説明

ターボチャージャ用軸受装置

【課題】 ターボチャージャ用軸受装置において、玉軸受の潤滑に伴う回転抵抗の増大を防止して、回転トルクを低減する。
【解決手段】 本発明のターボチャージャ用軸受装置1は、ターボチャージャTの回転軸32をハウジング36内で回転自在に支持するものであって、回転軸32の軸方向に離れた一対の内輪軌道3a,3aを有する回転軸側の内輪3と、内輪軌道3a,3aに対向する外輪軌道4a,4aを有するハウジング側の一対の外輪4,4と、内輪軌道3a,3aと外輪軌道4a,4aとの間に転動自在に複数の玉5を配置してなる一対の玉軸受2a,2bと、回転軸32における一対の玉軸受2a,2b間の部分に供給された潤滑油を、当該回転軸32の回転力で径外方向に飛散させて各玉軸受2a,2bに供給する供給部材10とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のターボチャージャの回転軸を回転自在に支持するターボチャージャ用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のターボチャージャは、回転軸の一端側にタービンが取り付けられるとともに他端側にインペラが取り付けられ、回転軸の中間部がターボチャージャのハウジングの孔部に挿通されており、この中間部において、軸受装置により回転軸が回転可能に支持された構造になっている。
かかるターボチャージャの回転軸は、数万〜十数万(回/分)もの高速で回転し、しかもエンジンの運転状況に応じて回転速度が頻繁に変化するので、上記回転軸は、ハウジングに対し、小さな回転抵抗で支持し、しかもその回転を支持する軸受装置の潤滑を十分に考慮する必要がある。
【0003】
このため、従来から、ハウジングの内側において、上記回転軸を軸方向に離れて配置された一対の単列のアンギュラ玉軸受で回転自在に支持し、ハウジング内に設けた給油通路を通じて供給した潤滑油によって玉軸受を潤滑することが行われている(例えば、特許文献1及び2参照)。
ここで、特許文献1のターボチャージャ用軸受装置では、玉軸受の側方に設けたノズルから玉軸受の内輪の外周面に向けて潤滑油を噴出し、特許文献2のターボチャージャ用軸受装置では、外輪の端部に設けた給油孔から潤滑油を保持器の外周面に向けて吐出することにより、玉軸受を潤滑している。
【0004】
【特許文献1】特開2002−54449号公報
【特許文献2】特開2002−54451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2のターボチャージャ用軸受装置によれば、供給された潤滑油により玉軸受の潤滑状態が保持されるため、高速運転時における玉軸受の摩耗を防止することができる。
しかしながら、これら従来のターボチャージャ用軸受装置では、潤滑油を直接軸受に向けて噴出させており、その潤滑油の殆どが玉軸受の内部(内輪軌道と外輪軌道の間の環状空間)に液状で取り込まれるので、潤滑油の粘性で玉軸受の回転抵抗が大きくなり、ターボチャージャの回転トルクを却って上昇させるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、玉軸受の潤滑に伴う回転抵抗の増大を防止して、回転トルクを低減することができるターボチャージャ用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ターボチャージャの回転軸が数万〜十数万(回/分)もの高速で回転することを利用して、潤滑油を液状ではなく、噴霧化して玉軸受に供給するようにしたことを本質的特徴とする。
【0008】
すなわち、本発明は、ターボチャージャの回転軸をハウジング内で回転自在に支持するターボチャージャ用軸受装置であって、前記回転軸の軸方向に離れた一対の内輪軌道を有する回転軸側の内輪と、前記内輪軌道に対向する外輪軌道を有するハウジング側の一対の外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に複数の玉を配置してなる一対の玉軸受と、前記回転軸における前記一対の玉軸受間の部分に供給された潤滑油を、当該回転軸の回転力で径外方向に飛散させて前記各玉軸受に供給する供給部材とを備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、上記供給部材が、回転軸における一対の玉軸受間の部分に供給された潤滑油を、当該回転軸の回転力で径外方向に飛散させて各玉軸受に供給する。この場合、ターボチャージャの回転軸は、上記の通り非常に高速で回転するので、潤滑油が供給部材飛散される際にその遠心力によっていったん噴霧化され、ミスト状態となってから各玉軸受に供給される。
このため、液状の潤滑油が直接玉軸受に供給される従来装置に比べて、玉軸受の潤滑に伴う回転抵抗の増大を極力抑えることができる。
【0010】
本発明において、前記供給部材は、例えば、前記回転軸における前記一対の玉軸受間の部分に設けられた径外方向に突出する突出部材より構成することができる。
かかる突出部材は、回転軸の回転力を利用して潤滑油をその径外方向に飛散させて噴霧化する遠心力を発生させる形状及び構造のものであればよく、例えば、スリンガのような単純な円板形状のものや、回転軸の周方向に一定間隔おきに配列した羽根形状のもの等を採用することができる。
【0011】
もっとも、羽根形状のものは構造が複雑で製作コストが高くなるので、この点では、後述する実施形態(図1)で採用されているように、スリンガのような単純な円板形状のものが好ましい。
一方、この種のターボチャージャ用軸受装置は、通常、軸方向に離れた一対の玉軸受を備えているので、この一対の玉軸受のそれぞれに潤滑油を噴霧化して供給するために、前記突出部材は、前記一対の玉軸受に近接する位置に一対設けられていることが好ましい。
【0012】
また、本発明において、前記一対の外輪がそれぞれ内周面に嵌め込まれた軸受支持部を更に備え、この軸受支持部の周壁部を径方向に貫通する前記潤滑油の供給孔が当該軸受支持部に形成されている場合には、この供給孔の径内側出口を前記一対の突出部材の間に向いて開口させることが好ましい。
この場合、供給孔の径内側出口から軸受支持部の内部に供給された潤滑油は、必ず突出部材に付着し、その遠心力で飛散してから玉軸受に至ることになるので、ミスト状態での潤滑を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の通り、本発明によれば、玉軸受の潤滑に伴う回転抵抗の増大を防止することができるので、ターボチャージャの回転トルクを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明のターボチャージャ用軸受装置1の一実施形態を示す断面図である。
図2は、そのターボチャージャ用軸受装置1が組み込まれたターボチャージャTの概略構成を示す断面図である。
図2に示すように、本実施形態のターボチャージャTは、排気流路31を流通する排気により、回転軸32の一端側(図2の右側)に固定したタービン33を回転させるようになっている。
【0015】
この回転軸32の回転は、当該回転軸32の他端側(図2の左側)に固定されたインペラ34に伝わり、このインペラ34が給気流路35内で回転する。
この結果、給気流路35の上流側開口から吸引された空気が圧縮され、これにより、ガソリンや軽油等の燃料とともに圧縮された空気が、図示しないエンジンのシリンダ室内に送り込まれる。
【0016】
かかるターボチャージャTの回転軸32は、数万〜十数万(回/分)もの高速で回転し、しかも、エンジンの運転状況に応じて回転速度が頻繁に変化する。そのため、回転損失を低減すべくハウジング36内に設けられたターボチャージャ用軸受装置1によって、回転軸32をハウジング36に対して小さな回転抵抗で支持している。
このターボチャージャ用軸受装置1は、ターボチャージャTのハウジング36内に設けられた円筒状の軸受支持部8を備え、この筒内部に組み込まれている。一端にタービン33が取り付けられ他端にインペラ34が取り付けられた回転軸32は、その中間部において、当該軸受装置1によって回転自在に支持される。
【0017】
図1に示すように、このターボチャージャ用軸受装置1は、上記軸受支持部8と、この軸受支持部8に同軸心状に挿通された回転軸32の軸方向に離れて設けられた一対の玉軸受2a,2b(第一の玉軸受2a及び第二の玉軸受2b)と、この両玉軸受2a,2bの間に介在された円筒状の外輪間座7とを備えている。
【0018】
上記ハウジング36内の軸受支持部8に組み込まれた第一及び第二の玉軸受2a,2bは、いずれもアンギュラ玉軸受であって、両者の基本的構成はそれぞれ同じである。
第一の玉軸受2aは、回転軸32のタービン33側(図1の右側)に配置され、第二の玉軸受2bは、回転軸32のインペラ34側(図1の左側)に配置されている。両玉軸受2a,2bは、それぞれ、外周に内輪軌道3aを有する内輪3,3と、内周に外輪軌道面4aを有する外輪4と、これら内輪軌道3aと外輪軌道4aとの間に転動自在に配置された複数の玉5とを備えている。
【0019】
内輪3は環状に形成されており、その外周に形成された内輪軌道3aは所定の曲率半径を有するアンギュラ型の軌道であり、その軸線は斜め内側に向けられている。
また、外輪4も環状に形成されており、その内周には、内輪軌道3aと対向して、所定の曲率半径を有するアンギュラ型の外輪軌道4aが形成されている。そして、本実施形態のアンギュラ玉軸受2a,2bでは、その内輪3及び外輪4は、片側の肩部をなくしたいわゆるカウンタボアを有する断面形状とされている。
【0020】
転動体としての上記玉5は、円環状の保持器6に設けられた複数のポケット6a内に、それぞれ1個ずつ転動自在に保持され、この保持器6により、内輪軌道3aと外輪軌道4aとの間に形成された環状空間内に、その周方向に沿って所定の間隔おきに配列されている。
かかる第一及び第二の玉軸受2a,2bのそれぞれは、ハウジング36の内側に設けられた軸受支持部8に支持されている。
【0021】
より詳しくは、両玉軸受2a,2bのそれぞれの外輪4,4は、軸受支持部8に対する軸方向変位が許容されるように、前記軸受支持部8の両端部内周面に対して比較的ルーズに内嵌されている。
また、両玉軸受2a,2bのぞれぞれの内輪3,3は、回転軸32に対する軸方向変位も規制された状態で当該回転軸32の中間部に外嵌固定され、これにより、回転軸32の軸方向中間部が、軸方向に離れた一対の玉軸受2a,2bによってハウジング36の軸受支持部8に回転自在に支持されている。
【0022】
前記外輪間座7は、軸受支持部8の内周面に内嵌されており、その軸方向両端縁が各外輪4,4に当接した状態において、内輪3と外輪4間のすきまが適正な正すきまとなるように予め軸方向長さが調整されている。また、この外輪間座7は、回転軸32によりも線膨張係数が小さい例えばセラミック材料よりなる。
軸受支持部8の軸方向両端部には、断面コの字状のばね受け座8aが形成されている。この各ばね受け座8aとこれに対向する各外輪4の間にはコイルばねよりなる押圧ばね9が介装されており、この押圧ばね9の弾性力で外輪4を回転軸32の中央よりに付勢することにより、外輪4を外輪間座7に当接させるようにしている。
【0023】
本実施形態のターボチャージャ用軸受装置1は、また、回転軸32における一対の玉軸受2a,2b間の部分に供給された潤滑油を、当該回転軸32の回転力で径外方向に飛散させて各玉軸受2a,2bに供給する供給部材10を備えており、本実施形態の供給部材10は、回転軸32の外周部に設けられたスリンガ(突出部材)11よりなる。
このスリンガ11は、回転軸32における第一及び第二の玉軸受2a,2b間の部分に設けられた径外方向に突出する円盤状の部材よりなり、自身に付着した潤滑油を遠心力によって径外方向に飛散させて、ミスト状にするものである。
【0024】
また、スリンガ11は、各玉軸受2a,2bに近接する位置に一対設けられており、外径縁が内輪3と外輪4の間に位置する程度の外径を有する。
そして、図1の例では、上記両スリンガ11,11の間に潤滑油を供給するため、軸受支持部8の外周面から外輪間座7の内周面に向けて貫通する、所要径を有する供給孔12が形成されており、このオイル供給孔12の径内側出口は一対のスリンガ11,1の間に向いて開口している。
【0025】
図2に示すように、上記軸受支持部8を収めたハウジング36内には、給油通路37が設けられ、この給油通路37を通過する潤滑油で玉軸受2a,2bを潤滑するようになっている。
より詳しくは、潤滑油は、ターボチャージャTを装着したエンジンの運転時に、給油通路37の上流側に設けたフィルタ38により異物が除去された後、上記ハウジング36の内周面と軸受支持部8の外周面との間に存在する環状の隙間空間(図示せず)に送り込まれるようになっている。なお、この隙間空間は、ハウジング36と軸受支持部8とを隙間嵌めすることにより設けられている。
【0026】
そして、上記隙間空間を潤滑油で満たすことにより、軸受支持部8の外周面とハウジング36の内周面との間に全周にわたって油膜(オイルフィルム)を形成し、軸受支持部88の振動をハウジング36に伝わり難くしている。
このように、上記隙間空間に満たされた潤滑油によって、回転軸32の回転に基づく振動を減衰させるオイルフィルムダンパが形成されている。
【0027】
上記隙間空間に送り込まれた潤滑油の一部は、軸受支持部8と外輪間座7を共に径方向に貫通する一対の供給孔121から、回転軸32の両スリンガ11,11の間の部分に向けて供給される。
そして、外輪間座7の内部に供給された潤滑油は、左右の両スリンガ10に接触して、回転軸32の高速回転による遠心力によって径外方向に飛散してミスト化され、このミスト上の潤滑油が各玉軸受2a,2bに供給され、内輪3と外輪4の間の玉5の転動部分を潤滑し、この潤滑が終わった後に排油口39より排出される。
【0028】
以上の構成を有するターボチャージャ用軸受装置1によれば、回転軸32に設けられた一対のスリンガ11,11間に供給された潤滑油がその遠心力によって飛散し、ミスト状となって軸受内部に供給される。このため、潤滑油を液体状のまま直接軸受内部に供給する場合と比較して、軸受内部に供給される潤滑油の油量が減少する。
この結果、玉軸受2a2bの回転抵抗の増大が抑制され、ターボチャージャTの回転トルクを低減することができる。
【0029】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。
上記実施形態では、円板状のスリンガ11を採用しているが、このスリンガ11の外周縁を歯車状の凹凸を形成することにより、潤滑油のミスト効果をより向上することができる。
また、潤滑油をミスト化する供給部材10は、上記スリンガ11に限らず、潤滑油を遠心力で飛散させてミスト化するものであれば特にその形状が限定されるものではない。
【0030】
例えば、上記スリンガ11の代わりに、回転軸32に嵌着したボス部から複数の羽根を延設したフィン構造や、そのボス部から複数の線状物を突設したブラシ構造のものを採用することもできる。
また、保持器6の形式としては、図1に示すようなもみ抜き型だけでなく、例えば波型のものを採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ターボチャージャ用軸受装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】上記軸受装置を有するターボチャージャの概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ターボチャージャ用軸受装置
2a 第一の玉軸受
2b 第二の玉軸受
3 内輪
4 外輪
5 玉
6 保持器
7 外輪間座
8 軸受支持部
9 押圧ばね
10 供給部材
11 スリンガ(突出部材)
12 供給孔
32 回転軸
33 タービン
34 インペラ
36 ハウジング
T ターボチャージャ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャの回転軸をハウジング内で回転自在に支持するターボチャージャ用軸受装置であって、
前記回転軸の軸方向に離れた一対の内輪軌道を有する回転軸側の内輪と、
前記内輪軌道に対向する外輪軌道を有するハウジング側の一対の外輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に複数の玉を配置してなる一対の玉軸受と、
前記回転軸における前記一対の玉軸受間の部分に供給された潤滑油を、当該回転軸の回転力で径外方向に飛散させて前記各玉軸受に供給する供給部材とを備えていることを特徴とするターボチャージャ用軸受装置。
【請求項2】
前記供給部材は、前記回転軸における前記一対の玉軸受間の部分に設けられた径外方向に突出する突出部材よりなる請求項1に記載のターボチャージャ用軸受装置。
【請求項3】
前記突出部材は、前記一対の玉軸受に近接する位置に一対設けられている請求項2に記載のターボチャージャ用軸受装置。
【請求項4】
前記一対の外輪がそれぞれ内周面に嵌め込まれた軸受支持部を更に備え、
この軸受支持部の周壁部を径方向に貫通する前記潤滑油の供給孔が当該軸受支持部に形成され、この供給孔の径内側出口が前記一対の突出部材の間に向いて開口している請求項3に記載のターボチャージャ用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−204005(P2009−204005A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44354(P2008−44354)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】