説明

タンパク質−多糖複合体を有する2相以上の製品の界面安定化

本発明は、泡、エマルジョン、発泡エマルジョン、分散エマルジョン及び発泡分散物よりなる群から選択される製品であって、水−空気界面、水−油界面又は水−固体界面は、少なくともタンパク質(又はペプチド)と、反対の電気を帯びた少なくとも多糖とを混合することによって、又は反対の電気を帯びた2つのタンパク質を混合することによって瞬時に形成された複合体を含み、前記製品は、反対の電気を帯びた両化合物の間の静電相互作用が生じるpH範囲にあり、タンパク質と多糖の合計量は、0.01から5重量%である製品に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定性が向上した2相以上の製品に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡製品のような2相製品は、市場で極めてよく知られており、消費者に評価されている。マヨネーズのようなエマルジョンも市場に極めて広く普及している。エマルジョンを安定化させるために、通常は、バルク相に直接存在する乳化剤を使用する。この解決法の主たる欠点は、バルクから界面への乳化剤の拡散が制限されるため、最終製品の安定性が低下することである。泡の場合は、気泡を取り囲む液体バルク相の粘性を調整することにより、主に、組織の制御及び設計が実現される(Walstra P.and De Roos A.L.(1993年)、Food Rev.Int.、第9号、503〜525ページ)。泡の形成及び泡の安定性の問題を克服するために、一般には、界面活性分子(リン脂質、脂肪酸)と張力活性分子(タンパク質)とを組み合わせる。前者は、界面に吸着することによって界面面積を小さくすることで、泡の容量を大きくする。対照的に、後者は、気泡の周囲に粘弾性の層を形成することで、表面張力を低下させる。これによって、泡の安定性が高くなる。しかし、この組合せは、界面活性分子と張力活性分子の複雑な混合物を必要とするため、いくつかの欠点を有する。さらに、両タイプの分子は、一般には界面において不相溶であるため、界面の相分離及び不安定化がもたらされることが証明されている(Mackie A.R.他(1999年)、J.Colloid Interf.Sc.、第210号、157〜166ページ)。
【0003】
タンパク質−多糖複合体を使用して、界面を安定化させることも可能である。これは、タンパク質−多糖複合体をエマルジョンである化粧品組成物に混入する米国特許第6197319号の場合である。この場合、複合体を予め形成し、次いでバルクに混入する。これは、微細に断片化したイオン性の多糖/タンパク質複合体分散物を形成して、アイスクリーム、サラダドレッシング、浸液、塗布物及びソースの如き食品における脂肪代替品として使用する欧州特許第340035号についても同じである。米国特許第3944680号は、貯蔵寿命が長い水性油エマルジョンを調製する方法に関する。この場合、複合タンパク質/多糖がバルクに形成され、前のパラグラフで既に記載したようなバルクから界面への複合体の拡散の問題がある。
【0004】
これらのタンパク質−多糖複合体は、pH、イオン強度、タンパク質と多糖の比、全生重合体(バイオポリマー)濃度、温度又は圧力の十分に定まった条件で、静電引力を形成することが証明されている(Schmitt C.他(1998年)、Crit.Rev.Food Sci.Nutr.、第38号、689〜753ページ)。加えて、これらの複合体は、生重合体単体に比べて、良好なゲル化、乳化及び発泡の如き機能的特性を発揮することが証明されている。しかし、タンパク質と多糖の間の静電引力による複合体の形成は、結合相分離現象(Piculell L.and Lindman B.(1992年)、Adv.Colloid Interf.Sci.、第41号、149〜178ページ;Doublier J.−L.他(2000年)、Curr.Opinion Colloid Interf.Sci.、第5号、202〜214ページ)又は複合コアセルベーション(Bungenberg de Jong H.G.(1936年)、La coacervation complex et son importance en biologie、E.Faure−Fremiet Ed、第1巻、パリ:Hermann et Cie)をもたらすことも知られている。時間依存メカニズムである結合相分離の最中に、初期の静電タンパク質−多糖複合体は、電気的中性化のため相互作用することで、媒体において対イオンを発散させることにより系の静電エントロピーを高める(Tolstoguzov V.B.(1997年)、タンパク質−多糖相互作用(Protein−polysaccharide interactions)、S.Damodaran and A.Paraf Eds、Food Proteins and their Applications、171〜198ページ、ニューヨーク:Marcel Dekker Inc)。熱力学的平衡に近づくと、複合体は不溶になり、コアセルベートと呼ばれる液滴を形成する。これらのコアセルベートは、最終的には、主に溶媒を含む非常に希薄な相と平衡する濃縮液体相を形成する(Mattisson K.W.他(1999年)、Macromol.Symp.、第140号、53〜76ページ)。形成された連続的対象物の大きさは、初期の巨大分子複合体に対して数十ナノメートル(Xia J.(1993年)、Macromolecules、第26号、6688〜6690ページ;Bowman W.(1997年)、Macromolecules、第30号、3262〜3270ページ)からコアセルベートに対して数百ミクロン(Schmitt C.他(2001年)、Colloids and Surf.B:Biointerf.、第20号、267〜280ページ)の範囲に及んでいた。界面活性については、表面活性成分の拡散係数が非常に重要であることがよく知られている。高分子量の表面活性成分(例えば、タンパク質−多糖複合体)は、低分子量の表面活性成分(糖−エステル、トリグリセリド)とは対照的に、界面における速度が極めて遅くなる。しかし、界面の安定化には前者の方がはるかに効果的である(Dickinson E.and Galazka V.B.(1991年)、Food Hydrocolloids、第5号、281〜296ページ)。
【0005】
タンパク質/アニオン性多糖又は塩基性タンパク質/酸性タンパク質混合物は、単独採取されたタンパク質に比べて、発泡特性を著しく向上させることが可能である(Ahmed&Dickinson、1991年、Food Hydrocolloids、395〜402ページ;Poole、1989年、International Journal of Food Science and Technology、121〜137ページ、及びGB 2134117及びGB 2179043)。後者の引用文献には、タンパク質を他のタンパク質又は多糖と混合した後の発泡安定性の向上については明確に記載されていない。したがって、これらの文献は、発泡性の向上にのみ言及し、安定性の向上を予測していない。これらの文献に言及されていない重要な点は、形成された複合体の表面特性に対する時間の影響である。複合化は、主に、2つの成分の間の静電相互作用によるため、複合体の電気的中性化は、(初期の混合比にかかわらず)時間とともに進行する。次に、ますます多くの複合体が相互作用することが可能になり(複合体間の反発力が存在せず)、複合体のサイズが大きくなって、それらの不溶化が進む。これら2つの現象は、複合体が溶液に残留し、界面で移動する能力を低下させるため、界面の安定化にとって極めて有害である。これは、静電複合体が工業的にあまり利用されていない主たる理由である。我々の発明は、タンパク質/多糖又はタンパク質/タンパク質複合体に際してのこれらの致命的な点を回避することを可能にする。複合体を界面(気体/液体、気体/固体又は固体/液体)と両立させて形成しているため、複合体は、溶解性を維持し、(系内に投入されたエネルギーを利用して)界面に到達するのに十分に小さくなる。これらの複合体は、界面に達すると、再編成して、安定化膜を効果的に形成し、顕微鏡組織化学技術によって最終食品内の界面において検出することが可能なコアセルベートを形成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明によれば、それらが安定化すべき界面と同時に形成されたタンパク質−多糖又はタンパク質−タンパク質の静電複合体を使用して、界面を効果的に安定化することが可能である。これはこれらの複合体のサイズがより小さく、拡散係数がより大きいためである。この場合、タンパク質−多糖複合体は、溶解性を有し、界面に到達するのに十分な低分子量である。これらの所見に基づいて、本発明の目的は、少なくとも2相の製品の場合に、前記相間の表面特性を制御することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、泡、エマルジョン、発泡エマルジョン、分散エマルジョン及び発泡分散物よりなる群から選択される製品であって、水−空気界面、水−油界面又は水−固体界面は、少なくともタンパク質(又はペプチド)と、反対の電気を帯びた少なくとも多糖とを混合することによって、又は反対の電気を帯びた2つのタンパク質を混合することによって前記界面に瞬時に(instantaneously)形成された複合体を含み、前記製品は、反対の電気を帯びた両化合物の間の静電相互作用が生じるpH範囲にあり、タンパク質と多糖の合計量は、0.01から5重量%である製品に関する。
【0008】
本発明の製品における複合体(又はコアセルベート)は、前記製品の調製時に瞬時に直接形成され、水−空気界面、水−油界面及び水−固体界面に直接位置づけられる。この活性化合物は、水溶液又は水中油エマルジョン中に存在する。
【0009】
本発明の目的は、タンパク質と多糖の成分混合物、又は2つのタンパク質の混合物を使用することによって界面の表面特性を制御することである。該混合物は、発泡の場合は、泡容量(より多くの泡が得られることを意味する)、及び泡安定性(気泡がより小さくなり、排出量(drainage)がより少なくなる)を著しく向上させる。該混合物をエマルジョン、及び他の少なくとも2相を含む製品にも使用することができる。
【0010】
混合効率は、多糖に対するタンパク質の比率又は両タンパク質の比率を1:20から20:1とし、全生重合体濃度を0.01から5重量%として、pH(静電相互作用が生じるとき)及び温度(0℃から室温まで)の十分に定まった条件下で、静電複合体を形成する際に維持される。生重合体については、タンパク質と多糖の重量濃度の合計を把握する。
【0011】
液体の形態の複合体を使用することによって、泡の場合は、最初に形成された複合体が界面活性剤として作用するため、泡の形成を増強することが可能である。泡が形成された後に、複合体がさらに相互作用して、所謂コアセルベートを形成する。これらのコアセルベートは、高い粘弾性を示し、それによって界面で再編成(rearrange)して、泡を安定化する粘弾性膜を形成する。
【0012】
イオン相互作用を介して得られたタンパク質−多糖又はタンパク質−タンパク質複合体を含有する製品は、液体分散物から異なる種類の界面を生成させるために使用される。第1の工程において、分子複合体は、界面活性剤として作用し、したがって界面面積は小さくなる。第2の工程において、複合体は、気泡(又は油滴)の周囲に広がるコアセルベートを形成するために、界面で再編成し、不安定化に対して気泡(又は油滴)を安定化する粘弾性膜を形成する。
【0013】
タンパク質−多糖又はタンパク質−タンパク質複合体の瞬間的形成は、水/空気又は水/油又は水/固体界面で脂肪の典型的構造及び分布と粘弾性膜の典型的構造及び分布を組み合わせる特徴的構造シグナチャをもたらす。これは、特に、界面内のタンパク質及び多糖成分の位置を具体的に示すことにより、様々な顕微鏡技術によって証明されうる。以下の図5及び6を参照されたい。
【0014】
発泡製品の場合は、活性成分は水性の形態をとり、当該界面は、空気−水界面である。エマルジョンの場合は、活性成分は、水相で存在し、当該界面は油−水界面である。発泡エマルジョンの場合は、空気−水界面及び油−水界面の両方が該当する。分散エマルジョンの場合は、空気−固体界面及び水−油界面の両方が該当する。発泡分散物の場合は、空気−固体界面及び水−空気界面の両方が該当する。
【0015】
製品のタンパク質は、ミルク、大豆、卵、食肉、魚類及び植物からのタンパク質よりなる群から選択される。植物については、主に穀物だけでなく豆類が知られている。タンパク質は、β−ラクトグロブリン、ゼラチン、α−ラクトアルブミン、ウシ血清アルブミン、大豆グロブリン、大豆タンパク質、小麦タンパク質、乳漿タンパク質、大豆タンパク質及び卵白タンパク質であるのが最も好ましい。
【0016】
多糖は、帯電された天然又は合成多糖よりなる群から選択される。多糖は、アラビアゴム、カルボキシ−メチル−セルロース、キトサン、キサンタン、アルギン酸塩、プロピレン−アルギン酸グリコール、カラゲナン、低又は高メトキシル化ペクチン、アラビノガラクタン、ライアラビノキシラン(Axライ)及び小麦アラビノキシラン(Ax小麦)であるのが最も好ましい。
【0017】
本発明の製品は、単独、又は他の製品と混合して使用することが可能である。食品分野で使用する場合は、最終製品は、アイスクリーム、調理品(culinary)、チョコレート、デザート、乳製品、ウエハース、スポンジケーキ又はペットフード製品である。それをコーヒクリーマ又は乳性コーヒクリーマに使用することも可能である。この場合は、本発明の製品は、最終製品の10から100重量%の量で存在する。
【0018】
化粧品又は香水の分野で使用する場合は、該製品は、最終製品の10から100重量%の量で使用される。
【0019】
本発明は、さらに本発明の製品を調製するための方法に関する。異なる可能な製品が存在し、以下の説明には、これらすべての可能な方法が考慮される。
【0020】
泡製品の調製の場合は、調製法は以下の通りである。図1に示される多管式反応器を使用して、少なくとも1つのタンパク質の溶液又はバルク塊及び少なくとも1つの多糖の溶液又はバルク塊、或いは1つのタンパク質の溶液又はバルク塊及び1つの他のタンパク質の溶液又はバルク塊を空気と共にバルク中に注入し、或いは2つのバルク塊の場合は空気中に直接注入する。バルク塊は、糖を含む、又は含まない、生物を含む、又は含まない乳製品でありうる。この場合は、多糖は、好ましくはアラビアゴムで、タンパク質は、β−ラクトグロブリンである。該製品は、最終pHが約4.2である。タンパク質及び多糖の濃度は、約0.01から5重量%である。タンパク質の多糖に対する比率は、20:1から1:20である。調製は、約4から50℃の温度で行われる。この場合は、得られた製品が最終製品である。注入空気の量は、厳密なものではなく、製品の10から700%の範囲で変動しうる。
【0021】
泡製品の調製の第2の実施形態によれば、調製法は以下の通りである。少なくとも1つのタンパク質の溶液と少なくとも1つの多糖の溶液、又は1つのタンパク質の溶液と他の1つのタンパク質の溶液とを空気の存在下で混合する。これは、本発明の基本的なコンセプトである。すなわち、両活性化合物を混合すると、本質的に泡が形成される。必要であれば、次にホイッピングを行うことが可能である。この進め方によれば、得られた製品は最終製品ではない。次いで、それをアイスクリーム用調製物、又はウエハース用調製物と混合する。
【0022】
エマルジョンの調製の場合は、調製法は以下の通りである。エマルジョンの第1の部分を少なくとも1つのタンパク質で安定化し、第2のエマルジョンの第2の部分を少なくとも1つの多糖で安定化し、両エマルジョンを混合する。第1及び第2のエマルジョンに使用される脂質は、好ましくは、パーム油、パーム核、ヒマワリ、ベニバナ又はオリーブ油又はバター脂肪又はバター脂肪、又はそれら混合物のいずれかである。本実施形態の主な対象は、マヨネーズ、例えば無卵黄又は低脂肪マヨネーズの調製である。この場合は、タンパク質は、好ましくはβ−ラクトグロブリンで、多糖はアラビアゴムである。該製品は、最終pHが約4.2である。タンパク質及び多糖の濃度は、約0.01から5重量%である。調製は、脂肪が液体である温度で行われる。この場合は、得られた製品は最終製品である。これは、非発泡製品である。
【0023】
エマルジョンの調製の第2の実施形態によれば、発泡エマルジョンを有することも可能である。
【0024】
この場合は、少なくとも1つのタンパク質の溶液と少なくとも1つの多糖の溶液、又は1つのタンパク質の溶液と他の1つのタンパク質の溶液とを空気の存在下で混合する。次いで、この発泡製品をエマルジョンに混入して、例えば発泡マヨネーズを得る。この場合は、タンパク質はβ−ラクトグロブリンで、多糖はアラビアゴムで、脂質相は、ヒマワリ油又はオリーブ油である。ホイッピングのオーバーランは、約10から700%である。
【0025】
本発明のさらなる実施形態によれば、発泡エマルジョンを直接調製することが可能である。この場合は、進め方は以下の通りである。エマルジョンの第1の部分を少なくとも1つのタンパク質で安定化し、、エマルジョンの第2の部分を少なくとも1つの多糖又は第2のタンパク質で安定化し、両エマルジョンを混合し、バルク製品中で希釈し、次いでバルク製品に、タンパク質の新たな分散物と多糖の新たな分散物を(図1に示す発泡デバイスを使用して)空気と共に注入して、発泡バルク製品を形成する。
【0026】
この場合は、バルク製品は、好ましくはアイスクリーム用混合物である。エマルジョンに使用する脂質は、好ましくはヒマワリ油、パーム油、パーム核油又はミルク脂肪である。使用するタンパク質は、好ましくはβ−ラクトグロブリンで、多糖は、アラビアゴムである。タンパク質及び多糖の量は、約0.01から5重量%である。pHは約4.2である。次いで、最終製品を静的凍結又は動的凍結によって凍結させる。
【0027】
さらなる実施形態によれば、分散エマルジョンを調製することが可能である。調製法は、以下の通りである。エマルジョンの第1の部分を少なくとも1つのタンパク質で安定化し、エマルジョンの第2の部分を少なくとも1つの多糖又は第2のタンパク質で安定化し、両エマルジョンを混合し、次いで得られた最終エマルジョンを、粒子を含むベースと混合する。好ましい実施形態において、粒子を含むベースは、例えば糖、ココア粒子、粉ミルク、レシチン及び他の芳香剤を含有するチョコレートベースである。
【0028】
製造法は、以下の通りである。エマルジョンの第1の部分を少なくとも1つのタンパク質で安定化し、第2のエマルジョンの第2の部分を少なくとも1つの多糖又は第2のタンパク質で安定化し、両エマルジョンを混合する。第1及び第2のエマルジョンに使用する脂質は、好ましくはパーム油、パーム核、ヒマワリ、ベニバナ又はオリーブ油又はバター脂肪、又はそれらの混合物のいずれかである。本実施形態の主な対象は、マヨネーズ、例えば無卵黄又は低脂肪マヨネーズの調製である。この場合は、タンパク質は、好ましくはβ−ラクトグロブリン(BLG)で、多糖はアラビアゴム(AG)である。該製品は、最終pHが約4.2である。タンパク質及び多糖の濃度は、約0.01から5重量%である。調製は、脂肪が液体になる温度で行われる。次いで、このエマルジョン製品を、レシチン、糖及びココア粒子で構成されるバルクと混合して、チョコレートベースを得る。
【0029】
本発明の最後の実施形態によれば、発泡分散物が調製される。製造法は、以下の通りである。少なくとも1つのタンパク質の溶液及び少なくとも1つの多糖の溶液、又は1つのタンパク質の溶液及び他の1つのタンパク質の溶液を、分散粒子のバルク中に空気と共に注入する。
【0030】
発泡分散物の典型例は、ソルベの調製である。この場合は、少なくとも1つのタンパク質の溶液及び少なくとも1つの多糖の溶液、又は1つのタンパク質の溶液及び他の1つのタンパク質の溶液にバルク塊中に空気と共に注入する。この場合は、バルク塊は脂肪を含まないが、果実、又はジュース又は果実ピューレを含む。
【0031】
バルク分散粒子は、ヨーグルト調製物、或いはバクテリアを有する酸性ゲル、又はゲル化多糖若しくはタンパク質の化学的酸性化又は熱処理によって得られるゲルを有する他の酸性ゲルでありうる。
【0032】
第2の方法に従って進めることも可能である。少なくとも1つのタンパク質の溶液と少なくとも1つの多糖の溶液、又は1つのタンパク質の溶液と他の1つのタンパク質の溶液とを空気の存在下で混合する。次いで、分散粒子のバルクをこの泡と混合して、発泡分散物を得る。
【0033】
この最後の実施形態では、ウエハース又はカラメルの調製を検討することが可能である。
【0034】
本発明は、さらに、本発明の方法を実施するための装置に関する。この装置は、フレーム上に
−タンパク質を含むエマルジョン又は分散物が到達するための第1の管と、
−気体が到達するための第2の管と、
−多糖を含むエマルジョン又は分散物が到達するための第3の管とを備え、
これら3つの管は、主流路上に到達し、前記主流路に沿って、垂直に互い違い(staggered)に配置され、第1の管は主流路上の中央管を形成し、第2の管は主流路上の中間管を形成し、第3の管は主流路上の外管を形成し、中央管及び中間管の主流路上の出口は互い違い(staggered)である装置に関する。
【0035】
本発明のさらなる目的は、貯蔵時又は熱衝撃時の構造の安定性が実質的に変化しない製品を提供することである。本明細書における貯蔵については、1から2ヶ月の貯蔵であると理解される。アイスクリームの場合を考えると、実質的に変化しないとは、前記アイスクリームを冷凍庫から数回にわたって出し入れすることによって気泡の体積が大きく減少しないことであると理解される。したがって、消費者は、全貯蔵を通じて品質が実質的に変化しない製品を有することになる。これは、本発明において検討されている他の製品についても同じである。
【0036】
本発明のさらなる利点は、共エマルジョンの場合に、本発明による製品には乳化剤が必要ないことである。
【0037】
次に図面を参照しながら説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
注入システムは、フレーム(4)上にある。この枠には、3つの管が存在する。管(1)は、タンパク質を含む第1の分散物が到達するのに使用され、管(2)は、空気である気体の進入のために使用され、管(3)は、多糖を含む第2の分散物が到達するのに使用される。デバイスの3つの管は、主流路(8)上に到達し、垂直に配置され、前記主流路(8)に沿って互い違い(staggered)に配置されている。このデバイスは、本明細書及び以降の説明における異なる実施例に使用される。
【0039】
重要な特徴は、第1及び第2の分散物を含む気体の混合点において、管の出口(5)及び(6)が図2に示されるように互い違い(staggered)に配置されている。これによって、混合物の成分間の反応時間を可能にする。
【0040】
図3は、モンドミックス装置を使用して、実施例2に記載されたアイスクリーム調理物を+4℃で100%オーバーランにホイッピングした後に見られた気泡分散を示す図である。写真Aは、β−ラクトグロブリン及びアラビアゴムを含んでいなかった従来的な混合物(10%の無脂肪固形ミルク)である。剪断速度は800rpmに設定された。写真Bは、同じ調理物であるが、無脂肪固形ミルクの一部が、2.5%の乳漿タンパク質単離体及び1.25%のアラビアゴムに代えられていた。ここでも、剪断速度は800rpmであった。写真Cは、ホイッピングデバイス(モンドミックス)に結合された注入デバイス(図1)を使用して、図2に記載されている調理物の通気を行った後で撮った写真である。気泡サイズはA及びBの場合と同じであるが、剪断速度はわずか400rpmである。これらの結果は、界面で瞬時に生成されたタンパク質−多糖複合体を含むアイスクリーム調理物が最高の発泡性を有することを明確に示すものであった。
【0041】
以下に簡単に説明する手順に従って気泡分析を行った。製品の一定分量を秤量し、高粘度の媒体に分散させる。気泡を安定化させるように分散媒体の組成を設計する。分散物を自動定量画像解析する。図4に対して同様の手順をとる。
【0042】
図4は、熱衝撃処理の前(A)と後(B)に示された先行対照(D)、BLG/AG対照(E)及び3つの管(triple needle)BLG/AG(F)調理物に対応する調理物の累積体積サイズ分布を示す図である。それらのグラフは、分析する空気の全体積に対する気泡の累積分布(パーセント)を示す(x軸は気泡の直径(mm)を示し、y軸は分析する累積空気体積(%)を示す)。気泡を測定する前に、試料を−40℃で1週間にわたって平衡化した。温度を−20℃と−8℃の間で変動させた7日間周期で熱衝撃を達成した。それぞれの温度の増減は12時間継続した。粘性グリセロール含有媒体に分散させた後の同じ試料についての4つの繰り返しから採取した気泡の画像解析によって、気泡サイズ分布を達成した。初期のサイズ分布は極めて類似していることが明らかであり、それは、気泡に対する先の顕微鏡観察を裏付けるものである(我々の発明によって製造された試料には2分の1しかエネルギー投入が必要とされなかった)。熱衝撃後、対照及びBLG/AG対照は、サイズ分布がより小さい気泡に移行することを示したが、それは、実際は最大の気泡の損失によるものである。気泡含有率の差は、初期曲線と熱衝撃曲線の間の領域である。非常に興味深いことに、我々の発明に対応する曲線は、全く動かなかった。これは、試料の熱衝撃安定性が極めて高いことを表している。
【0043】
図5は、−40℃で7日間平衡させた後の3つのアイスクリーム製品の共焦点走査レーザ顕微鏡写真を示す図である。疎水性相互作用を通じてタンパク質を特異的に標識することが知られているローダミン6Gによってタンパク質を着色した。共焦点顕微鏡法は以下のように実施される。一定分量の製品を深さ2mmのキュベットに入れ、10−6Mのローダミン6G水溶液100μlで覆う。溶解後、溶解物をガラスカバースライドで覆い、共焦点顕微鏡法で調べる。図上、各写真は以下の通りである。(A)は対照調理物、(B)はBLG/AG対照調理物、(C)は我々の発明による調理物である。写真の観察から、我々の発明を用いたタンパク質との気泡界面の組織構造は、2つの対照に比べて明確である。これら後者の2つの製品では、タンパク質は、基質内で幾分ランダムに分布している。
【0044】
図6は、先の図の場合と同じ手順によるローダミン6G着色後の3つのアイスクリーム製品の薄片顕微鏡写真を示す図である。この図上、各写真は以下の通りである。(A)は対照調理品、(B)はBLG/AG対照調理品、(C)は我々の発明による調理品である。気泡の周囲の特定の構造の存在に注目すべきである。我々の意見としては、これらは、一次的な形成BLG/AG複合体の間の界面相互作用により形成されたコアセルベートである。
【0045】
図7は、水中にpH4.2で形成されたβ−ラクトグロブリン2.5%とアラビアゴム1.25%の混合物中に形成された気泡の界面の共焦点走査レーザ顕微鏡写真を示す図である。β−ラクトグロブリンをフルオレセインイソチオシアナートで共有結合標識した。界面に存在するコアセルベートは、我々の発明によって得られた最終アイスクリーム製品に観察されたもの(図6C)と同様である。
【0046】
(実施例)
以下の実施例は、本発明のいくつかの応用例を示すものである。
【実施例1】
【0047】
乳酸の添加によりpH4.2で、0.74%の乳漿タンパク質と、66%のヒマワリ油と、水とを、ミキサを使用して5分間混合することによって第1のエマルジョンを調製し、濃縮エマルジョンを得る。次いで、乳酸の添加によりpH4.2で、0.23%のアラビアゴム粉末と、66%のヒマワリ油と、水とをミキサを使用して5分間混合することによって第2のエマルジョンを得る。既に調製した2つのエマルジョンを1:1の重量比で混合し、ミキサ又は高剪断ポンプを使用して10分間混合することによって、最終的な濃縮エマルジョンを得る。
【実施例2】
【0048】
9%のパーム−パーム核油、5%の無脂肪固形ミルク、5%の乳漿タンパク質単離体、17%サクロースイナゴマメゴム、ガラナ、カラゲナン、カルボキシメチルセルロースの如き親水コロイドを含む0.4%の安定化剤配合物、水及び乳化剤からアイスクリーム混合物を調製する。クエン酸を添加することにより、この第1の混合物のpHをpH4.2に調整する。9%のパーム核油、7.5%の無脂肪固形ミルク、2.5%のアラビアゴム粉末、14%サクロース、イナゴマメゴム、ガラナ、カラゲナン、カルボキシメチルセルロースの如き親水コロイドを含む0.4%の安定化剤配合物、水及び乳化剤から第2の混合物を調製する。クエン酸を添加することによって、この第2の混合物のpHをpH4.2に調整する。次いで、両混合物を、ホモジナイザを使用して100バールで均質化し、次いで低温殺菌する。4℃で熟成した後に、剪断デバイス(ホイヤフリーザ又はモンドミックスホイッパ)に結合された、図1に示す処理デバイスを使用して、2つのアイスクリーム調製物を1:1の混合比で混合し、−6℃から+4℃の温度で通気して、100%のオーバーランを得た。次いで、混合物を型に注ぎ込み、−40℃の温度で硬化させた。
【実施例3】
【0049】
50%のミルククリーム(脂肪30%)、10%の無脂肪固形ミルク、5%の乳漿タンパク質単離体、8%サクロース、水及び乳化剤からサワークリームムースを調製する。クエン酸を添加することによって、この第1の調理物のpHをpH4.3に調整する。50%のミルククリーム(脂肪30%)、10%の無脂肪固形ミルク、2.5%のアラビアゴム粉末、8%のサクロース、0.4%の安定化剤配合物、水及び乳化剤から第2の調理物を調製する。クエン酸を添加することによって、この第2の調理物のpHをpH4.3に調整する。次いで、両調製物を、ホモジナイザを使用して80バールで均質化し、次いで低温殺菌する。モンドミックスホイッパに結合された、図1に示す処理デバイスを使用して、2つの調製物を1:1の混合比で混合し、+4℃で通気して、100%のオーバーランを得た。次いで、通気したサワークリームムースを型に注ぎ込み、+4で貯蔵した。
【実施例4】
【0050】
ミキサを使用して、70%のデンプンを含む50%の小麦粉及び4%の乳漿タンパク質濃縮物を水と混合し、乳酸を添加することによってpHを4.2に調整することによって、ウエハース調理物を得る。ホブバードミキサを使用して、70%のデンプンを含む50%の小麦粉及び1.6%のアラビアゴム粉末を水と混合し、乳酸を添加することによってpHを4.2に調整することによって他の調理物を得る。次いで、恒温皿を装備したホブバードミキサに結合された、図1に示す混合デバイスを使用して、両混合物を1:1の混合比で混合し、通気する。次いで、この通気ウエハースベースを150℃でベーキングプレート間に注ぎ込み、調理して、ウエハースを得る。
【実施例5】
【0051】
10%のマルトデキストリンDE21、15%の水素化パーム油及び3%の乳漿タンパク質単離体を50℃で水と混合して高圧均質化し(400バール+80バール)、塩酸を添加することによってpHを4.2に調整することによって、液体乳性コーヒクリーマ調理物を得る。10%のマルトデキストリンDE21、15%の水素化パーム油及び3%のアラビアゴム粉末を50℃で水と混合して高圧均質化し(400バール+80バール)、塩酸を添加することによってpHを4.2に調整することによって、他の調理物を得る。次いで、50℃の恒温皿を装備した高剪断ミキサを使用して、両調理物を1:1の混合比で混合する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明によるデバイス(3重針)の斜視図を示す図である。
【図2】デバイスの出口の拡大図である。
【図3】実施例2によるアイスクリーム中の気泡、さらには定量分析に使用される媒体へのその分散の顕微鏡図である。
【図4】実施例2で分析された気泡の累積体積分布のグラフである。
【図5】実施例2の製品の共焦点走査レーザ顕微鏡写真を示す図である。
【図6】より高い分解能における、実施例2の製品の共焦点走査レーザ顕微鏡写真を示す図である。
【図7】生重合体混合溶液中の気泡のモデルシステムにおいて、コアセルベートが界面で瞬時に形成された気泡の界面を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泡、エマルジョン、発泡エマルジョン、分散エマルジョン及び発泡分散物よりなる群から選択される製品であって、水−空気界面、水−油界面又は水−固体界面は、少なくともタンパク質(又はペプチド)と、反対の電気を帯びた少なくとも多糖とを混合することによって、又は反対の電気を帯びた2つのタンパク質を混合することによって前記界面に瞬時に形成された複合体を含み、前記製品は、反対の電気を帯びた両化合物の間の静電相互作用が生じるpH範囲にあり、タンパク質と多糖の合計量は、0.01から5重量%である製品。
【請求項2】
前記タンパク質は、ミルク、大豆、卵、食肉、魚類及び植物からのタンパク質よりなる群から選択される請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記タンパク質は、β−ラクトグロブリン、乳漿タンパク質、大豆タンパク質、卵白タンパク質及び小麦タンパク質よりなる群から選択される請求項2に記載の製品。
【請求項4】
前記多糖は、ゴム、親水コロイド及び安定化剤よりなる群から選択される請求項1から3までのいずれかに記載の製品。
【請求項5】
前記多糖は、アラビアゴム、アラビノガラクタン、Axライ、Ax小麦、カルボキシ−メチル−セルロース、キトサン、キサンタンガム、β−グルカンである請求項4に記載の製品。
【請求項6】
タンパク質と多糖、又はタンパク質とタンパク質の比が1:20から20:1である請求項1から5までのいずれかに記載の製品。
【請求項7】
最終製品の10から100重量%の量で使用される、アイスクリーム、低脂肪マヨネーズ、調理品、チョコレート、デザート、ウエハース、スポンジケーキ、乳製品及びペットフードの分野における請求項1から6までのいずれかに記載の製品の使用。
【請求項8】
最終製品の10から100重量%の量で使用される、化粧品及び香水の分野における請求項1から6までのいずれかに記載の製品の使用。
【請求項9】
泡製品を調製するための方法であって、少なくとも1つのタンパク質の溶液又はバルク塊(マス)及び少なくとも1つの多糖の溶液又はバルク塊、或いは1つのタンパク質の溶液又はバルク塊及び他の1つのタンパク質の溶液又はバルク塊を空気と共にバルク塊中に注入し、又は直接空気中に注入する方法。
【請求項10】
泡製品を調製するための方法であって、少なくとも1つのタンパク質の溶液と少なくとも1つの多糖の溶液、又は1つのタンパク質の溶液と他の1つのタンパク質の溶液とを空気の存在下で混合する方法。
【請求項11】
エマルジョンを調製するための方法であって、エマルジョンの第1の部分を少なくとも1つのタンパク質で安定化し、エマルジョンの第2の部分を少なくとも1つの多糖又は第2のタンパク質で安定化し、両エマルジョンを混合する方法。
【請求項12】
発泡エマルジョンを調製するための方法であって、バルク製品を調製し;エマルジョンの第1の部分を少なくとも1つのタンパク質で安定化し、エマルジョンの第2の部分を少なくとも1つの多糖又は第2のタンパク質で安定化し、両エマルジョンを混合して前記バルク製品中で希釈し;次いで前記タンパク質の新たな溶液及び前記多糖の新たな溶液を空気と共に前記バルク製品中に注入して、発泡バルク製品を形成する方法。
【請求項13】
分散エマルジョンを調製するための方法であって、エマルジョンの第1の部分を少なくとも1つのタンパク質で安定化し、エマルジョンの第2の部分を少なくとも1つの多糖又は第2のタンパク質で安定化し、両エマルジョンを混合し、次いで得られた最終エマルジョンを、粒子を含むベースと混合する方法。
【請求項14】
発泡分散物を調製するための方法であって、少なくとも1つのタンパク質の溶液及び少なくとも1つの多糖の溶液、又は1つのタンパク質の溶液及び他の1つのタンパク質の溶液を分散粒子のバルク中に空気と共に注入する方法。
【請求項15】
請求項9から14のいずれかに記載の方法を実行するための装置であって、フレーム上に
タンパク質を含むエマルジョン又は分散物が到達するための第1の管と、
気体が到達するための第2の管と、
多糖を含むエマルジョン又は分散物が到達するための第3の管とを備え、
これら3つの管は、主流路上に到達し、前記主流路に沿って、垂直に互い違いに配置され、前記第1の管は前記主流路上の中央管を形成し、前記第2の管は前記主流路上の中間管を形成し、前記第3の管は前記主流路上の外管を形成し、前記中央管及び前記中間管の前記主流路上の出口は互い違いである装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−500061(P2006−500061A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−539045(P2004−539045)
【出願日】平成15年9月26日(2003.9.26)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010740
【国際公開番号】WO2004/028281
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】