説明

セラミック多層基板の製造方法

【課題】液滴を用いて形成したパターンの加工精度を向上させたセラミック多層基板の製造方法を提供する。
【解決手段】各グリーンシート23に導電性インクの液滴を吐出して液状パターンを描画する工程と、液状パターンを乾燥して乾燥パターンPDを形成する工程と、各グリーンシート23を順に積層して積層体を形成する工程と、積層体を焼成してセラミック多層基板を形成する工程とを有し、各グリーンシート23を積層する前に、各グリーンシートの乾燥パターンPDにそれぞれ押圧ローラ30を押し当てて乾燥パターンPDをグリーンシート23に埋没させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック多層基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics )技術は、グリーンシートと金属との一括焼成を可能にすることから、セラミックの層間に各種の受動素子を組み込んだ素子内蔵基板を具現できる。システム・オン・パッケージ(SOP)の実装技術においては、電子部品の複合化や表面実装部品に発生する寄生効果の最小化を図るため、この素子内蔵基板(以下単に、LTCC多層基板という。)に関わる製造方法が鋭意開発されている。
【0003】
LTCC多層基板の製造方法では、複数のグリーンシートの各々に受動素子や配線等のパターンを描画する描画工程と、該パターンを有する複数のグリーンシートを積層して積層体を圧着する圧着工程と、該積層体を一括焼成する焼成工程とが順に実施されている。
【0004】
描画工程は、各種パターンの高密度化を図るため、導電性インクを微小な液滴にして吐出する、いわゆるインクジェット法が提案されている(例えば、特許文献1)。インクジェット法は、数ピコリットル〜数十ピコリットルの液滴を用い、該液滴の吐出位置の変更によってパターンの微細化や狭ピッチ化を可能にする。
【0005】
圧着工程は、各グリーンシートの積層状態の安定化を図るため、該積層体に静水圧を加える、いわゆる静水圧成型法が提案されている(例えば、特許文献2〜4)。静水圧成型法は、積層体を減圧包装し、加熱した液体中に該積層体を静置して液体の静圧を上昇させる。これよって、積層体への等方的な加圧を可能にする。
【特許文献1】特開2005−57139号公報
【特許文献2】特開平5−315184号公報
【特許文献3】特開平6−77658号公報
【特許文献4】特開2007−201245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12(a)は描画工程によるパターンの平面図であり、図12(b)は図12(a)のA−A断面図である。図13(a)は圧着工程によるパターンの平面図であり、図13(b)は図13(a)のA−A断面図である。
【0007】
インクジェット法に利用される導電性インクは、導電性微粒子の分散系であり、導電性粒子の粒径としては、一般的に、数nm〜数十nmが用いられる。図12(a)、(b)に示すように、描画工程を経て形成されたパターン101は、導電性微粒子102の集合体であり、焼成工程によって焼成されるまで、その状態を維持し続ける。
【0008】
上記圧着工程においては、上記パターン101を有する複数のグリーンシート103が一括積層され、大気圧によって押圧された後に静水圧で圧着される。圧着工程において加圧される各グリーンシート103は、互いに圧着して1つの連続体となることにより、その層間にも等方的な圧力を加えられる。
【0009】
一方、各グリーンシート103の圧着途中においては、グリーンシート103の層間、すなわちパターン101に等方的な圧力を加え難い。焼成前の導電性微粒子は、グリーン
シート103との密着性や粒子間の結合力が弱いため、図13(a)、(b)に示すように、圧着工程時の異方的な圧力によって容易に押し潰されてしまう。この結果、上記圧着工程では、パターン101がグリーンシート103の主面に沿って延びるように変形し、所望のパターン領域104(図12及び図13における二点鎖線)から食み出してしまう。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、液滴を用いて形成したパターンの加工精度を向上させたセラミック多層基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のセラミック多層基板の製造方法は、複数のグリーンシートの各々に導電性インクの液滴を吐出して前記各グリーンシートに前記導電性インクからなる液状パターンを描画する工程と、前記各液状パターンを乾燥して乾燥パターンを形成する工程と、前記各グリーンシートを順に積層して積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成して前記セラミック多層基板を形成する工程とを有し、前記積層体を形成する工程は、前記グリーンシートを積層する前に、前記各グリーンシートの乾燥パターンにそれぞれ押圧手段を押し当てて前記乾燥パターンを前記各グリーンシートに埋没させる。
【0012】
本発明のセラミック多層基板の製造方法では、積層前の乾燥パターンが押圧手段の押圧を受けてグリーンシート内に埋没する。したがって、本発明のセラミック多層基板の製造方法では、乾燥パターンを予め埋没させることから、グリーンシートと乾燥パターンとの間の局所的な当接により生じる乾燥パターンへの応力に関して、均一化を図ることができる。よって、本発明のセラミック多層基板の製造方法は、乾燥パターンの形状を維持でき、液滴を用いて形成したパターンの加工精度を向上できる。
【0013】
本発明のセラミック多層基板の製造方法は、複数のグリーンシートの各々に導電性インクの液滴を吐出して前記各グリーンシートに前記導電性インクからなる液状パターンを描画する工程と、前記各液状パターンを乾燥して乾燥パターンを形成する工程と、前記各グリーンシートを順に積層して積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成して前記セラミック多層基板を形成する工程とを有し、前記積層体を形成する工程は、前記グリーンシートを積層するごとに、該グリーンシートの乾燥パターンに押圧手段を押し当てて該乾燥パターンを該グリーンシートに埋没させる。
【0014】
本発明のセラミック多層基板の製造方法では、グリーンシート上の乾燥パターンが、グリーンシートごとに押圧されて圧着前のグリーンシート内に埋没する。したがって、本発明のセラミック多層基板の製造方法では、乾燥パターンを予め埋没させることから、グリーンシートと乾燥パターンとの間の局所的な当接により生じる乾燥パターンへの応力に関して、均一化を図ることができる。よって、本発明のセラミック多層基板の製造方法は、乾燥パターンの形状を維持でき、液滴を用いて形成したパターンの加工精度を向上できる。
【0015】
このセラミック多層基板の製造方法は、前記積層体を形成する工程が、前記各グリーンシートの描画面に沿って押圧ローラを走査して前記乾燥パターンを前記各グリーンシートに押圧する構成であっても良い。
【0016】
このセラミック多層基板の製造方法は、押圧ローラの走査によって、乾燥パターンに加える押圧力の均一化を図ることができる。
このセラミック多層基板の製造方法は、前記押圧ローラの押圧面が、前記導電性インクを撥液する撥液性を有する構成が好ましい。
【0017】
このセラミック多層基板の製造方法は、押圧ローラへの導電性インクの付着を抑えられる。よって、このセラミック多層基板の製造方法は、押圧ローラの走査に伴う乾燥パターンの剥がれや描画面の汚染を抑えられる。
【0018】
このセラミック多層基板の製造方法は、前記積層体を形成する工程が、前記各グリーンシートを順に積層して減圧包装した後に前記各グリーンシートに加熱下で静水圧を加える構成であっても良い。
【0019】
このセラミック多層基板の製造方法は、乾燥パターンに対して大気圧や静水圧を加える前に、乾燥パターンをグリーンシートに埋没させられる。よって、このセラミック多層基板の製造方法は、液滴を用いて形成したパターンの加工精度を確実に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した第一実施形態を図1〜図8に従って説明する。図1は、本発明の製造方法を用いて製造したセラミック多層基板を有する回路モジュールの断面図である。
【0021】
図1において、回路モジュール10は、セラミック多層基板としての低温焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics )多層基板11と、LTCC多層基板11に接続された半導体チップ12とを有する。
【0022】
LTCC多層基板11は、積層された複数のLTCC基板13を有する。各LTCC基板13は、それぞれグリーンシートの焼結体であって、厚みが数十μ〜数百μmで形成されている。各LTCC基板13の層間には、それぞれ抵抗素子、容量素子、コイル素子等の各種の内部素子14と、各内部素子14に電気的に接続する内部配線15とが内蔵され、各LTCC基板13には、それぞれスタックビア構造やサーマルビア構造を成すビア配線16が形成されている。内部素子14、内部配線15、及びビア配線16は、それぞれ導電性微粒子の焼結体であり、導電性インクを用いるインクジェット法によって形成される。
【0023】
次に、上記LTCC多層基板11の製造方法を図2〜図8に従って説明する。図2はLTCC多層基板11の製造方法を示すフローチャートであり、図3は、各工程におけるグリーンシートの温度を示すタイムチャートである。図4〜図8はそれぞれLTCC多層基板11の製造方法を示す工程図である。
【0024】
図2において、LTCC多層基板11の製造方法では、LTCC基板13の前駆体であるグリーンシートに液状パターンを描画する描画工程(ステップS11)と、該液状パターンを乾燥する乾燥工程(ステップS12)とが順に実行される。また、LTCC多層基板11の製造方法では、複数のグリーンシートの各々に押圧処理を施す押圧工程(ステップS13)と、複数のグリーンシートを積層して積層体を形成する積層工程(ステップS14)と、各グリーンシートを圧着して圧着体を形成する圧着工程(ステップS15)と、該圧着体を焼成する焼成工程(ステップS16)とが順に実行される。
【0025】
図3において、描画工程、及び乾燥工程におけるグリーンシートの温度を、それぞれ描画温度Tp、及び乾燥温度Tdとし、押圧工程、及び積層工程におけるグリーンシートの温度を、それぞれ押圧温度Tr、及び積層温度Tsという。また、圧着工程、及び焼成工程におけるグリーンシートの温度をそれぞれ圧着温度Tc、及び焼成温度Taという。
【0026】
図4において、描画工程では、対象物としての積層シート20と、液滴吐出装置21と
が用いられる。積層シート20は、キャリアフィルム22と、キャリアフィルム22に塗布されたグリーンシート23とを有する。
【0027】
キャリアフィルム22は、描画工程や乾燥工程においてグリーンシート23を支持するためのフィルムであり、例えばグリーンシート23との剥離性や各工程における機械的耐性に優れたプラスチックフィルムを用いることができる。キャリアフィルム22には、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムを用いることができる。
【0028】
グリーンシート23は、ガラスセラミック粉末やバインダ等を含むガラスセラミック組成物からなる層である。グリーンシート23の膜厚は、内部素子14としてコンデンサ素子を形成する場合に数十μmで形成され、他の層においては100μm〜200μmで形成される。グリーンシート23は、ドクターブレード法やリバースロールコータ法等のシート成形法を用い、分散媒でスラリー化したガラスセラミック組成物をキャリアフィルム22の上に塗布し、該塗布膜をハンドリング可能な状態に乾燥することによって得られる。分散媒としては、例えば界面活性剤やシランカップリング剤等を用いることができ、ガラスセラミック粉末を均一に分散させるものであれば良い。
【0029】
ガラスセラミック粉末は、0.1μm〜5μmの平均粒径を有する粉末であり、例えばアルミナやフォルステライト等のセラミック粉末にホウ珪酸系ガラスを混合したガラス複合セラミックを用いることができる。また、ガラスセラミック粉末としては、ZnO−MgO−Al−SiO系の結晶化ガラスを用いた結晶化ガラスセラミック、BaO−Al−SiO系セラミック粉末やAl−CaO−SiO−MgO−B系セラミック粉末等を用いた非ガラス系セラミックを用いても良い。
【0030】
バインダは、ガラスセラミック粉末の結合剤としての機能を有し、焼成工程で分解して容易に除去できる有機高分子である。バインダとしては、例えばブチラール系、アクリル系、セルロース系等のバインダ樹脂を用いることができる。アクリル系のバインダ樹脂としては、例えばアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート化合物の単独重合体を用いることができる。また、アクリル系のバインダ樹脂としては、該(メタ)アクリレート化合物の2種以上から得られる共重合体、あるいは(メタ)アクリレート化合物と不飽和カルボン酸類等の他の共重合性単量体から得られる共重合体を用いることができる。なお、バインダは、例えばアジピン酸エステル系可塑剤、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)フタル酸エステル系可塑剤、グリコールエステル系可塑剤等の可塑剤を含有しても良い。
【0031】
積層シート20の外周には、所定孔径からなる円形孔(以下単に、位置決め孔Hという。)が打ち抜き加工によって形成されている。載置プレート24の位置決めピン24Pが各位置決め孔Hに挿通されることによって、描画面20aの各位置が液滴吐出装置21に対して位置決めされる。
【0032】
グリーンシート23には、打ち抜き加工やレーザ加工によって、数十μm〜数百μmの孔径からなる円形孔や円錐孔(以下単に、ビアホール23hという。)が貫通形成されている。ビアホール23hには、導体性ペーストを用いたスキージ法や導電性インクを用いたインクジェット法等によって、銀、金、銅、パラジウム等の導電材料が充填されている。
【0033】
液滴吐出装置21は、積層シート20を載置するための載置プレート24と、導電性インクIkを貯留するインクタンク25と、インクタンク25の導電性インクIkを描画面
20aに吐出する液滴吐出ヘッド26とを有する。
【0034】
載置プレート24は、積層シート20と略同じサイズの剛性材料からなる板材であって、積層シート20を位置決めするための位置決めピン24Pと、積層シート20を加熱するためのヒータ24Hとを有する。積層シート20が載置プレート24に載置されるとき、載置プレート24は、位置決めピン24Pを位置決め孔Hに挿通し、描画面20aの各位置を液滴吐出ヘッド26に対して位置決めする。また、積層シート20が載置プレート24に載置されるとき、載置プレート24は、ヒータ24Hを駆動して積層シート20を描画温度Tpに加熱する。
【0035】
導電性インクIkは、導電性微粒子Iaを分散媒Ibに分散させた導電性微粒子Iaの分散系であり、微小な液滴Dを吐出可能にするために、その粘度が20cP以下に調整されている。
【0036】
導電性微粒子Iaは、数nm〜数十nmの粒径を有する微粒子であり、例えば金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム等の金属、あるいはこれらの合金を用いることができる。分散媒Ibは、導電性微粒子Iaを均一に分散させるものであれば良く、例えば水や水を主成分とする水溶液系、あるいはテトラデカン等の有機溶剤を主成分とする有機系を用いることができる。
【0037】
液滴吐出ヘッド26は、インクタンク25に連通するキャビティ27と、キャビティ27に連通するノズル28と、キャビティ27に連結される圧力発生素子29とを有する。キャビティ27は、インクタンク25からの導電性インクIkを受けてノズル28に該導電性インクIkを供給する。ノズル28は、数十μmの開口を有するノズルであり、インクタンク25からの導電性インクIkを収容する。圧力発生素子29は、キャビティ27の容積を変更する圧電素子や静電容量素子、あるいはキャビティ27の温度を変更する抵抗加熱素子であり、キャビティ27の内部に所定圧力を発生させる。圧力発生素子29が駆動するとき、ノズル28は、導電性インクIkの気液界面(メニスカス)を振動させ、該導電性インクIkを数ピコリットル〜数十ピコリットルの液滴Dにして吐出する。
【0038】
描画工程では、積層シート20の描画面20aと液滴吐出ヘッド26とが所定方向に相対移動し、ノズル28からの複数の液滴Dがそれぞれ描画面20aに着弾して該描画面20aの上で合一する。これによって、所定方向に連続する液状パターンPLが描画面20aの上に形成される。この際、積層シート20の温度が描画温度Tpであることから、液状パターンPLは、分散媒Ibの一部の蒸発によって増粘して描画面20aに沿う濡れ広がりを抑える。
【0039】
なお、描画温度Tpが過剰に高くなると、キャリアフィルム22とグリーンシート23が熱変形を来たし、液滴Dの着弾精度が損なわれてしまう。そこで、描画温度Tpは例えば40℃〜80℃であって、液滴Dの着弾精度を十分に確保できるように、積層シート20の組成や導電性インクIkの組成に応じて適宜選択される。
【0040】
図5において、乾燥工程では、描画工程後の積層シート20が乾燥炉等の乾燥装置に搬入され、液状パターンPLを有する状態で乾燥温度Tdに加熱される。積層シート20の温度が乾燥温度Tdであることから、液状パターンPLは、その乾燥をさらに促進させる。これによって、液状パターンPLの分散媒Ibの殆どが蒸発し、導電性微粒子Iaの集合体からなる乾燥パターンPDが描画面20aの上に形成される。
【0041】
なお、乾燥温度Tdが過剰に高くなると、キャリアフィルム22とグリーンシート23
が熱変形を来たし、積層工程時における他の積層シート20との位置精度が損なわれてしまう。そこで、乾燥温度Tdは例えば40℃〜80℃であり、積層工程時の位置精度を確保できるように、積層シート20の組成や導電性インクIkの組成に応じて適宜選択される。
【0042】
図6において、押圧工程では、グリーンシート23を押圧するために押圧手段としての押圧ローラ30が用いられる。押圧ローラ30は、描画面20aの面積よりも大きい周面(以下単に、押圧面30aという。)を有するローラであり、その押圧面30aの全体に導電性インクIkを撥液する撥液性を有する。押圧ローラ30の押圧面30aは、乾燥パターンPDの硬度よりも低い硬度を有する弾性体で形成されている。
【0043】
押圧ローラ30は、所定の付勢力で下方に付勢され、描画面20aの上方に位置するときに押圧面30aを描画面20aに押し当てる。押圧ローラ30は、描画面20aに沿って走査されるとき、1回転するだけで描画面20aの全体に押圧面30aを押し当て、描画面20aの全体を所定の押圧力で均一に押圧する。乾燥パターンPDを押圧する押圧面30aは、自身よりも高い硬度の乾燥パターンPDの表面全体に略均一に当接し、乾燥パターンPDの表面全体を描画面20aの上で等方的に押圧する。
【0044】
押圧工程では、まず、載置プレート24がヒータ24Hを駆動してグリーンシート23を押圧温度Trに調整する。温調されたグリーンシート23は、押圧ローラ30の直下に搬送され、押圧ローラ30によって押圧処理が施される。押圧ローラ30に押圧される乾燥パターンPDは、描画面20aの上で等方的な押圧を受けることから、その形状を変形させることなく、グリーンシート23の内部に埋没する。この際、グリーンシート23が押圧温度Trに加熱されることから、グリーンシート23が軟化し、乾燥パターンPDの形状が、より確実に維持される。
【0045】
なお、押圧温度Trが過剰に高くなると、グリーンシート23が押圧ローラ30の押圧を受けて変形してしまう。そこで、押圧温度Trは例えば40℃〜80℃であり、グリーンシート23の変形を抑えられるように、グリーンシート23の組成やキャリアフィルム22の組成に応じて適宜選択される。
【0046】
図7において、積層工程では、複数のグリーンシート23を積層するためのベースプレート31が用いられる。ベースプレート31は、積層シート20と略同じサイズの剛性材料からなる板材であって、複数のグリーンシート23を位置決めする位置決めピン31Pを有する。
【0047】
積層工程では、まず、1層目の積層シート20が、グリーンシート23を上にした状態でベースプレート31に載置される。1層目の積層シート20は、上記押圧処理の施されたグリーンシート23を有し、位置決め孔Hへの位置決めピン31Pの挿通によって位置決めされる。次いで、2層目の積層シート20が描画面20aを下にした状態でベースプレート31に載置される。2層目の積層シート20は、上記押圧処理の施されたグリーンシート23を有し、位置決め孔Hへの位置決めピン31Pの挿通によって位置決めされ、キャリアフィルム22が剥離されることによって、2層目のグリーンシート23のみが1層目のグリーンシート23の上に積層される。以後同様に、所定層数のグリーンシート23が順に積層され、乾燥パターンPDを内蔵するグリーンシート23の積層体(以下単に、積層体32という。)が形成される。
【0048】
グリーンシート23が他のグリーンシート23に積層されるとき、層間の乾燥パターンPDは、上記の押圧処理によって描画面20aからグリーンシート23内に埋没する分だけ、他のグリーンシート23からの異方的な加圧を抑えられる。よって、この積層工程で
は、乾燥パターンPDの変形を抑制できる。
【0049】
図8において、圧着工程では、カバープレート33と真空包装袋35とが用いられる。カバープレート33は、ベースプレート31と略同じサイズの剛性材料からなる板材であって、各位置決めピン31Pを挿通可能にする複数の挿通孔33hを有する。真空包装袋35は、ベースプレート31、カバープレート33、及び積層体32を封入可能な柔軟性を有する包装袋である。
【0050】
圧着工程では、まず、位置決めピン31Pがカバープレート33の挿通孔33hに挿通され、ベースプレート31とカバープレート33とによって積層体32が挟持される。ベースプレート31とカバープレート33は、積層体32を挟持した状態で真空包装袋35に収容され、シーラ等を用いた吸引によって真空包装袋35の内部に真空封入される。真空封入された積層体32は、真空包装袋35、ベースプレート31、及びカバープレート33を介した大気圧を受けて圧着される。乾燥パターンPDに加わる大気圧は、グリーンシート23が乾燥パターンPDの略全面を覆うことから、乾燥パターンPDの表面の略全体にわたり等方的である。
【0051】
次いで、減圧包装後の積層体32が静水圧プレス装置に搬入され、該積層体32に静水圧が加えられることによって圧着体が形成される。積層体32は、静水圧を加えられる間、温水層からの熱量を受けて圧着温度Tcに加熱される。圧着温度Tcは各グリーンシート23を圧着させるための温度である。乾燥パターンPDに加わる圧力は、グリーンシート23が乾燥パターンPDの略全面を覆うことから、乾燥パターンPDの表面の略全体にわたり等方的である。よって、この圧着工程では、乾燥パターンPDの変形を抑制できる。
【0052】
焼成工程では、圧着工程で得られる圧着体がベースプレート31から取り出され、該圧着体が所定の焼成炉に搬入されて焼成される。焼成温度Taは、例えば800℃〜1000℃であって、グリーンシート23の組成に応じて適宜変更される。乾燥パターンPDとしてCuを用いる場合には、酸化防止のため還元雰囲気中で焼成するのが好ましい。銀、金、白金、パラジウム等を用いる場合には大気中で焼成しても良い。焼成工程では、圧着工程における静水圧よりも小さい圧力で圧着体を加圧しながら焼成しても良い。これによれば、LTCC多層基板11の平坦性が向上され、各グリーンシート23の反りや剥離を防止できる。
【0053】
次に、上記のように構成した第一実施形態の効果を以下に記載する。
(1)第一実施形態は、グリーンシート23を積層する前に、各グリーンシート23の乾燥パターンPDにそれぞれ押圧ローラ30を押し当てて乾燥パターンPDを各グリーンシート23に埋没させる。したがって、第一実施形態では、乾燥パターンPDを予め埋没させることから、グリーンシート23と乾燥パターンPDとの間の局所的な当接により生じる乾燥パターンPDへの不均一な応力に関して、均一化を図ることができる。よって、第一実施形態は、乾燥パターンPDの形状を維持でき、液滴Dを用いて形成したパターンの加工精度を向上できる。
【0054】
(2)しかも、共通する押圧ローラ30の走査によって乾燥パターンPDの全体を押圧することから、乾燥パターンPDに加える押圧力の均一化を図ることができる。ひいては、乾燥パターンPDを均一に埋没させることができ、パターンの加工精度をさらに向上させることができる。
【0055】
(3)第一実施形態では、押圧ローラ30の押圧面30aが導電性インクIkを撥液する撥液性を有する。したがって、第一実施形態は、押圧ローラ30への導電性インクIk
の付着を抑えられる。よって、押圧ローラ30の走査に伴う乾燥パターンPDの剥がれや描画面20aの汚染を抑えられる。
【0056】
(第二実施形態)
以下、本発明を具体化した第二実施形態を図9〜図11に従って説明する。第二実施形態は、第一実施形態における描画工程、乾燥工程、押圧工程及び積層工程を変更したものである。そのため、以下においては、その変更点について詳しく説明する。
【0057】
図9において、LTCC多層基板11の製造工程では、描画工程、乾燥工程、押圧工程、積層工程がグリーンシート23ごとに実施され、積層したグリーンシートの層数(実層数Na)が目標層数Npになるまで繰り返される。そして、目標層数Npからなる積層体32を形成すると、該積層体32を用いた圧着工程と焼成工程とが実施される。
【0058】
すなわち、図10に示すように、まず、第一実施形態と同じく、載置プレート24の上で1層目のグリーンシート23に乾燥パターンPDが形成され、該乾燥パターンPDへの押圧処理によって乾燥パターンPDが埋め込まれる。そして、1層目のグリーンシート23の上には、2層目のグリーンシート23が描画面20aを上にした状態で積層される。
【0059】
次いで、図11に示すように、2層目のグリーンシート23に乾燥パターンPDが形成され、該乾燥パターンPDへの押圧処理によって乾燥パターンPDが埋め込まれる。以後同様に、2層目のグリーンシート23の上には、3層目、4層目、…が描画面20aを上にした状態で順に積層され、実層数Naが目標層数Npになるまで、グリーンシート23が積層されるごとに、最上層のグリーンシート23に対して描画工程、乾燥工程、押圧工程が順に繰り返し実施される。
【0060】
上記のように構成した第二実施形態においても、第一実施形態と同じく、乾燥パターンPDの形状を維持でき、液滴Dを用いて形成したパターンの加工精度を向上できる。
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0061】
・上記実施形態では、押圧手段を押圧ローラに具体化したが、これに限らず、例えば押圧手段が流体であっても良く、乾燥パターンPDの表面全体を描画面20aの上で等方的に押圧するものであれば良い。
【0062】
・上記実施形態では、乾燥パターンPDの全てがグリーンシート23に埋没する構成を説明したが、これに限らず、乾燥パターンPDの一部がグリーンシート23に埋没する構成であっても良い。この構成においても、乾燥パターンが埋没する分だけ、乾燥パターンPDの変形を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】回路モジュールを示す断面図。
【図2】セラミック多層基板の製造方法を示すフローチャート。
【図3】各製造工程におけるグリーンシートの温度を示す図。
【図4】描画工程を示す工程図。
【図5】乾燥工程を示す工程図。
【図6】押圧工程を示す工程図。
【図7】積層工程を示す工程図。
【図8】圧着工程を示す工程図。
【図9】第二実施形態の製造方法を示すフローチャート。
【図10】第二実施形態の製造方法を示す工程図。
【図11】第二実施形態の製造方法を示す工程図。
【図12】(a)、(b)は、それぞれ従来例のセラミック多層基板の製造方法を示す図。
【図13】(a)、(b)は、それぞれ従来例のセラミック多層基板の製造方法を示す図。
【符号の説明】
【0064】
D…液滴、Ik…導電性インク、PD…乾燥パターン、PL…液状パターン、11…セラミック多層基板、23…グリーンシート、30…押圧ローラ、30a…押圧面、32…積層体、35…真空包装袋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック多層基板の製造方法であって、
複数のグリーンシートの各々に導電性インクの液滴を吐出して前記各グリーンシートに前記導電性インクからなる液状パターンを描画する工程と、
前記各液状パターンを乾燥して乾燥パターンを形成する工程と、
前記各グリーンシートを順に積層して積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成して前記セラミック多層基板を形成する工程とを有し、
前記積層体を形成する工程は、
前記各グリーンシートを積層する前に、前記各グリーンシートの乾燥パターンにそれぞれ押圧手段を押し当てて前記乾燥パターンを前記各グリーンシートに埋没させることを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
【請求項2】
セラミック多層基板の製造方法であって、
複数のグリーンシートの各々に導電性インクの液滴を吐出して前記各グリーンシートに前記導電性インクからなる液状パターンを描画する工程と、
前記各液状パターンを乾燥して乾燥パターンを形成する工程と、
前記各グリーンシートを順に積層して積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成して前記セラミック多層基板を形成する工程とを有し、
前記積層体を形成する工程は、
前記グリーンシートを積層するごとに、該グリーンシートの乾燥パターンに押圧手段を押し当てて該乾燥パターンを該グリーンシートに埋没させることを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセラミック多層基板の製造方法であって、
前記積層体を形成する工程は、
前記各グリーンシートの描画面に沿って押圧ローラを走査して前記乾燥パターンを前記各グリーンシートに埋没させることを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のセラミック多層基板の製造方法であって、
前記押圧ローラの押圧面は、前記導電性インクを撥液する撥液性を有することを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のセラミック多層基板の製造方法であって、
前記積層体を形成する工程は、
前記各グリーンシートを順に積層して減圧包装した後に前記各グリーンシートに加熱下で静水圧を加えることを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−105319(P2009−105319A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277749(P2007−277749)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】