説明

ディスプレイ基板用部材

【課題】軽量で、フレキシブル対応が可能で、ガスバリア性が高く、製造プロセスがシンプルなディスプレイに適した基板用部材を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される材料を含み、厚さが0.005μm以上であるガスバリア層が樹脂基体上に形成されたディスプレイ用基板部材。
(ZnS)(SiO1−x (I)
0.6≦x≦0.9

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーなどの薄型ディプレイ用基板用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ、パソコン、携帯電話、携帯用オーディオビジュアル機器、PDA(Personal Digital Assistant)、電子ペーパーなどの用途において、薄型軽量のディスプレイが非常に多く用いられるようになっており、今後も一層の需要拡大が予想されている。さらには、フレキシブル、ベンダブルという付加価値をアップさせた薄型ディスプレイの市場形成も期待されている。
【0003】
フレキシブルディスプレイを実現するためには、基板にはフレキシブルであること以外にも、表示方式、用途により求められる耐久性に依存するが、表示材料の劣化抑制のための水蒸気や酸素などに対するガスバリア性が求められる。またこれ以外にも製造プロセスに対する耐性としての耐熱性や耐薬品性などが基板材料に求められる。
【0004】
上記のような要求に対するものとして、ポリカーボネートフィルムやポリエステルフィルムなどの透明プラスチックフィルム上に酸化ケイ素、酸化アルミニウム、またはSiからなるガスバリア層を形成した材料や(特許文献1、2参照)、樹脂フィルム上にITO層とポリマー層を交互に積層する技術(特許文献3参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2000−338901号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表2007−528308号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2006−317958号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の材料ではフレキシブル性を容易に得ることができるが、水蒸気透過率10−2g/m/日以下という高いレベルのバリア性を達成するのが困難であった。また、樹脂基材との接着力が十分でないことや、膜の柔軟性が低いことからフレキシブル樹脂基材と共に屈曲を繰り返すと剥離や割れの発生によりガスバリア性能が大きく劣化するという問題があった。一方、特許文献3に記載の技術では、高いガスバリア性を実現することは可能であるが、多層を積層するために工程が複雑になるという問題点があった。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決し、軽量で、フレキシブル対応が可能で、ガスバリア性が高く、製造プロセスがシンプルなディスプレイに適した基板用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、下記式(I)で表される材料を含み、厚さが0.005μm以上であるガスバリア層が樹脂基体上に形成されたディスプレイ用基板部材である。
【0008】
(ZnS)(SiO1−x (I)
0.6≦x≦0.9
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡単な製造プロセスによって、高いガスバリア性を有し、薄い、軽い、ベンダブル、フレキシブルなどの特徴を有するディスプレイを製造するに適したディスプレイ基板用部材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のディスプレイ基板用部材は、下記式(I)で表される材料を含む厚さ0.005μm以上1μm以下のガスバリア層が樹脂基体上に形成されたものである。
【0011】
(ZnS)(SiO1−x (I)
0.6≦x≦0.9
本発明のディスプレイ基板用部材は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマパネルディスプレイ、電子ペーパー、タッチパネルなどの薄型ディスプレイなどに用いられるもので、軽量、フレキシブル、高いガスバリア性、透明性を有するディスプレイ基板を実現することができる。
【0012】
本発明に用いられるガスバリア層の組成は、(ZnS)(SiO1−x、0.6≦x≦0.9で表される材料を含むものである。ガスバリア層は、非晶質もしくは極めて結晶性が低いものであることが重要である。ZnS膜は基板温度を室温に保持したままでも気相法成膜で容易に微結晶が生成する。微結晶が生成するとその粒界でガスバリア性が低下したり、結晶化による応力発生により膜の強度が低下するなどの問題が起き易い。本発明では、ZnSにSiOを混合することで、ZnSの結晶化を抑制することができ、上述のような結晶化にともなう問題点を回避することができる。
【0013】
本発明において、ZnSとSiOの混合膜中のZnSのモル分率(=x)は0.6以上0.9以下である。xが0.9より大きいと相対的にSiOの量が少なく結晶化抑制が十分でなく、ガスバリア性の低下や結晶化による応力発生に基づく膜の強度の低下や樹脂基体からの剥離が起き易くなる。この場合の膜の剥離は、長期使用や屈曲による外部からの応力印加でより起きやすくなる。xが0.6より小さいと相対的にSiOの量が多くなりすぎ、膜の柔軟性や樹脂基体との接着力が低下し、長期使用により樹脂基体との剥離や膜の割れが起きやすくなる。さらには、ターゲットのエッチングレートが大幅に低下するため、膜の堆積速度が低下し、生産性が低下する。xの値が0.85以下であると膜の結晶性がより抑制され長期使用耐性が得られるため好ましく、xの値が0.75以上であると膜の柔軟性や樹脂基体との接着性が増し好ましい。Zn、S、Siの組成分析はICP発光分光分析により行い、この値を元にさらにラザフォード後方散乱法を用いて、Zn、S、Si、Oの組成比分析を行うことができる。
【0014】
本発明に用いられるガスバリア層の厚さは0.005μm以上である。ガスバリア層を連続膜とするためには少なくとも0.005μmの厚さが必要だからである。ガスバリア層の厚さが0.005μm未満の場合、樹脂基体上で連続膜と成り難く、良好なガスバリア性を発現できない。ガスバリア層の厚さはより好ましくは0.03μm以上であり、この場合にガスバリア性を大きくしやすい。
【0015】
一方、ガスバリア層の厚さの上限は特に制限はないが、フレキシブル性を確保する観点、及び生産効率の観点からは5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。さらにガスバリア層の厚さが0.5μm以下の場合、膜内の残留応力が小さいため柔らかい基体上に成膜した場合にも、基体に反りなどの変形を生じさせにくく好ましい。
【0016】
なお、ガスバリア層の厚さは透過型電子顕微鏡による断面観察により測定することができる。
【0017】
本発明に用いられるガスバリア層であるZnSとSiOの混合膜は、気相法により形成することができる。気相法としては、スパッタリング法、CVD法、電子ビーム蒸着法、レーザー蒸着法などを用いることができる。これらの中でもスパタリング法や紫外線パルスレーザーを用いたPLD(Pulsed Laser Deposition)法がターゲット材料と基体上に堆積した膜の組成ずれが小さく、組成制御が容易であるため好ましい。さらにスパッタリング法は、比較的設備がシンプルで高速成膜が容易であることから、より好ましく用いることができる。スパッタリング法の中でも、装置がシンプルで安価で高速成膜が容易であることから平行平板型のマグネトロンスパッタリングを好ましく用いることができる。膜中の残留応力をより低下させたい場合は、ECRスパッタリング法、イオンビームスパッタリッグ法や対向ターゲットスパッタリング法などを用いることが効果的である。また、ECRスパッタリング法、イオンビームスパッタリッグ法や対向ターゲットスパッタリング法は膜の密度を高くガスバリア性が高い膜を得やすい点からも好ましい。
【0018】
ZnSとSiOの混合膜中の組成である(ZnS)(SiO1−xのxの値の調整は、スパッタリング法やPLD方ではターゲット組成と膜間の組成のずれが殆ど無いため、ターゲットの組成を目的とする膜組成とすることで実現できる。ターゲットの組成は、ZnSとSiOそれぞれの粉末を目的とする組成の配合比で混合することで調整でき、この混合粉を押し固めたり、焼成したりすることで得られる。それ以外でもZnSターゲット上に適当な量のSiOのチップや粉を載せてスパッタリング成膜することや、SiOターゲット上に適当な量のZnSのチップや粉を載せてスパッタリング成膜することで、目的とする膜組成を得ることができる。
【0019】
ZnSとSiOの混合膜作製のためのスパッタリングターゲットには、ZnS粉末とSiO粉末を焼結させたものを好ましく用いることができる。ZnS粉末とSiO粉末を焼結させて作製した通常のスパッタリングターゲットは絶縁体であるため、マグネトロンスパッタリングで成膜を行う場合、直流マグネトロンスパッタリング法を用いることができず、絶縁体ターゲットに対応できる交流マグネトロンスパッタリング法などを用いる必要がある。一方で、直流マグネトロンスパッタリング法は、交流マグネトロンスパッタリングに比べ、装置がシンプルで、成膜速度が大きいという特徴がある。このため、導電物質を混合させることでターゲットを導電化し、直流スパッタリング法への適応を図ることもできる。導電物質はそれ自体での結晶性が低いものが好ましく、炭素やITO、酸化亜鉛、酸化スズなどを用いることができる。これらの導電性物質はZnSとSiOの混合膜中に取り込まれガスバリア膜として機能させることができる。
【0020】
マグネトロンスパッタリング法により成膜を行う場合、成膜時の装置内圧力は、10Pa以下であることが好ましい。成膜時の圧力が10Paより大きいと、成膜された膜の密度が低くなりやすく、ガスバリア性が低くなりやすい。
【0021】
本発明に用いられる樹脂基体は特に限定されず、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ポリ塩化ビニリデンなどをもちいることができる。
【0022】
本発明に用いられる樹脂基体の厚さは特に限定されない。フレキシブル性を高めるためには厚さ500μm以下が好ましく、強度を確保するためには1μm以上であることが好ましく、取り扱いの容易性から25μm以上であることがより好ましい。
【0023】
ディスプレイ用基板としては、液晶ディスプレイや電子ペーパー用途においては10−2g/m/day程度以下、有機ELディスプレイ用途においては、10−6g/m/day程度以下が求められており、本発明のディスプレイ基板用部材はこれらの用途へ適用が可能である。本発明のディスプレイ基板用部材は透明であるため、本部材をディスプレイ前面の表示側に用いることもできるし、透明を要求しない背面側に用いることもできる。また、本部材の上に、ITOなどの透明電極をスパッタリング成膜したり、カラーフィルターを形成したりし、ディスプレイ機能を形成して行っても良いし、ディスプレイ機能を形成した部材の封止に用いても良い。また、本部材はフレキシブル性を有するため、ロール・トゥ・ロールの製造プロセスに適応させても良い。
【実施例】
【0024】
(膜厚評価)
ガスバリア性評価サンプルと同時に同条件で作製したサンプルの膜断面を透過型電子顕微鏡で観察して求めた。膜厚0.01μm以下で、連続でない場合および膜厚むらがある場合は、0.1μmの長さの断面における平均値とした。
【0025】
(組成分析)
Zn、S、Siの組成分析はICP発光分光分析(セイコー電子工業(株)製、SPS4000)により行い、この値を元にさらにラザフォード後方散乱法(日新ハイボルテージ(株)製、AN−2500)を用いて、Zn、S、Si、Oの組成比分析を行った。
【0026】
(ガスバリア性評価)
ガスバリア性を水蒸気透過率で評価した。MOCON/Modern Controls社製の水蒸気透過率測定装置PERMATRAN−W3/33を用いて、温度40℃、湿度90%RH、大気圧の条件下で10回測定し、平均値を水蒸気透過率(g/m/day)とした。本測定の測定下限は、0.01g/m/dayであった。
【0027】
(長期保存性評価)
5cm×5cmの試験片を温度85℃、相対湿度85%環境下に2000時間保存した後に、顕微鏡観察し、ガスバリア層の剥離や割れの発生が認められたものを×、認められなかったものを○とした。
【0028】
(屈曲試験)
曲げ半径5mmで、1000回の曲げ試験を行ったのちに、顕微鏡観察を行い、ガスバリア層の剥離や割れの発生が認められたものを×、認められなかったものを○とした。
【0029】
実施例1〜14、比較例1〜4
毎分30回転で回転させている樹脂基体上に、以下のスパッタリング成膜を行った。まず、真空容器内を1×10−3Paまで排気した後、2×10−1PaのArガス零囲気とした。次いで、該雰囲気下でSiO を添加したZnSターゲットを用いて樹脂基体上にZnS−SiO膜をスパッタし、各実施例及び比較例に記載の組成及び膜厚のガスバリア層を形成した。樹脂基体には、厚さが100μmで表面の中心線表面粗さRaが1.1nmであるポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。得られた部材のガスバリア層について上記の方法でガスバリア性評価、長期保存性評価および屈曲試験を行い、評価結果を表1に示した。ガスバリア性評価において測定下限以下となったサンプルでは10回の測定において全ての測定結果が測定下限以下であった。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される材料を含み、厚さが0.005μm以上であるガスバリア層が樹脂基体上に形成されたディスプレイ用基板部材。
(ZnS)(SiO1−x (I)
0.6≦x≦0.9
【請求項2】
前記ガスバリア層の厚さが1μm以下である請求項1記載のディスプレイ用基板部材。
【請求項3】
ガスバリア層がスパッタリング法により形成されたものである請求項1または2記載のディスプレイ用基板部材。

【公開番号】特開2010−152204(P2010−152204A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331975(P2008−331975)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】