説明

セルロースエステル溶液及びその製造方法

【課題】 ろ過性に優れるとともに、ゲル化性や支持体(剥離性支持体)からの剥離性を効率よく制御できるセルロースエステル溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】 セルロースエステルと、このセルロースエステルに対する良溶媒(酢酸メチルなど)で構成された冷却溶媒とを含む混合物を冷却する第1の冷却工程、およびこの第1の冷却工程後の混合物を加温する第1の加温工程で構成された第1の冷却溶解工程を経て、セルロースエステル溶液を製造する方法(いわゆる冷却溶解法)において、さらに、前記第1の冷却工程が終了した後に前記セルロースエステルに対する貧溶媒(例えば、アルコール類)を添加する貧溶媒添加工程と、前記第1の冷却溶解工程および前記貧溶媒添加工程を経て得られた混合物を冷却する第2の冷却工程とを経ることによりセルロースエステル溶液を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貧溶媒(例えば、エタノール、ブタノールなどC1-4アルカノール類など)を含むセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)溶液とその製造方法、並びにこのセルロースエステル溶液から得られたフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテートなどのセルロースエステルは光学的等方性に優れるため、写真感光材料の支持体、液晶表示装置の偏光板保護フィルム、位相差フィルムやカラーフィルタなどとして利用されている。一般に、セルロースエステルフィルムは、溶液製膜法(ソルベントキャスト法)や溶融製膜法(メルトキャスト法)により製造されるが、平面性の高い良好なフィルムが得られることから、実用的には、溶液製膜法により製造されている。
【0003】
このような溶液製膜法では、セルロースエステルを溶媒に溶解した溶液(又はドープ)を支持体上に流延し、溶媒を蒸発させることによりフィルムを形成する。これまで、このようなセルロースエステル溶液(特にセルローストリアセテート溶液)では、通常の有機溶媒ではセルロースエステルを溶解することが困難であり、溶解性に優れる点で塩化メチレン(メチレンクロリド)が溶媒として使用されることが多かった。しかし、塩化メチレンのようなハロゲン系溶媒(特に塩素系溶媒)は、人体や環境に対する影響が大きく、使用が制限される傾向にあるため、塩化メチレンを使用することなく、セルロースエステル溶液(セルロースアセテート溶液)を調製することが望ましいが、セルロースエステルは、慣用の非ハロゲン系溶媒(アセトンなど)に対する溶解性が低く、通常の方法では、非ハロゲン系溶媒に溶解させるのが困難である。このため、セルロースエステル溶液を得る試みがなされており、このような方法として、酢酸メチルやアセトンなどの汎用の有機溶媒およびセルロースエステル(特にセルローストリアセテート)を含む混合系を冷却することによりセルロースエステルを溶解させる方法(いわゆる冷却溶解法)が知られている。
【0004】
一方、このようなセルロースエステル溶液は、ゲル化速度や支持体からの剥離性を制御(又は向上)するため、セルロースエステルに対する貧溶媒(例えば、エタノール、ブタノールなどのアルコール類など)を含んでいるのが好ましい。すなわち、セルロースエステル溶液が、貧溶媒を含んでいると、ドープを支持体上に流延してから、支持体上の成形フィルムを剥離するまでの時間を短縮でき、製膜工程の生産性を向上させることができる。
【0005】
以上のような観点から、塩化メチレンなどのハロゲン系溶媒(特に塩素系溶媒)を用いることなく、貧溶媒を含むセルロースエステル溶液を調製する種々の試みがなされている。例えば、特開平10−45917号公報(特許文献1)には、58.0乃至62.5%の平均酢化度を有するセルロースアセテートと、酢酸メチルを50重量%以上含む溶媒とを混合し、セルロースアセテートを溶媒により膨潤させる工程;膨潤混合物を−100乃至−10℃に冷却する工程、そして冷却した膨潤混合物を0乃至120℃に加温して溶媒中にセルロースアセテートを溶解させる工程からなるセルロースアセテート溶液の製造方法であって、上記膨潤工程において、セルロースアセテートの粒子を用い、該粒子の90重量%以上が0.1乃至4mmの粒子径を有するセルロースアセテート溶液の製造方法が開示されている。この文献の実施例2〜8では、特定の粒子径を有するセルロースアセテートと、酢酸メチルおよび貧溶媒(メタノール、エタノール、ブタノール、シクロヘキサンなど)の混合溶媒とを混合して膨潤させ、−50℃で冷却したのち、50℃まで加温することにより透明で均一な溶液を得たことが記載されている。
【0006】
また、特開平10−45950号公報(特許文献2)には、58.0乃至62.5%の平均酢化度を有するセルロースアセテートおよび有機溶媒との混合物であって、該有機溶媒が互いに異なる三種類の溶媒の混合溶媒であり、第1の溶媒が炭素原子数が4乃至12のケトンおよび炭素原子数が3乃至12のエステルから選ばれ、第2の溶媒が炭素原子数が1乃至5の直鎖状一価アルコールから選ばれ、第3の溶媒が沸点が30乃至170℃のアルコールおよび沸点が30乃至170℃の炭化水素から選ばれる混合物を−100乃至−10℃に冷却する工程、および冷却した混合物を0乃至100℃に加温して、有機溶媒中にセルロースアセテート溶液を溶解する工程からなるセルロースアセテート溶液の調製方法が開示されている。
【0007】
しかし、これらの文献に記載の方法では、酢酸メチルやアセトンなどの良溶媒と、アルコール類、炭化水素類などの貧溶媒とを予め混合して冷却溶解するため、セルロースアセテート溶液のろ過性が低下する。セルロースアセテート溶液のろ過性が低下すると、ろ圧の状況や未溶解物の閉塞などによるろ過材の交換を頻繁に交換する必要があるなどの問題を生じ、作業効率が低下する。また、これらの方法では、貧溶媒を含む系で冷却すると、溶解性(冷却溶解性)が低下し、冷却温度を低く設定するなどの方法が必要となるため、多量のエネルギーを消費する。
【0008】
特開平10−324774号公報(特許文献3)には、58.0乃至62.5%の平均酢化度を有するセルロースアセテートと、炭素原子数が3乃至12のエステル、炭素原子数が3乃至12のケトンおよび炭素原子数が3乃至12のエーテルから選ばれる有機溶媒との混合物を−100乃至−10℃に冷却する工程、および冷却した混合物を0乃至150℃に加温して有機溶媒中にセルロースアセテートを溶解する工程からなるセルロースアセテート溶液の調製方法であって、混合物を冷却する工程が終了してから、加温する工程前、工程中または工程後に、沸点が30乃至170℃のアルコールまたは沸点が30乃至170℃の炭化水素を混合物に添加するセルロースアセテート溶液の調製方法が開示されている。
【0009】
この文献に記載の方法では、冷却溶解後に貧溶媒を添加するため、比較的高い温度であっても、冷却溶解が可能である。しかし、このような方法でも、依然として、セルロースアセテート溶液のろ過性が低下する。
【0010】
一般に、冷却溶解法により得られたセルロースエステル溶液(特に、セルロースアセテート溶液)は、安定性(溶解安定性)が低く、溶液の移送時に配管中で未溶解物が発生したり、放置(製造装置の保守管理のための停止期間中の放置)中に、凝固などを生じる場合がある。そのため、特殊なセルロースエステルを用いて、安定性の高いセルロースエステル溶液を得る試みもなされている。
【0011】
例えば、特開平11−5851号公報(特許文献4)には、2位、3位および6位のアセチル置換度の合計が2.67以上であり、かつ2位および3位のアセチル置換度の合計が1.97以下である特定のセルロースアセテートを開示しており、このようなセルロースアセテートを用いると、冷却溶解法により安定した溶液(ドープ)が得られ、かつレタデーション値が低いセルロースアセテートフィルムが得られることが記載されている。具体的には、2位と3位のアセチル置換度の合計が1.95、6位のアセチル置換度が0.91、2位、3位および6位のアセチル置換度の合計が2.86であるセルロースアセテート17重量部、酢酸メチル/メタノール/n−ブタノール混合溶媒(混合比=80/15/5重量%)80.28重量部およびトリフェニルホスフェート(可塑剤)2.72重量部を含む膨潤混合物を−30℃まで冷却した後、室温まで加温し、さらに、冷却および加温の操作を、もう一回繰り返し、溶液を得たことが記載されている。
【0012】
また、特開2002−212338号公報(特許文献5)には、2位、3位のアシル置換度の合計が1.70以上1.90以下であり、かつ6位のアシル置換度が0.88以上であるセルロースアシレートを開示しており、このようなセルロースアシレートを用いると、冷却溶解法などにより、経時安定性にすぐれ、実用可能なドープ濃度領域において粘度の低いセルロースアシレート溶液を得ることができることが記載されている。
【0013】
さらに、特開2002−338601号公報(特許文献6)には、2位、3位および6位のアセチル置換度(2DS、3DS、6DS)が、(I)2DS+3DS<6DS×4−1.70、(II)2DS+3DS<−6DS×4+5.70、(III)2DS+3DS>1.80を満足するセルロースアセテートが開示されており、このようなセルロースアセテートを用いると、溶解性と粘度との調節が容易なセルロースアセテート溶液が得られることが記載されている。
【0014】
しかし、これらの文献に記載に特定のセルロースエステルでは、良溶媒で冷却溶解した溶液の安定性(又は冷却溶解における溶解性)を比較的向上できても、貧溶媒を含有させると、依然として溶液の溶解性、安定性の改善が不十分で、ろ過性を十分に改善できない。
【特許文献1】特開平10−45917号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開平10−45950号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開平10−324774号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平11−5851号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献5】特開2002−212338号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献6】特開2002−338601号公報(特許請求の範囲、段落番号[0012])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、貧溶媒を含んでいても、優れたろ過性を有するセルロースエステル溶液(特に、セルロースアセテート溶液)を製造する方法を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、ろ過性に優れるとともに、ゲル化性や支持体(剥離性支持体)からの剥離性を効率よく制御できるセルロースエステル溶液の製造方法、およびこの方法により得られるセルロースエステル溶液を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、塩化メチレンなどのハロゲン系溶媒を使用しなくても、製膜性および安定性(溶解安定性)に優れ、膜特性が良好なフィルム(例えば、光学フィルム)を形成できるセルロースエステル溶液の製造方法、この方法により得られるセルロースエステル溶液、およびこのセルロースエステル溶液から得られるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記のように、前記特許文献3(特開平10−324774号公報)の方法では、冷却溶解後の溶液に貧溶媒を添加することにより、比較的穏やかな条件下であっても、貧溶媒を含んだ溶媒組成にすることができる。しかし、この文献の方法で得られた溶液では、目視ではセルロースアセテートが溶解して、安定した溶液が得られたように見えるが、微小な未溶解物が残留しており、ろ過するとろ過係数が大きくなり、実用的なろ過ができないことが判明した。
【0019】
そこで、本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、セルロースエステル(特にセルロースアセテート)と、このセルロールエステルに対する良溶媒を含む溶媒とで構成された混合物を冷却した後、加温することにより、前記セルロースエステルを溶解させる方法(いわゆる冷却溶解法)において、前記混合物を、比較的高い良溶媒濃度で冷却した後に、前記セルロースエステルに対する貧溶媒を添加して、再度冷却すると、貧溶媒を含んでいても、セルロースエステルの溶解性を向上でき、優れたろ過性を有し、流延後のゲル化性や支持体からの剥離性を効率よく制御できる製膜性に優れたセルロースエステル溶液が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0020】
すなわち、本発明のセルロースエステル溶液の製造方法は、セルロースエステルと、このセルロースエステルに対する良溶媒で構成された冷却溶媒とを含む混合物を冷却する第1の冷却工程、およびこの第1の冷却工程後の混合物を加温する第1の加温工程で構成された第1の冷却溶解工程を経て、セルロースエステル溶液を製造する方法であって、前記第1の冷却工程が終了した後に前記セルロースエステルに対する貧溶媒を添加する貧溶媒添加工程と、前記第1の冷却溶解工程および前記貧溶媒添加工程を経て得られた混合物を冷却する第2の冷却工程とを含む。
【0021】
前記セルロースエステルは、セルロースアセテート(例えば、セルローストリアセテート)であってもよい。また、前記セルロースエステルは、グルコース単位の2位および3位の平均置換度の合計が1.75以上であり、かつグルコース単位の6位の平均置換度が0.80以上のセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)であってもよい。このような高置換度のセルロースエステル(特に、6位置換度が高いセルロースエステル)であっても効率よく溶解できる。
【0022】
前記第1の冷却工程では、セルロースエステルの溶解性を高めるため、通常、高濃度の良溶媒でセルロースエステルを冷却できる。そのため、前記第1の冷却工程において、例えば、セルロースエステルと、エステル類、ケトン類およびエーテル類から選択された少なくとも1種の良溶媒で構成され、良溶媒濃度が92重量%以上である冷却溶媒とを含む混合物を冷却してもよい。より具体的には、前記第1の冷却工程において、グルコース単位の2位および3位の平均置換度の合計が1.80以上であり、かつグルコース単位の6位の平均置換度が0.88以上のセルロースアセテートと、少なくとも酢酸メチルで構成され、良溶媒濃度が94重量%以上である冷却溶媒とを含む混合物を冷却してもよい。
【0023】
前記貧溶媒添加工程において、第1の加温工程の開始から第2の冷却工程の開始までの間に貧溶媒を添加してもよい。また、前記貧溶媒添加工程において、添加する貧溶媒が、アルコール類(例えば、C1-4アルカノールなどのアルカノール類)および炭化水素類から選択された少なくとも1種であってもよい。前記貧溶媒添加工程において、貧溶媒の添加量は、例えば、冷却溶媒を構成する良溶媒100重量部に対して、3〜50重量部程度であってもよい。
【0024】
代表的な本発明のセルロースエステル溶液の製造方法としては、以下の(i)〜(iii)のような方法が挙げられる。
【0025】
(i)セルロースエステルと、このセルロースエステルに対する良溶媒で構成された冷却溶媒とを含む混合物を、−10℃以下で冷却する第1の冷却工程、およびこの第1の冷却工程後の混合物を0℃以上に加温する第1の加温工程で構成された第1の冷却溶解工程を経て、セルロースエステル溶液を製造する方法であって、前記第1の冷却工程が終了した後に前記セルロースエステルに対する貧溶媒を添加する貧溶媒添加工程と、前記第1の冷却溶解工程および前記貧溶媒添加工程を経て得られた混合物を−10℃以下で冷却する第2の冷却工程と、この第2の冷却工程後の混合物を0℃以上に加温する第2の加温工程とを含むセルロースエステル溶液の製造方法。
【0026】
(ii)グルコース単位の2位および3位の平均置換度の合計が1.85以上であり、かつグルコース単位の6位の平均置換度が0.89以上のセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)と、このセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)に対する良溶媒で構成された冷却溶媒とを含む混合物を、−120℃〜−30℃で冷却する第1の冷却工程、およびこの第1の冷却工程後の混合物を0℃以上に加温する第1の加温工程で構成された第1の冷却溶解工程を経て、セルロースエステル(特に、セルロースアセテート)溶液を製造する方法であって、第1の加温工程の開始から第2の冷却工程の開始までの間に、アルカノール類を添加する貧溶媒添加工程と、前記第1の冷却溶解工程および前記貧溶媒添加工程を経て得られた混合物を、−120℃〜−30℃で冷却する第2の冷却工程と、この第2の冷却工程後の混合物を0℃以上に加温する第2の加温工程とを含むセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)溶液の製造方法。
【0027】
(iii)グルコース単位の2位および3位の平均置換度の合計が1.85以上であり、かつグルコース単位の6位の平均置換度が0.89以上のセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)と、少なくとも酢酸メチルで構成された良溶媒を94重量%以上の濃度で含む冷却溶媒とを含む混合物を、−100℃〜−40℃で冷却する第1の冷却工程、およびこの第1の冷却工程後の混合物を0℃以上に加温する第1の加温工程で構成された第1の冷却溶解工程を経て、セルロースエステル(特に、セルロースアセテート)溶液を製造する方法であって、第1の加温工程の開始から第2の冷却工程の開始までの間に、C1-4アルカノール類を添加する貧溶媒添加工程と、前記第1の冷却溶解工程および前記貧溶媒添加工程を経て得られた混合物を、−100℃〜−40℃で冷却する第2の冷却工程と、この第2の冷却工程後の混合物を0℃以上に加温する第2の加温工程とを含むセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)溶液の製造方法。
【0028】
本発明には、前記製造方法により得られるセルロースエステル溶液も含まれる。本発明のセルロースエステル溶液では、貧溶媒を含んでいるにもかかわらず、ろ過性が高く、例えば、溶液を構成する溶媒全体に対する貧溶媒濃度が10重量%以上(例えば、10〜30重量%程度)であり、温度25℃およびろ過圧力294kPaの条件下で測定したときのろ過度Kwが70以下(例えば、30〜70程度)であってもよい。
【0029】
また、本発明には、前記セルロースエステル溶液から得られるセルロースエステルフィルムも含まれる。このようなセルロースエステルフィルムは、光学フィルム、例えば、液晶表示装置用光学補償フィルム又は偏光板の保護フィルムであってもよい。
【0030】
なお、本明細書において、「良溶媒」とは、常温又は室温下ではセルロースエステルを溶解するか否かにかかわらず(通常、溶解せず)、冷却工程を経ることにより、セルロースエステルを溶解可能な溶媒を意味し、通常、炭化水素類、アルコール類である。また、本明細書において、「冷却工程」とは、所定の温度範囲(冷却温度範囲)でセルロースエステル(および溶媒)を含む混合物を保持(又は冷却)する工程を意味し、「加温工程」とは、冷却工程後のセルロースエステルを含む混合物を所定の温度範囲で保持する工程を意味する。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、セルロースエステルと良溶媒(酢酸メチルなど)を含む溶媒とで構成された混合物を冷却し、加温することにより、セルロースエステルを溶解させる冷却溶解法において、冷却後の混合物に貧溶媒を添加したのち、再度冷却することにより、貧溶媒を含んでいても、優れたろ過性を有するセルロースエステル溶液(特に、セルロースアセテート溶液)を得ることができる。このような方法により得られるセルロースエステル溶液では、ろ過性に優れるとともに、貧溶媒を含んでいるため、ゲル化性や支持体(剥離性支持体)からの剥離性を効率よく制御できる。さらに、本発明のセルロースエステル溶液では、アルコール類などの貧溶媒を使用することにより、塩化メチレンなどのハロゲン系溶媒を使用しなくても、製膜性および安定性(溶解安定性)に優れ、膜特性が良好なフィルム(例えば、光学フィルム)を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
[セルロースエステル溶液の製造方法]
本発明の製造方法は、セルロースエステルと、このセルロースエステルに対する良溶媒で構成された冷却溶媒とを含む混合物(混合物(A)ということがある)を冷却する第1の冷却工程、およびこの第1の冷却工程後の混合物を加温する第1の加温工程で構成された第1の冷却溶解工程を経て、セルロースエステル溶液を製造する方法であって、前記第1の冷却工程が終了した後に前記セルロースエステルに対する貧溶媒を添加する貧溶媒添加工程と、前記第1の冷却溶解工程および前記貧溶媒添加工程を経て得られた混合物(前記混合物(A)と区別するため、混合物(B)ということがある)を冷却する第2の冷却工程とを含む。
【0033】
(第1の冷却工程)
第1の冷却工程では、セルロースエステル、およびこのセルロースエステルに対する良溶媒で構成された冷却溶媒(又は第1の冷却溶媒)を含む混合物を冷却する。
【0034】
セルロースエステルとしては、アシル基(例えば、脂肪族アシル基)などを有する種々のセルロースエステルが挙げられる。代表的なセルロースエステルとしては、C1-10アルキルカルボニル基を有するセルロースエステル、例えば、セルロースアルキルカルボニルエステル(セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースC2-6アルキルカルボニルエステル類、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースアセチルC3-6アルキルカルボニルエステル類(脂肪族混酸エステル類))が例示できる。好ましいセルロースエステルは、セルロースC2-4アルキルカルボニルエステル類(特に、セルロースアセテート)やセルロースアセチルC3-4アルキルカルボニルエステル類(特に、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)である。光学フィルム分野においては、諸特性に優れるセルロースアセテート(セルロースジアセテート、セルローストリアセテート)を用いる場合が多い。これらのセルロースエステルは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0035】
セルロースエステルにおいてエステル基(アシル基)の平均置換度(セルロースを構成するグルコース単位の2,3および6位に置換するエステル基の総平均置換度)は、0.5〜3(例えば、1〜2.99)の範囲から選択でき、例えば、1.5〜3(例えば、2〜2.95)、好ましくは2.5〜3(例えば、2.6〜2.98)、さらに好ましくは2.7〜3(例えば、2.75〜2.97)程度であってもよい。本発明では、平均置換度が、2.6以上(例えば、2.65〜3)、好ましくは2.7以上(例えば、2.73〜2.98)、さらに好ましくは2.73以上(例えば、2.75〜2.95程度)、特に2.76以上(例えば、2.77〜2.93程度)の比較的高い置換度を有するセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)であっても、効率よく溶解させることができる。
【0036】
なお、混酸エステルにおいて、アセチル基の平均置換度は、例えば、1〜2.9(好ましくは1.5〜2.8、さらに好ましくは1.7〜2.7)程度、C3-6アシル基の平均置換度は、例えば、0.1〜1(好ましくは0.2〜0.8、さらに好ましくは0.3〜0.8)程度であってもよい。
【0037】
なお、セルロースエステルのうちセルロースアセテートの平均酢化度は、用途や特性に応じて、例えば、43.7〜62.5%(アセチル基の平均置換度1.7〜3)程度の範囲から選択でき、通常、57.5〜62.5%(アセチル基の平均置換度2〜3)、好ましくは58〜62.5%(例えば、58.8〜61.3%)程度であってもよい。特に、寸法安定性や耐湿性、耐熱性などが高く、フィルム(写真材料や光学材料用フィルム)などとして用いるためには、平均酢化度58〜62.5%、好ましくは58.5〜62%、さらに好ましくは59〜62%(例えば、60〜61%)程度のセルロースアセテート(セルローストリアセテート)を用いるのが有利である。
【0038】
なお、比較的高い置換度(特に、高い6位置換度)を有するセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)を用いると、冷却溶解におけるセルロースエステルの溶解性をより一層向上できる。このような高置換度のセルロースエステルにおいて、グルコース単位の2位および3位の平均置換度の合計(2位および3位に置換するエステル基又はアシル基の平均置換度の合計)は、1.6以上(例えば、1.67〜2程度)の範囲から選択でき、例えば、1.70以上(例えば、1.72〜1.97程度)、好ましくは1.75以上(例えば、1.77〜1.96程度)、さらに好ましくは1.80以上(例えば、1.82〜1.95程度)、特に1.85以上(例えば、1.86〜1.93程度)であってもよい。
【0039】
また、前記高置換度のセルロースエステルにおいて、グルコース単位の6位の平均置換度は、0.70以上(例えば、0.75〜1程度)の範囲から選択でき、例えば、0.80以上(例えば、0.85〜0.99程度)、通常、0.87以上(例えば、0.87〜0.99程度)、好ましくは0.88以上(例えば、0.88〜0.98程度)、さらに好ましくは0.89以上(例えば、0.90〜0.97程度)であってもよい。
【0040】
なお、このような高置換度のセルロースエステル(特に、セルロースアセテート)は、特開平11−5851号公報、特開2002−212338号公報、特開2002−338601号公報などに記載の方法により製造することができる。
【0041】
前記セルロースエステル(高置換度のセルロースエステル、特にセルロースアセテート)の分子間および分子内置換度分布は、溶解性の観点から、比較的小さい値であってもよい。すなわち、セルロースエステルの置換度は、「平均置換度」であり、セルロースエステルには、通常、総置換度が上記範囲よりも高いセルロースエステル構造(例えば、総置換度が3に著しく近いセルロースエステルなど)の部分が含まれており、このようなセルロースエステルは、通常、溶解性を低下させる。そのため、置換度分布を低くして、上記のような著しく高置換度のセルロースエステルの部分を少なくすると、この影響を緩和でき、冷却溶解における溶解性を向上できる。
【0042】
そのため、前記セルロースエステル(特に、セルロースアセテート)は、通常、波数3450〜3550cm-1(好ましくは3455〜3540cm-1、さらに好ましくは3460〜3530cm-1)に赤外線吸収スペクトルの吸収極大を有しており、この吸収極大の半値幅が、135cm-1以下(例えば、10〜135cm-1程度)程度、好ましくは130cm-1以下(例えば、30〜130cm-1程度)、さらに好ましくは125cm-1以下(例えば、50〜125cm-1程度)程度であってもよい。
【0043】
なお、「半値幅」は、波数(置換度に対応)を横軸(x軸)に、この波数における存在量を縦軸(y軸)とした場合のチャートのピークの高さの半分における幅であり、分布のバラツキの目安を表す指標である。このような前記半値幅の詳細および測定方法については、特開2002−338601号公報を参照できる。
【0044】
なお、前記セルロースアセテートは、アシル基の全てがアセチル基である場合が多いが、アセチル基以外のアシル基(例えば、プロピオニル基、ブチリル基など)をごく微量含むセルロースアセテートであってもよい。このため、前記セルロースアセテートにおいて、アシル基全体に対するアセチル基の割合は、例えば、98モル%以上(例えば、98.5〜100モル%程度)、好ましくは99モル%以上(例えば、99.3〜99.95モル%程度)、さらに好ましくは99.5モル%以上(例えば、99.8〜99.9モル%程度)であってもよい。
【0045】
平均置換度(アシル化度)は慣用の方法で測定でき、例えば、酢化度(アセチル化度)は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度に準じて単位重量あたりのアシル基のモル数を測定するとともに、さらに、ケン化によって遊離した各アシル基の比率を液体クロマトグラフィーで測定することにより算出できる。また、アシル化度は、1H−NMR、13C−NMRで分析することもできる。
【0046】
前記セルロースエステル(特に、セルロースアセテート)の粘度平均重合度は、100〜1000(例えば、150〜800)程度の範囲から選択でき、例えば、200〜500(例えば、230〜450)、好ましくは250〜400、さらに好ましくは270〜380(例えば、280〜350)程度であってもよい。
【0047】
なお、セルロースエステルは、粉末状、粒状、繊維状、破砕物などの種々の形状で使用できる。
【0048】
混合物(A)において、冷却溶媒を構成する良溶媒としては、セルロースエステルの種類(例えば、アシル基の種類、置換度や酢化度など)に応じて適宜選択でき、セルロースエステルを溶解可能な溶媒であれば特に限定されず、例えば、エステル類、ケトン類、エーテル類、ニトロアルカン(ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロパンなど)、ハロゲン系溶媒(例えば、塩化メチレンなどの塩素系溶媒)などが挙げられる。これらの良溶媒は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状構造や環状構造を有していてもよい。なお、塩化メチレンなどのハロゲン系溶媒(特に、塩素系溶媒)は、環境的な観点から、通常、良溶媒として使用しない場合が多い。すなわち、前記良溶媒(および冷却溶媒)は、通常、ハロゲン系溶媒を含まない。
【0049】
代表的なエステル類としては、例えば、ギ酸エステル(例えば、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチルなどのギ酸C1-10アルキルエステル)、酢酸エステル[酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸アミルなどの酢酸C1-10アルキルエステル(好ましくは酢酸C1-6アルキルエステル、さらに好ましくは酢酸C1-4アルキルエステル)、酢酸2−メトキシエチル、酢酸2−エトキシエチルなどの酢酸C1-4アルコキシC1-4アルキルエステルなど]、プロピオン酸エステル(例えば、プロピオン酸エチルなどのプロピオン酸C1-10アルキルエステル)などの脂肪族カルボン酸エステル[例えば、アルカンカルボン酸エステル(例えば、C2-6アルカンカルボン酸−C1-10アルキルエステル、好ましくはC2-4アルカンカルボン酸−C1-6アルキルエステル)]などが挙げられる。
【0050】
代表的なケトン類としては、ジアルキルケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトンなどのジC1-6アルキルケトン、好ましくはジC1-4アルキルケトンなど)、シクロアルカノン(例えば、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどのC5-10シクロアルカノン、好ましくはC5-8シクロアルカノン)などが挙げられる。
【0051】
代表的なエーテル類としては、例えば、ジアルキルエーテル(例えば、ジイソプロピルエーテルなどのジC1-4アルキルエーテル)、アルキルフェニルエーテル(アニソールなど)、アルカンジオールモノ又はジアルキルエーテル[例えば、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなど)、ジメトキシメタン、ジエトキシエタンなどのジアルコキシアルカン]、環状エーテル(テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランなど)などが挙げられる。
【0052】
良溶媒は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。これらの良溶媒のうち、溶解性や実用的な観点から、酢酸エステル(例えば、酢酸メチルなどのC1-10アルキルエステル)が好ましい。特に、良溶媒は、少なくとも酢酸メチルで構成するのが好ましく、酢酸メチルと他の良溶媒とを組みあわせてもよい。良溶媒において、酢酸メチルと他の良溶媒との割合は、前者/後者(重量比)=100/0〜50/50、好ましくは99/1〜60/40(例えば、97/3〜70/30)、さらに好ましくは95/5〜80/20程度であってもよい。
【0053】
第1の冷却溶媒は、少なくとも前記良溶媒で構成されていればよく、溶解性を損なわない範囲であれば、セルロースエステルに対する貧溶媒を含んでいてもよい。貧溶媒としては、特に制限されず、例えば、炭化水素類、アルコール類などが挙げられる。貧溶媒は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状や環状構造を有していてもよい。
【0054】
代表的な炭化水素類としては、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどのアルカン類)、脂環族炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)などが挙げられる。
【0055】
代表的なアルコール類としては、例えば、脂肪族アルコール[例えば、アルカノール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノールなどのC1-8アルカノール、好ましくはC1-6アルカノール、さらに好ましくはC1-4アルカノール)など]、脂環族アルコール[例えば、シクロアルカノール(シクロヘキサノールなど)など]などが挙げられる。
【0056】
貧溶媒は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。これらの貧溶媒のうち、アルコール類[特に、C1-4アルカノール(例えば、エタノール、ブタノールなど)などのアルカノール類]が好ましい。
【0057】
冷却工程では、セルロースエステルを効率よく溶解させるため、比較的高い濃度の良溶媒の存在下でセルロースエステルを冷却するのが好ましい。そのため、第1の冷却溶媒中の良溶媒濃度は、80重量%以上(例えば、80〜100重量%程度)の範囲から選択でき、通常、90重量%以上(例えば、91〜99.9重量%程度)、好ましくは92重量%以上(例えば、93〜99.5重量%程度)、さらに好ましくは94重量%以上(例えば、94.5〜99重量%程度)、特に95%以上(例えば、96〜98重量%程度)であってもよい。
【0058】
前記混合物(A)は、必要に応じて、可塑剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0059】
なお、前記混合物(A)において、セルロースエステルの濃度は、1〜50重量%程度の範囲から選択でき、例えば、3〜30重量%、好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは8〜20重量%程度であってもよい。また、前記混合物において、冷却溶媒の割合は、セルロースエステル1重量部に対して、1〜100重量部の範囲から選択でき、例えば、3〜30重量部、好ましくは3〜20重量部、さらに好ましくは4〜10重量部程度であってもよい。
【0060】
冷却(第1の冷却)に供する前記混合物は、セルロースエステルおよび第1の冷却溶媒(および必要に応じて可塑剤などの添加剤)とを混合することにより得られる。このような混合により、通常、セルロースエステルが膨潤した混合物が得られる場合が多い。混合は、冷却下(例えば、−10〜10℃程度)又は加温下(例えば、30〜55℃程度)で行ってもよく、通常、常温又は室温下で行ってもよい。混合は、攪拌により行ってもよく、混合機などを用いて慣用の方法により行ってもよい。混合において、各成分の添加順序(混合順序)は、特に限定されず、例えば、第1の冷却溶媒として、良溶媒と微量の貧溶媒を用いる場合、セルロールエステルと貧溶媒とを混合したのち、良溶媒を混合してもよい。
【0061】
(第1の冷却工程)
以上のように調製された前記混合物は、第1の冷却工程に供される。冷却工程では、所定の冷却温度(冷却温度範囲)で前記混合物を保持することにより、後述する加温工程におけるセルロースエステルの溶解を促進させる。なお、冷却された前記混合物(A)は、通常、固化している場合が多い。
【0062】
第1の冷却工程において、冷却温度は、−10℃以下(例えば、−20〜−150℃程度)の範囲から選択でき、例えば、−30〜−120℃、好ましくは−40〜−100℃、さらに好ましくは−50〜−90℃程度であってもよい。
【0063】
冷却工程において、冷却時間(前記冷却温度(又は温度範囲)で保持されている時間)は、例えば、3時間以上(例えば、5時間〜10日間程度)、好ましくは6時間以上(例えば、8〜48時間程度)、さらに好ましくは10時間以上(例えば、12〜36時間程度)、特に15時間以上(例えば、16〜24時間程度)であってもよい。
【0064】
冷却は、冷却時における水分の混入を防止するため、密閉系で行ってもよい。また、冷却は、常圧下でおこなってもよく、冷却時間を短縮させるため、減圧下で行ってもよい。
【0065】
なお、冷却速度(前記所定の冷却温度に到達するまでの速度)は、出来る限り速いのが好ましく、例えば、1℃/分以上(例えば、2℃/分〜10000℃/秒)、好ましくは3℃/分以上(例えば、4℃/分〜1000℃/秒)程度であってもよい。
【0066】
(第1の加温工程)
前記第1の冷却工程を経た混合物は、第1の加温工程に供される。加温工程では、所定の温度(温度範囲)で前記混合物を保持し、セルロースエステルを溶解させる。
【0067】
加温工程において、加温は、0℃以上(例えば、0〜150℃程度)の範囲から選択でき、例えば、5℃以上(例えば、5〜100℃程度)、好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは15〜50℃(例えば、20〜40℃)程度の温度で行うことができ、常温又は室温(例えば、10〜30℃、好ましくは15〜25℃程度)で行ってもよい。加温は、簡便性の観点から、通常、常温又は室温で行う場合が多い。
【0068】
加温工程において、加温時間(前記温度(又は温度範囲)で保持されている時間)は、セルロースエステルを溶解できる限り特に制限されず、例えば、10分以上(例えば、30分〜24時間程度)、好ましくは1時間以上(例えば、2〜12時間程度)、さらに好ましくは2時間以上(例えば、3〜6時間程度)であってもよい。
【0069】
なお、加温速度(前記所定の温度に到達するまでの速度)は、例えば、1℃/分以上(例えば、2℃/分〜10000℃/秒)、好ましくは3℃/分以上(例えば、4℃/分〜1000℃/秒)程度であってもよい。また、加温は、常圧下でおこなってもよく、加温時間を短縮させるため、加圧下で行ってもよい。また、加温は、室温又は常温下で、前記混合物(又は前記混合物を含む系)を放置することにより行ってもよく、後述する貧溶媒の添加により相対的に前記混合物を含む系の温度を上昇させることにより行ってもよい。
【0070】
(貧溶媒添加工程)
貧溶媒添加工程では、前記第1の冷却工程を経た混合物(混合物(A))に貧溶媒を添加(および混合)する。すなわち、貧溶媒の添加は、少なくとも第1の冷却工程によりセルロースエステルの固化を経た(又はセルロースエステルが極端な高粘性状態を経た)後に行えばよく、例えば、前記第1の冷却工程が終了した後(すなわち、前記所定の冷却温度における冷却が終了した後)から、後述する第2の冷却工程の開始までの適当な段階において行うことができる。詳細には、前記第1の冷却工程の終了から前記第1の加温工程開始までの間、前記第1の加温工程の間、および第1の加温工程の終了から第2の冷却工程の開始までの間に至る過程において、貧溶媒を添加する。
【0071】
好ましい態様では、前記第1の加温工程の開始から第2の冷却工程の開始までの間(特に、加温工程の終了後から第2の冷却工程の開始までの間)に貧溶媒を添加する。
【0072】
貧溶媒としては、前記第1の冷却工程の項で例示の貧溶媒(例えば、アルコール類など)を使用することができる。貧溶媒添加工程において添加する好ましい貧溶媒としては、アルコール類[特に、C1-4アルカノール(例えば、エタノール、ブタノールなど)などのアルカノール類]が挙げられる。貧溶媒は、単独で又は2種以上組みあわせてもよい。例えば、貧溶媒を組みあわせる場合、比較的蒸発速度が早い貧溶媒(メタノール、エタノールなど)と、比較的蒸発速度が遅い貧溶媒(例えば、ブタノール、シクロヘキサノールなど)とを組みあわせてもよい。
【0073】
貧溶媒添加工程において、貧溶媒の添加回数は、一回であってもよく、複数回(例えば、2〜5回、好ましくは2〜3回程度)に分けて行ってもよい。また、貧溶媒の添加は、段階的(又は間欠的)に行ってもよく、連続的に行ってもよい。なお、貧溶媒の添加後の混合は、攪拌により行ってもよく、混合機などを用いて慣用の方法により行ってもよい。
【0074】
貧溶媒添加工程において、貧溶媒の添加量(又は総添加量)は、最終的に得られるセルロースエステル溶液中の貧溶媒濃度に応じて適宜選択でき、例えば、前記良溶媒(前記第1の冷却溶媒を構成する良溶媒)100重量部に対して、2〜100重量部の範囲から選択でき、例えば、3〜50重量部、好ましくは4〜40重量部、さらに好ましくは5〜30重量部程度であってもよい。
【0075】
なお、貧溶媒は、常温であってもよく、必要に応じて、例えば、第1の冷却工程後の系を効率よく加温する場合などにおいて、加温されていてもよい。
【0076】
なお、貧溶媒添加工程では、貧溶媒とともに、必要に応じて可塑剤(例えば、後述する可塑剤)などの添加剤を添加してもよい。
【0077】
(第2の冷却工程)
前記第1の冷却溶解工程(すなわち、前記第1の冷却工程、第1の加温工程)および前記貧溶媒添加工程を経て得られた混合物(混合物(B))は、第2の冷却工程において再び冷却される。通常、セルロースエステルを含む溶媒系に貧溶媒を添加すると、セルロースエステルの溶解性が低下し、得られるセルロースエステル溶液のろ過性が低下する。そして、このようなろ過性が低いセルロースエステル溶液は、膜の特性を低下させる。本発明では、第1の冷却工程(特に、良溶媒濃度が高い系での第1の冷却工程)に加えて、前記貧溶媒添加工程における貧溶媒の添加と、この添加後の再冷却(第2の冷却)とを組みあわせることにより、貧溶媒を含有させても、セルロースエステルの溶解性を改善又は維持でき、セルロースエステル溶液に優れたろ過性を付与できる。そのため、本発明のセルロースエステル溶液では、ろ過性を損ねることなく、支持体からの高い剥離性やゲル化速度などの製膜特性を付与でき、これらの特性をコントロールできる。
【0078】
第2の冷却工程において、冷却温度、冷却時間などの冷却条件は、前記第1の冷却工程の項に記載の冷却条件と同様であり、例えば、冷却温度は−10℃以下(例えば、−30〜−120℃、好ましくは−40〜−100℃、さらに好ましくは−50〜−90℃程度)、冷却時間は3時間以上[例えば、5時間〜10日間程度、好ましくは6時間以上(例えば、8〜48時間程度)、さらに好ましくは10時間以上(例えば、12〜36時間程度)、特に15時間以上(例えば、16〜24時間程度)]であってもよい。
【0079】
そして、通常、このような第2の冷却工程後の混合物(混合物(B)、セルロースエステル混合物)を、加温(再加温)する第2の加温工程を経て、最終溶解物としてのセルロースエステル溶液が得られる。第2の加温工程もまた、前記第1の加温工程と同様の加温条件[温度(例えば、0℃以上の加温)、加温時間(例えば、10分以上の加温時間)など)]で行うことができる。
【0080】
なお、前記製造方法は、前記第1の冷却溶解工程、貧溶媒添加工程および第2の冷却工程(および第2の加温工程)を少なくとも含んでいればよく、これらの工程後において、必要であれば、さらに貧溶媒添加工程および冷却工程(例えば、第2の貧溶媒添加工程および第3の冷却工程)を繰り返してもよい。
【0081】
[セルロースエステル溶液]
本発明のセルロースエステル溶液は、以上のようにして得られ、貧溶媒を含んでいるにもかかわらず、高いろ過性を有している。
【0082】
本発明のセルロースエステル溶液において、溶液を構成する溶媒全体(良溶媒および貧溶媒の総量)に対する貧溶媒濃度は、例えば、5重量%以上(例えば、6〜50重量%)、好ましくは8重量%以上(例えば、9〜40重量%)、さらに好ましくは10重量%以上(例えば、10〜30重量%)、特に12重量%以上(例えば、12〜20重量%程度)である。
【0083】
また、本発明のセルロースエステル溶液において、セルロースエステルの濃度は、例えば、1〜30重量%、好ましくは3〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%程度であってもよい。
【0084】
前記セルロールエステル溶液は、種々の添加剤、例えば、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、熱安定剤など)、滑剤(微粒子状滑剤)、帯電防止剤、着色剤、核剤(結晶核形成剤)、難燃剤、離型剤などを含んでいてもよい。また、前記セルロールエステル溶液は、添加剤として、レタデーション上昇剤(特開2001−139621号公報に記載のレタデーション上昇剤など)、剥離剤(特開2002−309009号公報に記載の剥離剤など)などを含んでいてもよい。
【0085】
可塑剤としては、特に限定されず、例えば、リン酸エステル[リン酸トリエチル、リン酸トリブチルなどのリン酸トリC1-12アルキルエステル、リン酸トリブトキシエチルなどのリン酸トリC1-6アルコキシC1-12アルキルエステル、リン酸2−エチルヘキシルジフェニルなどリン酸C1-12アルキルジアリールエステル、リン酸トリフェニル(TPP)、リン酸クレジルジフェニルなどのリン酸C1-3アルキル−アリールジアリールエステル、リン酸トリクレジル(TCP)、ビフェニルジフェニルホスフェートなどのリン酸トリアリールエステル、縮合型リン酸エステルなど]、芳香族カルボン酸エステル[フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)などのフタル酸ジC1-12アルキルエステル、フタル酸ジメトキシエチルなどのフタル酸C1-6アルコキシC1-12アルキルエステル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸C1-12アルキルアリール−C1-3アルキルエステル、エチルフタリルエチレングリコレートなどのC1-6アルキルフタリルC2-4アルキレングリコレート、トリメリット酸トリメチルなどのトリメリット酸トリC1-12アルキルエステル、ピロメリット酸テトラオクチルなどのピロメリット酸テトラC1-12アルキルエステルなど]、脂肪酸エステル[アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチルなどのアジピン酸エステル、アゼライン酸ジブチルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチルなどのセバシン酸エステル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチルなど]、多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトールなど)の低級脂肪酸エステル[トリアセチン(TA)、ジグリセリンテトラアセテートなど]、グリコールエステル(ジプロピレングリコールジベンゾエートなど)、クエン酸エステル[クエン酸アセチルトリブチル(OACTB)など]、アミド類[N−ブチルベンゼンスルホンアミド(BM−4)など]、エステルオリゴマー(カプロラクトンオリゴマーなど)などを含んでいてもよい。
【0086】
前記縮合型リン酸エステルとしては、例えば、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジクレジルホスフェート)などのレゾルシノールホスフェート類;ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)などのハイドロキノンホスフェート類;ビフェノールビス(ジフェニルホスフェート)などのビフェノールホスフェート類;ビスフェノール−Aビス(ジフェニルホスフェート)などのビスフェノール−Aホスフェート類;ビスフェノール−Sビス(ジフェニルホスフェート)などのビスフェノール−Sホスフェート類などが挙げられる。
【0087】
可塑剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0088】
前記セルロースエステル溶液において、添加剤(可塑剤など)の割合は、前記セルロースエステル100重量部に対して、0.5〜50重量部程度の範囲から選択でき、例えば、1〜40重量部、好ましくは3〜30重量部、さらに好ましくは5〜20重量部程度であってもよい。
【0089】
なお、添加剤は、前記第2の加温工程を経て得られたセルロースエステル溶液に対して添加してもよく、前記種々の工程において添加してもよい。例えば、可塑剤は、前記のように、第1の冷却工程に供する前の混合物に添加してもよく、貧溶媒添加工程において添加してもよい。
【0090】
前記のように、本発明のセルロースエステル溶液は、貧溶媒を含んでいるにも拘わらず、ろ過性が高い。前記セルロースエステル溶液のろ過度(Kw)は、温度25℃およびろ過圧力(圧力)294kPa(3kg/cm2)の条件下で測定したとき、例えば、75以下(例えば、20〜75)、好ましくは70以下(例えば、30〜70)、さらに好ましくは65以下(例えば、40〜65)程度である。ろ過度は、通常、ろ過(定圧ろ過)し、所定の濾材[通常、金巾(縦および横に23.5〜12tex程度の綿糸を用いた平織物)]を通過したろ過量に基づいて求めることができる。
【0091】
なお、「ろ過度(Kw)」は、溶液のろ過性の高さを表す指標であり、ろ過定数をkとするとき、Kw=k×10000(すなわち、kの一万倍)で表される。そして、ろ過定数kは、時間t1経過時におけるろ過量P1と、時間t2(≠t1)経過時におけるろ過量P2とから、下記式(1)により求めることができる。
【0092】
k={2−(P2/P1)}/2(P1+P2) (1)
(セルロースエステルフィルムおよびその製造方法)
本発明のセルロースエステル溶液は、種々の材料(フィルム、繊維など)に好適に利用できる。特に、前記セルロールエステル溶液は、ろ過性に優れているため、製膜(フィルム成形)に先だって、ろ過処理を要するフィルム(例えば、液晶表示装置用フィルムなどの高品質フィルム)を得るのに有用である。
【0093】
上記のように、セルロースエステルフィルムは、不純物を除去するため、必要に応じて、前記セルロースエステル溶液をろ過処理したのち、溶液製膜方法(流延法)などの慣用の方法により製膜して得ることができる。なお、ろ過処理は、通常、金網やネルなどの濾材を用いて、慣用の方法により行うことができる。
【0094】
前記溶液製膜方法では、前記セルロースエステル溶液(又はその濾液)を剥離性支持体に流延し(必要に応じてさらに乾燥し)、生成した膜を剥離性支持体から剥離して乾燥することによりセルロースエステルフィルムを製造できる。このような方法では、貧溶媒を含む前記セルロースエステル溶液を使用するので、流延後のゲル化性(ゲル化速度)や剥離性支持体からの剥離性を向上させるとともに効率よくコントロールでき、製膜性を向上できる。
【0095】
剥離性支持体は、通常、金属支持体(ステンレススチールなど)であってもよく、ドラム状やベルト状(エンドレスベルト状)であってもよい。支持体の表面は、通常、鏡面仕上げされ、平滑である場合が多い。
【0096】
なお、前記セルロースエステル溶液の流延後、通常、熱風などにより乾燥し(1次乾燥)、基材からフィルムを剥離し、さらに熱風などにより乾燥(2次乾燥)する場合が多い。乾燥条件は、溶媒組成やフィルムの厚みなどに応じて適当に選択できる。1次乾燥の温度(例えば、熱風温度)は、例えば、70〜200℃程度(好ましくは80〜150℃程度)であってもよく、乾燥時間は10秒〜10分程度であってもよい。本発明では、比較的多くの貧溶媒を含んでいるため、効率よくゲル化させることができる。また、2次乾燥の温度(例えば、熱風温度)は、例えば、80〜250℃(好ましくは100〜170℃程度)、乾燥時間1分〜2時間程度であってもよい。
【0097】
セルロースエステルフィルムの厚みは用途に応じて選択でき、例えば、3〜500μm(例えば、5〜200μm)、好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは20〜100μm程度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のセルロースエステル溶液(ドープ)は、貧溶媒を含んでいるにもかかわらず、ろ過性に優れている。また、前記セルロースエステル溶液は、塩化メチレンなどのハロゲン系溶媒を使用しなくても、高いろ過性と、ゲル化性や支持体からの剥離性のコントロールとを両立でき、製膜性が高い。そのため、本発明のセルロースエステル溶液は、種々の成形体、例えば、繊維、各種フィルム(包装用フィルム、光学フィルムなど)又はシートなどとして好適に利用できる。
【0099】
特に、本発明のセルロースエステル溶液(特に、セルロースアセテートなどのセルロースアシレート誘導体)は、安定性(溶解安定性)および製膜時の取扱性が高く、膜特性(表面平滑性、光学的特性など)が良好なフィルムを形成でき、種々の高品質なフィルム[例えば、カラーフィルタ、写真感光材料の基材フィルム、液晶表示装置用フィルム、偏光板の保護フィルム(例えば、偏光膜の少なくとも一方の面、特に両面の保護フィルム)、液晶表示装置用光学補償フィルム(位相差フィルムなど)などの光学フィルム]などとして好適に利用できる。
【実施例】
【0100】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、ろ過度Kwは以下のようにして測定した。
【0101】
(ろ過度の測定)
実施例1および比較例1〜4で得られたセルローストリアセテート溶液(試料)を、それぞれ、回転振とう機を用いて、8回転(8rpm)で2時間回転振とうさせたのち、25℃に設定した恒温水槽に40分入れ、25℃に整温した。
【0102】
一方、加圧機を備えたろ過機の下蓋に、規定濾材[金巾(綿ローン、日清紡生地 縦60番手130本、横60番手120本、250本打ち込み)3枚]、規定座金(15φ)、およびゴムパッキンの順に重ねて取り付けたのち、濾過器の下蓋に密着するようにメスシリンダーを配置し、加圧機およびろ過機の温度を温水ジャケットにより25℃に調整した。そして、前記濾材をアセトンにより湿らせた後、前記整温したセルローストリアセテート溶液を、漏斗を用いて、素早くろ過器(濾材)に注入し、ろ過機の上蓋を固く取り付け、温度25℃および圧力3kg/cm2(294kPa)条件下で、前記セルローストリアセテート溶液の流出量(ろ過量)を20分経過後および60分経過後に測定し、これらの測定値を前記式(1)に適用して、ろ過度を求めた。ろ過度は、これらの一連の操作を6回繰り返し(すなわち、合計6回測定し)、平均値として求めた。
【0103】
(合成例1)
α−セルロース含量が約97重量%の木材パルプを解砕後、同パルプ100重量部に対し、100重量部の氷酢酸を均一に散布し、室温で90分間攪拌混合した。予め冷却した無水酢酸245重量部、酢酸365重量部および硫酸10重量部の混合液中に、パルプを投入して、攪拌混合し、45℃以下で酢化反応を進行させた。反応系は、初期の段階では不均一な繊維状であったが、反応の進行と共に不透明な餅状から、淡黄色透明な水飴状に変化した。水飴状の反応混合物中に、未酢化の繊維片が見出されなくなったときを反応終了点とした。反応開始から反応終了まで約220分を要した。酢化反応終了時に、28.7重量部の酢酸マグネシウム水溶液(30重量%)を加え、過剰に存在する無水酢酸を加水分解すると共に硫酸の一部を中和し、これにより酢化反応を停止した。反応終了時の反応計内の残存触媒硫酸は、計算値で4重量部であった。
【0104】
次に、反応液を30分間で約60℃に昇温しながら、8.4重量部の酢酸マグネシウム水溶液(30重量%)を添加した。この後、系内浴濃度が約85重量%となるように水を添加して、さらに昇温させて70℃に安定させた。70℃で30分間熟成反応を続けた。反応終了時、約12.4重量部の酢酸マグネシウム水溶液(30重量%)を加え、硫酸を完全に中和し、反応を停止した。反応終了溶液は、激しく攪拌しながら多量の10重量%酢酸水溶液を投入して、セルロースアセテートを析出、分離させた。析出したセルロースアセテートを濾別により収集後、実質的に酢酸が含まれなくなるまで水洗した。その後、脱水および乾燥して、粉末のセルローストリアセテートを得た。得られたセルローストリアセテートの粘度平均重合度は、300であった。前述した手塚他の方法に従い、得られたセルロースアセテートをプロピオニル化処理した後、13C−NMRによる測定によって、2位、3位および6位のアセチル置換度を求めた。その結果、2位と3位のアセチル置換度の合計は1.91、6位のアセチル置換度は0.89、2位、3位および6位のアセチル置換度の合計は、2.80であった。
【0105】
(実施例1)
室温において、合成例1で得られたセルローストリアセテート50g(乾燥重量)、エタノール7.66g、トリフェニルホスフェート3.34g、酢酸メチル23.10gを混合して一分間攪拌したのち、15分放置した。さらに酢酸メチル233.97gを添加し、一分間攪拌して、セルロースアセテートを含む混合物を調製した。得られた混合物を−70℃の超低温冷蔵庫に約16時間保管して冷却(第1の冷却)し、冷却後の混合物を室温で約4時間放置した。放置後の温度は、室温(25℃)になっていた。
【0106】
4時間放置後の混合物(セルローストリアセテート溶液)に、ビフェニルジフェニルホスフェート2.66g、ブタノール11.55g、およびエタノール12.55gを添加し、一分間攪拌した。この混合物を−70℃の超低温冷蔵庫に約16時間保管して冷却し、冷却後の混合物を室温で約4時間放置し、均一なセルローストリアセテート溶液(セルローストリアセテートの濃度16重量%)を得た。なお、前記と同様に、放置後の温度は、室温(25℃)になっていた。
【0107】
(比較例1)
室温において、エタノール20.21g、酢酸メチル23.10gおよびブタノール11.55gを混合し、混合溶媒を得た。この混合溶媒、合成例1で得られたセルローストリアセテート50g、トリフェニルホスフェート3.34g、およびビフェニルジフェニルホスフェート2.66gを混合して一分間攪拌したのち、15分放置した。さらに酢酸メチル233.97gを添加し、一分間攪拌して、セルロースアセテートを含む混合物を調製した。得られた混合物を−70℃の超低温冷蔵庫に約16時間保管して冷却し、冷却後の混合物を室温で約4時間放置し、セルローストリアセテート溶液(セルローストリアセテートの濃度16重量%)を得た。放置後の温度は、室温(25℃)になっていた。
【0108】
(比較例2)
比較例1において、冷却時間を、約16時間にかえて約5日間にしたこと以外は、比較例1と同様にしてセルローストリアセテート溶液(セルローストリアセテートの濃度16重量%)を得た。
【0109】
(比較例3)
室温において、エタノール20.21g、酢酸メチル23.10gおよびブタノール11.55gを混合し、混合溶媒を得た。この混合溶媒、合成例1で得られたセルローストリアセテート50g、トリフェニルホスフェート3.34g、およびビフェニルジフェニルホスフェート2.66gを混合して一分間攪拌したのち、15分放置した。さらに酢酸メチル233.97gを添加し、一分間攪拌して、セルローストリアセテートを含む混合物を調製した。得られた混合物を−70℃の超低温冷蔵庫に約16時間保管して冷却し、冷却後の混合物を室温で約4時間放置し、セルローストリアセテート溶液を得た。放置後の温度は、室温(25℃)になっていた。
【0110】
得られたセルローストリアセテート溶液を、−70℃の超低温冷蔵庫に約16時間保管して再冷却し、冷却後の混合物を室温で約4時間放置し、セルローストリアセテート溶液(セルローストリアセテートの濃度16重量%)を得た。なお、前記と同様に、放置後の温度は、室温(25℃)になっていた。
【0111】
(比較例4)
室温において、合成例1で得られたセルローストリアセテート50g、エタノール7.66g、トリフェニルホスフェート3.34g、酢酸メチル23.10gを混合して一分間攪拌したのち、15分放置した。さらに酢酸メチル233.97gを添加し、一分間攪拌して、セルロースアセテートを含む混合物を調製した。得られた混合物を−70℃の超低温冷蔵庫に約16時間保管して冷却し、冷却後の混合物を室温で約4時間放置した。放置後の温度は、室温(25℃)になっていた。
【0112】
4時間放置後の混合物(セルローストリアセテート溶液)に、ビフェニルジフェニルホスフェート2.66g、ブタノール11.55g、およびエタノール12.55gを添加し、一分間攪拌し、セルローストリアセテート溶液(セルローストリアセテートの濃度16重量%)を得た。
【0113】
実施例1および比較例1〜4で得られたセルローストリアセテート混合物およびセルロースアセテート溶液の構成と、ろ過度とをあわせて表1に示す。なお、表1において、「溶媒全体」とは、セルローストリアセテート混合物(又は溶液)全体[すなわち、セルローストリアセテート、良溶媒(酢酸メチル)、貧溶媒(エタノール、ブタノール)および可塑剤(トリフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート)の総量]に対する溶媒の濃度(重量%)を意味し、「良溶媒全体(酢酸メチル)」、「貧溶媒全体」、「エタノール」、および「ブタノール」は、溶媒全体(すなわち、良溶媒および貧溶媒の総量)に対する濃度(重量%)を意味する。
【0114】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルと、このセルロースエステルに対する良溶媒で構成された冷却溶媒とを含む混合物を冷却する第1の冷却工程、およびこの第1の冷却工程後の混合物を加温する第1の加温工程で構成された第1の冷却溶解工程を経て、セルロースエステル溶液を製造する方法であって、前記第1の冷却工程が終了した後に前記セルロースエステルに対する貧溶媒を添加する貧溶媒添加工程と、前記第1の冷却溶解工程および前記貧溶媒添加工程を経て得られた混合物を冷却する第2の冷却工程とを含むセルロースエステル溶液の製造方法。
【請求項2】
セルロースエステルが、セルロースアセテートである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
セルロースエステルが、グルコース単位の2位および3位の平均置換度の合計が1.75以上であり、かつグルコース単位の6位の平均置換度が0.80以上のセルロースアセテートである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
第1の冷却工程において、セルロースエステルと、エステル類、ケトン類およびエーテル類から選択された少なくとも1種の良溶媒で構成され、良溶媒濃度が92重量%以上である冷却溶媒とを含む混合物を冷却する請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
第1の冷却工程において、グルコース単位の2位および3位の平均置換度の合計が1.80以上であり、かつグルコース単位の6位の平均置換度が0.88以上のセルロースアセテートと、少なくとも酢酸メチルで構成され、良溶媒濃度が94重量%以上である冷却溶媒とを含む混合物を冷却する請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
貧溶媒添加工程において、第1の加温工程の開始から第2の冷却工程の開始までの間に貧溶媒を添加する請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
貧溶媒添加工程において、添加する貧溶媒が、アルコール類および炭化水素類から選択された少なくとも1種であり、貧溶媒の添加量が、冷却溶媒を構成する良溶媒100重量部に対して、3〜50重量部である請求項1記載の製造方法。
【請求項8】
グルコース単位の2位および3位の平均置換度の合計が1.85以上であり、かつグルコース単位の6位の平均置換度が0.89以上のセルロースアセテートと、少なくとも酢酸メチルで構成された良溶媒を94重量%以上の濃度で含む冷却溶媒とを含む混合物を、−100℃〜−40℃で冷却する第1の冷却工程、およびこの第1の冷却工程後の混合物を0℃以上に加温する第1の加温工程で構成された第1の冷却溶解工程を経て、セルロースアセテート溶液を製造する方法であって、第1の加温工程の開始から第2の冷却工程の開始までの間に、C1-4アルカノール類を添加する貧溶媒添加工程と、前記第1の冷却溶解工程および前記貧溶媒添加工程を経て得られた混合物を、−100℃〜−40℃で冷却する第2の冷却工程と、この第2の冷却工程後の混合物を0℃以上に加温する第2の加温工程とを含む請求項2記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1記載の製造方法により得られるセルロースエステル溶液。
【請求項10】
溶液を構成する溶媒全体に対する貧溶媒濃度が10重量%以上であり、温度25℃およびろ過圧力294kPaの条件下で測定したときのろ過度Kwが70以下である請求項9記載のセルロースエステル溶液。
【請求項11】
請求項10記載のセルロースエステル溶液から得られるセルロースエステルフィルム。
【請求項12】
液晶表示装置用光学補償フィルム又は偏光板の保護フィルムである請求項10記載のセルロースエステルフィルム。

【公開番号】特開2006−137802(P2006−137802A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326549(P2004−326549)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】