説明

スルーホール用充填剤及び多層配線基板

【課題】耐熱性に優れた硬化体が得られ、且つ十分なポットライフが得られるスルーホール用充填剤、及びこの硬化体を備える多層配線基板を提供する。
【解決手段】本充填剤は、(1)構造内にベンゼン環を有する液状のエポキシ樹脂と、(2)イミダゾール環の2位炭素にC1〜6のアルキル基を備え、且つイミダゾール環の1位窒素にジアミノトリアジン構造を有する置換基を備える粉末状イミダゾール誘導体と、(3)無機フィラー(シリカ等)を含有する。本多層配線基板100は、スルーホール10内を満した本スルーホール用充填剤からなる硬化体20を備える。特に硬化体のうち上記スルーホールから露出された面を覆う第1導体層30を備えることができる。鉛含有量が5質量%以下であるハンダ部70を備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルーホール用充填剤及び多層配線基板に関する。更に詳しくは、耐熱性に優れた硬化体が得られ、且つ十分なポットライフが得られるスルーホール用充填剤、及びこの硬化体を備える多層配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化や軽量化、高密度実装化に伴い、配線基板の上面に絶縁層と導体層とを複数積層した多層配線基板の開発が進められている。
多層配線基板では、基板に設けられたスルーホールの内壁にメッキを施して内壁面導体を形成し、基板の両側に形成された導体層同士の電気的接続を行う場合がある。この場合、内壁面導体によって埋められないスルーホール内の残部は、スルーホール用充填剤を充填し硬化させてスルーホール内に空間が残らない構造として、スルーホール上に各種の積層を行うことができる空間を確保することができる。
【0003】
上記技術に関する文献として下記特許文献1〜3が知られている。下記特許文献1では、樹脂成分としてビスフェノール型エポキシ樹脂、硬化剤としてイミダゾール硬化剤を用いた樹脂充填剤が開示されている。また、下記特許文献2では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、所定の構造のイミダゾール系化合物を含有する樹脂組成物を絶縁層の形成に用いることが開示されている。更に、下記特許文献3では、エポキシ樹脂と所定の構造のイミダゾール系硬化剤と、無機フィラーとを含有する充填材が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−75027号公報
【特許文献2】特開平6−275959号公報
【特許文献3】特開2005−223312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に開示された樹脂と硬化剤の組合せでは、耐熱性において十分な結果が得られない場合がある。また、上記特許文献1では、液状硬化剤がよいとされているが、液状のイミダゾール系硬化剤を用いた一液性のスルーホール用充填剤ではポットライフが短いという問題がある。即ち、自然硬化に伴う粘度変化(必ずしも増粘だけではなく、粘度の変動が認められる)により、印刷条件を適宜細かく変更して充填性を確保する必要があり、作業性が悪いという問題がある。
【0006】
一方、上記特許文献2に開示された樹脂組成物では、比較的長いポットライフが得られるものの、十分な耐熱性が得られ難いという問題がある。また、この樹脂組成物は感光性材料であり、更には、無機フィラーを含有しないために、導体層との接合性が不十分でありスルーホール用充填剤として転用することができないという問題がある。
更に、上記特許文献3に開示された充填材は各種特性に優れているが、更に優れた耐熱性と更に長いポットライフとをバランスよく合わせもつ充填材が求められている。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れた硬化体が得られ、且つ十分なポットライフが得られるスルーホール用充填剤、及びこの硬化体を備える多層配線基板並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、近年求められている鉛フリーハンダ等による高温リフロー工程にも耐えられる多層配線基板を開発する過程において、従来知られている樹脂組成物等のスルーホール用充填剤では、スルーホール近傍における十分な耐熱特性が得られ難い場合があることを知見した。即ち、高温に曝された場合に、スルーホール近傍にデラミネーション(剥離)及びクラック等を生じる場合があり、また、スルーホール用充填剤が硬化されてなる硬化体を覆う導体層との接合性が耐熱試験後に大きく低下する場合があることを知見した。また、これらの不具合は、上記硬化体に不均一な組織(即ち、海島組織)が認められる場合に顕著であり、この不均一な組織を解消することにより上記問題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
〈1〉構造内にベンゼン環を有する液状のエポキシ樹脂と硬化剤と無機フィラーとを含有し、
該硬化剤は、下記化学式(1)で示される粉末状のイミダゾール誘導体であることを特徴とするスルーホール用充填剤。
【化1】

但し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
〈2〉上記硬化剤の平均粒径は1.5〜10μmである上記〈1〉に記載のスルーホール用充填材。
〈3〉上記硬化剤の比表面積は、1.4〜6m/gである上記〈1〉又は〈2〉に記載のスルーホール用充填剤。
〈4〉上記エポキシ樹脂は、少なくともビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む2種以上のエポキシ樹脂を含有する上記〈1〉乃至〈3〉のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
〈5〉上記エポキシ樹脂は、更にアミノフェノール型エポキシ樹脂を含有する上記〈1〉乃至〈4〉のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填材。
〈6〉上記無機フィラーは、上記エポキシ樹脂全体を100質量部とした場合に、100〜350質量部含有される上記〈1〉乃至〈5〉のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填材。
〈7〉スルーホールと、該スルーホール内を満した上記〈1〉乃至〈6〉のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤からなる硬化体と、を備えることを特徴とする多層配線基板。
〈8〉上記硬化体のガラス転移点(Tg)が、165℃〜220℃である上記〈7〉に記載の多層配線基板。
〈9〉更に、上記硬化体のうち上記スルーホールから露出された面を覆う第1導体層を備える上記〈7〉又は〈8〉に記載の多層配線基板。
〈10〉上記配線基板を260℃、45秒間のリフローを通過させた場合の、上記硬化体に対する上記第1導体層のピール強度が、0.35〜0.50kN/mである上記〈7〉乃至〈9〉のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
〈11〉上記第1導体層の上記硬化体が配置された側を下方とした場合に、
上記第1導体層の上面に接して配置された絶縁層と、該絶縁層の上面に接して配置された第2導体層と、を備え、
該絶縁層を貫通して該第1導体層と該第2導体層とを接続するビア導体を上記硬化体の上方に備える上記〈7〉乃至〈10〉のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
〈12〉上記硬化体は、海島組織が認められない上記〈7〉乃至〈11〉のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
〈13〉内部又は表面に、鉛含有量が5質量%以下であるハンダ部を備える上記〈7〉乃至〈12〉のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスルーホール用充填剤によると、均一な組織の耐熱性に優れた硬化体が得られる。
また、得られる硬化体は耐熱性に加えて、耐薬品性及び耐食性(酸化剤及び塩基等に対する)にも優れる。更に、硬化剤とエポキシ樹脂とを含有するスルーホール用充填剤として調製した後のポットライフを長くすることができる。このため、スルーホールへ充填剤を充填する際に印刷条件等の充填条件を変化させることなく安定して充填作業を行うことができる。
【0011】
硬化剤の平均粒径が1.5〜10μmである場合、更には、硬化剤の比表面積が、1.4〜6m/gの場合には、十分なポットライフを確保しながら均一な硬化体が得られ、特に、ガラス転移点が高く、耐熱性が高いだけでなく、配線基板のスルーホールに本発明のスルーホール用充填剤を充填、硬化、更に導体形成などを行い、配線基板とした後、リフロー工程(特に高温リフロー工程)等の高温に曝された場合、また、これらの高温工程が複数回にわたって課された場合にも、硬化体に対する導体層のピール強度もほとんど変わらず、高い耐久性が発揮され、硬化体と導体層との接合性が低下、いわゆる剥がれが生じることを大幅に抑制できる。また、硬化体と導体層との界面にデラミネーションが生じることも防止できる。更には、上記の高温リフローを通過させた後のフクレも生じず、高温リフローにも十分耐えられる硬化体を得ることができる。
【0012】
上記エポキシ樹脂が、少なくともビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む2種以上のエポキシ樹脂を含有する場合、優れた耐熱性が発揮されると共に、特に適切な充填材性状とすることができ、印刷条件等の充填条件を変化させることなく特に安定して充填作業を行うことができる。
エポキシ樹脂が、更にアミノフェノール型エポキシ樹脂を含有する場合は、特に優れた耐熱性が発揮されると共に、特に適切な充填材性状とすることができ、印刷条件等の充填条件を変化させることなく特に安定して充填作業を行うことができる。
無機フィラーが50〜500質量部含有される場合は、特に適切な充填材性状とすることができ、印刷条件等の充填条件を変化させることなく特に安定して充填作業を行うことができる。
【0013】
本発明の多層配線基板は、本発明のスルーホール用充填剤が硬化されてなる硬化体を備えるために、耐熱性に優れた多層配線基板とすることができる。
硬化体のガラス転移点(Tg)が165℃〜220℃である場合は、耐熱性に優れた多層配線基板とすることができる。
硬化体の露出面を覆う第1導体層を備える場合で、配線基板を260℃、45秒間のリフローを通過させた場合の、上記硬化体に対する上記第1導体層のピール強度が、0.35〜0.50kN/mである場合は、高い耐久性が発揮され、硬化体と導体層との接合性が低下、いわゆる剥がれが生じることを大幅に抑制された多層配線基板とすることができる。また、硬化体と第1導体層との界面にデラミネーションを生じることを防止できるので、スルーホール近傍において安定した構造を保持でき、高い信頼性を有する多層配線基板とすることができる。
【0014】
絶縁層を貫通して第1導体層と第2導体層とを接続するビア導体を上記硬化体の上方に備える場合は、本発明のスルーホール用充填剤による上記効果をより顕著に得ることができる。即ち、硬化体の上方にビア導体を備える場合にも、硬化体と第1導体層との界面にデラミネーションを生じることを防止できるので、これらの上方に位置するビア導体近傍において安定した構造を保持でき、高い信頼性を有する多層配線基板とすることができる。
鉛含有量が所定量以下の高融点ハンダによるハンダ部を形成するために、高温に加熱されたとしても、スルーホール内の硬化体とこの硬化体を覆う第1導体層との界面にデラミネーションを生じることなく、保持することができる。
【0015】
上記硬化体が所定の海島組織を有さない場合は、硬化体と第1導体層との間に優れた接合性を確保でき、特に耐熱性(特に高温負荷及び熱衝撃等に対する)に優れた多層配線基板とすることができる。
鉛含有量が5質量%以下であるハンダ部を備える場合は、本発明のスルーホール用充填剤による上記効果をより顕著に得ることができる。即ち、鉛含有量が所定量以下の高融点ハンダによるハンダ部を形成するために、高温に加熱されたとしても、スルーホール内の硬化体とこの硬化体を覆う第1導体層との界面にデラミネーションを生じることなく、保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[1]スルーホール用充填剤
本発明のスルーホール用充填材は、構造内にベンゼン環を有する液状のエポキシ樹脂と硬化剤と無機フィラーとを含有し、該硬化剤は、前記化学式(1)で示される粉末状のイミダゾール誘導体(但し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。)であることを特徴とする。
【0017】
上記「エポキシ樹脂」は、構造内にベンゼン環を有する液状のエポキシ樹脂(以下、単に「芳香族系液状エポキシ樹脂」ともいう)である。
「構造内にベンゼン環を有する」エポキシ樹脂とは、このエポキシ樹脂が硬化された硬化樹脂の主鎖内にベンゼン環が配置されることとなるエポキシ樹脂である。従って、例えば、水添されてベンゼン環が脂環状となったエポキシ樹脂(水添ビスフェノールA型樹脂など)等は含まれない。
【0018】
「液状」とは、少なくとも温度20〜30℃における状態である。また、これらのエポキシ樹脂は、通常、軟化点が25℃以下(より好ましくは20℃以下、更に好ましくは18℃以下、通常−30℃以上)である。更に、温度25℃における粘度が25Pa・s以下(より好ましくは20Pa・s以下、更に好ましくは15Pa・s以下、通常0.01Pa・s以上)であることが好ましい。
【0019】
この芳香族系液状エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、ビスフェノール型エポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。これらエポキシ樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのなかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。これらはスルーホール用充填としての耐熱性、耐薬品性及び流動性のバランスに優れ、スルーホールへの充填性に優れている。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、アミノフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。このアミノフェノール系エポキシ樹脂とは、構造内のベンゼン環に直接結合されたアミノ基を1つ以上有し、このアミノ基が有する水素原子がグリシジル基末端を有する置換基に置換されおり、且つ分子全体に少なくとも2つ以上のグリシジル基を有する構造の多官能性エポキシ樹脂である。このアミノフェノール型エポキシ樹脂は、スルーホール用充填剤としての耐熱性、耐薬品性及び流動性のバランスに優れ、スルーホールへの充填性に優れている。
【0021】
これらの芳香族系液状エポキシ樹脂は、各々単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、2種以上の上記芳香族系液状エポキシ樹脂からなり、更に芳香族系液状エポキシ樹脂の1種であるビスフェノールA型エポキシ樹脂を少なくとも含有することが好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂が含有されることで、後述する特定の硬化剤による硬化により均一な組織の耐熱性に優れた硬化体が得られ、高温暴露及び熱衝撃等によってデラミネーションが発生することを大幅に抑制できる。更に、後述する特定の硬化剤と微粒無機フィラーとが含有されることで、ポットライフを特に長くでき、充填の際の印刷条件等を変化させることなく安定して充填作業を行うことができる。
【0022】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の含有量は特に限定されないが、通常、エポキシ樹脂全体を100質量%とした場合に、50〜95質量%含有される。この含有量は更に60〜95質量が好ましい。50〜90質量%の範囲であればビスフェノールA型エポキシ樹脂を含有することによる上記効果を得ることができ、60〜90質量%の範囲ではより確実に得ることができる。
【0023】
上記ビスフェノールA型エポキシ樹脂以外の他の芳香族系液状エポキシ樹脂の種類は特に限定されない。このような芳香族系液状エポキシ樹脂としては、前述のようにビスフェノール型エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂を除く)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましく、更には、アミノフェノール型エポキシ樹脂が特に好ましい。これらの芳香族系液状エポキシ樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記芳香族系液状エポキシ樹脂のうちアミノフェノール型エポキシ樹脂を併用する場合、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とアミノフェノール型エポキシ樹脂との含有量は特に限定されないが、エポキシ樹脂全体を100質量%とした場合に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びアミノフェノール型エポキシ樹脂を合計で55質量%以上(より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、100質量%であってもよい)であることが好ましい。この範囲では、スルーホール用充填剤としての耐熱性、耐薬品性及び流動性のバランスに優れ、スルーホールへの充填性に優れている。
また、エポキシ樹脂全体を100質量%とした場合に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は50〜95質量%含有され、且つアミノフェノール型エポキシ樹脂は5〜50質量%含有されることが好ましく、更には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は60〜95質量%含有され、且つアミノフェノール型エポキシ樹脂は5〜40質量%含有されることがより好ましい。これらの範囲でビスフェノールA型エポキシ樹脂及びアミノフェノール型エポキシ樹脂を併用することによる効果を得ることができる。
【0025】
更に、スルーホール用充填剤全体に対するエポキシ樹脂の含有量は、スルーホール用充填剤全体を100質量%とした場合に、5〜60質量%(より好ましくは10〜55質量%、更に好ましくは10〜50質量%、特に好ましくは15〜50質量%)であることが好ましい。この範囲であれば、適度な流動性を発現させることができ、且つ、高信頼性が得られるからである。
【0026】
「硬化剤」は、下記化学式(1)で示される粉末状のイミダゾール誘導体である。
【化1】

但し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
この硬化剤を芳香族系液状エポキシ樹脂と無機フィラーと併用することで均一な組成の硬化体が得られる。
【0027】
上記化学式(1)におけるRは、炭素数1〜4のアルキレン基であればよいが、炭素数1〜3のアルキレン基(メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基)であることが好ましく、炭素数1又は2のアルキレン基であることがより好ましく、エチレン基であることが特に好ましい。上記炭素数1〜4のアルキレン基を備えることにより、得られる硬化体の組織が均一にでき、ガラス転移点が高く耐熱性が高い硬化体を得ることができる。
【0028】
上記化学式(1)におけるRは、炭素数1〜6のアルキル基である。即ち、メチル基、エチル基、各種プロピル基(n−プロピル基、イソプロピル基)、各種ブチル基(n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基)、各種ペンチル基(n−ペンチル基、t−ペンチル基等)、各種ヘキシル基(n−ヘキシル基、t−ヘキシル基等)が挙げられる。これらのなかでも、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、更には炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。
このアルキル基の炭素数が7以上、特に炭素数11以上では、得られる硬化体の組織が均一にならず、高温リフローに十分耐えられる硬化体を得ることが困難となる。このアルキル基の炭素数が7以上の場合に不均一な組織が認められる理由は定かではないが、炭素数が大きいアルキル基が硬化反応を阻害又は妨害することが考えられる。
【0029】
上記化学式(1)におけるRは、炭素数1〜4のアルキル基である。即ち、メチル基、エチル基、各種プロピル基(n−プロピル基、イソプロピル基)、各種ブチル基(n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基)が挙げられる。これらのなかでも、メチル基が好ましい。これにより、得られる硬化体の組織が均一にでき、ガラス転移点が高く耐熱性が高い硬化体を得ることができる。
更に、この硬化剤のイミダゾール環には、上記3つの置換基以外にも他の置換基をイミダゾール環の他の炭素及び又は窒素に備えることができる。他の置換基としては、例えば、5位炭素に炭素数1〜4のアルキル基を備えることができるが、5位炭素には置換基を備えないことが好ましい。
【0030】
上記化学式(1)に示されるイミダゾール誘導体は、イミダゾール環の1位窒素にジアミノトリアジン構造を有する置換基を有する。この置換基を備える場合は上記均一な組織を得ることができる。上記置換基を備えない場合は、硬化剤が粉末状のものであっても、得られる硬化体に上記不均一な組織が認められ、高温リフローを施すとスルーホール内に充填されて硬化されたスルーホール硬化体上を覆う導体層との接合力が低下する現象が認められる。この理由は定かではないが、1位窒素に活性水素基を有するイミダゾール硬化剤では、この活性水素とエポキシ樹脂とが反応してヒドロキシル基が生成する付加反応が律速となり、その後、3級窒素が有する電子対によりエポキシ基へのアタックが進行し、酸素アニオンを生成させ、連鎖的に硬化反応が進むとされている。これに対して、1位窒素に活性水素を有さないイミダゾール系硬化剤では、上記付加反応がなく、ヒドロキシル基の生成が少ないために、硬化に伴う水分の影響が少ないためと考えることができる。
更に、この1位窒素に置換基を備えないイミダゾール系硬化剤では、ポットライフが短い傾向にある。このため、時間経過に伴う粘度特性の変化からスルーホールへの充填を安定して行い難い。
【0031】
また、この硬化剤の形態は「粉末状」であればよく、その他は特に限定されない。この粉末状とは、少なくとも温度20〜30℃における状態である。
また、この硬化剤の平均粒径は、1.5〜10μm(より好ましくは平均粒径2〜7μm、更に好ましくは平均粒径3〜6μm)であることが好ましい。更に、最大粒子径は45μm以下(特に20μm以下)であることが好ましい。平均粒径がこの範囲であれば、得られる硬化体の組織が均一にでき、ガラス転移点が高く、耐熱性が高いだけでなく、配線基板のスルーホールに本発明のスルーホール用充填剤を充填、硬化、更に導体形成などを行い、配線基板とした後、リフロー工程(特に高温リフロー工程)等の高温に曝された場合、また、これらの高温工程が複数回にわたって課された場合にも、硬化体に対する導体層のピール強度もほとんど変わらず、高い耐久性が発揮され、硬化体と導体層との接合性が低下、いわゆる剥がれが生じることを大幅に抑制できる。また、硬化体と導体層との界面にデラミネーションが生じることも防止できる。更には、上記の高温リフローを通過させた後のフクレも生じず、高温リフローにも十分耐えられる硬化体を得ることができる。また、スルーホールへの充填の際に目詰まりを生じて充填不良となることがなく、本スルーホール用充填剤を構成する各成分との均一な分散が容易であり、更にはポットライフ及び粘度制御等をより行うことができる。尚、例えば、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール及び1,2−ジメチルベンジルイミダゾール等は20〜30℃において粉末状にすることができず、本発明には含まれない。
【0032】
更に、この硬化剤の比表面積は、1.4〜6m/gが好ましく、1.5〜5m/gがより好ましく、1.5〜3m/gが更に好ましい。上記平均粒径に加えて比表面積がこの範囲であれば、得られる硬化体の組織をより確実に均一化でき、ガラス転移点が高く、耐熱性が高いだけでなく、配線基板のスルーホールに本発明のスルーホール用充填剤を充填、硬化、更に、導体形成などを行い、配線基板とした後、リフロー工程(特に高温リフロー工程)等の高温に曝された場合、また、これらの高温工程が複数回にわたって課された場合にも、硬化体に対する導体層のピール強度もほとんど変わらず、高い耐久性が発揮され、硬化体と導体層との接合性が低下、いわゆる剥がれが生じることを大幅に抑制できる。また、硬化体と導体層との界面にデラミネーションが生じることも防止できる。更には、上記の高温リフローを通過させた後のフクレも生じず、高温リフローにも十分耐えられる硬化体を得ることができる。尚、この比表面積は、後述するBET法による値である。
【0033】
この硬化剤の含有量は特に限定されないが、通常、スルーホール用充填剤に含有されるエポキシ樹脂全体を100質量%とした場合に1〜20質量%(好ましくは3〜15質量%、より好ましくは4〜12質量%)である。硬化剤の配合量がこの範囲では、得られる硬化体の組織を均一にでき、高温リフローに十分耐えられる硬化体を得ることができる。
また、この硬化剤は、理由は定かではないが、後述する無機フィラーのスルーホール用充填剤全体(100体積%)に対する配合割合が35体積%以上(特に40体積%以上)である場合に、得られる硬化体とこの硬化体を覆う他部との接合性を保持する効果が高い。このため、高温リフロー工程を課す多層配線基板において特に効果的に用いることができる。
【0034】
上記「無機フィラー」は、無機物からなるフィラーである。この無機フィラーの種類及び含有量等により、スルーホール用充填剤の硬化時の熱膨張を制御することができ、より安定した信頼性の高い配線基板を得ることができる。更に、硬化後には使用時の熱環境の変化に伴う熱膨張を抑制することができる。また、スルーホール用充填材の性状を制御できる。更に、後述する第1導体層との接合性を向上させることができる。
【0035】
上記無機フィラーとしては、セラミックフィラー及び金属フィラー等が挙げられる。
上記セラミックフィラーとしては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、窒化アルミニウム、及び各種誘電体フィラー等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、上記誘電体フィラーとしては、チタン酸バリウム、チタン酸鉛及びチタン酸ジルコン酸鉛等が挙げられる。これらのセラミックフィラーのなかでも、シリカ及びアルミナが好ましい。セラミックフィラーは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
上記金属フィラーとしては、銅、銀、銀及びこれらの金属のうちの2種以上の合金等からなるフィラーが挙げられる。金属フィラーは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記セラミックフィラーと上記金属フィラーとのうちでは、セラミックフィラーが好ましい。配線基板に求められる低熱膨張化に対応でき、その制御もし易い。また、金属フィラーに比べて安定した形状のフィラーを得易いからである。
【0037】
無機フィラーの形状は特に限定されず、球状(例えば、ラグビーボール形状等の略球状形状を含む)、キュービック状、ウィスカー状、及び柱状等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでも球状が好ましい。球状の無機フィラーを用いることで、その他の形状を用いる場合に比べてより流動性がよいスルーホール用充填剤が得られる。更に、スルーホール内へより高充填が可能である。
【0038】
また、上記無機フィラーは、平均粒径(一次粒径である)が50nm以下である微粒無機フィラーを含有する。この微粒無機フィラーの平均粒径は1nm〜40nmnmが好ましく、3nm〜35がより好ましく、5〜30が更に好ましく、7〜25nmが特に好ましい。更に最大粒径は5μm以下であることが好ましい。前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂と前記硬化剤とこの微粒無機フィラーとが併用されることで、ポットライフを特に長くでき、充填の際の印刷条件等を変化させることなく安定して充填作業を行うことができる。特に連続印刷性及び充填性に優れたスルーホール用充填材とすることができる。
【0039】
この微粒無機フィラーはエポキシ樹脂全体を100質量部とした場合に0.1〜10質量部含有される。この含有量は0.5〜9質量部が好ましく、0.5〜8質量部がより好ましい。この範囲では過度な増粘(温度23で剪断速度0.84s−1における粘度が2200Pa・s以下)を防止しつつ、前記連続印刷性及び充填性をより効果的に向上させることができる。
また、微粒無機フィラーの材質は特に限定されないが、上記のなかでもセラミックフィラーが好ましく、更にはシリカが好ましい。微粒無機フィラーがシリカである場合は、低熱膨張を維持しつつ、高い耐熱性を得ることができる。
【0040】
無機フィラー全体(微粒無機フィラーを含む)の大きさは特に限定されないが、平均粒径(球状でない場合には平均最大長さ)が0.1〜30μm(より好ましくは平均粒径1〜20μm、更に好ましくは平均粒径2〜10μm)であることが好ましい。更に、最大粒子径は45μm以下であることが好ましい。平均粒径がこの範囲であれば、スルーホールへの充填の際に目詰まりを生じて充填不良となることがなく、本スルーホール用充填剤を構成する各成分との均一な分散が容易であり、更には粘度制御等をより行うことができる。硬化物とこの硬化物を覆う他部との接合性を十分に確保できる。また、より高充填にするために粒度分布が広い無機フィラーを用いることや、平均粒径の異なる無機フィラーを併用することができる。
【0041】
通常、上記無機フィラーは、上記微粒無機フィラー以外にも他の無機フィラーを含有する。他の無機フィラーとしては、平均粒径が50nmを超える無機フィラーである。このような他の無機フィラーとして、平均粒径が0.5〜20μm(より好ましくは1〜15μm、更に好ましくは2〜10μm)である大径シリカ粉末が好ましい。大径シリカ粉末の含有量は特に限定されないが、エポキシ樹脂全体を100質量部とした場合に100〜350質量部が好ましく、120〜300質量部がより好ましく、150〜250質量部が更に好ましい。この大径シリカ粉末が含有されることで特に優れた低熱膨張性を得ることができる。
【0042】
更に、他の無機フィラーとして、平均粒径が0.1〜10μm(より好ましくは0.3〜7μm、更に好ましくは0.5〜5μm)である大径炭酸カルシウム粉末が好ましい。大径炭酸カルシウム粉末の含有量は特に限定されないが、エポキシ樹脂全体を100質量部とした場合に5〜50質量部が好ましく、7〜45質量部がより好ましく、10〜40質量部が更に好ましい。この大径炭酸カルシウム粉末が含有されることで後述する第1導体層との接合性に特に優れたスルーホール用充填材を得ることができる。
本発明のスルーホール用充填材では、上記微粒シリカ粉末(シリカからなる微粒無機フィラー)、大径シリカ粉末及び大径炭酸カルシウム粉末の3種が併用されることが特に好ましい。これらを併用する場合の含有量は前記各々好ましい範囲の組合せとすることができる。
【0043】
また、無機フィラーは、表面処理を施したものを用いてもよく、表面処理を施していないものを用いてもよい。表面処理を施した無機フィラーとしては、スルーホール用充填剤を構成するエポキシ樹脂との密着性を向上させるためにカップリング処理(シランカップリング剤等)を施した無機フィラーが挙げられる。また、脂肪酸(例えば、ステアリン酸等の炭素数10〜20以上の脂肪酸)、スルホン酸系化合物(炭素数10〜20)及びパラフィン系化合物(炭素数10〜20)等の有機系表面処理剤によりコーティングされた無機フィラーが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明のスルーホール用充填剤には、上記芳香族系液状エポキシ樹脂、硬化剤及び無機フィラー以外のも他の成分を含有させることができる。他の成分としては、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、及び分散剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、本発明のスルーホール用充填剤には、溶剤が含有されてもよいが、実質的に含有されないものとすることができる。溶剤が含有されないことで、スルーホール等に充填した後、硬化させる際に溶剤の揮発に起因する泡の発生、凹みの発生及びクラックの発生等を特に効果的に防止できる。更に、配線基板においては、熱負荷が加えられた場合であっても、硬化後の充填物のフクレの発生、気泡の発生及びクラックの発生等を特に効果的に防止できる。
【0045】
更に、本発明のスルーホール用充填剤の水分量は、スルーホール用充填剤全体を100%とした場合に0.5%未満(より好ましくは0.0〜0.5%、更に好ましくは0〜0.3%、特に好ましくは0.0〜0.1%)であることが好ましい。この範囲であれば含有される材料等によらず極度な増粘を防止できる。また、得られる硬化体内にボイドが生じることも防止できる。
【0046】
また、本発明のスルーホール用充填剤の粘度は特に限定されないが、回転粘度計により温度22±1℃で測定した場合の剪断速度0.84s−1における粘度が600〜2000Pa・s(より好ましくは650〜2000Pa・s、更に好ましくは675〜2000Pa・s)であることが好ましい。この範囲では特に優れた充填性が得られる。特に後述する充填口径が350μm以下(更には260μm以下)のスルーホールに対しても優れた充填性が得られる。
【0047】
本発明のスルーホール用充填剤を充填するスルーホールとは、配線基板(多層配線基板等を含む)を構成する各層(例えば、コア基板等)に形成された貫通孔であり、通常、層間導通を目的とするものである。
また、本発明のスルーホール用充填剤を充填するスルーホールの形状及び大きさ等は限定されない。例えば、充填する際のスルーホール口径(以下、単に「充填口径」という)が350μm以下であるスルーホールに好適であり、特に充填口径が260μm以下の小径のスルーホールにも用いることができる。この「充填口径」とは、スルーホール自体の開口径に係わらず、本スルーホール用充填剤を充填する際の開口径を意味する。即ち、例えば、スルーホール内に内壁導体層が形成されている場合には、内壁導体層に囲まれた孔の開口径を意味するものである。更に、スルーホールの長さは、1200μm以下であることが好ましい。この範囲であれば作業性よく充填を行うことができる。
【0048】
本発明のスルーホール用充填剤が硬化されてなる硬化体は、海島組織が認められない硬化体とすることができる。即ち、均一な組織の硬化体を得ることができる。上記海島組織とは、図5及び6に認められる構造であり、後述する実施例の観察方法により算出される平均最大長さが150μm以上となる島部分を有する組織である。即ち、図5及び6における他部に比べて濃色で示されている部分が上記島であり、より淡色で示された連続相が上記海である。
【0049】
また、本発明のスルーホール用充填剤は、スルーホールへ充填を行える状態に調製したときから後述する実施例における方法により、24時間毎に粘度測定した場合に、調製直後の粘度値に対して2倍の粘度値に達するまでの時間(ポットライフ)を48時間以上とすることができる。従って、スルーホール用充填剤を調製した後の可使時間が長く、スルーホールへの充填作業中の粘度変化が抑制され、優れた充填性を安定して確保することができる。
【0050】
[2]多層配線基板
本発明の多層配線基板は、スルーホールと、スルーホール内を満した本発明のスルーホール用充填剤からなる硬化体と、を備えることを特徴とする。
即ち、本発明のスルーホール用充填剤が充填されて硬化された硬化体を有するスルーホールを備える多層配線基板である。
【0051】
上記「スルーホール」は、前記スルーホール用充填剤において説明したスルーホールをそのまま適用できる。
上記「硬化体」は、前記スルーホール用充填剤がスルーホール内で硬化されてなる硬化体であり、上記スルーホール用充填剤において説明した硬化体をそのまま適用できる。この硬化体の大きさは特に限定されず、スルーホールのサイズにより様々である。また、スルーホール内壁面に、内壁面導体層が形成されている場合には、実際のスルーホール内径よりも硬化体の外径は小さくなる。この内壁面導体層の厚さは特に限定されないが、通常、10〜330μmである。
【0052】
その他、多層配線基板を構成するコア基板の種類等は特に限定されない。例えば、コア基板としては、エポキシ樹脂基板、ビスマレイミド−トリアジン樹脂基板、フッ素樹脂基板、その他の耐熱性樹脂基板、各種樹脂シートを用いた複合樹脂基板、各種樹脂中にガラスフィラーが分散された複合樹脂基板、ガラス不織布で補強された複合樹脂基板、銅等の金属からなる金属板層内部に備える複合樹脂材料、及びこれらの基板の銅貼り積層基板等を用いることができる。更に、これらの基板に層間絶縁材(エポキシ樹脂、フェノール樹脂、液晶ポリマー等)を塗布して硬化させた基板、これらの基板に層間絶縁層(エポキシ樹脂、フェノール樹脂、液晶ポリマー等ならなる樹脂シート)を積層して硬化させた基板等を用いることができる。これらの各種基板は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
尚、本発明の多層配線基板の積層数等は特に限定されない。例えば、上下2〜12層構造とすることができる。
【0053】
本発明の多層配線基板では、上記硬化体のうちスルーホールから露出された面を覆う第1導体層を備えることができる。即ち、図2に例示するように、硬化体20のうちスルーホール10から露出された面21を覆う第1導体層30を備える多層配線基板である。
この場合には、本発明のスルーホール用充填剤が硬化されてなる硬化体を備えることによる効果を特に得ることができる。即ち、硬化体は均一な組織の硬化体からなるため、第1導体層との接合性に優れている。更に、リフロー工程(特に高温リフロー工程)等の高温に曝された場合、また、これらの高温工程が複数回にわたって課された場合にも、高い耐久性が発揮され、硬化体20と第1導体層30との接合性が低下することを大幅に抑制でき、硬化体と第1導体層との界面にデラミネーションが生じることを防止できる。
【0054】
尚、第1導体層を構成する導体材料は特に限定されないが、例えば、銅、銀、金、アルミ、及びこれらの合金を用いることができる。
また、通常、スルーホール10内には、図2に例示するように、スルーホール10の内壁面にスルーホール内壁面導体層11が形成される。これはコア基板40の表裏面に形成された導体層同士を電気的に接続するための導体層等である。このスルーホール内壁面導体を構成する導体材料は特に限定されないが、上記第1導体層と同様の導体材料を用いることができる。第1導体層と同じ導体材料を用いてもよく、異なる導体材料を用いてもよい。
【0055】
本発明の多層配線基板では、第1導体層の硬化体が配置された側を下方とした場合に、第1導体層の上面に接して配置された絶縁層と、絶縁層の上面に接して配置された第2導体層とを備え、絶縁層を貫通して第1導体層と第2導体層とを接続するビア導体を硬化体の上方に備える構造とすることができる。即ち、高密度に多層化された多層配線基板とすることができる。即ち、図1に例示するように、第1導体層30の上面に接して配置された絶縁層41と、絶縁層41の上面に接して配置された第2導体層50とを備え、絶縁層41を貫通して第1導体層30と第2導体層41とを接続するビア導体60を硬化体20の上方に備える構造を有する多層配線基板である。
この多層配線基板では、均一な組織の硬化体20と第1導体層30とが接合されているために、硬化体と第1導体層との界面にデラミネーション及びクラック等を生じず、この第1導体層上方に形成されたビア導体60を備える構造部分の信頼を安定して確保できる。特に上記リフロー工程等の高温に曝された場合に、この効果は顕著に得られる。
【0056】
更に、本発明の多層配線基板では、内部又は表面にハンダ部を備えることができる。このハンダ部を構成するハンダの種類は特に限定されず、従来より使用されている鉛を含有する共晶ハンダ(例えば、鉛含有量がハンダ全体の5質量%を超える)を用いることができる。また、鉛を実質的に含有しない高融点の鉛フリーハンダ(通常、鉛含有量がハンダ全体の5質量%以下、検出限界以下であってもよい)を用いることができる。これらのうち、本発明の多層配線基板では鉛フリーハンダを用いる際の高温リフロー工程を経る場合にも高い信頼性を得ることができる。尚、上記ハンダ部としては、例えば、図1に例示するように基板表面にハンダバンプとしてハンダ部70が挙げられる。
この高温リフロー工程とは、最高温度215℃以上(更には220℃以上、通常280℃以下)のリフロー炉に製造途中の多層配線板を通過させる工程である。この温度を負荷される時間は特に限定されないが、通常、3分以下(更には2〜3分、通常2以上)である。
【0057】
本発明の多層配線基板の製造方法は特に限定されないが、例えば、基板に設けられたスルーホールに本発明のスルーホール用充填剤を充填したのち硬化させて硬化体を得る硬化体形成工程と、上記スルーホールから露出された該硬化体の表面を覆う第1導体層を形成する第1導体層形成工程と、を備える方法により得ることができる。
この方法によれば、均一な組織の耐熱性に優れた硬化体が得られる。これにより、硬化体とこの硬化体の表面に形成された第1導体層との接合性に優れ、高温暴露及び熱衝撃に等によってデラミネーションが発生することを大幅に抑制できる。また、得られる硬化体は耐熱性に加えて、耐薬品性及び耐食性(酸化剤及び塩基等に対する)にも優れる。更に、硬化剤とエポキシ樹脂とを含有するスルーホール用充填剤として調製した後のポットライフが長く作業性に優れ、スルーホールへ充填剤を充填する際に印刷条件等の充填条件を変化させることなく安定して充填作業を行うことができる。
【0058】
更に、上記第1導体層の上記硬化体が配置された側を下方とした場合に、該第1導体層の上面に接する絶縁層を積層する絶縁層形成工程と、該絶縁層のうち該硬化体の上方にビアホールを穿設するビアホール形成工程と、該絶縁層の上面の少なくとも一部に配置される第2導体層、及び該ビアホールの内部に配置される該第1導体層と該第2導体層とを接続するビア導体を形成する第2導体ビア導体形成工程と、を備えて製造することができる。
この絶縁層形成工程、ビアホール形成工程及びビア導体形成工程をこの順に備える方法によれば、絶縁層を貫通して第1導体層と第2導体層とを接続するビア導体を上記硬化体の上方に備える多層配線基板を製造でき、上記本発明のスルーホール用充填剤を用いる上記効果をより顕著に得ることができる。即ち、硬化体の上方にビア導体を備える場合にも、硬化体と第1導体層との界面にデラミネーションを生じることを防止できるので、これらの上方に位置するビア導体近傍において安定した構造を保持でき、高い信頼性を有する多層配線基板を得ることができる。
【0059】
また、これらの製造方法においては、第1導体層形成工程後に、温度215℃以上の高温リフロー工程を備えることができる。この高温リフロー工程を備える場合にも、スルーホール内の硬化体とこの硬化体を覆う第1導体層との界面にデラミネーションを生じることなく、保持することができる。即ち、高温リフロー工程を備える場合に、本発明のスルーホール用充填剤を用いる効果を特に発揮させることができる。
【0060】
上記スルーホールは、通常、コア基板に形成される。このスルーホールの形成方法は特に限定されず、レーザー穿孔を行ってもよく、ドリル穿孔を行ってもよい。
また、スルーホール内壁面導体層を備える場合には、スルーホールの内壁に無電解メッキを施し、その後、更に所定の厚みの導体層を得るために電解メッキを行うことが好ましい。このスルーホール内壁面導体層を備える場合には、充填されるスルーホール用充填剤(又はその硬化体)との接合性を向上させるために接合性向上処理(粗化処理など)を行うことができる。
【0061】
スルーホール用充填剤の充填方法は特に限定されないが、スクリーン印刷、圧入印刷、及びロールコート印刷等の方法により充填することができる。スルーホール内に充填されたスルーホール用充填剤は、その後、加熱硬化させる。この際の加熱温度は特に限定されないが、通常、80〜200℃(更には100〜200℃、特に100〜185℃)とすることができる。更に、加熱時間も特に限定されないが、0.1〜10時間(更には0.5〜7時間、特に0.5〜5時間)とすることができる。尚、上記範囲で1工程のみで加熱を行ってもよく、2工程以上に分けて加熱を行ってもよい。
また、この硬化体形成工程では、仮硬化状態とし、第1導体層を形成した後、その後の工程で完全に硬化させる硬化工程を備えてもよい。
【0062】
得られた硬化体のスルーホール内から露出された表面には、その後、第1導体層をそのまま形成してもよいが、第1導体層を形成する前に、硬化体の表面を平坦化するために、ベルトサンダー研磨及び/又はバフ研磨などによる平坦化処理を施すことができる。尚、この平坦化工程を備える場合には、上記スルーホール用充填剤を硬化させる際に、硬化温度を低めに設定して硬化させ、平坦化処理後に、再度加熱硬化を行うことができる。
【0063】
更に、硬化体のスルーホールから露出された表面には、その後、形成される第1導体層との接合性を向上させるために接合性向上処理(粗化処理、表面コート処理など)を行うことができる。即ち、例えば、過マンガン酸塩及び/又は蟻酸等を用いたウェットエッチング、プラズマ処理を用いたドライエッチング、導体層との接合性が向上される各種接合性向上コート等を行うことができる。これらは1種のみを行ってもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
第1導体層の形成方法は特に限定されないが、通常、メッキ形成する。この第1導体層の形成に際しては、無電解メッキ法と電解メッキ法とを組み合わせて形成することができる。更に、第1導体層を所定の形状に成型するために、導体層をパターニング工程(エッチングレジスト層形成、露光、現像、エッチング、及びエッチングレジスト層剥離等の各工程を含む)を行って、所定の形状を得ることができる。
【0065】
上記絶縁層形成工程では、絶縁層の形成方法は特に限定されない。例えば、硬化されて絶縁層となる液状樹脂を塗布して硬化させてもよく、フィルム状の半硬化絶縁層を貼り付けたのち硬化させて形成してもよく、これらの方法を併用してもよい。これらのなかでは、フィルム状の半硬化絶縁層を用いることが好ましい。工程数が削減されるためである。更に、フィルム状の半硬化絶縁層を用いる場合には、貼り付ける際に真空加熱圧着を行うことが好ましい。尚、上記液状樹脂を用いる場合の液状樹脂の塗布方法は特に限定されず、スクリーン印刷、ロールコーター印刷、カーテンコーター印刷等の各種印刷方法を用いることができる。
【0066】
次いで、得られた絶縁層に絶縁層を貫通するビアホールを形成するビアホール形成工程を備える。ビアホールの形成方法は特に限定されないが、フォトビア工法及び/又はレーザービア工法を用いることができる。ビアホールは、本発明のスルーホール用充填剤が硬化された硬化体の上方に形成する。得られたビアホールには、ビア導体との接合性を向上させるために、デスミア等の粗化処理を行うことができる。
【0067】
その後、絶縁層の上面の少なくとも一部に配置される第2導体層と、第1導体層と第2導体層とを接続するビア導体とを、形成する第2導体ビア導体形成工程を備える。第2導体層とビア導体とは、通常、同時に形成されるが、個別の工程で形成することもできる。また、個別に形成する場合は第2導体層形成工程と、ビア導体形成工程とは、いずれを先に行ってもよい。これら第2導体層及びビア導体の形成方法は特に限定されないが、上記第1導体層と同様にして形成できる。
更に、その後、第2導体層の上面に、絶縁層、導体層及びビア導体をこの順位に積層形成することができる。
【0068】
尚、本発明のスルーホール用充填材は、スタックドビア構造(積層ビア構造、Stacked−via)の貫通孔に対しても用いることができる。即ち、本発明の多層配線基板はスタックドビア内を満した本発明のスルーホール用充填剤からなる硬化体を備えることができる。スタックドビア構造に本発明のスルーホール充填材を用いる場合は、前述の第1導体層は、各積層ビア間に挟まれた導体層となる。本発明のスルーホール用充填材をスタックドビア構造に用いた場合には、リフロー工程(とりわけ高温リフロー工程)等の高温に曝された場合、また、これらの高温工程が複数回にわたって課された場合にも、硬化体に対する導体層(蓋導体層及びビア底導体層)のピール強度もほとんど変わらず、高い耐久性が発揮され、硬化体と各導体層との接合性が低下、いわゆる剥がれが生じることを大幅に抑制できる。また、硬化体と各導体層との界面にデラミネーションが生じることも防止できる。更には、上記の高温リフローを通過させた後のフクレも生じず、高温リフローにも十分耐えられる硬化体を得ることができる。
【実施例】
【0069】
[1]スルーホール用充填剤の調製
各々下記材料を用い、各々容器中にて撹拌したのち3本ロールで混練し、更に消泡剤を添加し、次いで、真空撹拌を行って各スルーホール用充填剤(実施例1〜6及び比較例1〜6)を調製した。各スルーホール用充填剤の構成を下記表1にまとめた。
【0070】
【表1】

【0071】
上記表1中に示す各素材は以下の通りである。
エポキシ樹脂(芳香族系液状エポキシ樹脂);
「ビスフェノールA」;ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「エピコート828」、液状)
「アミノフェノール」;アミノフェノール型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「エピコート630」、液状)
「ビスフェノールF」;ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「エピコート807」、液状)
【0072】
無機フィラー;
「大径SiO」;大径シリカ粉末(電気化学工業株式会社製、商品名「FB−5LDX」、平均粒径5μm、最大粒径24μm以下)
「大径CaCO」;大径炭酸カルシウム粉末(平均粒径1μm、最大粒径64μm以下)
「微粒SiO」;微粒シリカ粉末(日本アエロジル株式会社製、商品名「RY200」、平均粒径12nm、最大粒子径5μm以下)
【0073】
硬化剤;
「硬化剤1」;2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン(四国化成工業株式会社製、商品名「2MZA−PW」、平均粒径4μm、最大粒径16μm以下、微粒子粉末状、比表面積2.0m/g)、前記化学式(1)においてRが−C−、Rが−CH、RがHである(硬化剤2及び3同様)。
「硬化剤2」;2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン(四国化成工業株式会社製、商品名「2MZA−PW」、平均粒径3μm、微粒子粉末状、比表面積2.9m/g)
「硬化剤3」;2,4−ジアミノ−6−〔2’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン(四国化成工業株式会社製、商品名「2MZA−PW」、平均粒径5.5μm、微粒子粉末状、比表面積1.5m/g)
「硬化剤4」;2−ウンデシルイミダゾール{四国化成工業株式会社製、商品名「C11Z」、平均粒径400μm、最大粒径2mm以下、フレーク状}、前記化学式(1)においてジアミノトリアジン構造基を有さず本発明外の硬化剤
「硬化剤5」;2−ヘプタデシルイミダゾール{四国化成工業株式会社製、商品名「C17Z」、平均粒径1800μm、最大粒径2mm以下、フレーク状、比表面積0.2m/g}前記化学式(1)においてジアミノトリアジン構造基を有さず本発明外の硬化剤
「硬化剤6」;ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「エピキュアDICY」、平均粒径7μm、最大粒径21μm以下、微粒子粉末状、比表面積1.3m/g)前記化学式(1)においてジアミノトリアジン構造基を有さず本発明外の硬化剤
「硬化剤7」;2−メチルイミダゾール{四国化成工業株式会社製、商品名「2MZ」、平均粒径120μm、最大粒径1mm以下、フレーク状}前記化学式(1)においてジアミノトリアジン構造基を有さず本発明外の硬化剤
【0074】
尚、上記硬化剤の平均粒径及び最大粒径はレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、純水に測定物(硬化剤)を0.4質量%の割合となるように添加し、次いで、界面活性剤を添加してビーカーに投入した。その後、このビーカーを超音波槽に入れて硬化剤を超音波分散させて、液温が20〜25℃において測定を行った。
また、上記各比表面積は、BET比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製)を用い、サンプルを0.4〜3g程度測定管に詰め、窒素ガスを流しながら70〜100℃且つ80分間の脱気条件で脱気した。その後、He/N混合ガスを流し、液体窒素に測定管を入れて冷却した。次いで、液体窒素から測定管を取り出し、放出された窒素を吸着量として測定し、全表面積を算出した。その後、測定後のサンプル質量を測定し、全表面積をサンプル質量で除して比表面積を算出した。
【0075】
[2]スルーホール用充填剤の評価
上記[1]で得られたスルーホール用充填材について、剪断速度0.84s−1における粘度及びポットライフを測定し、表1に併記した。更に、上記[1]で得られたスルーホール用充填材を用いて形成した硬化体について、組織、ガラス転移点、ピール強度、高温リフロー炉通過試験後のフクレの有無、印刷性状(充填性)、連続印刷性(4枚)、ブリードアウト凹みの有無、耐熱衝撃性の各々項目について観察及び測定を行い、表2にその結果を示した。
【0076】
【表2】

【0077】
上記表1及び表2中に示す各結果は、下記の観察及び測定による。
「剪断0.84s−1粘度」(スルーホール用充填材の粘度);
上記[1]で調製した後、容器に充填したスルーホール用充填材を、1時間温度22±1℃にした恒温槽に設置し、その恒温槽に浸けたまま、回転粘度計(東機産業株式会社製、形式「TV20H」)を用いて剪断速度0.84s−1における粘度を測定した。
【0078】
「ポットライフ」(可使時間の測定);
上記[1]で得られた各スルーホール用充填剤の調製直後から時間測定を開始し、温度23±1℃且つ湿度50±10%の環境に放置しながら24時間毎に回転粘度計(東機産業株式会社製、形式「TV20H」)で剪断速度0.84s−1における粘度を測定した。そして各スルーホール用充填剤を調製した直後に測定した粘度に対して2倍の粘度になるまでの時間を可使時間とした。その結果、この時間が48時間以上であったものには「○」と示した。一方、この時間が24時間以下であったもの(比較例4)には「24以下」と示した。
【0079】
「組織」(硬化体の組織の観察);
上記[1]で得られた各スルーホール用充填剤をPETフィルムの表面に約100μmの厚さに印刷した。次いで、120〜130℃で20〜90分間加熱した後、10分間おいて、更に150℃で1〜5時間加熱して硬化させた。その後、得られた硬化物を光学顕微鏡で30倍に拡大した画像において、海島組織の有無を確認した。この結果、海島組織が認められない場合は「均一」と示し、海島組織が認められた場合は「不均」と示した。
更に、実施例1の硬化体の光学顕微鏡で30倍に拡大した表面を撮影して得られた画像を図3に、実施例2の画像を図4に、比較例1の画像を図5に、比較例2の画像を図6に各々示した。尚、図3〜6における最小スケールは0.5mmである。
この結果、実施例1〜6及び比較例3〜6においては、海島組織が認められなかった。一方、比較例1及び2には海島組織が観察された。また、比較例1及び2において、5mm四方の異なる5ヶ所の視野において認められる各視野内で最大の島部分の最大長さの平均値は200μm以上であった。
【0080】
「ガラス転移点」;
各充填材をシート状に成形し、150℃で完全に硬化させて得られた厚さ約100μmの各シートから4mm×50mmの試験片を切り出した。その後、各試験片をDMA(Dynamic Mechanical Analysis)測定に供し、周波数11Hzにおけるtanδ曲線(温度とtanδとの相関曲線)をプロットし、このtanδ曲線の変曲点から各々の試験片のガラス転移点を求めた。
【0081】
「ピール強度」(高温リフロー耐熱前後におけるピール強度測定);
厚み800μmのビスマレイミド−トリアジン樹脂製基板の表面に、上記[1]で得られた各スルーホール用充填剤を厚さ800μmにスクリーン印刷し、その後、100〜130℃で20〜90分間加熱して、スルーホール用充填剤を仮硬化(硬化体形成工程)させた。次いで、仮硬化させた硬化体(スルーホール用充填剤)の表面を研磨し、その後、150〜170℃で1〜5時間加熱して、硬化体を完全に硬化させた。更に、デスミア処理を施した。その後、この硬化体の表面に無電解メッキ(銅メッキ、厚さ3μm以下)及び電解メッキ(銅メッキ)を施して導体層(第1導体層、厚さ25〜30μm)を形成した。
【0082】
上記の配線基板を最高温度270±5℃、250℃以上60±10秒の高温リフロー炉を2回通過させ、第1導体層のピール強度を測定した(「耐熱後」)。一方、高温リフロー炉通過前(「耐熱前」)にも同様の測定を行った。そして、これらの耐熱前と耐熱後とのピール強度を比較して耐熱前のピール強度に対する耐熱後のピール強度の割合を「保持率」として示した。尚、上記各ピール強度は、引き剥がし幅10mm、引き上げ角度は垂直、引き上げ速度は50±1mm/分の各条件で行った。
【0083】
「高温リフロー通過のフクレの有無」(高温リフロー炉を通過させた後におけるピール強度測定);
上記高温リフロー炉を1回通過させた後、及び2回通過させた後、の各々における第1導体層表面のフクレ(硬化体と第1導体層との界面のデラミネーションによる)に起因する凹凸を目視により確認した(通常、直径約5μm以上且つ高さ約100μm以上のフクレを検知できる)。フクレが認められないものには「無」、認められるものには「有」、認められるが少ないものには「少有」と示した。
【0084】
「印刷状態(充填性)」;
厚み800μmの基板(エポキシ系樹脂材料からなる銅貼り積層板、FR−5相当、Z軸膨張25ppm/K)の表面に、層間絶縁材(味の素株式会社製、商品名「ABF」)を真空プレス機を用いて厚さ30μmに積層した。その後、ドリルを用いて250〜300μmのスルーホール(貫通孔)を穿孔した。次いで、デスミア処理を施し、無電解メッキ(銅メッキ)を行い、更に電解メッキ(銅メッキ)を行って、スルーホールの内壁面にスルーホール内壁面導体層(厚さ18μm)と、基板の表裏面に各種導体層を形成した。その後、スルーホール内壁面導体層とスルーホール用充填剤との密着性を向上させる目的の表面処理(メック株式会社製、商品名「CZ処理」)を施した。こうして得られた基板の上面に厚み150μmの印刷マスクを設置し、前記[1]で得られた各スルーホール用充填剤を印刷してスルーホール内に充填した。充填後の基板表面を観察し、充填物の表面が基板表面から突出された凸部を形成しているものには「○」、充填物の表面が基板表面から凹んで凹部を形成しているものには「×」、と各々示した。
【0085】
「連続印刷性(4枚)」
上記「印刷状態」の評価時と同様の印刷作業を4枚連続して行った。その結果、上記マスクが基板表面に張り付かず綺麗に剥がせたものには「○」、上記マスクが基板表面に張り付いたものには「×」、と各々示した。
【0086】
「ブリードアウト凹みの有無」
上記「連続印刷性」試験で得られた基板のなかから印刷状態が最もよいものを各充填剤毎に選択し、各々100〜130℃で20〜90分間加熱してスルーホール用充填剤を仮硬化させた硬化体を得た。その後、得られた基板表面上に残った余分な硬化物を研磨し、基板表面の銅メッキを露出させ、得られた基板を金属顕微鏡を用いて観察し、スルーホール20個のうち基板表面から凹んでいる硬化体の個数を換算した。その結果、90%のスルーホールで凹み(50μm以上の凹みは検知される)が認められなかったものには「○」、75%以上で認められなかったものには「△」、75%を超える硬化体に凹みが認められたものには「×」、と各々示した。
尚、耐熱衝撃性については後述する。
【0087】
[3]多層配線基板の評価
(1)多層配線基板の製造
(i)厚み800μmの基板(エポキシ系樹脂材料からなる銅貼り積層板、FR−5相当、Z軸膨張25ppm/K)の表面に、層間絶縁材(味の素株式会社製、商品名「ABF」)を真空プレス機を用いて厚さ30μmに積層した。
【0088】
(ii)その後、ドリルを用いて250〜300μmのスルーホール(貫通孔)を穿孔した。次いで、デスミア処理を施し、無電解メッキ(銅メッキ)を行い、更に電解メッキ(銅メッキ)を行って、スルーホールの内壁面にスルーホール内壁面導体層(厚さ18μm)と、基板の表裏面に各種導体層を形成した。その後、スルーホール内壁面導体層とスルーホール用充填剤との密着性を向上させる目的の表面処理(メック株式会社製、商品名「CZ処理」)を施した。
【0089】
(iii)次いで、基板の上面に厚み150μmの印刷マスクを設置し、前記[1]で得られた実施例1のスルーホール用充填剤を印刷してスルーホール内に充填した。その後、100〜130℃で20〜90分間加熱してスルーホール用充填剤を仮硬化させた硬化体を得た。次いで、得られた硬化体の表面を研磨した後150℃で1〜5時間加熱して、スルーホール用充填剤を完全に硬化させた硬化体を得た。
【0090】
(iv)その後、デスミア処理を施し、次いで、無電解メッキ(銅メッキ)、更に電解メッキ(銅メッキ)を施して、スルーホール用充填剤からなる硬化体のスルーホールから露出された表面を覆う第1導体層(厚さ20μm)を形成した。その後、第1導体層をフォトリソ法を用いてパターニングした。
【0091】
(v)次いで、パターニングされた第1導体層を含む基板表面にフィルム状樹脂を加熱圧着して厚さ30μmの絶縁層を形成した。その後、COレーザーを用いて上記絶縁層を貫通し、上記スルーホール上に位置するビアホールを形成した。次いで、デスミア処理を施し、絶縁層の表面に無電解メッキ(銅メッキ)、更には電解メッキ(銅メッキ)を施して、第2導体層をパターニングした。その後、第1導体層と第2導体層とが電気的に接続されるようにビア導体を形成した。
【0092】
(vi)その後、上記(v)の工程を3回繰り返して多層化工程を行った。
(vii)次いで、最上面にソルダーレジストパターニングを形成し、ソルダーレジストが積層されていない最上面の導体パターン表面にNiメッキを積層し、更にその表面Auメッキを積層した。
【0093】
(viii)その後、ハンダ印刷マスクを用いて、ハンダ(鉛を含有する共晶ハンダ)を印刷し、ピーク温度220℃且つ183℃以上に保持する保持時間180秒のリフロー工程を行ってハンダバンプを備えた多層配線基板を得た。同様にして上記(iii)の工程で実施例1〜4及び比較例2〜3の各5種のスルーホール用充填剤を充填して合計6種類の多層配線基板を得た。
【0094】
(2)多層配線基板の耐熱衝撃試験
上記(1)で得られた各6種類(実施例1〜6及び比較例2〜3)の多層配線基板に対して、雰囲気温度を−55℃から125℃まで変化させるサイクルを1サイクルとして、このサイクルを6サイクル/1時間の条件で、1000サイクル繰り返して熱衝撃試験(液相)を行った。
【0095】
この耐熱衝撃試験後に、各多層配線基板をスルーホール断面が最低3つ得られるように切断したサンプルのスルーホールの断面を光学顕微鏡で200倍に拡大して観察し、10サンプルについて観察を行った。この観察においては、スルーホール内の硬化体(各スルーホール用充填剤からなる)と第1導体層との剥離の有無、硬化体とスルーホール内壁面導体層との剥離の有無、硬化体と第1導体層との界面近傍におけるクラックの有無、硬化体とスルーホール内壁面導体層との界面近傍におけるクラックの有無、硬化体の上方に位置された各絶縁層、導体パターン層及びソルダーレジストパターン等の層及び各界面等にデラミネーションやクラック等の有無を観察した。この観察において、デラミネーション又はクラック等が見つかったサンプルは不良とし、その不良数の多さから◎(85%以上合格)、○(50%以上合格)、△(50%未満)、×(25%未満)として評価した。
【0096】
表2の結果より、比較例2のスルーホール用充填剤を用いた多層配線基板では、耐熱衝撃試験後の合格率が25%未満と小さかった。また、比較例3のスルーホール用充填剤を用いた多層配線基板では、耐熱衝撃試験後の合格率が50%未満と小さかった。また、比較例3のスルーホール用充填材自身のガラス転移点は、高い値を示したが、比較例3のスルーホール用充填材を用いた配線基板では、高温リフロー耐熱前後におけるピール強度において、高温リフロー耐熱後のピール強度が耐熱前の0.40kN/mから0.28kN/mに下がっており、硬化体と導体層との接合性に問題があった。更に、比較例3のスルーホール用充填材を用いた配線基板では、リフロー炉通過後のフクレ観察においても、一部フクレが観察された。
【0097】
これに対して、実施例1〜6は、いずれも耐熱衝撃試験後の合格率が85%以上と高かった。また、硬化体と第1導体層との界面のデラミネーション及びクラックが認められなかった。また、スルーホール内壁面導体層と硬化体との間のデラミネーション及びクラック、第1導体層と第1導体層上面の絶縁層との間のデラミネーション及びクラック、絶縁層と絶縁層上面の第2導体層との間のデラミネーション及びクラック、ソルダーレジスト層とソルダーレジスト層下の導体層との間のデラミネーション及びクラック等がいずれも認められなかった。
【0098】
本発明のスルーホール用充填剤は、エポキシ樹脂と硬化剤とが相溶された樹脂とフィラーとが均一な組織で硬化される。また、高温負荷(高温リフロー)前後において硬化体とその上面の導体層との接合強度の低下が小さい。
更に、本発明のスルーホール用充填剤を用いた多層配線基板では、サーマルサイクルを課した場合にも、硬化体とその上面の導体層との間のデラミネーション及びクラックがない。また、硬化体上方の積層された絶縁層、他の導体層及びソルダーレジスト層等の各々界面においてもデラミネーション及びクラックが防止された。従って、信頼性の高い多層配線基板を確実に得ることができた。
【0099】
尚、本発明においては、上記の具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。即ち、例えば、上記実施例では、多層配線基板の導体材料としてCuを用いたが、低抵抗であり高精度な積層ができる他の金属材料を用いてもよい。更に、多層配線基板の最表面のCu導体層にはNiメッキを施し、更にその上にAuメッキを施したが、これらのメッキは施しても施さなくてもよい。また、これらのメッキ金属材料に換えて低抵抗である他の金属材料を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は電子部品関連分野において広く利用できる。また、本発明の多層配線基板は、マザーボード等の通常の配線基板、フリップチップ用配線基板、CSP用配線基板及びMCP用配線基板等の半導体素子搭載用配線基板、インターポーザー基板、アンテナスイッチモジュール用配線基板、ミキサーモジュール用配線基板、PLLモジュール用配線基板及びMCM用配線基板等のモジュール用配線基板等に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の多層配線基板の一例の一部断面を模式的に示す説明図である。
【図2】図1に示す断面におけるスルーホールの上端近傍を拡大して示す説明図である。
【図3】実施例1のスルーホール用充填剤を硬化させた硬化体表面を拡大して示す画像である。
【図4】実施例2のスルーホール用充填剤を硬化させた硬化体表面を拡大して示す画像である。
【図5】比較例1のスルーホール用充填剤を硬化させた硬化体表面を拡大して示す画像である。
【図6】比較例2のスルーホール用充填剤を硬化させた硬化体表面を拡大して示す画像である。
【符号の説明】
【0102】
100;多層配線基板、10;スルーホール、11;スルーホール内壁面導体、20;硬化体(スルーホール用充填剤が硬化されてなる)、21;硬化体のスルーホールから露出された面、30;第1導体層(硬化体のスルーホールから露出された面を覆う導体層)、40;コア基板、41;絶縁層(第1導体層の上面に接して配置された絶縁層)、42;他の絶縁層、43;レジスト層、50;第2導体層、60;ビア導体(第1導体層と第2導体層とを接続するビア導体)、61;他のビア導体、70;ハンダバンプ(ハンダ部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造内にベンゼン環を有する液状のエポキシ樹脂と硬化剤と無機フィラーとを含有し、
該硬化剤は、下記化学式(1)で示される粉末状のイミダゾール誘導体であることを特徴とするスルーホール用充填剤。
【化1】

但し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【請求項2】
上記硬化剤の平均粒径は1.5〜10μmである請求項1に記載のスルーホール用充填材。
【請求項3】
上記硬化剤の比表面積は、1.4〜6m/gである請求項1又は2に記載のスルーホール用充填剤。
【請求項4】
上記エポキシ樹脂は、少なくともビスフェノールA型エポキシ樹脂を含む2種以上のエポキシ樹脂を含有する請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
【請求項5】
上記エポキシ樹脂は、更にアミノフェノール型エポキシ樹脂を含有する請求項1乃至4のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填材。
【請求項6】
上記無機フィラーは、上記エポキシ樹脂全体を100質量部とした場合に、100〜350質量部含有される請求項1乃至5のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填材。
【請求項7】
スルーホールと、該スルーホール内を満した請求項1乃至6のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤からなる硬化体と、を備えることを特徴とする多層配線基板。
【請求項8】
上記硬化体のガラス転移点(Tg)が、165℃〜220℃である請求項7に記載の多層配線基板。
【請求項9】
更に、上記硬化体のうち上記スルーホールから露出された面を覆う第1導体層を備える請求項7又は8に記載の多層配線基板。
【請求項10】
上記配線基板を260℃、45秒間のリフローを通過させた場合の、上記硬化体に対する上記第1導体層のピール強度が、0.35〜0.50kN/mである請求項7乃至9のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
【請求項11】
上記第1導体層の上記硬化体が配置された側を下方とした場合に、
上記第1導体層の上面に接して配置された絶縁層と、該絶縁層の上面に接して配置された第2導体層と、を備え、
該絶縁層を貫通して該第1導体層と該第2導体層とを接続するビア導体を上記硬化体の上方に備える請求項7乃至10のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
【請求項12】
上記硬化体は、海島組織が認められない請求項7乃至11のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
【請求項13】
内部又は表面に、鉛含有量が5質量%以下であるハンダ部を備える請求項7乃至12のうちのいずれかに記載の多層配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−84796(P2007−84796A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220330(P2006−220330)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】