ディーゼルエンジンのためのコーティングされたパワーシリンダ部品
ディーゼルエンジンピストン組品は、その中に形成された燃焼ボウルを伴ったトップ壁を有するとともに、燃焼ボウルエッジ、上側壁を伴ったトップリング溝を含む複数のリング溝ならびにトップリング溝とトップ壁との間に配置されたそのトップランド部を伴って形成された外側リングベルト、互いに位置合わせされたピンボアを伴った1対のピンボス、およびスカートを有するピストン本体と、少なくともトップ壁、燃焼ボウルエッジ、トップランド部、およびトップリング溝の上側壁に塗布されたダイヤモンド拡散複合コーティングとを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本願は、参照によって、2005年5月23日付で提出された文献である米国仮出願60/683,575に対して優先権を要求し、かつ、それを組み込んでいる。
【0002】
1.技術分野
本発明は、一般的には、ディーゼルエンジンに関し、より特定的には、ピストンを含むパワーシリンダのさまざまなパワーシリンダ部品を保護するために用いられるコーティングに関するものである。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術
特に、EGR(排出ガス再循環)がエンジン内において用いられる場合に、燃焼副生成物の有害な影響からインシリンダディーゼルエンジン部品を保護するために多くの方法および手段が存在する。また、ブッシングおよびベアリング等の代わりにジョイント摩擦学的要素としてコーティングを用いることが提案されている。後者の例として、リン酸マンガン、DAC(ダイヤモンド状コーティング)、多くのさまざまなPVD(物理蒸着)派生コーティング、無電解めっき、および電解めっきの層がある。
【0004】
高圧ディーゼルエンジン注入システム(共通の、レール、電子ユニットインジェクタ、および油圧電子ユニットインジェクタ)の広範な普及に伴って、それぞれの燃焼する燃料プルームからのトーチ状効果によるピストンボウルリムの酸化および腐食が一般的になっている。また、NOX形成を予防するために必要な遅い燃料インジェクションタイミングに起因して、ライナー燃料過剰噴霧の例が詳細に報道されている。一方、早期のまたは案内用のインジェクションは、圧縮ストロークの大半の間に燃焼し尽されないままの液体燃料をピストンのトップ上に堆積させる。1)ディーゼルエンジンピストンのトップランド上のカーボン堆積物のビルトアップ、2)ライナー上の上死点センター/トップリング反転ポイントでのオイルフィルムの劣化、および、3)インジェクタからのプルームが特にピストンのトップボウルエッジ上で燃える場合におけるピストンの腐食(ピッティング)を含めて、本質的に高圧ディーゼルインジェクションシステムに内在する条件に対するいくつかの副次的な影響がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トップランドカーボンのビルトアップは、歴史的には、ボア研磨および後続の潤滑油制御損失の根本的な原因として選定されている。その上、排気は悪影響を受ける。
【0006】
燃料を伴ったライナー過剰噴霧は、オイルフィルムを希釈させたり汚染したりして、第1リング接触荷重を処理するための締付フィルムの性能に大きく影響を与える。また、燃料過剰噴霧は、潤滑油TBN予備品を消耗させたりオイルフィルムの中に煤を混入させたりする。究極的な影響は、それに直接接触する部品を消耗させる腐食/摩耗媒体の形成である。TDCからの最初の20〜40mmのピストン移動のときのライナーの化学エッチング(腐食)は、局所的な摩耗を促進させるだけでなく、より大きなリング周辺(OD)面摩耗をもたらす。
【0007】
局所的な制御不能な(爆発的な)堆積燃料の燃焼は、ピストン材料に極高温および機械的なストレスを生じさせる。最終的には、ピッティングが生じ、凹部燃焼ボウルオーバー
ハングリップを構造的に弱めるであろう、そして、破壊が生じ得る。また、ピストンODに対して外側で、クレータが金属基板の中に掘られ得る。排気およびエンジン全体の特性が悪影響を受ける。これらの要因は、高圧高温がかけられたディーゼルエンジンにおいて第1リング溝の摩耗をさらに悪化させるような方法で組合せられ得る。
【0008】
そのため、前述したものは、多かれ少なかれ、EGRを有する排気エンジンによって生み出されたインシリンダ環境から派生した典型的な問題である。また、高い圧力比が生じ、近代のディーゼルエンジンの高いピーク燃焼圧力がピストンを打ち、ライナーの振動動作を励起させ、それにより、それ自身が大きな問題となり得るライナーキャビテーションを引き起こす。スカートコーティング(ポリマー系またはグラファイト含浸)は、キャビテーションの低減を助けることを期待されるが、製造中に取り扱い難いものであるということに加えて、それら自身の付加的な問題をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、打抜き加工産業において典型的に用いられ、そして、EGRを伴った高圧ディーゼルエンジンに関連して上述された問題を引起さないガソリンエンジンピストンのスカートを被覆するために自動レーシング分野において度々用いられる電気めっきコーティングが、上述されたようなディーゼルエンジン環境が鋼製ピストンの上で有する有害な影響を克服するかまたは大きく最小化することにおいてとても効果的であるということを発見した。「DIA−CLUST」は、合衆国の電気めっき作業店によって用いられる生産品の商標である。このプロセスは、複雑な打抜きダイの寿命を増加させるために発展した。それは、クロミウムと産業ダイヤモンドとの混合層を、現場で電気めっきすることからなっている。ダイヤモンドクラスタは、究極的にサイズが小さい(40nmより小さい)。電気めっきされた層は、とても滑らかな表面を示し、とても低い摩擦係数を有する(約0.08)。ディーゼルエンジン用途のコーティングは約2〜10μmのオーダである。
【0010】
その層におけるクロミウムは、クロミウム/ダイヤモンド複合材コーティングによって被覆されたパワーシリンダ部品に腐食抵抗および酸化抵抗を与えており、溝摩耗/ピンボアの摩擦学的挙動の低減およびトップランドカーボンビルトアップの回避に信頼性がある。また、Crおよびダイヤモンドクラスタの組合せ効果が、ピストンのスカート部のスカーフィングおよびライナーのキャビテーションに対する抵抗を与えており、そのことは、ピストンスカート部に塗布された場合には、ライナー内のピストンの局部溶接または過熱停止のおそれなしに、ピストンがとても小さいランニングクリアランスで運動することを可能にする。ライナーキャビテーションを緩和することは、コーティングの潤滑特性によって与えられた組品のクリアランスを低減することに等しい。
【0011】
本発明の一の局面に従ったディーゼルエンジンピストン組品は、その中に形成された燃焼ボウルを伴ったトップ壁を有し、かつ、燃焼ボウルエッジと、上側壁を伴ったトップリング溝を含む複数のリング溝およびトップリング溝とトップ壁との間に配置されたリングベルトのトップランド部を伴って形成された外側リングベルトと、互いに位置決めされたピンボアを伴った1対のピンボスと、スカートとを有しているピストン本体を含んでいる。ダイヤモンド拡散クロミウム複合体コーティングは、少なくとも、トップ壁、燃焼ボウルエッジ、トプランド部、およびトップリング溝の上側壁に塗布されている。
【0012】
本発明のさらなる局面に従えば、パワーシリンダ組品は、トップ表面、溝壁表面を伴った少なくとも一のリング溝およびピンボア表面を伴った少なくとも一のピンボアを有するピストンと、外側径表面、内側径表面、ならびにトップおよびボトム表面を伴った少なくとも一のピストンリングと、小さい方のボア開口を伴った一方端と大きい方のボア開口を伴った対向端とを有するコネクティングロッドと、外側表面を有するリストピンと、内側シリンダ壁を有するシリンダライナーとを備えている。また、パワーシリンダ組品は、少
なくともピストンのトップ表面の一部と、少なくとも一のリング溝およびピストンリングの上表面のいずれか1つと、ピストンリングの外径表面およびシリンダライナーの内側シリンダ壁のいずれか1つと、リストピンの外側表面またはピストンのピンボアおよびコネクティングロッドの小さい方のボア開口部の表面のうちのいずれか一方に塗布されたダイヤモンド拡散クロミウム複合物コーティングを備えている。
【0013】
本発明のこれらおよび他の特徴ならびに利点は、前述の詳細な説明および次の添付図面との関連において考慮されれば、より容易に理解されるようになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
詳細な説明
図1および図8〜図10は、ピストン20、1以上のピストンリング23、コネクティングロッド24、およびリストピン26を含むピストン組品22のうちのピストン20を示している。ピストン組品22は、シリンダライナー28、クランクシャフト30、およびエンジンブロック32を付加的に含むパワーシリンダ組品27の一部である。ディーゼルエンジンの当業者は、これらの部品が互いにどのように接続されておりどのように動作するかを理解しているため、発明の内容において部品の機能の理解に十分であるという観点から、詳細説明は必要とされない。
【0015】
ピストン20は、ピストン本体34を含んでいる。鉄およびアルミニウムのような他の材料が意図されるのであるけれども、多くのディーゼル用途のために、鋼製のピストンが好ましい。
【0016】
ピストン本体34は、燃焼ボウル38が設けられたトップ表面36を有している。ボウル38は、図示されているように、リップ40の下にボウル38のアンダーカット領域42を規定するように径方向内側に突出し得るボウルリムまたはリップ40を含むように形作られていてもよい。ボウルは、図示されるように、リップ40の上方にカットバック領域44を備えるように設計されていてもよい。
【0017】
ピストン本体34は、さらに、トップ表面36から下方に突出しておりかつ複数のリング溝48、50、および52を伴って形成された外側リングベルト壁46を含んでいてもよい。最上またはトップリング溝は、参照符号48によって示されている。トップランド領域54は、トップリング溝48とピストンのトップ表面36との間に規定されている。
【0018】
図9および図10において最もよく分かるように、トップリング溝48は、上側またはトップ壁56、下側またはボトム壁58、および背面壁60を含んでいる。リング23のうちの1つは公知の態様でトップリング溝48の中に受入れられる。リングの他のものは、同様に、公知の方法で、溝50および52の中に同様に受入れられる。リング溝52のうちの最も下側のものは、説明の簡便のため、同じ参照符号を与えられている1セットのオイルリングを受入れてもよいが、溝48および50の中に受入れられる圧縮リングの構造とは異なった構造からなっているように理解される。
【0019】
ピストン本体34は、少なくとも1の、かつ、図示されるように、互いに位置合わせされた1対のピンボア64を伴って形成された少なくとも1対のピンボス62を伴って形成される。コネクティングロッド24は、一方端に小さい方のボア66を、対向端に大きい方のボア68を伴って形成される。コネクティングロッド24の小さい方の端は、ピンボスの内側に面する表面(図8には表面70の一方だけが示される)同士の間の側方スペースに挿入され、リストピン26は、ジョイント態様でコネクティングロッド24にピストン20を結合するように、互いに位置合わせされたピンボア64および小さなボア66を通って延びている。リストピン26は、ピストン20のピンボア64およびコネクティン
グロッド24の小さいボア66に接触する外側表面70を有している。
【0020】
ピストン本体34は、さらに、ピンボス62のいずれの側面上にも、外側シリンダ係合表面76を有するピストンスカート74を含んでいる。スカート74は、図示されるように、ピンボス62を伴って1つのピースとして形成されていてもよく、そのため、同じ材料からなっていてもよい。ピストン組品は、シリンダの内側壁78に係合しているピストンリングを伴ってピストンシリンダ28の中に据付けられる。また、スカート74の外側表面は、壁78に極めて接近しており、シリンダ28内のピストン20の往復運動の間に、ピストンを1直線上に留めるために、壁に係合するように動作し得る。
【0021】
コネクティングロッド24の大きい方の端は、大きい方のボア68内に受入れられた連結クランクアーム表面またはジャーナル80に結合されており、かつ、クランクアーム80と大きい方のボア68とのジョイント接続を介してコネクティングロッド24をクランクシャフト30に結合するように機能してもよい。その後、クランクシャフト30は、エンジンブロック32の連結クランクアーム支持ブロックまたは表面84の中のクランクシャフトの支持されたジャーナル82を介して回転のために支持される。典型的には、エンジンのメインベアリング(図6)は、表面84を一直線状にし、クランクシャフト30をジャーナル軸受けするように機能する。
【0022】
ディーゼルエンジンの動作の間に、トップ表面36および燃焼ボウル38(特にリップ40)は、直接的に燃焼の熱および圧力に曝される。燃料インジェクタ(図11)から放出された燃料プルーム86は、燃料を、これらの表面上へ向け、熱、圧力、および腐食性のあるEGR環境と組合された一定の噴霧は、典型的なピストンの浸食の効果を有している。時間が経過する間に、露出した領域は、最終的にピストン20の交換の必要性をもたらすように、穴があいたり摩耗したりし得る。発明者は、悪影響を与えられるであろう領域にわたってダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティング90の被覆を施すことによって、ピストンが、過酷なEGRテスト環境に長い間曝されても顕著に耐えることができ、かつ、インジェクタ88から発せられる燃料のプルーム86に直接曝された領域も含めて、たとえ重大な磨耗または損傷の何らかの可視的な前兆があったとしても、ほとんど何も被らないということを発見した。より驚いたことは、時間の経過の間にコーティングを実際に強化しかつより有効にする効果を有するように思われる材料の目に見える変換が、過酷なEGRディーゼル環境に曝された場合に起こる、ということの発見であった。変換メカニズムおよび結果として生じる変化の詳細は、この時点では発明者によってよくは理解されていないが、それは生じるように思われる。そのため、トップ表面36の少なくとも一部は、コーティング90で被覆されている。ピストンは、凹部からなるボウル38の全てまたは一部、および、特に、リップを含めて、その全トップ表面36がコーティングされていてもよい。
【0023】
ダイクラストは所有権を有する者が存在するように思われる。
ダイヤモンド複合技術のウェブサイトに参照がなされ、「米国のダイヤモンド強化複合コーティング」と題される英国の研磨材料会社の一部門の著書の開示が参照によってここに組込まれる。
【0024】
また、トップランド54は、1層からなる材料90で覆われている。トップランドは、典型的には、背景技術の項目において説明されたようにECRディーゼル環境の中でカーボンビルトアップに曝される。驚くべきことに、カーボンビルトアップになりがちな領域に対してそのコーティングを適用すれば、ピストンにはビルトアップがほとんど生じないかまたは全く生じない、ということが発見された。
【0025】
スカート74もまた、コーティング90から利益を受ける。コーティングは、スカート
74による内側シリンダ壁78の擦れを最小限にするとともに、シリンダに対するスカートの許容差をより精密にすることを可能にする。その代わりに、内側壁78にコーティング90が設けられてもよい。
【0026】
同様に、ピンボス62の内側表面70は、コネクティングロッド24の小さい方のボア端66のコーティングされていない側面との連結において、コーティングされていてもよい。また、コネクティングロッド側面がコーティングされ、ピストンの表面70がコーティングされていない、反対の組合せが用いられてもよい。
【0027】
また、多くのピストンによくあるトップランド54上でのカーボンビルトアップは、リング溝、特にトップリング溝48中に材料の堆積をもたらし得る。これは、リングの詰まりおよび/または破壊をもたらし得る。さらに、驚くべきことに、トップ溝54の少なくともトップ壁56をコーティングすることによって、トップ溝48の中におけるビルトアップの状態を低減またはすべてを排除し得るという効果を有するということが発見された。その代わりに、ピストンリング23のトップ表面がコーティング90で被覆されていてもよい。溝48がコーティングされているのであれば、表面56、58および60の全てがコーティングされていてもよい。このような場合には、リングの表面(トップ、ボトム、インナー)は、コーティングされていないであろう。リング23の径方向外側表面92は、リングまたは溝壁がコーティングされているか否かにかかわらず、コーティングされていてもよい。いずれの場合においても、コートされたリング23が走っている内側シリンダ壁の領域はコーティング90で被覆されていないであろう。コーティング90が他の部品(たとえばリングおよび溝壁)に動作接触している1つの部品に塗布されている場合には、表面同士のうちの1つのみがコートされていることが好ましい。さもなければ、コートされた表面は、他方の上で摩耗するであろう。そのような場合に、コートされていない表面は、コートされている表面の硬さよりも小さい硬さを有するように設計されることが望ましい。コートされていない表面は、コートされた表面の硬度よりも約20Rcだけ小さい硬さを有していてもよく、これにより、うまく機能することができる。また、ピンボス62、コネクティングロッド24、およびリストピン26からなるピストンジョイントは、コーティング材料90が設けられていてもよい。この発明は、ピンボア64およびスモールボア66がコーティングで被覆され得るが、リストピン26はコーティングされていないことを意図している。さらに、この発明は、リストピン26の外側表面72がコーティング90で被覆されており、ボア64、66が被覆されていない反対の配置を意図している。コーティングされる表面とコーティングされていない表面との同一の組合せが、ピストンジョイントに適用される。インサートプランベアリング94が望まれるのであれば、それらは、被覆されていないリストピン26との組合せにおいて、ピンボアの中に取り付けられる鋼製裏当て96がコーティング材料でコーティングされており、小さい方のボア66の中に同様のブッシングが取り付けられている、図6の中に示されているようなタイプのものからなっていてもよい。
【0028】
コネクティングロッド24の大きい方の端のジョイントは、ピストンジィントのそれと同様に設計され得る。大きい方のボア68またはクランクサポート84のいずれかがコーティングで被覆され、クランクアーム80がコーティングされていなくてもよいか、または、その逆であってもよい。また、図6のベアリング94は、ピストンジョイントに関して上述されたような一般的な態様で用いられてもよい。
【0029】
そのため、驚くべきかつ予期せぬ結果が、ディーゼルエンジンパワーシリンダ部品の中でのコーティング材料90の使用に関連して実現された。約1000時間、1.11/220バールのピーク圧力という負荷係数の下でEGRを伴って運転されたディーゼルエンジンにおいては、驚くべきことに、トップランド54上にはカーボンビルトアップは本質的には全く検出されず、ボウルリムの上で作用する燃料プラムの近傍でのボウルリムの重
大な酸化および腐食も本質的には全く認められず、EGR誘導腐食は本質的には発見されず、シリンダー壁内での第1リング溝の摩耗は本質的には発見されず、ピンボアおよびリストピンの摩耗は本質的にはなく、かつスカートの擦れまたはライナーキャビテーションは本質的には認められなかった。ピストン追随テストのすべての状態が本質的には変化していなかった。さらに驚くべきことに、特に燃料プルームの近傍において燃焼の熱に曝されたピストンのトップでの熱誘導変換をコーティングが受けることが発見された。コーティングは、磨耗するというよりはむしろ、初期コーティングのマイクロ構造のそれと比べてより耐性のあるような層へと変換されているように思われ、そのことは、このような厳しい条件の下で、コーティングの強さおよび耐力に部分的に貢献するように思われる。
【0030】
図7は、コーティング90がめっき槽の中で電着によって塗布され得る適合したアノード98の配置を示している。ピストンは、適合し得るアノード98に間隔をおいた関係で被覆されるべき外側表面に関する長手軸周りの回転のために支持されている。ピストンは、好ましくは、コーティングが望まれる場合には、領域内で回転対称になっており、かつ、リング溝の領域および燃焼ボウルの領域においてコーティング90の厚さを制御するために用いられ得る。
【0031】
明らかに、本発明の多くの変更および変形が上記の教示に照らして可能である。そのため、具体的に述べたものというよりはむしろ添付されたクレームの範囲内において発明が実施され得ることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ピストンの概要斜視図である。
【図2】ピストンリングの概要斜視図である。
【図3】リストピンの概要斜視図である。
【図4】シリンダライナの概要斜視図である。
【図5】コネクティングロッドの概要斜視図である。
【図6】プレーンエンジンベアリングの概要斜視図である。
【図7】めっきの間に見られるピストンの一部の略図である。
【図8】図1のピストンのピンボス部を示している破断斜視図である。
【図9】ピストンの斜視立面図である。
【図10】ピストンの分割された断立面図である。
【図11】パワーシリンダ組品の概要イラストレーションである。
【技術分野】
【0001】
発明の背景
本願は、参照によって、2005年5月23日付で提出された文献である米国仮出願60/683,575に対して優先権を要求し、かつ、それを組み込んでいる。
【0002】
1.技術分野
本発明は、一般的には、ディーゼルエンジンに関し、より特定的には、ピストンを含むパワーシリンダのさまざまなパワーシリンダ部品を保護するために用いられるコーティングに関するものである。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術
特に、EGR(排出ガス再循環)がエンジン内において用いられる場合に、燃焼副生成物の有害な影響からインシリンダディーゼルエンジン部品を保護するために多くの方法および手段が存在する。また、ブッシングおよびベアリング等の代わりにジョイント摩擦学的要素としてコーティングを用いることが提案されている。後者の例として、リン酸マンガン、DAC(ダイヤモンド状コーティング)、多くのさまざまなPVD(物理蒸着)派生コーティング、無電解めっき、および電解めっきの層がある。
【0004】
高圧ディーゼルエンジン注入システム(共通の、レール、電子ユニットインジェクタ、および油圧電子ユニットインジェクタ)の広範な普及に伴って、それぞれの燃焼する燃料プルームからのトーチ状効果によるピストンボウルリムの酸化および腐食が一般的になっている。また、NOX形成を予防するために必要な遅い燃料インジェクションタイミングに起因して、ライナー燃料過剰噴霧の例が詳細に報道されている。一方、早期のまたは案内用のインジェクションは、圧縮ストロークの大半の間に燃焼し尽されないままの液体燃料をピストンのトップ上に堆積させる。1)ディーゼルエンジンピストンのトップランド上のカーボン堆積物のビルトアップ、2)ライナー上の上死点センター/トップリング反転ポイントでのオイルフィルムの劣化、および、3)インジェクタからのプルームが特にピストンのトップボウルエッジ上で燃える場合におけるピストンの腐食(ピッティング)を含めて、本質的に高圧ディーゼルインジェクションシステムに内在する条件に対するいくつかの副次的な影響がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トップランドカーボンのビルトアップは、歴史的には、ボア研磨および後続の潤滑油制御損失の根本的な原因として選定されている。その上、排気は悪影響を受ける。
【0006】
燃料を伴ったライナー過剰噴霧は、オイルフィルムを希釈させたり汚染したりして、第1リング接触荷重を処理するための締付フィルムの性能に大きく影響を与える。また、燃料過剰噴霧は、潤滑油TBN予備品を消耗させたりオイルフィルムの中に煤を混入させたりする。究極的な影響は、それに直接接触する部品を消耗させる腐食/摩耗媒体の形成である。TDCからの最初の20〜40mmのピストン移動のときのライナーの化学エッチング(腐食)は、局所的な摩耗を促進させるだけでなく、より大きなリング周辺(OD)面摩耗をもたらす。
【0007】
局所的な制御不能な(爆発的な)堆積燃料の燃焼は、ピストン材料に極高温および機械的なストレスを生じさせる。最終的には、ピッティングが生じ、凹部燃焼ボウルオーバー
ハングリップを構造的に弱めるであろう、そして、破壊が生じ得る。また、ピストンODに対して外側で、クレータが金属基板の中に掘られ得る。排気およびエンジン全体の特性が悪影響を受ける。これらの要因は、高圧高温がかけられたディーゼルエンジンにおいて第1リング溝の摩耗をさらに悪化させるような方法で組合せられ得る。
【0008】
そのため、前述したものは、多かれ少なかれ、EGRを有する排気エンジンによって生み出されたインシリンダ環境から派生した典型的な問題である。また、高い圧力比が生じ、近代のディーゼルエンジンの高いピーク燃焼圧力がピストンを打ち、ライナーの振動動作を励起させ、それにより、それ自身が大きな問題となり得るライナーキャビテーションを引き起こす。スカートコーティング(ポリマー系またはグラファイト含浸)は、キャビテーションの低減を助けることを期待されるが、製造中に取り扱い難いものであるということに加えて、それら自身の付加的な問題をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、打抜き加工産業において典型的に用いられ、そして、EGRを伴った高圧ディーゼルエンジンに関連して上述された問題を引起さないガソリンエンジンピストンのスカートを被覆するために自動レーシング分野において度々用いられる電気めっきコーティングが、上述されたようなディーゼルエンジン環境が鋼製ピストンの上で有する有害な影響を克服するかまたは大きく最小化することにおいてとても効果的であるということを発見した。「DIA−CLUST」は、合衆国の電気めっき作業店によって用いられる生産品の商標である。このプロセスは、複雑な打抜きダイの寿命を増加させるために発展した。それは、クロミウムと産業ダイヤモンドとの混合層を、現場で電気めっきすることからなっている。ダイヤモンドクラスタは、究極的にサイズが小さい(40nmより小さい)。電気めっきされた層は、とても滑らかな表面を示し、とても低い摩擦係数を有する(約0.08)。ディーゼルエンジン用途のコーティングは約2〜10μmのオーダである。
【0010】
その層におけるクロミウムは、クロミウム/ダイヤモンド複合材コーティングによって被覆されたパワーシリンダ部品に腐食抵抗および酸化抵抗を与えており、溝摩耗/ピンボアの摩擦学的挙動の低減およびトップランドカーボンビルトアップの回避に信頼性がある。また、Crおよびダイヤモンドクラスタの組合せ効果が、ピストンのスカート部のスカーフィングおよびライナーのキャビテーションに対する抵抗を与えており、そのことは、ピストンスカート部に塗布された場合には、ライナー内のピストンの局部溶接または過熱停止のおそれなしに、ピストンがとても小さいランニングクリアランスで運動することを可能にする。ライナーキャビテーションを緩和することは、コーティングの潤滑特性によって与えられた組品のクリアランスを低減することに等しい。
【0011】
本発明の一の局面に従ったディーゼルエンジンピストン組品は、その中に形成された燃焼ボウルを伴ったトップ壁を有し、かつ、燃焼ボウルエッジと、上側壁を伴ったトップリング溝を含む複数のリング溝およびトップリング溝とトップ壁との間に配置されたリングベルトのトップランド部を伴って形成された外側リングベルトと、互いに位置決めされたピンボアを伴った1対のピンボスと、スカートとを有しているピストン本体を含んでいる。ダイヤモンド拡散クロミウム複合体コーティングは、少なくとも、トップ壁、燃焼ボウルエッジ、トプランド部、およびトップリング溝の上側壁に塗布されている。
【0012】
本発明のさらなる局面に従えば、パワーシリンダ組品は、トップ表面、溝壁表面を伴った少なくとも一のリング溝およびピンボア表面を伴った少なくとも一のピンボアを有するピストンと、外側径表面、内側径表面、ならびにトップおよびボトム表面を伴った少なくとも一のピストンリングと、小さい方のボア開口を伴った一方端と大きい方のボア開口を伴った対向端とを有するコネクティングロッドと、外側表面を有するリストピンと、内側シリンダ壁を有するシリンダライナーとを備えている。また、パワーシリンダ組品は、少
なくともピストンのトップ表面の一部と、少なくとも一のリング溝およびピストンリングの上表面のいずれか1つと、ピストンリングの外径表面およびシリンダライナーの内側シリンダ壁のいずれか1つと、リストピンの外側表面またはピストンのピンボアおよびコネクティングロッドの小さい方のボア開口部の表面のうちのいずれか一方に塗布されたダイヤモンド拡散クロミウム複合物コーティングを備えている。
【0013】
本発明のこれらおよび他の特徴ならびに利点は、前述の詳細な説明および次の添付図面との関連において考慮されれば、より容易に理解されるようになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
詳細な説明
図1および図8〜図10は、ピストン20、1以上のピストンリング23、コネクティングロッド24、およびリストピン26を含むピストン組品22のうちのピストン20を示している。ピストン組品22は、シリンダライナー28、クランクシャフト30、およびエンジンブロック32を付加的に含むパワーシリンダ組品27の一部である。ディーゼルエンジンの当業者は、これらの部品が互いにどのように接続されておりどのように動作するかを理解しているため、発明の内容において部品の機能の理解に十分であるという観点から、詳細説明は必要とされない。
【0015】
ピストン20は、ピストン本体34を含んでいる。鉄およびアルミニウムのような他の材料が意図されるのであるけれども、多くのディーゼル用途のために、鋼製のピストンが好ましい。
【0016】
ピストン本体34は、燃焼ボウル38が設けられたトップ表面36を有している。ボウル38は、図示されているように、リップ40の下にボウル38のアンダーカット領域42を規定するように径方向内側に突出し得るボウルリムまたはリップ40を含むように形作られていてもよい。ボウルは、図示されるように、リップ40の上方にカットバック領域44を備えるように設計されていてもよい。
【0017】
ピストン本体34は、さらに、トップ表面36から下方に突出しておりかつ複数のリング溝48、50、および52を伴って形成された外側リングベルト壁46を含んでいてもよい。最上またはトップリング溝は、参照符号48によって示されている。トップランド領域54は、トップリング溝48とピストンのトップ表面36との間に規定されている。
【0018】
図9および図10において最もよく分かるように、トップリング溝48は、上側またはトップ壁56、下側またはボトム壁58、および背面壁60を含んでいる。リング23のうちの1つは公知の態様でトップリング溝48の中に受入れられる。リングの他のものは、同様に、公知の方法で、溝50および52の中に同様に受入れられる。リング溝52のうちの最も下側のものは、説明の簡便のため、同じ参照符号を与えられている1セットのオイルリングを受入れてもよいが、溝48および50の中に受入れられる圧縮リングの構造とは異なった構造からなっているように理解される。
【0019】
ピストン本体34は、少なくとも1の、かつ、図示されるように、互いに位置合わせされた1対のピンボア64を伴って形成された少なくとも1対のピンボス62を伴って形成される。コネクティングロッド24は、一方端に小さい方のボア66を、対向端に大きい方のボア68を伴って形成される。コネクティングロッド24の小さい方の端は、ピンボスの内側に面する表面(図8には表面70の一方だけが示される)同士の間の側方スペースに挿入され、リストピン26は、ジョイント態様でコネクティングロッド24にピストン20を結合するように、互いに位置合わせされたピンボア64および小さなボア66を通って延びている。リストピン26は、ピストン20のピンボア64およびコネクティン
グロッド24の小さいボア66に接触する外側表面70を有している。
【0020】
ピストン本体34は、さらに、ピンボス62のいずれの側面上にも、外側シリンダ係合表面76を有するピストンスカート74を含んでいる。スカート74は、図示されるように、ピンボス62を伴って1つのピースとして形成されていてもよく、そのため、同じ材料からなっていてもよい。ピストン組品は、シリンダの内側壁78に係合しているピストンリングを伴ってピストンシリンダ28の中に据付けられる。また、スカート74の外側表面は、壁78に極めて接近しており、シリンダ28内のピストン20の往復運動の間に、ピストンを1直線上に留めるために、壁に係合するように動作し得る。
【0021】
コネクティングロッド24の大きい方の端は、大きい方のボア68内に受入れられた連結クランクアーム表面またはジャーナル80に結合されており、かつ、クランクアーム80と大きい方のボア68とのジョイント接続を介してコネクティングロッド24をクランクシャフト30に結合するように機能してもよい。その後、クランクシャフト30は、エンジンブロック32の連結クランクアーム支持ブロックまたは表面84の中のクランクシャフトの支持されたジャーナル82を介して回転のために支持される。典型的には、エンジンのメインベアリング(図6)は、表面84を一直線状にし、クランクシャフト30をジャーナル軸受けするように機能する。
【0022】
ディーゼルエンジンの動作の間に、トップ表面36および燃焼ボウル38(特にリップ40)は、直接的に燃焼の熱および圧力に曝される。燃料インジェクタ(図11)から放出された燃料プルーム86は、燃料を、これらの表面上へ向け、熱、圧力、および腐食性のあるEGR環境と組合された一定の噴霧は、典型的なピストンの浸食の効果を有している。時間が経過する間に、露出した領域は、最終的にピストン20の交換の必要性をもたらすように、穴があいたり摩耗したりし得る。発明者は、悪影響を与えられるであろう領域にわたってダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティング90の被覆を施すことによって、ピストンが、過酷なEGRテスト環境に長い間曝されても顕著に耐えることができ、かつ、インジェクタ88から発せられる燃料のプルーム86に直接曝された領域も含めて、たとえ重大な磨耗または損傷の何らかの可視的な前兆があったとしても、ほとんど何も被らないということを発見した。より驚いたことは、時間の経過の間にコーティングを実際に強化しかつより有効にする効果を有するように思われる材料の目に見える変換が、過酷なEGRディーゼル環境に曝された場合に起こる、ということの発見であった。変換メカニズムおよび結果として生じる変化の詳細は、この時点では発明者によってよくは理解されていないが、それは生じるように思われる。そのため、トップ表面36の少なくとも一部は、コーティング90で被覆されている。ピストンは、凹部からなるボウル38の全てまたは一部、および、特に、リップを含めて、その全トップ表面36がコーティングされていてもよい。
【0023】
ダイクラストは所有権を有する者が存在するように思われる。
ダイヤモンド複合技術のウェブサイトに参照がなされ、「米国のダイヤモンド強化複合コーティング」と題される英国の研磨材料会社の一部門の著書の開示が参照によってここに組込まれる。
【0024】
また、トップランド54は、1層からなる材料90で覆われている。トップランドは、典型的には、背景技術の項目において説明されたようにECRディーゼル環境の中でカーボンビルトアップに曝される。驚くべきことに、カーボンビルトアップになりがちな領域に対してそのコーティングを適用すれば、ピストンにはビルトアップがほとんど生じないかまたは全く生じない、ということが発見された。
【0025】
スカート74もまた、コーティング90から利益を受ける。コーティングは、スカート
74による内側シリンダ壁78の擦れを最小限にするとともに、シリンダに対するスカートの許容差をより精密にすることを可能にする。その代わりに、内側壁78にコーティング90が設けられてもよい。
【0026】
同様に、ピンボス62の内側表面70は、コネクティングロッド24の小さい方のボア端66のコーティングされていない側面との連結において、コーティングされていてもよい。また、コネクティングロッド側面がコーティングされ、ピストンの表面70がコーティングされていない、反対の組合せが用いられてもよい。
【0027】
また、多くのピストンによくあるトップランド54上でのカーボンビルトアップは、リング溝、特にトップリング溝48中に材料の堆積をもたらし得る。これは、リングの詰まりおよび/または破壊をもたらし得る。さらに、驚くべきことに、トップ溝54の少なくともトップ壁56をコーティングすることによって、トップ溝48の中におけるビルトアップの状態を低減またはすべてを排除し得るという効果を有するということが発見された。その代わりに、ピストンリング23のトップ表面がコーティング90で被覆されていてもよい。溝48がコーティングされているのであれば、表面56、58および60の全てがコーティングされていてもよい。このような場合には、リングの表面(トップ、ボトム、インナー)は、コーティングされていないであろう。リング23の径方向外側表面92は、リングまたは溝壁がコーティングされているか否かにかかわらず、コーティングされていてもよい。いずれの場合においても、コートされたリング23が走っている内側シリンダ壁の領域はコーティング90で被覆されていないであろう。コーティング90が他の部品(たとえばリングおよび溝壁)に動作接触している1つの部品に塗布されている場合には、表面同士のうちの1つのみがコートされていることが好ましい。さもなければ、コートされた表面は、他方の上で摩耗するであろう。そのような場合に、コートされていない表面は、コートされている表面の硬さよりも小さい硬さを有するように設計されることが望ましい。コートされていない表面は、コートされた表面の硬度よりも約20Rcだけ小さい硬さを有していてもよく、これにより、うまく機能することができる。また、ピンボス62、コネクティングロッド24、およびリストピン26からなるピストンジョイントは、コーティング材料90が設けられていてもよい。この発明は、ピンボア64およびスモールボア66がコーティングで被覆され得るが、リストピン26はコーティングされていないことを意図している。さらに、この発明は、リストピン26の外側表面72がコーティング90で被覆されており、ボア64、66が被覆されていない反対の配置を意図している。コーティングされる表面とコーティングされていない表面との同一の組合せが、ピストンジョイントに適用される。インサートプランベアリング94が望まれるのであれば、それらは、被覆されていないリストピン26との組合せにおいて、ピンボアの中に取り付けられる鋼製裏当て96がコーティング材料でコーティングされており、小さい方のボア66の中に同様のブッシングが取り付けられている、図6の中に示されているようなタイプのものからなっていてもよい。
【0028】
コネクティングロッド24の大きい方の端のジョイントは、ピストンジィントのそれと同様に設計され得る。大きい方のボア68またはクランクサポート84のいずれかがコーティングで被覆され、クランクアーム80がコーティングされていなくてもよいか、または、その逆であってもよい。また、図6のベアリング94は、ピストンジョイントに関して上述されたような一般的な態様で用いられてもよい。
【0029】
そのため、驚くべきかつ予期せぬ結果が、ディーゼルエンジンパワーシリンダ部品の中でのコーティング材料90の使用に関連して実現された。約1000時間、1.11/220バールのピーク圧力という負荷係数の下でEGRを伴って運転されたディーゼルエンジンにおいては、驚くべきことに、トップランド54上にはカーボンビルトアップは本質的には全く検出されず、ボウルリムの上で作用する燃料プラムの近傍でのボウルリムの重
大な酸化および腐食も本質的には全く認められず、EGR誘導腐食は本質的には発見されず、シリンダー壁内での第1リング溝の摩耗は本質的には発見されず、ピンボアおよびリストピンの摩耗は本質的にはなく、かつスカートの擦れまたはライナーキャビテーションは本質的には認められなかった。ピストン追随テストのすべての状態が本質的には変化していなかった。さらに驚くべきことに、特に燃料プルームの近傍において燃焼の熱に曝されたピストンのトップでの熱誘導変換をコーティングが受けることが発見された。コーティングは、磨耗するというよりはむしろ、初期コーティングのマイクロ構造のそれと比べてより耐性のあるような層へと変換されているように思われ、そのことは、このような厳しい条件の下で、コーティングの強さおよび耐力に部分的に貢献するように思われる。
【0030】
図7は、コーティング90がめっき槽の中で電着によって塗布され得る適合したアノード98の配置を示している。ピストンは、適合し得るアノード98に間隔をおいた関係で被覆されるべき外側表面に関する長手軸周りの回転のために支持されている。ピストンは、好ましくは、コーティングが望まれる場合には、領域内で回転対称になっており、かつ、リング溝の領域および燃焼ボウルの領域においてコーティング90の厚さを制御するために用いられ得る。
【0031】
明らかに、本発明の多くの変更および変形が上記の教示に照らして可能である。そのため、具体的に述べたものというよりはむしろ添付されたクレームの範囲内において発明が実施され得ることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ピストンの概要斜視図である。
【図2】ピストンリングの概要斜視図である。
【図3】リストピンの概要斜視図である。
【図4】シリンダライナの概要斜視図である。
【図5】コネクティングロッドの概要斜視図である。
【図6】プレーンエンジンベアリングの概要斜視図である。
【図7】めっきの間に見られるピストンの一部の略図である。
【図8】図1のピストンのピンボス部を示している破断斜視図である。
【図9】ピストンの斜視立面図である。
【図10】ピストンの分割された断立面図である。
【図11】パワーシリンダ組品の概要イラストレーションである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その中に形成された燃焼ボウルを伴ったトップ壁を有し、かつ、燃焼ボウルエッジと、上側壁を伴ったトップリング溝を含む複数のリング溝および前記トップリング溝と前記トップ壁との間に配置されたトップランド部を伴って形成された外側リングベルトと、互いに位置合わせされたピンボアを伴った1対のピンボスと、スカートとを有する、ピストン本体と、
少なくとも前記トップ壁、前記燃焼ボウルエッジ、前記トップランド部、および前記トップリング溝の前記上側壁に塗布されたダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングとを備えた、ディーゼルエンジンピストン組品。
【請求項2】
前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、さらに、前記ピンボアに塗布されている、請求項1に記載の組品。
【請求項3】
前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、さらに、前記スカートに塗布されている、請求項2に記載の組品。
【請求項4】
前記ピンボスは、互いに空間をおいた関係で互いに向かい合う径方向内側表面を含んでおり、前記ダイヤモンドクロミウム複合コーティングは、さらに、前記ピンボスの前記径方向内側面に塗布されている、請求項3に記載の組品。
【請求項5】
前記トップリング溝の中に配置され、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングを施されていない上側表面を有するピストンリングを含む、請求項1に記載の組品。
【請求項6】
前記ピストンリングは、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングで被覆されている径方向外側表面を含む、請求項5に記載の組品。
【請求項7】
前記ピンボア内に配置され、かつ、前記ピンボアに動作接触していない前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングが施されていない外側表面を有する、リストピンを含む、請求項2に記載の組品。
【請求項8】
一方に小さい方の端部ボアを有するコネクティングロッドを有し、前記小さい方の端部ボア内で前記コネクティングロッドに前記ピストン本体を結合するために前記リストピンが受入れられ、前記小さい方の端部ボアが前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングで被覆されている、請求項7に記載の組品。
【請求項9】
前記リストピンは、前記コネクティングロッドの前記小さい方の端部ボアに動作接触しており前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングが施されていない前記外側表面の一部を含む、請求項8に記載の組品。
【請求項10】
前記ピストン本体、前記リストピン、および前記コネクティングロッドは、ベアリングまたはブッシングがないピストンジョイントを規定する、請求項9に記載の組品。
【請求項11】
前記トップリング溝は、底壁および背面壁を含み、前記トップリング溝のすべての壁が前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングで被覆されている、請求項1に記載の組品。
【請求項12】
トップ表面、溝壁表面を伴った少なくとも一のリング溝と、ピンボア表面を伴った少なくとも一のピンボアを有するピストンと、
外側径表面、内側径表面、トップ表面およびボトム表面を伴った少なくとも一のピスト
ンリングと、
小さいボア開口を伴った一方端と大きなボア開口を伴った対向端とを有するコネクティングロッドと、
外側表面を有するリストピンと、
内側シリンダ壁を有するシリンダライナーと、
被覆されている表面と被覆されていない表面とを規定するように、前記ピストンの前記トップ表面の少なくとも一部、前記少なくとも一のリング溝および前記ピストンリングの前記トップ表面のいずれか1つと、前記ピストンリングの前記外側径表面および前記シリンダライナーの前記内側シリンダ壁のいずれか1つと、前記リストピンの前記外側表面または前記ピストンの前記ピンボアの前記表面および前記コネクティングロッドの前記小さいボア開口のいずれか一方と、に塗布されたダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングとを備えた、パワーシリンダ組品。
【請求項13】
前記ピストンは、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングによって被覆された外側表面を有するピストンスカートを含む、請求項12に記載の組品。
【請求項14】
前記ピストンの外側表面の全体が前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングで被覆されている、請求項13に記載の組品。
【請求項15】
前記被覆されている表面と動作係合している前記被覆されていない表面は、前記被覆されている表面の硬さよりも小さな硬さを有している、請求項12に記載の組品。
【請求項16】
前記被覆されていない表面は、前記被覆されている表面の硬さよりも約20Rcだけ小さい硬さを有している、請求項15に記載の組品。
【請求項17】
前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、前記ピストンが分離されたベアリング挿入物を有しないように、少なくとも一のピンボア表面に直接に塗布される、請求項12に記載の組品。
【請求項18】
前記コネクティングロッドの大きい方のボア表面に結合するための少なくとも一のクランクアーム表面およびその回転軸まわりに配置された少なくとも一のジャーナルを有するクランクシャフトと、回転のために前記クランクシャフトの前記少なくとも一のジャーナルを支持するための少なくとも一のクランク支持表面を有するエンジンブロックとを含み、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、前記コネクティングロッドの前記大きい方の前記ボア表面および前記少なくとも一のクランクアームの前記クランクアーム表面の一方、ならびに、前記クランクシャフトの前記少なくとも一のジャーナルおよび前記エンジンブロックの前記少なくとも一のクランク支持表面の一方に塗布されている、請求項12に記載の組品。
【請求項19】
前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、前記クランク支持表面の前記エンジンブロック材料に直接塗布される、請求項18に記載の組品。
【請求項20】
前記組品は、当該組品のいずれの関節ジョイントにおいても、分離されたインサートプレインベアリングを有していない、請求項19に記載の組品。
【請求項21】
前記少なくとも一のクランクサポート表面は、金属裏当てを有するジャーナルベアリングと、前記クランクシャフトをジャーナル軸受けするために前記裏当てに塗布された1層のベアリング材料とを含む、請求項19に記載の組品。
【請求項22】
前記ベアリング材料の層は、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングを備え
る、請求項21に記載の組品。
【請求項23】
前記ピストンは、関連する1対のピンボアを有する1対のピンボスを含んでいる、請求項12に記載の組品。
【請求項24】
前記ピンボスは、互いに内側に向かい合っている内側表面を有し、前記コネクティングロッドは、互いに外側を向いている1対の外側表面を有し、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、前記ピンボスの前記一対の互いに内側に向かい合っている表面および前記コネクティングロッドの前記一対の互いに外側に向いている表面の一方に塗布されている、請求項23に記載の組品。
【請求項1】
その中に形成された燃焼ボウルを伴ったトップ壁を有し、かつ、燃焼ボウルエッジと、上側壁を伴ったトップリング溝を含む複数のリング溝および前記トップリング溝と前記トップ壁との間に配置されたトップランド部を伴って形成された外側リングベルトと、互いに位置合わせされたピンボアを伴った1対のピンボスと、スカートとを有する、ピストン本体と、
少なくとも前記トップ壁、前記燃焼ボウルエッジ、前記トップランド部、および前記トップリング溝の前記上側壁に塗布されたダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングとを備えた、ディーゼルエンジンピストン組品。
【請求項2】
前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、さらに、前記ピンボアに塗布されている、請求項1に記載の組品。
【請求項3】
前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、さらに、前記スカートに塗布されている、請求項2に記載の組品。
【請求項4】
前記ピンボスは、互いに空間をおいた関係で互いに向かい合う径方向内側表面を含んでおり、前記ダイヤモンドクロミウム複合コーティングは、さらに、前記ピンボスの前記径方向内側面に塗布されている、請求項3に記載の組品。
【請求項5】
前記トップリング溝の中に配置され、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングを施されていない上側表面を有するピストンリングを含む、請求項1に記載の組品。
【請求項6】
前記ピストンリングは、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングで被覆されている径方向外側表面を含む、請求項5に記載の組品。
【請求項7】
前記ピンボア内に配置され、かつ、前記ピンボアに動作接触していない前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングが施されていない外側表面を有する、リストピンを含む、請求項2に記載の組品。
【請求項8】
一方に小さい方の端部ボアを有するコネクティングロッドを有し、前記小さい方の端部ボア内で前記コネクティングロッドに前記ピストン本体を結合するために前記リストピンが受入れられ、前記小さい方の端部ボアが前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングで被覆されている、請求項7に記載の組品。
【請求項9】
前記リストピンは、前記コネクティングロッドの前記小さい方の端部ボアに動作接触しており前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングが施されていない前記外側表面の一部を含む、請求項8に記載の組品。
【請求項10】
前記ピストン本体、前記リストピン、および前記コネクティングロッドは、ベアリングまたはブッシングがないピストンジョイントを規定する、請求項9に記載の組品。
【請求項11】
前記トップリング溝は、底壁および背面壁を含み、前記トップリング溝のすべての壁が前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングで被覆されている、請求項1に記載の組品。
【請求項12】
トップ表面、溝壁表面を伴った少なくとも一のリング溝と、ピンボア表面を伴った少なくとも一のピンボアを有するピストンと、
外側径表面、内側径表面、トップ表面およびボトム表面を伴った少なくとも一のピスト
ンリングと、
小さいボア開口を伴った一方端と大きなボア開口を伴った対向端とを有するコネクティングロッドと、
外側表面を有するリストピンと、
内側シリンダ壁を有するシリンダライナーと、
被覆されている表面と被覆されていない表面とを規定するように、前記ピストンの前記トップ表面の少なくとも一部、前記少なくとも一のリング溝および前記ピストンリングの前記トップ表面のいずれか1つと、前記ピストンリングの前記外側径表面および前記シリンダライナーの前記内側シリンダ壁のいずれか1つと、前記リストピンの前記外側表面または前記ピストンの前記ピンボアの前記表面および前記コネクティングロッドの前記小さいボア開口のいずれか一方と、に塗布されたダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングとを備えた、パワーシリンダ組品。
【請求項13】
前記ピストンは、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングによって被覆された外側表面を有するピストンスカートを含む、請求項12に記載の組品。
【請求項14】
前記ピストンの外側表面の全体が前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングで被覆されている、請求項13に記載の組品。
【請求項15】
前記被覆されている表面と動作係合している前記被覆されていない表面は、前記被覆されている表面の硬さよりも小さな硬さを有している、請求項12に記載の組品。
【請求項16】
前記被覆されていない表面は、前記被覆されている表面の硬さよりも約20Rcだけ小さい硬さを有している、請求項15に記載の組品。
【請求項17】
前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、前記ピストンが分離されたベアリング挿入物を有しないように、少なくとも一のピンボア表面に直接に塗布される、請求項12に記載の組品。
【請求項18】
前記コネクティングロッドの大きい方のボア表面に結合するための少なくとも一のクランクアーム表面およびその回転軸まわりに配置された少なくとも一のジャーナルを有するクランクシャフトと、回転のために前記クランクシャフトの前記少なくとも一のジャーナルを支持するための少なくとも一のクランク支持表面を有するエンジンブロックとを含み、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、前記コネクティングロッドの前記大きい方の前記ボア表面および前記少なくとも一のクランクアームの前記クランクアーム表面の一方、ならびに、前記クランクシャフトの前記少なくとも一のジャーナルおよび前記エンジンブロックの前記少なくとも一のクランク支持表面の一方に塗布されている、請求項12に記載の組品。
【請求項19】
前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、前記クランク支持表面の前記エンジンブロック材料に直接塗布される、請求項18に記載の組品。
【請求項20】
前記組品は、当該組品のいずれの関節ジョイントにおいても、分離されたインサートプレインベアリングを有していない、請求項19に記載の組品。
【請求項21】
前記少なくとも一のクランクサポート表面は、金属裏当てを有するジャーナルベアリングと、前記クランクシャフトをジャーナル軸受けするために前記裏当てに塗布された1層のベアリング材料とを含む、請求項19に記載の組品。
【請求項22】
前記ベアリング材料の層は、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングを備え
る、請求項21に記載の組品。
【請求項23】
前記ピストンは、関連する1対のピンボアを有する1対のピンボスを含んでいる、請求項12に記載の組品。
【請求項24】
前記ピンボスは、互いに内側に向かい合っている内側表面を有し、前記コネクティングロッドは、互いに外側を向いている1対の外側表面を有し、前記ダイヤモンド拡散クロミウム複合コーティングは、前記ピンボスの前記一対の互いに内側に向かい合っている表面および前記コネクティングロッドの前記一対の互いに外側に向いている表面の一方に塗布されている、請求項23に記載の組品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−542603(P2008−542603A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513626(P2008−513626)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/019930
【国際公開番号】WO2006/127716
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【国際出願番号】PCT/US2006/019930
【国際公開番号】WO2006/127716
【国際公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】
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