説明

チルト制御機構を有するレーザ照射装置及びレーザ照射装置におけるチルト制御方法

【課題】チルト制御機構を有するレーザ照射装置及びレーザ照射装置におけるチルト制御方法を提供する。
【解決手段】レーザ照射装置において一対の照射用光学系及び一対のAF光学系を設け、各AF光学系において受光される戻り光の光量に基づいて光ヘッド部をチルト方向に駆動制御することにより、均一な照射を保ちつつ照射対象物の照射面のチルトに対する自動調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射対象物にフォーカス制御を行いながらレーザビームを照射するレーザ照射装置に関し、特に、照射対象物の被照射面の変位に応じて照射位置及び照射方向を自動的に制御するチルト制御方法及び同チルト制御機構を有するレーザ照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にレーザ照射装置は、照射対象物に合焦点したレーザスポットを照射することにより、照射対象物の物理的特性を変化させるレーザアニール装置等に使用されている。
【0003】
従来技術によるレーザスポットのフォーカス制御を行うレーザ照射装置は、図9に示す如く、レーザビームを発光する複数の半導体レーザ素子1a〜1nと、該複数の半導体レーザ素子1a〜1n各々から出射したレーザビームが一端において入射される複数の光ファイバ2と、各光ファイバ2の他端から出射する複数のレーザビームが一端側面において入射され、レーザビームを内部で乱反射させながら他端側面から出射する導光板13と、導光板13から出射されたレーザビームを平行光に変換するコリメートレンズ14と、コリメートレンズ14から出射される平行光であるレーザビームを集光して照射対象物20に照射する対物レンズ16と、照射対象物20からの反射光の進行方向を45度偏光させるPBS(偏光ビームスプリッタ:入射した光をその偏光成分により分離させるフィルタ)15と、PBS15により偏光されたレーザビームを集光するAF(オートフォーカス)集光レンズ12と、集光レンズ12により集光された戻り光17を受光するディテクタ11と、ディテクタ11により受光した戻り光17に基づき非点収差法により照射対象物20への焦点合わせを行うオートフォーカス(AF)制御部(図示せず)とから構成される。
【0004】
前述した非点収差法とは、非点収差をもった光学系で結像した点像のひずみを検出することにより光軸方向の変位を非接触で測定する方法であって、レンズの焦点距離が光軸を含む直交する二つの断面で異なる値を持つことによる非点収差を利用し、この非点収差をもった光学系において点像を結合すると観測面の位置によって像が縦長、円形、横長と変化し、この変化を4分割光検出器を用いて検出することより、光軸方向の変位を測定する手法である。
【0005】
このように構成されたレーザ照射装置は、照射対象物20から反射したレーザビームをPBS15により偏光し、AF集光レンズ12によって絞り、これをディテクタ11が受光し、オートフォーカス制御部からの制御信号に基づき対物レンズ16を照射対象物20に対して移動させることによって、照射対象物20上のレーザスポットの焦点合わせを行うように制御するものである。
【0006】
尚、前述したレーザアニール装置に関する技術が記載された文献としては、下記特許文献が挙げられる。特許文献1には、非晶質半導体膜にレーザを照射することによって半導体膜の結晶化を行う技術が記載され、特許文献2には、複数の半導体レーザ素子から照射されたレーザビームを光ファイバを介して板状の光導波路の一端に入射し、該光導波路の他端から出射したレーザビームを集束レンズにより集束したレーザスポットを照射対象物に照射する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−241421号公報
【特許文献2】特開2007−115729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図9に示す従来のレーザ照射装置において、フォーカス制御の光学系は、光源である半導体レーザ素子1a〜1nから照射対象物20に至るまで直線的に構成される照射用光学系とは異なるフォーカス制御用光路を設けなければならず、光ヘッド部10の全体構造が複雑化、大型化、重量化してしまう。ここで、図9に示すに示すように、光ヘッド部10は、導光板13、コリメートレンズ14、対物レンズ16、AF集光レンズ12、ディテクタ11、対物レンズ16の駆動部(図示せず)などから構成される。
光ヘッド部10の重量が増加すると、光ヘッド部10の移動による振動に起因してフォーカス制御が不安定となる可能性がある。特に、大型液晶パネルのアニール(結晶化)などに用いるレーザ照射装置においては、照射ビームの焦点をずらすことなく均一な照射を行うことが求められるため、光ヘッド部10を軽量化してフォーカス制御を安定させることが重要な課題となっている。
【0009】
そこで、本発明者らは、照射用光学系とは異なるフォーカス制御用光路を設ける必要のない装置構成のレーザ照射装置を考案するに至った。
図10は、このレーザ照射装置の構成を概略的に示す図である。図10に示す如く、このレーザ照射装置は、レーザビームを発光する半導体レーザ素子1a,1b及びカップリングレンズ4a,4bをそれぞれ有する一対のレーザ発光部6a,6bと、レーザ発光部6a,6bそれぞれから発光されたレーザビームが一端において入射される一対の光ファイバ2と、光ファイバ2の各々の他端から出射される複数のレーザビームが一端側面において入射され、このレーザビームを内部で乱反射させながら他端側面から出射する導光板13と、導光板13から出射されたレーザビームを平行光に変換するコリメートレンズ14と、コリメートレンズ14から出射された平行光であるレーザビームを集光して照射対象物20に照射する対物レンズ16と、照射対象物20から反射されて導光板13に入射されたレーザビームを導光板13の一端側面の略中央部から外部に導く戻り光ファイバ5と、戻り光ファイバ5の他端から出射されるレーザビームが入射されるAF光学系30と、AF光学系30から出力される信号に基づいて、対物レンズ16の駆動を制御する制御信号を出力するAF制御部35とから構成される。
AF光学系30は、図9に示したのと同様のAF集光レンズ及びディテクタを有している。
【0010】
図10に示すレーザ照射装置は、図9に示したレーザ照射装置と同様の動作により対物レンズ16を照射対象物の照射面に対して垂直方向に駆動制御して自動焦点合わせを行うことができる。図10と図9を比較すれば明らかなように、図10に示すレーザ照射装置は、直線的に構成される照射用光学系内からAF光学系30を分離することにより、光ヘッド部70の複雑化、大型化、重量化を回避している。
【0011】
図11は、AF光学系30のディテクタから出力される信号MONC(中央モニター信号)の波形を示す図である。信号MONCは、ディテクタにおいて受光した戻り光の光量に応じた値であり、レーザスポット7の焦点と照射対象物20の表面とが一致した場合に最大値となる。したがって、AF制御部35により、ディテクタからの信号MONCの値が最大値となるよう対物レンズ16を駆動制御することにより、レーザスポット7の照射対象物20表面への焦点合わせを行うことができる。実際には、AF制御部35は、図11に示すように、ディテクタからの信号MONCの値が所定の閾値VC(例えば、出力レベル最大値の90%とする)を超えるように制御することとしてもよい。
【0012】
ところで、レーザアニールを行うためのレーザ照射装置では、希ガスやハロゲンなどの混合ガスを用いて発生させたエキシマレーザや、半導体レーザなどの短波長でエネルギー密度が高いレーザ光を極めて高度に集光し焦点合わせして照射対象物に照射している。集光度が極めて高い照射光は焦点深度が極めて浅いものとなる。
図10に示すレーザ照射装置においては、AF光学系30のディテクタにおいて検出される戻り光に基づいて照射光の焦点を照射対象物の照射面に対して垂直方向に変位させて焦点合わせを行うものであるが、照射対象物の照射面の変位が大きい場合(例えば、20〜30μmの変位)には、対物レンズ16の調整によって照射光のエネルギー密度などの性質が大きく変化してしまい、照射対象物に対して均一な照射を行うことができないという問題点があった。
【0013】
また、照射対象物の微小な照射部分に焦点深度の極めて浅いレーザスポットを十分な強度分布で照射するためには、レーザスポットを照射対象物に対して垂直に照射する必要があるが、図10に示すレーザ照射装置においては、照射対象物の照射面の傾き(チルト)を検出する手段もなければ、傾きに応じた照射方向(光軸)の調整を行うことも全くできないという問題点があった。また、図10に示すレーザ照射装置においては、照射対象物の照射面に対して垂直方向の焦点調整を行うことができるのみであり、照射対象物の変動に応じた光ヘッド部70の水平・垂直方向の位置調整ができないという問題点もあった。
【0014】
上記の特許文献に記載の従来技術などにおいても、このような問題点は解決されていないばかりか、問題点として対処することすら意識されていない状況である。
以上のような実情に鑑みて、上記した従来のレーザ照射装置における課題を解決すべく、本発明は、チルト制御機構を有するレーザ照射装置及びレーザ照射装置におけるチルト制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記解決課題に鑑みて鋭意研究の結果、本発明者は、レーザスポットが一定の広がりをもつ(通常は楕円形)ことに着目し、レーザ照射装置において一対の照射用光学系及び一対のAF光学系を設け、各AF光学系において受光される戻り光の光量に基づいて光ヘッド部をチルト方向に駆動制御することにより、均一な照射を保ちつつ照射対象物の照射面のチルトに対する自動調整を行うことができることに想到し、本発明を成すに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、照射対象物にレーザ光を集光したレーザスポットを照射するレーザ照射装置であって、レーザ光を発光する手段を備える複数の照射光学系と、前記照射光学系の各々から照射されるレーザ光を受光し平行光に集光するコリメートレンズと、前記コリメートレンズを通過したレーザ光を所定のレーザスポット形状に集光し、照射対象物の照射面上に焦点合わせする対物レンズと、照射対象物に照射されたレーザ光が反射され、前記対物レンズ及び前記コリメートレンズを通過してきた戻り光を受光する複数の戻り光学系と、前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量を検出する手段と、前記検出された戻り光の光量に基づいて、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向を調整する照射方向調整手段とを有するレーザ照射装置を提供するものである。
【0017】
本発明のレーザ照射装置において、前記照射方向調整手段は、照射対象物の照射面上の焦点を固定しながらレーザスポットの照射方向を調整することを特徴とする。
これにより、照射対象物の照射面上の焦点位置をずらすことなく照射方向を調整して良好な照射を行うことが可能となる。
【0018】
本発明のレーザ照射装置は、さらに、前記コリメートレンズ及び前記対物レンズを収容する光ヘッド部を有しており、前記照射方向調整手段は、照射対象物の照射面上の焦点を中心軸として、当該中心軸に対して前記光ヘッド部を周回させることにより、レーザスポットの照射方向を調整することを特徴とする。
【0019】
本発明のレーザ照射装置において、前記照射方向調整手段は、前記光ヘッド部を照射対象物の照射面に平行な方向及び垂直な方向に位置調整することにより、照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする。
これにより、照射方向の調整のみならず、照射対象物上の焦点位置のずれをも調整することができる。
【0020】
本発明のレーザ照射装置において、前記照射方向調整手段は、前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量の合計値が最大値となるよう、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向及び/又は照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする。
あるいは、前記照射方向調整手段は、前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量の合計値が所定の閾値以上となるよう、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向及び/又は照射対象物上の照射位置を調整することとしてもよい。
【0021】
本発明のレーザ照射装置は、さらに、前記検出された戻り光の光量に基づいて前記対物レンズを照射対象物の照射面に略垂直な方向に移動させることにより、照射対象物に対するレーザスポットの焦点合わせを行う焦点調整手段を有していることを特徴とする。
【0022】
本発明は、また、レーザ光を発光する手段を備える複数の照射光学系と、前記照射光学系の各々から照射されるレーザ光を受光し平行光に集光するコリメートレンズと、前記コリメートレンズを通過したレーザ光を所定のレーザスポット形状に集光し、照射対象物の照射面上に焦点合わせする対物レンズと、照射対象物に照射されたレーザ光が反射され、前記対物レンズ及び前記コリメートレンズを通過してきた戻り光を受光する複数の戻り光学系と、前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量を検出する手段とを有するレーザ照射装置において、前記検出された戻り光の光量に基づいて、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向を調整することを特徴とするレーザ照射方法を提供するものである。
【0023】
本発明のレーザ照射方法は、照射対象物の照射面上の焦点を固定しながらレーザスポットの照射方向を調整することを特徴とする。
これにより、照射対象物の照射面上の焦点位置をずらすことなく照射方向を調整して良好な照射を行うことが可能となる。
【0024】
本発明のレーザ照射方法は、前記レーザ照射装置において、前記コリメートレンズ及び前記対物レンズを収容する光ヘッド部を有しており、照射対象物の照射面上の焦点を中心軸として、当該中心軸に対して前記光ヘッド部を周回させることにより、レーザスポットの照射方向を調整することを特徴とする。
【0025】
本発明のレーザ照射方法は、前記光ヘッド部を照射対象物の照射面に平行な方向及び垂直な方向に位置調整することにより、照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする。
これにより、照射方向の調整のみならず、照射対象物上の焦点位置のずれをも調整することができる。
【0026】
本発明のレーザ照射方法は、前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量の合計値が最大値となるよう、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向及び/又は照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする。
【0027】
あるいは、前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量の合計値が所定の閾値以上となるよう、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向及び/又は照射対象物上の照射位置を調整することとしてもよい。
【0028】
本発明のレーザ照射方法は、前記検出された戻り光の光量に基づいて前記対物レンズを照射対象物の照射面に略垂直な方向に移動させることにより、照射対象物に対するレーザスポットの焦点合わせを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
以上、説明したように、本発明のチルト制御機構を有するレーザ照射装置及びレーザ照射装置におけるチルト制御方法によれば、照射対象物の照射面の傾きに対してレーザ光の照射方向を自動調整して好適な照射を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態にかかるチルト制御機構を有するレーザ照射装置の全体構成を概略的に示す図である。
【図2】レーザ照射装置において生じる照射対象物の変動(チルト)とそれに対する対処法を説明するための模式図である。
【図3】図1に示すレーザ照射装置における照射対象物上のレーザスポット及び照射方法を説明するための模式図である。
【図4】図1に示すレーザ照射装置における一対のAF光学系から出力される各信号の合成信号MONL+MONRの波形を示す図である。
【図5】図1に示すレーザ照射装置におけるチルト制御部による光ヘッド部のθ軸方向の駆動方法について説明するための模式図である。
【図6】図1に示すレーザ照射装置におけるチルト制御部による光ヘッド部のθ軸方向の駆動方法について説明するための模式図である。
【図7】図1に示すレーザ照射装置における光ヘッド部の駆動手段の例を模式的に示す図である。
【図8】図1に示すレーザ照射装置におけるチルト制御部による光ヘッド部のθ軸方向の駆動方法について説明するための模式図である。
【図9】従来のレーザ照射装置におけるオートフォーカス制御機構の原理を概略的に示す図である。
【図10】本発明者らが考案した照射用光学系とは異なるフォーカス制御用光路を設ける必要のないレーザ照射装置の構成を概略的に示す図である。
【図11】図10に示すレーザ照射装置におけるAF光学系のディテクタから出力される信号MONCの波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照しながら、本発明のチルト制御機構を有するレーザ照射装置及びレーザ照射装置におけるチルト制御方法を実施するための最良の形態として、チルト制御機構を有するレーザ照射装置について詳細に説明する。図1〜図8は、本発明の実施の形態を例示する図であり、これらの図において、同一の符号を付した部分は同一物を表わし、基本的な構成及び動作は同様であるものとする。
【0032】
[構成]
図1は、本実施形態のレーザ照射装置の全体構成を概略的に示す図である。
図1において、本実施形態のレーザ照射装置は、
(A)レーザビームを発光する半導体レーザ素子及びカップリングレンズ(図示を省略)を有するレーザ発光部6a〜6dと、
(B)レーザ発光部6a,6bそれぞれから発光されたレーザビームが一端において入射される光ファイバ群2aと、
(C)レーザ発光部6c,6dそれぞれから発光されたレーザビームが一端において入射される光ファイバ群2bと、
(D)光ファイバ群2a,2bの各々の他端から出射される複数のレーザビームが一端側面において入射され、このレーザビームを内部で乱反射させながら他端側面から出射する一対の導光板13a,13bと、
(E)導光板13a,13bの各々から出射されたレーザビームを同一方向の平行光に変換するコリメートレンズ14と、
(F)コリメートレンズ14から出射された平行光であるレーザビームを集光して照射対象物20に照射する対物レンズ16と、
(G)照射対象物20から反射されて各導光板13a,13bに入射されたレーザビームを導光板13a,13b各々の一端側面の略中央部から外部に導く一対の戻り光ファイバ5a,5bと、
(H)戻り光ファイバ5a,5b各々の他端から出射されるレーザビームが入射されるAF光学系L(31)及びAF光学系R(32)と、
(I)AF光学系L(31)及びAF光学系R(32)から出力される信号に基づいて、対物レンズ16の駆動を制御する制御信号を出力するAF制御部35と、
(J)AF光学系L(31)及びAF光学系R(32)から出力される信号に基づいて、光ヘッド部80の駆動手段(図示せず)に対しての駆動を制御する制御信号を出力するチルト制御部40
とから構成される。
【0033】
本実施形態のレーザ照射装置において、レーザ発光部6a〜6d、光ファイバ群2a,2b、コリメートレンズ14、対物レンズ16、戻り光ファイバ5a,5b、AF光学系L(31)、AF光学系R(32)については、図10に示した従来のレーザ照射装置における構成部品と同様に構成されているものとする。また、AF光学系L(31)及びAF光学系R(32)は、図9に示したのと同様のAF集光レンズ及びディテクタを有している。
【0034】
本実施形態のレーザ照射装置において、図1に示すように、導光板13a,13bは、導光板13a,13bは、略同一の平板形状であって、照射光の光軸に対して互いに線対称に配置されており、それぞれ他端側面から出射する略同光量のレーザ光がコリメートレンズ14に入射するようレーザ光の出射方向を調整しているが、それ以外については図10に示した従来のレーザ照射装置におけるコリメートレンズ14と同様である。
【0035】
本実施形態のレーザ照射装置において、図1に示すように、AF制御部35は、AF光学系L(31)及びAF光学系R(32)から出力される2系等の信号に基づいて対物レンズ16の駆動を制御する(その詳細については後述する)が、それ以外については図10に示した従来のレーザ照射装置におけるAF制御部35と同様である。
【0036】
尚、図示しないが、本実施形態のレーザ照射装置は、光ヘッド部80が照射対象物20の照射面上の照射点と一定の距離を保ちながら照射方向が変わるように、円弧状に移動させる駆動手段を有している(θ軸方向)。
また、本実施形態のレーザ照射装置は、光ヘッド部80を照射対象物20の照射面と垂直な方向(Z軸方向)及び照射面と平行な一方向(Y軸方向)に移動させる駆動手段を有していてもよい。
【0037】
[動作]
本実施形態のレーザ照射装置において、フォーカス制御用光学系を利用して焦点合わせとチルト制御を行う動作の原理について説明する。
【0038】
図2は、本実施形態のレーザ照射装置において生じる照射対象物の変動(チルト)とそれに対する対処法を説明するための模式図である。
一般的に、レーザーアニール用のレーザ照射装置における照射対象物はシリコン膜が上面に形成されたガラス基板であるが、その表面(照射面)はガラス基板表面の状態やシリコンの成膜状態によって厚さにムラが生じることが避けられず、場合によっては照射面の高さが20〜30μmも変動することもある。
【0039】
図2(a)に示すように、照射対象物の照射面に傾き(チルト)が生じている場合、本実施形態のレーザ照射装置において用いるレーザビームの焦点深度が極めて浅いこともあり、照射面に対して均一な照射を行うことができない。これは、図9や図10に示す従来のレーザ照射装置における対物レンズによる焦点調整では対処できない。そこで、図2(a)に示すように、照射面に傾きに応じて照射の方向(光軸方向)を調整しなければならない。
【0040】
上記したとおり、本実施形態のレーザ照射装置は、一対の照射用光学系及びフォーカス制御用光学系を有しており、導光板13a,13bとコリメートレンズ14との位置関係から、各々の照射光は図1における上下方向で非対称である。尚、図1においては照射対象物20上のレーザスポット7を点として表しているが、実際には、図3に示すように、走査方向と略垂直方向に一定の幅を有するスポット形状(典型的には楕円形状)のレーザスポットを照射している。導光板13a,13bとコリメートレンズ14は、一対の照射用光学系からの照射光がこのレーザスポットの広幅方向において非対称となるよう配置されているものとする。これにより、一対のAF光学系L(31)及びAF光学系R(32)に入射される戻り光も同様の非対称性を有することとなる。
【0041】
そこで、チルト制御部40は、AF光学系L(31)及びAF光学系R(32)からの信号に基づいて最適となる照射方向を求めることができる。例えば、AF光学系L(31)及びAF光学系R(32)の各々から出力される信号MONL及びMONRを足し合わせた合成信号が最大値を取るよう、光ヘッド部80の上記θ軸方向の駆動を制御すればよい。図4は、一対のAF光学系から出力される各信号の合成信号MONL+MONRの波形を示す図である。実際には、図4に示すように、合成信号MONL+MONRの値が所定の閾値Vt(例えば、出力レベル最大値の90%とする)を超えるように制御することとしてもよい。
【0042】
ここで、チルト制御部40による光ヘッド部80のθ軸方向の駆動方法については、図5(a)に示すように光ヘッド部80の略中心を回転軸とすると、図5(b)に示すように焦点の位置がずれてしまう。そこで、図6(a)及び(b)に示すように、チルト制御部40は、照射対象物の照射面上の焦点を回転軸として光ヘッド部80がθ方向に回転するよう駆動制御する。
このように光ヘッド部80をθ軸方向に回転させる駆動手段としては、例えば、図7に示すようなステージ上に光ヘッド部80を保持する方法が好適である。
【0043】
さらに、本実施形態のレーザ照射装置において、光ヘッド部80を照射対象物20の照射面と垂直な方向(Z軸方向)及び照射面と平行な一方向(Y軸方向)に移動させる駆動手段を備えている場合には、図8(a),(b),(c)に示すように、チルト制御部40が光ヘッド部80をそれぞれY軸、Z軸、θ軸方向に駆動することにより、焦点の位置ずれを調整することができる。この場合、焦点の位置ずれ量及びチルト量とY軸、Z軸、θ軸方向の移動量との関係を予め求めて記憶しておくのが好ましい。
【0044】
上記したフォーカス制御用光学系を利用してチルト制御を行う方法は、AF制御部35による焦点制御にも同様に適用可能である。すなわち、AF光学系L(31)及びAF光学系R(32)の各々から出力される信号MONL及びMONRを足し合わせた合成信号が最大値を取るように対物レンズ16を駆動制御することにより、焦点合わせを好適に行うことができる。
尚、本実施形態のレーザ照射装置における焦点制御方法は上記の例に限定されるわけではなく、例えば、AF光学系L(31)及びAF光学系R(32)が非点収差法によるフォーカスエラー信号を出力し、AF制御部35が当該フォーカスエラー信号を基に対物レンズ16の制御を行うこととしてもよい。
【0045】
以上、本発明のチルト制御機構を有するレーザ照射装置及びレーザ照射装置におけるチルト制御方法について、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、上記各実施形態における光学系、ディテクタ、焦点制御系、チルト制御系などの構成及び機能に様々な変更・改良を加えることが可能である。
例えば、上記の実施形態にかかるレーザ照射装置においては、照射対象物20からの戻り光を受光する一対のAF光学系を設けているが、この形態に限られず、AF光学系を任意の偶数個設けてもよい。
また、上記の実施形態にかかるレーザ照射装置においては、半導体レーザ素子を用いているが、他の種類の光源を用いることももちろん可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のチルト制御機構を有するレーザ照射装置及びレーザ照射装置におけるチルト制御方法は、照射対象物の表面に形成されたシリコン膜を改質させるレーザアニール装置において実装可能であり、相変化光ディスク、フラットパネルディスプレイ、太陽電池などの製造工程において利用することができるものである。
【符号の説明】
【0047】
1a,1b,…,1n 半導体レーザ素子
2,2a,2b 光ファイバ
4a,4b カップリングレンズ
5,5a,5b 光ファイバ
6a,6b,6c,6d レーザ発光部
7 レーザスポット
10 光ヘッド部
11 ディテクタ
12 集光レンズ
13,13a,13b 導光板
14 コリメートレンズ
16 対物レンズ
17 戻り光
20 照射対象物
30 AF光学系
35 AF制御部
40 チルト制御部
70,80 光ヘッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射対象物にレーザ光を集光したレーザスポットを照射するレーザ照射装置であって、
レーザ光を発光する手段を備える複数の照射光学系と、
前記照射光学系の各々から照射されるレーザ光を受光し平行光に集光するコリメートレンズと、
前記コリメートレンズを通過したレーザ光を所定のレーザスポット形状に集光し、照射対象物の照射面上に焦点合わせする対物レンズと、
照射対象物に照射されたレーザ光が反射され、前記対物レンズ及び前記コリメートレンズを通過してきた戻り光を受光する複数の戻り光学系と、
前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量を検出する手段と、
前記検出された戻り光の光量に基づいて、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向を調整する照射方向調整手段とを有するレーザ照射装置。
【請求項2】
前記照射方向調整手段は、照射対象物の照射面上の焦点を固定しながらレーザスポットの照射方向を調整することを特徴とする請求項1に記載のレーザ照射装置。
【請求項3】
前記レーザ照射装置において、前記コリメートレンズ及び前記対物レンズを収容する光ヘッド部を有しており、
前記照射方向調整手段は、照射対象物の照射面上の焦点を中心軸として、当該中心軸に対して前記光ヘッド部を周回させることにより、レーザスポットの照射方向を調整することを特徴とする請求項2に記載のレーザ照射装置。
【請求項4】
前記照射方向調整手段は、前記光ヘッド部を照射対象物の照射面に平行な方向及び垂直な方向に位置調整することにより、照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする請求項3に記載のレーザ照射装置。
【請求項5】
前記照射方向調整手段は、前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量の合計値が最大値となるよう、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向及び/又は照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項6】
前記照射方向調整手段は、前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量の合計値が所定の閾値以上となるよう、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向及び/又は照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項7】
前記レーザ照射装置において、前記検出された戻り光の光量に基づいて前記対物レンズを照射対象物の照射面に略垂直な方向に移動させることにより、照射対象物に対するレーザスポットの焦点合わせを行う焦点調整手段を有していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のレーザ照射装置。
【請求項8】
レーザ光を発光する手段を備える複数の照射光学系と、前記照射光学系の各々から照射されるレーザ光を受光し平行光に集光するコリメートレンズと、前記コリメートレンズを通過したレーザ光を所定のレーザスポット形状に集光し、照射対象物の照射面上に焦点合わせする対物レンズと、照射対象物に照射されたレーザ光が反射され、前記対物レンズ及び前記コリメートレンズを通過してきた戻り光を受光する複数の戻り光学系と、前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量を検出する手段とを有するレーザ照射装置において、
前記検出された戻り光の光量に基づいて、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向を調整することを特徴とするレーザ照射方法。
【請求項9】
照射対象物の照射面上の焦点を固定しながらレーザスポットの照射方向を調整することを特徴とする請求項8に記載のレーザ照射方法。
【請求項10】
前記レーザ照射装置において、前記コリメートレンズ及び前記対物レンズを収容する光ヘッド部を有しており、
照射対象物の照射面上の焦点を中心軸として、当該中心軸に対して前記光ヘッド部を周回させることにより、レーザスポットの照射方向を調整することを特徴とする請求項9に記載のレーザ照射方法。
【請求項11】
前記光ヘッド部を照射対象物の照射面に平行な方向及び垂直な方向に位置調整することにより、照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする請求項10に記載のレーザ照射方法。
【請求項12】
前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量の合計値が最大値となるよう、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向及び/又は照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項13】
前記戻り光学系の各々において受光された戻り光の光量の合計値が所定の閾値以上となるよう、照射対象物に対するレーザスポットの照射方向及び/又は照射対象物上の照射位置を調整することを特徴とする請求項8から11のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。
【請求項14】
前記検出された戻り光の光量に基づいて前記対物レンズを照射対象物の照射面に略垂直な方向に移動させることにより、照射対象物に対するレーザスポットの焦点合わせを行うことを特徴とする請求項8から13のいずれか1項に記載のレーザ照射方法。

【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−60832(P2011−60832A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205966(P2009−205966)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000233033)日立コンピュータ機器株式会社 (253)
【Fターム(参考)】