説明

テーブルの制御方法およびその装置

【課題】ガントリータイプのテーブルにおいて、塗布速度への立ち上げが指令速度に対して遅れるために有効な塗布面を得るには塗布速度の高速化や除外距離(塗布を始めてから塗布膜厚の変動率が要求仕様に収まるまでの走行距離)の短縮も望まれており、速度制御への要求内容は厳しいものとなっているため、これに対応する。
【解決手段】クロスカップリング制御とゲイン切替制御の方式において、塗布速度到達時のオーバーシュートをおさえ、それ以降は速度ムラをおさえるために、中心速度コントローラのゲイン切替のみを行っていたが、左右偏差コントロールのゲインを加速時に大きくして加速終了後に小さくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
横木で連動された個々に独立の、左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプのテーブルの制御方法およびそれを用いた装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイの製造においてガラス基板の大型化が進み、その樹脂塗布や検査のためのガントリータイプのコーターの使用が一般的となって来ている。ガラス基板の大型化が進み、その樹脂塗布用スリットダイやガントリー本体の重量が増大し塗布面積も広くなるにもかかわらず、塗布膜厚を均一に保つためガントリーの速度制御には高い精度が要求されるので、この速度制御問題は難しいものとなってきている。
【0003】
この要求に応えるため、発明者らはこれまでに空気浮上ガントリーを対象として、加速期・整定期後の定速期における速度変動率と左右脚の位置偏差(左右偏差)の変動幅をできるだけ小さく保つ制御について検討してきた(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【0004】
本明細にて引用の特許文献1では、クロスカップリング制御方式で中心速度と左右偏差のPID制御をおこない、加速期では安定性とオーバーシュートの大きさの関係上、中心(左右脚位置間の中点)速度制御系の位置フィードバックゲインを低めに選び、定速到達以降をそれを大きくするというゲイン切替制御により、定速期における速度変動率と左右偏差の変動幅を要求仕様よりもかなり小さくできることが知られている。
【0005】
また、非特許文献1では左右脚独立速度制御方式で外乱の影響を低減するために加速度補償を加えた制御を試み、ここでも定速期における制御性能が要求仕様よりも非常に良くなることを示すとともに、加速度補償の効用を明らかにしてきた。定速期を対象とした記載の発明では、左右偏差の変動が十分微少であったので、中心速度で評価してきた。
【0006】
【特許文献1】特開2007−144267号
【非特許文献1】苅北一朗、前田浩一他、空気圧浮上ガントリーの加速度補償を用いた精密速度制御、計測自動制御学会産業論文集、6−7,52/60(2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガントリータイプのテーブルにおいて、ディスプレーのさらなる高品質化、塗布速度の高速化や除外距離(塗布を始めてから塗布膜厚の変動率が要求仕様に収まるまでの走行距離)の短縮も望まれており、速度制御への要求内容は厳しいものとなって来ている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題解決するための手段を説明する為に、本発明で用いたガントリータイプのテーブルの構造の概略を図1を用いて説明する。その概要は、2本のレールがベース上に固定されていて、エアーベアリングに支えられたガントリーがそのレールの上を移動する。ガントリーは対になった柱と脚とスリットノズルを搭載する横木なる板からなっている。
【0009】
それぞれの脚はガントリーを支えるエアーベアリングとトラバース方向の動きを規制するバネ付きのエアーベアリングを保持している。また、ガントリーを駆動するためのリニアサーボモータが各々の脚に装備されていて、0.02μm/pulseの分解能を持ったリニアスケールがガントリーの位置を光学的に検知している。横木と脚は柱の周りを自由に回ることができる構造とし、この構造により左右偏差が容認される一定量の範囲で大きくなった場合でも脚とレールが衝突することを防止する構造となっている。
【0010】
本発明において、ガントリーは0[mm/sec]から75[mm/sec]までの0.2[sec]の間に正弦波曲線で加速され,その後4.9[sec]の間75[mm/sec]の速度が維持され,最後の0.2[sec]の間に0[mm/sec]まで減速される指令速度に従う様に制御される。
【0011】
ガントリーが加速される0.2[sec]までを加速期と呼び、指令速度が75[mm/sec]と一定になってからガントリーの振動が十分減衰する0.2[sec]から0.5[sec]の間を整定期と呼び0.5[sec]以降4.9[sec]までを定速期と呼ぶこととする。0.5[sec]は、本発明の過程から設定された値である。
【0012】
加速期、整定期を対象とする本発明では、左右偏差の変動を無視できないので、左右脚両方の速度で評価することが必要である。
【0013】
左右脚の目標速度からの偏差をそれぞれ左右脚速度偏差と呼ぶこととすると、樹脂吐出量は0.2[sec]以降一定であるとして除外距離は0.2[sec]以降,左右脚速度偏差が±0.1[mm/sec]以内に整定し、左右偏差が±100[μm]以内に整定するまでに中心位置が初期位置から移動した距離と考える事が出来る。
【0014】
本発明の制御目標はこの除外距離を出来るだけ短くする事である。ここでの除外距離の最小限界値は7.5[mm]となる。
【0015】
樹脂吐出量を加速期間での目標速度に合わせて除外距離を更に短縮することも考えられるが、加速中の速度変動率を小さくするのは容易では無いので、本発明では、対象としないことにした。
【0016】
次に、図9を用いて、ガントリーの動作モデルについて説明する。
【0017】
ここで、
:第iリニアモータの出力(i=1,2)
:第i支柱の位置座標(i=1,2)
:第i支柱の質量(i=1,2)
:第i支柱の移動に関する粘性摩擦係数(i=1,2)
M: 横木の質量
I: 横木の重心周りの慣性モーメント
:第i支柱が横板に与える力(i=1,2)
l:第1と第2の支柱の回転軸間の距離
である.
これらの変数の運動方程式から以下の2式が導き出される。
【0018】
sX(s)=〔F(s)−βs(s)−k(X(s)−X(s))/l
+d(s)〕/〔(m+α)s+D〕・・・・・・・(1)
sX(s)=〔F(s)−βs(s)+k(X(s)−X(s))/l
+d(s)〕/〔(m+α)s+D〕・・・・・・・(2)
ただし、X(s)、X(s)、F(s)、F(s)は、x、x、f,fのラプラス変換であり、α=(M/4+I/l)、β=(M/4−I/l)である。kは左右偏差(x−x)と両側面のエアーベアリングに起因する力に関連するバネ定数である。これらをブロック線図で表すと図10となる。ここで、d(s)とd(s)はそれぞれの脚にかかる外乱であり具体的にはガントリーのピッチ揺れによる力、ケーブル牽引による力、モータの着磁ピッチムラによる推力の変動などである。
【0019】
(1)、(2)において、m=m=m、また、DとDはエアーベアリングを用いていることから、D=D=0と考えられ、以下の2式が得られる。

s(X(s)+X(s))
=G(s)(F(s)+d(s)+d(s))/((m+M/2)s)
・・・(3)

(s)−X(s)
=G(s)(Fθ(s)+d(s)−d(s))/(m+2I/l)s+2k/l
・・・(4)

ただし、G(s)は、モータ伝達関数であり、F(s)=F(s)+F(s)、Fθ(s)=F(s)−F(s)である。
【0020】
本明細にて引用の特許文献1では、クロスカップリング制御とゲイン切替制御の方式において、塗布速度到達時のオーバーシュートをおさえ、それ以降は速度ムラをおさえるために、中心速度コントローラのゲイン切替のみを行っていた。本発明では、請求項1及び請求項4に記載の様に、横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプのテーブル移動に用いられるクロスカップリング制御とゲイン切替制御の組み合わせにおいて、左右偏差コントローラにおいてもゲイン切替をおこなう。
【0021】
上記手段を用いることによって、テーブルが一定の速度に到達するまでの距離を除外距離とした場合、該除外距離は、本明細にて引用の特許文献1ではクロスカップリング制御とゲイン切替制御の方式において、塗布速度到達時のオーバーシュートをおさえ、それ以降は速度ムラをおさえるために、中心速度コントローラのゲイン切替をおこなっていた場合に比べ小さくすることができる。
【0022】
さらに、請求項2及び請求項5に記載の様に、除外距離を長くしている要因である入力外乱を速く抑制するために非特許文献1にあるように、中心速度コントローラに加速度補償制御を加え、加速度補償制御を加速期と整定期に用いる。
【0023】
上記手段を用いることによって、テーブルが一定の速度に到達するまでの距離を除外距離とした場合、本明細にて引用の特許文献1でのクロスカップリング制御とゲイン切替制御の方式において、塗布速度到達時のオーバーシュートをおさえ、それ以降は速度ムラをおさえるために、中心速度コントローラのゲイン切替をおこなっていた場合に比べ、該除外距離を小さくすることができる。
【0024】
上記テーブル制御方法において、請求項3及び請求項6に記載の様に、中心速度コントローラに加速度補償制御を加え、加速度補償制御を加速期と整定期の一部分に用いると効果があった。
【0025】
すなわち、加速度補償においては、加速度推定ノズル除去フィルターの位相遅れのための安定性が劣化するので長時間これを用いると速度偏差の振動が大きくなる。除外距離に最も影響するのは一定速度到達直前の速度波形の振動であるので、ここではこの前後の期間だけ部分的に加速度補償をおこない中心速度コントローラのゲインを大きくする制御を試みる。この方針でパラメータ調整をおこなった。
【発明の効果】
【0026】
本明細にて引用の特許文献1での方法のクロスカップリング制御と中心速度コントローラだけのゲイン切替制御の組み合わせの方式では、除外距離(ガントリーが一定速度(この場合は、75±0.1mm/sec)に到達するまでの距離)は、図5にある様に、11.725mmであった。それに対し、請求項1及び請求項4に記載の様にクロスカップリング制御とゲイン切替制御の方式において、中心速度コントローラのゲイン切替だけでなく、左右偏差コントローラのゲインを加速時に大きくして加速終了後小さくするというゲイン切替を行うことにより、左右の脚の偏差と左右脚の速度偏差も小さくなり、除外距離はさらに小さくなり、図6にある様に、除外距離=8.014mmが得られた。
【0027】
また、上記において、請求項2及び請求項5に記載の様に中心速度コントローラに加速度補償制御を加速期と整定期に用いると、除外距離は図7にある様に、除外距離=7.7206mmが得られた。さらに、請求項3及び請求項6に記載の様に加速度補償を塗布速度到達直前から到達直後に限定して部分的に加えることにより、除外距離は図8にある様に、除外距離=7.6298mmという好結果が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
当該発明の実施の形態について説明する。ガントリータイプ塗布装置1について図1を用いてさらに具体的に説明する。その装置の概要は、石を素材とするベース11の上に図示していないがワークのガラス板20とそれ載置するテーブル13がある。テーブル13の両サイドには石製のレール10が配置され、レール10の上をエアーベアリング7によって支えられた門型のガントリー2が図示座標のX方向に移動する。ガントリー2は横木12と横木12にとりつけられたスリットダイ3からなる。スリットダイ3からコーティング樹脂が吐出される。ガントリー2の移動には、固定子、可動子からなるリニアサーボモータ8,9が用いられ、リニアサーボモータ8,9は左右個々独立に配置されている。
【0029】
また、リニアサーボモータ8,9に並列してリニアスケール6が配置され、現在のガントリー2の脚5の位置を光学的に検出する為に用いられている。リニアスケール信号はコントローラのカウンター回路に入力されている。
【0030】
該塗布装置におけるガントリー2の左右の脚5は、一般的なガントリーとは異なり、その上の支柱4より上の部分とは固定ではなく、自在に回転する構造になっている。この様な構造を採用することにより、左右の脚5の位置が個々に指令位置と不一致が生じてきた場合でも補正が可能となり、指令位置に近づけることが可能となっている。
【0031】
次に、中心速度コントローラについて説明する。ガントリーのヨー揺れを引き起こす左右偏差を直接制御できることから、クロスカップリング制御を用いることとし、コントローラにおいて、s(X(s)+X(s))はガントリーの中心速度の2倍であり、これを目標中心速度の2倍に近づけるものを中心速度コントローラとし、本発明では、これに加速度補償を加えている。また、本発明の目標のひとつである除外距離を短くするにはガントリーを指令速度から遅れを少なくする必要があり、加速度フィードフォワードを用いた。尚、sはラプラス演算子である。これらのブロック線図を図2に示す。
【0032】
また、図2においてG(s)はその静的ゲインがm+M/2(mは、支柱の質量と脚の質量を加えたものであり、Mは横木の質量を表す)となるようにスケーリングされている。KPLとKVLはそれぞれ中心速度コントローラにおける位置と速度のフィードバックゲインであり、KaLとTaLはそれぞれ加速度補償のゲインと積分時間である。Hは加速度補償を行っても速度制御系における静的ゲインが加速度補償を行わなかった場合のそれと同じになるように挿入された係数であり、加速度P補償のときは(1+KaL)/KaL、加速度PI補償の場合は、1とする。加速度補償を用いない場合は、W(s)からのフィードバック信号を切り、H=KaL=1、1/TaL=0となる。W(s)が速度推定用の、また、W(s)とW(s)は加速度推定用のローパス1次フィルターである。
【0033】
図2を用いて、動作説明をおこなう。目標中心速度の2倍(Vref×2)を指令値として与え、これを積分して目標中心座標の2倍としたものから、各軸の現在位置座標を加えたもの、すなわち(X(s)+X(s))を減じる。これに位置のフィードバックゲインであるKpLを乗じたものに目標中心速度の2倍(Vref×2)を速度フィードフォワードとして加え、更に各軸の現在位置座標を加えたもの(X(s)+X(s))を微分した各軸の現在速度の和を減じたものを速度差分とする。
【0034】
該速度差分に速度のフィードバックゲインであるKaLを乗じたものに目標中心速度の2倍(Vref×2)を微分したものを加速度フィードフォワードとして加えたものを上述の係数Hで補正し、更に各軸の現在速度の和を微分した加速度の和を減じたものを加速度差分とする。
【0035】
加速度差分に加速度P補償の場合はTaL=∞としてKaLを乗じたものが、また、加速度PI補償の場合は、KaL(1+1/TaLs)を乗じたものが加速度出力となる。
【0036】
加速度出力を先に述べたスケーリングされたモータ伝達速度G(s)を経たFが中心速度コントローラのモータ出力となる。ここで、d,dは外乱であり、1/(m+M/2)sは中心速度コントローラが制御する負荷対象である。
【0037】
次に左右偏差コントローラについて説明する。図3において(X(s)−X(s))は、ガントリーの左右の位置座標の差であり、これをゼロに近づけるコントローラを左右偏差コントローラと云い、図3は、そのブロック線図である。
【0038】
図3を用いて、その動作説明をおこなう。目標偏差0を入力として与え、現在位置座標の左右脚の差(X(s)−X(s))との差を位置差分として、1/TPθsは積分器であり、左右偏差を絶対値のゼロに近づける為に用いており、この後段に位置のフィードバックゲインであるKPθを乗じたものから、左右偏差を微分した左右脚速度差s(X(s)−X(s))を減じたものを速度差分とする。
【0039】
速度差分に速度のフィードバックゲインであるKVθを乗じたFθ(s)が左右偏差コントローラの出力となる。d1,d2は外乱であり、ブロック中の
(s)/((m+2I/l)s+2k/l
は左右偏差コントローラが制御する負荷である。
【0040】
これらをまとめた、本発明で用いられるクロスカップリング制御方式の全体ブロック線図を図4に示す。図4において、中心速度コントローラの出力を1/2したものに偏差コントローラの1/2を加えたものを片方の軸の出力、中心速度コントローラの出力を1/2にしたものに偏差コントローラの1/2を減じたものをもう片方の軸の出力として、ガントリー全体を駆動するように動作する。
【実施例1】
【0041】
次に、上記発明を実施するための最良の形態によって、実施した結果について述べる。
実施は、次の4段階に対し順次おこなった。
【0042】
第1段階:本明細にて引用の特許文献1の方法と同じく、中心速度制御におけるゲイン切替制御。
【0043】
第2段階:左右偏差制御におけるゲイン切替制御。
【0044】
第3段階:加速度補償を用いた制御。
【0045】
第4段階:部分的に加速度補償を用いた制御。
【0046】
第1段階:
本明細にて引用の特許文献1でおこなわれていた方法のクロスカップリング制御及びゲイン切替制御との組み合わせの方式では、加速期の安定性を確保し、整定期における速度偏差の振動を抑え、定速期の速度偏差をできるだけ小さくするため、中心速度コントローラのフィードバックゲインを加速期では比較的低くし、整定、定速期ではそれらを高く選ぶ制御を試みる。つまり、整定期の速度偏差の振動を抑え、除外距離をできるだけ小さくするために加速期のゲインの調整を行ったものである。この調整の結果、中心速度コントローラのゲインは加速期ではKVL=175,KPL=0.01とし、中心速度が0.2[sec]経過後初めて75[mm/sec]になった時にKVL=250,KPL=150に切り替えるのが最も適当であった。ここで、左右偏差コントローラのゲインは定速期の速度偏差が最も小さくなるよう調整したものを用いており、KVθ=300,KPθ=50,TPθ=0.01としている。このコントローラを用いて実験した結果、加速期、整定期では定速期に比べて左右偏差と左右脚速度偏差が非常に大きくなり、左と右の脚速度に違いとズレが生じている。この場合の一定速度(この場合は、一定速度=75±0.1mm/sec)に到達するまでの距離すなわち除外距離は、図5に示す様に、11.725mmであった。
【0047】
第2段階:
前記第1段階での制御においては、加速期、整定期における左右偏差が大きいことが除外距離を大きくする原因となっている。次に、加速期、整定期の左右偏差コントローラのゲインを上げて左右偏差を抑える制御を試みた。この考え方でパラメータ調整を行った結果、中心速度コントローラは第1段階と同じとし、左右偏差コントローラのゲインを最初KVθ=700,KPθ=50,TPθ=∞とし0.25[sec]で、後に第1段階と同じものに切り替えるのが最も適当であった。0.25[sec]までは左右偏差の定常偏差をなくすためのTPθを利かさずかわりにKVθを大きくしている。この制御を用いた場合、加速期、整定期(特に0.2[sec]前後)で左右偏差が小さくなり、左右の脚速度の違いとズレが解消されている。また、左右偏差が小さくなったので左右脚にかかるケーブル牽引力の和の変動が小さくなり0.2[sec]付近の速度のオーバーシュートも抑えられた。結果として、図6に示す様に、除外距離は8.014mmと大きく改善された。
【0048】
第3段階:
除外距離に影響する速度偏差の振動は主にガントリーのピッチ揺れによる入力外乱により引き起こされる。入力外乱の影響を早く抑制するには非特許文献1にあるように加速度補償が有効であるので、ここでは加速期、整定期の中心速度制御に加速度補償を用いることを試みる。このためのパラメータ調整を行った結果、中心速度コントローラのゲインを最初KaL=1.0,KVL=150,KPL=0.01とし、0.25[sec]後中心速度が初めて75[mm/sec]になったときに加速度補償を切りKVL=250,KPL=150とする。また、左右偏差コントローラは最初KVθ=500、KPθ=50,TPθ=∞とし、0.25[sec]後に前記第2段階と同じとするのが最も妥当であった。0.25[sec]までは加速度補償による安定性の劣化のため中心速度コントローラのKVLと左右偏差コントローラのKVθを前記第2段階のものより小さくしている。加速度補償が有効であるためには加速度推定ノイズ除去フィルターのカットオフ周波数の選定が重要なポイントであるが、実験の結果ここでは100[Hz]とするのが最も良好であった。これらより、前記第2段階の結果と比べて0.2[sec]直前の速度の目標値からの遅れが小さくなって速く立ち上がっているにも関わらずその直後は左右偏差が若干大きくなるもののオーバーシュートが抑えられていることがわかる。これにより、図7に示す様に、除外距離は7.7206[mm]まで改善された。
【0049】
第4段階:
加速度補償においては、加速度推定ノイズ除去フィルターの位相遅れのため安定性が劣化するので長時間これを用いると速度偏差の振動が大きくなる。このため前記第3段階では、KVLとKVθを小さくしていたが、除外距離に最も影響するのは0.2[sec]前後の速度偏差の振動であるので、ここではこの前後の期間だけ部分的に加速度補償を行いKVLとKVθを大きくする制御を試みた。この方針でパラメータ調整を行った結果、中心速度コントローラのゲインは最初は加速度補償なしで、前記、第1段階、第2段階と同様、KVL=175,KPL=50とし、0.17[sec]後中心速度が初めて目標速度と一致したときに加速度補償を加え、KaL=1.0,KVL=200,KPL=0.01とし、0.25[sec]後中心速度が初めて75[mm/sec]となったときに前記第3段階と同じものに切り替える。また、左右偏差コントローラのゲインは最初KVθ=600,KPθ=50,TPθ=∞とし、0.25[sec]で前記第2段階と第3段階のものと同じとするのが最も適当であった。0.17[sec]と0.25[sec]の間では部分的にKVLをかなり大きくでき、0.25[sec]まではKVθも前記第2段階ほど大きくできないものの、前記第3段階より大きく出来ている。なお、これらのゲインの上昇に伴い加速度推定ノイズの影響による速度偏差の振動が現れたので、そのノイズ除去フィルターのカットオフ周波数は75[Hz]に下げるのが適当であった。前記第3段階の結果と比べると0.2[sec]付近の目標値追随性と速度偏差の振動がわずかではあるが改善されている。この場合は、図8に示す様に除外距離は7.6298[mm]であった。改善はわずかであるが、かなり限界値に近い値と云える。
【産業上の利用可能性】
【0050】
フラットパネルディスプレイの製造においてガラス基板の大型化が進み、その樹脂塗布や検査のためのガントリータイプのコーターの使用が一般的となって来ている。ガラス基板の大型化が進み、その樹脂塗布用スリットダイやカントリー本体の重量が増大し塗布面積も広くなるにもかかわらず、塗布膜厚を均一に保つためガントリーの速度制御には高い精度が要求されるので、この速度制御問題は難しいものとなっている。また、今後はディスプレイのさらなる高品質化、塗布速度の高速化や除外距離(塗布を始めてから塗布膜厚の変動率が要求仕様に収まるまでの走行距離)の短縮も望まれており速度制御への要求内容はさらに厳しいものとなって来ている。
【0051】
上述の要求に応えるため、本発明により、定速期における速度変動率と左右偏差の変動幅を十分小さくすることができ、加速期、整定期における変動幅を出来るだけ小さくし、除外距離(塗布を始めてから塗布膜厚の変動率が要求仕様に収まるまでの走行距離)を短くすることができる。それによって、例えば樹脂塗布において除外距離分のガラス基板が規格外として廃棄されるに対し、その除外距離を短くすることによりコスト上の重要な問題を小さくすることができる。
【0052】
前述の様に、ディスプレーのさらなる高品質化、塗布速度の高速化や除外距離(塗布を始めてから塗布膜厚の変動率が要求仕様に収まるまでの走行距離)の短縮も望まれており、速度制御への要求内容は厳しいものとなって来ているという課題に対し、大きな成果があるものと思料できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ガントリータイプ塗布装置の概略図。
【図2】本発明の中心速度コントローラのブロック線図。
【図3】本発明の左右位置偏差コントローラのブロック線図。
【図4】本発明の全体システムのブロック線図。
【図5】本明細にて引用の特許文献1による除外距離と左右脚速度の75mm/secからの速度偏差の関係を示すグラフ。
【図6】本発明の左右位置偏差コントローラにおいてゲイン切替を行った時の 除外距離と左右脚速度の75mm/secからの速度偏差の関係を 示すグラフ。
【図7】本発明の加速度補償を全面的に適用した時の除外距離と左右脚速度の 75mm/secからの速度偏差の関係を示すグラフ。
【図8】本発明の加速度補償を部分的に適用した時の除外距離と左右脚速度の 75mm/secからの速度偏差の関係を示すグラフ。
【図9】本明細にて引用の文献のガントリータイプ塗布装置のモデル図。
【図10】本明細にて引用の文献のガントリータイプ塗布装置のブロック図。
【符号の説明】
【0054】
1 ガントリータイプ塗布装置
2 ガントリー
3 スリットダイ
4 支柱
5 脚
6 リニアスケール
7 エアーベアリング
8 リニアサーボモータ(固定子)
9 リニアサーボモータ(可動子)
10 レール
11 ベース
12 横木
13 テーブル(図は省略)
20 ガラス板(図は省略)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプのテーブル移動に用いられるクロスカップリング制御とゲイン切替制御の組み合わせにおいて、中心速度コントローラだけでなく、左右偏差コントローラにおいてもゲイン切替をおこなうことを特徴とするテーブル制御方法。
【請求項2】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプのテーブル移動に用いられるクロスカップリング制御とゲイン切替制御の組み合わせからなる請求項1のテーブル制御方法において、中心速度コントローラに加速度補償制御を加え、加速度補償制御を加速期と整定期に用いることを特徴とするテーブル制御方法。
【請求項3】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプのテーブル移動に用いられるクロスカップリング制御とゲイン切替制御の組み合わせからなるテーブル制御方法において、中心速度コントローラに加速度補償制御を加え、加速度補償制御を加速期と整定期の一部分に用いることを特徴とするテーブル制御方法。
【請求項4】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプのテーブル移動に用いられるクロスカップリング制御とゲイン切替制御の組み合わせからなるテーブル制御装置において、中心速度コントローラだけでなく、左右偏差コントローラにおいてもゲイン切替をおこなうことを特徴とするテーブル制御装置。
【請求項5】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプのテーブル移動に用いられるクロスカップリング制御とゲイン切替制御の組み合わせからなる請求項1のテーブル制御装置において、中心速度コントローラに加速度補償制御を加え、加速度補償制御を加速期と整定期に用いることを特徴とするテーブル制御装置。
【請求項6】
横木で連動された個々に独立の左右の支柱、脚から構成されたガントリータイプのテーブル移動に用いられるクロスカップリング制御とゲイン切替制御の組み合わせからなるテーブル制御装置において、中心速度コントローラに加速度補償制御を加え、加速度補償制御を加速期と整定期の一部分に用いることを特徴とするテーブル制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−178680(P2009−178680A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21510(P2008−21510)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】