ディジタル処理装置のノイズ低減方式
【課題】ディジタル信号処理回路によってPLLや周波数シンセサイザ等を構成するディジタル処理装置のノイズ低減を確実、容易にする。
【解決手段】PLLの位相比較演算を行うディジタル処理デバイス115をディジタル信号処理回路115A〜115Cで構成する周波数シンセサイザにおいて、ノイズ低減部115Dは、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作するディジタルローパスフィルタ115Bと同等のオン/オフ動作になる回路構成にし、かつフィルタ115Bのオン/オフ動作と逆のオン/オフ動作させることでノイズを低減する。
【解決手段】PLLの位相比較演算を行うディジタル処理デバイス115をディジタル信号処理回路115A〜115Cで構成する周波数シンセサイザにおいて、ノイズ低減部115Dは、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作するディジタルローパスフィルタ115Bと同等のオン/オフ動作になる回路構成にし、かつフィルタ115Bのオン/オフ動作と逆のオン/オフ動作させることでノイズを低減する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル信号処理回路によって所期の機能を実現するディジタル処理装置例えばPLL方式の周波数シンセサイザにおいて電源ライン等に重畳される高周波ノイズを低減するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディジタル処理装置には、例えば、携帯電話などの無線通信装置、波形解析装置や周波数シンセサイザなどがある。周波数シンセサイザは、図15に示すPLL(Phase Locked Loop)を応用した装置になる。PLLは、電圧制御発振器101の発振出力を分周器102により1/Nに分周してその分周出力を位相比較器103の一方の入力端に入力すると共に、基準信号発生器である例えば水晶発振器104の発振出力を分周器100にて1/Mに分周してその分周出力を位相比較器103の他方の入力端に入力し、その比較信号をループフィルタ105を介して電圧制御発振器101にフィードバックする。このPLLがロックすると電圧制御発振器101の発振出力の周波数fvcoと水晶発振器104の発振出力の周波数f0とは、fvco/N=f0/Mの関係にあるので、fvco=(N/M)f0となる。分周器102はプログラマブルカウンタにより構成されていて外部よりディジタルデータで分周比Nを設定できることから、fvcoの周波数を自由に設定できることになる。周波数シンセサイザとしては、分周器100、102の分周比を外部回路で切換えること、さらにはPLLを多段構成とすることで電圧制御発振器101の出力周波数を1MHzきざみ等で広い周波数範囲に切換可能にする。
【0003】
ここで、電圧制御発振器101、水晶発振器104、ループフィルタ105がアナログ信号処理回路になり、分周器102と位相比較器103がディジタル信号処理回路になり、これらの組み合わせでPLLおよび周波数シンセサイザが構成される。
【0004】
このように、ディジタル信号処理で所期の機能を実現するディジタル処理装置は、各回路要素の大部分に集積回路デバイスを使用してプリント基板に実装した高密度設計、さらにはPLD(プログラマブルロジックデバイス)が利用され、処理信号の高周波化およびデジタル信号処理が多くなる。このため、電源ラインや信号線に高周波ノイズが重畳してPLLなどの回路を誤動作させ、あるいは不要な信号(スプリアス)が周波数シンセサイザなどの装置の入出力信号に発生してしまう。
【0005】
この種のノイズを低減する従来方式としては、ディジタル回路素子がオン/オフ論理動作したときに現れる電源ラインの電流変化を減らすことでノイズを低減しようとするものがある(例えば、特許文献1参照)。この方式は、電源ライン電流の変化を検出し、これと逆の電流変化になるよう論理回路(フリップフロップなど)を論理動作させる。この論理回路は集積回路がもつ余り回路を利用することもできる。
【0006】
ノイズ低減の他の従来方式としては、電源Vddとグランド間に複数のMOSトランジスタ(論理素子)を並列配置した構成の出力バッファ回路において、電源と各MOSトランジスタ間に値の異なる抵抗を直列に設けることで、各MOSトランジスタの動作タイミングをずらし、電源電流の急激な変化を抑え、結果的にノイズを低減させるものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平11−296268号公報
【特許文献2】特開平10−107607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のノイズ低減方式では、電源ラインの電流変化を高速に検出する高価な検出回路を必要とする。また、この回路による検出からノイズ低減用論理回路が動作するまでの遅れを小さくできないため、ノイズ低減効果に問題がある。
【0009】
特許文献2のノイズ低減方式では、出力バッファ回路など、論理素子間に動作タイミングのずれが許される回路にしか適用できない。すなわち、高周波出力を得る周波数シンセサイザなど、ディジタル処理装置を構成する多数の回路要素の互いの動作タイミングがシビアになるものには適用できない。また、ノイズ低減対象となる回路要素は、特別な回路設計を必要とするし、回路の複雑化とコストアップを招く。
【0010】
本発明の目的は、ノイズ低減を確実、容易にするディジタル処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するための本発明は、以下の方式を特徴とする。
【0012】
(1)ディジタル信号処理回路によって所期の機能を構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
(2)ディジタル信号処理回路で位相比較演算してPLLを構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
(3)ディジタル信号処理回路で位相比較演算を行うPLLによって周波数シンセサイザを構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
(4)前記周波数シンセサイザは、
供給された電圧に応じた周波数の周波数信号を発振する電圧制御発振部からの周波数信号を電圧制御発振部の設定周波数に応じて1/N(Nは整数)に分周する分周手段の後段に設けられ、
前記電圧制御発振部の出力周波数の1/Nに相当する周波数の正弦波信号を基準クロック信号に基づいてサンプリングしてそのサンプリング値をディジタル信号として出力するアナログ/ディジタル変換部と、
このアナログ/ディジタル変換部からの出力信号に対応する周波数信号に対して、周波数がω0/2πの正弦波信号のディジタル信号による直交検波を行い、当該周波数信号の周波数とω0/2πとの周波数差に相当する周波数で回転する回転ベクトルを複素表示したときの実数部分及び虚数部分を取り出す回転ベクトル取り出し手段と、
前記電圧制御発振部の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルの周波数を計算するパラメータ出力部と、
前記回転ベクトルの周波数と前記パラメータ出力部にて計算された周波数との差分を取り出す周波数差取り出し手段と、
前記周波数差取り出し手段により取り出された周波数差に相当する電圧信号を前記電圧制御発振部に帰還する手段とを備えことを特徴とする。
【0016】
(5)前記ダミー回路は、前記信号処理回路と等価な充放電電流を発生する外付けバッファ回路としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上のとおり、本発明によれば、ディジタル信号処理回路によって所期の機能を構成するディジタル処理装置において、ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となり、かつ信号処理回路のオン/オフ動作と逆のオン/オフ動作させることでノイズを低減するようにしたため、ノイズ低減を確実、容易にする効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態を示す周波数シンセサイザの機能ブロック図である。この周波数シンセサイザは、新規な原理に基づいて動作するものであるが、本実施の形態の主要部は、この種の周波数シンセサイザに適用することに限らないことから、周波数シンセサイザ自体の動作については後述の実施の形態にて一括して説明することとし、ここでは、ノイズ低減部115Dの作用に関する部分を中心に述べる。
【0019】
この周波数シンセサイザはPLL回路を形成し、電圧制御発振器111の発振出力を分周器112により1/Nに分周し、この分周した分周出力をローパスフィルタ113を通した後、A/D変換器114により12ビットなどのディジタル信号に変換する。そしてこのディジタル出力を第1のディジタル処理回路115Aにて、電圧制御発振器111の発振出力の周波数と設定周波数との差に応じた量が演算され、更にローバスフィルタ115Bを通した後、更に第2のディジタル処理回路115Cにて処理を行い、その結果をD/A変換器を介して電圧制御発振器111に戻すようにしている。
電圧制御発振器111の出力周波数が安定したときにはA/D変換器114からは例えば4MHz付近の正弦波信号に対応する信号が取り出され、第1のディジタル処理回路115Aでは、前記正弦波信号を4MHzの正弦波信号により直交検波して両信号の周波数差で回転するベクトルを取り出し、更にそのベクトルの回転速度と設定周波数時における同様のベクトルの回転速度との差分を取り出すなどの処理が行われる。
また第2のディジタル処理回路115Cでは、前記差分についてより細かな値を求める処理が行われ、その差分をループフィルタで積分してその積分値をD/A変換器116に出力している。なお図1では省略されているが、実際には電圧制御発振器111に設定出力周波数付近の周波数に対応する直流電圧を周波数引き込み用の直流電圧として供給することが必要である。このような一連のディジタル処理は、例えばディジタル処理デバイス115例えばFPGA(Field Programmable Gate Alley)にて行われ、その詳細は後述する。
【0020】
以上のPLL方式になる周波数シンセサイザにおいて、ディジタル処理デバイス115は、多くのディジタル回路要素が高密度実装されており、そのうちローパスフィルタ115Bは多くの回路要素で構成され、且つ同時スイッチングするトランジスタ数が多く、この部分の同時スイッチング動作がノイズ発生源になることが予想される。
【0021】
このノイズ低減手段として、本実施形態では、ローパスフィルタ115Bのオン/オフ動作と逆のオン/オフ動作(相補動作)を行うノイズ低減部115Dを設ける。このノイズ低減部115Dは、ディジタル処理デバイス115内にその余り回路要素を利用して構成する。
【0022】
このノイズ低減部115Dによるノイズ低減動作を図2を参照して原理的に説明する。同図の(a)において、ローパスフィルタ115Bを構成する処理回路は、多数の乗算回路と遅延回路などの回路要素で構成され、その1つを代表して等価回路で示すと、電源ラインとグランドライン間に、NPNトランジスタとPNPトランジスタの直列接続で構成され、スイッチ出力端に配線容量や浮遊容量が介挿され、入力ディジタル信号によって多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフドライブされる。
【0023】
これに対して、ノイズ低減部115Dは、ローパスフィルタ115Bと同等の多数の倫理回路要素で同等のオン/オフ動作になる構成としたダミーローパスフィルタ115Daと、入力ディジタル信号の符号反転出力でダミーローパスフィルタ115Daをオン/オフドライブする論理インバータ115Dbで構成する。
【0024】
このようなノイズ低減部115Dを設けることで、ノイズを低減する。すなわち、ローパスフィルタ115Bのオン/オフ動作で電源ラインから容量成分への充電電流、または容量成分からグランドラインへの放電電流が流れる。これら電流は、図2の(b)に示すように、電源ラインまたはグランドラインを通して、またはこれらラインからの誘導電流で他の回路要素側にノイズとして現れるのを、ノイズ低減部115Dから電源ラインまたはグランドラインに流れる電流と逆位相の電流を流すことで、ノイズを打ち消し(相殺し)、結果的にノイズを低減することができる。このノイズ低減動作は、実験により確認した。
【0025】
本実施形態によれば、ローパスフィルタ115Bで発生するノイズ電流とほぼ同時にノイズ低減部115Dでノイズ低減電流を発生することができ、特許文献1のノイズ低減方式のように、電源ラインの電流変化を高速に検出する高価な検出回路を増設することを不要にし、さらに動作タイミングの遅れを少なくして確実なノイズ低減ができる。
【0026】
また、ノイズ低減部115Dは、ディジタル処理デバイス115内にその余り回路要素を利用して、ローパスフィルタ115Bに近接配置すること、つまりノイズ発生源に近接した位置でノイズを相殺させることで、確実なノイズ低減ができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、ノイズ低減部115Dは、ローパスフィルタ115Bの論理動作には直接に影響を与えるものでないため、高周波出力を得る周波数シンセサイザなど、ディジタル処理装置を構成する多数の回路要素の互いの動作タイミングがシビアになるものに適用して確実にノイズ低減ができる。
【0028】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態を示す周波数シンセサイザの機能ブロック図である。同図が図1と異なる部分は、ダミーローパスフィルタ115Daに代えて、ディジタル処理デバイス115の外部にバッファ回路117を設けた点にある。
【0029】
バッファ回路117は、論理インバータ117aとCR積分回路117bで構成する。論理インバータ117aは、ディジタル処理デバイス115内の論理素子、またはこの論理素子の出力を入力とする外付けバッファ素子とし、ローパスフィルタ115Bの入力ディジタル信号の反転出力を得る。この出力は、デジタル信号処理をsignedで扱った場合には符号bitにすることでフィルタの同時スイッチングが最大となるタイミングを得ることができる。CR積分回路117bは、ディジタル処理デバイス115の電源ラインとグランドライン間に抵抗RとコンデンサCの直列接続で設ける。
【0030】
この構成になるバッファ回路117は、実施形態1と同様に、ローパスフィルタ115Bの動作による電源ラインとグランドラインに流れる電流と逆の電流をCR積分回路117bに流し、ノイズ低減を得ることができる。
【0031】
なお、CR積分回路117bは、集中定数回路に限られるものでなく、多数の抵抗とコンデンサを使った分布定数回路に構成することでもよい。
【0032】
(実施形態3)
本実施形態では、先の実施の形態1,2の周波数シンセサイザに関する動作も含めて説明する。先ず図4を参照しながら周波数シンセサイザの動作原理について概略的に説明する。図4中、1は、電圧制御発振部である電圧制御発振器であり、電圧出力部11から第1の加算部12を経て供給電圧に応じた周波数の矩形波である周波数信号を出力する。電圧制御発振器1からの周波数信号は分周手段2にて1/N(Nは整数)に分周され、更に正弦波に変換され、ディジタル信号に変換されるのであるが、ここでは回転ベクトル取り出し手段20により、前記周波数信号の周波数に応じた周波数(速度)で回転する回転ベクトルが取り出されるという説明にとどめる。
【0033】
回転ベクトル取り出し手段20の後段の周波数差取り出し手段30は、前記回転ベクトルの周波数と、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数になったときの回転ベクトルの周波数frとの差を取り出す。周波数差を取り出す手法としては、例えば電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数になったときに回転ベクトル取り出し手段20にて取り出される回転ベクトルの回転方向とは逆方向に周波数frで回転する逆回転ベクトルを作成し、前記回転ベクトルと逆回転ベクトルとを乗算してその周波数差を取り出す手法が挙げられる。
【0034】
また、逆回転ベクトルで回転ベクトルの周波数をある程度落としておいて、残りの周波数差分を例えば回転ベクトルの速度を近似式で検出するようにしてもよい。このような例をより具体化した例を挙げると、回転ベクトルの周波数をfrに一致させる調整(周波数差取り出し手段30により周波数差を取り出す調整工程)を、粗調整と微調整とに分ける。そして粗調整のための周波数刻みfaの整数倍の周波数のうち、電圧制御発振器1の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルの周波数に最も近い周波数n・fa(nは整数)を予め計算して、周波数n・faで逆回転する逆回転ベクトルを前記回転ベクトルに乗算して、前記回転ベクトルの周波数から逆回転ベクトルの周波数を差し引いた周波数の微速回転ベクトルを取り出す。そして前記周波数刻みfaよりも小さい微調整のための周波数刻みfbの整数倍のうち、frと前記周波数n・faとの差に最も近い周波数m・fb(mは整数)とを計算し、前記微速回転ベクトルの周波数と周波数m・fbとの差を取り出し、こうして回転ベクトル取り出し手段により得られた回転ベクトルの周波数とfrとの差が求められる。
【0035】
以上の一連の計算は、図示しないパラメータ出力部にて計算される。なおこのように周波数差を取り出す調整工程を粗調整と微調整とに分ける場合には、回転ベクトルの周波数がfrに近付いてきたときに正確な周波数差を得ることができる利点や、周波数の検出の演算が簡単になるという利点などがある。この点は後述の図5の具体例により明らかにされる。
【0036】
そして周波数差取り出し手段30により取り出された周波数差に対応する電圧はループフィルタ40から電圧制御発振器1の入力側に負帰還され、この電圧分だけ電圧制御発振器1の入力電圧が差し引かれる。なおループフィルタ40は積分回路としても機能している。したがって、図4のループはPLLを形成しており、前記周波数差がゼロになったときにPLLがロックされ、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数にロックされることになる。
【0037】
即ち、電圧制御発振器1のスタート時には入力電圧が例えば時間に対して直線的に上昇し、それに伴って出力周波数が上昇し、回転ベクトル取り出し手段20にて取り出された回転ベクトルの周波数が高くなっていく。そして、この周波数がPLLの制御範囲に入ってくると、予め計算された、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数になったときの回転ベクトルの周波数frと回転ベクトルの周波数との差が小さくなってくる。この結果、当該差の積分値も小さくなっていくのでフィードバック量が少なくなっていき、電圧制御発振器1の出力周波数の上昇が抑えられ、前記周波数差がゼロに収束しようとし、つまりその積分値が一定になろうとし、この結果電圧制御発振器1の出力周波数は、設定周波数に収束しようとする。こうしてPLLがロックされると、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数にロックされることになる。
【0038】
実際には、設定周波数の大きさに応じて分周比を選択すればよいことから、回転ベクトルという発想を取り入れることにより、このように1段のPLLでありながら、広い周波数帯域に亘って細かな周波数設定を行うことができるのである。
【0039】
以上の原理的な説明における周波数シンセサイザを具体化した例を図5以降にて説明する。電圧出力部11は、出力電圧が例えば時間の経過と共に直線的に所定の電圧まで上昇するように構成されている。所定の電圧とは、電圧制御発振器1から得ようとする設定周波数に応じた電圧に近い電圧であり、後述のパラメータ出力部により指定される。
【0040】
電圧制御発振器1の後段に設けられた手段について順番に説明すると、2は例えばプログラマブルカウンタからなる分周器であり、この分周器2の分周比N(Nは整数)は後述のパラメータ出力部により決定される。分周器2の後段には、分周器2からの周波数信号である矩形波信号を正弦波信号に変換するための手段としてローパスフィルタ21が設けられている。
3はA/D(アナログ/ディジタル)変換器であり、ローパスフィルタ21からの周波数信号である正弦波信号を基準クロック発生部31からのクロック信号によりサンプリングしてそのサンプリング値をディジタル信号として出力する。基準クロック発生部31は、前記周波数信号をサンプリングするために周波数の安定性が極めて高い周波数信号であるクロック信号を出力する。
【0041】
A/D変換器3で得られるディジタル信号で特定される高周波信号は基本波の他に高調波も含まれている。即ち高調波ひずみを有する正弦波をサンプリングする場合、その高調波成分が折り返しの影響を受けて、場合によっては周波数スペクトルにおける周波数軸上で基本波周波数と高調波の周波数とが重なる場合が想定される。そこでこのような重なりを避けて、電圧制御発振器1の出力周波数に正確に対応する回転ベクトルを後で取り出す必要がある。
【0042】
一般に周波数f1の正弦波信号を周波数fsのクロック信号でサンプリングした場合、その取り込み結果の周波数f2は(1)式で表される。ただしmod()はmodulo関数を表している。
【0043】
f2=|mod(f1+fs/2,fs)−fs/2| ……(1)
この取り込み結果において、基本波周波数に対してn次の高調波の周波数はn×(基本波周波数)として表されるので、これをf2と置いて上記の(1)式に代入すれば、高調波がどのような周波数として取り込まれるかを計算することができる。この計算を用いることにより基本波の周波数と高調波の周波数とが重ならないように、分周器2からの高周波信号の周波数fcとサンプリング周波数(クロック信号の周波数)fsとを設定することができ、例えば回転ベクトルが停止するときのfcが36MHzとなるように分周比Nを設定し、fsを40MHzに設定する。この場合、A/D変換器3からのディジタル信号である出力信号で特定される周波数信号の基本波は4MHzの正弦波となる。なおfc/fsを9/10にすれば、基本波の周波数と高調波の周波数とが重ならないが、fc/fsはこの値に限られるものではない。
【0044】
A/D変換器3の後段には、キャリアリムーブ4が設けられている。このキャリアリムーブ4は、A/D変換器3からのディジタル信号により特定される正弦波信号に対して周波数がω0t/2π(角速度がω0t)の正弦波信号により直交検波を行い、A/D変換器3のディジタル信号により特定される周波数信号の周波数と検波に用いる正弦波信号の周波数との差の周波数で回転する回転ベクトルを取り出す手段、より詳しくはこの回転ベクトルを複素表示したときの実数部分及び虚数部分を取り出す手段に相当する。
【0045】
キャリアリムーブ4に関して詳述すると、キャリアリムーブ4は、図6に示すように前記正弦波信号に対してcos(ω0t)を掛け算する掛け算部41aと前記正弦波信号に対して−sin(ω0t)を掛け算する掛け算部41bと、掛け算部41a、41bの後段に夫々設けられたローパスフィルタ42a及び42bと、を備えている。従ってA/D変換器3で得られた正弦波信号をAcos(ω0t+θ)としたとき、掛け算部41aの出力及び掛け算部41bの出力は夫々(2)式及び(3)式により表される。
【0046】
Acos(ω0t+θ)・cos(ω0t)
=1/2・Acosθ+1/2{cos(2ω0t)・cosθ+sin(2ω0t)・sinθ}……(2)
Acos(ω0t+θ)・−sin(ω0t)
=1/2・Asinθ−1/2{sin(2ω0t)・cosθ+cos(2ω0t)・sinθ}……(3)
そこで掛け算部41aの出力及び掛け算部41bの出力を夫々ローパスフィルタ42a及び42bを通すことにより、2ω0tの周波数信号は除去されるので、結局ローパスフィルタ42a、42bからは夫々1/2・Acosθと1/2・Asinθとが取り出される。ローパスフィルタ42a、42bにおける実際のディジタル処理は、掛け算部41a、41bから出力される時系列データについて連続する複数個のデータ例えば6個のデータの移動平均を演算している。
【0047】
以上のことは、A/D変換器3で得られた正弦波信号の周波数と直交検波に用いる正弦波信号の周波数が等しいときには、出力に時間関数が含まれないので、キャリアリムーブ4にて得られる回転ベクトルは停止していることになる。一方Acos(ω0t+θ)で表される正弦波信号の周波数が変化すると、Acos(ω0t+θ)はAcos(ω0t+θ+ω1t)となる。従って1/2・Acosθは1/2・Acos(θ+ω1t)となり、1/2・Asinθは1/2・Asin(θ+ω1t)となる。即ち、ローパスフィルタ42a、42bから得られた出力は、正弦波信号[Acos(ω0t+θ)]の周波数の変化分(ω1t)に対応する信号、つまりA/D変換器3で得られた正弦波信号の周波数と直交検波に用いた正弦波信号の周波数との差分(ω1t/2π)の速度で回転するベクトルを複素表示したときの実数部分(I)及び虚数部分(Q)である。なお、この明細書では周波数と角速度とを使い分ける意義はないことから、両者を混在して用いることがある。
【0048】
図7はこの回転ベクトルVを表した図であり、この回転ベクトルVは長さがAであり、回転速度がω1t(=φ)である(周波数がω1t/2π)。この例では直交検波に用いた周波数は4MHzであり、A/D変換器3で得られた正弦波信号の周波数が4MHzであれば回転ベクトルの回転速度はゼロであるが、4MHzからずれていれば、そのずれた周波数差に応じた周波数(回転速度)で回転することになる。
【0049】
キャリアリムーブ4の後段には、逆回転ベクトル乗算部5が設けられている。この逆回転ベクトル乗算部5は、キャリアリムーブ4にて得られた回転ベクトルVに対して、パラメータ出力部6にて作成された逆回転ベクトルV’を乗算するものである。この乗算は、直感的な表現を使えば回転ベクトルVの速度を逆回転ベクトルV’の速度分だけ減速することになり、言い換えれば、回転ベクトルVの周波数と逆回転ベクトルV’の周波数との差で回転する回転ベクトルを得ることになる。
【0050】
逆回転ベクトル乗算部5における演算について説明すると、キャリアリムーブ4及び逆回転ベクトル乗算部5は、コンピュータの演算により実行されるものであり、その演算のサンプリングにおいてあるタイミングのサンプリング例えばn回目の回転ベクトルVのサンプリング値がI(n)+jQ(n)であったとすると、n回目の逆回転ベクトルV’のサンプリング値はI’(n)+jQ’(n)である。両ベクトルを乗算したベクトルI+jQは、{I(n)+jQ(n)}×{I’(n)+jQ’(n)}となる。この式を整理すると、(4)式となる。
I+jQ={I(n)・I’(n)−Q(n)・Q’(n)}+j{I(n)・Q’(n)+I’(n)・Q(n)} ……(4)
図8は、逆回転ベクトル乗算部5の構成を示しており、(4)式の演算を行っている。 逆回転ベクトルV’を発生するとは、実際には複素平面上におけるベクトルが逆回転するように当該ベクトルの実数部分及び虚数部分の値つまり逆回転ベクトルV’の位相をφ’とすると、cosφ’とsinφ’との値を発生させることである。図9は、ベクトルのcosφ’とsinφ’との組がベクトルの回転方向に沿って順番に配列されたI/Qテーブル60を示しており、パラメータ出力部6は、この例では前記I/Qテーブル60を備えていて、指示された電圧制御発振器1の設定周波数に応じて決定されるインクリメント数またはデクリメント数でI/Qテーブル60のアドレスを読み出し、逆回転ベクトル乗算部5に出力している。例えばインクリメント数を2にして1個おきにアドレスを読み出すと、ベクトルの速度が倍速になる。インクリメントして読み出すかデクリメントして読み出すかは、キャリアリムーブ4にて取り出された回転ベクトルVの回転方向により決めることができる。こうして回転ベクトルVに対して逆回転する逆回転ベクトルV’を生成することができる。なお、図9のI/Qテーブル60は、本実施形態の理解を容易にするために模式的に作成されたものであり、実際のテーブルの好ましい作成例を挙げたものではない。
【0051】
図5におけるここまでのブロックについて、具体的な一連の演算に関して述べておく。電圧制御発振器1の出力周波数をfvcoとすると、分周器2にて分周された周波数はfvco/Nとなる。A/D変換部3では、周波数がfsのクロック信号によりサンプリングされるため、A/D変換部3にて得られたディジタル信号により特定される周波数信号の周波数は、fs−(fvco/N)となる。この例ではfsは40MHzであるから、40MHz−(fvco/N)となる。そしてキャリアリムーブ4における検波に用いられる正弦波信号の周波数(ω0t/2π)は4MHzとしているので、キャリアリムーブ4から取り出される回転ベクトルVの周波数は、40MHz−(fvco/N)−4MHzとなる。
【0052】
ここで、電圧制御発振器1の出力周波数fvcoが設定周波数になったときに回転ベクトルVの周波数と前記周波数frとの周波数差がゼロになるように制御される。もし(fvco/N)が36MHzであれば、回転ベクトルVは停止しているので(周波数がゼロであるので)、この場合は、逆回転ベクトルV’の周波数をゼロに設定することで、PLLがロックされ、電圧制御発振器1の出力周波数fvcoが設定周波数になる。しかしこのようなケースは1点しかないので、実際にはキャリアリムーブ4から取り出される回転ベクトルVはある速度で回転している。このため、回転ベクトルVを止めるための逆回転ベクトルV’を発生させることが必要になるのであるが、一連の計算はソフトウエアで行われることから、逆回転ベクトルV’を発生させるためのデータを格納するメモリ容量はできるだけ小さくしたいというのが、設計上の要請である。
【0053】
この観点からすると、電圧制御発振器1の設定周波数をfsetとすると、fset/Nができる限り36MHzに近い方が好ましく、この例では、パラメータ出力部6において、ユーザにより設定された所望の設定周波数fsetに対し、fset/Nが36MHzに最も近くなる整数を演算し、その整数を分周器2の分周比Nとしている。こうすることによってキャリアリムーブ4から取り出された回転ベクトルVを止めるための逆回転ベクトルV`の周波数は、4MHzよりも小さい値になり、逆回転ベクトルV’を発生させるためのデータ量が少なくて済む。
【0054】
ここで周波数の具体例を挙げると、電圧制御発振器1の設定周波数fsetを例えば520.0001MHzとすると、分周比Nは、例えばfset/36MHzに最も近い整数であるとした場合、N=14となる。この場合、電圧制御発振器の出力周波数が設定周波数fsetであるときの分周後の周波数は、fset/14=37.1428642857143MHzである。既述のように分周後の周波数が36MHzのときに、A/D変換部3にて得られるディジタル値により特定される周波数信号の周波数は、40MHz−36MHz=4MHzであり、4MHzの正弦波信号で直交検波を行うキャリアリムーブ4を通して得られる回転ベクトルVの周波数は4MHz−4MHz=0、つまり回転ベクトルVは停止することになる。従ってfset/14=37.1428642857143MHzの周波数信号がA/D変換部3にてディジタル化され、その周波数信号がキャリアリムーブ4に入力されて得られる回転ベクトルVの周波数は、37.1428642857143MHz−36MHz=1.1428642857143MHzとなる。
このような演算は、周波数シンセサイザに対して設定周波数を入力することにより、電圧制御発振器1を動作させる以前にパラメータ出力部6にて行われる。またパラメータ出力部6は、図示しないメモリを参照して、設定周波数に近い周波数が得られる電圧値を選択し、これにより電圧出力部11の出力電圧がその電圧値に向かって上昇することになる。そして分周比Nを14に設定し、また逆回転ベクトルV’の周波数を1.1428642857143MHzに設定すればA/D変換部3にて得られる周波数信号の周波数が1.1428642857143MHzとなるまで、電圧制御発振器1の出力周波数fvcoが上昇し、やがて回転ベクトルVの周波数と逆回転ベクトルV’の周波数とが一致したときにPLLがロックされ、fvcoがfsetに収束する。
図10は、回転ベクトルVが逆回転ベクトルV’により逆回し処理が行われて停止した状態をイメージ的に示す図である。
【0055】
ところで上述の動作は、逆回転ベクトルV’だけに頼って回転ベクトルVを止める方式の場合の動作であり、この場合には、逆回転ベクトル乗算部5で得られた回転ベクトルの周波数に対応する信号をループフィルタ8に入力すればよい。しかしながら、このような構成では逆回転ベクトルV’を発生させるためのデータ量がかなり多くなってしまう。このため図5に示す実施の形態では、逆回転ベクトルV’により回転ベクトルVの周波数をある程度まで減速し、残りの減速を後段の位相の時間差検出部71、加算部72及び位相差の累積加算部73の動作に任せている。言い換えれば、逆回転ベクトル乗算部5では回転ベクトルVの周波数の粗調整を行い、後段部位において回転ベクトルVの微調整を行うことで、回転ベクトルVを停止させている。
【0056】
回転ベクトルVの周波数の粗調整を行う逆回転ベクトルV’の周波数は、例えば152.587890625Hz刻みで設定できるようになっている。その理由は、40MHzにてデータをサンプリングする場合、逆回転ベクトルV’の位相のポイント数を2の18乗に設定すると、40MHz/2の18乗=152.587890625Hzとなるからである。つまりパラメータ出力部6では、最小租調周波数(周波数刻みfa)が152.587890625Hzであり、上記の回転ベクトルVの周波数である1142864.2857143Hz(1.1428642857143MHz)に対して周波数刻みfaを何倍したら最も近くなるかを計算する。
【0057】
1142864.2857143Hz/152.587890625Hzに最も近い整数は7490であり、パラメータ出力部6はこの整数を求めることにより、電圧制御発振部1の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルVの周波数に最も近い周波数n・fa(nは整数)=7490・152.587890625Hz=1142883.30078125Hzを求める。
【0058】
そしてパラメータ出力部6は、次の計算を行う。先ず回転ベクトルVの周波数から、逆回転ベクトルV’により調整される周波数を差し引き、142864.2857143Hz−1142883.30078125Hz=19.0150669664145Hzを求める。
【0059】
更に粗調整用の前記周波数刻みfaよりも小さい微調整のための周波数刻みfbこの例では周波数刻み1Hzの整数倍のうち、電圧制御発振部1の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルVの周波数と前記周波数n・faとの差である19.0150669664145Hzに最も近い周波数m・fb(mは整数)を計算する。この場合、fbは1Hzであるから、mは19となり、19Hz分の調整が逆回転ベクトル乗算部5の後段の部分により行われることになる。
【0060】
図5に戻って、71は位相の時間差検出部、72は第2の加算部、73は位相差の累積加算部、8はループフィルタ、80はD/A(ディジタル/アナログ)変換部である。
回転ベクトルVの回転は逆回転ベクトルV’により減速されているので、回転ベクトルVの周波数(速度)を簡単な近似式で求めることができる。図11に示すように複素平面上において、(n−1)番目のサンプリングにより求めた回転ベクトルV(n−1)とn番目のサンプリングにより求めた回転ベクトルV(n)=V(n−1)+ΔVとのなす角度Δφ、即ち両サンプリング時の回転ベクトルVの位相差Δφは、回転ベクトルVの周波数がサンプリング周波数よりも十分に小さくかつθ=sinθとみなせる程度であれば、ΔVの長さとみなすことができる。
【0061】
ΔVを求める近似式について説明すると、先ず位相差Δφは(5)式で表される。なおimagは虚数部分、conj{V(n)}はV(n)の共役ベクトル、Kは常数である。
【0062】
Δφ=K・imag[ΔV・conj{V(n)}] ……(5)
ここで、I値(回転ベクトルVの実数部分)及びQ値(回転ベクトルVの虚数部分)についてn番目のサンプリングに対応する値を夫々I(n)及びQ(n)とすれば、ΔV及びconj{V(n)}は複素表示すると夫々(6)式及び(7)式で表される。
【0063】
ΔV=ΔI+jΔQ ……(6)
conj{V(n)}=I(n)−jQ(n) ……(7)
ただし、ΔIはI(n)−I(n−1)であり、ΔQはQ(n)−Q(n−1)である。(6)式及び(7)式を(5)式に代入して整理すると、Δφは(8)式で表されることになる。
【0064】
Δφ=ΔQ・I(n)−ΔI・Q(n) ……(8)
前記位相の時間差検出部71は、このように近似式を用いてΔφを求める機能を備えている。このΔφは、逆回転ベクトル乗算部5にて減速された回転ベクトルVの周波数に対応する値であるから、位相の時間差検出部71は、減速された回転ベクトルVの周波数を出力する手段(微速ベクトル検出手段)であるといえる。
【0065】
なお回転ベクトルV(n−1)とV(n)とが求まればこの間の角度Δφを求める手法は種々の数学的手法を使うことができ、その一例として(5)式の近似式を挙げたに過ぎない。その数式としてはV(n)とV(n−1)の各終点を結ぶ線の中点と原点とを結ぶベクトルVOである{V(n)+V(n−1)}/2を用い、(5)式においてV(n)に代えてこのベクトルVOを代入してもよい。このような(5)式が近似できる理由は、VOとΔVとが直交しているとみなすことができ、このためΔVの長さは、VOを実軸と見たてたときのΔVの虚数値に相当すると取り扱えることができるからである。
【0066】
一方パラメータ出力部6は、回転ベクトルVの周波数微調整分である19Hzの値を計算により求めているため、位相の時間差検出部71にて検出された回転ベクトルVの周波数と微調整分の19Hzとが加算部72にて突合されて、回転ベクトルVの周波数と微調整分の19Hzとの差分が取り出され、位相差の累積加算部73に入力される。そして位相差の累積加算部73からの出力値はループフィルタ8に入力される。
【0067】
本周波数シンセサイザは、図4に示したように回転ベクトルVを止める処理を行うが、この処理は図5の例ではいわば逆回しすることによるラフな停止処理と微速になった回転ベクトルVを正確に止める処理とに分けており、後半の処理を位相の時間差検出部71と加算部72とに受け持たせていることになる。そして逆回転ベクトル乗算部5、位相の時間差検出部71及び第2の加算部72は、周波数差取り出し手段に相当する。
【0068】
位相差の累積加算部73は、図12(a)に示すようにあるサンプリング時における入力値をレジスタ73aに保持し、次のサンプリング時にそれまで保持されていた値を出力すると共に加算部73bに戻して入力値と加算し、その加算値をレジスタ73aに入力するように構成されている。
【0069】
またループフィルタ8は、入力値を累積加算部8aにて累積加算する(積分する)と共に、加算部8bにてその累積加算値に入力値を加算するように構成されている。入力値を加算部8bに入力する理由は、ループフィルタ8の出力が安定化するためである。このループフィルタ8の出力電圧は、D/A変換部80にてアナログ電圧とされて電圧出力部11の出力電圧から当該出力電圧を差し引くように第1の加算部12に入力される。
【0070】
この例では、電圧制御発振部1から周波数差取り出し手段及びループフィルタ8を経て電圧制御発振部1に戻るループはPLLを形成している。またA/D変換器3からループフィルタ8に至るまでの各部位の演算処理はソフトウエアにより行っている。
【0071】
次に図5に示す全体の動作について図13及び図14に記載したタイムチャートを参照しながら説明する。なお、信号量の変化パターンについては、概略的に記載してあるが、シミュレーションにより得られた信号量の変化パターンは図13、図14のパターンよりも複雑なパターンになっている。今、上述の具体例で挙げたように、電圧制御発振器1の設定周波数fsetを例えば520.0001MHzとして図示しない入力部から入力したとする。パラメータ出力部6は、電圧制御発振器1の設定周波数と供給電圧との関係を書き込んだテーブルを備えていて、このテーブルにおける520.0001MHzに最も近い設定周波数を選択する。
【0072】
また、既述のようにしてfset/36MHzに最も近い整数である分周比N=14と、設定周波数が得られるときの回転ベクトルVの周波数を租調整量と微調整量とに分けたときの夫々の量と、を計算する。この場合、周波数の租調整量つまり逆回転ベクトルの周波数である1142883.30078125Hzと第2の加算器72に入力する微調整量である逆回し処理後の回転ベクトルの周波数19Hzとを計算する。
【0073】
そして入力部からスタートの指示を入力すると、電圧出力部11から設定周波数に対応する電圧を例えば時間に対して直線的に上昇するように出力する。電圧制御発振器1は電圧が供給されるので、周波数信号を出力しその周波数が上昇していく。初めのうちは電圧制御発振器1の出力周波数が低いので、A/D変換部3にて取り出される周波数{40MHz−(出力周波数/N)}が大きく、このためキャリアリムーブ4にて取り出される回転ベクトルVの周波数が負の大きな値になっており、時刻t1に至るまでは、キャリアリムーブ4以降の各部の出力は負の下限レベルに維持されている。電圧制御発振器1の出力周波数がある値まで上昇すると、キャリアリムーブ4からの回転ベクトルVの取り出し演算が有効になって回転ベクトルVの周波数(速度)が落ち始める(図13(a)参照)。
【0074】
この説明では、40MHz−(出力周波数/N)の値が4MHzよりも小さいとき、つまり出力周波数/Nが36MHzよりも大きいときの回転ベクトルVの回転方向を正の方向と呼ぶとすると、負の方向に回転している回転ベクトルVの周波数が低くなってきたということである。このとき図13(b)に示すように逆回転ベクトル乗算部5の出力である、逆回転分が加算された回転ベクトルVの周波数も低くなってくる。したがって、図13(c)に示すように位相の時間差検出部71の出力も小さくなり(負の速度が小さくなり)、図14(a)に示すように前記出力(位相差)と周波数の微調整量とを加算した第2の加算部72の加算値も小さくなっていく。これらの変化は図13及び図14では、各値が上昇に転じていることである。
【0075】
更に、第2の加算部72の出力つまり位相差の累積加算部73の入力が上昇していることから、位相差の累積加算部73の出力が時刻t1に遅れた時刻t2にて上昇し始める。更に電圧制御発振器1の出力周波数が上昇して、分周後の周波数が36MHzになり、キャリアリムーブ4から取り出される回転ベクトルVの速度が停止するタイミングとなる。ここで、租調整周波数をΔF(n・fa)とし、微調整周波数をΔf(m・fb)とすると、キャリアリムーブ4から取り出される回転ベクトルVの周波数が周波数の調整分ΔF+Δfよりも未だ小さく、その周波数差(第2の加算部72の出力)が負の値であることから、回転ベクトルVの周波数は上昇する。やがて回転ベクトルVの周波数は時刻t3にて前記周波数の調整分ΔF+Δfと同じになるが、それまでのPLLの履歴により更に上昇する。
【0076】
しかし、図14(b)に示すように位相差の累積加算部73の出力が上昇して時刻t4にて「正」に転じると、図14(c)に示すようにループフィルタ8の出力が上昇し始める。ループフィルタ8の出力が負の電圧から正の電圧になったところで電圧出力部11からの出力電圧がループフィルタ8の出力電圧分だけ低くなって電圧制御発振器1に供給されることになるので、図14(d)に示すように電圧制御発振器1の出力周波数が低くなろうとする。このため回転ベクトルVの速度が落ち始め、これにより第2の加算部72の出力が小さくなろうとするので、位相差の累積加算部73の出力が低くなろうとする。こうしてやがて位相の時間差検出部71の出力がΔf(上述の具体例では19Hz)に収束し(図13(c))、第2の加算部72の出力、即ち周波数差取り出し手段で取り出された周波数差がゼロになる。これによりPLLがロックされ、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数である520.0001MHzにロックされる。なおループフィルタ8はこの例では完全積分機能を持たせているため、正の直流電圧に収束することになる。また、シミュレーションでは、電圧制御発振器1の動作をスタートさせてから、PLLがロックされるに至るまでの時間はおよそ150msecであった。
【0077】
以上の周波数シンセサイザでは、電圧制御発振器1の出力周波数に応じた速度(周波数)で回転する回転ベクトルを取り出し、この回転ベクトルの周波数と出力周波数が設定周波数になったときの回転ベクトルの周波数との差分を取り出して電圧制御発振器1にフィードバックしてPLLを形成しているので、広い周波数帯域に亘って細かな周波数設定を低ノイズで行うことができる。そして、周波数差を取り出すにあたって、粗い周波数設定で逆回転する逆回転ベクトルを用いて回転ベクトルの速度を落とし込み、その微速回転ベクトルの速度を検出してその検出値と予め計算しておいて微調整分とを付き合わせてその差分を取り出すようにしている。したがって、既述のようにデータ量を抑えかつ簡単な演算により回転ベクトルの周波数を検出することができ、従ってメモリ容量が小さくかつ演算の負荷が小さい周波数シンセサイザとすることができる。
【0078】
なお分周比Nの決め方は、電圧制御発振器1の出力周波数の設定値をNで割ったときに、A/D変換部3で用いる基準クロック信号の周波数と回転ベクトル取り出し手段で用いられるω0/2πとの差に最も近い周波数となるように決めることに限定されるものではない。
【0079】
ここで、図5に破線ブロックで示す部分をFPGAで構成する場合、逆回転ベクトル乗算部5に含まれるフィルタは、多くのデジタル回路要素で構成され、また周期性のある同時スイッチング動作が発生する回路である。
【0080】
このノイズ低減手段として、本実施形態では、図5中に示すように、逆回転ベクトル乗算部5に含まれるフィルタとは逆のスイッチ動作を行うノイズ低減部90を設ける。このノイズ低減部90は、実施形態1と同様に、時間差検出部71と同等の多数の倫理回路要素で同等のオン/オフ動作する構成としたダミーローパスフィルタ90aと、入力ディジタル信号の反転出力でダミーローパスフィルタ90aをドライブする論理インバータ90bで構成し、ノイズを低減する。
【0081】
なお、ノイズ低減部90は、実施形態2と同様に、FPGAの外部に、論理インバータとCR積分回路で構成したバッファ回路として同等の作用効果を得ることができる。
【0082】
また、以上までの実施形態では、PLL方式の周波数シンセサイザに適用した場合を示すが、ディジタル処理で位相比較するPLL、さらに波形解析装置などの他のディジタル処理装置に適用して同等の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態1を示す周波数シンセサイザの機能ブロック図。
【図2】実施形態1におけるノイズ低減動作の原理的説明図。
【図3】本発明の実施形態2を示す周波数シンセサイザの機能ブロック図。
【図4】本発明の実施形態3に係る周波数シンセサイザの基本構成図。
【図5】本発明に実施形態3に係る周波数シンセサイザの機能ブロック図。
【図6】実施形態3に用いられるキャリアリムーブを示す構成図。
【図7】キャリアリムーブにて得られる回転ベクトルを示す説明図。
【図8】逆回転ベクトル乗算部の構成を示す構成図。
【図9】パラメータ発生部において逆回転ベクトルを発生させるためのデータテーブルを示す説明図。
【図10】キャリアリムーブで得られた回転ベクトルと逆回転ベクトルとを周波数差取り出し手段により互いに乗算する様子を示す説明図。
【図11】前後するタイミングでサンプリングした回転ベクトルの位相差を示す説明図。
【図12】図4における位相差の累積加算部及びループフィルタの構成図。
【図13】実施形態3におけるキャリアリムーブ、周波数差取り出し手段及び位相の時間差検出部の各出力レベルを示すタイムチャート。
【図14】位相差の累積加算部及びループフィルタの各入力レベルと、ループフィルタ及び電圧制御発振器の各出力レベルとを示すタイムチャート。
【図15】従来のPLLの機能ブロック図。
【符号の説明】
【0084】
1、111…電圧制御発振器
11…電圧出力部
2,112…分周器
3,114…A/D変換部
31…基準クロック発生部
4…キャリアリムーブ
5…逆回転ベクトル演算部
6…パラメータ出力部
71…位相の時間差検出部
73…位相差の累積加算部
8…ループフィルタ
115…ディジタル処理デバイス
115A…第1のディジタル処理回路
115B…ローパスフィルタ
115C…第2のディジタル処理回路
115D、117、90…ノイズ低減部
116…D/A変換器
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル信号処理回路によって所期の機能を実現するディジタル処理装置例えばPLL方式の周波数シンセサイザにおいて電源ライン等に重畳される高周波ノイズを低減するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディジタル処理装置には、例えば、携帯電話などの無線通信装置、波形解析装置や周波数シンセサイザなどがある。周波数シンセサイザは、図15に示すPLL(Phase Locked Loop)を応用した装置になる。PLLは、電圧制御発振器101の発振出力を分周器102により1/Nに分周してその分周出力を位相比較器103の一方の入力端に入力すると共に、基準信号発生器である例えば水晶発振器104の発振出力を分周器100にて1/Mに分周してその分周出力を位相比較器103の他方の入力端に入力し、その比較信号をループフィルタ105を介して電圧制御発振器101にフィードバックする。このPLLがロックすると電圧制御発振器101の発振出力の周波数fvcoと水晶発振器104の発振出力の周波数f0とは、fvco/N=f0/Mの関係にあるので、fvco=(N/M)f0となる。分周器102はプログラマブルカウンタにより構成されていて外部よりディジタルデータで分周比Nを設定できることから、fvcoの周波数を自由に設定できることになる。周波数シンセサイザとしては、分周器100、102の分周比を外部回路で切換えること、さらにはPLLを多段構成とすることで電圧制御発振器101の出力周波数を1MHzきざみ等で広い周波数範囲に切換可能にする。
【0003】
ここで、電圧制御発振器101、水晶発振器104、ループフィルタ105がアナログ信号処理回路になり、分周器102と位相比較器103がディジタル信号処理回路になり、これらの組み合わせでPLLおよび周波数シンセサイザが構成される。
【0004】
このように、ディジタル信号処理で所期の機能を実現するディジタル処理装置は、各回路要素の大部分に集積回路デバイスを使用してプリント基板に実装した高密度設計、さらにはPLD(プログラマブルロジックデバイス)が利用され、処理信号の高周波化およびデジタル信号処理が多くなる。このため、電源ラインや信号線に高周波ノイズが重畳してPLLなどの回路を誤動作させ、あるいは不要な信号(スプリアス)が周波数シンセサイザなどの装置の入出力信号に発生してしまう。
【0005】
この種のノイズを低減する従来方式としては、ディジタル回路素子がオン/オフ論理動作したときに現れる電源ラインの電流変化を減らすことでノイズを低減しようとするものがある(例えば、特許文献1参照)。この方式は、電源ライン電流の変化を検出し、これと逆の電流変化になるよう論理回路(フリップフロップなど)を論理動作させる。この論理回路は集積回路がもつ余り回路を利用することもできる。
【0006】
ノイズ低減の他の従来方式としては、電源Vddとグランド間に複数のMOSトランジスタ(論理素子)を並列配置した構成の出力バッファ回路において、電源と各MOSトランジスタ間に値の異なる抵抗を直列に設けることで、各MOSトランジスタの動作タイミングをずらし、電源電流の急激な変化を抑え、結果的にノイズを低減させるものがある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平11−296268号公報
【特許文献2】特開平10−107607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のノイズ低減方式では、電源ラインの電流変化を高速に検出する高価な検出回路を必要とする。また、この回路による検出からノイズ低減用論理回路が動作するまでの遅れを小さくできないため、ノイズ低減効果に問題がある。
【0009】
特許文献2のノイズ低減方式では、出力バッファ回路など、論理素子間に動作タイミングのずれが許される回路にしか適用できない。すなわち、高周波出力を得る周波数シンセサイザなど、ディジタル処理装置を構成する多数の回路要素の互いの動作タイミングがシビアになるものには適用できない。また、ノイズ低減対象となる回路要素は、特別な回路設計を必要とするし、回路の複雑化とコストアップを招く。
【0010】
本発明の目的は、ノイズ低減を確実、容易にするディジタル処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するための本発明は、以下の方式を特徴とする。
【0012】
(1)ディジタル信号処理回路によって所期の機能を構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
(2)ディジタル信号処理回路で位相比較演算してPLLを構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
(3)ディジタル信号処理回路で位相比較演算を行うPLLによって周波数シンセサイザを構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
(4)前記周波数シンセサイザは、
供給された電圧に応じた周波数の周波数信号を発振する電圧制御発振部からの周波数信号を電圧制御発振部の設定周波数に応じて1/N(Nは整数)に分周する分周手段の後段に設けられ、
前記電圧制御発振部の出力周波数の1/Nに相当する周波数の正弦波信号を基準クロック信号に基づいてサンプリングしてそのサンプリング値をディジタル信号として出力するアナログ/ディジタル変換部と、
このアナログ/ディジタル変換部からの出力信号に対応する周波数信号に対して、周波数がω0/2πの正弦波信号のディジタル信号による直交検波を行い、当該周波数信号の周波数とω0/2πとの周波数差に相当する周波数で回転する回転ベクトルを複素表示したときの実数部分及び虚数部分を取り出す回転ベクトル取り出し手段と、
前記電圧制御発振部の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルの周波数を計算するパラメータ出力部と、
前記回転ベクトルの周波数と前記パラメータ出力部にて計算された周波数との差分を取り出す周波数差取り出し手段と、
前記周波数差取り出し手段により取り出された周波数差に相当する電圧信号を前記電圧制御発振部に帰還する手段とを備えことを特徴とする。
【0016】
(5)前記ダミー回路は、前記信号処理回路と等価な充放電電流を発生する外付けバッファ回路としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上のとおり、本発明によれば、ディジタル信号処理回路によって所期の機能を構成するディジタル処理装置において、ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となり、かつ信号処理回路のオン/オフ動作と逆のオン/オフ動作させることでノイズを低減するようにしたため、ノイズ低減を確実、容易にする効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態を示す周波数シンセサイザの機能ブロック図である。この周波数シンセサイザは、新規な原理に基づいて動作するものであるが、本実施の形態の主要部は、この種の周波数シンセサイザに適用することに限らないことから、周波数シンセサイザ自体の動作については後述の実施の形態にて一括して説明することとし、ここでは、ノイズ低減部115Dの作用に関する部分を中心に述べる。
【0019】
この周波数シンセサイザはPLL回路を形成し、電圧制御発振器111の発振出力を分周器112により1/Nに分周し、この分周した分周出力をローパスフィルタ113を通した後、A/D変換器114により12ビットなどのディジタル信号に変換する。そしてこのディジタル出力を第1のディジタル処理回路115Aにて、電圧制御発振器111の発振出力の周波数と設定周波数との差に応じた量が演算され、更にローバスフィルタ115Bを通した後、更に第2のディジタル処理回路115Cにて処理を行い、その結果をD/A変換器を介して電圧制御発振器111に戻すようにしている。
電圧制御発振器111の出力周波数が安定したときにはA/D変換器114からは例えば4MHz付近の正弦波信号に対応する信号が取り出され、第1のディジタル処理回路115Aでは、前記正弦波信号を4MHzの正弦波信号により直交検波して両信号の周波数差で回転するベクトルを取り出し、更にそのベクトルの回転速度と設定周波数時における同様のベクトルの回転速度との差分を取り出すなどの処理が行われる。
また第2のディジタル処理回路115Cでは、前記差分についてより細かな値を求める処理が行われ、その差分をループフィルタで積分してその積分値をD/A変換器116に出力している。なお図1では省略されているが、実際には電圧制御発振器111に設定出力周波数付近の周波数に対応する直流電圧を周波数引き込み用の直流電圧として供給することが必要である。このような一連のディジタル処理は、例えばディジタル処理デバイス115例えばFPGA(Field Programmable Gate Alley)にて行われ、その詳細は後述する。
【0020】
以上のPLL方式になる周波数シンセサイザにおいて、ディジタル処理デバイス115は、多くのディジタル回路要素が高密度実装されており、そのうちローパスフィルタ115Bは多くの回路要素で構成され、且つ同時スイッチングするトランジスタ数が多く、この部分の同時スイッチング動作がノイズ発生源になることが予想される。
【0021】
このノイズ低減手段として、本実施形態では、ローパスフィルタ115Bのオン/オフ動作と逆のオン/オフ動作(相補動作)を行うノイズ低減部115Dを設ける。このノイズ低減部115Dは、ディジタル処理デバイス115内にその余り回路要素を利用して構成する。
【0022】
このノイズ低減部115Dによるノイズ低減動作を図2を参照して原理的に説明する。同図の(a)において、ローパスフィルタ115Bを構成する処理回路は、多数の乗算回路と遅延回路などの回路要素で構成され、その1つを代表して等価回路で示すと、電源ラインとグランドライン間に、NPNトランジスタとPNPトランジスタの直列接続で構成され、スイッチ出力端に配線容量や浮遊容量が介挿され、入力ディジタル信号によって多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフドライブされる。
【0023】
これに対して、ノイズ低減部115Dは、ローパスフィルタ115Bと同等の多数の倫理回路要素で同等のオン/オフ動作になる構成としたダミーローパスフィルタ115Daと、入力ディジタル信号の符号反転出力でダミーローパスフィルタ115Daをオン/オフドライブする論理インバータ115Dbで構成する。
【0024】
このようなノイズ低減部115Dを設けることで、ノイズを低減する。すなわち、ローパスフィルタ115Bのオン/オフ動作で電源ラインから容量成分への充電電流、または容量成分からグランドラインへの放電電流が流れる。これら電流は、図2の(b)に示すように、電源ラインまたはグランドラインを通して、またはこれらラインからの誘導電流で他の回路要素側にノイズとして現れるのを、ノイズ低減部115Dから電源ラインまたはグランドラインに流れる電流と逆位相の電流を流すことで、ノイズを打ち消し(相殺し)、結果的にノイズを低減することができる。このノイズ低減動作は、実験により確認した。
【0025】
本実施形態によれば、ローパスフィルタ115Bで発生するノイズ電流とほぼ同時にノイズ低減部115Dでノイズ低減電流を発生することができ、特許文献1のノイズ低減方式のように、電源ラインの電流変化を高速に検出する高価な検出回路を増設することを不要にし、さらに動作タイミングの遅れを少なくして確実なノイズ低減ができる。
【0026】
また、ノイズ低減部115Dは、ディジタル処理デバイス115内にその余り回路要素を利用して、ローパスフィルタ115Bに近接配置すること、つまりノイズ発生源に近接した位置でノイズを相殺させることで、確実なノイズ低減ができる。
【0027】
また、本実施形態によれば、ノイズ低減部115Dは、ローパスフィルタ115Bの論理動作には直接に影響を与えるものでないため、高周波出力を得る周波数シンセサイザなど、ディジタル処理装置を構成する多数の回路要素の互いの動作タイミングがシビアになるものに適用して確実にノイズ低減ができる。
【0028】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態を示す周波数シンセサイザの機能ブロック図である。同図が図1と異なる部分は、ダミーローパスフィルタ115Daに代えて、ディジタル処理デバイス115の外部にバッファ回路117を設けた点にある。
【0029】
バッファ回路117は、論理インバータ117aとCR積分回路117bで構成する。論理インバータ117aは、ディジタル処理デバイス115内の論理素子、またはこの論理素子の出力を入力とする外付けバッファ素子とし、ローパスフィルタ115Bの入力ディジタル信号の反転出力を得る。この出力は、デジタル信号処理をsignedで扱った場合には符号bitにすることでフィルタの同時スイッチングが最大となるタイミングを得ることができる。CR積分回路117bは、ディジタル処理デバイス115の電源ラインとグランドライン間に抵抗RとコンデンサCの直列接続で設ける。
【0030】
この構成になるバッファ回路117は、実施形態1と同様に、ローパスフィルタ115Bの動作による電源ラインとグランドラインに流れる電流と逆の電流をCR積分回路117bに流し、ノイズ低減を得ることができる。
【0031】
なお、CR積分回路117bは、集中定数回路に限られるものでなく、多数の抵抗とコンデンサを使った分布定数回路に構成することでもよい。
【0032】
(実施形態3)
本実施形態では、先の実施の形態1,2の周波数シンセサイザに関する動作も含めて説明する。先ず図4を参照しながら周波数シンセサイザの動作原理について概略的に説明する。図4中、1は、電圧制御発振部である電圧制御発振器であり、電圧出力部11から第1の加算部12を経て供給電圧に応じた周波数の矩形波である周波数信号を出力する。電圧制御発振器1からの周波数信号は分周手段2にて1/N(Nは整数)に分周され、更に正弦波に変換され、ディジタル信号に変換されるのであるが、ここでは回転ベクトル取り出し手段20により、前記周波数信号の周波数に応じた周波数(速度)で回転する回転ベクトルが取り出されるという説明にとどめる。
【0033】
回転ベクトル取り出し手段20の後段の周波数差取り出し手段30は、前記回転ベクトルの周波数と、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数になったときの回転ベクトルの周波数frとの差を取り出す。周波数差を取り出す手法としては、例えば電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数になったときに回転ベクトル取り出し手段20にて取り出される回転ベクトルの回転方向とは逆方向に周波数frで回転する逆回転ベクトルを作成し、前記回転ベクトルと逆回転ベクトルとを乗算してその周波数差を取り出す手法が挙げられる。
【0034】
また、逆回転ベクトルで回転ベクトルの周波数をある程度落としておいて、残りの周波数差分を例えば回転ベクトルの速度を近似式で検出するようにしてもよい。このような例をより具体化した例を挙げると、回転ベクトルの周波数をfrに一致させる調整(周波数差取り出し手段30により周波数差を取り出す調整工程)を、粗調整と微調整とに分ける。そして粗調整のための周波数刻みfaの整数倍の周波数のうち、電圧制御発振器1の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルの周波数に最も近い周波数n・fa(nは整数)を予め計算して、周波数n・faで逆回転する逆回転ベクトルを前記回転ベクトルに乗算して、前記回転ベクトルの周波数から逆回転ベクトルの周波数を差し引いた周波数の微速回転ベクトルを取り出す。そして前記周波数刻みfaよりも小さい微調整のための周波数刻みfbの整数倍のうち、frと前記周波数n・faとの差に最も近い周波数m・fb(mは整数)とを計算し、前記微速回転ベクトルの周波数と周波数m・fbとの差を取り出し、こうして回転ベクトル取り出し手段により得られた回転ベクトルの周波数とfrとの差が求められる。
【0035】
以上の一連の計算は、図示しないパラメータ出力部にて計算される。なおこのように周波数差を取り出す調整工程を粗調整と微調整とに分ける場合には、回転ベクトルの周波数がfrに近付いてきたときに正確な周波数差を得ることができる利点や、周波数の検出の演算が簡単になるという利点などがある。この点は後述の図5の具体例により明らかにされる。
【0036】
そして周波数差取り出し手段30により取り出された周波数差に対応する電圧はループフィルタ40から電圧制御発振器1の入力側に負帰還され、この電圧分だけ電圧制御発振器1の入力電圧が差し引かれる。なおループフィルタ40は積分回路としても機能している。したがって、図4のループはPLLを形成しており、前記周波数差がゼロになったときにPLLがロックされ、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数にロックされることになる。
【0037】
即ち、電圧制御発振器1のスタート時には入力電圧が例えば時間に対して直線的に上昇し、それに伴って出力周波数が上昇し、回転ベクトル取り出し手段20にて取り出された回転ベクトルの周波数が高くなっていく。そして、この周波数がPLLの制御範囲に入ってくると、予め計算された、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数になったときの回転ベクトルの周波数frと回転ベクトルの周波数との差が小さくなってくる。この結果、当該差の積分値も小さくなっていくのでフィードバック量が少なくなっていき、電圧制御発振器1の出力周波数の上昇が抑えられ、前記周波数差がゼロに収束しようとし、つまりその積分値が一定になろうとし、この結果電圧制御発振器1の出力周波数は、設定周波数に収束しようとする。こうしてPLLがロックされると、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数にロックされることになる。
【0038】
実際には、設定周波数の大きさに応じて分周比を選択すればよいことから、回転ベクトルという発想を取り入れることにより、このように1段のPLLでありながら、広い周波数帯域に亘って細かな周波数設定を行うことができるのである。
【0039】
以上の原理的な説明における周波数シンセサイザを具体化した例を図5以降にて説明する。電圧出力部11は、出力電圧が例えば時間の経過と共に直線的に所定の電圧まで上昇するように構成されている。所定の電圧とは、電圧制御発振器1から得ようとする設定周波数に応じた電圧に近い電圧であり、後述のパラメータ出力部により指定される。
【0040】
電圧制御発振器1の後段に設けられた手段について順番に説明すると、2は例えばプログラマブルカウンタからなる分周器であり、この分周器2の分周比N(Nは整数)は後述のパラメータ出力部により決定される。分周器2の後段には、分周器2からの周波数信号である矩形波信号を正弦波信号に変換するための手段としてローパスフィルタ21が設けられている。
3はA/D(アナログ/ディジタル)変換器であり、ローパスフィルタ21からの周波数信号である正弦波信号を基準クロック発生部31からのクロック信号によりサンプリングしてそのサンプリング値をディジタル信号として出力する。基準クロック発生部31は、前記周波数信号をサンプリングするために周波数の安定性が極めて高い周波数信号であるクロック信号を出力する。
【0041】
A/D変換器3で得られるディジタル信号で特定される高周波信号は基本波の他に高調波も含まれている。即ち高調波ひずみを有する正弦波をサンプリングする場合、その高調波成分が折り返しの影響を受けて、場合によっては周波数スペクトルにおける周波数軸上で基本波周波数と高調波の周波数とが重なる場合が想定される。そこでこのような重なりを避けて、電圧制御発振器1の出力周波数に正確に対応する回転ベクトルを後で取り出す必要がある。
【0042】
一般に周波数f1の正弦波信号を周波数fsのクロック信号でサンプリングした場合、その取り込み結果の周波数f2は(1)式で表される。ただしmod()はmodulo関数を表している。
【0043】
f2=|mod(f1+fs/2,fs)−fs/2| ……(1)
この取り込み結果において、基本波周波数に対してn次の高調波の周波数はn×(基本波周波数)として表されるので、これをf2と置いて上記の(1)式に代入すれば、高調波がどのような周波数として取り込まれるかを計算することができる。この計算を用いることにより基本波の周波数と高調波の周波数とが重ならないように、分周器2からの高周波信号の周波数fcとサンプリング周波数(クロック信号の周波数)fsとを設定することができ、例えば回転ベクトルが停止するときのfcが36MHzとなるように分周比Nを設定し、fsを40MHzに設定する。この場合、A/D変換器3からのディジタル信号である出力信号で特定される周波数信号の基本波は4MHzの正弦波となる。なおfc/fsを9/10にすれば、基本波の周波数と高調波の周波数とが重ならないが、fc/fsはこの値に限られるものではない。
【0044】
A/D変換器3の後段には、キャリアリムーブ4が設けられている。このキャリアリムーブ4は、A/D変換器3からのディジタル信号により特定される正弦波信号に対して周波数がω0t/2π(角速度がω0t)の正弦波信号により直交検波を行い、A/D変換器3のディジタル信号により特定される周波数信号の周波数と検波に用いる正弦波信号の周波数との差の周波数で回転する回転ベクトルを取り出す手段、より詳しくはこの回転ベクトルを複素表示したときの実数部分及び虚数部分を取り出す手段に相当する。
【0045】
キャリアリムーブ4に関して詳述すると、キャリアリムーブ4は、図6に示すように前記正弦波信号に対してcos(ω0t)を掛け算する掛け算部41aと前記正弦波信号に対して−sin(ω0t)を掛け算する掛け算部41bと、掛け算部41a、41bの後段に夫々設けられたローパスフィルタ42a及び42bと、を備えている。従ってA/D変換器3で得られた正弦波信号をAcos(ω0t+θ)としたとき、掛け算部41aの出力及び掛け算部41bの出力は夫々(2)式及び(3)式により表される。
【0046】
Acos(ω0t+θ)・cos(ω0t)
=1/2・Acosθ+1/2{cos(2ω0t)・cosθ+sin(2ω0t)・sinθ}……(2)
Acos(ω0t+θ)・−sin(ω0t)
=1/2・Asinθ−1/2{sin(2ω0t)・cosθ+cos(2ω0t)・sinθ}……(3)
そこで掛け算部41aの出力及び掛け算部41bの出力を夫々ローパスフィルタ42a及び42bを通すことにより、2ω0tの周波数信号は除去されるので、結局ローパスフィルタ42a、42bからは夫々1/2・Acosθと1/2・Asinθとが取り出される。ローパスフィルタ42a、42bにおける実際のディジタル処理は、掛け算部41a、41bから出力される時系列データについて連続する複数個のデータ例えば6個のデータの移動平均を演算している。
【0047】
以上のことは、A/D変換器3で得られた正弦波信号の周波数と直交検波に用いる正弦波信号の周波数が等しいときには、出力に時間関数が含まれないので、キャリアリムーブ4にて得られる回転ベクトルは停止していることになる。一方Acos(ω0t+θ)で表される正弦波信号の周波数が変化すると、Acos(ω0t+θ)はAcos(ω0t+θ+ω1t)となる。従って1/2・Acosθは1/2・Acos(θ+ω1t)となり、1/2・Asinθは1/2・Asin(θ+ω1t)となる。即ち、ローパスフィルタ42a、42bから得られた出力は、正弦波信号[Acos(ω0t+θ)]の周波数の変化分(ω1t)に対応する信号、つまりA/D変換器3で得られた正弦波信号の周波数と直交検波に用いた正弦波信号の周波数との差分(ω1t/2π)の速度で回転するベクトルを複素表示したときの実数部分(I)及び虚数部分(Q)である。なお、この明細書では周波数と角速度とを使い分ける意義はないことから、両者を混在して用いることがある。
【0048】
図7はこの回転ベクトルVを表した図であり、この回転ベクトルVは長さがAであり、回転速度がω1t(=φ)である(周波数がω1t/2π)。この例では直交検波に用いた周波数は4MHzであり、A/D変換器3で得られた正弦波信号の周波数が4MHzであれば回転ベクトルの回転速度はゼロであるが、4MHzからずれていれば、そのずれた周波数差に応じた周波数(回転速度)で回転することになる。
【0049】
キャリアリムーブ4の後段には、逆回転ベクトル乗算部5が設けられている。この逆回転ベクトル乗算部5は、キャリアリムーブ4にて得られた回転ベクトルVに対して、パラメータ出力部6にて作成された逆回転ベクトルV’を乗算するものである。この乗算は、直感的な表現を使えば回転ベクトルVの速度を逆回転ベクトルV’の速度分だけ減速することになり、言い換えれば、回転ベクトルVの周波数と逆回転ベクトルV’の周波数との差で回転する回転ベクトルを得ることになる。
【0050】
逆回転ベクトル乗算部5における演算について説明すると、キャリアリムーブ4及び逆回転ベクトル乗算部5は、コンピュータの演算により実行されるものであり、その演算のサンプリングにおいてあるタイミングのサンプリング例えばn回目の回転ベクトルVのサンプリング値がI(n)+jQ(n)であったとすると、n回目の逆回転ベクトルV’のサンプリング値はI’(n)+jQ’(n)である。両ベクトルを乗算したベクトルI+jQは、{I(n)+jQ(n)}×{I’(n)+jQ’(n)}となる。この式を整理すると、(4)式となる。
I+jQ={I(n)・I’(n)−Q(n)・Q’(n)}+j{I(n)・Q’(n)+I’(n)・Q(n)} ……(4)
図8は、逆回転ベクトル乗算部5の構成を示しており、(4)式の演算を行っている。 逆回転ベクトルV’を発生するとは、実際には複素平面上におけるベクトルが逆回転するように当該ベクトルの実数部分及び虚数部分の値つまり逆回転ベクトルV’の位相をφ’とすると、cosφ’とsinφ’との値を発生させることである。図9は、ベクトルのcosφ’とsinφ’との組がベクトルの回転方向に沿って順番に配列されたI/Qテーブル60を示しており、パラメータ出力部6は、この例では前記I/Qテーブル60を備えていて、指示された電圧制御発振器1の設定周波数に応じて決定されるインクリメント数またはデクリメント数でI/Qテーブル60のアドレスを読み出し、逆回転ベクトル乗算部5に出力している。例えばインクリメント数を2にして1個おきにアドレスを読み出すと、ベクトルの速度が倍速になる。インクリメントして読み出すかデクリメントして読み出すかは、キャリアリムーブ4にて取り出された回転ベクトルVの回転方向により決めることができる。こうして回転ベクトルVに対して逆回転する逆回転ベクトルV’を生成することができる。なお、図9のI/Qテーブル60は、本実施形態の理解を容易にするために模式的に作成されたものであり、実際のテーブルの好ましい作成例を挙げたものではない。
【0051】
図5におけるここまでのブロックについて、具体的な一連の演算に関して述べておく。電圧制御発振器1の出力周波数をfvcoとすると、分周器2にて分周された周波数はfvco/Nとなる。A/D変換部3では、周波数がfsのクロック信号によりサンプリングされるため、A/D変換部3にて得られたディジタル信号により特定される周波数信号の周波数は、fs−(fvco/N)となる。この例ではfsは40MHzであるから、40MHz−(fvco/N)となる。そしてキャリアリムーブ4における検波に用いられる正弦波信号の周波数(ω0t/2π)は4MHzとしているので、キャリアリムーブ4から取り出される回転ベクトルVの周波数は、40MHz−(fvco/N)−4MHzとなる。
【0052】
ここで、電圧制御発振器1の出力周波数fvcoが設定周波数になったときに回転ベクトルVの周波数と前記周波数frとの周波数差がゼロになるように制御される。もし(fvco/N)が36MHzであれば、回転ベクトルVは停止しているので(周波数がゼロであるので)、この場合は、逆回転ベクトルV’の周波数をゼロに設定することで、PLLがロックされ、電圧制御発振器1の出力周波数fvcoが設定周波数になる。しかしこのようなケースは1点しかないので、実際にはキャリアリムーブ4から取り出される回転ベクトルVはある速度で回転している。このため、回転ベクトルVを止めるための逆回転ベクトルV’を発生させることが必要になるのであるが、一連の計算はソフトウエアで行われることから、逆回転ベクトルV’を発生させるためのデータを格納するメモリ容量はできるだけ小さくしたいというのが、設計上の要請である。
【0053】
この観点からすると、電圧制御発振器1の設定周波数をfsetとすると、fset/Nができる限り36MHzに近い方が好ましく、この例では、パラメータ出力部6において、ユーザにより設定された所望の設定周波数fsetに対し、fset/Nが36MHzに最も近くなる整数を演算し、その整数を分周器2の分周比Nとしている。こうすることによってキャリアリムーブ4から取り出された回転ベクトルVを止めるための逆回転ベクトルV`の周波数は、4MHzよりも小さい値になり、逆回転ベクトルV’を発生させるためのデータ量が少なくて済む。
【0054】
ここで周波数の具体例を挙げると、電圧制御発振器1の設定周波数fsetを例えば520.0001MHzとすると、分周比Nは、例えばfset/36MHzに最も近い整数であるとした場合、N=14となる。この場合、電圧制御発振器の出力周波数が設定周波数fsetであるときの分周後の周波数は、fset/14=37.1428642857143MHzである。既述のように分周後の周波数が36MHzのときに、A/D変換部3にて得られるディジタル値により特定される周波数信号の周波数は、40MHz−36MHz=4MHzであり、4MHzの正弦波信号で直交検波を行うキャリアリムーブ4を通して得られる回転ベクトルVの周波数は4MHz−4MHz=0、つまり回転ベクトルVは停止することになる。従ってfset/14=37.1428642857143MHzの周波数信号がA/D変換部3にてディジタル化され、その周波数信号がキャリアリムーブ4に入力されて得られる回転ベクトルVの周波数は、37.1428642857143MHz−36MHz=1.1428642857143MHzとなる。
このような演算は、周波数シンセサイザに対して設定周波数を入力することにより、電圧制御発振器1を動作させる以前にパラメータ出力部6にて行われる。またパラメータ出力部6は、図示しないメモリを参照して、設定周波数に近い周波数が得られる電圧値を選択し、これにより電圧出力部11の出力電圧がその電圧値に向かって上昇することになる。そして分周比Nを14に設定し、また逆回転ベクトルV’の周波数を1.1428642857143MHzに設定すればA/D変換部3にて得られる周波数信号の周波数が1.1428642857143MHzとなるまで、電圧制御発振器1の出力周波数fvcoが上昇し、やがて回転ベクトルVの周波数と逆回転ベクトルV’の周波数とが一致したときにPLLがロックされ、fvcoがfsetに収束する。
図10は、回転ベクトルVが逆回転ベクトルV’により逆回し処理が行われて停止した状態をイメージ的に示す図である。
【0055】
ところで上述の動作は、逆回転ベクトルV’だけに頼って回転ベクトルVを止める方式の場合の動作であり、この場合には、逆回転ベクトル乗算部5で得られた回転ベクトルの周波数に対応する信号をループフィルタ8に入力すればよい。しかしながら、このような構成では逆回転ベクトルV’を発生させるためのデータ量がかなり多くなってしまう。このため図5に示す実施の形態では、逆回転ベクトルV’により回転ベクトルVの周波数をある程度まで減速し、残りの減速を後段の位相の時間差検出部71、加算部72及び位相差の累積加算部73の動作に任せている。言い換えれば、逆回転ベクトル乗算部5では回転ベクトルVの周波数の粗調整を行い、後段部位において回転ベクトルVの微調整を行うことで、回転ベクトルVを停止させている。
【0056】
回転ベクトルVの周波数の粗調整を行う逆回転ベクトルV’の周波数は、例えば152.587890625Hz刻みで設定できるようになっている。その理由は、40MHzにてデータをサンプリングする場合、逆回転ベクトルV’の位相のポイント数を2の18乗に設定すると、40MHz/2の18乗=152.587890625Hzとなるからである。つまりパラメータ出力部6では、最小租調周波数(周波数刻みfa)が152.587890625Hzであり、上記の回転ベクトルVの周波数である1142864.2857143Hz(1.1428642857143MHz)に対して周波数刻みfaを何倍したら最も近くなるかを計算する。
【0057】
1142864.2857143Hz/152.587890625Hzに最も近い整数は7490であり、パラメータ出力部6はこの整数を求めることにより、電圧制御発振部1の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルVの周波数に最も近い周波数n・fa(nは整数)=7490・152.587890625Hz=1142883.30078125Hzを求める。
【0058】
そしてパラメータ出力部6は、次の計算を行う。先ず回転ベクトルVの周波数から、逆回転ベクトルV’により調整される周波数を差し引き、142864.2857143Hz−1142883.30078125Hz=19.0150669664145Hzを求める。
【0059】
更に粗調整用の前記周波数刻みfaよりも小さい微調整のための周波数刻みfbこの例では周波数刻み1Hzの整数倍のうち、電圧制御発振部1の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルVの周波数と前記周波数n・faとの差である19.0150669664145Hzに最も近い周波数m・fb(mは整数)を計算する。この場合、fbは1Hzであるから、mは19となり、19Hz分の調整が逆回転ベクトル乗算部5の後段の部分により行われることになる。
【0060】
図5に戻って、71は位相の時間差検出部、72は第2の加算部、73は位相差の累積加算部、8はループフィルタ、80はD/A(ディジタル/アナログ)変換部である。
回転ベクトルVの回転は逆回転ベクトルV’により減速されているので、回転ベクトルVの周波数(速度)を簡単な近似式で求めることができる。図11に示すように複素平面上において、(n−1)番目のサンプリングにより求めた回転ベクトルV(n−1)とn番目のサンプリングにより求めた回転ベクトルV(n)=V(n−1)+ΔVとのなす角度Δφ、即ち両サンプリング時の回転ベクトルVの位相差Δφは、回転ベクトルVの周波数がサンプリング周波数よりも十分に小さくかつθ=sinθとみなせる程度であれば、ΔVの長さとみなすことができる。
【0061】
ΔVを求める近似式について説明すると、先ず位相差Δφは(5)式で表される。なおimagは虚数部分、conj{V(n)}はV(n)の共役ベクトル、Kは常数である。
【0062】
Δφ=K・imag[ΔV・conj{V(n)}] ……(5)
ここで、I値(回転ベクトルVの実数部分)及びQ値(回転ベクトルVの虚数部分)についてn番目のサンプリングに対応する値を夫々I(n)及びQ(n)とすれば、ΔV及びconj{V(n)}は複素表示すると夫々(6)式及び(7)式で表される。
【0063】
ΔV=ΔI+jΔQ ……(6)
conj{V(n)}=I(n)−jQ(n) ……(7)
ただし、ΔIはI(n)−I(n−1)であり、ΔQはQ(n)−Q(n−1)である。(6)式及び(7)式を(5)式に代入して整理すると、Δφは(8)式で表されることになる。
【0064】
Δφ=ΔQ・I(n)−ΔI・Q(n) ……(8)
前記位相の時間差検出部71は、このように近似式を用いてΔφを求める機能を備えている。このΔφは、逆回転ベクトル乗算部5にて減速された回転ベクトルVの周波数に対応する値であるから、位相の時間差検出部71は、減速された回転ベクトルVの周波数を出力する手段(微速ベクトル検出手段)であるといえる。
【0065】
なお回転ベクトルV(n−1)とV(n)とが求まればこの間の角度Δφを求める手法は種々の数学的手法を使うことができ、その一例として(5)式の近似式を挙げたに過ぎない。その数式としてはV(n)とV(n−1)の各終点を結ぶ線の中点と原点とを結ぶベクトルVOである{V(n)+V(n−1)}/2を用い、(5)式においてV(n)に代えてこのベクトルVOを代入してもよい。このような(5)式が近似できる理由は、VOとΔVとが直交しているとみなすことができ、このためΔVの長さは、VOを実軸と見たてたときのΔVの虚数値に相当すると取り扱えることができるからである。
【0066】
一方パラメータ出力部6は、回転ベクトルVの周波数微調整分である19Hzの値を計算により求めているため、位相の時間差検出部71にて検出された回転ベクトルVの周波数と微調整分の19Hzとが加算部72にて突合されて、回転ベクトルVの周波数と微調整分の19Hzとの差分が取り出され、位相差の累積加算部73に入力される。そして位相差の累積加算部73からの出力値はループフィルタ8に入力される。
【0067】
本周波数シンセサイザは、図4に示したように回転ベクトルVを止める処理を行うが、この処理は図5の例ではいわば逆回しすることによるラフな停止処理と微速になった回転ベクトルVを正確に止める処理とに分けており、後半の処理を位相の時間差検出部71と加算部72とに受け持たせていることになる。そして逆回転ベクトル乗算部5、位相の時間差検出部71及び第2の加算部72は、周波数差取り出し手段に相当する。
【0068】
位相差の累積加算部73は、図12(a)に示すようにあるサンプリング時における入力値をレジスタ73aに保持し、次のサンプリング時にそれまで保持されていた値を出力すると共に加算部73bに戻して入力値と加算し、その加算値をレジスタ73aに入力するように構成されている。
【0069】
またループフィルタ8は、入力値を累積加算部8aにて累積加算する(積分する)と共に、加算部8bにてその累積加算値に入力値を加算するように構成されている。入力値を加算部8bに入力する理由は、ループフィルタ8の出力が安定化するためである。このループフィルタ8の出力電圧は、D/A変換部80にてアナログ電圧とされて電圧出力部11の出力電圧から当該出力電圧を差し引くように第1の加算部12に入力される。
【0070】
この例では、電圧制御発振部1から周波数差取り出し手段及びループフィルタ8を経て電圧制御発振部1に戻るループはPLLを形成している。またA/D変換器3からループフィルタ8に至るまでの各部位の演算処理はソフトウエアにより行っている。
【0071】
次に図5に示す全体の動作について図13及び図14に記載したタイムチャートを参照しながら説明する。なお、信号量の変化パターンについては、概略的に記載してあるが、シミュレーションにより得られた信号量の変化パターンは図13、図14のパターンよりも複雑なパターンになっている。今、上述の具体例で挙げたように、電圧制御発振器1の設定周波数fsetを例えば520.0001MHzとして図示しない入力部から入力したとする。パラメータ出力部6は、電圧制御発振器1の設定周波数と供給電圧との関係を書き込んだテーブルを備えていて、このテーブルにおける520.0001MHzに最も近い設定周波数を選択する。
【0072】
また、既述のようにしてfset/36MHzに最も近い整数である分周比N=14と、設定周波数が得られるときの回転ベクトルVの周波数を租調整量と微調整量とに分けたときの夫々の量と、を計算する。この場合、周波数の租調整量つまり逆回転ベクトルの周波数である1142883.30078125Hzと第2の加算器72に入力する微調整量である逆回し処理後の回転ベクトルの周波数19Hzとを計算する。
【0073】
そして入力部からスタートの指示を入力すると、電圧出力部11から設定周波数に対応する電圧を例えば時間に対して直線的に上昇するように出力する。電圧制御発振器1は電圧が供給されるので、周波数信号を出力しその周波数が上昇していく。初めのうちは電圧制御発振器1の出力周波数が低いので、A/D変換部3にて取り出される周波数{40MHz−(出力周波数/N)}が大きく、このためキャリアリムーブ4にて取り出される回転ベクトルVの周波数が負の大きな値になっており、時刻t1に至るまでは、キャリアリムーブ4以降の各部の出力は負の下限レベルに維持されている。電圧制御発振器1の出力周波数がある値まで上昇すると、キャリアリムーブ4からの回転ベクトルVの取り出し演算が有効になって回転ベクトルVの周波数(速度)が落ち始める(図13(a)参照)。
【0074】
この説明では、40MHz−(出力周波数/N)の値が4MHzよりも小さいとき、つまり出力周波数/Nが36MHzよりも大きいときの回転ベクトルVの回転方向を正の方向と呼ぶとすると、負の方向に回転している回転ベクトルVの周波数が低くなってきたということである。このとき図13(b)に示すように逆回転ベクトル乗算部5の出力である、逆回転分が加算された回転ベクトルVの周波数も低くなってくる。したがって、図13(c)に示すように位相の時間差検出部71の出力も小さくなり(負の速度が小さくなり)、図14(a)に示すように前記出力(位相差)と周波数の微調整量とを加算した第2の加算部72の加算値も小さくなっていく。これらの変化は図13及び図14では、各値が上昇に転じていることである。
【0075】
更に、第2の加算部72の出力つまり位相差の累積加算部73の入力が上昇していることから、位相差の累積加算部73の出力が時刻t1に遅れた時刻t2にて上昇し始める。更に電圧制御発振器1の出力周波数が上昇して、分周後の周波数が36MHzになり、キャリアリムーブ4から取り出される回転ベクトルVの速度が停止するタイミングとなる。ここで、租調整周波数をΔF(n・fa)とし、微調整周波数をΔf(m・fb)とすると、キャリアリムーブ4から取り出される回転ベクトルVの周波数が周波数の調整分ΔF+Δfよりも未だ小さく、その周波数差(第2の加算部72の出力)が負の値であることから、回転ベクトルVの周波数は上昇する。やがて回転ベクトルVの周波数は時刻t3にて前記周波数の調整分ΔF+Δfと同じになるが、それまでのPLLの履歴により更に上昇する。
【0076】
しかし、図14(b)に示すように位相差の累積加算部73の出力が上昇して時刻t4にて「正」に転じると、図14(c)に示すようにループフィルタ8の出力が上昇し始める。ループフィルタ8の出力が負の電圧から正の電圧になったところで電圧出力部11からの出力電圧がループフィルタ8の出力電圧分だけ低くなって電圧制御発振器1に供給されることになるので、図14(d)に示すように電圧制御発振器1の出力周波数が低くなろうとする。このため回転ベクトルVの速度が落ち始め、これにより第2の加算部72の出力が小さくなろうとするので、位相差の累積加算部73の出力が低くなろうとする。こうしてやがて位相の時間差検出部71の出力がΔf(上述の具体例では19Hz)に収束し(図13(c))、第2の加算部72の出力、即ち周波数差取り出し手段で取り出された周波数差がゼロになる。これによりPLLがロックされ、電圧制御発振器1の出力周波数が設定周波数である520.0001MHzにロックされる。なおループフィルタ8はこの例では完全積分機能を持たせているため、正の直流電圧に収束することになる。また、シミュレーションでは、電圧制御発振器1の動作をスタートさせてから、PLLがロックされるに至るまでの時間はおよそ150msecであった。
【0077】
以上の周波数シンセサイザでは、電圧制御発振器1の出力周波数に応じた速度(周波数)で回転する回転ベクトルを取り出し、この回転ベクトルの周波数と出力周波数が設定周波数になったときの回転ベクトルの周波数との差分を取り出して電圧制御発振器1にフィードバックしてPLLを形成しているので、広い周波数帯域に亘って細かな周波数設定を低ノイズで行うことができる。そして、周波数差を取り出すにあたって、粗い周波数設定で逆回転する逆回転ベクトルを用いて回転ベクトルの速度を落とし込み、その微速回転ベクトルの速度を検出してその検出値と予め計算しておいて微調整分とを付き合わせてその差分を取り出すようにしている。したがって、既述のようにデータ量を抑えかつ簡単な演算により回転ベクトルの周波数を検出することができ、従ってメモリ容量が小さくかつ演算の負荷が小さい周波数シンセサイザとすることができる。
【0078】
なお分周比Nの決め方は、電圧制御発振器1の出力周波数の設定値をNで割ったときに、A/D変換部3で用いる基準クロック信号の周波数と回転ベクトル取り出し手段で用いられるω0/2πとの差に最も近い周波数となるように決めることに限定されるものではない。
【0079】
ここで、図5に破線ブロックで示す部分をFPGAで構成する場合、逆回転ベクトル乗算部5に含まれるフィルタは、多くのデジタル回路要素で構成され、また周期性のある同時スイッチング動作が発生する回路である。
【0080】
このノイズ低減手段として、本実施形態では、図5中に示すように、逆回転ベクトル乗算部5に含まれるフィルタとは逆のスイッチ動作を行うノイズ低減部90を設ける。このノイズ低減部90は、実施形態1と同様に、時間差検出部71と同等の多数の倫理回路要素で同等のオン/オフ動作する構成としたダミーローパスフィルタ90aと、入力ディジタル信号の反転出力でダミーローパスフィルタ90aをドライブする論理インバータ90bで構成し、ノイズを低減する。
【0081】
なお、ノイズ低減部90は、実施形態2と同様に、FPGAの外部に、論理インバータとCR積分回路で構成したバッファ回路として同等の作用効果を得ることができる。
【0082】
また、以上までの実施形態では、PLL方式の周波数シンセサイザに適用した場合を示すが、ディジタル処理で位相比較するPLL、さらに波形解析装置などの他のディジタル処理装置に適用して同等の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施形態1を示す周波数シンセサイザの機能ブロック図。
【図2】実施形態1におけるノイズ低減動作の原理的説明図。
【図3】本発明の実施形態2を示す周波数シンセサイザの機能ブロック図。
【図4】本発明の実施形態3に係る周波数シンセサイザの基本構成図。
【図5】本発明に実施形態3に係る周波数シンセサイザの機能ブロック図。
【図6】実施形態3に用いられるキャリアリムーブを示す構成図。
【図7】キャリアリムーブにて得られる回転ベクトルを示す説明図。
【図8】逆回転ベクトル乗算部の構成を示す構成図。
【図9】パラメータ発生部において逆回転ベクトルを発生させるためのデータテーブルを示す説明図。
【図10】キャリアリムーブで得られた回転ベクトルと逆回転ベクトルとを周波数差取り出し手段により互いに乗算する様子を示す説明図。
【図11】前後するタイミングでサンプリングした回転ベクトルの位相差を示す説明図。
【図12】図4における位相差の累積加算部及びループフィルタの構成図。
【図13】実施形態3におけるキャリアリムーブ、周波数差取り出し手段及び位相の時間差検出部の各出力レベルを示すタイムチャート。
【図14】位相差の累積加算部及びループフィルタの各入力レベルと、ループフィルタ及び電圧制御発振器の各出力レベルとを示すタイムチャート。
【図15】従来のPLLの機能ブロック図。
【符号の説明】
【0084】
1、111…電圧制御発振器
11…電圧出力部
2,112…分周器
3,114…A/D変換部
31…基準クロック発生部
4…キャリアリムーブ
5…逆回転ベクトル演算部
6…パラメータ出力部
71…位相の時間差検出部
73…位相差の累積加算部
8…ループフィルタ
115…ディジタル処理デバイス
115A…第1のディジタル処理回路
115B…ローパスフィルタ
115C…第2のディジタル処理回路
115D、117、90…ノイズ低減部
116…D/A変換器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタル信号処理回路によって所期の機能を構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とするディジタル処理装置。
【請求項2】
ディジタル信号処理回路で位相比較演算してPLLを構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とするディジタル処理装置。
【請求項3】
ディジタル信号処理回路で位相比較演算を行うPLLによって周波数シンセサイザを構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とするディジタル処理装置。
【請求項4】
前記周波数シンセサイザは、
供給された電圧に応じた周波数の周波数信号を発振する電圧制御発振部からの周波数信号を電圧制御発振部の設定周波数に応じて1/N(Nは整数)に分周する分周手段の後段に設けられ、
前記電圧制御発振部の出力周波数の1/Nに相当する周波数の正弦波信号を基準クロック信号に基づいてサンプリングしてそのサンプリング値をディジタル信号として出力するアナログ/ディジタル変換部と、
このアナログ/ディジタル変換部からの出力信号に対応する周波数信号に対して、周波数がω0/2πの正弦波信号のディジタル信号による直交検波を行い、当該周波数信号の周波数とω0/2πとの周波数差に相当する周波数で回転する回転ベクトルを複素表示したときの実数部分及び虚数部分を取り出す回転ベクトル取り出し手段と、
前記電圧制御発振部の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルの周波数を計算するパラメータ出力部と、
前記回転ベクトルの周波数と前記パラメータ出力部にて計算された周波数との差分を取り出す周波数差取り出し手段と、
前記周波数差取り出し手段により取り出された周波数差に相当する電圧信号を前記電圧制御発振部に帰還する手段とを備えことを特徴とする請求項3に記載のディジタル処理装置。
【請求項5】
前記ダミー回路は、前記信号処理回路と等価な充放電電流を発生する外付けバッファ回路としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のディジタル処理装置。
【請求項1】
ディジタル信号処理回路によって所期の機能を構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とするディジタル処理装置。
【請求項2】
ディジタル信号処理回路で位相比較演算してPLLを構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とするディジタル処理装置。
【請求項3】
ディジタル信号処理回路で位相比較演算を行うPLLによって周波数シンセサイザを構成するディジタル処理装置において、
前記ディジタル信号処理回路のうち、多数の論理回路要素がほぼ同時にオン/オフ動作する信号処理回路と同等のオン/オフ動作となる構成にしたダミー回路と、
前記信号処理回路のオン/オフドライブ信号と逆のオン/オフドライブ信号で前記ダミー回路をオン/オフ動作させるドライブ回路と、を備えたことを特徴とするディジタル処理装置。
【請求項4】
前記周波数シンセサイザは、
供給された電圧に応じた周波数の周波数信号を発振する電圧制御発振部からの周波数信号を電圧制御発振部の設定周波数に応じて1/N(Nは整数)に分周する分周手段の後段に設けられ、
前記電圧制御発振部の出力周波数の1/Nに相当する周波数の正弦波信号を基準クロック信号に基づいてサンプリングしてそのサンプリング値をディジタル信号として出力するアナログ/ディジタル変換部と、
このアナログ/ディジタル変換部からの出力信号に対応する周波数信号に対して、周波数がω0/2πの正弦波信号のディジタル信号による直交検波を行い、当該周波数信号の周波数とω0/2πとの周波数差に相当する周波数で回転する回転ベクトルを複素表示したときの実数部分及び虚数部分を取り出す回転ベクトル取り出し手段と、
前記電圧制御発振部の出力周波数が設定値になったときの前記回転ベクトルの周波数を計算するパラメータ出力部と、
前記回転ベクトルの周波数と前記パラメータ出力部にて計算された周波数との差分を取り出す周波数差取り出し手段と、
前記周波数差取り出し手段により取り出された周波数差に相当する電圧信号を前記電圧制御発振部に帰還する手段とを備えことを特徴とする請求項3に記載のディジタル処理装置。
【請求項5】
前記ダミー回路は、前記信号処理回路と等価な充放電電流を発生する外付けバッファ回路としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のディジタル処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−295556(P2007−295556A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96914(P2007−96914)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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