説明

ディーゼルエンジンの排気浄化装置

【課題】DPF再生処理時に、その表面にコーティングされたNOx選択還元触媒の活性成分が劣化することを抑制する。
【解決手段】ディーゼルエンジンの排気通路に配設されたDPF16の排気流入面に、還元剤を用いてNOxを選択還元浄化するNOx選択還元触媒18と、NOxの通過を許容する一方、PMの通過を阻止する大きさの細孔が形成された薄膜20と、をこの順番でコーティングする。そして、薄膜20により、PMの燃焼熱がNOx選択還元触媒18に直接伝わらないようにし、その温度上昇抑制を通して活性成分の劣化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気浄化装置において、排気中の窒素酸化物(NOx)と粒子状物質(PM)を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気に含まれるNOxとPMを同時に除去する排気浄化装置として、特開2006−274986号公報(特許文献1)に記載されるように、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)にNOx選択還元触媒をコーティングしたものが提案されている。そして、この排気浄化装置では、DPFでPMが捕集除去される一方、DPFの排気上流に噴射供給された尿素水溶液から生成されたアンモニアを還元剤として使用し、NOx還元触媒においてNOxが選択的に還元浄化される。
【特許文献1】特開2006−274986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、DPFにおいては、PM捕集量の増加に伴って目詰まりが進行すると、その排圧が許容値以上に上昇して燃費低下などを来たしてしまう。このため、エンジン制御により排気温度を上昇させたり、DPFに付設された電気ヒータを作動させるなどの公知の方法で、DPFに捕集されたPMを焼却する再生処理が不可欠である。DPFの再生処理中には、PMの燃焼熱によりDPF温度が上昇するため、ここにコーティングされているNOx選択還元触媒の温度も上昇してしまう。NOx選択還元触媒では、その活性成分が過度な温度上昇により熱劣化を起こしてしまうおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、DPFにコーティングされたNOx選択還元触媒にPM燃焼熱が直接伝わらないようにすることで、その活性成分の劣化を抑制したディーゼルエンジンの排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため、請求項1記載の発明では、ディーゼルエンジンの排気通路に配設されたDPFに、還元剤を用いてNOxを選択還元浄化する選択還元触媒と、NOxの通過を許容する一方、PMの通過を阻止する大きさの細孔が形成された薄膜と、をこの順番でコーティングしたことを特徴とする。
請求項2記載の発明では、前記薄膜は、前記DPFの排気流入面にのみコーティングされたことを特徴とする。
【0006】
請求項3記載の発明では、前記薄膜は、アルミナ又はゼオライトからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の発明によれば、ディーゼルエンジンの排気に含まれるPMは、薄膜を通過できないことから、その表面で捕集される。一方、排気に含まれるNOxは、薄膜を通過して選択還元触媒に達し、還元剤を用いて選択還元浄化される。そして、DPFの再生処理中には、薄膜によりPMの燃焼熱が選択還元触媒に直接伝わらず、その温度上昇が抑制されることから、活性成分の劣化を抑制することができる。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、DPFの排気流入面にのみ薄膜がコーティングされているため、DPFの排気通過抵抗が低減され、排圧上昇による燃費及び出力低下などを抑制することができる。
請求項3記載の発明によれば、アルミナ又はゼオライトを用いることで、薄膜を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、還元剤前駆体たる尿素水溶液を使用し、ディーゼルエンジンの排気に含まれるNOx及びPMを浄化する排気浄化装置の全体構成を示す。
ディーゼルエンジン10の排気マニフォールド12に接続される排気通路14には、排気中のPMを捕集除去するDPF16が配設される。DPF16は、セラミックスなどの多孔性部材からなる隔壁により排気流と略平行なセルが多数形成され、各セルの入口と出口が目封材により互い違いに千鳥格子状に目封じされて形成される。そして、出口が塞がれたセル内の排気が、隔壁を介して入口が塞がれている隣接するセルに流入するとき、排気中のPMが隔壁を構成する多孔性部材で捕集される。
【0010】
DPF16の排気流入面には、図2に示すように、還元剤を用いてNOxを選択還元浄化するNOx選択還元触媒18と、NOxの通過を許容する一方、PMの通過を阻止する大きさの細孔が形成された薄膜20と、がこの順番でコーティングされる。ここで、NOx選択還元触媒18をコーティングする方法として、例えば、DPF16の表面に活性成分を直接担持させたり、活性成分含浸層を有する担体をDPF16の表面にウォッシュコートする方法が適用できる。一方、薄膜20としては、その形成を容易にすべく、アルミナ又はゼオライトなどを採用するとよい。
【0011】
また、DPF16の排気上流に位置する排気通路14には、尿素水溶液を噴霧状態で噴射供給する噴射ノズル22が取り付けられる。還元剤タンク24に貯蔵される尿素水溶液は、ポンプ及び流量制御弁が内蔵された還元剤添加装置26を経由して、噴射ノズル22へと供給される。
排気浄化装置の制御系として、噴射ノズル22の排気上流に位置する排気通路14には、DPF16に導入される排気の温度(排気温度)を測定する温度センサ28が取り付けられる。温度センサ28の出力信号は、コンピュータを内蔵した還元剤添加コントロールユニット(以下「還元剤添加ECU」という)30へと入力される。また、還元剤添加ECU30は、エンジン運転状態としてのエンジン回転速度及び負荷を適宜読み込み可能とすべく、CAN(Controller Area Network)などのネットワークを介して、エンジンコントロールユニット32と通信可能に接続される。なお、エンジン負荷としては、燃料噴射量,トルク,アクセル開度,スロットル開度,吸気流量,吸気負圧,過給圧力などの公知の状態量を適用することができる。
【0012】
そして、還元剤添加ECU30は、そのROM(Read Only Memory)などに格納された制御プログラムを実行することで、排気温度,エンジン回転速度及びエンジン負荷に適合した尿素水溶液添加流量を演算し、その添加流量に応じた制御信号を還元剤添加装置26に出力する。還元剤添加装置26では、還元剤添加ECU30からの制御信号に基づいて、ポンプ及び流量制御弁が適宜電子制御され、エンジン運転状態に応じた流量の尿素水溶液が噴射ノズル22に供給される。
【0013】
この排気浄化装置において、噴射ノズル22から排気通路14へと噴射供給された尿素水溶液は、排気熱及び排気中の水蒸気により加水分解されてアンモニアへと転化され、排気流に乗ってDPF16へと供給される。DPF16の排気流入面にコーティングされた薄膜20は、NOxの通過を許容する一方、PMの通過を阻止する大きさの細孔を有するため、図3に示すように、PM34が薄膜20の表面で捕集されると共に、NOx36が薄膜20を通過してNOx選択還元触媒18へと到達する。NOx選択還元触媒18では、排気と共に導入されたアンモニアを使用して、NOx36が選択還元浄化される。
【0014】
そして、DPF16の再生処理を行うべく、例えば、エンジン制御により排気温度を上昇させてPM34を着火させても、薄膜20が介在していることによりその燃焼熱がNOx選択還元触媒18に直接伝わらなくなる。このため、NOx選択還元触媒18の温度上昇が抑制され、その活性成分の劣化を抑制することができる。
このとき、NOx選択還元触媒18及び薄膜20は、DPF16の排気流入面にのみコーティングされているため、NOx選択還元触媒18及び薄膜20がコーティングされたDPF16の排気通過抵抗が低減され、排圧上昇による燃費及び出力低下などを抑制することができる。また、薄膜20はアルミナ又はゼオライトからなるため、これを容易に形成することができる。
【0015】
なお、以上説明した実施形態では、還元剤前駆体として尿素水溶液を使用するものを前提としたが、還元剤又はその前駆体としては、NOx選択還元浄化メカニズムに応じて、炭化水素,アルコール,軽油,固体尿素なども適用することができる。また、排気通路14に還元剤又はその先駆体を噴射供給するものに限らず、触媒コンバータを用いて排気成分から還元剤を生成するものにも適用することができる。さらに、NOx選択還元触媒18及び薄膜20は、DPF16の排気流入面に加え、排気流出面にもコーティングしてもよい。この場合、薄膜20を排気流出面にコーティングしてもPM捕集に寄与しないため、排気通過抵抗低減の観点から、DPF16の排気流出面にはNOx選択還元触媒18のみをコーティングすることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を具現化した排気浄化装置の一例を示す全体構成図
【図2】DPFにNOx選択還元触媒及び薄膜をコーティングした状態の説明図
【図3】同上におけるA部拡大図
【符号の説明】
【0017】
10 ディーゼルエンジン
14 排気通路
16 DPF
18 NOx選択還元触媒
20 薄膜
34 PM
36 NOx

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの排気通路に配設されたディーゼルパティキュレートフィルタに、還元剤を用いて窒素酸化物を選択還元浄化する選択還元触媒と、窒素酸化物の通過を許容する一方、粒子状物質の通過を阻止する大きさの細孔が形成された薄膜と、をこの順番でコーティングしたことを特徴とするディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項2】
前記薄膜は、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの排気流入面にのみコーティングされたことを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。
【請求項3】
前記薄膜は、アルミナ又はゼオライトからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のディーゼルエンジンの排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−65554(P2010−65554A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230820(P2008−230820)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】