説明

センサーおよび電気化学装置

【課題】ダイヤモンドに匹敵する広い電位窓を有するホウ素炭素窒素系薄膜を用いたセンサーおよび電気化学装置を提供すること
【解決手段】ホウ素、炭素、窒素の少なくとも2原子からなる材料を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はホウ素、炭素、窒素の少なくとも2原子からなる材料を用いたセンサーおよび電気化学装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、環境保全を目指した取り組みが様々な分野でなされている。排ガスによる大気汚染を―掃するため電気自動車は不可欠であり、電池の研究開発が活発に行われてきている。また、製造工場等から排出されるごみ、汚水等の処理技術の開発が強く望まれている。これらの研究開発には電気化学分野に負う所が大きく、電気化学反応電極の材質によって性能が制限される。電気化学電極用材料として、金、白金、カーボンなどが知られているが、更に電位窓の広い材料が望まれている。また、電解質溶液やガスのセンシング、生体分野におけるバイオセンサーが重要となる。
【0003】これまでにMOSFETのゲート部にイオン感応膜を形成したイオン感応電界効果トランジスタ(ISFET)が作製されている。ここで用いているセンサーおよび電気化学装置の名称は前述の電池、材料合成、分解装置、および物質検知機能を有する素子等をすべて含んでいる。現在、センサーおよび電気化学装置の高性能化重要であり、これに適した新しい基盤材料の開発が望まれる。
【0004】これを解決するため、近年、ダイヤモンドを電気化学電極に用いることが考えられ、研究が進められている。従来、電極として用いられている金、白金、カーボンに比べ、広い電位窓を有することが見出され、生体系物質センサーとして応用できる可能性も示唆されている。しかし比較的成長温度が高く、大面積基板への成膜が容易でないと考えられる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このような状況で化学的安定性に富み、高い熱伝導性等の優れた特性を有するダイヤモンド薄膜が注目されているが、プラズマCVD法による大面積成膜技術が確立されていないのが現状である。このため合成が容易で、電位窓をはじめ他の特性がダイヤモンドに匹敵する新しい材料が望まれている。
【0006】本発明は上記の状況に鑑みてなされたもので、ダイヤモンドに匹敵する広い電位窓を有するホウ素炭素窒素系薄膜を用いたセンサーおよび電気化学装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するための本発明のセンサーおよび電気化学装置の基盤材料としてホウ素、炭素、窒素の少なくとも2原子からなる膜を用いることを特徴とする。
【0008】また、上記目的を達成し、センサーおよび電気化学装置の性能向上のため、本発明の膜にイオウ、珪素、酸素のいずれかの原子を含むことを特徴とする。
【0009】
【実施例】以下に本発明の成膜方法および成膜装置について図面を用いて詳しく説明する。
【0010】(実施例1)本発明の膜を用いて電気化学電極を作製し、重要な特性の1である電位窓を評価した第1実施例を以下に示す。プラズマアシスト化学気相合成法によりシリコン基板上へのホウ素炭素窒素薄膜の成膜を行う。原料ガスとして三塩化ホウ素、窒素、メタンを用いた。高周波(13.56MHz)電力を供給し、窒素の誘導結合プラズマを生成した。三塩化ホウ素とメタンを分解し、基板にホウ素炭素窒素薄膜を堆積させた。基板温度は650℃とした。300℃までの低温においても成膜は可能である。膜厚は50−100nmとした。得られた膜は多結晶薄膜でアモルファス成分を多く含んでいることが透過電子顕微鏡、透過電子線回折によって示された。
【0011】電気化学電極としての電位窓の評価を0.5モルの硫酸溶液を用いて行った。参照電極にAg/AgCl、対極に白金を用いた。図1に示すように―1.5Vから2Vの電位窓が得られることが見出された。これはダイヤモシド薄膜の場合と同等であり、電気化学装置の電極材料として用いられる。
【0012】本実施例では基板材料としてシリコンを用いたが、それ以外の金属や半導体材料も用いることができる。また、本実施例のプラズマアシスト化学気相合成法で材料ガスとして窒素ガス、塩化ホウ素、メタンガスを用いたが、窒素材料としてアンモニアガスを用いることもできる。また、塩化ホウ素の代わりにジボランガスを用いることができる。また、炭素の供給としてメタンガス以外のエタンガスやアセチレンガス等の炭化水素ガスやトリメチルボロンをはじめホウ素や窒素の有機化合物も用いることができる。合成方法についてもプラズマアシスト化学気相合成法だけでなく、他のスパッタ法などの物理気相合成法なども用いることができる。
【0013】(実施例2)本発明の第2実施例はセンサーの作製に関するものであり、図2に示す。第1実施例と同様の成膜方法を用い、ホウ素炭素窒素膜を合成する。プラズマアシスト化学気相合成法により石英基板1上へのホウ素炭素窒素薄膜2の成膜を行う。
【0014】原料ガスとして三塩化ホウ素、窒素、メタンを用いた。高周波(13.56Mhz)電力を供給し、窒素の誘導結合プラズマを生成した。三塩化ホウ素とメタンを分解し、基板にホウ素炭素窒素薄膜を堆積させた。基板温度は650℃とした。
【0015】膜厚は100nmとした。ホウ素炭素窒素薄膜2をストライプ3状に露出させ、その両側に二ッケルを蒸着し、電極を形成する。この2つの電極はソース電極4とドレイン電極5として用いられる。ホウ素炭素窒素薄膜2のストライプ3状に露出した部分にのみ溶液を接触させることが必要であるため電極部分を樹脂6でカバーする。
【0016】ホウ素炭素窒素薄膜2の露出したストライプ3の幅を100μmとした。○リング7を介して溶液を入れる容器8に装着する。ゲート電極9を溶液10中に入れ、ソース電極4と接続する。ドレイン電極5にバイアス11を印加する。ドレイン電極5に印加した電圧とソース電極4とドレイン電極5間を流れる電流の関係を調べる。この電流−電圧特性をpHの異なる溶液10に対して測定する。溶液のpHを増加させるとソース電極4とドレイン電極5間の電流変化が検知され、pHセンサーとして動作することが確認できた。
【0017】本実施例では基板材料として石英を用いたが、それ以外の絶縁体材料も用いることができる。また。本実施例のプラズマアシスト化学気相合成法で材料ガスとして窒素ガス、塩化ホウ素、メタンガスを用いたが、窒素材料としてアンモニアガスを用いることもできる。
【0018】また、塩化ホウ素の代わりにジボランガスを用いることができる。また、炭素の供給としてメタンガス以外のエタンガスやアセチレンガス等の炭化水素ガスやトリメチルボロンをはじめホウ素や窒素の有機化合物も用いることができる。合成方法についてもプラズマアシスト化学気相合成法だけでなく、他のスパッタ法などの物理気相合成法なども用いることができる。電極用材料として二ッケルを用いたが、これに限られることはなく様々な金属を用いることができる。
【0019】図2に示された試料はpHのセンサーとして用いられるだけでなく、生体物質のセンサーとしても用いられる。
【0020】(実施例3)本発明の第3実施例はホウ素炭素窒素膜とシリコンMOSFETからなるセンサーの作製に関するものであり、図3に示す。第1実施例と同様の成膜方法を用い、プラズマアシスト化学気相合成法によりホウ素炭素窒素膜を合成する。シリコン21にソース22、ドレイン23領域が形成され、その上に金属電極22a、23aが付けられ、ソース−ドレイン電極22a、23a間にゲート絶縁膜24としてSiO膜が形成されているMOSFET構造を持つ試料を基板とする。ゲート絶縁膜24であるSiO膜の厚さは通常のシリコンMOSFETで用いられるものと比べ、薄膜化したものを用いる。ゲート絶縁膜24としてSiO膜上に本発明のホウ素炭素窒素薄膜25の成膜を行う。原料ガスとして三塩化ホウ素、窒素、メタンを用いた。高周波(13.56MHz)電力を供給し、窒素の誘導結合プラズマを生成した。三塩化ホウ素とメタンを分解し、基板にホウ素炭素窒素薄膜25を堆積させた。墓板温度は400℃とした。膜厚は10nmとした。作製した試料を溶液を入れる容器26に装着する。ゲート電極27を溶液28中に入れ、ソース電極22aと接続する。ドレイン電極23aにバイアス29を印加する。ドレイン電極23aに印加した電圧とソース電極22aとドレイン電極23a間を流れる電流の関係を調べる。この電流−電圧特性をpHの異なる溶液28に対して測定する。溶液のpHを増加させるとソース電極22aとドレイン電極23a間の電流変化が検知され、pHセンサーとして動作することが確認できた。
【0021】図3に示された試料はpHのセンサーとして用いられるだけでなく、生体物質のセンサーとしても用いられる。
【0022】
【発明の効果】本発明のセンサーおよび電気化学装置はホウ素炭素窒素膜を基盤材料に用い、性能向上、新機能の創出を図ることができる。本発明で用いられるホウ素炭素窒素膜は従来電極用材料として用いられている金、白金、カーボンより広い電位窓を有する材料で、これまで困難であった物質の酸化還元反応を可能にし、新しい物質のヤンシングにも応用できる。また、大面積合成が容易で低温においても合成できる。このため環境保全や生体物質の研究に関する分野において不可欠なセンサーおよび電気化学装置の提供が可能になると共に、今後、新機能を有するセンサーおよび電気化学装置の実現により、環境保全や生体物質に関する研究が更にすすむと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のホウ素炭素窒素膜電極電流―電位曲線
【図2】本発明の第2実施例に係るホウ素炭素窒素膜を用いたセンサーの断面概略図
【図3】本発明の第3実施例に係るホウ素炭素窒素膜を用いたセンサーの断面概略図
【符号の説明】
1・・石英基板
2・・ホウ素炭素窒素膜
3・・ストライプ部
4・・ソース電極
5・・ドレイン電極
6・・樹脂
7・・Oリング
8・・容器
9・・ゲート電極
10・・溶液
11・・バイアス
21・・シリコン
22・・ソース
22a・・ソース電極
23・・ドレイン
23a・・ドレイン電極
24・・ゲート絶縁膜
25・・ホウ索炭素窒素薄膜
26・・容器
27・・ゲート電極
28・・溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ホウ素、炭素、窒素の少なくとも2原子からなる材料を有することを特徴とするセンサーおよび電気化学装置。
【請求項2】 請求項1に記載の材料にイオウ、珪素、酸素のいずれかの原子を含むことを特徴とするセンサーおよび電気化学装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2003−185617(P2003−185617A)
【公開日】平成15年7月3日(2003.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−382394(P2001−382394)
【出願日】平成13年12月14日(2001.12.14)
【出願人】(591277382)株式会社渡邊商行 (34)
【出願人】(596007142)
【Fターム(参考)】