説明

セラミド合成促進剤

【課題】肌荒れ、乾燥肌の予防または改善効果に優れたセラミド合成促進剤およびそれを配合する組成物を提供する。
【解決手段】化学式(1)で表される化合物および/またはこれらの塩は、セラミド合成促進効果に優れている(式中のR、Rはそれぞれ水素、アルキル基、アリール基、アシル基、酢酸エチレンから選ばれる)。また、これらの化合物を配合する組成物は、安全で肌荒れ、乾燥肌の予防または改善効果に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学式(1)で表される化合物および/またはこれらの塩を配合することを特徴とするセラミド合成促進剤に関し、特に肌荒れ、乾燥肌の防止に有効な組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミドは、皮膚の基底層から角質層に細胞が移行する際に、上層の有棘層および顆粒層で産生、分泌される層板顆粒の主成分であり、皮膚のバリア機能や水分保持能に重要な役割を果たす角質細胞間脂質を形成する。肌荒れの一因として乾燥や刺激物との接触や紫外線等による皮膚の炎症がある。乾燥や刺激物から肌を守るバリア機能の回復において、セラミドの産生を促進することが有効であるとされている。ヒト皮膚には、7系統のセラミドが存在することが確認されており、全種類のセラミドを角質層に存在する比率で補うことが理想的である。
【0003】
従来、この様な肌荒れ、乾燥肌の予防改善に有効な化粧料として、セラミドが種々の皮膚外用剤に配合されているが、ヒトの皮膚に存在する全種類のセラミドを適正な比率で補充することは技術的に困難であった。したがって、生体内におけるセラミド合成を促進する事が重要であると考えられる。セラミド合成促進剤としては、特許文献1や特許文献2が報告されている。なお、化学式(1)で表される化合物および/またはこれらの塩のセラミド合成促進効果については報告されていない。
【特許文献1】特開平8−217658号
【特許文献2】特開2001−220345号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のことから、肌荒れ、乾燥肌の改善効果に優れたセラミド合成促進剤が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この様な事情により、本発明者らは鋭意研究検討した結果、化学式(1)で表される化合物および/またはこれらの塩によりセラミド合成が促進されることを見出し、さらにそれらを含有する組成物に肌荒れ、乾燥肌の予防改善効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、化学式(1)で表される化合物および/またはそれらの塩を含有することを特徴とするセラミド合成促進剤である。R、Rはそれぞれ水素、アルキル基、アリール基、アシル基、酸化エチレンから選ばれる。
【0007】
本発明の化学式(1)で表される化合物および/またはそれらの塩は、天然由来のものを利用することができるほか、市販されているトコフェロールから常法により合成でき、下記の文献も参考にできる。
【特許文献3】特公昭61−20583
【特許文献4】特公平3−32558
【0008】
また、本発明においては化学式(1)の塩も使用可能であり、塩の種類は限定されないが、一般的にはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩が用いられる。とくにナトリウム塩であるdl−α−トコフェリルリン酸ジナトリウムは市販されており、利用ができる。
【0009】
本発明の化学式(1)で表される化合物および/またはこれらの塩を配合することを特徴とするセラミド合成促進剤を肌荒れ改善の目的で用いるには、通常全身的又は局所的に内用や外用により投与される。投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間などにより異なるが、通常成人1人当たり1回に1mg〜1g、好ましくは20mg〜200mgの範囲で1日1回から数回投与される。投与量は種々の条件で変動するので、上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要のある場合もある。
【0010】
本発明の経口投与のためのセラミド合成促進剤としては、食品、医薬部外品および医薬品のいずれにも用いることができ、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤などが挙げられる。上記化合物をそのまま使用しても良く、本発明の効果を損なわない範囲内で、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、香料、保存料、溶解補助剤、溶剤等を用いることができる。具体的には、乳糖、ショ糖、ソルビット、マンニット、澱粉、沈降性炭酸カルシウム、重質酸化マグネシウム、タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、セルロース又はその誘導体、アミロペクチン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、界面活性剤、水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、カカオ脂、ラウリン脂、ワセリン、パラフィン、高級アルコール等である。
【0011】
本発明の外用のためのセラミド合成促進剤は、化粧品、医薬部外品および医薬品のいずれにも用いることができ、その剤型としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ゲル剤、エアゾール剤、エッセンス、パック、洗浄剤、浴用剤、ファンデーション、打粉、口紅、軟膏、パップ剤等の皮膚に適用されるものが挙げられる。上記化合物をそのまま使用しても良く、本発明の効果を損なわない範囲内で、外用剤に用いられる成分である油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、金属石鹸、pH調整剤、防腐剤、香料、保湿剤、粉体、紫外線吸収剤、増粘剤、色素、酸化防止剤、美白剤、キレート剤等の成分を配合することもできる。
【0012】
本発明のセラミド産生促進剤中に配合される化合物の量は、剤型や期待する効果の程度により異なるが、通常0.001重量%以上、好ましくは0.1〜50重量%程度配合するのがよい。0.001重量%未満では十分な効果は望みにくい場合があり、50重量%を超えて配合した場合、効果の増強は認められにくく不経済である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の化学式(1)で表される化合物および/またはこれらの塩はセラミド合成促進効果に優れていた。また、これらの化合物を含有する組成物は、安全で肌荒れ、乾燥肌の改善効果に優れていた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明を詳細に説明するため、具体的な実施例を挙げ説明する。これらの実施例は効果を具体的に説明するもので、発明の範囲を限定するものではない。実施例中の配合量は重量%である。
【実施例1】
【0015】
本発明の化学式(1)で表される化合物および/またはそれらの塩は、処方例として下記の製剤化を行うことができる。
【0016】
処方例1 クリーム 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 2.0重量%
2.スクワラン 5.5
3.オリーブ油 3.0
4.ステアリン酸 2.0
5.ミツロウ 2.0
6.ミリスチン酸オクチルドデシル 3.5
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)3.0
8.ベヘニルアルコール 1.5
9.モノステアリン酸グリセリン 2.5
10.香料 0.1
11.1,3−ブチレングリコール 8.5
12.パラオキシ安息香酸エチル 0.05
13.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
14.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜9を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1および11〜14を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分10を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0017】
比較例1 従来のクリーム
処方例1において、dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウムを精製水に置き換えたものを従来のクリームとした。
【0018】
処方例2 化粧水 配合量
1.d−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 0.1重量%
2.1,3−ブチレングリコール 8.0
3.グリセリン 2.0
4.キサンタンガム 0.02
5.クエン酸 0.01
6.クエン酸ナトリウム 0.1
7.エタノール 5.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(40E.O.) 0.1
10.香料 適量
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜6および11と、成分7〜10をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合し濾過して製品とする。
【0019】
処方例3 乳液 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸ジナトリウム 0.5重量%
2.スクワラン 5.0
3.オリーブ油 5.0
4.ホホバ油 5.0
5.セタノール 1.5
6.モノステアリン酸グリセリン 2.0
7.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)3.0
8.ポリオキシエチレンソルビタン
モノオレエート(20E.O.) 2.0
9.香料 0.1
10.プロピレングリコール 1.0
11.グリセリン 2.0
12.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
13.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜8を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1および10〜13を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化して、かき混ぜながら冷却し、45℃で成分9を加え、さらに30℃まで冷却して製品とする。
【0020】
処方例4 ゲル剤 配合量
1.d−α−トコフェリルリン酸カリウム 0.1重量%
2.エタノール 5.0
3.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
4.ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.1
5.香料 適量
6.1,3−ブチレングリコール 5.0
7.グリセリン 5.0
8.キサンタンガム 0.1
9.カルボキシビニルポリマー 0.2
10.水酸化カリウム 0.2
11.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜5と、成分1および6〜11をそれぞれ均一に溶解し、両者を混合して製品とする。
【0021】
処方例5 軟膏 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 1.0重量%
2.ポリオキシエチレンセチルエーテル(30E.O.)2.0
3.モノステアリン酸グリセリン 10.0
4.流動パラフィン 5.0
5.セタノール 6.0
6.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
7.プロピレングリコール 10.0
8.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜5を加熱溶解して混合し、70℃に保ち油相とする。成分1および6〜8を加熱溶解して混合し、75℃に保ち水相とする。油相に水相を加えて乳化し、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0022】
処方例6 パック 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸カリウム 0.1重量%
2.ポリビニルアルコール 12.0
3.エタノール 5.0
4.1,3−ブチレングリコール 8.0
5.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
6.パラオキシエチレン硬化ヒマシ油(20E.O.) 0.5
7.クエン酸 0.1
8.クエン酸ナトリウム 0.3
9.香料 適量
10.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分1〜10を均一に溶解し製品とする。
【0023】
処方例7 ファンデーション 配合量
1.d−α−トコフェリルリン酸ジナトリウム 1.0重量%
2.ステアリン酸 2.4
3.ポリオキシエチレンソルビタン
モノステアレート(20E.O.) 1.0
4.ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)2.0
5.セタノール 1.0
6.液状ラノリン 2.0
7.流動パラフィン 3.0
8.ミリスチン酸イソプロピル 6.5
9.パラオキシ安息香酸ブチル 0.1
10.カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.1
11.ベントナイト 0.5
12.プロピレングリコール 4.0
13.トリエタノールアミン 1.1
14.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
15.二酸化チタン 8.0
16.タルク 4.0
17.ベンガラ 1.0
18.黄酸化鉄 2.0
19.香料 適量
20.精製水にて全量を100とする
[製造方法]成分2〜9を加熱溶解し、80℃に保ち油相とする。成分20に成分10をよく膨潤させ、続いて、成分1および11〜14を加えて均一に混合する。これに粉砕機で粉砕混合した成分15〜18を加え、冷却し、45℃で成分19を加え、かき混ぜながら30℃まで冷却して製品とする。
【0024】
処方例8 浴用剤 配合量
1.dl−α−トコフェリルリン酸ナトリウム 1.0重量%
2.炭酸水素ナトリウム 50.0
3.黄色202号 適量
4.香料 適量
5.無水硫酸ナトリウムにて全量を100とする
[製造方法]成分1〜5を均一に混合し製品とする。
【0025】
次に、本発明の効果を詳細に説明するため、実験例を挙げる。
【実施例2】
【0026】
実験例1 セラミド合成促進試験
マウスケラチノサイト由来細胞株であるPam212細胞を6cmディッシュに1×10個播種し、4日間培養した。その後、試料を最終濃度が5μMになるように添加し、さらに24時間培養を続けた。次に細胞をPBS(−)にて3回洗浄した後、ラバーポリスマンにて集め、凍結乾燥した。クロロホルム:メタノール(2:1)1mLにて細胞から脂質を抽出し、その中のセラミド量をKisicらの蛍光法(Kisic A. and Rapport M.M., Journal of Lipid Research, 15, 179−180 (1974))により測定した。すなわち、脂質を3N塩酸0.15mLにて100℃で2時間加水分解し、デシケーター中で乾燥、塩酸除去した後、酢酸エチル2mLと0.1M酢酸緩衝液(pH3.7)1.25mLを加え、よく撹拌した。次に、フルオレスカミン溶液(フルオレスカミン 7mg/25mL アセトン)0.25mLを加え、よく撹拌した後、遠心分離し、酢酸エチル層の蛍光強度をEx410nm、Em490nmにて測定した。試料未添加のセラミド合成量をコントロールとし、コントロールを100としたときの試料添加時のセラミド合成量の値をセラミドの合成率とした。
【0027】
これらの実験結果を表1に示した。その結果、化学式(1)で表される化合物および/またはそれらの塩は、コントロールと比較して優れたセラミド合成促進効果を示した。
【0028】
【表1】

【0029】
実験例2 使用試験
処方例1のクリーム及び比較例1のクリームを用いて、肌荒れ、乾燥肌に悩む女性30人(18才〜50才)を対象に1ヶ月間の使用試験を行った。使用後、肌荒れ、乾燥肌の改善作用をアンケートにより判定した。
【0030】
これらの試験結果を表2に示した。その結果、処方例1で得られるクリームは、比較例1で得られる従来のクリームよりも、肌荒れ、乾燥肌の予防改善効果に優れていた。なお、試験期間中、皮膚トラブルは一人もなく、安全性においても問題なかった。
【0031】
【表2】

【0032】
処方例2〜8について同様な使用試験を行ったところ、いずれも安全で優れた皮膚の老化防止効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の化学式(1)で表される化合物および/またはその塩は、優れたセラミド合成促進剤として用いることが出来る。また、安全で肌荒れ、乾燥肌の改善等を目的とする医薬品、医薬部外品、化粧品または食品に配合することが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)で表される化合物および/またはこれらの塩を配合することを特徴とするセラミド合成促進剤。


【請求項2】
、Rが水素原子であることを特徴とする請求項1記載のセラミド合成促進剤。
【請求項3】
請求項1および2記載のセラミド合成促進剤を含有することを特徴とする、肌荒れ、乾燥肌の予防又は改善効果に優れた組成物。

【公開番号】特開2006−232769(P2006−232769A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−52517(P2005−52517)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】