説明

セレン化炉及び化合物半導体薄膜の製造方法並びに化合物薄膜太陽電池の製造方法

【課題】 セレン化を均一に且つ短時間で行うことができるセレン化炉及び化合物半導体薄膜の製造方法並びに化合物薄膜太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】 チャンバー11、14と、前記チャンバー11内にセレン化ガスを含む処理ガスを高圧で導入するガス供給源25、26と、前記ガス供給源と前記チャンバーとの間に設けられて当該チャンバー内に導入されるガスを常圧より高く所定の圧力に調整するガス圧調整手段28と、前記チャンバー内を加熱する加熱手段12と、前記チャンバー11内のガスを排出する排出手段22、29と、前記チャンバー内に被処理物2を載置するための置台18とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CIS系又はCIGS系太陽電池の光吸収層などとして用いることができる光電変換特性を有する化合物半導体薄膜を製造する化合物半導体薄膜の製造方法及びこれを製造するためのセレン化炉に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物薄膜系太陽電池の一つとして、カルコパイライト系等の太陽電池があり、CIS(Cu(In)Se)やCIGS(Cu(In,Ga)Se)などの太陽電池の量産化が検討されている。
【0003】
このようなカルコパイライト型太陽電池の光吸収層を製造する方法として、銅(Cu)、インジウム(In)及びガリウム(Ga)をスパッタリング等で成膜して合金薄膜を前駆体とし、これをHSeガスの雰囲気中でアニールすることにより、セレン化して化合物半導体薄膜からなる光吸収層とする方法が知られている(特許文献1、2など参照)。
【0004】
このような光吸収層の製造方法では、セレン化工程においては、一般的には、セレン化ガスを流しながら加熱する方法がとられ(特許文献3など参照)セレン化ガスの濃度の均一性や温度分布の均一性に問題があり、均一にセレン化するのが困難であった。また、セレン化ガスの腐食性が高く、有毒ガスの発生の可能性もあり、より安全な製造が可能な方法が要望される一方、セレン化工程にかかる時間の短縮も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−58893号公報
【特許文献2】特開2001−339081号公報
【特許文献3】特開2006−005326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、セレン化を均一に且つ短時間で行うことができるセレン化炉及び化合物半導体薄膜の製造方法並びに化合物薄膜太陽電池の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する本発明の第1の態様は、チャンバーと、前記チャンバー内にセレン化ガスを含む処理ガスを高圧で導入するガス供給源と、前記ガス供給源と前記チャンバーとの間に設けられて当該チャンバー内に導入されるガスを常圧より高く所定の圧力に調整するガス圧調整手段と、前記チャンバー内を加熱する加熱手段と、前記チャンバー内のガスを排出する排出手段と、前記チャンバー内に被処理物を載置するための置台とを具備することを特徴とするセレン化炉にある。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載のセレン化炉において、前記チャンバーは、内チャンバーと外チャンバーとからなる二重構造であり、前記内チャンバーと前記外チャンバーとの間の空間に内チャンバー内の圧力よりも高圧のガスを導入するバリアガス導入手段を具備することを特徴とするセレン化炉にある。
【0009】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載のセレン化炉において、前記内チャンバーが酸化ケイ素又は炭化ケイ素からなり、前記外チャンバーが金属製であることを特徴とするセレン化炉にある。
【0010】
本発明の第4の態様は、カルコパイライト型構造からなる化合物半導体薄膜の製造方法において、銅及びインジウム、又は銅、インジウム及びガリウムからなる反応前駆体薄膜を形成する工程と、前記反応前駆体薄膜をセレン化ガスを含む処理ガスを1kg/cm〜10kg/cmの圧力下で含む条件下で、500〜650℃で加熱してセレン化する工程とを含むことを特徴とする化合物半導体薄膜の製造方法にある。
【0011】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の反応前駆体薄膜を形成する工程と、セレン化する工程とを含むことを特徴とする化合物薄膜太陽電池の製造方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るセレン化炉の概略断面図である。
【図2】本発明のセレン化炉を用いてのセレン化処理のタイミングチャートの一例である。
【図3】比較としてのセレン化処理のタイミングチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るセレン化炉の概略断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るセレン化炉1は、内チャンバー11と、内チャンバー11を加熱する加熱手段であるヒーター12と、内チャンバー11との間に所定の空間13を形成するように設けられた外チャンバー14とを具備し、空間13は、内チャンバー11の下側開口に対応した開口部15を有する底板16により密閉される構造となっている。
【0014】
また、底板16の開口部15は、下方に移動可能に設けられた基台17により密封され、基台17上には、被処理物2を載置する置台18が設けられている。
【0015】
一方、内チャンバー11には、内チャンバー11内にガスを導入するガス導入配管21と、ガス排出配管22とが設けられ、外チャンバー14には、内チャンバー11と外チャンバー14との間の空間13にガスを導入する高圧ガス導入配管23が設けられている。
【0016】
ガス導入配管21には、処理ガス供給管24が接続され、処理ガス供給管24には、高圧ガス源25と、セレン化ガス源26とがガス混合器27を介して接続されている。また、処理ガス供給管24のガス混合器27の下流側には、ガス圧調整手段である圧力制御バルブ28が介装されている。
【0017】
また、ガス排出配管22には、ガス排出管29が接続されてガス排出手段を構成し、ガス排出管29には、圧力制御バルブ30が介装されている。
【0018】
さらに、高圧ガス導入配管23には、高圧ガス供給管31が接続され、高圧ガス供給管31には高圧ガス源32が接続され、高圧ガス供給管31の高圧ガス源32の下流には、ガス圧調整手段である圧力制御バルブ33が介装されている。
【0019】
そして、圧力制御バルブ28、30および33は、圧力制御手段34によりそれぞれ制御されるようになっている。また、ヒーター12は、温度制御手段35により制御されるようになっている。
【0020】
ここで、内チャンバー11は、例えば、石英(SiO)や炭化ケイ素(SiC)などの材料で形成され、外チャンバー14は、例えば、鉄系材料、ステンレス鋼などで形成されるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
処理ガス供給管24に接続される高圧ガス源25は、例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガスの高圧源であり、1kg/cm以上、10kg/cm未満、好ましくは4〜6kg/cm程度の圧力を有するものである。セレン化ガス源26は、セレン化水素(HSe)のガス源であり、不活性ガスに混合して用いられるので、高圧ガス源である必要はない。これら高圧ガス源25およびセレン化ガス源26からのガスは、ガス混合器27および圧力制御バルブ28を介してガス導入配管21から内チャンバー11内に導入されるが、セレン化ガスの濃度は、例えば、10〜60モル%程度とする。また、高圧ガス源25およびセレン化ガス源26からのガスの導入は、混合状態で行っても、別プロセスで行ってもよいが、結果的に内チャンバー11内に、所定の混合比で、所定の圧力で供給されればよい。勿論、これら高圧ガス源25およびセレン化ガス源26からのガスは、別々のガス供給配管から導入するようにしてもよい。何れにしても、圧力制御バルブ28および30を圧力制御手段34で制御することにより、内チャンバー11内を、例えば、1kg/cm以上、10kg/cm未満、好ましくは4〜6kg/cmの所定の圧力になるように保持する。
【0022】
また、高圧ガス導入配管23に接続される高圧ガス源32は、高圧ガス源25と同様の不活性ガス源であり、圧力も同程度の高圧ガス源であるが、圧力制御バルブ33を介して、内チャンバー11内の圧力よりも、例えば、0.2〜1kg/cm程度、好ましくは、0.4〜0.6kg/cm程度だけ高圧に設定して空間13内に導入される。
【0023】
温度制御手段35は、ヒーター12により内チャンバー11内の温度が、所定のタイミングで、所定の温度、例えば、500〜650℃程度になるように制御するものである。
【0024】
このようなセレン化炉1を用い、内チャンバー11内に被処理物2を載置した状態で、セレン化ガスおよび不活性ガスを導入して内チャンバー11内を高圧、例えば、5kg/cm程度とし、また、空間13には、例えば、5.5kg/cm程度の高圧不活性ガスを満たした状態でガスの供給を停止し、内チャンバー11内の温度を、例えば、500〜650℃程度になるように制御することにより、セレン化処理を行うことができる。
【0025】
この場合、内チャンバー11内は所定の濃度のセレン化ガスが均一状態で存在するので、均一なセレン化処理を行うことができる。すなわち、セレン化ガスを所定の流量で供給しながら行う処理と比較して、均一なセレン化処理を行うことができる。
【0026】
また、セレン化処理を高圧状態で行うことができるので、処理時間を短縮することができる。さらに、内チャンバー11を外チャンバー14で覆い、その間の空間13を内チャンバー11内の圧力より高圧に保持するようにしたので、仮に、内チャンバー11が破損するなどの事故が起きても、外チャンバー14の内側の高圧の空間13の存在により、安全が確保できる。
【0027】
以上説明したセレン化炉は、種々のセレン化処理に用いることができるが、例えば、CIS(Cu(In)Se)やCIGS(Cu(In,Ga)Se)などのカルコパイライト系化合物半導体薄膜を製造する処理に用いることができる。この場合、金属やポリイミドなどの耐熱性フィルムからなる基板上に、Cu、Inの合金薄膜、又はCu、In、Gaの合金薄膜を前駆体薄膜としてスパッタリングなどにより形成したものを被処理物として、上述したセレン化処理をする。これにより、カルコパイライト系の化合物半導体薄膜を製造することができる。
【0028】
また、本発明のセレン化炉は、化合物薄膜太陽電池の製造方法に用いることができる。すなわち、上述したカルコパイライト系の化合物薄膜の製造プロセスを太陽電池の光吸収層の製造プロセスに適用すれば、化合物薄膜太陽電池を製造することができる。すなわち、この太陽電池の製造方法は、公知の化合物薄膜太陽電池の製造プロセスにおいて、光吸収層を製造する際のセレン化を上述したセレン化炉を用いたセレン化プロセスで行うものである。
【0029】
図2に本発明のセレン化炉を用いてカルコパイライト系化合物半導体薄膜を製造した際のタイミングチャートの一例を示す。
【0030】
図2に示すように、内チャンバー11内に被処理物2を載置した後、セレン化ガスおよび不活性ガスを導入して(圧力プロセスA)、内チャンバー11内のセレン化ガス濃度を所定濃度とすると共に圧力制御バルブ28および必要に応じて圧力制御バルブ30を制御して内チャンバー11内の圧力を5kg/cmに保持し、この時点でガス供給を停止する(圧力プロセスB)。次に、内チャンバー11内の温度を600℃まで上昇させる(温度プロセスa)。この際、圧力制御バルブ30を制御し、内チャンバー11内の圧力を5kg/cmに保持する(圧力プロセスC)。温度は600℃になった時点から所定時間600℃で保持し、(温度プロセスb)、ヒーター12をオフとして降温し(温度プロセスc)、所定の温度、例えば、100℃程度に冷却した時点で取り出す。なお、降温プロセスでは、圧力は徐々に低下する(圧力プロセスD)。
【0031】
なお、このタイミングチャートは、一例であり、この処理プロセスに制限されるものではない。例えば、圧力を上昇しながら昇温してもよいし、昇温、一定温度保持プロセスにおいて、圧力が所定の範囲で変動してもよい。また、降温のプロセスにおいて圧力を一定に保持するようにしてもよい。
【0032】
何れにしても、所定の温度プロファイルおよび圧力プロファイルでセレン化処理を行えば、均一処理が達成できる。
【0033】
図3には、比較のため、常圧で同様なセレン化処理を行ったタイミングチャートを示す。セレン化ガスは所定の濃度で供給し続けた。この場合、図2のタイミングチャートと比較して、600℃に保持する時間を若干長くする必要があり、また、降温プロセスが長くなる。
【0034】
この結果、図3の場合、図2の処理と比較して、処理時間が20%程度長くかかった。
【符号の説明】
【0035】
1 セレン化炉
2 被処理物
11 内チャンバー
12 ヒーター
13 空間
14 外チャンバー
25、32 高圧ガス源
26 セレン化ガス源
27 ガス混合器
28、30、33 圧力制御バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、前記チャンバー内にセレン化ガスを含む処理ガスを高圧で導入するガス供給源と、前記ガス供給源と前記チャンバーとの間に設けられて当該チャンバー内に導入されるガスを常圧より高く所定の圧力に調整するガス圧調整手段と、前記チャンバー内を加熱する加熱手段と、前記チャンバー内のガスを排出する排出手段と、前記チャンバー内に被処理物を載置するための置台とを具備することを特徴とするセレン化炉。
【請求項2】
請求項1に記載のセレン化炉において、前記チャンバーは、内チャンバーと外チャンバーとからなる二重構造であり、前記内チャンバーと前記外チャンバーとの間の空間に内チャンバー内の圧力よりも高圧のガスを導入するバリアガス導入手段を具備することを特徴とするセレン化炉。
【請求項3】
請求項2に記載のセレン化炉において、前記内チャンバーが酸化ケイ素又は炭化ケイ素からなり、前記外チャンバーが金属製であることを特徴とするセレン化炉。
【請求項4】
カルコパイライト型構造からなる化合物半導体薄膜の製造方法において、銅及びインジウム、又は銅、インジウム及びガリウムからなる反応前駆体薄膜を形成する工程と、前記反応前駆体薄膜をセレン化ガスを含む処理ガスを1kg/cm〜10kg/cmの圧力下で含む条件下で、500〜650℃で加熱してセレン化する工程とを含むことを特徴とする化合物半導体薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の反応前駆体薄膜を形成する工程と、セレン化する工程とを含むことを特徴とする化合物薄膜太陽電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−4589(P2013−4589A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131639(P2011−131639)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(511058523)株式会社メープル (2)
【Fターム(参考)】