説明

ズームレンズ及びそれを有する撮像装置

【課題】広画角で長いバックフォーカスを有し、しかも動画撮影にも十分適用できる速さの自動焦点検出動作が容易なズームレンズを得る。
【解決手段】物体側から像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群L1と正の屈折力の第2レンズ群L2を有し、ズーミングに際して各レンズ群の間隔が変化するズームレンズであって、前記第1レンズ群は、正レンズと負レンズを有する負の屈折力の第1aレンズ群と、単一の負レンズにより構成される第1bレンズ群から構成され、前記第1bレンズ群を光軸方向に移動させてフォーカシングを行うズームレンズにおいて、前記第1bレンズ群の焦点距離f1b、広角端における全系の焦点距離fwを各々適切に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズームレンズ及びそれを有する撮像装置に関し、例えばデジタルカメラ、ビデオカメラ、銀塩フィルム用カメラ、監視カメラ、TVカメラ等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、撮像装置としてデジタル一眼レフレックスカメラシステム(以下、「D−SLR」という)が多く用いられている。D−SLRは、CCD、CMOSなどの撮像素子をもつカメラ本体と、撮像センサー面に光学像を形成する撮像レンズ系を備えている。最近のD−SLRは、静止画だけではなく動画を撮影する機能を備えている。D−SLRによって動画を撮影するときの自動合焦動作においては、撮像信号中の高周波成分を検出することによって撮影レンズの合焦状態を評価する、高周波検出方式(TV−AF方式)が多く用いられている。
【0003】
このTV−AF方式を用いたD−SLRでは、フォーカスレンズ群を光軸方向に高速で振動させて(以下、「ウォブリング」という)合焦状態からのズレ方向を検出する。そしてウォブリングの後、撮像センサーの出力信号から画像領域の特定の周波数帯の信号成分を検出して、合焦状態となるフォーカスレンズ群の最適位置を算出する。その後、最適位置にフォーカスレンズ群を移動させて合焦完了となる。動画撮影時はフリッカなどの違和感が生じないように、フォーカスレンズ群をウォブリング時に高速に駆動する必要がある。
【0004】
このためフォーカスレンズ群が大型で重量が重いと、フォーカスレンズ群を高速に駆動する為のモーターやアクチュエーターが大きくなってしまう。そうすると、レンズ鏡筒の最大径が大きくなってきて撮像装置全体が大型化してくる。一方、D−SLRに用いられる撮影レンズとしては撮像領域拡大のため広画角で、かつバックフォーカスが長いズームレンズであることが要望されている。広画角でバックフォーカスの長いD−SLR用のズームレンズとしては、負の屈折力のレンズ群が先行する(最も物体側に位置する)所謂ネガティブリード型のズームレンズが知られている。ネガティブリード型のズームレンズにおいて、負の屈折力の第1レンズ群の一部を光軸方向へ移動させることにより、高速のフォーカシングを容易にした広画角のズームレンズが知られている(特許文献1、2)。
【0005】
特許文献1は、物体側から像側へ順に、負、正、負、正の屈折力の第1〜第4レンズ群より成るズームレンズにおいて、第1レンズ群の一部を構成する接合レンズをフォーカスレンズ群としたズームレンズを開示している。また、特許文献2は、物体側から像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群と正の屈折力の第2レンズ群より成るズームレンズにおいて、第1レンズ群の最も物体側の負レンズをフォーカスレンズ群としたズームレンズを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−311330号公報
【特許文献2】特開平9−171139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
負の屈折力のレンズ群が先行するネガティブリード型のズームレンズは、広画角化が比較的容易であり、又長いバックフォーカスが容易に得られるという特徴がある。しかしながらネガティブリード型のズームレンズは開口絞りに対し、レンズ構成が非対称となるため、諸収差の補正が難しく、例えばフォーカスの際の収差変動が多く高い光学性能を得ることが大変難しい。
【0008】
例えば、自動合焦速度を向上するために、負の屈折力の第1レンズ群の一部を構成する小型軽量のレンズ群を移動させてフォーカスを行うと、フォーカスの際の収差変動が多くなりやすい。特に色収差の変動が大きくなり、物体距離全般にわたり高い高額性能を得るのが困難になってくる。このため、長いバックフォーカスを確保し、広画角化を図ると共に、動画撮影に適用できるように自動焦点検出動作を高速に行うためには、フォーカスレンズ群を含む負の屈折力の第1レンズ群のレンズ構成を適切に設定することが重要になってくる。負の屈折力の第1レンズ群のレンズ構成が不適切であると、広画角で、長いバックフォーカスを有し、物体距離全般にわたり高い光学性能を得ることが困難になってくる。
【0009】
本発明は、広画角で、長いバックフォーカスを有し、動画撮影にも十分適用できる速さの自動焦点検出動作が容易なズームレンズ及びそれを有する撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のズームレンズは、物体側から像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群と正の屈折力の第2レンズ群を有し、ズーミングに際して各レンズ群の間隔が変化するズームレンズであって、前記第1レンズ群は、正レンズと負レンズを有する負の屈折力の第1aレンズ群と、単一の負レンズにより構成される第1bレンズ群から構成され、前記第1bレンズ群を光軸方向に移動させてフォーカシングを行うズームレンズにおいて、前記第1bレンズ群の焦点距離をf1b、広角端における全系の焦点距離をfwとするとき、
−0.4<fw/f1b<−0.1
なる条件式を満足することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、広画角で、長いバックフォーカスを有し、しかも動画撮影にも十分適用できる速さの自動焦点検出動作が容易なズームレンズが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1のズームレンズの広角端と望遠端におけるレンズ断面図とズーミングの際の移動軌跡の説明図である。
【図2】本発明の実施例1のズームレンズの広角端における収差図である。
【図3】本発明の実施例1のズームレンズの望遠端における収差図である。
【図4】本発明の実施例2のズームレンズの広角端と望遠端におけるレンズ断面図とズーミングの際の移動軌跡の説明図である。
【図5】本発明の実施例2のズームレンズの広角端における収差図である。
【図6】本発明の実施例2のズームレンズの望遠端における収差図である。
【図7】本発明の撮像装置の要部概略図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明のズームレンズ及びそれを有する撮像装置の実施の形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。本発明のズームレンズは、物体側から像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群と正の屈折力の第2レンズ群を有し、ズーミングに際して各レンズ群の間隔が変化する。第1レンズ群は、正レンズと負レンズを有する負の屈折力の第1aレンズ群と、単一の負レンズにより構成される第1bレンズ群により構成されている。そして、第1bレンズ群を光軸方向に移動させることによってフォーカシングが行われる。
【0014】
図1(A)、(B)はそれぞれ本発明の実施例1のズームレンズの広角端(短焦点距離端)、望遠端(長焦点距離端)におけるレンズ断面図である。図2(A)、(B)はそれぞれ実施例1のズームレンズの広角端において無限遠物体と至近距離物体(撮影距離280mm)に合焦したときの収差図である。図3(A)、(B)はそれぞれ本発明の実施例1のズームレンズの望遠端において無限遠物体と至近距離物体(撮影距離280mm)に合焦したときの収差図である。図4(A)、(B)はそれぞれ実施例2のズームレンズの広角端、望遠端におけるレンズ断面図である。
【0015】
図5(A)、(B)はそれぞれ実施例2のズームレンズの広角端において無限遠物体と至近距離物体(撮影距離150mm)に合焦したときの収差図である。図6(A)、(B)はそれぞれ本発明の実施例2のズームレンズの望遠端において無限遠物体と至近距離物体(撮影距離150mm)に合焦したときの収差図である。図7は本発明のズームレンズを備える一眼レフカメラ(撮像装置)の要部概略図である。
【0016】
各実施例のズームレンズはビデオカメラやデジタルカメラそして銀塩フィルムカメラ等の撮像装置に用いられる撮影レンズ系(光学系)である。レンズ断面図において、左方が物体側(前方)で、右方が像側(後方)である。レンズ断面図において、iは物体側からのレンズ群の順番を示し、Liは第iレンズ群である。Sは開口絞りである。SSはFナンバー絞り(副絞り)である。Iは像面であり、ビデオカメラやデジタルスチルカメラの撮影光学系として使用する際にはCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)の撮像面に、銀塩フィルム用カメラのときはフィルム面に相当する。
【0017】
矢印は広角端から望遠端へのズーミングにおける各レンズ群の移動軌跡を示している。球面収差図はd線(実線)、g線(2点鎖線)、点線(正弦条件)について示している。非点収差図においてM、Sはd線でのメリディオナル像面、サジタル像面である。FnoはFナンバー、ωは半画角である。尚、以下の各実施例において広角端と望遠端は変倍用レンズ群が機構上光軸上を移動可能な範囲の両端に位置したときのズーム位置をいう。
【0018】
図1の実施例1のズームレンズは、物体側から像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群L1、正の屈折力の第2レンズ群L2、負の屈折力の第3レンズ群L3、正の屈折力の第4レンズ群L4からなる。第1レンズ群L1は、物体側から順に、負の屈折力の第1aレンズ群L1aとフォーカス用の負の屈折力の第1bレンズ群L1bから構成されている。第1aレンズ群L1aは物体側から像側へ順に、物体側の面が凸でメニスカス形状の負レンズ、物体側の面が凸でメニスカス形状の負レンズ、正レンズから構成されている。第1bレンズ群L1bは、単一の負レンズにより構成されている。
【0019】
第2レンズ群L2は、物体側から像側へ順に、負レンズと正レンズとを接合した接合レンズ、正レンズから構成される。第3レンズ群L3は、物体側から像側へ順に、開口絞りS、負レンズと正レンズとを接合した接合レンズから構成される。第4レンズ群L4は、物体側から像側へ順に、正レンズ、負レンズと正レンズとを接合した接合レンズから構成される。
【0020】
本実施例において広角端から望遠端へのズーミングに際し、第1レンズ群L1は一度像側へ移動後、物体側へ移動する。即ち像側に凸状の軌跡の一部を描いて移動する。第2、第3、第4レンズ群は互いに独立に物体側へ移動する。具体的には、第2レンズ群L2は物体側へ単調に移動する。第3レンズ群L3は開口絞りSと一体的に第2レンズ群L2と第3レンズ群L3の間隔が広がるように物体側へ移動する。第4レンズ群L4は第3レンズ群L3と第4レンズ群L4の間隔が狭まるように物体側へ移動する。フォーカシングは、第1レンズ群L1内の第1bレンズ群L1bを光軸方向に移動させて行う。
【0021】
実施例1では広角端から望遠端へのズーミングの際、第2、第3、第4レンズ群L2、L3、L4で変倍を行い、変倍によって移動する像面を、第1レンズ群L1の移動によって補正している。ズーミングに際して4つのレンズ群が移動することで、必要なズーム比を容易に得るとともに、ズーミングによる諸収差の変動を抑えている。図4の実施例2のズームレンズ系は、物体側から像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群L1、正の屈折力の第2レンズ群L2からなる。
【0022】
第1レンズ群L1は、物体側から像側へ順に、負の屈折力の第1aレンズ群L1aと、フォーカス用の負の屈折力の第1bレンズ群L1bから構成されている。第1aレンズ群は物体側から像側へ順に、物体側の面が凸でメニスカス形状の負レンズ、物体側の面が凸でメニスカス形状の負レンズ、負レンズ、正レンズから構成されている。第1bレンズ群L1bは単一の負レンズにより構成される。第2レンズ群L2は、物体側から像側へ順に、副絞りSS、正レンズ、開口絞りS、負レンズと正レンズを接合した接合レンズ、正レンズと負レンズを接合した接合レンズ、正レンズ、負レンズと正レンズとを接合した接合レンズ、正レンズから構成される。
【0023】
本実施例においてズーミングは、第1レンズ群L1と第2レンズ群L2の光軸上での間隔を変化させて行っている。フォーカシングは、第1レンズ群L1内の第1bレンズ群L1bを光軸方向に移動させて行う。実施例2では、広角端から望遠端へのズーミングの際、第2レンズ群L2を単調に物体側へ移動させて変倍を行い、変倍によって移動する像面を第1レンズ群L1の像側への凸状の軌跡の一部の移動によって補正している。
【0024】
各実施例のズームレンズは、負の屈折力の第1レンズ群L1を、負の屈折力の第1aレンズ群L1aと負の屈折力の第1bレンズ群L1bより構成している。そして第1bレンズ群L1bを光軸上移動させてフォーカスを行っている。
【0025】
まず、フォーカシングの際の色収差の変動を抑えるため、第1aレンズ群L1aが正レンズと負レンズを含むようにして色収差の発生を抑えている。フォーカスレンズ群を第1aレンズ群L1aよりも像側に配置することにより軸外光束の影響を抑える構成としている。また、負の屈折力の第1aレンズ群L1aより発散光束となっている軸上光束の影響を抑える為、負の屈折力の第1bレンズ群L1bを、物体側に凹面を向けた単一の負レンズにより構成し、球面収差、コマ収差等の変動を抑えている。そして第1bレンズ群L1bの焦点距離をf1b、広角端における全系の焦点距離をfwとする。このとき、
−0.4<fw/f1b <−0.1 ・・・(1)
なる条件式を満足している。
【0026】
条件式(1)は、フォーカスレンズ群L1bの焦点距離と広角端における全系の焦点距離の比について規定している。条件式(1)の上限を超えるとフォーカスレンズ群の負の屈折力が弱くなり、フォーカシングに必要な移動量が大きくなり、全系が大きくなってしまうので良くない。条件式(1)の下限を超えると、フォーカスレンズ群の屈折力が強くなりすぎて、フォーカシングによる収差の変動が大きくなってしまうので良くない。更に好ましくは、条件式(1)の数値範囲を次の如く設定するのが好ましい。
【0027】
−0.4<fw/f1b <−0.15 ・・・(1a)
以上のように各実施例によれば、フォーカスレンズ群が十分に軽量で、またフォーカシングによる収差(特に色収差)の変動が少なく、動画撮影に良好なズームレンズが得られる。
【0028】
各実施例によればネガティブリード型のズームレンズにおいて、前述の如く第1レンズ群L1のレンズ構成を最適化している。これにより、広画角で、フォーカシングの際の色収差を良好に補正し、高い光学特性を有するズームレンズを得ている。各実施例のズームレンズにおいて、更に広画角化を図りつつ、フォーカシングの際の収差変動を少なくし、良好な光学性能を得るためには、次の諸条件のうち1以上を満足するのが良い。第1aレンズ群の物体側から第i番目の正レンズの部分分散比をθgfpi、焦点距離をfpi、第i番目の負レンズの部分分散比をθgfni、焦点距離fniとするとき、
Qp=Σ(θgfpi/fpi)/ Σ(1/fpi)
Qn=Σ(θgfni/fni)/ Σ(1/fni)
とする。
【0029】
第1bレンズ群L1bの負レンズの物体側のレンズ面の曲率半径をr1、像側のレンズ面の曲率半径をr2とする。広角端におけるレンズ全長をLw、バックフォーカスをBKとする。第1bレンズ群L1bの軸上の厚みをDf、全系の各レンズの軸上での厚みの総和をΣDとする。このとき、
|Qp−Qn|≦0.1 ・・・(2)
−2.0≦(r1−r2)/(r1+r2)≦−0.3 ・・・(3)
2< Lw/BK <5 ・・・(4)
0.01<Df/ΣD<0.10 ・・・(5)
なる条件式のうち1以上を満足するのが良い。
【0030】
次に前述の各条件式の技術的意味について説明する。フォーカシングにおいては色収差の変動を低減することが重要となる。色収差の変動を抑えるには、第1aレンズ群L1aでの色収差の発生を抑え、フォーカス用のレンズユニットL1bを軸外光束の光軸からの距離が短い位置に配置することが好ましい。そのため、第1aレンズ群L1aを次の如く構成している。
【0031】
条件式(2)は、第1aレンズ群L1aを構成する正レンズと負レンズの材料の部分分散比と各レンズの焦点距離に関し、主に色収差を抑えるための硝材選択について規定している。条件式(2)の上限を超えると、第1aレンズ群L1aでの色収差の発生が大きくなり、フォーカシングによる色収差の変動が大きくなってしまう。更に好ましくは、条件式(2)を次の如く設定することが好ましい。
【0032】
|Qp−Qn|≦0.07 ・・・(2a)
色収差以外の収差、特に、球面収差やコマ収差といった軸上光束に起因する収差の変動を抑えるには、フォーカスレンズ群に入射する軸上光束の入射角がフォーカシングに際してあまり変化しないことが重要である。つまり、発散光束である場合は、物体側のレンズ面が凹形状の負レンズであることが好ましい。そのため条件式(3)は、第1bレンズ群L1bを構成する負レンズ(負のレンズユニット)のレンズ形状について規定している。
【0033】
条件式(3)の上限を超えると、レンズ形状としては収差が発生しづらいが屈折力が少なくなり、フォーカシングの際の移動量が大きくなり、ズームレンズが大きくなってしまう。条件式(3)の下限を超えると、軸上光束の入射角がフォーカシングに伴って大きく変化し、収差の変動が大きくなる。更に好ましくは、条件式(3)の数値範囲を次の如く設定することが好ましい。
【0034】
−1.5≦(r1−r2)/(r1+r2)≦−0.7 ・・・(3a)
条件式(4)は長いバックフォーカスを確保しつつ、ズームレンズ全体の小型化を図るため、広角端における全系の長さ(レンズ全長)(第1レンズ面から像面までの長さ)とバックフォーカスについて規定している。条件式(4)の上限を超えると、レンズ全長が長くなり前玉有効径が大きくなってしまう。また、条件式(4)の下限を超えると、各レンズ群の屈折力が強くなり収差補正が困難になる。更に好ましくは、条件式(4)の数値範囲を次の如く設定することが好ましい。
【0035】
2.2< Lw/BK <4.0 ・・・(4a)
条件式(5)は、第1bレンズ群L1bの光軸上の厚さについて規定している。条件式(5)の上限を超えると、レンズ群が大型化し、また重量も重くなり高速のフォーカスが困難となる。条件式(5)の下限を超えると、第1bレンズ群L1bの中心肉厚が薄くなり製造が困難となる。更に好ましくは、条件式(5)の数値範囲を次の如く設定することが好ましい。
【0036】
0.025<Df/ΣD<0.050 ・・・(5a)
各実施例において第1aレンズ群L1aと第1bレンズ群L1bの間の空気レンズは、像側に凸状のレンズ面同士で構成され双方のレンズ面の曲率半径も近くなる傾向にある。そのため、第1bレンズ群L1bは少なくとも1面以上の非球面を有するのが良い。具体的には第1bレンズ群L1bの最も物体側の面を非球面形状とするのが良く、これによればフォーカシングの際の像面の変動を抑えるのが容易となる。
【0037】
本発明のズームレンズは、物体側より像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群を有し、ズーミングの際に各レンズ群の間隔が変化するズームレンズであれば良い。本発明のズームレンズにおいて、第1レンズ群L1の物体側又は最終レンズ群の像側の少なくとも一方にコンバーターレンズやアフォーカルレンズ群等の屈折力のあるレンズ群が位置していても良い。
【0038】
以上のように各実施例によれば、フォーカスレンズ群がコンパクトでフォーカシングの際の諸収差変動(特に色収差変動)が少なく、高い光学性能を有したズームレンズが得られる。更にズームレンズを有する交換レンズ装置、及びそれを有する撮像装置が得られる。
【0039】
次に実施例1、2に示したズームレンズを撮像装置に適用した実施例を図7を用いて説明する。本発明の撮像装置はズームレンズを含む交換レンズ装置と、交換レンズ装置とカメラマウント部を介して着脱可能に接続され、ズームレンズが形成する光学像を受光して、電気的な画像信号に変換する撮像素子を含むカメラ本体とを備えている。
【0040】
図7は一眼レフカメラの要部概略図である。図7において、10は実施例1、2のズームレンズ1を有する撮影レンズである。ズームレンズ1は保持部材である鏡筒2に保持されている。20はカメラ本体であり、撮影レンズ10からの光束を上方に反射するクイックリターンミラー3、撮影レンズ10の像形成位置に配置された焦点板4より構成されている。更に、焦点板4に形成された逆像を正立像に変換するペンタダハプリズム5、その正立像を観察するための接眼レンズ6などによって構成されている。
【0041】
7は感光面であり、CCDセンサやCMOSセンサ等のズームレンズによって形成される像を受光する固体撮像素子(光電変換素子)や銀塩フィルムが配置される。撮影時にはクイックリターンミラー3が光路から退避して、感光面7上に撮影レンズ10によって像が形成される。実施例1、2にて説明した利益は、本実施例に開示したような撮像装置において効果的に享受される。
【0042】
以下に実施例1、2に対応する数値実施例1、2を示す。各数値実施例においてiは物体側からの面の順番を示す。数値実施例においてriは物体側より順に第i番目のレンズ面の曲率半径、diは物体側より順に第i番目のレンズ厚及び空気間隔、ndiとνdiは各々物体側より順に第i番目のレンズの材料の屈折率とアッベ数である。BFはバックフォーカスである。非球面形状は光軸方向にX軸、光軸と垂直方向にH軸、光の進行方向を正とし、rを近軸曲率半径、各非球面係数をA4、A6、A8、A10、A12としたとき
【0043】
【数1】

【0044】
で与えるものとする。各非球面係数において「e−x」は「10-x」を意味する。前述の各条件式と数値実施例の関係を表−1に示す。
【0045】

(数値実施例1)
単位 mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径
1 85.814 3.50 1.58313 59.4 51.83
2* 12.150 12.84 31.65
3* 82.577 1.07 1.83481 42.7 30.63
4 24.728 1.76 28.27
5 24.951 7.72 1.64769 33.8 28.42
6 -84.939 4.70 27.41
7* -48.110 1.80 1.74100 52.6 22.43
8 791.370 (可変) 21.21
9 31.901 0.89 1.90366 31.3 20.84
10 19.866 5.77 1.49700 81.5 20.67
11 -50.208 0.15 21.07
12 37.448 2.95 1.67790 55.3 21.45
13 -166.162 (可変) 21.28
14(絞り) ∞ 1.46 19.02
15 -55.849 0.90 1.60311 60.6 18.78
16 19.715 1.73 1.80809 22.8 18.41
17 26.931 (可変) 18.20
18 21.636 6.77 1.59282 68.6 21.00
19 -31.620 0.20 21.16
20* -76.613 0.84 1.85400 40.4 20.81
21 16.324 8.88 1.48749 70.2 21.03
22 -37.172 (可変) 22.79
像面 ∞

非球面データ
第2面
K =-5.73958e-001 A 4=-3.31917e-006 A 6=-2.25126e-008 A 8=-3.99746e-011

第3面
K = 0.00000e+000 A 4=-1.96859e-006 A 6=-1.73017e-008 A 8= 5.23762e-011 A10=-1.15220e-015

第7面
K = 0.00000e+000 A 4= 3.98392e-006 A 6= 7.81336e-009 A 8=-6.88826e-011

第20面
K = 0.00000e+000 A 4=-1.71627e-005 A 6=-1.36689e-008 A 8=-3.49811e-011 A10= 3.08747e-013

各種データ
広角 中間 望遠
焦点距離 17.64 23.00 39.05
Fナンバー 2.64 3.04 4.10
画角 50.80 43.25 28.99
像高 21.64 21.64 21.64
レンズ全長 134.67 132.15 136.70
BF 39.97 48.70 64.95

d 8 17.73 9.75 1.06
d13 1.24 1.26 5.84
d17 11.79 8.50 0.92
d22 39.97 48.70 64.95

ズームレンズ群データ
群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 -19.62 33.38 5.48 -18.75
2 9 25.99 9.76 3.64 -2.82
3 14 -32.75 4.09 2.75 -0.21
4 18 39.96 16.70 2.77 -9.19

【0046】
(数値実施例2)
単位 mm

面データ
面番号 r d nd νd 有効径
1 59.840 2.50 1.80400 46.6 61.87
2 17.282 14.64 34.15
3 129.723 1.61 1.59282 68.6 32.59
4 21.610 6.44 27.39
5 -86.935 1.36 1.59282 68.6 27.10
6 31.102 0.15 25.84
7 22.525 7.45 1.80518 25.4 26.07
8 -110.226 5.82 24.72
9* -31.089 1.20 1.85135 40.1 17.80
10 -844.340 (可変) 17.08
11 ∞ 1.46 10.26
12 43.413 1.62 1.88300 40.8 10.87
13 -94.260 1.85 10.94
14(絞り) ∞ 1.70 10.95
15 -19.292 0.75 1.88300 40.8 10.96
16 32.493 3.22 1.51823 58.9 11.53
17 -20.261 0.20 12.31
18 194.716 4.25 1.48749 70.2 12.74
19 -12.377 0.80 1.88300 40.8 13.21
20 -27.182 0.20 13.96
21 712.893 3.28 1.59270 35.3 14.77
22 -21.620 0.35 15.87
23 -60941.798 0.93 1.83400 37.2 16.91
24 28.231 4.77 1.49700 81.5 17.60
25 -34.279 0.20 18.70
26 -80910.795 1.68 1.48749 70.2 19.49
27 -87.072 (可変) 19.87
像面 ∞

非球面データ
第9面
K = 0.00000e+000 A 4=-6.64162e-006 A 6= 2.58871e-008 A 8=-8.99837e-010 A10= 1.12233e-011 A12=-5.07106e-014

各種データ
広角 中間 望遠
焦点距離 8.05 11.85 15.14
Fナンバー 4.12 4.12 4.12
画角 175 175 175
像高 11.15 16.77 21.64
レンズ全長 129.57 127.26 129.98
BF 40.25 49.58 57.66

d10 20.89 9.25 3.89
d27 40.25 49.58 57.66

ズームレンズ群データ
群 始面 焦点距離 レンズ構成長 前側主点位置 後側主点位置
1 1 -10.91 41.17 10.51 -15.41
2 11 26.80 27.26 15.90 -6.32


以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。次に各条件式に対しての値を表(3)に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
L1 第1レンズ群 L2 第2レンズ群 L3 第3レンズ群
L4 第4レンズ群 L1a 第1aレンズ群 L1b 第1bレンズ群
S 虹彩絞り SS 副絞り I 像面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群と正の屈折力の第2レンズ群を有し、ズーミングに際して各レンズ群の間隔が変化するズームレンズであって、
前記第1レンズ群は、正レンズと負レンズを有する負の屈折力の第1aレンズ群と、単一の負レンズにより構成される第1bレンズ群から構成され、前記第1bレンズ群を光軸方向に移動させてフォーカシングを行うズームレンズにおいて、
前記第1bレンズ群の焦点距離をf1b、広角端における全系の焦点距離をfwとするとき、
−0.4<fw/f1b <−0.1
なる条件式を満足することを特徴とするズームレンズ。
【請求項2】
前記第1aレンズ群の物体側から第i番目の正レンズの部分分散比をθgfpi、焦点距離をfpi、第i番目の負レンズの部分分散比をθgfni、焦点距離fniとし、
Qp=Σ(θgfpi/fpi)/ Σ(1/fpi)
Qn=Σ(θgfni/fni)/ Σ(1/fni)
とおいたとき、
|Qp−Qn|≦0.1
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1のズームレンズ。
【請求項3】
前記第1bレンズ群の負レンズの物体側のレンズ面の曲率半径をr1、像側のレンズ面の曲率半径をr2とするとき、
−2.0≦(r1−r2)/(r1+r2)≦−0.3
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1又は2のズームレンズ。
【請求項4】
広角端におけるレンズ全長をLw、バックフォーカスをBKとするとき、
2< Lw/BK <5
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項のズームレンズ。
【請求項5】
前記第1bレンズ群の光軸上の厚みをDf、全系の各レンズの光軸上の厚みの総和をΣDとするとき、
0.01<Df/ΣD<0.10
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項のズームレンズ。
【請求項6】
前記ズームレンズは、物体側より像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群、負の屈折力の第3レンズ群、正の屈折力の第4レンズ群より構成され、
広角端から望遠端へのズーミングに際し、前記第1レンズ群は像側に凸状の軌跡の一部を描いて移動し、前記第2、第3、第4レンズ群は互いに独立に物体側へ移動することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項のズームレンズ。
【請求項7】
前記ズームレンズは、物体側から像側へ順に、負の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群より構成され、広角端から望遠端へのズーミングに際して、前記第1レンズ群は像側に凸の軌跡の一部を描いて移動し、前記第2レンズ群は物体側に単調に移動することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項のズームレンズ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項のズームレンズを含む交換レンズ装置と、前記交換レンズ装置とカメラマウント部を介して着脱可能に接続され、前記ズームレンズが形成する光学像を受光して、電気的な画像信号に変換する撮像素子を含むカメラ本体とを備えることを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−42792(P2012−42792A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184920(P2010−184920)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】