置のスラグ温度(900℃以下)、スラグの冷却後の温度(50〜100℃)、その含有水分量(8〜12質量%)、直接冷却水の排出口からの散水開始位置(50%以下)を、それぞれ前記した本発明の実施の形態で示した条件に設定した結果である。
表2の操業結果からも明らかなように、実施例1〜5の操業条件では、冷却後のスラグをトラックで反転してホッパーへ移す際(トラック反転時)の発塵はなく、またスラグを搬送する搬送ベルトへの付着量も0.1トン以下と少量であった。
また、実施例4のスラグは溶銑脱燐滓であり、実施例5のスラグは比較的粒度が細かくなった高炉滓であったが、実施例1〜3の溶銑脱硫滓と同様、いずれも良好な結果であった。
【0035】
表3に示す実施例6〜9は、直接冷却水の散水開始位置のスラグ温度を、前記した本発明の実施の形態で示した条件に設定しているが、直接冷却水の排出口からの散水開始位置を、50%超に設定した結果である。このため、筒状冷却体へ投入されてから、直接冷却水による散水が開始されるまでのスラグの搬送距離は、実施例1〜5と比べて短くなっている。
これらの実施例6〜9は、スラグの冷却前(筒状冷却体への供給前)の温度が低め(1000℃以下)であったため、直接冷却水の散水開始位置のスラグ温度が、この短い搬送距離でも900℃以下まで冷えており、水性ガス反応によるCOガスの発生はなかった。
【0036】
しかし、直接冷却水による散水を開始してから、スラグを排出するまでの時間が長いため、実施例8、9では、スラグの冷却後の含有水分量が、前記した条件範囲を外れて水分過多(12質量%超)となった。このため、発塵はなかったが、搬送ベルトへの付着量が大きくなった。なお、実施例6、7については、スラグの冷却後の温度とその含有水分量が、前記した条件範囲となり、搬送ベルトへの付着量が少ないものであった。
しかし、実施例6〜9は、直接冷却水を散水する散水用配管の先端部が、筒状冷却体の投入口位置に近くなるため、投入されたスラグ塊が跳ねて散水用配管に接触し、その先端部が破損するという問題も発生した。
また、実施例10、11は、スラグの冷却前の温度が、実施例1と同程度であるが、直接冷却水の散水量を、実施例1の散水量に対して過不足がある条件に設定した結果である。その結果、スラグの冷却後の含有水分量が、前記した条件範囲を外れて水分なし(8質量%未満)と水分過多(12質量%超)となり、反転時の発塵や搬送ベルトへの付着が発生した。
【0037】
次に、表4に示した比較例について説明する。
比較例1〜4のいずれも、実施例1と比較して、スラグの冷却前の温度が高かったため、直接冷却水の散水開始位置のスラグ温度が、前記した条件範囲を外れて(900℃超)しまい、その結果、水性ガス反応によるCOガスが、投入口から発生していた。更に、比較例2、3は、スラグの冷却後の含有水分量が前記した条件範囲を外れ(8質量%未満、12質量%超)、また比較例4は、スラグの冷却後の温度が前記した条件範囲を外れ(210℃超)たため、反転時の発塵あるいは搬送ベルトへの付着の増加を招いた。なお、比較例4については、スラグの冷却後の温度が高温(210℃)であるため、搬送不能であった。
以上の結果から、本発明のスラグの冷却方法を使用することで、水性ガス反応によるCOガスの発生、粉塵の発生、及び搬送ベルトへの付着を抑制、更には防止でき、省スペース化が図れると共に、良好な作業環境下で、短時間で効率的に冷却処理できることを確認できた。
【0038】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明のスラグの冷却方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
また、前記実施の形態においては、筒状冷却体内のスラグ排出口側に散水用配管を配置した場合について説明したが、筒状冷却体内の軸方向の全長に渡って散水用配管を配置し、使用する散水用ノズルによって冷却水の散水位置を調整してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスラグの冷却方法を適用するスラグ冷却装置の説明図である。
【図2】同スラグ冷却装置の正断面図である。
【図3】スラグの含有水分量と発塵量及び搬送ベルト付着量との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0040】
10:スラグ冷却装置、11:筒状冷却体、12:スラグ供給口、13:スラグ排出口、14:スラグ供給用シュート、15:スラグ排出用シュート、16、17:ガイド部、18、19:ガイドローラ、20:ギア、21:駆動モータ、22:ギア、23:配管、24:枝管、25、26:バルブ、27:冷却水受け容器、28:排水用配管、29:バルブ、30:ポンプ、31:散水用配管、32:散水用ノズル、33:掻上げ部材、34:バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側端部と下流側端部に、それぞれスラグ供給口とスラグ排出口を備え、しかも上流側から下流側にかけて下方へ傾斜して配置される金属製の筒状冷却体を、その軸心を中心として回転させながら、前記スラグ供給口に高温のスラグを供給し、前記筒状冷却体内で間接冷却した前記スラグを前記スラグ排出口から排出するスラグの冷却方法において、
前記筒状冷却体内に冷却水の散水用配管を配置し、該筒状冷却体内を搬送されてきた温度が900℃以下になった前記スラグに対して直接冷却水を散水して冷却することを特徴とするスラグの冷却方法。
【請求項2】
請求項1記載のスラグの冷却方法において、前記スラグ排出口から排出される前記スラグの温度を50℃以上100℃以下の範囲内にして、該スラグの含有水分量を8質量%以上12質量%以下の範囲内とすることを特徴とするスラグの冷却方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスラグの冷却方法において、前記散水は、前記筒状冷却体の前記スラグ排出口位置を基端として、該筒状冷却体の上流側へ該筒状冷却体の長さの50%以下から前記スラグ排出口までの間で行うことを特徴とするスラグの冷却方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のスラグの冷却方法において、前記筒状冷却体の内面には、該筒状冷却体内に供給された前記スラグを該筒状冷却体の回転に伴って掻上げる複数の掻上げ部材が、前記筒状冷却体の周方向に間隔を有して設けられていることを特徴とするスラグの冷却方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のスラグの冷却方法において、前記スラグは、溶融金属を含有するスラグであることを特徴とするスラグの冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−243707(P2009−243707A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87548(P2008−87548)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】