説明

ダイシングウエハ収納トレー

【課題】焼却した場合の燃焼カロリーが低く、焼却炉を傷めず、硫黄酸化物や窒素酸化物等の有毒ガスの発生を低減し、更には自然界において容易に分解し、生態系に及ぼす悪影響を低減しうるダイシングウエハ収納トレーを提供する。
【解決手段】ダイシングウエハを収納する凹部を備えたダイシングウエハ収納トレーであって、ポリ乳酸を含有すると共に、他の熱可塑性樹脂を含有し、更にイオン導電性の導電剤を含有する樹脂組成物を用いて成形したダイシングウエハ収納トレー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイシングウエハを収納する凹部を備えたダイシングウエハ収納トレーに関し、特にポリ乳酸を含有する樹脂組成物を用いて成形したダイシングウエハ収納トレーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からダイシングウエハや半導体素子収納用パッケージ等の電子部品を収納し、搬送するために平板体に凹部を形成して構成した収納部を備えた熱可塑性樹脂製のトレーが用いられている(例えば、特許文献1参照。)。そして、これらのトレー中特にダイシングウエハを収納するトレーは、消耗品として扱われ、1回乃至は数回の使用で廃棄されているのが現状である。
【0003】
尚、ダイシングウエハとは、IC化工程が終了したウエハをダイシングして得た、1個のICが作り込まれたシリコンなどの半導体結晶の小片で、ペレット、ダイ、チップ或いはICチップと称されるものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−132438
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらのトレーは原料を石油とするポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂やポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂からなり、その廃棄において、焼却処分をした場合には塩素を発生するものもあり、酸性雨やダイオキシンの発生原因となるといった問題点や、焼却炉の温度が上がり過ぎて、焼却炉を傷め、焼却炉の寿命を短くしてしまうといった問題点もあった。そのため、埋め立て処分により廃棄されることがあるが、埋め立て処分した場合には、これらのトレーは、化学的安定性が極めて高いために、自然界で微生物等による分解が遅く、長期間分解せずに固形廃棄物の増加や環境汚染から生態系を乱すといった問題点があった。
【0006】
又、従来のトレーでは帯電防止のためにカーボンブラック等の導電性フィラーを樹脂に練りこむ方法が主に用いられているが、トレーの色が制限されるといった問題点や、トレー表面に存在するカーボンブラック等の導電性フィラーが収納したダイシングウエハと接触すること等により剥離し、収納したダイシングウエハを汚染するといった問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点を解決し、焼却した場合の燃焼カロリーが低く、焼却炉を傷めず、硫黄酸化物や窒素酸化物等の有毒ガスの発生を低減し、更には自然界において容易に分解し、生態系に及ぼす悪影響を低減しうるダイシングウエハ収納トレーを提供することを目的とする。
【0008】
又、トレーの色が制限されず、所望の色彩を施すことが出来、収納するダイシングウエハがトレーに含有される導電剤の組成物により汚染されることを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段としての本発明は、ダイシングウエハを収納する凹部を備えたダイシングウエハ収納トレーであって、ポリ乳酸、他の熱可塑性樹脂及びイオン導電性の導電剤を含有する樹脂組成物を用いて成形したダイシングウエハ収納トレーである。
【発明の効果】
【0010】
以上のような本発明によれば、ポリ乳酸を含有する樹脂組成物を用いてダイシングウエハ収納トレーを成形したので、焼却した場合の燃焼カロリーが低く、焼却炉を傷めず、硫黄酸化物や窒素酸化物等の有毒ガスの発生を低減し、更には自然界において容易に分解し、生態系に及ぼす悪影響を低減しうるダイシングウエハ収納トレーを提供することが可能となった。
【0011】
又、ダイシングウエハ収納トレーを成形する樹脂組成物にはイオン導電性の導電剤を含有させたので、トレーの色が制限されず、所望の色彩を施すことが出来た。又、収納するダイシングウエハがトレーに含有される導電剤の組成物により汚染されることを防止可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の実施の形態を詳細に説明する。ダイシングウエハ収納トレー1(以下「トレー1」という。)は四角形の平板体2の上面21にダイシングウエハを収納する直方体状の凹部からなる収納部3を複数凹設し、平板体2の下端周縁から脚部4を突設している。トレー1は重ねられた際に、上段のトレー1の脚部4が下段のトレー1の脚部4の上面41で支持され、下段のトレー1の平板体2は上段のトレー1の脚部4と平板体2の底面22で囲まれた空間5内に収納される。
【0013】
トレー1はポリ乳酸、他の熱可塑性樹脂及びイオン導電性の導電剤を含有する樹脂組成物を用いて成形する。ポリ乳酸は石油由来のものでもよいが、植物由来のものを用いることが望ましい。植物由来のポリ乳酸は例えばトウモロコシやイモ類から得た澱粉を糖化し、乳酸菌により乳酸を得て、乳酸を環化反応させてクラチドとし、クラチドを開環重合して合成することが出来る。又、石油由来のポリ乳酸は石油からクラチドを合成し、クラチドを開環重合して合成するすることが出来る。
【0014】
該樹脂組成物中のポリ乳酸の含有量は特に限定されないが、ポリ乳酸が70重量%より多いともろく、強度的に弱いので、ポリ乳酸が70重量%以下とすることが望ましい。又、焼却時の有毒ガスの発生の低減、生分解の容易性といった要請から該樹脂組成物はポリ乳酸を40重量%以上、更には50重量%以上含有させることが望ましい。
【0015】
又、ポリ乳酸を構成するL−乳酸及びD−乳酸の比率は特に限定されることはない。更に、ポリ乳酸には、主たる構成モノマーであるL−乳酸及びD−乳酸以外に他の成分が共重合されてもよい。この他の成分としては、ジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸等が挙げられ、ポリ乳酸の共重合体におけるこれら他の成分は、共重合体の成分中30モル%以下とすることが好ましい。
【0016】
該樹脂組成物にはポリ乳酸以外の他の熱可塑性樹脂を含有させる。これらポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂は非生分解性樹脂であるか生分解性樹脂を問わず、石油由来の樹脂であるか植物由来の樹脂であるかも問わない。又、これらの樹脂を混合して用いてもよい。非生分解性樹脂としてはポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリウレタン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリメタクリレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0017】
又、該樹脂組成物にはエラストマーを含有させてもよく、エラストマーとしては、スチレン・ブタジエンゴム、ポリエステル系エラストマー、エチレン・プロピレンゴム、アクリル系エラストマー、シリコンゴム、ポリアミド系エラストマー等が挙げられる。
【0018】
又、該樹脂組成物にはイオン導電性の導電剤を含有させる。該イオン導電性の導電剤としては、熱可塑性樹脂、未加硫ゴム及び熱可塑性エラストマー等の重合体或いは共重合体にリチウム塩やナトリウム塩等のイオン性塩を含有させた、いわゆるイオン導電性の高分子型帯電防止剤等を用いることが出来る。このイオン伝導は高分子鎖間をイオンが伝播することにより電気伝導性が得られるものであり、質量をもったイオンという物質の移動によって導電性が発現するものである。イオンは高分子に担持され、高分子の局所運動に従って移動することにより電気伝導性が得られる。イオン性塩としてアルカリ金属塩類やアルカリ土類金属塩類を用いることができ、アルカリ金属又はアルカリ土類金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムが挙げられる。これらアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む多数ある金属塩類から一種又は二種以上を混合して用いることが出来る。
【0019】
該樹脂組成物に含まれるポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂や導電剤に含まれる重合体や共重合体にもよるが、導電剤の配合量は、樹脂組成物中2〜5%程度が好ましく、該樹脂組成物中リチウム塩やナトリウム塩等のイオン性塩の配合量は、好ましくは0.1〜3重量%程度である。
【0020】
該樹脂組成物がポリ乳酸以外の樹脂としてポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系樹脂を含む場合には導電剤としては例えばポリエーテル/ポリオレフィンブロックコポリマーとリチウム塩を含有するものやポリエーテルエステルアミドブロックコポリマーにリチウム塩を含有するもの等を用いることが出来る。
【0021】
尚、該樹脂組成物中未加硫ゴムや熱可塑性エラストマーを含むエラストマーは5.0重量%以下とすることが好ましい。5.0重量%以上ではダイシングウエハ収納トレーが柔らかくなりすぎるためである。
【0022】
又、該樹脂組成物には酸化防止剤、難燃剤、着色剤、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、消泡剤、滑剤等の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で含有させることが出来る。
【0023】
本発明のトレー1は例えば、ペレット状に形成したイオン導電性の導電剤と、同様にペレット状に形成したポリ乳酸、その他の熱可塑性樹脂を予備混合し、溶融混練して各種成分を均一に分散させる。そして、このようにして調整した樹脂組成物を用いて射出成形によりトレー1を製造する。或いは、イオン導電性の導電剤とポリ乳酸及び必要に応じて他の添加剤を混合してペレット状に形成し、マスターバッチとし、射出成形機に入れる直前で、該マスターバッチにその他の熱可塑性樹脂を配合して成形してもよい。このような成形法によれば、トレー1の導電率や収縮率の調整を容易に可能とすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明一実施例斜視図
【図2】図1A−A断面図
【符号の説明】
【0025】
1 ダイシングウエハ収納トレー
2 平板体
3 収納部
4 脚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイシングウエハを収納する凹部を備えたダイシングウエハ収納トレーであって、ポリ乳酸、他の熱可塑性樹脂及びイオン導電性の導電剤を含有する樹脂組成物を用いて成形したダイシングウエハ収納トレー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−276792(P2007−276792A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−101720(P2006−101720)
【出願日】平成18年4月3日(2006.4.3)
【出願人】(000222749)東洋樹脂株式会社 (6)
【Fターム(参考)】