説明

セクタ駆動機構

【課題】連写時のシャッタ速度の向上、シャッタ速度のバラツキを低減することができるセクタ駆動機構を提供する。
【解決手段】4磁極を有するロータと、第1のコイルにより励磁される第1磁極、第2のコイルにより励磁される第2磁極並びに前記第1及び第2のコイルにより励磁される第3磁極とを含んだC字状のステータとを備えた電磁アクチュエータと、前記第1のコイル及び前記第2のコイルへ供給する電流を制御する電流制御手段と、前記電磁アクチュエータに接続され、基板に形成したシャッタ開口を開閉するセクタと、前記ロータの回転を前記セクタに伝達し、当該セクタを駆動するための駆動部と、当該駆動部の移動範囲を規制する規制部材と、を含み、前記電流制御手段は、前記ロータを回転させて前記駆動部を前記規制部材に向かわせる駆動パルスに当該駆動パルスとは逆向きの逆転パルスを付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラに内蔵されるセクタ駆動機構に関し、特に電磁アクチュエータを用いてセクタを効率よく駆動させることができるセクタ駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラは電子化されており、電磁アクチュエータを用いてセクタの駆動を行うようになっている。この種のカメラではセクタであるシャッタ羽根や絞り羽根を無通電時でも保持できる構成を備えていることが望ましい。例えば特許文献1では、コイルの無通電時にロータが振れを生じることなく所定位置にくるようにロック力を与える磁性部材を設けた電磁アクチュエータを開示している。このような電磁アクチュエータであれば、モータ停止時にロータを正確な位置に停止させることができ、また電力消費を抑制できる。
【0003】
また、カメラに採用するセクタ駆動装置に関しては、必要な時に絞り羽根やシャッタ羽根等の駆動部分を素早く駆動することが望まれる。例えば、特許文献2では、絞り開閉機構の最終停止位置の近くまで2相励磁方式により迅速に駆動し、その後の最終停止位置までの僅かな部分を1−2相励磁方式とする電磁アクチュエータの駆動方法を提案している。この提案によると、所要の絞り値まで短時間で絞り込むことができるのでタイムラグの減縮が可能となり、完了時の絞り値の精度が向上する。
【0004】
【特許文献1】特開2001−61268号 公報
【特許文献2】特開平11−18492号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1で開示する電磁アクチュエータは、ロータにロック力を与えるために新たに磁性部材を配置する必要がある。そのため、ステータ側に新たな部材を加えたり、複雑な加工を施したりするのでモータの構造が複雑化し、その結果として製造コストが増加するという問題がある。また、上記特許文献2で開示する駆動方法は、従来の一般的な2相励磁型の電磁アクチュエータを用いた場合について精度よい位置制御を行うための技術を提案する。しかし、この特許文献2で開示する駆動方法では、絞り開閉機構を駆動している最中に電磁アクチュエータを2相励磁状態から1−2相励磁状態へと切換えるので、そのためのデータ作成や制御系が複雑化してコストが増加するという問題がある。
【0006】
さらに、昨今のカメラは連続撮影機能、いわゆる連写機能を搭載したものがあるが、この連写機能の向上には、アクチュエータの制御指令に対してセクタ動作が高精度に応答、追随することが求められる。ここで、連写機能の向上にはシャッタ速度の向上とシャッタ速度のバラツキの低減が含まれる。ところが、シャッタ開口の開閉のためにセクタの回転方向が転換される際にセクタ動作が安定せず、応答遅れが生じるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、精度良く効率的にセクタ駆動が行え、特に、連写時のシャッタ速度の向上、シャッタ速度のバラツキの低減を図ることができるセクタ駆動機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決する、本発明のセクタ駆動機構は、4磁極を有するロータと、第1のコイルにより励磁される第1磁極、第2のコイルにより励磁される第2磁極並びに前記第1及び第2のコイルにより励磁される第3磁極とを含んだC字状のステータとを備えた電磁アクチュエータと、前記第1のコイル及び前記第2のコイルへ供給する電流を制御する電流制御手段と、前記電磁アクチュエータに接続され、基板に形成したシャッタ開口を開閉するセクタと、前記ロータの回転を前記セクタに伝達し、当該セクタを駆動するための駆動部と、当該駆動部の移動範囲を規制する規制部材と、を含み、前記電流制御手段は、前記ロータを回転させて前記駆動部を前記規制部材に向かわせる駆動パルスに当該駆動パルスとは逆向きの逆転パルスを付加することを特徴としている(請求項1)。本発明のセクタ駆動機構は、第1磁極、第2磁極、第3磁極の組み合わせを種々制御することによりシャッタ開口の全開状態、全閉状態、小絞り状態を実現することができる。例えば、前記ロータの回転を前記セクタに伝達し、当該セクタを駆動するための駆動部の移動範囲を規定し、その移動範囲の一端側を全開状態、中立付近を全閉状態、他端側を小絞り状態となるように設定することができる。このような設定とした場合、全開状態とした際又は小絞り状態とした際に前記駆動部又は前記セクタが前記規制部材と衝突してバウンドし、セクタの動作が不安定となることが懸念される。そこで、本発明のセクタ駆動機構では、前記電流制御手段は、前記ロータを回転させて前記駆動部を前記規制部材に向かわせる駆動パルス、すなわち、全開状態や小絞り状態とするための駆動パルスに当該駆動パルスとは逆向きの逆転パルスを付加する構成としている。
このような構成とすることにより、前記駆動部又は前記セクタが前記規制部材に衝突するときの勢いを低減し、衝突時の衝撃を緩和することができ、ひいてはセクタの安定した動作を確保することができる。セクタの安定した動作を確保することができると連写機能の向上を図ることができる。すなわち、連写時のシャッタ速度の向上と、シャッタ速度のバラツキの低減を図ることができる。なお、前記駆動部はロータの回転を前記セクタに伝達し、当該セクタを駆動するためのものであれば、その形状、配置等は問わない。また、前記駆動部はロータと一体であってもよい。
【0009】
このようなセクタ駆動機構では、一回の前記駆動パルスに対し、複数個の前記逆転パルスを付加する構成とすることができる(請求項2)。
この構成により、前記駆動部が前記規制部材に衝突するときの勢いを確実に低減し、衝突時の衝撃を効果的に緩和することができ、また連写機能の向上を図ることができる。すなわち、前記駆動部が前記規制部材と衝突して起こるバウンドをより効果的に緩和、抑制することができ、連写時のシャッタ速度をより向上させ、さらにシャッタ速度のバラツキの低減を図ることができる。また、前記セクタ形状や前記規制部材の位置によりバウンドの発生タイミングが異なるため、各セクタ駆動機構に最適な前記逆転パルスを付加できるように、そのタイミング、長さは適宜調節することができる。また、前記複数個の逆転パルスを使用することにより、多種類のタイミング、長さで逆転パルスを付加することができるので、より多くの前記セクタ形状および前記規制部材の位置が異なるセクタ駆動機構で、バウンドを効果的に緩和、抑制することができ、連写時のシャッタ速度を向上させ、シャッタ速度のバラツキの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、シャッタ開口を開閉するセクタの動作、特にシャッタ開口を閉じた状態から開いた状態にするときのセクタの動作を安定させるようにしたので、連写時のシャッタ速度の向上と、シャッタ速度のバラツキの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る一実施形態のセクタ駆動機構について図面を参照して説明する。以下では、先ず本セクタ駆動機構に採用することが好ましい電磁アクチュエータについて説明し、その後に本セクタ駆動機構の全体構成とその動作について説明する。
【0012】
図1は、実施形態のセクタ駆動機構で採用する電磁アクチュエータ1の主要部構成を示した図である。電磁アクチュエータ1は、中央に配置した両方向に回転可能なロータ2及びこのロータ2の外側に対向するように配置したステータ3を備えている。ロータ2は断面円形で円筒形状を成している。ステータ3は平面形状がC字状で一体型に形成されている。ロータ2はその大部分がステータ3によって囲まれた空間内に存するように配置される。
【0013】
ここで、C字状とは、文字Cに近似した形状ばかりでなく、円、楕円、多角形等のように閉じた図形の一部が開裂された形状を含む広い概念である。よって、図1に示したステータ3の場合は、四角形一辺の一部を切り欠いたような形状となっている。なお、図1ではステータ3の開放側、すなわち両端部を上側に配置した状態で電磁アクチュエータ1を示している。
【0014】
ロータ2は、N磁極及びS磁極をそれぞれ2個ずつ備えた4磁極構成である。このロータ2は、同一磁極が互いに対向する位置に着磁された永久磁石であり、軸21回りに両方向へ回動自在に設定されている。上記C字状を有するステータ3の両端部は、ロータ2の周面に対向するように形成されている。これらのそれぞれが第1磁極11、第2磁極12となる。そして、この第1磁極11及び第2磁極12の中間位置に第3磁極13が配置されている。
【0015】
上記第1磁極11と第3磁極13との間には第1のコイル4が、第2磁極12と第3磁極13との間には第2のコイル5が、それぞれ巻回されている。第1磁極11は第1のコイル4が通電されたときに励磁され、第2磁極12は第2のコイル5が通電されたときに励磁される。これに対して、第3磁極13は第1のコイル4及び第2のコイル5の両方によって励磁される。よって、第3磁極13の励磁状態は、第1のコイル4及び第2のコイル5への通電状態を組み合わせた状態が見た目の状態として現れる。
【0016】
また、電磁アクチュエータ1はロータ2の回転を制御するために電流制御手段として電流制御回路25が第1のコイル4及び第2のコイル5に接続されている。この電流制御回路25からパルス状の電流(駆動パルス)が第1のコイル4及び第2のコイル5に供給され、これらを励磁する。図示するように、電流制御回路25から第1のコイル4には所定波形の電流Vo1が入力され、これと対称波形となるVo2が出力される。同様に、第2のコイル5には電流Vo3が入力され、これと対称波形となるVo4が出力される。後述するように、この電流制御回路25から第1のコイル4及び第2のコイル5へ供給する駆動パルスにより、電磁アクチュエータ1が回転駆動される。そして、この電磁アクチュエータ1に接続されたセクタがステップ駆動されることになる。
【0017】
電流制御回路25から両コイル4,5に供給する電流の供給方向を適宜に切換えることで、発生する磁界を変更してロータ2の回転駆動を制御できる。電流制御回路25から供給する電流の向きによって、第1磁極11及び第2磁極12を共に同じ磁極に励磁する状態と、互いに異なる磁極に励磁する状態とを形成できる。このとき第3磁極13に結果として現れる磁界は、第1磁極11及び第2磁極12が共に同じ磁極に励磁された場合には、これらよりも強力なものとなる。その逆に、第1磁極11及び第2磁極12が互いに異なる磁極に励磁された場合には、第3磁極13での磁化は相殺されて無磁化状態となる。ロータ2が回動する様子については、後に図を参照してより詳細に説明する。
【0018】
この電磁アクチュエータ1はロータ2が4磁極構成であり、特に第1のコイル4及び第2のコイル5への通電を行わない無通電状態で、十分なディテントトルクを得られる構造を備えている。この点について説明する。電磁アクチュエータ1では、ロータ2の周表面と第1磁極11及び第2磁極12との間の間隔は、同じギャップdとされている。このギャップdは、ロータ2側の磁極との間で十分な磁気的吸引力が得られる狭い距離を持って設定されている。これに対し、ロータ2の周表面と第3磁極13との間のギャップDは、このギャップdよりも大きく設定されている。このギャップDは、第3磁極13とロータ2との間で発生する磁気的吸引力が、第1磁極11及び第2磁極12とロータ2との間で発生する磁気的吸引力と同等となる距離を持って設定される。例えば、ギャップDは、ギャップdの1.3倍程度にされる。
【0019】
上記構成では、第1磁極11、第2磁極12及び、第3磁極13がロータ2との磁気的関係が同程度となる構造が実現される。よって、無通電状態では、図1でその状態を例示するように、ロータ2側の2極が第1磁極11及び第2磁極12のそれぞれにちょうど対向した位置で安定する。電磁アクチュエータ1では、無通電時に互いに磁気的吸引する場所が3箇所存在しており、強力なディテントトルクを得ることができる。よって、本電磁アクチュエータ1は無通電状態でロータを所定位置に安定保持できる。
【0020】
さらに、図2を参照して、電磁アクチュエータ1のロータ2が回転する際の様子を説明する。電磁アクチュエータ1は、第1のコイル4及び第2のコイル5を励磁する2相励磁によりロータ2を回転させる。図2に示す各コイル4、5への電流供給は、図1に示した電流制御回路25により行なわれるが、これらの図では図示を省略している。
【0021】
図2は、第1のコイル4及び第2のコイル5を励磁して、ステップ角45°でロータ2を時計方向(右回転方向)に回転する場合を示している。図2(a)はコイル4、5が無通電である状態を示している。図2(b)から(e)では、コイル4、5へ供給する電流を制御してロータ2を時計方向に回転させる場合を時系列で示している。図2(a)は、コイル4、5に通電されておらず第1磁極11、第2磁極12及び第3磁極13は励磁されない無磁化の状態であるが、前述したようにロータ2のN、S磁極のそれぞれは強いディテントトルクで第1、第2磁極11、12の対向位置に保持される。
【0022】
図2(b)は、図2(a)の状態から第1及び第2のコイル4、5に通電され、第1磁極11及び第2磁極12が共にS極に励磁された場合を示している。この(b)の状態は第3磁極13となるN極が倍化して励磁されるので、(a)の状態から(b)の状態に確実に移行する。つぎに示す、図2(c)では、図2(b)の状態から第1磁極11の励磁状態がS極に維持され、第2磁極12が逆のN極に励磁された場合を示している。このとき第3磁極13にはN極とS極が励磁されるので相殺し合って無磁化状態となる。以下同様に、図2(d)では、図2(c)の状態から第1磁極11及び第2磁極12が共にN極に励磁された場合を示している。この(d)の状態はちょうど(b)の状態と逆であり、第3磁極13となるS極が倍化して励磁されるので、(c)の状態から(d)の状態に確実に移行する。
【0023】
次に、図2(e)では、図2(d)の状態から第1磁極11の励磁状態がN極に維持され、第2磁極12が逆のS極に励磁された場合を示している。このとき第3磁極13にはN極とS極が励磁されるので相殺し合って無磁化状態となる。図2においては、上記説明から明らかなように、ステータ2側の磁極11,12と対向する様にロータ側の磁極が位置する状態は、(a)、(c)、(e)である。その間に、中立状態となる(b)、(d)が存在する。この(b)、(d)は第3磁極13の磁力が倍加された状態である。よって、これ以前の状態から(b)又は(d)の状態に確実に移行させることができるので、(a)から(e)への回転駆動は円滑に実行される。
【0024】
上記のように、ステータ3側の各磁極11〜13の磁化状態が順次変化するのに伴って、図示するようにロータ2が時計回転方向に45°ずつ回転する。なお、図2の各図では第1、第2のコイル4、5に通電が行なわれ、45°の回転が完了した位置にあるロータ2を示している。この図2において、注目すべき点の1つとしては、無通電状態を示した図2(a)である。電磁アクチュエータ1では、第1磁極11及び第2磁極12とロータ2のギャップdを狭く形成しているので、第1磁極11及び第2磁極12とロータ2側の2磁極との間で強い磁気吸引力が生じているので、無通電であってもディテントトルクにより図2(a)の状態が確実に保持できる。
【0025】
また、図2(c)及び図2(e)で示す状態は、第1磁極11及び第2磁極12が励磁されているが、ロータ2側の2磁界が第1磁極11及び第2磁極12のそれぞれにちょうど対向しているので、仮にコイル4、5への通電を遮断しても図2(a)の場合と同様にディテントトルクによりその時の状態が保持できる。なお、図2(e)のロータ2の位置は図2(a)と同じであるから、図2(e)の状態からコイル4、5への通電を遮断すると、図2(a)の状態となる。上記のように上記電磁アクチュエータ1は、コイル4、5への無通電時に強いディテントトルクが得られるので電力消費を抑制できるという優れた構造を備えている。
【0026】
さらに、以下において図3から図6を参照して、上記電磁アクチュエータ1をカメラのセクタ駆動部に採用して駆動機構を構成した実施形態について説明する。図3(A)は、シャッタ基板50に対して上記電磁アクチュエータ1を配置した様子を平面視で模式的に示した図である。シャッタ基板50は、後述するように撮影用のシャッタ開口51を備えている。シャッタ基板50の前面側には3枚のセクタ60、65、70が基板面に沿うように配置されている。これらのセクタは、シャッタ基板50側から第1シャッタ羽根60、第2シャッタ羽根65、絞り羽根70である。シャッタ基板50の背面側には上記電磁アクチュエータ1が配置されている。
【0027】
この図3(A)では穴の位置は確認できないが、第1シャッタ羽根60は基板50に設けた突起61に係合する穴、及びロータ2から延びた係合ピン27に係合する穴を備えている。同様に、第2シャッタ羽根65は基板50に設けた突起66に嵌合する穴、及びロータ2から延びた係合ピン27に係合する穴を備えている。また、絞り羽根70は基板50に設けた突起71に係合する穴、及びロータ2から延びた係合ピン27に係合する穴を備えている。これら第1シャッタ羽根60、第2シャッタ羽根65及び絞り羽根70は、後述する係合ピン27の回動動作に伴って、それぞれが独自の軌跡を描いて揺動する。これらの羽根60、65、70に設けられた穴の位置や、これらの動作はこの後に示す図4から図6で明らかにする。
【0028】
基板50背面側に配置している電磁アクチュエータ1のロータ軸21には、半径方向に延出したアーム部26が接続されている。このアーム部26は本発明における駆動部に相当するもので、このアーム部26の端部からはシャッタ基板50側に設けた開口55を通り反対側まで延在した係合ピン27が接続されている。前面側に出たこの係合ピン27に、前記第1シャッタ羽根60、第2シャッタ羽根65及び絞り羽根70のそれぞれに設けた穴が係合している。よって、電磁アクチュエータ1のロータ2が回動したときには、係合ピン27がこれに伴って回動し、さらに前記第1シャッタ羽根60、第2シャッタ羽根65及び絞り羽根70が所定の軌跡で揺動する。
【0029】
図3(B)は、上記係合ピン27の移動軌跡CRについて示した図である。係合ピン27はロータ2の回転に伴い360°の回転が可能であるが、基板50に形成された開口55は扇型であり、また、アーム26の移動を規制する部材29が配置されている。この規制部材29にアーム26が当接すると、ロータ2の回転が制限される。また、アーム26に接続された係合ピン27の動きも規制され、この係合ピン27により駆動される各セクタ60、65及び70も所定位置に規制されることになる。よって、規制部材29は該セクタを所定位置に規制する機能を果たす。この規制部材29はアーム26の回動範囲を設定する両端に1つずつ配置されている。アーム26は、セクタが全開状態のときに1個目の規制部材29−1に当接し、セクタが小絞り状態のときに2個目の規制部材29−2に当接する。なお、本例では係合ピン27は所定範囲RE内を回動するように設定されている。この範囲REは例えば中心角約120°に設定される。図3では、軸21とアーム26との間の駆動比を調整するギアを図示していないが、軸21とアーム26との間にはギアが介在しており、図2で示したようロータ2の回動範囲が上記範囲REとなるように調整されている。
【0030】
上記のような構成を有するセクタの駆動機構を、動作させた場合について図4から図6を参照して説明する。これらの各図では、シャッタ基板50の前面側から見て、第1シャッタ羽根60、第2シャッタ羽根65及び絞り羽根70の位置が変化する様子が示されている。これら各図の上部には、ロータ2の回転状態が確認できるように電磁アクチュエータ1を示している。
【0031】
図4は、基板50に設けた撮影用のシャッタ開口51を全開とした状態が示されている。このとき電磁アクチュエータ1のロータ2は回転角0°(図2における(a)の位置に相当)とされているが、実際には図2(a)の場合より若干、図2(b)寄りの位置にずれている。すなわち、ロータ2の磁極がステータ3の磁極と対向する位置よりも、右回り(時計周り方向)へずれている。これは、前述した規制部材29−1に当接して停止しているためである。このときロータ2のN、S磁極のそれぞれは、ディテントトルクにより第1、第2磁極11、12に対向する位置に移動しようとするが、規制部材29により規制された状態となっている。よって、図4に示す状態でコイル4、5への通電を行なわなくとも、このセクタの状態を保持できる。なお、この図4では、第1シャッタ羽根60の突起61に係合する穴62、第2シャッタ羽根65の突起66に嵌合する穴67、及び絞り羽根70の突起71に係合する穴72が示されている。また、係合ピン27に係合する係合穴は、手前側にある絞り羽根70の係合穴73が確認できる。
【0032】
図5は、基板50に設けた撮影用のシャッタ開口51を全閉とした状態が示されている。この図5は、図4の状態からロータ2が約65°時計方向に回転した状態であり、係合ピン27がこれに連動して回動する。この係合ピン27の回動に伴って第1シャッタ羽根60、第2シャッタ羽根65、絞り羽根70が所定の軌跡を描いて揺動し、第1シャッタ羽根60及び第2シャッタ羽根65によりシャッタ開口51が閉じられる。このとき電磁アクチュエータ1のロータ2は、時計方向に回転して、例えば図2(c)の状態に相当している。この図5の場合は、ロータ2のN、S磁極それぞれが、ちょうど第1、第2磁極11、12に対向した位置でディテントトルクにより保持される。よって、図5で示した場合にこの状態でコイル4、5への通電が遮断されても、セクタをこの閉状態にて保持できる。この状態保持力は十分大きいのでカメラに少々の衝撃が加わった場合でも確実に保持する。
【0033】
図6は、基板50に設けた撮影用のシャッタ開口51に絞り羽根を位置させて小絞りとした状態を示した図である。この図6は図5の状態からロータ2がさらに時計方向に回転した状態である。係合ピン27がこれに連動して回動する。この係合ピン27の回動に伴って第1シャッタ羽根60、第2シャッタ羽根65、絞り羽根70が所定の軌跡を描いて揺動し、第1シャッタ羽根60及び第2シャッタ羽根65はシャッタ開口51を開く位置まで遠ざかり、その代わりに絞り羽根70がシャッタ開口51を覆う位置にくる。この絞り羽根70は絞り開口75を備えているので、シャッタ開口51を小絞りとした状態を実現する。このとき電磁アクチュエータ1のロータ2は、時計方向に回転して、例えば図2(e)より若干図2(d)寄りの位置にする。ここでの位置ずれも図4の場合と同様に規制部材29に当接して停止するためである。但し、この場合には反対側の規制部材29−2に当接するので、図4の場合とは逆にロータ2の位置が僅かに反時計回転方向へずれた状態となっている。この図6で示す場合もコイル4、5への通電を遮断しても、各セクタの位置が保持されるので小絞り状態を保持できる。
【0034】
ここで、図7を参照して説明する。この図7は、上記の様にセクタ60,65,70が全開、全閉、小絞り状態になったとき、ロータ2の回転状態が分かるように示した電磁アクチュエータ1の図である。この図7は、先に示した図2と対応している。左肩に付した(a)〜(e)は図2と対応させている。図7で示す全開状態と小絞り状態は、図2で示した(a)及び(e)にそれぞれが対応するが、前述したように上記電磁アクチュエータ1を本セクタ駆動機構に組み込んだことにより、規制部材29による移動規制を受けたロータ2の位置がずれている(図3(B)参照)。
【0035】
本セクタ駆動機構は、上記のように全開状態及び小絞り状態となった時に生ずる、ずれを有効に活用して、シャッタスピードを向上させる構成を備えている。以下、この点について説明する。図7に示されるように小絞り状態のときにはロータ2の位置が反時計方向へずれているのでコイル4,5へ1個の駆動パルスを供給するだけの1ステップの駆動で全閉状態とすることができる。同様に、全開状態のときもロータ2の位置が時計方向へずれているのでコイル4,5へ1個の駆動パルスを供給するだけの1ステップの駆動で全閉状態とすることができる。
【0036】
ところが、全閉状態から全開或いは小絞り状態へ移行させるときには、上記とは様子が異なる。図7で示すように全閉状態のときにはロータ2側の磁極とステータ側の磁極11、12がちょうど対向した状態である。よって、この位置にあるロータ2に対して、コイル4,5から磁束を及ぼしても、全開、小絞りのどちら側へ振れるが不確定となる。そこで、本セクタ駆動機構では、全閉から全開へ移行させるときには動的安定位置A、全閉から小絞りへ移行させるときには動的安定位置Bを介して移行させるようにしている。これらの動的安定位置停止状態により、全閉状態から全開又は小絞りのどちら側へ回転させかを決定できる。
【0037】
ここで、示す動的安定位置停止状態は、図2の(b)、(d)に対応しており、第3磁極13の磁化が倍加されているので、全閉状態からでもロータ2は確実にこの中立位置へ回転する。そして、中立状態Aから全開、或いは中立状態Bから小絞りへとロータ2をスムーズに回動させることができる。
【0038】
図7に示す電磁アクチュエータ1の駆動は、電流制御回路25からコイル4,5に供給する電流(駆動パルス)によって実行される。よって、全開状態又は小絞り状態から全閉状態に移動させるには、電流制御回路25からコイル4,5に駆動パルスが1個供給される。全閉状態から全開状態又は小絞り状態に移動させる際には、先ず回転方向を決めるため動的安定停止状態A,Bへ移行させる駆動パルス(方向制御パルス)が供給される。そして、動的安定停止状態A,Bから全開状態又は小絞り状態に移動させる駆動パルスが供給される。
【0039】
以上から明らかなように、本セクタ駆動機構では先に示した電磁アクチュエータ1を用い、全開或いは小絞りの状態から全閉状態とするときには、電流制御回路25から1個の駆動パルスを供給して1ステップで全閉状態を形成させる。よって、シャッタ開口を高速で閉じることができる。一方、この全閉状態から全開或いは小絞り状態とするときには、開口を閉じる時と比較してスピードを要求されない。そこで、電流制御回路25から回転方向を決定する動的安定停止状態A,Bに移行させる制御パルスを供給して回転方向を決定付け、続いて全開或いは小絞り状態とする駆動パルスを供給する。すなわち、全閉状態からは複数ステップで確実に全開或いは小絞り状態を形成させる。
【0040】
図8及び図10は、本セクタ駆動機構でセクタが移動するときのタイミングチャートを示している。図8は、全開から全閉とし、再び全開に戻る場合のタイミングチャートを示している。図10は、小絞りから全閉とし、再び小絞りに戻る場合のタイミングチャートを示している。また、図9は、図8におけるC部を拡大して示した説明図であり、図11は、図10におけるD部を拡大して示した説明図である。
【0041】
図8で、最上段はセクタの開閉状態を示した波形である。この波形は、全開から全閉へ、そして全閉から全開へとセクタが移動する状態を示している。中央部にはVo1からVo4の4個の波形を示している。これらは、図1に示した電流制御回路25により制御された電流波形、すなわち駆動パルス波形を例示している。第1のコイル4には電流Vo1が入力され、これと対称波形となるVo2が出力される。第2のコイル5には電流Vo3が入力され、これと対称波形となるVo4が出力される。
【0042】
図8で、全開から全閉とするときには、電流制御回路25から1個の駆動パルスPU1がコイル4,5にそれぞれ供給され1ステップでセクタが全閉とされる。なお、コイル4側へ供給される駆動パルスの中間にブレーキパルスBPUが介在されている。これは移動しているセクタを全閉位置で停止するときに慣性力(イナーシャ)でオーバーランするので、これを減衰させるためである。よって、コイル4側へ供給される駆動パルスも実質的には1駆動パルスである。このように、本セクタ駆動機構では1ステップでセクタを全閉位置に移動させるので、素早くシャッタ開口を閉じることができる。
【0043】
なお、図8の最上段に示したセクタの駆動波形では、コイル4,5に駆動パルスが供給されてから時間ずれTLをもって、全閉側へ移行する様子が示されている。これは、退避位置にあったセクタがシャッタ開口を塞ぐ位置に来るまでに移動するタイムラグである。
【0044】
上記によりセクタが全閉状態となったときには、コイル4,5を無通電状態(無磁化状態)としても、前述したように電磁アクチュエータ1ではディテントトルクによりロータ2の位置が保持される。続いて、全閉状態から全開状態とする場合には、2ステップでセクタが駆動される。すなわち、先に説明した図7で示したαルートで全閉状態から全開状態へと移行される。よって、図8で示すように、電流制御回路25からコイル4,5に先ずPU2を供給してロータ2を動的安定停止状態Aとし、さらにPU3を供給して全開状態とする。この場合には、動的安定停止状態Aを介するので、確実に全閉から全開へとセクタを戻すことができる。
【0045】
1つ目の駆動パルスPU2の前に介在されているパルスHPUは、ホールディングパルスである。このパルスはロータ2の位置を所定位置に揃えるために供給される。よって、全閉から全開とするための実質的な駆動パルスはPU2とPU3である。すなわち、PU2とPU3がロータ2を回転させてアーム部26を規制部材29−1、29−2に向かわせる駆動パルスということになる。この駆動パルスPU2とPU3には図8に示すように逆向きの逆転パルスが付加されている。より具体的には、コイル4に通電されるVo1及びVo2では、PU2に2個の逆転パルスが付加されており、コイル5に通電されるVo3及びVo4では、PU3に2個の逆転パルスが付加されている。このような逆転パルスを付加すると、全閉状態から全開状態へ向かうセクタの勢いを低減することができる。これによりアーム部26が規制部材29−1に衝突するときの勢いを低減し、衝突時の衝撃を緩和することができる。図9に、逆転パルスを付加したときのセクタの動きを、逆転パルスを付加していないときと比較して示している。逆転パルスを付加していないとき(逆転パルス無)は、セクタのバウンドが収束するのはbの時点である。これに対し、逆転パルスを付加しているとき(逆転パルス有)は、セクタのバウンドはaの時点で収束している。すなわち、セクタのバウンドが収束し、安定した状態となる時間がS1だけ短縮されている。このように、セクタが即座に安定した状態となるため、引き続きセクタを閉方向へ回転させるための駆動パルスを入れるタイミングを早めることができる。これにより連写時のシャッタ速度の向上と、シャッタ速度のバラツキの低減を図ることができる。
【0046】
なお、上記ブレーキパルスBPUとホールディングパルスHPUは省略することができる。また、図8の最下段には、カメラに内蔵した撮像用CCDの駆動波形を対応して示している。CCDはコイル4,5が駆動された後、所定時間してから起動されてシャッタ開口が全閉とされた直前の画像を撮影し、後端に付加したパルスTPUのときに所定部位に取得した画像信号を送信する。
【0047】
上記のように本セクタ駆動機構では、シャッタスピードが要求される全閉への移動時には1ステップで駆動を行うのでカメラに内蔵して使用すると精度の良い撮影画像を得ることができる。さらに、連写時のシャッタ速度の向上と、シャッタ速度のバラツキの低減を図ることができる。なお、PU2、PU3に対して逆転パルスを付加する場合、どのタイミングで付加するのか、コイル4に対する駆動パルス、コイル5に対する駆動パルスのどちらか一方又は双方に付加するのか、何個のパルスを付加するのかは適宜調節することができる。
【0048】
図10は、上記図8と同様に示したタイミングチャートである。図10で示すタイミングチャートも1ステップで小絞りから全閉となり、2ステップで小絞りに戻るという動作であり図8と同様である。この図10の駆動パルスは、図8に示したものとVo1及びVo2とVo3及びVo4とを入れ替えた状態で現れる。この図9の動作の流れは、先に説明した図7で示したβのルートとなる。ここで図10において、図8と同様に、PU2、PU3に逆転パルスが付加されている。これによりセクタを全閉状態から小絞り状態とするときのセクタのバウンド収束を早めることができる。図11に、逆転パルスを付加したときのセクタの動きを、逆転パルスを付加していないときと比較して示している。逆転パルスを付加していないとき(逆転パルス無)は、セクタのバウンドが収束するのはdの時点である。これに対し、逆転パルスを付加しているとき(逆転パルス有)は、セクタのバウンドはcの時点で収束している。すなわち、セクタのバウンドが収束し、安定した状態となる時間がS2だけ短縮されている。このように、セクタが即座に安定した状態となるため、引き続きセクタを閉方向へ回転させるための駆動パルスを入れるタイミングを早めることができる。これにより連写時のシャッタ速度の向上と、シャッタ速度のバラツキの低減を図ることができる。
【0049】
上記図8及び図10は、全開或いは小絞りから全閉とし、再び初期の状態に戻す動作を示しているが、全開から全閉を介し最終的に小絞り、小絞りから全閉を介し最終的に全開とする場合であっても同様の逆転パルスを付加することができる。要は、全開状態や小絞り状態となるとき、すなわちアーム部26が位置規制部材29−1、29−2に衝突する動作が行われるときに逆転パルスを付加するようにできる。これにより連写時のシャッタ速度の向上と、シャッタ速度のバラツキの低減を図ることができる。
【0050】
以上本発明の好ましい一実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施形態のセクタ駆動機構で採用する電磁アクチュエータの主要部構成を示した図である。
【図2】図1に示す電磁アクチュエータの第1のコイル及び第2のコイルを励磁して、ステップ角45°でロータを時計方向に回転する場合を示した図である。
【図3】(A)はシャッタ基板に対して電磁アクチュエータを配置した様子を平面視で模式的に示した図、(B)は係合ピンの移動軌跡について示した図である。
【図4】基板に設けた撮影用のシャッタ開口を全開とした状態を示した図である。
【図5】基板に設けた撮影用のシャッタ開口を全閉とした状態を示した図である。
【図6】基板に設けた撮影用のシャッタ開口を小絞りとした状態を示した図である。
【図7】各セクタが全開、全閉、小絞り状態になったとき、ロータの回転状態が分かるように示した電磁アクチュエータの図である。
【図8】全開から全閉となり、再び全開に戻る場合のタイミングチャートを示した図である。
【図9】図8におけるC部を拡大して示した説明図である。
【図10】小絞りから全閉となり、再び小絞りに戻る場合のタイミングチャートを示した図である。
【図11】図10におけるD部を拡大して示した説明図である。
【符号の説明】
【0052】
1 電磁アクチュエータ
2 ロータ
3 ステータ
4 第1のコイル
5 第2のコイル
11 第1磁極
12 第2磁極
13 第3磁極
25 電流制御回路
26 アーム部
29 移動規制部材
51 シャッタ開口
60 第1シャッタ羽根
65 第2シャッタ羽根
70 絞り羽
PU 駆動パルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4磁極を有するロータと、第1のコイルにより励磁される第1磁極、第2のコイルにより励磁される第2磁極並びに前記第1及び第2のコイルにより励磁される第3磁極とを含んだC字状のステータとを備えた電磁アクチュエータと、
前記第1のコイル及び前記第2のコイルへ供給する電流を制御する電流制御手段と、
前記電磁アクチュエータに接続され、基板に形成したシャッタ開口を開閉するセクタと、
前記ロータの回転を前記セクタに伝達し、当該セクタを駆動するための駆動部と、
当該駆動部の移動範囲を規制する規制部材と、
を含み、
前記電流制御手段は、前記ロータを回転させて前記駆動部を前記規制部材に向かわせる駆動パルスに当該駆動パルスとは逆向きの逆転パルスを付加することを特徴としたセクタ駆動機構。
【請求項2】
請求項1記載のセクタ駆動機構において、
一回の前記駆動パルスに対し、複数個の前記逆転パルスを付加することを特徴としたセクタ駆動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−70824(P2008−70824A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251860(P2006−251860)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】