説明

ソリッド型針状ころ軸受

【課題】安価、且つ優れた耐久性を備えたソリッド型針状ころ軸受を提供する。
【解決手段】ソリッド型針状ころ軸受10は、外輪11と、内輪12と、外輪11及び内輪12間に転動自在に配置される複数の針状ころ13と、針状ころ13を円周方向に等間隔に保持する保持器14とを備える。外輪11の軌道面10aの面粗さRaが0.12〜0.25μmであり、内輪12の軌道面11aの面粗さRaが0.02〜0.04μmであり、針状ころ13の転動面13aの面粗さが0.02μmRa以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソリッド型針状ころ軸受に関し、特に、建設機械用モータやポンプ等、各種産業機械に使用されるソリッド型針状ころ軸受の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、針状ころ軸受の針状ころや軌道輪の寿命は、転動面の表面粗さによって大きく影響を受けることが知られている。転動面の表面粗さを、例えば、Rmax×0.3〜0.8μmのランダムなすり傷の粗面に形成すると、軸等の相手部材の面粗さが粗く且つ希薄潤滑条件においては有効であるものの、相手部材が良好な仕上げ面を有する内輪等であると、潤滑が十分な条件において、油膜形成が不十分となる場合があった。
【0003】
このような問題を解決するため、針状ころの表面もしくは内外輪の転動面にバレル研磨によって微小な独立した無数のくぼみをランダムに設け、該微小くぼみが設けられた面の軸方向面粗さ及び円周方向面粗さを規制すると共に、微小なくぼみの占める表面積比率を10〜40%に規制して、希薄潤滑状態での長寿命化を図った転がり軸受が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第2724219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の転がり軸受では、表面に存在する微小なくぼみの性状が適正でないと、条件が厳しい場合には、必ずしも十分な耐久性を得られない場合があり、また、相手部材の仕上げ面が良く、且つ潤滑が十分な条件においては、その効果が得られるものではない。
【0005】
さらに、針状ころの表面と内外輪の転動面がいずれも滑らかに仕上げられている場合には、すべりが発生して、針状ころにスキューが生じるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、スキューの発生を抑制し、耐久性に優れたソリッド型針状ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外輪と、内輪と、前記外輪及び前記内輪間に転動自在に配置される複数の針状ころと、前記針状ころを円周方向に等間隔に保持する保持器と、を備え、前記外輪が切削加工されるソリッド型針状ころ軸受であって、
前記外輪の軌道面の面粗さRaは、0.12〜0.25μmであり、
前記内輪の軌道面の面粗さRaは、0.02〜0.04μmであり、
前記針状ころの転動面の面粗さRaは、0.02μm以下であることを特徴とするソリッド型針状ころ軸受。
(2) 前記針状ころの転動面は、ポット内にメディア、コンパウンド、界面活性剤を投入したバレル処理によって粗仕上加工を行なった後、ポット内にメディア、界面活性剤を投入したバレル処理によって仕上加工を行うことを特徴とする(1)に記載のソリッド型針状ころ軸受。
(3) 前記針状ころの転動面の表面に存在する微小な凹凸のうち、最も高い部分の位置を最表面位置とした場合、前記最表面位置から深さ方向に2.0μm寄った位置部分での、面方向の仮想平面に関する断面積において、相手部材と接触する部分の表面全体の面積に占める割合が、90%以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のソリッド型針状ころ軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明のソリッド型針状ころ軸受によれば、外輪の軌道面の面粗さRaが0.12〜0.25μmであり、内輪の軌道面の面粗さRaが0.02〜0.04μmであり、且つ針状ころの転動面の面粗さRaが0.02μm以下としたので、粗い面粗さを有する外輪の軌道面によって針状ころにブレーキ作用を与えることにより、スキューの発生を防止して針状ころの姿勢を矯正することができる。これによって、針状ころと内輪間のすべりを抑制して軸受寿命を延ばすことができる。また、面粗さRaが0.12〜0.25μmの外輪の軌道面に対して、希薄潤滑条件下においても、十分な油膜形成が可能となり耐久性を向上させることができる。
【0009】
また、針状ころの転動面は、ポット内にメディア、コンパウンド、界面活性剤を投入したバレル処理によって粗仕上加工を行なった後、ポット内にメディア、界面活性剤を投入したバレル処理によって仕上加工を行うことで、一度に大量の針状ころを良好な面粗さに、低コストで加工することができる。
【0010】
さらに、針状ころの転動面の表面に存在する微小な凹凸のうち、最も高い部分の位置を最表面位置とした場合、最表面位置から深さ方向に2.0μm寄った位置部分での、面方向の仮想平面に関する断面積において、相手部材と接触する部分の表面全体の面積に占める割合が、90%以上とすることが好ましい。これによって、針状ころの転動面に油膜を確保して耐久性をより向上させることができる。
【0011】
尚、最表面位置から深さ方向にxμm寄った位置部分での、面方向の仮想平面に関する断面積とは、上記最表面位置から深さ方向にxμm寄った位置で面方向に広がる仮想平面を考えた場合に、この仮想平面により切断される部分の面積を言う。更に、相手部材と接触する部分の表面全体の面積とは、この表面が平坦面であるとして考えた(傾斜部分の存在に基づく面積の増大を補正した)場合の面積を言う。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係るソリッド型針状ころ軸受の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すように、ソリッド型針状ころ軸受10は、内周面に外輪軌道面11a及び鍔部11bを有し、切削加工によって形成される外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有し、切削加工によって形成される内輪12と、外輪11の外輪軌道面11a及び内輪12の内輪軌道面12a間に転動自在に配設される複数の針状ころ13と、針状ころ13を円周方向に等間隔に保持する保持器14と、を備える。
【0013】
外輪軌道面11aは、研磨仕上げ加工によって、面粗さ0.12〜0.25μmRaにされており、内輪軌道面12aは、超仕上げ加工によって、面粗さ0.02〜0.04μmRaにされている。また、針状ころ13の転動面13aは、後に詳述するバレル加工によって、面粗さ0.02μmRa以下の良好な面に形成されている。
【0014】
また、転動面13aは、転動面13aの表面に存在する微小な凹凸のうち、最も高い部分の位置を最表面位置とした場合、最表面位置から深さ方向に2.0μm寄った位置部分での、面方向の仮想平面に関する断面積において、相手部材と接触する部分の表面全体の面積に占める割合が、90%以上とするのが好ましい。
【0015】
このような微小な凹凸は、その凹部に潤滑油を保持することができ、これにより、希薄潤滑条件下においても、転動面13aと外輪軌道面11a及び内輪軌道面12aとの当接部に存在する油膜の強度をより高くして、早期剥離に結び付くような金属接触の発生を防止することができ、耐久性を向上させることができる。
【0016】
次に、針状ころの転動面に微小な凹凸を形成するのに好適な加工手順について説明する。図2は針状ころの概略加工手順を示す図であり、図3はバレル仕上げ装置の概略構成図である。
【0017】
図2に示すように、針状ころ13は、例えば、高炭素クロム軸受鋼SUJ2の線材を所定の長さに切断し(ステップS1)、所定の形状にプレス成形する(ステップS2)。その後、焼入れ、焼戻し処理を行い(ステップS3)、表面に所定の硬度が付与される。そして、クラウニングバレルにより転動面13aをクラウニング形状に形成し(ステップS4)、次いで、バレル処理による粗仕上加工(ステップS5)及び仕上加工(ステップS6)によって針状ころ13の転動面13aに微細な凹凸を形成する。
【0018】
バレル加工装置20は、図3に示すように、回転中心軸CLが水平に配置された複数のポット21を備えている。ポット21内に針状ころ13及び研磨材であるメディアを投入し、矢印A方向に自転させながら矢印B方向に公転させて針状ころ13の転動面13aに表面加工を施す。ポット21内に投入する針状ころ13は、その体積がポット21の容量の36〜40%とすることが良好なバレル加工を行う上から好ましい。
【0019】
粗仕上加工は、ポット21内に被加工物である針状ころ13及びメディアである直径が略4mmの多数のアルミナボールと共に、コンパウンド及び界面活性剤を投入した状態で、ポット21を矢印A及びB方向に回転させ、アルミナボールによって針状ころ13の転動面13aにコンパウンドを擦り付けて転動面13aの表面に微細な傷を付けて行う。
【0020】
仕上加工は、ポット21内に粗仕上加工された針状ころ13及び多数のアルミナボールと共に、界面活性剤を投入した状態(コンパウンドは投入せず)でポット21を矢印A及びB方向に回転させて行う。この仕上加工では、界面活性剤によって転動面13aの表面のすべりを良好にした状態で、アルミナボールによって針状ころ13の転動面13aの表面を擦り、粗仕上加工においてコンパウンドで傷付けた転動面13aの表面の微小エッジ部を丸める。
【0021】
仕上加工時間に対する粗仕上加工時間の割合は、40〜50%程度にすることが好ましく、これにより最表面位置から深さ方向に2.0μm寄った位置部分での、面方向の仮想平面に関する断面積が、相手部材と接触する部分の表面全体の面積に占める割合を、90%以上とすることができる。例えば、粗仕上加工時間を10分とすれば、仕上加工時間は20〜25分程度となる。
【0022】
従って、本実施形態のソリッド型針状ころ軸受10は、軌道面の面粗さRaが0.02〜0.04μmの内輪を用いた場合であっても、面粗さRaが比較的粗い、0.12〜0.25μmの外輪軌道面11aと、面粗さRaが0.02μm以下にされた針状ころ13の転動面13aとが接触することによって、針状ころ13にブレーキ作用が働き、針状ころ13のスキュー発生が防止される。これにより、針状ころ13の姿勢が正されて滑らかな内輪軌道面12aでの針状ころ13のすべりが抑制され、軸受寿命の延長が図られる。また、面粗さRaが0.12〜0.25μmの外輪の軌道面に対して、希薄潤滑条件下においても、十分な油膜形成が可能となり耐久性を向上させることができる。
【0023】
また、針状ころ13の転動面13aは、バレル加工(粗バレル及び仕上げバレル)によって、最表面位置から2.0μm寄った位置部分での断面積の割合が90%以上にされているので、微小な凹凸に潤滑油を保持することができ、針状ころ13の転動面13aと外輪軌道面11a及び内輪軌道面12aとの当接部に存在する油膜の強度を高くして、金属接触の発生を防止することができる。
【0024】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態であるソリッド型針状ころ軸受の縦断面図である。
【図2】針状ころの概略加工手順を示す図である。
【図3】バレル加工装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0026】
10 ソリッド型針状ころ軸受
11 外輪
11a 外輪の軌道面
12 内輪
12a 内輪の軌道面
13 針状ころ
13a 転動面
14 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪及び前記内輪間に転動自在に配置される複数の針状ころと、前記針状ころを円周方向に等間隔に保持する保持器と、を備え、前記外輪が切削加工されるソリッド型針状ころ軸受であって、
前記外輪の軌道面の面粗さRaは、0.12〜0.25μmであり、
前記内輪の軌道面の面粗さRaは、0.02〜0.04μmであり、
前記針状ころの転動面の面粗さRaは、0.02μm以下であることを特徴とするソリッド型針状ころ軸受。
【請求項2】
前記針状ころの転動面は、ポット内にメディア、コンパウンド、界面活性剤を投入したバレル処理によって粗仕上加工を行なった後、ポット内にメディア、界面活性剤を投入したバレル処理によって仕上加工を行うことを特徴とする請求項1に記載のソリッド型針状ころ軸受。
【請求項3】
前記針状ころの転動面の表面に存在する微小な凹凸のうち、最も高い部分の位置を最表面位置とした場合、前記最表面位置から深さ方向に2.0μm寄った位置部分での、面方向の仮想平面に関する断面積において、相手部材と接触する部分の表面全体の面積に占める割合が、90%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のソリッド型針状ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−281062(P2008−281062A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124635(P2007−124635)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】