説明

センシング装置及び物質検出方法

【課題】液体試料中の被検出物質を高精度に検出することができるセンシング装置を提供することを目的とする。
【解決手段】プリズム、金属膜、流路が形成された基板で構成される検査チップと、光を射出する光源と、前記光源から射出された光をプリズムと金属膜との境界面で全反射する角度で入射させる入射光光学系と、金属膜の表面から射出される光を検出する光検出手段と、光検出手段の検出結果に基づいて液体試料に含有される被検出物質を検出する検出手段とを有し、光検出手段は、液体試料が供給される前の金属膜の表面から射出される光を第1検出信号として検出し、さらに、液体試料が供給された後、乾燥した状態となった金属膜の表面から射出される光を第2検出信号として検出し、検出手段は、第2検出信号と前記第1検出信号との差分に基づいて被検出物質を検出することで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を用いて液体試料中の被検出物質を検出するセンシング装置および検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を用いる物質検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定(生体分子反応の測定)等において被検出物質を高感度かつ容易に検出(または測定)する方法としては、特定波長の光により励起され蛍光を発する蛍光物質(つまり、蛍光性を有する物質)からの蛍光を検出することで、被検出物質を検出(または測定)する蛍光法がある。
この蛍光法は、例えば、被検出物質が蛍光物質の場合は、被検出物質を含むと考えられる検査対象試料に特定波長の励起光を照射し、そのときの蛍光を検出することによって被検出物質の存在を確認する方法である。
また、蛍光法は、被検出物質が蛍光物質ではない場合も、被検出物質と特異的に結合する特異的結合物質を蛍光物質で標識し、この特異的結合物質を被検出物質に結合させ、その後上記と同様にして、蛍光(具体的には、被検出物質と結合した特異的結合物質を標識する蛍光物質の蛍光)を検出することにより、被検出物質の存在を確認することができる。
【0003】
ここで、蛍光法を用いて、被検出物質をさらに高感度に検出する方法としては、蛍光物質を励起させるために金属膜の表面プラズモン共鳴による増強電場を利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3)。
【0004】
特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載された方法は、いずれも、蛍光物質により標識された被検出物質を金属膜の近傍に配置した状態で、金属薄膜とプリズム(半円柱プリズム、三角形ガラスプリズム)との境界面に、プラズモン共鳴条件を満たす角度(プラズモン共鳴角)で光を入射させて金属薄膜に増強された電場を発生させ、金属薄膜近傍にある物質を強く励起し、蛍光を増幅させるというものであり、表面プラズモン増強蛍光(以下「SPF」ともいう。)を利用した蛍光検出法である。
【0005】
ここで、特許文献2に記載されているように、表面プラズモンの電場は、金属表面に強く局在し、かつ、金属表面からの距離に応じて指数関数的に減衰するため、金属表面に吸着固定されている蛍光標識抗体(つまり蛍光物質)のみを選択的かつ高確率で励起することができる。これにより、特許文献2に記載されているように、SPFを利用した蛍光検出法を用いることで、界面から離れた位置にある妨害物質の影響を最小限に抑制することができ、高精度に被検出物質を検出することも可能になる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−62255号公報
【特許文献2】特開2001−21565号公報
【特許文献3】特開2002−257731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、蛍光法により蛍光物質の蛍光を検出する場合は、容器、液体試料、および光学系等の各部の自家蛍光や、受光光学系のフィルタでカットできなかった金属膜からの励起光や、検出系のエレキノイズ等の、蛍光物質による蛍光以外の光がノイズとして測定値に含まれる。
そのため、蛍光法の場合は、これらのノイズをカットするベースライン差分処理を行う。具体的には、蛍光物質で標識された被検出物質が金属膜(以下「検出面」ともいう。)上に配置される前の蛍光(つまり、金属膜の表面から射出される光)を検出信号P0として測定し、配置された後の蛍光を検出信号Pとして測定し、(P−P0)をノイズが除去された後の被検出物質を標識している蛍光物質に起因する蛍光信号として検出する。
【0008】
ここで、一般に、P0測定時(つまり、被検出物質が検出面上に配置される前)の検出面は空気のみが接触している状態であり、P測定時(つまり、蛍光物質に標識された検出対象物質が配置されている時)の検出面は液体試料で満たされている状態となる。また、検出面は、表面に液体が有るか否かで屈折率が大きく変化する。そのため、P0測定時とP測定時とでは検出面の屈折率が大きく変化し、その屈折率の差dnは、例えば、dn=0.3となる。
また、SPFを利用した蛍光の検出方法では、金属薄膜表面の屈折率に応じてプラズモン共鳴条件が変化し、プラズモン共鳴角が変化するため、金属薄膜表面の屈折率が大きく変化するとプラズモン共鳴角も大きく変化する。
したがって、P0測定時とP測定時とでは、プラズモン共鳴角が大きく変化する。例えば、屈折率が0.3変化すると、プラズモン共鳴角も約20度変化する。
【0009】
そのため、P0測定時とP測定時に同じ角度から同じ波長の光を入射しても、プラズモン共鳴が発生せず、表面プラズモン増強効果が発生しない。このため、同条件でP0測定とP測定とを測定し、ベースライン差分処理を行っても、金属膜上に形成される増強強度が異なり発光状態が異なるため、正確にノイズを除去することができない。
【0010】
これに対して、P0測定時とP測定時とで、励起光の入射角や波長を変更することで、表面プラズモン増強効果を発生させることができるが、屈折率の変化に応じて、励起光の入射角や波長を調整可能な装置構成とすると、装置が複雑になり、また、高価になるという問題がある。
また、異なるプラズモン共鳴角が大きく異なり、波長や入射角を変化させるとノイズも変化するため、異なる条件で測定したP0、Pに基づいてベースライン差分処理を行っても、測定時のノイズを正確に除去することはできない。
【0011】
また、上述のようにP0測定時に検出面が乾燥したままではベースライン差分処理を行えないため、予めバッファ液で検出面を塗らしてP0の測定を行うことが考えられる。しかし、バッファ液を使用するのでコストが増大してしまう。また、バッファ液と被検出物質を含む液体試料との間に屈折率差があると、やはりプラズモン共鳴条件が変化するので、蛍光の増強度が変化してしまい、定量性にかけ、正確なノイズ除去ができないという問題がある。
【0012】
また、ノイズは、液体試料の種類、状態、濃度、金属薄膜の厚みや、プリズムの形状等に変化するため、予め測定したサンプルのデータを用いても測定時のノイズを正確に除去することはできない。
また、表面プラズモンがつくる電場を利用して被検出物質を検出する場合に限らず、検出部の屈折率により増強度が変化する検出法を用いる場合にも、同様の問題がある。
【0013】
本発明の目的は、上記従来技術に基づく問題点を解消し、正確にベースライン差分処理を行うことができ、液体試料中の被検出物質を高精度に検出することができるセンシング装置および物質検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を利用して液体試料に含有される被検出物質を検出するセンシング装置であって、プリズムと、前記プリズムの一面上に配置され、表面に前記被検出物質と結合する物質が固定されている金属膜と、前記プリズムの一面上に配置され、前記金属膜上に前記液体試料を供給する流路が形成された基板と、光を射出する光源と、前記光源から射出された光を、所定の角度で前記プリズムに入射させる入射光光学系と、前記金属膜近傍から射出される光を検出する光検出手段と、前記光検出手段の検出結果に基づいて液体試料に含有される被検出物質を検出する検出手段とを有し、前記光検出手段は、前記液体試料が供給される前の前記金属膜の表面から射出される光を第1検出信号として検出し、さらに、前記液体試料が供給された後、乾燥した状態となった前記金属膜の表面から射出される光を第2検出信号として検出し、前記検出手段は、前記第2検出信号と前記第1検出信号との差分に基づいて前記被検出物質を検出することを特徴とするセンシング装置を提供するものである。
【0015】
ここで、前記被検出物質は、蛍光物質、または、検出時に蛍光物質により標識された物質であることが好ましい。
さらに、前記金属膜を加熱する加熱手段を有することが好ましい。
さらに、前記流路内の前記液体試料を吸引する吸引手段を有することも好ましい。
さらに、前記金属膜が乾燥しているかを検出する乾燥検出手段を有することも好ましい。
また、前記入射光学系は、前記光源から射出された光を、前記プリズムと前記金属膜との境界面で全反射する角度で前記プリズムに入射させることが好ましい。
また、前記乾燥検出手段は、前記入射光光学系により前記プリズムに入射され、前記金属膜と前記プリズムとの境界面で全反射され、前記プリズムから射出された光線を受光し、受光した光線から前記境界面での表面プラズモン共鳴の有無を検出し、その検出結果から乾燥しているか否かを判定する機構を有することが好ましい。
なお、表面プラズモン共鳴は、検出した光の強度分布のプラズモン共鳴角に対応する角度の強度が設定値以下になっている場合に発生していると判定することが好ましく、表面プラズモン共鳴が発生している場合は、金属面が乾燥していると判定することが好ましい。
【0016】
また、前記検出手段は、前記液体試料内の前記被検出物質の濃を検出することが好ましい。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の形態は、プリズムの一表面に形成され、かつ、前記被検出物質と特異的に結合する特異的結合物質が表面に配置された金属膜に、被検出物質を含む液体試料を接触させ、前記金属膜に前記液体試料が接する面とは反対側の面から光を照射して、前記金属面に所定の入射角で入射させ増強場を発生させ、前記増強場が発生した状態の金属膜の表面から射出される光を検出し、前記液体試料内の前記被検出物質を検出する物質検出方法であって、前記液体試料が前記金属膜に接触していない状態で、前記金属膜に前記増強場を発生させ、前記金属膜の表面から射出される光を第1検出信号として検出する第1光検出ステップと、前記液体試料を前記金属膜上を通過させ、前記金属膜に前記液体試料を接触させる液体試料供給ステップと、前記液体試料と接触した後、表面が乾燥した前記金属膜に前記増強場を発生させ、前記金属膜の表面から射出される光を第2検出信号として検出する第2光検出ステップと、前記第1検出信号と前記第2検出信号との差分から、前記液体試料内の被検出物質を検出する物質検出ステップとを有することを特徴とする物質検出方法を提供するものである。
【0018】
ここで、前記物質検出ステップは、さらに、前記第1検出信号と前記第2検出信号との差分から、前記液体試料内の前記被検出物質の濃度を算出することが好ましい。
さらに、前記液体試料供給ステップで、前記金属膜に前記液体試料を接触させた後、前記金属膜の乾燥状態を検出する乾燥状態検出ステップを有し、前記第2光検出ステップは、前記乾燥状態検出ステップで、前記金属膜の表面が乾燥した状態であることが検出された後、第2検出信号を検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金属膜が液体と接触していない状態で、金属膜から射出される光の測定ができることで、同一のプラズモン共鳴条件で金属膜から射出される光を測定することができる。これにより、バックグラウンドを適切に測定することができ、バックグラウンドに起因するノイズを適切に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係るにセンシング装置及び物質検出方法について、添付の図面に示す実施形態を基に詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明のセンシング装置の一実施形態であるセンシング装置10の概略構成を示すブロック図であり、図2(A)は、図1に示したセンシング装置10の光源12、入射光光学系14、検査チップ16の概略構成を示す上面図であり、図2(B)は、図2(A)のB−B線断面図である。
【0022】
図1、図2(A)及び(B)に示すようにセンシング装置10は、基本的に、所定波長の光を射出する光源12と、光源12から射出された光(以下「励起光」ともいう。)を導光し集光する入射光光学系14と、被検出物質84を含有する液体試料(つまり測定対象)82を保持し、入射光光学系14により集光された光が入射される検査チップ16と、検査チップ16の測定位置から射出される光を検出する光検出手段18と、光検出手段18の検出結果に基づいて被検出物質を検出する(つまり、光検出手段18で検出した信号をデジタル化し被検出物質の有無、濃度を判断する)算出手段20とを有し、液体試料82に含有されている被検出物質84を検出(及び測定)する。
また、センシング装置10は、さらに、励起光を変調するファンクションジェネレータ(以下「FG」ともいう。)24と、FG24で発生された電圧に比例した電流を光源12に流す光源ドライバ26とを有する。
ここで、FG24は、High、Lowの電圧の繰り返しクロックを発生する信号発生器である。FG24が信号を光源ドライバ26に流し、光源ドライバ26がその電圧に比例した電流を光源12に流すことで、光源12は、クロックに応じて変調された光を発光する。また、FG24のクロックは、ロックインアンプ64に接続されており、ロックインアンプ64は、FG24から流されるクロックと同期した信号のみを光検出手段18の出力から取り出す。
また、図示は省略したが、検査チップ16以外のセンシング装置10の各部も、互いの位置関係を固定するために支持機構により支持されている。
【0023】
光源12は、所定の波長の光を射出する光射出装置である。なお、光射出装置としては、半導体レーザ、LED、ランプ、SLD等も用いることができる。
【0024】
入射光光学系14は、コリメータレンズ30と、シリンドリカルレンズ32と、偏光フィルタ34とを有し、励起光の光路において、光源12側からコリメータレンズ30、シリンドリカルレンズ32、偏光フィルタ34の順で配置されている。したがって、光源12から射出された光は、コリメータレンズ30、シリンドリカルレンズ32、偏光フィルタ34をこの順で透過し、その後、検査チップ16に入射する。
【0025】
コリメータレンズ30は、光源12から射出され、所定角度で放射状に拡散する光を平行光に変換する。
シリンドリカルレンズ32は、図2(A)及び(B)に示すように、後述する検査チップの流路の長手方向に平行な方向が軸方向となる柱状レンズであり、コリメータレンズ30により平行光とされた光を柱状の軸に垂直な面(図2(B)に示す面と平行な面)のみに集光させる。
偏光フィルタ34は、透過した光を後述する検査チップ16の反射面に対してp偏光となる方向に偏光するフィルタである。
【0026】
次に、検査チップ16は、プリズム38と、金属膜40と、基板42と、透明カバー44を有し、プリズム38の一面に形成された金属膜40上に被検出物質84を含有する液体試料82が載置される。
【0027】
プリズム38は、断面が二等辺三角形となる略三角柱形状(正確には、二等辺三角形の各頂点部分を二等辺三角形の底面に垂直または平行に切断した六角柱形状)のプリズムであり、光源12から射出され入射光光学系14で集光される光の光路上に配置されている。
プリズム38は、入射光光学系14で集光された光が、3つの側面のうち二等辺三角形の2つの斜辺のうちの1つの辺で構成される面から入射する向きで配置されている。
プリズム38は、公知の透明樹脂や光学ガラスで形成することができ、例えば、日本ゼオン株式会社製ZEONEX(登録商標)330R(屈折率1.50)を材料として形成することができる。また、プリズム38は、コストをより低くすることができるため、光学ガラスよりも樹脂で形成することが好ましく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂で形成することが好ましい。
プリズム38は、このような構成であり、入射光光学系14で集光された光を、二等辺三角形の2つの斜辺のうちの1つの辺で構成される面から入射させ、二等辺三角形の底辺で構成される面で反射し、二等辺三角形の2つの斜辺のうちの他方の辺で構成される面から射出する。
【0028】
金属膜40は、プリズム38の二等辺三角形の底辺で構成される面の一部(具体的には、プリズム38に入射した光が照射される領域を含む領域)に形成された金属の薄膜である。
ここで、金属膜40に用いる材料としては、Au、Ag、Cu、Pt、Ni、Al等の金属を用いることができる。なお、液体試料として液体を用いる場合は、液体との反応を抑制するためにAu、Ptを用いること好ましい。
また、金属膜40の形成方法としては、種々の方法を用いることができ、例えば、スパッタ、蒸着、めっき、貼り付け等によりプリズム38上に形成することができる。
ここで、図3は、図2(A)及び(B)に示す検査チップ16の金属膜40の一部を拡大して示す拡大模式図である。
図3に示すように、金属膜40の表面には、被検出物質84と特定的に結合する特異的結合物質である1次抗体80が固定されている。
【0029】
基板42は、プリズム38の二等辺三角形の底辺で構成される面に配置された板状部材であり、金属膜40に液体試料82を供給する流路45が形成されている。
流路45は、金属膜40を横断して形成された直線状の線状部46と、線状部46の一方の端部に形成され、測定時に液体試料82が供給される液溜りとなる始端部47と、線状部46の他方の端部に形成され、始端部47に供給され線状部46を通過した液体試料82が到着する液溜りとなる終端部48とで構成される。
また、金属膜40よりも始端部47側の線状部46には、蛍光物質86によって標識された二次抗体88が載置された二次抗体載置領域49が設けられている。
ここで、二次抗体88とは、被検出物質84と特定的に結合する特異的結合物質である。
【0030】
透明カバー44は、基板42のプリズム38と接している面とは反対側の面に接合された透明な板状の部材である。透明カバー44は、基板42のプリズム38と接している面とは反対側の面を塞ぐことで、基板42に形成された流路45を密閉している。
また、透明カバー44は、流路45の始端部47に対応する部分および流路45の終端部48に対応する部分に開口が形成されている。また、透明カバー44は、始端部47(さらには終端部48)に対応する位置に形成した開口に開閉可能な蓋を設けてもよい。
検査チップ16は、以上のような構成である。なお、プリズム38と、金属膜40と基板42とは、一体で形成することが好ましい。
【0031】
また、光源12と入射光光学系14と検査チップ16とは、入射光光学系14からプリズム38に入射した光をプリズム38と金属膜40との境界面で全反射させてプリズムの他方の面から射出させる位置関係で配置されている。
【0032】
光検出手段18は、検出光光学系50と、フォトダイオード(以下「PD」という。)52と、フォトダイオードアンプ(以下「PDアンプ」という。)54とを有し、検査チップ16の金属膜40近傍(つまり、表面近傍)から射出される光を検出する。
【0033】
検出光光学系50は、第1レンズ56と、カットフィルタ58と、第2レンズ60と、これらを支持する支持部62とを有し、金属膜40の表面から射出される光(つまり、金属膜40上で発光されている光)を集光し、PD52に入射させる。また、検出光光学系50は、金属膜40で発光された光の光路上において、金属膜40側から順に第1レンズ56、カットフィルタ58、第2レンズ60の順に互いに所定間隔離間して配置されている。
【0034】
第1レンズ56は、コリメータレンズであり、金属膜40に対向して配置されており、金属膜40上で発光し、第1レンズ56に到達した光を平行光にする。
カットフィルタ58は、励起光と同一波長の光を選択的にカットし、励起光と異なる波長の光(例えば、蛍光物質86に起因する蛍光等)を通過させる特性を有するフィルタであり、第1レンズ56で平行光とされた光のうち、励起光と異なる波長の光のみを通過させる。
第2レンズ60は、集光レンズであり、カットフィルタ58を透過した光を集光し、PD52に入射入射させる。
支持部62は、第1レンズ56と、カットフィルタ58と、第2レンズ60と互いに所定間隔離間させて一体的に保持する保持部材である。
【0035】
PD52は、受光した光を電気信号に変換する光検出器であり、第2レンズ60で集光され、入射した光を電気信号に変換する。またPD52は、変換した電気信号を検出信号(後述する第1検出信号P0、第2検出信号P)としてPDアンプ54に送る。
PDアンプ54は、検出信号を増幅する増幅器であり、PD52から送られた検出信号を増幅し、算出手段20に送る。
【0036】
算出手段20は、ロックインアンプ64とPC(つまり演算部)66とを有し、検出信号から被検出対象の質量、濃度等を算出する。
【0037】
ロックインアンプ64は、検出信号のうち参照信号と等しい周波数成分を増幅する増幅器であり、PDアンプ54により増幅された検出信号のうち、FG24から送られた参照信号と同期する信号成分を増幅する。ロックインアンプ64で増幅された検出信号は、PC66に流される(出力される)。
【0038】
PC66は、ロックインアンプ64から供給された検出信号をデジタル信号に変換し、変換した信号に基づいて、試料中の被検出物質の濃度を検出する。ここで、試料中の被検出物質の濃度は、被検出物質の個数と液量との関係から算出することができる。また、被検出物質の個数は、個数既知の被検出物質を用いて検出信号の強度と被検出物質の個数との関係を算出し検量線を作成しておくことで算出することができる。なお、サンプルユニット16の基板42の流路45に供給する試料の液量を一定量とすること(または、一定量となるように設計すること)で、簡単かつ正確に濃度を算出することができる。
センシング装置10は、基本的に以上のような構成である。
【0039】
以下、センシング装置10の作用について説明することで本発明をより詳細に説明する。図4(A)〜(D)は、それぞれ、検査チップ16での液体試料82の流れを示す説明図であり、図5は、液体試料82が到達した金属膜40の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【0040】
まず、センシング装置10は、光源12から励起光を射出して、金属膜40上に増強電場(正確には、表面プラズモン及び表面プラズモン共鳴増強された増強電場)を発生させ、金属膜40近傍から射出された光を光検出手段18により検出し、検出信号P0を取得する。
ここで、検出信号P0は、表面に被検出物質及び蛍光物質も付着しておらず、かつ表面が乾燥した(つまり液体が付着していない)状態の金属膜40の表面から射出された光を光検出手段18で受光して得た信号であり、蛍光物質86による蛍光を含まないバックグランドとしての信号である。なお、具体的な検出信号の取得方法については、後ほど詳細に説明する。
【0041】
次に、検出信号図4(A)に示すように、検査チップ16の基板42の流路45の始端部47に、被検出物質84を含有する液体試料82を滴下する。
始端部47に滴下された液体試料82は、毛細管形状により、線状部46及びガラスカバー44で形成された管の中を終端部48に向けて移動する。
【0042】
始端部47から終端部48に向けて線状部46を移動する液体試料82は、図4(B)に示すように、線状部46の二次抗体載置領域49に到達する。液体試料82が二次抗体載置領域49に到達すると、液体試料82に含有されている被検出物質84と二次抗体載置領域49に載置されている二次抗体88との間で抗原抗体反応がおき、被検出物質84と二次抗体88とが結合する。また、この二次抗体88は、蛍光物質86により標識されているため、二次抗体88と結合した被検出物質84は、蛍光物質86により標識された状態となる。
【0043】
二次抗体載置領域49を通過した液体試料82は、線状部をさらに終端部48側に移動し、金属膜40に到達する。液体試料82が金属膜40に到達すると、図5に示すように、液体試料82に含有されている被検出物質84と金属膜40上に固定されている一次抗体80との間で抗原抗体反応がおき、被検出物質84が一次抗体80に捕捉される。ここで、一次抗体80に捕捉された被検出物質84は、二次抗体載置領域49で蛍光物質86により標識された状態であるため、被検出物質84を捕捉した一次抗体80は、蛍光物質86で標識された状態となる。つまり、被検出物質84は、一次抗体80と二次抗体88とでサンドイッチされた状態となる。
【0044】
金属膜40を通過した液体試料82は、終端部48まで移動する。また、一次抗体80により捕捉されなかった被検出物質84、被検出物質84に結合されなかった二次抗体88及び蛍光物質86も液体試料82とともに終端部48まで移動する。
これにより、図4(C)に示すように、金属膜40上に二次抗体88と結合し、蛍光物質86により標識され、かつ一次抗体80に捕捉された被検出物質84が残った状態となる。
【0045】
その後、液体試料82は、さらに終端部48に移動し、図4(D)に示すように、金属膜40よりも終端部48側に移動した状態となる。これにより、金属膜40は、表面には液体が無い(つまり、表面が乾燥した)状態で、蛍光物質86により標識され、かつ一次抗体80に捕捉された被検出物質84が残った状態となる。
【0046】
センシング装置10は、金属膜40の表面が乾燥され、かつ金属膜40の表面に蛍光物質86により標識された被検出物質84が残った状態となったら、光源12から励起光を射出して、金属膜40上に表面プラズモンを発生させ、金属膜40の表面から射出される光を光検出手段18により検出し、検出信号Pを取得する。
検出信号Pは、表面の一次抗体80に、標識二次抗体により標識された被検出物質84が捕捉されている状態の金属膜40の表面から射出された光を光検出手段18で受光して得た信号であり、蛍光物質による蛍光を含む信号である。
【0047】
ここで、検出信号P0及び検出信号Pの検出方法について詳細に説明する。
なお、検出信号P0の検出と検出信号Pの検出は、金属膜40上の状態(具体的には、被検出物質を標識する蛍光物質86による蛍光があるか否か)以外は、同様であるので、以下では、代表して検出信号Pを検出する場合について説明する。
【0048】
まず、FG24で決定された強度変調信号に基づいて光源ドライバ26から流れる電流に基づいて、光源12から励起光を射出させる。
励起光は、光源12から射出された後、入射光光学系14を透過する。具体的には、励起光は、コリメータレンズ30により平行光とされ、その後、シリンドリカルレンズ32により一方向のみ集光され、偏光フィルタ34により偏光される。
入射光光学系14を通過した光は、プリズム38に入射され、所定の角度幅の光としてプリズム38と金属膜40との境界面に到達し、プリズム38と金属膜40との境界面で全反射され、プリズム38から射出される。なお、シリンドリカルレンズ32は、プリズム38と金属膜40との境界面を一定距離越えた位置が焦点となるように集光する。
また、コリメータレンズ30により生成された平行光を、シリンドリカルレンズ32により一方向のみに集光することで、プリズム38と金属膜40との境界面の線状部46の延在方向に平行な方向には、同一角度の光を入射することができる。
【0049】
励起光がプリズム38と金属膜40との境界面で全反射されることで、金属膜40の流路45側の面(プリズム38側とは反対側の面)に、エバネッセント波が滲み出し、このエバネッセント波により、金属膜40中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜40の表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。
このとき、所定の角度幅で入射された励起光のうち、プリズム38と金属膜40との境界面に所定角度(具体的には、プラズモン共鳴条件を満たす角度)した入射した励起光により発生した、エバネッセント波と表面プラズモンとが共鳴し、表面プラズモン共鳴(プラズモン増強効果)が発生する。このように、表面プラズモン共鳴(プラズモン増強効果)が発生した領域では、より強い電場増強が形成される。ここで、プラズモン共鳴条件は、入射された光により発生したエバネッセント波の波数ベクトルと、表面プラズモンの端数とが等しくなり、波数整合が成立する条件であり、上述したように、試料の種類、試料の状態、金属膜の厚み、密度、励起光の波長、入射角度等種々の条件に基づいて決まる。なお、本発明において、プラズモン共鳴角及び励起光(つまり、各光束)の入射角度は、金属面に垂直な線とのなす角である。
【0050】
また、このとき、エバネッセント波の滲み出している領域において蛍光物質86がある場合、蛍光物質86は励起されて蛍光を発生させる。また、エバネッセント波が染み出している領域とほぼ同等の領域に存在する表面プラズモンによる電場増強の効果、特に、表面プラズモン共鳴により増強された電場増強の効果により、この蛍光が増強される。
なお、エバネッセント波の滲み出し領域外の蛍光物質は励起されないため、蛍光を発生させない。
このようにして、金属膜40上に固定された被検出物質84を標識する蛍光物質86の蛍光は、励起され、増強される。
蛍光物質86から射出された光は、光検出手段18の第1レンズ56に入射し、カットフィルタ58を透過し、第2レンズ60で集光され、PD52に入射され電気信号に変換される。また、第1レンズ56に入射した光のうち励起光を同一波長の光は、カットフィルタ58を透過できないため、励起光成分は、PD52まで到達しない。
【0051】
PD52で生成された電気信号は、検出信号として、PDアンプ54で増幅され、ロックインアンプ64で、参照信号と同期する信号成分を増幅する。これにより、励起光に起因して発生した光を増幅することができるため、その他のノイズ成分(例えば、部屋の蛍光灯、装置内のセンサーの光など、検出光光学系50以外からPD52に入射した光や、PDで発生する暗電流)と蛍光物質86から射出された光とを確実に識別することができる。
ロックインアンプ64で増幅された検出信号Pは、PC66に送られる。
検出信号Pは、以上のようにして検出される。また、上述したように検出信号P0も同様の方法で検出される。
【0052】
PC66は、検出された検出信号P0および検出信号Pを用いて、ベースライン差分処理(具体的には、P−P0を算出)し、バックグランドが除去された後の蛍光物質に起因する信号を算出する。
PC66は、信号をA/D変換し、あらかじめ記憶していた検量線に基づき、被検出物質84の算出結果から、試料82中の被検出物質84の濃度を検出する。
センシング装置10は、以上のようにして、液体試料82中の被検出物質84の質量及び濃度を検出する。
【0053】
センシング装置10によれば、液体試料82を始端部47に滴下する前に、表面に蛍光物質86が付着していない状態の金属膜40の表面から射出される光の検出信号P0と、標識二次抗体により標識されている被検出物質84が一次抗体80に捕捉され、かつ、乾燥した状態の金属膜40の表面から射出される光の検出信号Pとを検出し、検出信号P0と検出信号Pを用いてベースライン差分処理を行うことで、適切にノイズを除去することができ、被検出物質84を標識している蛍光物質86に起因する蛍光をより正確に検出することができる。
具体的には、センシング装置10では、バックグランドの信号の検出を、金属膜40が乾燥した状態で行い、蛍光物質86で標識された被検出物質84に起因する蛍光信号の検出も乾燥した状態で行うことにより、両検出信号の検出時の金属膜40の表面の屈折率を同様の値とすることができる。これにより、検出信号P0の検出時と検出信号Pの検出時で実質的に同じプラズモン共鳴条件とすることができるため、バックグランドの測定と蛍光物質に起因する蛍光の測定を好適に行うことができ、ノイズを正確に除去することができる。
また、プラズモン共鳴角が変化に応じて、励起光の入射角を変化させるための機構を設ける必要がなくなるため、装置構成の複雑化、装置の大型化、コストの増大等を防止することができる。
【0054】
また、検出信号P0および検出信号Pを金属膜を乾燥させた状態で検出することで、バッファ液を用いて、検出信号P0を検出する場合よりもプラズモン共鳴条件をずれることを防止できるため、より正確にノイズを検出し、除去することができる。また、新たな液体を準備する必要がないため、装置構成を簡単にすることができ、また、コストを下げることもできる。
【0055】
また、検査チップ毎に簡単にバックグラウンドを測定し、ノイズを除去することができるため、検査チップにより変化するノイズも正確に検出することができ、検査チップの許容誤差を大きくすることができるため、検査チップを安価に製造することが可能となる。
【0056】
なお、センシング装置10の検査チップ16は、流路45内の液体試料82が終端部48側に移動するため、始端部47に液体試料を滴下してから所定の設定時間経過後に検出することで、表面が乾燥している状態の金属膜の表面から射出される光を検出することができる。ここで、設定時間は、金属膜上に試料液体がなくなるまでに必要な時間であり、同様の形状の検査チップにより予め実験することにより算出することができる。
【0057】
ここで、センシング装置は、金属膜の表面の乾燥状態を検出すための乾燥検出手段を有することが好ましい。
以下、図6とともに乾燥検出手段について説明する。
図6は、本発明のセンシング装置の他の実施形態である乾燥検出手段を有するセンシング装置の一部の概略構成を示すブロック図である。なお、図6に示すセンシング装置100は、乾燥検出手段102を有する点を除いて他の構成は、センシング装置10と同様であるので、同一の部材および構成には同一符号を付してその説明は省略する。
【0058】
図6に示すように、センシング装置100は、光源12と、入射光光学系14と、検査チップ16と、乾燥検出手段102とを有する。また、図示は省略したが、センシング装置100は、センシング装置10と同様に、光検出手段と、算出手段と、FGと、光源ドライバも有する。
【0059】
乾燥検出手段102は、光源12から射出され入射光光学系16を通過し、検査チップ16に入射した励起光のうち、プリズム38と金属膜40との境界面で全反射され、プリズム38から射出された光の光路上に配置され、プリズム38から射出された光を受光し検出する第2フォトダイオード(以下「第2PD」ともいう。)104と、第2PDで検出した光から強度分布を検出し、検出結果に基づいて金属膜の表面の乾燥状態を判定する
判定部106とを有する。
【0060】
第2PD104は、上述したように、プリズム38と金属膜40との境界面で全反射されプリズム38から射出された光(つまり、反射光)の光路上に配置され、反射光を受光する。第2PD104は、検出した反射光を検出信号として判定部106に送る。
【0061】
判定部106は、第2PD104から送られた検出信号に基づいて、金属膜40の表面の乾燥状態を判定する。
ここで、センシング装置100は、表面が乾燥している状態の金属膜40でプラズモン増強効果(具体的には、表面プラズモン共鳴)が発生する角度(つまり、プラズモン共鳴角)で励起光を入射するように設定されている。また、上述したように、金属膜40上に液体試料がある状態(濡れている状態)と、液体試料がない状態(乾燥している状態)とでは、プラズモン共鳴角が大きく異なる。
そのため、センシング装置100は、金属膜40が濡れている状態では、プラズモン増強効果は発生しない。
次に、第2PD104で検出する反射光は、プリズム38と金属膜40との境界面で全反射された光であるため、基本的に励起光と同様の強度分布(つまり、基本的に光源から射出される光の強度分布と同様の強度分布)となるが、上述したように、金属膜38で表面プラズモン共鳴が発生すると、励起光のプラズモン共鳴角で入射している成分が表面プラズモンに変換されるため、励起光のプラズモン共鳴角に対応する反射光の成分が大きく減少する。
したがって、センシング装置100は、金属膜40が乾燥しているときのみ、プラズモン増強効果が発生し、所定角度の反射光の成分が大きく減少する。
【0062】
判定部106は、反射光の上記特性を用い、第2PD104で検出した検出信号のプラズモン共鳴角に起因する角度の強度成分が、所定値より大きい場合は、金属膜40の表面が濡れていると判定し、所定値以下の場合は、金属膜40の表面が乾燥していると判定する。
また、光検出手段18は、乾燥検出手段102で金属膜40の表面が乾燥していると判定された後に、検出信号Pを検出する。
【0063】
このように、乾燥検出手段102を用い、反射光に基づいて金属膜の表面の乾燥状態を検出することで、仮に設定時間の経過後に一部に液体が残留している場合も乾燥していないことを検出することができるため、より正確に金属膜の表面の状態を検出することができる。これにより、金属膜の表面に、表面プラズモン及び表面プラズモン共鳴により増強された増強電場が確実に発生した状態で被検出物質の検出を行うことができ、より確実かつ正確に被検出物質を検出することができる。
また、金属膜の表面が乾燥したことを検出できることで、乾燥状態となったら直ちに検出信号Pを取得することができる。これにより、短時間で被検出物質の検出を行うことができる。
【0064】
また、センシング装置は、さらに、金属膜を短時間で乾燥させるために乾燥促進手段を設けることが好ましい。
乾燥促進手段を設けることで、金属膜の表面を短時間で乾燥させることができ、試料液体に含有される被検出物質の検出を短時間で行うことができる。
ここで、乾燥促進手段としては、例えば、金属膜の表面を加熱する加熱手段や、金属膜の表面に液体試料を供給する流路内の液体試料を吸引する吸引手段が例示される。
【0065】
ここで、図7は、本発明のセンシング装置の他の実施形態である加熱手段122を有するセンシング装置120の一部の概略構成を示すブロック図である。
なお、図7に示すセンシング装置120は、加熱手段122を有する点を除いて他の構成は、センシング装置10と同様であるので、同一の部材および構成には同一符号を付してその説明は省略する。
【0066】
図7に示すように、センシング装置120は、光源12と、入射光光学系14と、検査チップ16と、光検出手段18と、加熱手段122とを有する。また、図示は省略したが、センシング装置120は、センシング装置10と同様に、算出手段と、FGと、光源ドライバも有する。
【0067】
加熱手段122は、検査チップ16の光検出手段18側とは反対側の面に、検査チップ16とは所定間隔離間して配置されており、金属膜40をプリズム38側から加熱する。
ここで、加熱手段122としては、カーボンヒータ、ランプヒータ等の種々の加熱装置を用いることができる。なお、加熱手段122は、プリズム38、金属膜40及び蛍光物質等を変性させるない程度の温度で金属膜を加熱することが好ましい。
加熱手段122により金属膜40を加熱することで、金属膜40上の液体試料を蒸発はせることができ、金属膜40上をより短時間で乾燥状態にすることができる。
このように、加熱手段122を設けることで、自然乾燥よりも短時間で金属膜の表面を乾燥させることができるため、被検出物質の検出をより短時間で行うことができる。
【0068】
次に、図8は、本発明のセンシング装置の他の実施形態である吸引手段を有するセンシング装置の一部の概略構成を示すブロック図である。
なお、図8に示すセンシング装置140は、吸引手段142を有する点を除いて他の構成は、センシング装置10と同様であるので、同一の部材および構成には同一符号を付してその説明は省略する。
【0069】
図8に示すように、センシング装置140は、検査チップ16と、吸引手段142とを有する。また、図示は省略したが、センシング装置140は、センシング装置10と同様に、光源と、入射光光学系と、光検出手段と、算出手段と、FGと、光源ドライバも有する。
【0070】
吸引手段142は、終端部48に対応して形成された、カバー44の開口44aに接合する接合部材144と、接合部144と接続されたチューブ146と、チューブ146を介して接合部材144と接続されたポンプ148と、チューブ146の一部に設けられた廃液タンク150とを有し、終端部48から流路45を吸引し、流路45内の液体試料を吸引する。
【0071】
接合部材144は、カバー44の開口44aを塞ぐように、開口44aの全面に配置された板状部材である。なお、接合部材144は、種々の材料で形成することができ、本実施形態ではPDMS(ポリジメチルシロキサン)で形成している。
チューブ146は、管状の部材であり、一方の端部が接合部材144に接続され、他方の端部がポンプ148に接続されている。
ポンプ148は、吸引ポンプであり、チューブ146と接続されている。ポンプ148は、チューブ146を介して、接合部材144が接続されているカバー44の開口44aから終端部48の空気を吸引し、終端部48及び線状部45の液体試料をチューブ146に吸引する。
廃液タンク150は、チューブ146の一部に配置されており、ポンプ148により種端部48から吸引された液体試料を貯留する。
【0072】
吸引手段142は、以上のような構成であり、ポンプ148により終端部48から流路45内の液体試料を吸引することで、金属膜の表面を短時間で乾燥させることができる。また、液体試料を吸引しつつ、流路45内の空気も吸引することで、金属膜40上に液体試料が残っている場合も短時間で蒸発させることができるため、金属膜40を短時間で乾燥ことができる。
なお、吸引手段は、上記構成に限定されず、液体試料を吸引する種々の吸引手段を用いることができ、例えば、シリンジポンプを用いることもできる。
【0073】
以上、本発明に係るセンシング装置及び物質検出方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよい。
【0074】
例えば、上述した実施形態では、いずれも入射光光学系として、コリメータレンズと集光レンズとなるシリンドリカルレンズとを設け、光源から射出された光をコリメータレンズで平行光にした後、シリンドリカルレンズで集光させたが、本発明はこれに限定されず、集光レンズのみを設け、光源から射出された光を平行光にせずに集光レンズで集光させる構成としてもよい。
【0075】
また、センシング装置10では、入射光学系にシリンドリカルレンズまたは集光レンズを用い、光源から射出された光を集光したが、これに限定されず、光源から所定の放射角で射出された光を集光させずにプリズムと金属膜との境界面に入射させてもよい。
また、偏光フィルタも必ずしも設ける必要はなく、特に、光源としてレーザ光源を用いる場合は、光源から射出される光が偏光された光であるので、偏光フィルムは設けなくてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、二次抗体載置領域に蛍光物質により標識された二次抗体を配置したが、これに限定されず、二次抗体載置領域を設けずに、始端部に滴下する液体試料として、予め被検出物質を蛍光物質により標識した液体試料を用いてもよい。
【0077】
また、検出信号P0の検出のタイミングは、液体試料が金属膜に到達する前であればよく、例えば、液体試料が流路の線状部を移動している間に検出信号P0を検出してもよい。
【0078】
また、本実施形態では、検査チップに流路を形成し、試料液体を始端部から線状部を通って終端部に移動させることで、金属膜に試料液体を接触させたが、本発明はこれに限定されず、検査チップの形状は特に限定されない。例えば、検査チップに流路を設けず、金属膜上に直接液体試料を滴下する構成としてもよい。
【0079】
また、上述した実施形態では、いずれも液体試料に含まれる被検出物質の個数または濃度を検出したが、本発明はこれに限定されず、液体試料に被検出物質が含有されるが否か(つまり、液体試料の中に被検出物質があるか否か)を検出してもよい。
【0080】
また、上述した実施形態では、いずれも蛍光物質に標識された二次抗体に被検出物質を結合させた状態で、表面プラズモンにより励起された蛍光物質の蛍光を検出し、被検出物質を検出したが、被検出物質を蛍光物質により標識する方法は特に限定されず、例えば、被検出物質事態が蛍光物質である場合は、二次抗体を設ける必要はない。
また、本発明のセンシング装置は、金属膜上に被検出物質に付着(または近傍に配置)されている状態で表面プラズモンを発生させた場合に生じる散乱光(ラマン散乱光)を検出する方式のセンシング装置にも用いることができる。
【0081】
また、上述した実施形態では、いずれも金属膜の表面にエバネッセント波及び表面プラズモンを発生させ、さらに表面プラズモン共鳴を発生させることで、増強された電場を形成させたが本発明はこれに限定されず、増強電場が形成される面への光の入射角度によって増強度が変化する(つまり、所定の入射角で光が入射したときのみ増強場が変化する)種々の方式に用いることができる。例えば、プリズム上に金膜と厚み約1μmのSiO膜とを積層させ、所定角度で入射した光をSiO膜内で共振させることで増強された電場を形成する方式にも用いることができる。
また、上述した実施形態では、表面プラズモンによる増強場を好適に発生させるために、入射光光学系で、境界面で励起光が全反射させるように入射させたが、本発明はこれに限定されず、全反射しない角度で入射させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のセンシング装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】(A)は、図1に示したセンシング装置の光源、入射光光学系、検査チップの概略構成を示す上面図であり、(B)は、(A)のB−B線断面図である。
【図3】図2(A)及び(B)に示す検査チップの金属膜の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【図4】(A)〜(D)は、それぞれ、検査チップでの液体試料の流れを示す説明図である。
【図5】液体試料が到達した金属膜の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【図6】本発明のセンシング装置の他の実施形態の一部の概略構成を示すブロック図である。
【図7】本発明のセンシング装置の他の実施形態の一部の概略構成を示すブロック図である。
【図8】本発明のセンシング装置の他の実施形態の一部の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0083】
10 センシング装置
12 光源
14 入射光光学系
16 検査チップ
18 光検出手段
20 算出手段
24 ファンクションジェネレータ(FG)
26 光源ドライバ
30 コリメータレンズ
32 シリンドリカルレンズ
34 偏光フィルタ
38 プリズム
40 金属膜
42 基板
44 透明カバー
45 流路
46 線状部
47 始端部
48 終端部
49 二次抗体載置領域
50 検出光光学系
52 フォトダイオード(PD)
54 フォトダイオードアンプ(PDアンプ)
56 第1レンズ
58 カットフィルタ
60 第2レンズ
62 支持部
64 ロックインアンプ
66 PC
80 一次抗体
82 液体試料
84 被検出物質
86 蛍光物質
88 二次抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を利用して液体試料に含有される被検出物質を検出するセンシング装置であって、
プリズムと、
前記プリズムの一面上に配置され、表面に前記被検出物質と結合する物質が固定されている金属膜と、
前記プリズムの一面上に配置され、前記金属膜上に前記液体試料を供給する流路が形成された基板と、
光を射出する光源と、
前記光源から射出された光を、所定の角度で前記プリズムに入射させる入射光光学系と、
前記金属膜近傍から射出される光を検出する光検出手段と、
前記光検出手段の検出結果に基づいて液体試料に含有される被検出物質を検出する検出手段とを有し、
前記光検出手段は、前記液体試料が供給される前の前記金属膜の表面から射出される光を第1検出信号として検出し、さらに、前記液体試料が供給された後、乾燥した状態となった前記金属膜の表面から射出される光を第2検出信号として検出し、
前記検出手段は、前記第2検出信号と前記第1検出信号との差分に基づいて前記被検出物質を検出することを特徴とするセンシング装置。
【請求項2】
前記被検出物質は、蛍光物質、または、検出時に蛍光物質により標識された物質である請求項1に記載のセンシング装置。
【請求項3】
さらに、前記金属膜を加熱する加熱手段を有する請求項1または2に記載のセンシング装置。
【請求項4】
さらに、前記流路内の前記液体試料を吸引する吸引手段を有する請求項1〜3のいずれかに記載のセンシング装置。
【請求項5】
さらに、前記金属膜が乾燥しているかを検出する乾燥検出手段を有する請求項1〜4のいずれかに記載のセンシング装置。
【請求項6】
前記乾燥検出手段は、前記入射光光学系により前記プリズムに入射され、前記金属膜と前記プリズムとの境界面で全反射され、前記プリズムから射出された光線を受光し、受光した光線から前記境界面での表面プラズモン共鳴の有無を検出し、その検出結果から乾燥しているか否かを判定する機構を有する請求項5に記載のセンシング装置。
【請求項7】
前記検出手段は、前記液体試料内の前記被検出物質の濃度を検出する請求項1〜6のいずれかに記載のセンシング装置。
【請求項8】
プリズムの一表面に形成され、かつ、前記被検出物質と特異的に結合する特異的結合物質が表面に配置された金属膜に、被検出物質を含む液体試料を接触させ、前記金属膜に前記液体試料が接する面とは反対側の面から光を照射して、前記金属面に所定の入射角で入射させ増強場を発生させ、前記増強場が発生した状態の金属膜の表面から射出される光を検出し、前記液体試料内の前記被検出物質を検出する物質検出方法であって、
前記液体試料が前記金属膜に接触していない状態で、前記金属膜に前記増強場を発生させ、前記金属膜の表面から射出される光を第1検出信号として検出する第1光検出ステップと、
前記液体試料を前記金属膜上を通過させ、前記金属膜に前記液体試料を接触させる液体試料供給ステップと、
前記液体試料と接触した後、表面が乾燥した前記金属膜に前記増強場を発生させ、前記金属膜の表面から射出される光を第2検出信号として検出する第2光検出ステップと、
前記第1検出信号と前記第2検出信号との差分から、前記液体試料内の被検出物質を検出する物質検出ステップとを有することを特徴とする物質検出方法。
【請求項9】
前記物質検出ステップは、さらに、前記第1検出信号と前記第2検出信号との差分から、前記液体試料内の前記被検出物質の濃度を算出する請求項8に記載の物質検出方法。
【請求項10】
さらに、前記液体試料供給ステップで、前記金属膜に前記液体試料を接触させた後、前記金属膜の乾燥状態を検出する乾燥状態検出ステップを有し、
前記第2光検出ステップは、前記乾燥状態検出ステップで、前記金属膜の表面が乾燥した状態であることが検出された後、第2検出信号を検出する請求項8または9に記載の物質検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−204486(P2009−204486A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47616(P2008−47616)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】