説明

センサ付き転がり軸受装置

【課題】 低コストで製作でき、かつ十分な耐久性を有するセンサ付き転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】 外輪3に取り付けられ、転動体5の接触部20に向けて超音波を発信し、転動体5に作用する力を検知する振動子15を、樹脂モールドによって外輪3に取り付けることで.部品点数を減らしかつ接着剤を使用しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受と一体化されて転がり軸受の各種情報を検出するのに好適なセンサ付き転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の制御手段として、ABS制御に加えて発進時や加速時に駆動輪をスピンさせない駆動力制御やコーナリング時の横滑りを抑制するブレーキ力制御などが実施されているが、より精度のよい制御を行うために、これらの制御に有効に使用できるデータの検出が重要となっている。
そのため、駆動軸に取り付けられた車輪を回転可能に支持するセンサ付き転がり軸受装置として、例えば、外輪軌道面を有する固定側の外輪と、内輪軌道面を有する回転側の内輪と、外輪と内輪の間に転動自在に配置された複数の転動体と、外輪に取り付けられ、転動体と外輪軌道面との接触部に向けて超音波を発信し、かつ当該接触部で反射した超音波を受信することで転動体に作用する力を検知する超音波センサとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−177932号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1のセンサ付き転がり軸受装置では、おねじ部が形成された筒状のケース及びケース内に設けられた振動子を備える超音波センサが、外輪に形成しためねじ部にねじこまれている。そのため、部品点数が多く、外輪にめねじ部の加工も要することから製造コストが嵩んでしまうという問題がある。一方で、超音波センサを接着剤で直接取り付けることも提案されているが、この場合には、温度が変化した際の外輪と接着剤との膨張率の違いにより同接着剤が剥がれ、十分な耐久性が得られない場合がある。
本発明は上記従来技術に鑑み、低コストで製作でき、かつ十分な耐久性を有するセンサ付き転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じた。
すなわち、本発明は、外輪軌道面を有する固定側の外輪と、内輪軌道面を有する回転側の内輪と、前記外輪と前記内輪の間に転動自在に配置された複数の転動体と、前記外輪に取り付けられ、前記転動体と前記外輪軌道面との接触部に向けて超音波を発信し、かつ当該接触部で反射した反射波を受信することで前記転動体に作用する力を検知する超音波センサと、を備えたセンサ付き転がり軸受装置において、前記超音波センサは、樹脂モールドにより前記外輪に取り付けられていることを特徴とする。
上記本発明によれば、超音波センサが、樹脂モールドによって外輪に取り付けられるため、部品点数が多くならず、かつ外輪の加工も簡便であることから製造コストを抑えることができる。また、接着剤を使用しておらず、温度が変化した際における超音波センサの外輪からの剥がれという問題もないので十分な耐久性を得ることができる。
【0005】
上記本発明において、樹脂モールドされた前記超音波センサの外側を覆う樹脂が、当該超音波センサの検知精度に影響を与えないように当該超音波センサの送信終了後に残響する超音波を減衰させる厚みを有していることが好ましい。
この場合、残響する超音波の影響により超音波センサの検知精度を低下させることがない。
【0006】
上記本発明において、前記超音波センサの送受信面と、前記外輪における当該送受信面が当接しているセンサ取付面とが、前記外輪軌道面と同心円状に形成されていることが好ましい。
超音波センサの送受信面が例えば平坦であると、超音波は殆どの場合に接触部へ垂直に入らず、反射波は伝搬してきた経路を戻らずに散乱してしまう。そのため、接触部における接触面積が大きくなった際に、全ての反射波を超音波センサで捕えることができず、十分な検知精度が得られない。これに対し、本発明の場合、超音波が転動体と外輪軌道面との接触部へ垂直に入り、反射波もそのまま伝搬してきた経路を戻るので、接触部における接触面積が大きくなった際にも検知精度を低下させることがない。
【発明の効果】
【0007】
上記の通り本発明によれば、部品点数が多くならず外輪の加工も簡便であることから製造コストを抑えることができ、接着剤を使用していないので温度が変化した際における超音波センサの外輪からの剥がれという問題もなく十分な耐久性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係るセンサ付き転がり軸受装置の一実施形態を示している。このセンサ付き転がり軸受装置1は、自動車用のセンサ付きハブユニットとして使用されるもので、ハブユニット2と、車両制御を行なうべくタイヤの接地荷重を検出するセンサ装置Sとを備えている。ハブユニット2は、車体側に固定される外輪3と、車輪が取り付けられる内輪4と、内外輪3,4の間に2列に配置された複数の転動体である転動体5と、各列の転動体5をそれぞれ保持する保持器6とを備えている。
【0009】
外輪3は、軸受の固定輪の機能を有しているもので、内周面に2列の外輪軌道面g1,g2が形成された筒部31を有している。内輪4は、第1の内輪軌道n1を有する大径部41およびこの大径部41よりも小さい外径を有する小径部42を有する内軸部43と、第2の内輪軌道n2を有すると共に内軸部43の小径部42に外嵌された軌道輪7とを有している。軌道輪7は、内軸部43インナ側の端部に螺合している固定ナット8により固定されている。また、内軸部43のアウタ側の端部には、車輪を取り付けるためのボルト9が螺合するボルト孔10aを有する取付フランジ10が設けられている。
【0010】
外輪3の筒部31の外周には、インナ側の転動体5に対応するセンサ取付面11及びアウタ側の転動体に対応するセンサ取付面12が全周にわたってリング状に形成されている。これらセンサ取付面11,12は、図1の断面図において転動体5の中心5aを中点とする円の一部を構成する湾曲状に形成されている。従って、同センサ取付面11,12は、外輪軌道面g1,2と同心円状に形成され、これにより外輪軌道面g1,g2と各センサ取付面11,12間の厚みは一定となっている。インナ側及びアウタ側の各センサ取付面11,12には、それぞれ周方向に等間隔をおいて四つの超音波センサ15が配置されている。つまり、超音波センサ15は、各センサ取付面11,12の図1上下及び紙面貫通方向前後(図示せず)に配置されて合計で八つ配置されている。
【0011】
センサ装置Sは、センサ取付面11,12に取り付けられた複数の超音波センサ15と、超音波センサ15の出力から転動体5に作用する力を求める図示しない処理手段とを備えている。超音波センサ15は、圧電材に電極が形成された振動子からなるものであり、送受信面15aとなる円形状の振動面を有している(図2参照)。この振動子15は、電圧を印加すると圧電効果により振動して送受信面15aから超音波を送信するとともに、この送信した超音波の反射波を送受信面15aで受信して圧電効果により電圧を発生する。また、振動子15の電極には、図示しないリード線の一端がはんだ付けされており当該振動子15が図示しない信号処理部と繋がっている。なお、当該振動子15には、可撓性の高いものが採用されており自在に湾曲させることができるようになっている。
【0012】
各センサ取付面11,12に配置された四つの振動子15は、樹脂モールドにより当該センサ取付面11,12に取り付けられている。図1及び図2に示すように、樹脂モールドにより固着された樹脂50は、センサ取付面11,12の周りをリング状に取り巻いており、各振動子15は、リング状の樹脂50とセンサ取付面11,12の間に挟まれた状態となって動かないようになっている。
従来は、超音波センサをボルト等で取り付けていたため、部品点数が多く、かつ外輪の加工も煩雑であった。これに対し、本実施形態のように振動子15を樹脂モールドで取り付ければ、超音波センサを構成するための筐体が不要であると共に、部品点数が多くならず、かつ外輪3の加工も簡便となる。また、接着剤を使用していないので温度が変化した際における膨張率の違いによる振動子15(超音波センサ)の外輪3からの剥がれという問題も起らない。
【0013】
上記振動子15は、転動体5と外輪軌道g1,g2との接触部20に向けて超音波を発信し、かつ当該接触部20で反射した反射波を受信することで、転動体5に作用する力を以下に示すエコー比として検知する。
エコー比=100×(H0−H1)/H0
H0:転動体5が超音波センサ15から半ピッチ離れて位置するときのエコー強度
H1:転動体5が超音波センサ15の直下に位置するときのエコー強度
このエコー比は、転動体5に作用する力と比例関係を有しており、この関係を利用して当該エコー比から転動体5に作用する力を求めることができる。転動体5に作用する力が大きくなると、転動体5と外輪軌道g1,g2との接触面積が大きくなってエコー強度が小さくなる。従って、転動体5に作用する力が大きい場合には大きいエコー比が出力される。
【0014】
走行する車両の速度変化や姿勢変化に伴ってタイヤに作用する荷重が変動すると、この荷重の変動に応じてハブユニット2に対する外力が変わり、転動体5に作用する力の大きさが変化する。また、タイヤに作用する荷重のうち前後方向、左右方向、及び垂直方向の成分ごとにハブユニット2に対する力の加わり方が異なる。そのため、各方向の成分ごとに、各振動子15が検知する転動体5に作用する力への影響度が異なっている。
【0015】
従って、タイヤに前後方向の荷重が作用した際の転動体5に作用する力及びこれに対応する各振動子15で出力されるエコー比、左右方向の荷重が作用した際の転動体5に作用する力及びこれに対応する各振動子15で出力されるエコー比、及び垂直方向の荷重が作用した際の転動体5に作用する力及びこれに対応する振動子15で出力されるエコー比を求めておくことにより、各振動子15で得られたエコー比によりタイヤに作用している荷重の三方向の成分を求めることができる。
なお、センサ装置Sの処理手段には、上記のエコー比を求める式や同エコー比から各振動子15の位置に対応する転動体5に作用する力を求める式、転動体5に作用する力からタイヤに作用する前後荷重、左右荷重、垂直荷重を求める式等が記憶された記憶部、これらの式を演算する演算部等が設けられている。
【0016】
一方、振動子15の送受信面15aは、軸方向に湾曲され外輪軌道面g1,g2と同心円状となっている。つまり、送受信面15aとセンサ取付面11,12とは、外輪軌道面g1,g2と同心円状となり互いに密着している。
超音波センサの送受信面が平坦であると、殆どの超音波は転動体と外輪軌道面との湾曲した接触部へ垂直には入らずその反射波は伝搬してきた経路を戻らない。特に、接触部において実際に接触している接触形が大きくなった場合、その接触形の端で反射した全ての反射波を超音波センサで捕えることができず、高い精度で転動体に作用する力を検知することができないという問題がある。
【0017】
これに対し、本実施形態の場合、振動子15の送受信面15aが外輪軌道面g1,g2と同心円状となっているので、超音波が転動体5と外輪軌道面g1,g2との接触部20へ垂直に入り、反射波もそのまま伝搬してきた経路を戻るので十分な検知精度を得ることができる。
また、樹脂モールドの音速をv1、ハブユニット材の音速をv2、送受信面15aから接触部20までの距離(外輪厚さ)をt1、樹脂厚さをtとすると、t>t1×(v1/v2)の関係を満たす場合には、樹脂モールド内の多重反射が測定すべきエコーに干渉しなくなる。例えば、外輪厚さが10mm、ハブ音速を6000m/s、樹脂音速を2700m/sとすると、t>10×2700/6000=4.5mmとなる。
このため、センサ取付面11,12の外側を4.5mm超の厚みtの樹脂で覆うことにより、振動子15の送信終了後に受信される或いはその可能性のある樹脂モールド内の多重反射が、測定すべきエコーに干渉せず、検知精度に影響を与えなくなるので、より高い検知精度を得ることができる。
【0018】
上記本実施形態のセンサ付き転がり軸受装置1によれば、振動子15が樹脂モールドによって外輪3に取り付けられるため、部品点数が多くならず、かつ外輪3の加工も不要となっている。これにより、センサ付き転がり軸受装置1の製造コストを抑えることができる。また、接着剤を使用していないので、温度が変化した際における振動子15の外輪3からの剥がれという問題がなく十分な耐久性を得ることができる。
【0019】
なお、上記実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって規定され、そこに記載された構成と均等の範囲内のすべての変更も本発明の技術的範囲に含まれる。
例えば、超音波センサを各センサ取付面に二つずつ取り付ける等、超音波センサの数を減らすか或いは増やしてもよい。また、樹脂モールドによる樹脂を上記実施形態のようにリング状とせずに、超音波センサが配置されている部分だけに形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態のセンサ付き転がり軸受装置の断面図である。
【図2】図1におけるインナ側の外輪軌道面の近傍を示す要部拡大図である。
【符号の説明】
【0021】
1 センサ付き転がり軸受装置
2 ハブユニット
3 外輪
4 内輪
5 転動体
11,12 センサ取付面
15 振動子(超音波センサ)
15a 送受信面
20 接触部
50 樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪軌道面を有する固定側の外輪と、内輪軌道面を有する回転側の内輪と、前記外輪と前記内輪の間に転動自在に配置された複数の転動体と、前記外輪に取り付けられ、前記転動体と前記外輪軌道面との接触部に向けて超音波を発信し、かつ当該接触部で反射した反射波を受信することで前記転動体に作用する力を検知する超音波センサと、を備えたセンサ付き転がり軸受装置において、
前記超音波センサは、樹脂モールドにより前記外輪に取り付けられていることを特徴とするセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項2】
樹脂モールドされた前記超音波センサの外側を覆う樹脂が、当該超音波センサの検知精度に影響を与えないように当該超音波センサの送信終了後に残響する超音波を減衰させる厚みを有している請求項1に記載のセンサ付き転がり軸受装置。
【請求項3】
前記超音波センサの送受信面と、前記外輪における当該送受信面が当接しているセンサ取付面とが、前記外輪軌道面と同心円状に形成されている請求項1又は2に記載のセンサ付き転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−70141(P2008−70141A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246623(P2006−246623)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】