説明

タイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤

【課題】室温で良好な粘着力を有し、かつ、その粘着力を200℃でも維持することができ、さらに700℃を超える湯の注湯時でも補修箇所の石膏鋳型の破片が外れることがないタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤を提供する。
【解決手段】タイヤモールド製造用石膏鋳型の欠けた部分を補修するための石膏鋳型補修用接着剤において、アクリル酸エステル共重合体(X)と、ポリ酢酸ビニル(Y)と、水(Z)とで構成されたエマルジョンであり、これらの重量混合比が次式、 Y/X=0.1〜0.3 (1) (X+Y)/Z=1.0〜1.2 (2)で表される関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤(以下、単に「接着剤」とも称する)に関し、詳しくは室温で良好な粘着力を有するとともに、700℃を超える高温でも優れた耐熱接着性を示す、タイヤモールド製造用石膏鋳型の欠けた部分を補修するための接着剤、およびタイヤモールド製造用石膏鋳型に挿入されたブレード(金属プレート)の脱落を防止するための接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを製造するに際しては、成形された生タイヤに内側から圧力をかけて、その外表面を加熱された金型の内壁に密着させ、熱と圧力により生ゴムを加硫する加硫用モールド(以下、「タイヤモールド」と称する)が用いられる。このようなタイヤモールドの作製は、従来、一般に次のようにして行われていた。まず、製造しようとするタイヤのトレッドパターンを木型(ウッドレジン)にて製造する。次いで、得られたウッドレジンのトレッドパターン上に液状ゴムを流し込み、加熱して加硫、硬化させ、トレッドパターンの型取りを行う。しかる後、型取りした加硫ゴム上に石膏を流し込み、硬化させて上記トレッドパターンが転写された石膏鋳型を得る。このようにして作製した石膏鋳型を使用して、最終目的物であるタイヤモールドを作製する。
【0003】
ここで、上記のようにして製造された石膏鋳型は、タイヤモールド、ひいては製品タイヤに及ぼす影響が大きいことから、破壊した箇所やブレード挿入端部に生じた裂け目に対しては、市販の瞬間接着剤やヤマト糊等の接着剤で補修が行われていた。即ち、図1の(a)に示すように、石膏鋳型1に破壊箇所が生じ、破片2が生じたときは接着剤3により破片2を石膏鋳型1の元の箇所に接着させていた。また、図1の(b)に示すように、乾燥処理の熱によりブレード4が膨張し、その後の冷却により石膏鋳型1に裂け目が生じたときには、その裂け目を接着剤3で埋めてブレード4の脱落を防止していた。なお、タイヤモールドの製造方法については、例えば、特許文献1に記載がある。
【特許文献1】特表2006−505429
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接着剤3による補修後に実施される石膏鋳型1の乾燥処理は、その温度が200℃と高く、接着剤3の耐熱温度を超え、乾燥後に再び石膏鋳型1が破壊するおそれがあるという問題があった。また、石膏鋳型1の破壊箇所を水ガラスで接着する方法も考えられるが、水ガラスの粘着性が小さいため、十分に接着補修することができないという問題があった。さらに、タイヤモールドの素材としては、一般に、アルミニウム(Al)合金が用いられるが、Al合金の注湯時の湯の温度が700℃程度であるめ、補修箇所の破片2が注湯充填時の浮力で外れてしまうという問題もあった。
【0005】
さらにまた、タイヤモールド製造用石膏鋳型の欠けた部分を補修する場合、即ち石膏同士を接着させる場合と、石膏鋳型に挿入されたブレードの脱落を防止するために補修する場合、即ち石膏と金属とを接着させる場合とでは夫々要求される特性が異なるが、これらに特性に夫々十分に適合する接着剤はこれまで存在し得なかったのが実状である。
【0006】
そこで本発明の目的は、室温で良好な粘着力を有し、かつ、その粘着力を200℃でも維持することができ、さらに700℃を超える湯の注湯時でも補修箇所の石膏鋳型の破片が外れることがないタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、室温で良好な粘着力を有し、かつ、その粘着力を200℃でも維持することができ、さらに700℃を超える湯の注湯時でもタイヤモールド製造用石膏鋳型に挿入されたブレードの脱落を良好に防止することができるタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水溶性高分子を基材とする水溶性接着剤に対し、所定の化合物を配合することにより上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本第1発明の接着剤は、タイヤモールド製造用石膏鋳型の欠けた部分を補修するための石膏鋳型補修用水溶性接着剤において、
アクリル酸エステル共重合体(X)と、ポリ酢酸ビニル(Y)と、水(Z)とで構成されたエマルジョンであり、これらの重量混合比が次式、
Y/X=0.1〜0.3 (1)
(X+Y)/Z=1.0〜1.2 (2)
で表される関係を満足することを特徴とするものである。
【0010】
また、本第2発明の接着剤は、タイヤモールド製造用石膏鋳型に挿入されたブレードの脱落を防止するためのタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤において、
イソブチレン無水マレイン酸共重合体(A)と、水酸化ナトリウム(B)と、水(C)と、が重量比で10〜20/4〜14/71〜81の割合で混合され、PHが8〜10に調整された水溶液100重量部に対し、有機酸遷移金属塩が1〜10重量部配合されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本第1発明および本第2発明の接着剤はともに、200〜250℃の温度でも良好な接着性を有し、耐熱接着性に優れている。また、本第1発明の接着剤により補修をすれば鋳造中の温度(約700℃)でも注湯時に浮力で破片が外れることもなく、また、本第2発明の接着剤により補修をすれば鋳造中の同温度でも注湯時にブレードが外れることもない。さらに、本第1発明の接着剤は、石膏同士を接着させるに十分な粘着性を有し、一方、本第2発明の接着剤は、石膏鋳型とブレードとの間に生じた細い裂け目に良好に浸透し得る粘性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適実施形態を具体的に説明する。
本第1発明の接着剤は、タイヤモールド製造用石膏鋳型の欠けた部分を補修するための接着剤であり、分子粘性により石膏同士を接着させるのに優れた効果を奏し、200〜250℃でも良好な接着性を確保することができる。かかる接着剤は、アクリル酸エステル共重合体(X)と、ポリ酢酸ビニル(Y)と、水(Z)とで構成されたエマルジョンであり、これらの重量混合比が次式、
Y/X=0.1〜0.3 (1)
(X+Y)/Z=1.0〜1.2 (2)
好ましくは次式、
Y/X=0.15〜0.20 (3)
(X+Y)/Z=1.10〜1.15 (4)
で表される関係を満足することが肝要である。
Y/Xの値が0.1未満であると粘着力が得られず、一方、0.3を超えると水に不溶となる。また、(X+Y)/Zの値が1.0未満であるとゲル化しやすく、一方、1.2を超えると相分離して粘着性能を発揮しない。
【0013】
また、良好な分子粘性を得る上で、アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量は、好ましくは10000〜50000であり、同じく、ポリ酢酸ビニルの重量平均分子量は、好ましくは1000〜10000である。
【0014】
次に、本第2発明の接着剤は、タイヤモールド製造用石膏鋳型に挿入されたブレードの脱落を防止するための接着剤であり、石膏のpHである12〜13のアルカリで反応してゲル化し、石膏と接着し、その一方で、金属塩のイオン結合で金属ブレードと接着する。200〜250℃でも良好な接着性を確保することができる。
【0015】
本第2発明の接着剤は、イソブチレン無水マレイン酸共重合体(A)と、水酸化ナトリウム(B)と、水(C)と、が重量比で好ましくは10〜20/4〜14/71〜81、より好ましくは15/9/76で混合され、PHが8〜10に調整される。ここで、(A)の重量比が10未満であると粘着力が確保できず、一方、20を超えると水に不溶となる。また、(B)の重量比が4未満であるとゲル化しやすく、一方、14を超えると相分離して粘着性能を発揮しない。
【0016】
イソブチレン無水マレイン酸共重合体(A)と、水酸化ナトリウム(B)と、水(C)との混合に際しては、溶解度を高めるために水(C)として90℃以上の温水を使用することが好ましい。また、本第2発明では混合液のpHを8〜10の範囲内とする。このpHが8未満であると著しくゲル化し、貯蔵安定性が悪く、一方、10を超えると相分離して粘着性能を発揮しないためである。
【0017】
また、本第2発明においては上記のようにして調製された水溶液100重量部に対し、有機酸遷移金属塩が1〜10重量部配合されている。有機酸遷移金属塩は、所望の効果を得る上で、好ましくはナフテン酸コバルト塩、ナフテン酸銅塩であり、より好ましくはナフテン酸銅塩である。かかる有機酸遷移金属塩の配合量が1重量部未満であるとブレードに対する接着性が不十分となり、一方、10重量部を超えると石膏鋳型に対する接着性が不十分となり、いずれにしても好ましくない。
【0018】
さらに、本第2発明においては、所望の粘性を得る上で、イソブチレン無水マレイン酸共重合体の重量平均分子量は、好ましくは50000〜100000である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を、実施例に基づき説明する。
実施例
下記に示す配合処方に従い供試タイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤を調製し、下記の表1に示す補修条件下で石膏同士間の接着性を評価した。
1.水 48重量%
2.アクリル酸エステル共重合体エマルジョン 48重量%
(新中村化学(株)製、乳化重合アクリル酸エステル共重合体(重量平均分子量:40万、シス構造/トランス構造=90/10、重量組成比:アクリル/エステル=70/30)のコロイド物質(乳化重合アクリル酸エステル共重合体/ポリ酢酸ビニルエマルジョン(下記3.と同)/水=50/5/45(重合比)))
3.ポリ酢酸ビニルエマルジョン 4重量%
(ニチゴウモビニール(株)製、商品名:モビニール580)
(ポリ酢酸ビニルエマルジョン中の水分量:55重量%)
【0020】
従来例1
従来例1として市販のヤマト糊(ヤマト糊化学(株)製、商品名:アラビックヤマト糊)を使用し、下記の表1に示す補修条件下で石膏同士間の接着性を評価した。
【0021】
実施例
下記に示す配合処方に従い供試タイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤を調製し、下記の表1に示す補修条件下で石膏とブレードとの間の接着性を評価した。
1.温水(90℃以上) 75重量%
2.イソブチレン無水マレイン酸共重合体 15重量%
(クラレ(株)製、商品名:イソバン)
3.水酸化ナトリウム 8重量%
4.ナフテン酸銅塩 1重量%
【0022】
従来例2
従来例2として市販の瞬間接着剤(東亜合成(株)製、商品名:アロンアルファー)を使用し、下記の表1に示す補修条件下で石膏とブレードとの間の接着性を評価した。得られた結果を下記の表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1から、実施例1および実施例2では現状の石膏鋳型接着補修部位の剥がれや外れを防止することができるとともに、2次乾燥温度(200℃)でも良好な接着性が得られることが分かる。また、表1から、鋳造中の700℃を超える温度でも注湯時に浮力で破片が外れることがなく、また、ブレードが外れることもないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)および(b)は、ともに接着剤による石膏鋳型の補修の様子を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 石膏鋳型
2 破片
3 接着剤
4 ブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤモールド製造用石膏鋳型の欠けた部分を補修するための石膏鋳型補修用水溶性接着剤において、
アクリル酸エステル共重合体(X)と、ポリ酢酸ビニル(Y)と、水(Z)とで構成されたエマルジョンであり、これらの重量混合比が次式、
Y/X=0.1〜0.3 (1)
(X+Y)/Z=1.0〜1.2 (2)
で表される関係を満足することを特徴とするタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤。
【請求項2】
前記アクリル酸エステル共重合体の重量平均分子量が10000〜50000である請求項1記載のタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤。
【請求項3】
前記ポリ酢酸ビニルの重量平均分子量が1000〜10000である請求項1または2記載のタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤。
【請求項4】
タイヤモールド製造用石膏鋳型に挿入されたブレードの脱落を防止するためのタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤において、
イソブチレン無水マレイン酸共重合体(A)と、水酸化ナトリウム(B)と、水(C)と、が重量比で10〜20/4〜14/71〜81の割合で混合され、PHが8〜10に調整された水溶液100重量部に対し、有機酸遷移金属塩が1〜10重量部配合されてなることを特徴とするタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤。
【請求項5】
前記イソブチレン無水マレイン酸共重合体の重量平均分子量が50000〜100000である請求項4記載のタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤。
【請求項6】
前記有機酸遷移金属塩がナフテン酸銅塩である請求項4または5記載のタイヤモールド製造用石膏鋳型補修用水溶性接着剤。

【図1】
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【公開番号】特開2008−1737(P2008−1737A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169936(P2006−169936)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】