説明

セラミックス粉末の製造方法

【課題】低い焼成温度によって緻密で収縮し難い焼結体を得ることが可能なセラミックス粉末を、簡便且つ生産性よく得ることが出来る、セラミックス粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】ナノサイズのセラミックス粒子を構成する材料と、サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末と、を予め混合した原料を用い、これを水熱合成し、ナノサイズのセラミックス粒子を合成しつつ、同時に、ナノサイズのセラミックス粒子をサブミクロンサイズのセラミックス粒子の表面に被覆させる工程を含むセラミックス粉末の製造方法の提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温で焼結させることが可能であり、且つ、焼成時の収縮を抑えたセラミックス粉末の製造方法と、そのセラミックス粉末の製造方法で製造されたセラミックス粉末、更には、このセラミックス粉末を用いて得られる成形体、及び焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
構造材としての産業用機械部品や、回路基板、コンデンサ、発信子、高周波素子等の電子部品を構成する材料として、ジルコニア、アルミナ等の酸化物系のセラミックス材料や、窒化ケイ素、炭化ケイ素等の非酸化物系のセラミックス材料が使用されている。
【0003】
一般に、上記部品は、サブミクロンサイズ以上のセラミックス粉末としたセラミックス材料を使用し、それを乾式や湿式の成形法によって成形し、その後に焼成する、という製造工程を経て作製される。そして、通常、焼成温度は、構造部品を得る場合に1300℃以上、電子部品を得る場合に1100℃以上、必要とされる。
【0004】
一方、地球規模の省エネルギー、低環境負荷に対する要請が高まっている現在では、省エネルギー型の製造過程を実現することが、大変、重要な問題と認識される。従って、セラミックス材料を用いて上記部品を得る際の、焼成温度を低下させることは、極めて大切な課題ということが出来る。
【0005】
加えて、一般に、焼成温度を低下させれば、高い温度で焼成する場合に比して、収縮率を抑えることが出来るから、クラックの発生を防止し、歩留まりを向上させる観点からも、焼成温度は低いことが好ましい。
【0006】
又、セラミックス材料を用いた部品によっては、個別具体的事情により、焼成温度の低下が要求される場合がある。例えば、内部電極層と誘電体層とを重ねた構造を有する電子部品である積層セラミックスコンデンサ(multilayer ceramic chip capacitors(MLCC))において、内部電極層と誘電体層とを同時に焼成する製造工程を経て作製される場合には、内部電極層に使用される金属材料の融点が、誘電体層を構成するセラミックス材料の焼結温度より、高温である必要がある。そのため、誘電体層を構成するセラミックス材料が、低い温度で焼結させることが出来るものであり、その温度が低ければ低いほど、内部電極層として使用することが可能な金属の選択幅が広がり、例えばより安価な金属を内部電極層として使用可能となる。それが故に、MLCCの製造においては、焼成温度の低下が望まれている。勿論、低温焼成によって、収縮時のクラックの発生も抑制されるので、MLCCの歩留まりの向上も期待される。
【0007】
MLCCの誘電体層を構成するセラミックス材料を代表するものとしては、チタン酸バリウムが知られている。そして、近年、MLCCについて、小型大容量化、高周波数化等の高性能化の要求が高まっていることから、これらの要求を満たすべく、チタン酸バリウムを、高純度、均質組成、微粒で均一な粒度分布を有するセラミックス粉末にする技術が提案されている。例えば、チタン酸バリウムを製造するための関連する従来技術として、シュウ酸塩法(例えば、特許文献1,2参照)、アルコキシド法(例えば、特許文献3参照)、水熱合成法(例えば、特許文献4、非特許文献1,2参照)等の、液相法が開示されている。
【0008】
しかしながら、これら液相法により得られるチタン酸バリウム粉末を焼結するためには、1200℃以上が必要である。焼結体を得るための焼成温度としては、固相法によって
製造された場合よりも、多少、低いといえるが、とても低温焼成といえるレベルではない。
【0009】
一方、金属アルコキシド前駆体溶液の加水分解又は熱分解反応により得られたセラミックス粉末を成形し焼結させるゾルゲル法も知られるが、このゾルゲル法では、成形操作によって成形体に生ずる歪みの残留を根本的に解決することが出来ない、という問題がある。
【0010】
又、ゾルゲル法によって得られるチタン酸バリウムの一次粒子径は、いわゆるナノサイズであることから、低温焼結性を有するものといえるが、ナノサイズのセラミックス粒子であるが故の問題も抱えている。即ち、第1に、その粒径が不均一な二次粒子(凝集粒子)として存在するために、成形が容易ではなく、成形体密度が上がらない、という問題がある。第2に、乾燥、焼結時における成形体の収縮が大きく、且つ、合成反応の条件が複雑である、という問題がある。第3に、緻密な焼結体を得るためには、焼成温度として1100℃以上が必要であり、結局のところ、低温焼成とはいえず、焼成に伴う収縮率は大きくなり、歩留まりが低下してしまう、という問題がある。
【0011】
これに対し、サブミクロンサイズのセラミックス粉末にナノサイズのセラミックス粉末を混合することで、ナノサイズのセラミックス粒子の低温焼結特性を生かそうとする試みがなされている。しかし、ナノサイズのセラミックス粒子は凝集性が強いので、完全に解砕され成形体に均一に分布することはなく、焼成前の成形体において凝集に伴う空孔が多く生じてしまい、焼成時の収縮の問題、及び低温における焼結は、実現していない。
【0012】
【特許文献1】特開2004−26641号公報
【特許文献2】特表2004−521850号公報
【特許文献3】特開2000−128631号公報
【特許文献4】特開2002−211926号公報
【非特許文献1】H.Xu,L.Gao、「Hydrothermal synthesis of high−purity BaTiO3 powders: control of powder phase and size, sintering density, and dielectric properties」Materials Letters, 58 (2004) 1582−1586.
【非特許文献2】H.Xu,L.Gao、「Tetragonal Nanocrystalline Barium Titanate powder: Preparation, Characterization, and Dielectric Properties」J. Am. Ceram. Soc., 86 (2003) 203−205.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、低い焼成温度によって緻密で収縮し難い焼結体を得ることが可能なセラミックス粉末を、簡便且つ生産性よく得ることが出来る、セラミックス粉末の製造方法を提供することにある。
【0014】
研究が重ねられた結果、以下の手段によって、上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明によれば、先ず、ナノサイズのセラミックス粒子を構成する材料と、サブ
ミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末と、を予め混合した原料を用い、これを水熱合成し、ナノサイズのセラミックス粒子を合成しつつ、同時に、ナノサイズのセラミックス粒子をサブミクロンサイズのセラミックス粒子の表面に被覆させる工程を含むセラミックス粉末の製造方法が提供される。
【0016】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法は、ナノサイズのセラミックス粒子で表面が被覆された、サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなる、セラミックス粉末を製造する方法である。換言すれば、本発明に係るセラミックス粉末の製造方法によって、ナノサイズのセラミックス粒子で表面が被覆された、サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなる、セラミックス粉末を得ることが出来る。
【0017】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法においては、サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末を、粉砕しながら水熱合成することが好ましい。この場合において、サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末を、ボールミルにより粉砕することが好ましい。
【0018】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法では、ナノサイズのセラミックス粒子と、サブミクロンサイズのセラミックス粒子とが、同じ材料で構成されることが好ましい。
【0019】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法では、セラミックス粉末が、チタン酸バリウム(BaTiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、チタン酸鉛(PbTiO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)、モリブデン酸リチウム(LiMoO)、窒化チタン(TiN)、又はムライト(3Al・2SiO)のセラミックス粉末であることが好ましい。
【0020】
次に、本発明によれば、上記した何れかのセラミックス粉末の製造方法により製造された、セラミックス粒子の径が0.1〜1μmであるセラミックス粉末が提供される。
【0021】
本発明に係るセラミックス粉末は、1000℃以下の焼成温度で、焼結が可能なものであることが好ましい。
【0022】
次に、本発明によれば、上記した何れかのセラミックス粉末を成形してなる、相対密度が95%以上である成形体が提供される。
【0023】
次に、本発明によれば、上記した何れかのセラミックス粉末を成形し焼成してなる、結晶構造が正方晶である焼結粒により構成された焼結体が提供される。
【0024】
本発明に係る焼結体は、焼成時の収縮率が20%以下であることが好ましい。これは、焼成前の成形体から収縮率20%を超えて収縮していない焼結体であることを意味する。
【0025】
次に、本発明によれば、ナノサイズのセラミックス粒子を、そのセラミックス粒子と同じ材料で構成されたサブミクロンサイズのセラミックス粒子に、被覆させる方法であって、ナノサイズのセラミックス粒子を構成する材料と、そのセラミックス粒子と同じ材料のサブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末と、を予め混合した原料を用い、これを水熱合成することを含むセラミックス粒子の被覆方法が提供される。
【0026】
本明細書において、ナノサイズのセラミックス粒子をナノ粒子ともいう。又、サブミクロンサイズのセラミックス粒子をコア粒子ともいい、被覆されたコア粒子を被覆粒子ともいう。
【0027】
本明細書において、ナノサイズとは1nm以上100nm未満を指し、サブミクロンサイズとは0.1μm以上1μm未満を指す。本発明において、ナノ粒子の好ましいサイズは、10nm以上50nm以下であり、コア粒子の好ましいサイズは、0.1μm以上0.5μm以下である。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法は、ナノサイズのセラミックス粒子を構成する材料と、サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末と、を予め混合した原料を水熱合成する工程を含むものであり、ナノサイズのセラミックス粒子を合成しつつ、同時に、ナノサイズのセラミックス粒子をサブミクロンサイズのセラミックス粒子の表面に被覆させるので、得られるセラミックス粉末は、サブミクロンサイズのセラミックス粒子の表面にナノサイズのセラミックス粒子が均一に被覆された被覆セラミックス粒子で構成されるものになり、成形及び焼成の際に、成形体の密度を極めて高くすることが出来、且つ、低温で焼結させることが可能である。又、ナノサイズのセラミックス粒子が充填された状態でサブミクロンサイズのセラミックス粒子が存在するため、収縮を抑えた焼結が可能である。
【0029】
一般に、ナノサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末を成形することにより、低温で焼結可能となることは知られている。そのため、従来、ナノサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末を成形し焼成することや、ナノサイズのセラミックス粒子の特性である低温焼結性を引き出すために、ナノサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末と、サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末とを、湿式又は乾式の機械的方式によって混合したものを成形し焼成することが行われている。しかしながら、100nm未満のナノサイズのセラミックス粒子は、凝集力が強く、一次粒子として存在することが難しいため、粒度分布幅がある凝集粒子として存在してしまう。例えばボールミル工程を経ることで、ナノサイズのセラミックス粒子の凝集を解砕、分散させることは、凝集力が強いため困難である。それが故に、ナノサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末を用いて成形し焼成した場合には、成形体の密度は低く、焼結のためには高温での焼成が必要となり、焼成による収縮は大きくなってしまう。又、ナノサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末とサブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末とを、湿式又は乾式の機械的方式によって混合したものを成形し焼成すると、ナノサイズのセラミックス粒子が均一に成形体の中に導入されず、加えて、ナノサイズのセラミックス粒子の凝集によって成形体の中で空孔が発生し、それによる焼成時の収縮や、焼結するために高温を要する等の問題が生じ得る。本発明に係るセラミックス粉末の製造方法及び得られるセラミックス粉末によれば、これらの問題を回避出来る。
【0030】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法は、水熱合成法を利用しているので、高純度で、組成均一性に優れ、粒子径の均一なセラミックス粒子からなるセラミックス粉末が得られる。
【0031】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法は、ナノサイズのセラミックス粉末を合成することが出来る他の手段、例えばゾルゲル法に比して、製造工程が簡便であり、生産性に優れ、設備投資が少なく済む。それでいて、成形が容易で成形体密度を高くすることが出来、低温で焼結させることが可能なセラミックス粉末、例えばチタン酸バリウム系セラミックス粉末を、製造することが可能である。
【0032】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法によって製造されるセラミックス粉末、例えばチタン酸バリウム系セラミックス粉末は、サブミクロンサイズのセラミックス粒子から
なるものであり、プレス成形、鋳込成形、押出成形、静水圧成形、テープ成形(ドクターブレード法等)等の従来知られたセラミックス成形方法を適応することが出来る。従って、成形体、焼結体の製造にかかり、生産効率に優れる。
【0033】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法によって製造されるチタン酸バリウム系セラミックス粉末によれば、積層セラミックスコンデンサの製造にかかり、内部電極層として使用可能な金属の選択幅が広がり、安価な金属を使用することが可能になる。積層セラミックスコンデンサは、内部電極層と誘電体層とを重ね、同時に焼結して製造されて場合があり、内部電極層に使用される金属の融点は、成形体の焼結温度よりも高くなければならないが、本発明に係るセラミックス粉末の製造方法によって製造されるチタン酸バリウム系セラミックス粉末は、低温で焼成(焼結)可能なものだからである。又、焼成エネルギーが低減され、低環境負荷を実現する。更に、収縮率が小さくなるので歩留まりの向上が図れ、積層セラミックスコンデンサ製造のコスト低減につながり、産業上、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明の要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0035】
図1は、本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で使用される装置の一例を示す模式図である。図1に示される装置は、ナノサイズのセラミックス粒子を構成する材料と、サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末と、を入れるための、外側の耐熱耐圧容器1と内側の耐薬品性容器5で構成される容器6と、この容器6を所定の温度に保持するためのヒーター4とを備えたものである。容器6の外側には回転軸棒3が配設されており、加熱、加圧条件下で容器6を回転させることが出来る。容器6は、例えばテトラフルオロエチレン樹脂製の耐薬品性容器5、ステンレス製の耐熱耐圧容器1で構成されていることが好ましい。但し、水熱合成での温度に対し破損しない、加熱した際及び圧力がかかった時に破損しない、溶媒によって容器が反応しない、ものであれば、容器を限定するものではない。
【0036】
容器6の中に粉砕混合用ボール2を入れ、コア粒子の凝集を防ぎながら、セラミックス粉末の合成と被覆反応とを同時に行ってもよい。但し、水熱合成によってナノ粒子を合成することが出来れば、粉砕混合用ボール2を導入してもしなくてもよい。粉砕混合用ボールは、例えば直径5mmのZrOボールを用いることが出来るが、反応において不純物として影響しなければ、粉砕混合用ボール2の種類、径は、限定されるものではない。粉砕混合用ボール2を容器6に導入してもしなくても、従来より、低温において低収縮で焼結可能なセラミックス粉末を得ることが出来る。
【0037】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法において、コア粒子と同種(同じ材料)のナノ粒子が被覆されたセラミックス粉末を得るためには、セラミックス粒子の表面の電荷を考慮しなければならない。即ち、異なる表面電荷、正と負の表面電荷を持つセラミックス粒子どうしは互いに引き合うため、いわゆるヘテロ凝集によって、コア粒子表面上にナノ粒子が被覆される。一方、コア粒子とナノ粒子とが異種(異なる材料)のセラミックス粒子であれば、pH調整によって正電荷と負電荷の表面状態を調整することが出来、ヘテロ凝集によって被覆粒子を形成させることが可能である。しかし、一般には、同種のセラミ
ックス粒子どうしでは、pH調整だけでは同じ表面電荷になり、ヘテロ凝集を引き起こさないため、均一に被覆を行うことは出来ない。本発明に係るセラミックス粉末の製造方法では、例えば、チタン酸バリウム粉末の場合には、コア粒子の凝集を解砕するために、pH11以下で正電荷を帯びているポリエチレンイミン(PEI)を添加し、コア粒子を解砕するとともに、コア粒子の表面にPEIを吸着させる。この工程を行うことで、チタン酸バリウムの表面電荷は、pH11以下で正電荷を帯びることになる。チタン酸バリウムの等電点は6で、その等電点より、pHが高くなると負電荷、低いと正電荷になるため、チタン酸バリウムの水熱合成において必要とされるpH8以上の条件では、ヘテロ凝集による被覆反応を行うことが可能である。
【0038】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法では、例えば、ナノサイズのチタン酸バリウム系セラミックス粉末を得るために、水酸化バリウム(Ba(OH))水溶液とチタニウムテトライソプロポキシド([(CH3)2CHO]Ti)溶液を混合する。この場合のBaとTiの比は1:1、望ましくは1.03〜1.5:1として、Ba成分を僅かながら多く混合する。これは、水酸化バリウムを溶解する際、僅かながら炭酸バリウムが生成するためと、水溶液のpHを高pHにすることで、生成されるチタン酸バリウムの分解、即ち、バリウム成分の溶出による未反応物、組成変化を、少なくするためである。
【0039】
チタンアルコキシドであるチタニウムテトライソプロポキシドは、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ノルマルペンチル基等が挙げられるが、限定されるものではない。又、チタンアルコキシドを溶解する溶媒は、チタンアルコキシドが可溶であればよく、メチル、エチル、イソプロピル、ノルマルブチルアルコール等のアルコール、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素類の溶媒を使用することが出来、これら溶媒の混合系でもよい。望ましくは、水と相溶可能な溶媒を使用し、相溶しない場合にはアルコール類を添加することが好ましい。何故ならば、水酸化バリウム水溶液との相溶で、均一に加水分解をすることが出来るので、微細なセラミックス粒子を調製することが可能になるからである。
【0040】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法では、コア粒子からなるセラミックス粉末は、ポリエチレンイミン(PEI)の分散剤を用いて予め分散させておくことが好ましい。これによって、凝集しているコア粒子からなるセラミックス粉末を解砕することが出来、被覆反応時に個々のコア粒子の表面にナノ粒子を被覆させることが可能になるからである。
【0041】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法では、バリウムとチタンの混合溶液を容器6に入れ、上記PEIによって分散させたコア粒子のスラリーを加える。そして、好ましくは、容器6に粉砕混合用ボール2を入れ、ボールミル工程を行いながら、同時に、水熱合成工程を行う。これによって、ナノ粒子を合成するとともに、コア粒子の表面上に、ナノ粒子を被覆させることが出来る。合成可能な好ましいナノ粒子として、20nm以上50nm以下の粒子径のものが挙げられる。これは、粉砕混合用ボール2を入れない場合でも同じである。
【0042】
容器6の回転速度は、粉砕混合用ボール2が、容器6の中で跳ねることなく、常に、回転に合わせて回るものであればよい。そうであれば、水熱合成により生成されるナノ粒子の表面を活性化させ、且つ、凝集粒子(コア粒子)を、均一、均質、活性化させることが出来るからである。容器6の回転方向は、横、縦、斜め、何れの方向でもよい。又、固液分離は、濾過、遠心分離等の既存の分離方法により行うことが出来る。
【0043】
製造された被覆粒子からなるセラミックス粉末の乾燥は、自然乾燥、通風乾燥、加熱乾
燥、真空乾燥、凍結乾燥等の乾燥方法の1つにより又は組み合わせて行うことが出来るが、乾燥時の凝集を防ぐために、出来るだけ乾燥温度は低い方が望ましい。乾燥時の凝集を防ぐ観点から、凍結乾燥が最も望ましい。乾燥させたセラミックス粉末は、そのまま、成形材料として使用することが可能である。
【0044】
図2は、本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製された、ナノ粒子及びコア粒子がともにチタン酸バリウムであるセラミックス粉末の、被覆粒子のTEM(透過型電子顕微鏡)による写真である。この図2では、およそ20nmのナノ粒子が、コア粒子の表面上に、均一に被覆している様子が観察される。
【0045】
又、図3は、本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製された、ナノ粒子及びコア粒子がともにチタン酸バリウムであるセラミックス粉末の、被覆粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)による写真である。この図3によれば、被覆粒子の他に、概ね20nmの被覆に関与しないナノ粒子が凝集して0.1〜0.2μmの均一径を有する均質の凝集粒子が存在し、これらの混合系であることが確認される。
【0046】
更に、図4は、本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製された、ナノ粒子及びコア粒子がともにチタン酸バリウムであるセラミックス粉末の、X線回折測定結果を示すグラフである。製造されたものが、確かに、チタン酸バリウム粉末であることが理解出来る。
【0047】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製されたセラミックス粉末は、サブミクロンサイズのコア粒子を用いていること、及び、上記のように、被覆に関与していないナノ粒子はサブミクロンサイズの凝集粒子の形態をとっていることから、従来、知られたセラミックス成形法に適応可能である。セラミックス粉末を金型に詰め、プレス成形し、静水圧成形してもよいし(乾式成形)、セラミックス粉末を分散させ鋳込成形し、テープ成形を行ってもよい(湿式成形)。何れにしても、ナノ粒子が被覆したコア粒子と、均質なナノ粒子が凝集した均一径の凝集粒子と、からなるセラミックス粉末が成形されることによって、焼結時に、異常粒成長が抑制される上、ナノ粒子の活性が高いことから、焼結性の向上につながる。
【0048】
例えば、金型に、本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製されたチタン酸バリウム粉末を詰め、プレス成形し、静水圧成形の後、焼成することによって、900〜1000℃で焼結され、従来よりも300〜400℃程度低い焼成温度で、緻密な焼結体を得ることが出来る。又、従来の、ナノ粒子で被覆されていないコア粒子のみからなるチタン酸バリウム粉末を成形した場合には、その成形体を焼成すると、1300℃の焼成温度、95%の相対密度の場合に、収縮率は17%であるのに対し、本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製されたチタン酸バリウム粉末を使用した成形体では、従来より300℃以上低い温度で焼成し、95%以上の相対密度の場合に、収縮率は17%以下に抑えることが出来る。
【0049】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製された、ナノ粒子及びコア粒子がともにチタン酸バリウムであるチタン酸バリウム粉末を用いて成形し、得られた成形体を焼成することにより、特性を低下させる異常粒成長のない、1μm以下の、正方相の焼結粒で構成された、チタン酸バリウムの焼結体が得られる。図5は、その焼結体のSEM(走査型電子顕微鏡)による写真であり、図6は、その焼結体のX線回折測定結果を示すグラフである。図5によって、焼結体の焼結粒の形状が確かめられる。又、通常、tetragonal型、即ち正方晶のチタン酸バリウムの場合には、X線回折による測定で45度のピークが2本に分離されることから、図6によって、この焼結体がtetragonal型、即ち正方晶の結晶相で構成されたものであることが確認される。
【実施例】
【0050】
次に、本発明について、以下の実施例を参照して、より具体的に説明する。尚、以下の説明においては、セラミックス粉末としてチタン酸バリウム粉末を掲げて説明するが、要旨を越えない限り、本発明は、チタン酸バリウム系セラミックス粉末の他の種類や、酸化物セラミックス(Al、ZrO、TiO、PbTiO、LiNbO等)等の他のセラミックス粉末にも、適応することが出来、限定されるものではない。又、ナノサイズのセラミックス粒子とサブミクロンサイズのセラミックス粒子とは、異種、同種の材料からなるものに限定されず、水熱合成反応、及び被覆反応を可能とするものであれば、材料を限定しない。
【0051】
(実施例1)(1)80℃の蒸留水38mlに、6.1645gの水酸化バリウム(Ba(OH)・8HO)を加え、溶解し、水酸化バリウム溶液を得た。僅かに生成されたBaCOは、濾過によって除去した。そして、3.7002gのチタニウムテトライソプロポキシド([(CHCHO]Ti)を、イソプロピルアルコール8mlに溶かし、これを、水酸化バリウム溶液に加え、混合溶液を得た。
【0052】
(2)合成されるナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量に対して、0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量を1体積%とし、これをポリエチレンイミン(PEI)1質量%で分散させて、チタン酸バリウム分散スラリーを得た。尚、PEIは、正の電荷を持つため、チタン酸バリウムの表面は正の電荷を持つことになる。
【0053】
(3)次いで、チタン酸バリウム分散スラリーを、上記の混合溶液に加えて、テフロン(登録商標)製容器(耐薬品性容器)に入れ、粉砕解砕用の直径5mmのZrOボールを加えた。更に、このテフロン(登録商標)製容器をステンレス製容器(耐熱耐圧容器)にセットし、水熱合成を行った。具体的には、テフロン(登録商標)製容器をステンレス製容器にセットしてなる容器を、回転数150rpmで回転させながら、昇温速度5℃/minで、100℃まで上げ、2時間保持して、冷却し、容器内に沈殿物を得た。そして、沈殿物を、洗浄した後、凍結乾燥を行うことで、チタン酸バリウム粉末を得た。
【0054】
得られたチタン酸バリウム粉末のX線回折を行ったところ、確かにチタン酸バリウムの粉末であることが確認された。更に、SEM及びTEMにより、粉末形態、粒子形態を観察したところ、コア粒子の表面に、20nm程度のナノ粒子が被覆されている様子が観察され、粉末形態は、被覆粒子と、被覆に関与しなかったナノ粒子が凝集した凝集粒子で構成されていた。被覆粒子は、コア粒子の大きさ(0.3μm)より大きい0.5μm程度であり、凝集粒子は、サブミクロンサイズであり、ほぼ0.12〜0.2μmの均一径の形態を有していた。
【0055】
(4)得られたチタン酸バリウム粉末を使用して、2000Nでプレス成形し、更に、静水中で100MPaの圧力をかけ静水圧成形を行い、4体の成形体を得た。得られた4体の成形体の平均の相対密度は52%であった(図7を参照)。後述する比較例1における相対密度と比較すると、かなり高い値である(図7を参照)。
【0056】
(5)次いで、得られた4体の成形体を、それぞれ個別に、昇温速度100℃/hで、所定の温度(800℃、900℃、1000℃、1100℃)まで上げ、5時間、常圧で焼成し、焼成温度の異なるチタン酸バリウムの焼結体を得た。
【0057】
そして、得られた焼結体の相対密度と収縮率(線収縮率)を測定した。結果を、図8及び図9に示す。焼成温度900℃で相対密度96%、収縮率22%、1000℃で相対密度98%、収縮率22%であり、低温焼結が可能であることを確認することが出来た。
【0058】
又、焼結体のX線回折を行ったところ、焼結体の焼結粒構造は、45度のピークが2本に分離され、tetragonal型、即ち正方相の、チタン酸バリウムの焼結体であることが確認された。更に、焼結体を、走査型電子顕微鏡を使用して観察したところ、tetragonal型、即ち正方相の、焼結粒で構成されたチタン酸バリウムの焼結体であることを、確認することが出来た。
【0059】
(実施例2)チタン酸バリウム分散スラリーの調製に際し、合成されるナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量に対して、0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量を5体積%としたこと以外は、実施例1の(1)〜(4)と同様にして、チタン酸バリウム粉末を製造し、それを用いて4体の成形体を得た。得られた4体の成形体の平均の相対密度は57%であった(図7を参照)。後述する比較例2における相対密度と比較すると、かなり高い値である(図7を参照)。
【0060】
そして、実施例1の(5)と同じ条件で、4体の成形体を焼成し、焼結体を得て、その焼結体の相対密度と収縮率(線収縮率)を測定した。結果を、図8及び図9に示す。900℃で相対密度90%、収縮率11%、1000℃で相対密度96%、収縮率16%となった。サブミクロンサイズの従来のチタン酸バリウム粉末を成形してなる成形体の焼結温度(1300℃以上)と収縮率(17%)と比較すると、300℃以上低い温度で焼結させることが出来、且つ、収縮を抑制することが出来た。
【0061】
図10は、実施例2において、1000℃で焼成した焼結体の、SEMによる写真である。図10によって、焼結粒の大きさが1μm以下であることが確認された。又、図11の(a)は、実施例2において、900℃で焼成した焼結体の破断面の、SEMによる写真である。
【0062】
(実施例3)チタン酸バリウム分散スラリーの調製に際し、合成されるナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量に対して、0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量を10体積%としたこと以外は、実施例1の(1)〜(4)と同様にして、チタン酸バリウム粉末を製造し、それを用いて4体の成形体を得た。得られた4体の成形体の平均の相対密度は59%であった(図7を参照)。後述する比較例3における相対密度と比較すると、かなり高い値である(図7を参照)。
【0063】
(実施例4)水熱合成を行うに際し、粉砕解砕用のZrOボールを使用しなかったこと以外は、実施例1の(1)〜(3)と同様にして、チタン酸バリウム粉末を製造した。チタン酸バリウム分散スラリーの調製に際し、合成されるナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量に対して、0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量は1体積%である。
【0064】
得られたチタン酸バリウム粉末について、SEM及びTEMにより、粉末形態、粒子形態を観察したところ、コア粒子の表面に、20nm程度のナノ粒子が被覆されている様子が観察され、粉末形態は、被覆粒子と、被覆に関与しなかったナノ粒子が凝集した凝集粒子で構成されていた。被覆粒子は、コア粒子の大きさ(0.3μm)より大きい0.5μm程度であり、凝集粒子は、サブミクロンサイズであり、ほぼ0.12〜0.2μmの均一径の形態を有していた。
【0065】
次いで、得られたチタン酸バリウム粉末を使用し、実施例1の(4)と同様にして、4体の成形体を得た。得られた4体の成形体の平均の相対密度は52%であり、実施例1における成形体の相対密度と同じであった。
【0066】
(実施例5)水熱合成を行うに際し、粉砕解砕用のZrOボールを使用しなかった。又、チタン酸バリウム分散スラリーの調製に際し、合成されるナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量に対して、0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量を5体積%とした。これら以外は、実施例1の(1)〜(4)と同様にして、チタン酸バリウム粉末を製造し、それを用いて4体の成形体を得た。得られた4体の成形体の平均の相対密度は57%であり、実施例2における成形体の相対密度と同じであった。
【0067】
そして、実施例1の(5)と同じ条件で、4体の成形体を焼成し、焼結体を得て、その焼結体の相対密度と収縮率(線収縮率)を測定した。結果は、900℃で相対密度95%、収縮率7%であり、1000℃で相対密度97%、収縮率16%となった。サブミクロンサイズの従来のチタン酸バリウム粉末を成形してなる成形体の焼結温度(1300℃以上)と収縮率(17%)と比較すると、400℃以上低い温度で焼結させることが出来、且つ、収縮を抑制することが出来た。
【0068】
この実施例5における成形体は、実施例1の成形体よりも、低温で緻密化し、収縮を抑えることが可能である。図11の(b)は、実施例5において、900℃で焼成した焼結体の破断面の、SEMによる写真である。
【0069】
実施例2にかかる図11の(a)と、実施例5にかかる図11の(b)を比較して、焼結体の破断面を観察すると、実施例5では、実施例2より、明らかに緻密な焼結が進んでいるのが理解出来る。これは、実施例2においては、粉砕解砕用のZrOボールを導入してボールミル工程を付加しながら水熱合成するため、焼結に対して高活性なナノ粒子が合成されるため、と考えられる。即ち、被覆に関与しないナノ粒子も高活性であるため、それが凝集してなる凝集粒子が急激に焼結されて生じる焼結粒が、実施例5における凝集粒子が焼結してなる焼結粒よりも大きくなるので、焼結性が低下する、と考察される。
【0070】
(実施例6)水熱合成を行うに際し、粉砕解砕用のZrOボールを使用しなかった。又、チタン酸バリウム分散スラリーの調製に際し、合成されるナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量に対して、0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量を10体積%とした。これら以外は、実施例1の(1)〜(4)と同様にして、チタン酸バリウム粉末を製造し、それを用いて4体の成形体を得た。得られた4体の成形体の平均の相対密度は59%であり、実施例3における成形体の相対密度と同じであった。
【0071】
(比較例1)コア粒子からなるセラミックス粉末とナノ粒子からなるセラミックス粉末とを、機械的に混合した場合の例である。
【0072】
(a)80℃の蒸留水38mlに、6.1645gの水酸化バリウム(Ba(OH)・8HO)を加え、溶解し、水酸化バリウム溶液を得た。僅かに生成されたBaCOは、濾過によって除去した。そして、3.7002gのチタニウムテトライソプロポキシド([(CHCHO]Ti)を、イソプロピルアルコール8mlに溶かし、これを、水酸化バリウム溶液に加え、混合溶液を得た。
【0073】
(b)この混合溶液をテフロン(登録商標)製容器(耐薬品性容器)に入れ、粉砕解砕用の直径5mmのZrOボールを、テフロン(登録商標)製容器の体積の1/2まで加えた。更に、このテフロン(登録商標)製容器をステンレス製容器(耐熱耐圧容器、100ml)にセットし、水熱合成を行った。具体的には、テフロン(登録商標)製容器をステンレス製容器にセットしてなる容器を、回転数150rpmで回転させながら、昇温速度5℃/minで、100℃まで上げ、2時間保持して、冷却し、容器内に沈殿物を得た。そして、沈殿物を、洗浄した後、凍結乾燥を行うことで、ナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末を得た。
【0074】
得られたチタン酸バリウム粉末のX線回折を行ったところ、確かにチタン酸バリウムの(セラミック)粉末であることが確認された。更に、SEMにより、粉末形態、粒子形態を観察したところ、チタン酸バリウム粉末のナノ粒子(一次粒子)は10〜50nmであり、そのナノ粒子が凝集した凝集粒子が存在していたが、その凝集粒子は、サブミクロンサイズのほぼ均一径であり、粒度分布幅の狭い形態を有していた。
【0075】
(c)得られた(ナノ粒子からなる)チタン酸バリウム粉末の量に対して、0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量を1体積%とし、両者を、乳鉢にて、5分間、乾式混合し、ナノ粒子とコア粒子とを機械的に混合させたチタン酸バリウム粉末を得た。
【0076】
(d)得られたチタン酸バリウム粉末を使用して、2000Nでプレス成形し、更に、静水中で100MPaの圧力をかけ静水圧成形を行い、4体の成形体を得た。得られた4体の成形体の平均の相対密度は46%であった(図7を参照)。先の実施例1における相対密度と比較すると、かなり低い値である(図7を参照)。
【0077】
(e)次いで、得られた4体の成形体を、それぞれ個別に、昇温速度100℃/hで、所定の温度(800℃、900℃、1000℃、1100℃)まで上げ、5時間、常圧で焼成し、焼成温度の異なるチタン酸バリウムの焼結体を得た。
【0078】
そして、得られた焼結体の相対密度と収縮率(線収縮率)を測定した。結果を、図8及び図9に示す。焼成温度900℃で相対密度85%、収縮率19%、1000℃で相対密度95%、収縮率23%であった。低温焼結が可能であることを確認することが出来た。実施例1と比較すると、低温焼結性は小さく、収縮も抑えられていないことがわかる。即ち、単にナノ粒子とコア粒子とを機械的に混合するだけでは、低収縮、且つ低温焼結を可能とするセラミックス粉末を得ることは不可能なのである。
【0079】
(比較例2)ナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量に対して、0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量を5体積%としたこと以外は、比較例1の(a)〜(d)と同様にして、チタン酸バリウム粉末を製造し、それを用いて4体の成形体を得た。得られた4体の成形体の平均の相対密度は48%であった(図7を参照)。先の実施例2における相対密度と比較すると、かなり低い値である(図7を参照)。
【0080】
そして、比較例1の(e)と同じ条件で、4体の成形体を焼成し、焼結体を得て、その焼結体の相対密度と収縮率(線収縮率)を測定した。結果を、図8及び図9に示す。900℃で相対密度64%、収縮率10%、1000℃で相対密度90%、収縮率19%となった。実施例2と比較すると、低温焼結性は小さく、収縮も抑えられていないことがわかる。
【0081】
(比較例3)ナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量に対して、0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量を10体積%としたこと以外は、比較例1の(a)〜(d)と同様にして、チタン酸バリウム粉末を製造し、それを用いて4体の成形体を得た。得られた4体の成形体の平均の相対密度は51%であった(図7を参照)。先の実施例3における相対密度と比較すると、かなり低い値である(図7を参照)。
【0082】
(比較例4)0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末のみを使用して、2000Nでプレス成形し、更に、静水中で100MPaの圧力をかけ静水圧成形を行い、5体の成形体を得た。次いで、得られた5体の成形体を、それぞれ個別に、昇温速度100℃/hで、所定の温度(1100℃、1200℃、1250℃、1300℃、1350
℃)まで上げ、5時間、常圧で焼成し、焼成温度の異なるチタン酸バリウムの焼結体を得た。そして、得られた焼結体の相対密度と収縮率(線収縮率)を測定した。結果を、図8及び図9に示す。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係るセラミックス粉末の製造方法は、例えば電子部品材料を構成するためのセラミック粉末を製造する手段として好適に利用される。本発明に係るセラミックス粉末の製造方法によって製造されるセラミックス粉末が、チタン酸バリウム粉末である場合には、このチタン酸バリウム粉末は、積層セラミックスコンデンサ(MLCC)、サーミスタ、及び抵抗体等の誘電材料、圧電材料、半導体、その他各種電子部品材料を構成するための材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で用いられる装置の一例を示す模式図であり、ボールミル工程と水熱合成工程を同時に行える装置を表した図である。
【図2】本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製されたセラミックス粉末の、粒子のTEM(透過型電子顕微鏡)による写真である。
【図3】本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製されたセラミックス粉末の、粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)による写真である。
【図4】本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製されたセラミックス粉末の、X線回折測定結果を示すグラフである。
【図5】本発明に係るセラミックス粉末の製造方法で作製されたセラミックス粉末を用いて成形し焼成して得られた、焼結体のSEM(走査型電子顕微鏡)による写真である。
【図6】図5に示される焼結体のX線回折測定結果を示すグラフである。
【図7】実施例の結果を示すグラフであり、ナノ粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量に対する0.3μmのコア粒子からなるチタン酸バリウム粉末の量の比(体積%)と、成形体の相対密度(%)と、の関係を示すものである。
【図8】実施例の結果を示すグラフであり、焼結体を得るのに要した焼成温度(℃)と、焼結体の相対密度(%)と、の関係を示すものである。
【図9】実施例の結果を示すグラフであり、焼結体を得るのに要した焼成温度(℃)と、焼結体の収縮率(%)と、の関係を示すものである。
【図10】実施例のうち実施例2において、1000℃で焼成した焼結体の、SEMによる写真である。
【図11】(a)は、実施例のうち実施例2において、900℃で焼成した焼結体の破断面の、SEMによる写真であり、(b)は、実施例のうち実施例5において、900℃で焼成した焼結体の破断面の、SEMによる写真である。
【符号の説明】
【0085】
1:耐熱耐圧容器
2:粉砕混合用ボール
3:回転軸棒
4:ヒーター
5:耐薬品性容器
6:容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノサイズのセラミックス粒子を構成する材料と、サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末と、を予め混合した原料を用い、これを水熱合成し、
ナノサイズのセラミックス粒子を合成しつつ、同時に、ナノサイズのセラミックス粒子をサブミクロンサイズのセラミックス粒子の表面に被覆させる工程を含むセラミックス粉末の製造方法。
【請求項2】
前記サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末を、粉砕しながら水熱合成する請求項1に記載のセラミックス粉末の製造方法。
【請求項3】
前記サブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末を、ボールミルにより粉砕する請求項2に記載のセラミックス粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ナノサイズのセラミックス粒子と、サブミクロンサイズのセラミックス粒子とが、同じ材料で構成される請求項1〜3の何れか一項に記載のセラミックス粉末の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックス粉末が、チタン酸バリウム(BaTiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、チタニア(TiO)、チタン酸鉛(PbTiO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、炭化珪素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si)、モリブデン酸リチウム(LiMoO)、窒化チタン(TiN)、又はムライト(3Al・2SiO)のセラミックス粉末である請求項1〜4の何れか一項に記載のセラミックス粉末の合成方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載のセラミックス粉末の製造方法により製造された、セラミックス粒子の径が0.1〜1μmであるセラミックス粉末。
【請求項7】
1000℃以下の焼成温度で、焼結が可能な請求項6に記載のセラミックス粉末。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のセラミックス粉末を成形してなる、相対密度が95%以上である成形体。
【請求項9】
請求項6又は7に記載のセラミックス粉末を成形し焼成してなる、結晶構造が正方晶である焼結粒により構成された焼結体。
【請求項10】
焼成時の収縮率が20%以下である請求項9に記載の焼結体。
【請求項11】
ナノサイズのセラミックス粒子を、そのセラミックス粒子と同じ材料で構成されたサブミクロンサイズのセラミックス粒子に、被覆させる方法であって、
ナノサイズのセラミックス粒子を構成する材料と、そのセラミックス粒子と同じ材料のサブミクロンサイズのセラミックス粒子からなるセラミックス粉末と、を予め混合した原料を用い、これを水熱合成することを含むセラミックス粒子の被覆方法。

【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−127258(P2008−127258A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315944(P2006−315944)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】