説明

スラグ石膏ボード及びその製造方法

【課題】 構造性能、作業性、防火性能及び耐水性能といった要求を全て満たすスラグ石膏ボードを製造する。
【解決手段】本発明に係るスラグ石膏ボードの製造方法は、無端状のフェルトベルトにスラリーを連続的に抄き上げてメーキングロールの周面に積層し、これを切開した後、生板切断工程において生板の幅方向両縁部を切断する際、生板搬送機構1とその下方に直交配置された回収用傾斜コンベア2との間であって該コンベアの上流側に制御ローラ3を配置するとともに、該制御ローラを生板4における切断位置5の鉛直下方に位置決めし、生板4から切断された切断片6aを制御ローラ3に掛けた上で回収用傾斜コンベア2で搬送回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として住宅の耐力壁に使用するスラグ石膏ボード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スラグ石膏ボード等のセメント系板材は、セメントのほか、スラグや砂といった骨材や繊維材料であるパルプが主な原料となっており、例えば丸網抄造法で製造される。丸網抄造法は、セメント系板材の製造方法として従来から広く採用されてきたものであり、かかる製造方法においては、セメント、スラグ等を添加混合してなるスラリーを毛布等で形成した無端フェルトベルトで抄き上げながらメーキングロールに巻き取り、次いで、一定の厚みに積層された時点でメーキングロールから剥がして生板とし、かかる生板を長さ方向及び幅方向に切断した後、必要に応じて脱水プレスし、さらにこれを養生して硬化させる。
【0003】
かかるセメント系板材は、難燃性に富むため、旧来から壁や屋根等の建築仕上げ材として広く用いられており、環境上の問題からアスベスト(石綿)の使用が難しくなってからも、アスベストに代えてパルプなどの繊維材料を補強材として使用する等、さまざまな改良がなされてきた。
【0004】
一方、建物の耐震性あるいは耐風性を確保するため、地震や風によって建物に作用する水平力に抵抗できるだけの耐力を持った耐力壁が必要となるが、かかる耐力壁を壁量設計で評価する際には、平面二方向(XY二方向、桁行き方向と梁間方向)の存在壁量を算出し、かかる存在壁量が必要壁量をそれぞれ上回っていなければならない。ちなみに、在来木造(軸組工法)では、柱梁に囲まれた筋かいも壁倍率に換算された上、存在壁量に加算される。
【0005】
上述した耐力壁としては、構造用合板、パーティクルボード、ハードボード 、硬質木片セメント板、フレキシブル板、石綿パーライト板、石綿けい酸カルシウム板、炭酸マグネシウム板、パルプセメント板、石膏ボードなど数多くの種類があるが、いずれもそれらの水平耐力が壁倍率という指標で予め評価されており、壁量設計の際には、壁倍率に壁長さを乗じた合計値で存在壁量が算出されることになる。
【0006】
例えば、板厚や釘打ちの方法にもよるが、小片化された木材を樹脂系の接着剤を用いて成形したパーティクルボードは、構造用合板と同様に2.5、ハードボード(硬質繊維板)・硬質木片セメント板(木片セメント板)・フレキシブル板(石綿スレート板)・石綿パーライト板・石綿けい酸カルシウム板・炭酸マグネシウム板などは2と定められており、上述したセメント系板材が属するパルプセメント板や石膏ボードは、1.5〜1と壁倍率は小さい。
【0007】
【特許文献1】特開2004−196601
【特許文献2】特開2004−182515
【特許文献3】特開2001−158678
【特許文献4】特開昭63−117943
【特許文献5】特開昭54−96523
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、防火性能に優れた耐力壁が望まれることとなるが、上述したようにセメント系板材や石膏ボードは防火性能が優れいているものの耐力が低く、構造用合板やパーティクルボードは、優れた強度特性を有する反面、木質系であるがゆえに単独で防火性能を確保することは困難である。
【0009】
また、石綿(アスベスト)を含むボードは、環境上の観点から使用が禁止されつつあり、建材として今後使用していくことは難しい。
【0010】
また、セメント系板材の強度を上げすぎると、どうしても脆性破壊性状を呈し、釘打ち、ビス止め等の際に不測の亀裂が入ったり、それが原因で板材が剥落する懸念があるのみならず、事前の穴開け等で施工時の問題を解決できたとしても、地震時において脆性破壊する懸念は払拭できない。加えて、セメント系板材で耐力壁としての性能を発揮させようとすると、重量が大きくなって二人の作業員が必要となり、構造用合板に比べて作業性が悪くなるという問題を生じる。
【0011】
また、内外装材として用いる場合には、耐湿性・耐水性は当然必要となるが、石膏ボードはかかる耐湿性や耐水性に劣る。
【0012】
このように、耐力壁として使用可能な板材が数多く存在する一方、構造性能、作業性、防火性能、耐水性能といった要求をすべて満足する板材は実のところ存在せず、各々の短所を補うように複数の板材を組み合わせたり、コストをかけて表面処理することを余儀なくされているというのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、構造性能、作業性、防火性能及び耐水性能といった要求を全て満たすことが可能なスラグ石膏ボード及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に係るスラグ石膏ボードは請求項1に記載したように、所定のスラリーを抄造法で成型してなるスラグ石膏ボードであって、前記スラリーの組成を、スラグ17〜22質量%、二水石膏15〜20質量%、軽量骨材14〜20質量%、マイカ8〜17質量%、セメント5〜6質量%、パルプ質5〜7質量%、補強繊維5〜8質量%、無機混和材1〜2質量%、リサイクル材11〜16質量%とするとともに、該リサイクル材を前記抄造法における乾燥後の裁断工程で生じた粉砕物で構成し、前記抄造法における乾燥工程後の含水率を2〜10%としたものである。
【0015】
また、本発明に係るスラグ石膏ボードは、前記マイカのアスペクト比を45〜80、フレーク径を80〜340μm、見かけ比重を0.25〜0.30としたものである。
【0016】
また、本発明に係るスラグ石膏ボードの製造方法は請求項3に記載したように、所定のスラリーを抄造法を用いて成型してなるスラグ石膏ボードの製造方法であって、前記スラリーの組成を、スラグ17〜22質量%、二水石膏15〜20質量%、軽量骨材14〜20質量%、マイカ8〜17質量%、セメント5〜6質量%、パルプ質5〜7質量%、補強繊維5〜8質量%、無機混和材1〜2質量%、リサイクル材11〜16質量%とするとともに、前記リサイクル材を前記抄造法における乾燥後の裁断工程で生じた粉砕物で構成し、前記マイカのアスペクト比を45〜80、フレーク径を80〜340μm、見かけ比重を0.25〜0.30とし、前記抄造法における乾燥工程後の含水率を2〜10%とし、前記抄造法における生板切断工程において生板の幅方向両縁部を切断する際、生板搬送機構とその下方に直交配置された回収用傾斜コンベアとの間であって該コンベアの上流側に所定の制御ローラを配置するとともに、該制御ローラを前記生板の切断位置鉛直下方に位置決めし、前記生板から切断された切断片を前記制御ローラに掛けた上で前記回収用傾斜コンベアで搬送回収するものである。
【0017】
また、本発明に係るスラグ石膏ボードの製造方法は請求項4に記載したように、所定のスラリーを抄造法を用いて成型してなるスラグ石膏ボードの製造方法であって、前記スラリーの組成を、スラグ17〜22質量%、二水石膏15〜20質量%、軽量骨材14〜20質量%、マイカ8〜17質量%、セメント5〜6質量%、パルプ質5〜7質量%、補強繊維5〜8質量%、無機混和材1〜2質量%、リサイクル材11〜16質量%とするとともに、前記リサイクル材を前記抄造法における乾燥後の裁断工程で生じた粉砕物で構成し、前記マイカのアスペクト比を45〜80、フレーク径を80〜340μm、見かけ比重を0.25〜0.30とし、前記抄造法における乾燥工程後の含水率を2〜10%とし、前記抄造法における養生工程を蒸気養生とするとともに、該蒸気養生において、50〜70゜Cまで2〜3゜C/hの昇温速度で昇温し、次いで、到達した温度を16時間以上保持するものである。
【0018】
本出願人は、防火性や経済性は優れるが重くて作業性が悪く、また強度が低いために屋根材や軒裏材などに用途が限定されていたスラグ石膏ボードを耐力壁として用いることができないかという点に着眼し、さまざまな試験を行い研究を重ねた結果、スラグ石膏ボードの長所を何ら失うことなく、軽量でしかも強度が高いスラグ石膏ボードを開発し、産業上きわめて有益な知見を得ることに成功した。
【0019】
すなわち、本発明は、従来と同様、所定のスラリーを例えば丸網抄造法で成型するものであるが、スラリーの組成を、スラグ17〜22質量%、二水石膏15〜20質量%、軽量骨材14〜20質量%、マイカ8〜17質量%、セメント5〜6質量%、パルプ質5〜7質量%、補強繊維5〜8質量%、無機混和材1〜2質量%、リサイクル材11〜16質量%とするとともに、該リサイクル材を前記抄造法における乾燥後の裁断工程で生じた粉砕物で構成し、前記抄造法における乾燥工程後の含水率を2〜10%とした。
【0020】
かかる構成によれば、嵩比重が0.8前後と軽量であるにもかかわらず、壁倍率が4前後と十分な強度をもつスラグ石膏ボードを製造し、これを建物の耐力壁として用いることが可能となる。
【0021】
ここで、スラグの配合割合を17〜22質量%の範囲としたのは、22質量%を越えると、寸法変化率、特に膨張率が大きくなるとともに、柔軟性(靭性)に欠けるため、脆性的性状を示して亀裂が発生しやすくなり、所望の壁倍率が得られないからであり、7質量%を下回ると、所望の強度を得られないからである。
【0022】
スラグは、例えば高炉水砕スラグを用いることができる。粉末度を表す指標であるブレーン値が3500〜9000cm2/gであるのが好ましく、4000〜8000cm2/gであるのが更に好ましい。
【0023】
ここで、ブレーン値を上述した範囲としたのは、3500cm2/g未満とすると反応性が低いため、強度が発現しにくく、9000cm2/g以上とすると表面が緻密化するため、施工時に割れや破損が生じやすくなるからである。
【0024】
また、二水石膏の配合割合を15〜20質量%としたのは、この範囲外であると、反応性が低いため硬化が進まず、強度上の安定性が得られないからである。なお、25質量%を越えると寸法変化率、特に収縮率が大きくなってしまう。
【0025】
二水石膏は、天然石膏、リン酸石膏、排煙脱硫石膏、焼石膏及び石膏ボード解体材からの石膏を用いることができる。なお、石膏のpHは5以上、粒径50μm以下とする。
【0026】
また、軽量骨材の配合割合を14〜20質量%としたのは、20質量%を上回ると、成型時に浮いてしまい、成型物の剥離を助長したり性能が安定しないからであり、14質量%未満、特に12質量%未満であると、目標とする所定の低比重が得られないからである。
【0027】
軽量骨材は、パーライト、シラスバルーン、珪藻土、ゾノトライト、トバモライト及び焼却灰等を用いることができる。見かけ比重が0.08〜0.13、篩目開き0.6mmパスのものが望ましい。
【0028】
また、マイカの配合割合を8〜17質量%、さらに望ましくは10〜17質量%としたは、10質量%未満、特に8質量%未満であると、マイカによる耐力補強、寸法安定性、耐衝撃性向上等の効果が得られにくいからであり、17質量%、特に20質量%を上回ると、フレークが大きい場合、剥離現象を起こしやすく、耐力壁としての性能が不安定になるからである。
【0029】
マイカは、マスコバイト(白色雲母)、フロコバイト(金色雲母)等を用いることができる。かかるマイカは、アスペクト比が45〜80,フレーク径が80〜340μm、見かけ比重が0.25〜0.30であるのが望ましい。
【0030】
また、セメントの配合割合を5〜6質量%としたのは、6質量%、特に10質量%を越えると寸法変化率、特に膨張率が大きくなるとともに、柔軟性(靭性)に欠けるため、脆性的性状を示して亀裂が発生しやすくなり、所望の壁倍率が得られないからであり、5質量%未満では、所望の強度を得られないからである。
【0031】
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強セメント、白色セメント、高炉セメント、膨張セメント、フライアッシュセメント等を用いることができる。
【0032】
また、パルプ質の配合割合を5〜7質量%としたのは、5質量%、特に4質量%未満であるとスラリー中の材料分離が起きやすく品質のバラツキが発生するからであり、7質量%を越えると収縮率が大きくなり、不燃性能が得られなくなるからである。
【0033】
パルプは、例えば、新聞古紙、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、合成パルプ等を用いることができる。
【0034】
また、補強繊維の配合割合を5〜8質量%としたのは、8質量%を上回ると、製造過程で積層剥離が生じ、所望の性能を得ることができないからであり、5質量%を下回ると、抄上げ工程における固形分の定着性が悪化するからである。
【0035】
補強繊維は、耐アルカリガラス繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アタパルジャイト、ワラストナイト等を用いることができる。繊維状態では、径が8〜12μmで且つ長さが3〜18mmが好ましく、粉体状態では、平均径が100μm以下が好ましい。
【0036】
また、無機混和材の配合割合を1〜2質量%としたのは、2質量%、特に3質量%を上回っても、高アルカリによる反応促進効果が増大しないからであり、1質量%未満では、同効果が得られないからである。
【0037】
無機混和材は、例えば、消石灰、生石灰、水酸化ナトリウム、シリカフラワー等のアルカリ助剤を用いることができる。平均粒径は、30μm以下が好ましい。
【0038】
また、リサイクル材の配合割合を11〜16質量%としたのは、16質量%を越えると、積層剥離が生じるとともに、寸法安定性が悪くなるからであり、11質量%を下回ると、再利用効果が低下するからである。
【0039】
本発明においては、生板切断工程において生板の幅方向両縁部を切断する際、生板搬送機構とその下方に直交配置された回収用傾斜コンベアとの間であって該コンベアの上流側に所定の制御ローラを配置するとともに、該制御ローラを前記生板の切断位置鉛直下方に位置決めし、前記生板から切断された切断片を前記制御ローラに掛けた上で前記回収用傾斜コンベアで搬送回収する。
【0040】
このようにすると、生板から切断された切断片のうち、回収用傾斜コンベアの上流側に位置する切断片は、回収用傾斜コンベアに載せられて搬送回収される際、コンベアベルトと切断片との間に摩擦力が作用することによって回収用傾斜コンベアから引張力を受けるが、かかる引張力は、上述した制御ローラによって切断片に斜め下方に作用せず、鉛直下方に作用する。
【0041】
従来においては、斜め下方への引張力によって、すでに切断された生板の見切り面に切断片が擦りつけられるように作用して層間剥離を引き起こし、それが原因で、スラグ石膏ボードの強度特性を低下させていたが、本発明によれば、すでに切断された生板の見切り面に外力が作用することがなくなり、生板の積層状態に悪影響が及ぶ懸念がなくなる。
【0042】
また、本発明においては、乾燥工程後の含水率を2〜10%としたが、これは、10%を上回ると、耐力壁としての強度を確保するのが難しくなるとともに施工後において乾燥収縮し反りが生じるなどの不具合が発生するからであり、2%未満であると、施工時に割れが生じたり吸湿しやすくなるからである。
【0043】
また、本発明においては、養生は蒸気養生とし、50〜70゜Cまで2〜3゜C/hの昇温速度で昇温し、次いで、到達した温度を16時間以上保持する。
【0044】
これは、50゜C未満では、反応が促進しないため強度発現が起こらず、75゜C以上では、板内温度が不安定となり冷却時に割れが発生し易くなるからである。また、保持時間が16時間未満では、硬化反応時間が不足し強度が不足するからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明に係るスラグ石膏ボード及びその製造方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。なお、従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0046】
本実施形態に係るスラグ石膏ボードは、スラリーの固形分をスラグ、二水石膏、軽量骨材、マイカ、セメント、パルプ質、補強繊維、無機混和材及びリサイクル材で構成とするとともに、抄造法における乾燥工程後の含水率を2〜10%とし、かかるスラリーを抄造法の一つである丸網抄造法で成型してある。
【0047】
スラグは、例えば高炉水砕スラグを用いることが可能であり、そのブレーン値は、3500〜9000cm2/gであるのが好ましく、4000〜8000cm2/gであるのが更に好ましい。
【0048】
なお、スラリー中の水については、固形分濃度が3.5〜5質量%となるようにその量を調整する。
【0049】
ここで、ブレーン値を上述した範囲としたのは、3500cm2/g未満とすると反応性が低いため、強度が発現しにくく、9000cm2/g以上とすると表面が緻密化するため、施工時に割れや破損が生じやすくなるからである。
【0050】
スラリーにおけるスラグの配合割合は、17〜22質量%、望ましくは17〜21質量%とする。これは、22質量%を越えると、寸法変化率、特に膨張率が大きくなるとともに、柔軟性(靭性)に欠けるため、脆性的性状を示して亀裂が発生しやすくなり、所望の壁倍率が得られないからであり、7質量%を下回ると、所望の強度を得られないからである。
【0051】
二水石膏は、天然石膏、リン酸石膏、排煙脱硫石膏、焼石膏及び石膏ボード解体材からの石膏から適宜選択することが可能であり、例えば、リン酸石膏を用いることができる。なお、石膏のpHは5以上、粒径50μm以下とする。
【0052】
スラリーにおける二水石膏の配合割合は、15〜20質量%とする。これは、かかる範囲外であると、反応性が低いため硬化が進まず、強度上の安定性が得られないからである。なお、25質量%を越えると寸法変化率、特に収縮率が大きくなってしまう。
【0053】
軽量骨材は、パーライト、シラスバルーン、珪藻土、ゾノトライト、トバモライト及び焼却灰等から適宜選択することが可能であり、例えばパーライトを用いることができる。かかる軽量骨材は、見かけ比重が0.08〜0.13、篩目開き0.6mmパスのものが望ましい。
【0054】
スラリーにおける軽量骨材の配合割合は、14〜20質量%とする。これは、20質量%を上回ると、成型時に浮いてしまい、成型物の剥離を助長したり性能が安定しないからであり、14質量%未満、特に12質量%未満であると、目標とする所定の低比重が得られないからである。
【0055】
マイカは、マスコバイト(白色雲母)、フロコバイト(金色雲母)等から適宜選択することが可能であり、アスペクト比が45〜80、フレーク径が80〜340μm、見かけ比重が0.25〜0.30であるのが望ましい。かかるマイカは、例えばマスコバイト(アスペクト比65、フレーク径230μm)を用いることができる。
【0056】
スラリーにおけるマイカの配合割合は、8〜17質量%、望ましくは10〜17質量%とする。これは、10質量%未満、特に8質量%未満であると、マイカによる耐力補強、寸法安定性、耐衝撃性向上等の効果が得られにくいからであり、17質量%、特に20質量%を上回ると、フレークが大きい場合、剥離現象を起こしやすく、耐力壁としての性能が不安定になるからである。
【0057】
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強セメント、白色セメント、高炉セメント、膨張セメント、フライアッシュセメント等から適宜選択することが可能であり、例えば普通ポルトランドセメントを用いることができる。
【0058】
スラリーにおけるセメントの配合割合は、5〜6質量%とする。これは、6質量%、特に10質量%を越えると寸法変化率、特に膨張率が大きくなるとともに、柔軟性(靭性)に欠けるため、脆性的性状を示して亀裂が発生しやすくなり、所望の壁倍率が得られないからであり、5質量%未満では、所望の強度を得られないからである。
【0059】
パルプは、新聞古紙、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、合成パルプ等から適宜選択することが可能であり、例えば、クラフトパルプを用いることができる。
【0060】
スラリーにおけるパルプ質の配合割合は、5〜7質量%、望ましくは5〜6質量%とする。これは、5質量%、特に4質量%未満であるとスラリー中の材料分離が起きやすく品質のバラツキが発生するからであり、7質量%を越えると収縮率が大きくなり、不燃性能が得られなくなるからである。
【0061】
補強繊維は、耐アルカリガラス繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アタパルジャイト、ワラストナイト等から適宜選択することが可能であり、繊維状態では、径が8〜12μmで且つ長さが3〜18mmであるが好ましく、粉体状態では、平均径が100μm以下が好ましい。本実施形態にかかる補強繊維としては、たとえばガラス繊維(径10μm、長さ12mm)を用いることが可能である。
【0062】
スラリーにおける補強繊維の配合割合は、5〜8質量%、望ましくは5〜6質量%とする。これは、8質量%を上回ると、製造過程で積層剥離が生じ、所望の性能を得ることができないからであり、5質量%を下回ると、抄上げ工程における固形分の定着性が悪化するからである。
【0063】
無機混和材は、例えば、消石灰、生石灰、水酸化ナトリウム、シリカフラワー等のアルカリ助剤から適宜選択することが可能であり、平均粒径は、30μm以下が好ましい。かかる無機混和材としては消石灰を用いることができる。
【0064】
スラリーにおける無機混和材の配合割合は、1〜2質量%とする。これは、2質量%、特に3質量%を上回っても、高アルカリによる反応促進効果が増大しないからであり、1質量%未満では、同効果が得られないからである。
【0065】
リサイクル材は、丸網抄造法における乾燥後の裁断工程で生じた粉砕物で構成してある。
【0066】
スラリーにおけるリサイクル材の配合割合は、11〜16質量%、望ましくは13〜16質量%とする。これは、16質量%を越えると、積層剥離が生じるとともに、寸法安定性が悪くなるからであり、11質量%を下回ると、再利用効果が低下するからである。
【0067】
本実施形態に係るスラグ石膏ボードは、乾燥工程後の含水率を2〜10%としてある。これは、10%を上回ると、耐力壁としての強度を確保するのが難しくなるとともに施工後において乾燥収縮し反りが生じるなどの不具合が発生するからであり、2%未満であると、施工時に割れが生じたり吸湿しやすくなるからである。
【0068】
次に、本実施形態に係るスラグ石膏ボードを丸網抄造法を用いて製造する手順を説明する。なお、抄造機を用いた丸網抄造方法の基本的手順についてはすでに広く知られているので、本実施形態では、公知に係る手順を随時省略しながら説明する。
【0069】
図1は、かかる製造方法の手順を示したフローチャートである。
【0070】
同図でわかるように、まず、上述した組成で混合されたスラリーをバット内に貯留し、次いで、バット内にその下方部分を横向きに沈められたシリンダを回転させることでバット内のスラリーを引き上げ、次いで、シリンダの回転にあわせて該シリンダに当接しつつ周回している無端状のフェルトベルトにスラリーを連続的に抄き上げる(ステップ101)。
【0071】
ここで、スラリーの抄上げと並行して、ナッシュと呼ばれる吸引脱水装置を用いてフェルトベルトの裏側からスラリーを脱水し、後述するメーキングロールに巻回される程度に含水比を落とす。
【0072】
次に、フェルトベルトの先端近傍にて該フェルトベルトに当接しながらその周回速度に合わせて回転しているメーキングロールにフェルトベルトに付着したスラリーを移し、該スラリーを所望の層数だけ該メーキングロールの周面に積層する(ステップ102)。
【0073】
所望の層数だけスラリーを積層させたならば、メーキングロールに設置されたピアノ線で積層されたスラリーをロール軸線に沿って切開する(ステップ103)。
【0074】
このようにすると、切開されたスラリーは、生板として生板搬送機構の上に平板状に拡がる。
【0075】
次に、生板搬送機構で搬送中の生板を従来通り、長さ方向に切断するとともに、幅方向についてはウォータジェットで両側縁部を切断するが、本実施形態では、生板切断工程において生板の幅方向両縁部を切断する際、図2に示すように、生板搬送機構1とその下方に直交配置された回収用傾斜コンベア2との間であって該コンベアの上流側に制御ローラ3を配置するとともに、該制御ローラを生板4における切断位置5の鉛直下方に位置決めし、生板4から切断された切断片6aを制御ローラ3に掛けた上で回収用傾斜コンベア2で搬送回収する(ステップ104)。
【0076】
このようにすると、生板4から切断される切断片6a,6bのうち、回収用傾斜コンベア2の上流側に位置する切断片6aは、回収用傾斜コンベア2に載せられて搬送回収される際、コンベアベルトと切断片6aとの間に摩擦力が作用することによって回収用傾斜コンベア2から引張力を受けるが、かかる引張力は、上述した制御ローラ3によって切断片6aに斜め下方に作用せず、鉛直下方に作用する。
【0077】
従来においては、図3に示すように、斜め下方への引張力によって、すでに切断された生板の見切り面に切断片が擦りつけられるように作用して層間剥離を引き起こし、それが原因で、スラグ石膏ボードの強度特性を低下させていたが、本実施形態によれば、すでに切断された生板4の見切り面に外力が作用することがなくなり、生板4の積層状態に悪影響が及ぶ懸念がなくなる。
【0078】
生板を長さ方向及び幅方向に切断したならば、次に、該生板を蒸気養生する(ステップ105)。かかる蒸気養生は、50〜70゜Cまで2〜3゜C/hの昇温速度で昇温し、次いで、到達した温度を16時間以上保持する。
【0079】
これは、50゜C未満では、反応が促進しないため強度発現が起こらず、75゜C以上では、板内温度が不安定となり冷却時に割れが発生し易くなるからである。また、保持時間が16時間未満では、硬化反応時間が不足し強度が不足するからである。
【0080】
蒸気養生が終了したならば、次に、乾燥工程後の含水率が2〜10%となるように乾燥室で乾燥させる(ステップ106)。
【0081】
次に、製品としての寸法精度を確保すべく、乾燥処理が終わったスラグ石膏ボードを裁断する(ステップ107)。ここで、裁断工程で生じた粉砕物は、リサイクル材として、スラリーの原料として再利用する。
【0082】
以上説明したように、本実施形態に係るスラグ石膏ボード及びその製造方法によれば、嵩比重が0.8前後と軽量であるにもかかわらず、壁倍率が4前後と十分な強度をもつスラグ石膏ボードを製造し、これを建物の耐力壁として用いることが可能となる。
【0083】
また、本実施形態に係るスラグ石膏ボードの製造方法によれば、生板4から切断される切断片6a,6bのうち、回収用傾斜コンベア2の上流側に位置する切断片6aは、回収用傾斜コンベア2に載せられて搬送回収される際、コンベアベルトと切断片6aとの間に摩擦力が作用することによって回収用傾斜コンベア2から引張力を受けるが、かかる引張力は、上述した制御ローラ3によって切断片6aに斜め下方に作用せず、鉛直下方に作用する。
【0084】
そのため、すでに切断された生板4の見切り面に外力が作用せず、生板4の積層状態に悪影響が及ぶ懸念がなくなり、かくして強度特性に優れたスラグ石膏ボードを製造することが可能となる。
【実施例】
【0085】
本発明に係るスラグ石膏ボード及びその製造方法の実証試験を行った。
試験条件は以下の通りである。
(1)原材料
スラグ:高炉水砕スラグ( ブレーン値4000cm2/g)
二水石膏:リン酸石膏
軽量骨材:パーライト
マイカ:マスコバイト(アスペクト比65,フレーク径230m)
セメント:普通ポルトランドセメント
パルプ:クラフトパルプ
補強繊維:ガラス繊維(径10μm、長さ12ミリ)・アタパルジャイト
無機混和材:消石灰
リサイクル材:同質品の粉砕粉
(2)製造方法
製法を丸網抄造とし、メーキングロールへの積層(巻取り)により生産した。
(3)試験方法
(a)嵩比重、曲げ強度、寸法変化率(収縮率、膨張率)
JIS A 5430 繊維強化セメント板に準ずる。
但し、曲げ強度用サイズはスパン150mm、巾100mm、長さ200mm。
(b)防火材料試験
コーンカロリーメーターによる20分間の不燃性能試験。
判定基準は以下の通り。
総発熱量が8MJ/mを越えない。
200kW/mを越える発熱速度が10秒を超えて継続しない。
(c)釘の側面抵抗試験
ASTM D1037(LATERAL NAIL RESISTANCE TESTS)に準ずる。
倍率試験(壁面内せん断試験)は、水平方向から躯体に正負の荷重を掛け変形させ、耐力面材の変位に対する耐力と外観を観察し評価する。釘側面抵抗試験は、上記の水平力に対しどの程度耐えうるかを釘を貫通させ、この釘を引張する試験であり、耐力面材の木口に剥離や欠け等なければ、この釘側面抵抗試験と壁倍率試験には相関傾向がある。
(d)釘頭貫通試験
ASTM D1037(LATERAL NAILHEAD PULL-THROUGH TESTS)に準じる。
壁倍率試験(壁面内せん断試験)での耐力面材の破壊状況は、クラック・割れ、剥離、パンチアウト等あるが、釘頭貫通試験値が高いと、これらの固定物の頭部が抵抗し耐力面材の前に出ようとする反りを抑えられる。
(4)試験体の配合比率及び試験結果
試験体の配合比率及び試験結果を表1に示す。
【表1】

なお、同表中の判定基準に関し、嵩比重0.85以下を一次合格とし、更に軽量化を進めて嵩比重0.8以下を最終合格とした。これを判定1と呼び、一次合格、2次合格をそれぞれ一重丸、二重丸で示した。
【0086】
次に、壁倍率(実験値)3.57倍以上を一次合格とし、更に耐力を向上させ、壁倍率4.0倍以上を最終合格とした。これを判定2と呼び、一次合格、2次合格をそれぞれ一重丸、二重丸で示した。
【0087】
判定1,2とも一次合格である場合を総合判定欄で一重丸で、判定1,2とも最終合格である場合を二重丸で示した。
【0088】
表1でわかるように、試験体No.1は、高炉水砕スラグ等が本実施形態の配合範囲から外れており、その結果、嵩比重が0.99と重くなっていることがわかる。また、試験体No.2は、セメントやパルプが本実施形態の配合範囲から外れているとともに、含水率が10%を越えた結果、嵩比重がまだ十分小さくなっていない。試験体No.6〜9は、配合比率は満たしているとともに、含水率を満たしているものもあるが、生板の幅方向両縁部を切断する際の不具合のため、耐力壁としての強度の指標である壁倍率は、2.9〜3.6程度と不十分であることがわかる。
【0089】
それに対し、試験体No.3〜5は、配合比率及び含水率を満たしており、総合判定としても良好な結果を得た。ここで、これらの試験体では、生板の幅方向縁部を切断する際の改良がなされていないが、上述の条件を満足すれば、耐力壁として良好な結果が得られる可能性があることを示している。
【0090】
一方、試験体No.10〜12は実施形態のステップ104で説明したように、生板切断工程において生板の幅方向両縁部を切断する際、生板から切断された切断片を制御ローラに掛けた上で回収用傾斜コンベアで搬送回収して製造されたものである。
【0091】
このように、生板の幅方向縁部を切断する際の改良がなされた試験体No.10〜12は、配合比率及び含水率を満たしていることとも相まって、壁倍率が4を上回り、耐力壁としてきわめて良好な結果が得られることがわかる。
【0092】
壁倍率を算出するにあたっては、建築基準法施工令第46条第4項表1の(八)に基づく木造軸組耐力壁の試験方法に準拠した。
【0093】
図4は、壁倍率を算出するための加力試験装置を示した正面図であり、上述した各試験体は、幅910mm、高さ2,730mm、厚さ12.5mmにそれぞれ成型してあり、かかる試験体を二枚用意した上、これらを、105mm×105mmの土台とその上に1,820mmの柱心間隔で立設された105×105mmの一対の柱と該一対の柱に架け渡された105×180mmの梁とからなる軸組に横に並べて留め付けてある。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本実施形態に係るスラグ石膏ボードの製造方法の手順を示したフローチャート。
【図2】制御ローラを設けた場合の切断片の搬送回収の様子を示した図。
【図3】制御ローラを設けない場合の切断片の搬送回収の様子を示した図。
【図4】壁倍率を算出するための加力試験装置を示した正面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のスラリーを抄造法で成型してなるスラグ石膏ボードであって、前記スラリーの組成を、スラグ17〜22質量%、二水石膏15〜20質量%、軽量骨材14〜20質量%、マイカ8〜17質量%、セメント5〜6質量%、パルプ質5〜7質量%、補強繊維5〜8質量%、無機混和材1〜2質量%、リサイクル材11〜16質量%とするとともに、該リサイクル材を前記抄造法における乾燥後の裁断工程で生じた粉砕物で構成し、前記抄造法における乾燥工程後の含水率を2〜10%としたことを特徴とするスラグ石膏ボード。
【請求項2】
前記マイカのアスペクト比を45〜80、フレーク径を80〜340μm、見かけ比重を0.25〜0.30とした請求項1記載のスラグ石膏ボード。
【請求項3】
所定のスラリーを抄造法を用いて成型してなるスラグ石膏ボードの製造方法であって、前記スラリーの組成を、スラグ17〜22質量%、二水石膏15〜20質量%、軽量骨材14〜20質量%、マイカ8〜17質量%、セメント5〜6質量%、パルプ質5〜7質量%、補強繊維5〜8質量%、無機混和材1〜2質量%、リサイクル材11〜16質量%とするとともに、前記リサイクル材を前記抄造法における乾燥後の裁断工程で生じた粉砕物で構成し、前記マイカのアスペクト比を45〜80、フレーク径を80〜340μm、見かけ比重を0.25〜0.30とし、前記抄造法における乾燥工程後の含水率を2〜10%とし、前記抄造法における生板切断工程において生板の幅方向両縁部を切断する際、生板搬送機構とその下方に直交配置された回収用傾斜コンベアとの間であって該コンベアの上流側に所定の制御ローラを配置するとともに、該制御ローラを前記生板の切断位置鉛直下方に位置決めし、前記生板から切断された切断片を前記制御ローラに掛けた上で前記回収用傾斜コンベアで搬送回収することを特徴とするスラグ石膏ボードの製造方法。
【請求項4】
所定のスラリーを抄造法を用いて成型してなるスラグ石膏ボードの製造方法であって、前記スラリーの組成を、スラグ17〜22質量%、二水石膏15〜20質量%、軽量骨材14〜20質量%、マイカ8〜17質量%、セメント5〜6質量%、パルプ質5〜7質量%、補強繊維5〜8質量%、無機混和材1〜2質量%、リサイクル材11〜16質量%とするとともに、前記リサイクル材を前記抄造法における乾燥後の裁断工程で生じた粉砕物で構成し、前記マイカのアスペクト比を45〜80、フレーク径を80〜340μm、見かけ比重を0.25〜0.30とし、前記抄造法における乾燥工程後の含水率を2〜10%とし、前記抄造法における養生工程を蒸気養生とするとともに、該蒸気養生において、50〜70゜Cまで2〜3゜C/hの昇温速度で昇温し、次いで、到達した温度を16時間以上保持することを特徴とするスラグ石膏ボードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−206375(P2006−206375A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20402(P2005−20402)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】