説明

トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物およびトウプリプレグ

【課題】自己接着性が極めて少なく、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れており、非常に高い破壊靭性を有する繊維強化複合材料を製造することができるトウプリプレグ、およびそのようなトウプリプレグを製造することができるトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】所定のエポキシ樹脂、硬化剤および必要によりコアシェルポリマーを含み、25℃における粘度が40Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物であって、該エポキシ樹脂組成物を135℃の温度で2時間硬化した硬化物のガラス転移温度が130℃以上であり、破壊靭性が0.8MPa/m0.5以上であることを特徴とするトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、繊維強化複合材料で構成された中空の管状物の製造に好適に用いられるトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物に関するものである。より詳しくは、ボビンからの解舒性や工程通過性に優れ、非常に高い破壊靭性を有する繊維強化複合材料を得ることができる、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物、ならびにそのようなエポキシ樹脂組成物を用いたトウプリプレグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維と、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いた繊維強化複合材料が用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が、そしてマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特に炭素繊維との接着性に優れたエポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造には、強化繊維を一方向に引き揃えた物や、織物、不織布などのシート状物に熱硬化性樹脂を含浸した中間基材であるプリプレグを用いることが多い。
【0004】
一方、シート状プリプレグ以外にも、数千〜数万本のフィラメントが一方向に配列した強化繊維束に熱硬化性樹脂を含浸した、トウプリプレグ、トウプレグ、ヤーンプリプレグあるいはストランドプリプレグと呼ばれる細幅の中間基材(以下、トウプリプレグという)があり、このトウプリプレグは、特に繊維強化複合材料で構成された中空の管状物を製造するときに好適に用いられる。
【0005】
トウプリプレグは、製造工程の中で強化繊維束に熱硬化性樹脂が含浸された後、離型紙等を介することなく一旦ボビンに巻き取られる。次いで、繊維強化複合材料の製造工程において、ボビンに巻き取られたトウプリプレグが解舒される。そのため、解舒時に強化繊維が毛羽立たないようにするため、トウプリプレグには自己接着性が極めて少なく、ドレープ性に優れていることが必須となる。
【0006】
近年、20000フィラメント以上の炭素繊維が強化繊維束としてよく用いられている。また、強度3.5〜5GPaの汎用の高強度糸以外に、強度5.5GPa以上、弾性率2.5GPa以上の高強度、高弾性率の炭素繊維も炭素繊維束に適用されているが、これらの炭素繊維は繊維径が汎用の高強度糸よりも細い(すなわち、繊度が低い)ことが多い。特許文献1〜3に、ジシアンジアミドを硬化剤として用いたトウプリプレグ用樹脂組成物が開示されているが、これらの樹脂組成物は粘度が高く、前述のフィラメント数の多い強化繊維束に十分に含浸させてトウプリプレグを製造するのは困難である。
【0007】
また、特許文献4のようにエポキシ樹脂の25℃における粘度を0.1〜300Poiseと低粘度に調整する方法が提案されている。この方法の場合、トウプリプレグの解舒性やドレープ性にある程度の向上効果が認められる。しかしながら、エポキシ樹脂をはじめとする熱硬化性樹脂は脆性材料のため非常に脆いため、強化繊維の高い強度発現率を達成できるものではない。
【0008】
エポキシ樹脂を高靭性化させる方法としては、特許文献5のように、熱可塑性樹脂と、熱硬化性樹脂のいずれかまたは、その両方を素材とする微粒子を配合する方法がある。
【0009】
しかしながら、熱硬化性樹脂を素材とする微粒子の場合、熱硬化性樹脂自体が脆性材料であることから靭性を向上させる効果は十分ではない。また、熱可塑性樹脂を素材とする場合、延性材料であることから靭性向上効果には熱硬化性樹脂を素材とする場合より高いと言える。しかしながら、特許文献4の実施例で実際に使用されているようなナイロン(グリルアミドを含む)やPBTといった、いわゆるエンジニアプラスチックに属する物は微粒子化、特に1μm以下の粒径とすることが困難であり、特許文献4では平均粒径30μmの粒子をプリプレグの表面のみに配置している。このような方法では、強化繊維束内部まで高靭性化することはできず、物性向上効果は不十分である。
【0010】
また、エポキシ樹脂を高靭性化させる別の手段として、特許文献6および7のように架橋ゴム状重合体を配合する方法がある。架橋ゴム状重合体は通常、乳化重合、分散重合、懸濁重合に代表されるような、水媒体中で重合する方法により製造される。このような製造方法は1μm以下の粒径をもつ、いわゆる超微粒子を製造することができる点が利点である。
【0011】
しかしながら、これらの特許文献にあるような架橋ゴム状重合体を靭性向上に用いる場合、ベースとなるエポキシ樹脂の塑性変形能力により、その効果は著しく変動し、靭性向上効果が十分に発現しないこともある。特にトウプリプレグは、前記したように解舒性やドレープ性を重視しなければならないことからマトリックス樹脂の粘度を高くすることができないため、シート状プリプレグのマトリックス樹脂のように熱可塑性樹脂や高分子量エポキシ樹脂などによる熱変形能力の向上技術が適用できない。
【0012】
以上のような理由により、ボビンからの解舒性や工程通過性、ドレープ性に優れ、非常に高い破壊靭性を有する繊維強化複合材料を得ることができるトウプリプレグ、ならびにフィラメント数が多い、あるいは繊度の小さい炭素繊維でも良好に含浸することができるトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平07−324119号公報
【特許文献2】特開平07−278265号公報
【特許文献3】特開平09−87365号公報
【特許文献4】特許第3480769号公報
【特許文献5】特開昭63−162732号公報
【特許文献6】特開2005−248109号公報
【特許文献7】特開平10−237196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる背景に鑑み、自己接着性が極めて少ないことからボビンからの解舒性および工程通過性に優れ、適正なドレープ性を備え、非常に高い破壊靭性を有する繊維強化複合材料を製造可能なトウプリプレグおよび該トウプリプレグを製造可能なトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明はかかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明は、少なくとも次の構成要素[A]〜[D]を含み、25℃における粘度が40Pa・s以下であり、構成要素[A]の配合量が、全エポキシ樹脂成分100質量部中に5〜70質量部であって、135℃の温度で2時間硬化した硬化物のガラス転移温度が130℃以上、かつ、破壊靭性が1.0MPa/m0.5以上であることを特徴とするトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物である。
【0016】
[A]N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)アニリン
[B]1分子中に2個のエポキシ基を有し、25℃における粘度が70Pa・s以下であるエポキシ樹脂
[C]エポキシ当量が350〜700g/eqの範囲であり、25℃において固形であるエポキシ樹脂
[D]酸無水物。
【0017】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂の好ましい様態によれば、構成要素[E]として、さらにコアシェルポリマーを含んでおり、そのコアシェルポリマーのコア成分が、少なくともスチレンとブタジエンが含まれる共重合体であり、シェル成分が、少なくともメタクリル酸メチルとスチレンを含み、かつエポキシ樹脂と反応する官能基を有するものであること、またより好ましい様態によれば、構成要素[E]であるコアシェルポリマーの体積平均粒子径が1〜500nmである。
【0018】
また、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の好ましい態様によれば、構成要素[C]の配合量が、全エポキシ樹脂100質量部中に対して5〜20質量部である。
【0019】
本発明のトウプリプレグは、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物が、20,000〜70,000フィラメントからなる強化繊維束に含浸されてなるものであり、好ましい態様は、強化繊維の単糸あたりの繊度が0.03〜0.07texの範囲の炭素繊維であり、炭素繊維の体積含有率が50〜75%である。また、さらに好ましい態様は、擦過毛羽評価方法により測定された擦過毛羽数が、1m当たり20個以下である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物は、非常に低粘度であることから、強化繊維束に対する含浸性に優れており、その硬化物は優れた耐熱性および破壊靭性を有す。また、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を適用したトウプリプレグは、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れることから繊維強化複合材料の生産効率が非常に高い。さらに、本発明のトウプリプレグを使用して成形した繊維強化複合材料は、耐熱性および外部からの衝撃に対する耐衝撃性に優れることから、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に使用することができ、特に燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物は、少なくとも次の構成要素[A]〜[D]から構成される。
[A]N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)アニリン
[B]1分子中に2個のエポキシ基を有し、25℃における粘度が70Pa・s以下であるエポキシ樹脂
[C]エポキシ当量が350〜700g/eqの範囲であり、25℃において固形であるエポキシ樹脂
[D]酸無水物。
【0022】
本発明の構成要素[A]であるN,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)アニリンは、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物および該エポキシ樹脂組成物を使用した繊維強化複合材料の耐熱性や弾性率を高めるため配合される。
【0023】
構成要素[A]のような多官能エポキシ樹脂は、硬化後の3次元架橋構造において架橋密度が高くなるため、ガラス転移温度が高くなる利点がある。しかしながら、エポキシ樹脂と構成要素[D]である酸無水物の硬化反応は発熱反応であり、組成物中に含まれるエポキシ基の含有量が多いほど発熱量は大きくなる。発熱量が大きくなると、肉厚の繊維強化複合材料を成形する場合に、成形体内部で蓄熱による過昇温が発生して、得られる繊維強化複合材料の力学特性が低下することがある。そのため、繊維強化複合材料の厚みは、硬化反応による蓄熱によって過昇温が発生しない範囲で制限される。
【0024】
一方、燃料電池に使用される水素タンクのような高圧力容器の場合、超高圧な内部圧力による破損を防ぐために肉厚の管状繊維強化複合材料が必要である。そのため、本発明の構成要素[A]の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部中に5〜70質量部とすることで、高い耐熱性を有する硬化物を得ることができ、また、該エポキシ樹脂組成物の硬化反応により発生する発熱量が高くなりすぎないため好ましい。本発明の構成要素[A]の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部中に6〜50質量部であればより好ましく、7〜30質量部であればさらに好ましい。
【0025】
本発明の構成要素[B]は、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の粘度、耐熱性および力学特性を適正な範囲に調整するために配合される。前記したように、構成要素[A]のような、いわゆる多官能エポキシ樹脂の配合量が多いと、硬化反応における発熱量が大きくなりすぎるため、組成物中に含まれるエポキシ基の濃度を調整する必要がある。そのため、1分子中に2個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を配合する。しかしながら、1分子中にエポキシ基が1個の場合、架橋反応が停止してしまい、分子量が大きくならないことから耐熱性や弾性率の低下が発生する。そのため、本発明では、得られる硬化物の耐熱性や力学物性のバランスが優れる1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂を配合する。
【0026】
構成要素[B]は、25℃における粘度が70Pa・s以下、好ましくは60Pa・s以下、より好ましくは55Pa・s以下である。ここで、粘度は、動的粘弾性装置ARES−2KFRTN1−FCO−STD(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、上部測定冶具に直径50mmの平板、下部測定冶具に平板底のカップを用い、上部と下部の冶具間距離が1mmとなるように得られたエポキシ樹脂組成物をセットし、ねじりモード(測定周波数:0.5Hz)で測定した。また、樹脂セッティングから所定温度の粘度を測定するまでの時間は15分以内とした。25℃における粘度を70Pa・s以下とすることで、得られるトウプリプレグ用樹脂組成物の粘度を後述する適正な粘度範囲に調整することができる。構成要素[B]の25℃における粘度の下限に特に制限はなく、低いほど得られるトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の粘度を下げることができ、ひいては、強化繊維束への含浸が容易となる。
【0027】
かかるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(特に高純度である)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、N,N−(ジグリシジル)アニリン、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−o−トルイジンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステルなどのグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、アジピン酸ビス−3,4−エポキシシクロヘキシルメチルなどの脂環式エポキシ樹脂、エチレングリコールジグリジジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ヘキサメチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ樹脂などが挙げられる。特にビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂は、耐熱性、力学物性および粘度のバランスがよく、また、N,N−(ジグリシジル)アニリン、N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−o−トルイジンは低粘度であり、硬化物の弾性率を向上する効果に優れるため、好適に使用することができる。
【0028】
本発明の構成要素[B]の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部中に50〜90質量部であれば、得られるトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の粘度の上昇や、該エポキシ樹脂組成物を硬化した硬化物の耐熱性、力学物性の低下を抑制できるため好ましく、55〜85質量部であればさらに好ましい。
【0029】
本発明の構成要素[C]は、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の硬化物に適度な塑性変形能力を付与するため配合される。エポキシ樹脂組成物を硬化した硬化物の塑性変形能力は、硬化物を構成する3次元架橋構造の架橋密度に影響し、架橋密度が小さいほど塑性変形能力は大きくなる。架橋密度を下げるには、分子量が大きく、1分子中に含まれるエポキシ基の含有量が少ない化合物を配合することである。しかしながら、架橋密度を下げすぎると、硬化物の耐熱性や力学物性が低下する。そのため、各物性のバランスを取るため、適度な分子量とエポキシ基数を有するエポキシ樹脂を配合することになる。
【0030】
通常、分子量とエポキシ基数の関係は、エポキシ当量で表される。ここで、エポキシ当量とは、分子量を1分子中に含まれるエポキシ基の数で除した値であり、エポキシ基1個当たりの分子量となる。エポキシ当量はJIS K7236(2001)に従い測定される。具体的にはエポキシ樹脂とクロロホルムを所定量混合、溶解した溶液に臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、過塩素酸酢酸溶液で滴定することにより求めることができる。
【0031】
本発明の構成要素[C]のエポキシ当量は、塑性変形能力と耐熱性、力学特性および粘度のバランスを取るため、350〜700g/eqの範囲であることが必須であり、好ましくは400〜600g/eqの範囲であり、より好ましくは450〜550g/eqの範囲である。前記したように、エポキシ当量が350g/eqより小さい場合、架橋密度が下がらず、塑性変形能力の向上効果が得られない。また、エポキシ当量が700g/eqより大きい場合、架橋密度が下がり、硬化物の耐熱性や力学特性、特に弾性率が大きく低下する。
【0032】
通常、前記した範囲のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂は、単独では25℃の温度下において固形状である。ここで固形とは、粘弾特性において、貯蔵弾性率G’が損失弾性率G”より大きく、また、成分単独のガラス転移温度が25℃より高い温度である状態を意味する。ガラス転移温度は、JIS K7121(1987)に従い、DSC法にて求めた中間点温度である。
【0033】
かかる範囲のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂として、ビスフェノール型エポキシ、ビフェニル型エポキシ、脂肪族エポキシ、グリシジルエポキシなどがあげられるが、その中でもビスフェノール型エポキシが好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂が市販されている。しかしながら、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の骨格は2つのベンゼン環の間にある炭素原子にメチル基が2つ結合した、いわゆるプロパン構造を有しており、該メチル基が骨格の柔軟性を抑制しているが、ビスフェノールF型エポキシ樹脂は該メチル基を有せず、水素原子が結合していることから、柔軟な骨格となっているためビスフェノールF型エポキシ樹脂の方が塑性変形能力の向上効果が大きくなり、より好ましい。
【0034】
本発明の構成要素[C]の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部中に5〜40質量部の範囲であることが、得られるトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物に適度な塑性変形能を付与し、かつ耐熱性の低下や粘度の上昇を少なくできるため好ましく、7〜25質量部であればさらに好ましい。
【0035】
本発明の構成要素[D]である酸無水物は硬化剤として配合される。酸無水物の状態は、特に制限はないが、構成要素[A]〜[C]と混合して得られる樹脂組成物の粘度が低くなり、強化繊維束への含浸性が向上することから、25℃の温度において、液体であることが好ましい。具体的には25℃の温度における粘度が0.5Pa・s以下であることが好ましく、より好ましい粘度は0.15Pa・s以下である。ここで、粘度とは、JIS Z8803(1991)における「円すい−板形回転粘度計による粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装備したE型粘度計(東機産業(株)、TVE−30H)を使用して、25℃の温度において回転速度10回転/分で測定し、測定開始から1分後に得られた値である。構成要素[D]である酸無水物の25℃の温度における粘度の下限は特に制限なく、粘度が低いほど、得られるエポキシ樹脂組成物を低粘度化することが可能となり、ひいては、強化繊維束への含浸が容易となる。
【0036】
かかる酸無水物としては、具体的には無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデシル無水コハク酸、無水クロレンディック酸およびそれらの誘導体等を1種または複数種を混合して用いることができる。中でも、ヘキサヒドロ無水フタル酸やテトラヒドロ無水フタル酸は前記した好適な粘度範囲にあり、かつ良好な耐熱性を有する硬化物を得ることができるため好ましく用いることができる。
【0037】
本発明の構成要素[D]である酸無水物の配合量は、使用するエポキシ樹脂および酸無水物の種類により決定される。具体的には、全エポキシ樹脂成分の総質量を、含まれる全エポキシ基数で除した値である平均エポキシ当量を1当量し、全酸無水物の総質量を、含まれる酸無水物基の数で除した値である平均酸無水物当量を1当量としたときに、平均エポキシ当量を1当量に対し、平均酸無水物当量が好ましくは0.5〜1.5当量、より好ましくは0.7〜1.2になるように混合する。平均エポキシ当量と平均酸無水物当量の比率が適正範囲を外れた場合、得られた硬化物の耐熱性や破壊靭性および弾性率などが低下する可能性がある。また、配合する酸無水物量が少なすぎると、得られるエポキシ樹脂組成物の粘度を十分下げることができず、強化繊維束への含浸が悪くなる可能性もある。
【0038】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物には、破壊靭性を向上する目的で、構成要素[E]であるコアシェルポリマーを配合することができる。コアシェルポリマーとは、架橋されたゴム状ポリマーまたはエラストマーを主成分とする粒子状コア成分の表面に、コア成分とは異種のシェル成分ポリマーをグラフト重合することで粒子状コア成分の表面の一部あるいは全体をシェル成分で被覆したものである。
【0039】
コアシェルポリマーを構成するコア成分としては、ビニルモノマー、共役ジエン系モノマー、アクリル酸および/またはメタクリル酸エステル系モノマーより選ばれる1種または複数種から重合されたポリマーまたはシリコーン樹脂などを使用することができるが、芳香族系ビニルモノマーと共役ジエン系モノマー、中でもスチレンとブタジエンから構成される架橋ゴム状ポリマーが、靭性向上効果が高く好ましく用いることができる。
【0040】
コアシェルポリマーを構成するシェル成分は、前記したコア成分にグラフト重合されており、コア成分を構成するポリマーと化学結合していることが好ましい。かかるシェル成分を構成する成分としては、例えば(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物等から選ばれた1種または複数種から重合された重合体を用いることができる。コア成分としてスチレンとブタジエンから構成される架橋ゴム状ポリマーを使用する場合、(メタ)アクリル酸エステルであるメタクリル酸メチルと芳香族ビニル化合物であるスチレンの混合体を好適に用いることができる。
【0041】
また、該シェル成分には分散状態を安定化させるために、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を構成するいずれかのエポキシ樹脂と反応する官能基が導入されていることが好ましい。かかる官能基としては、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基、エポキシ基が挙げられ、中でもエポキシ基が好ましい。エポキシ基を導入する方法としては、前記したシェル成分に、例えばメタクリル酸2,3−エポキシプロピルを併用して、コア成分にグラフト重合する方法がある。
【0042】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物に適用できるコアシェルポリマーとしては、上述されるものであれば特に制限はなく、周知の方法で製造されたものを使用できる。しかしながら、通常コアシェルポリマーは塊状で取り出されたものを粉砕して粉体として取り扱われており、粉体状コアシェルポリマーを再度エポキシ樹脂中に分散させることが多いが、この方法では、一次粒子の状態で安定に分散させることが難しい。よって、コアシェルポリマーの製造過程から一度も塊状で取り出すことなく、最終的にはエポキシ樹脂中に一次粒子で分散したマスターバッチの状態で取り扱うことができるものが好ましく、例えば、特開2004−315572号公報に記載の方法、すなわち、コアシェルポリマーを乳化重合、分散重合、懸濁重合に代表される水媒体中で重合する方法で重合を行い、コアシェルポリマーが分散した懸濁液を得て、得られた懸濁液に水と部分溶解性を示す有機溶媒、例えば、アセトンやメチルエチルケトンなどのエーテル系溶媒を混合後、水溶性電解質、例えば塩化ナトリウムや塩化カリウムを接触させ、有機溶媒層と水層を相分離させ、水層を分離除去して得られたコアシェルポリマー分散有機溶媒に適宜エポキシ樹脂を混合した後、有機溶媒を蒸発除去する方法などが使用できる。該製造方法で製造されたコアシェルポリマー分散エポキシマスターバッチとしては、株式会社カネカ社から市販されている“カネエース”(登録商標)を好適に使用できる。
【0043】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物にコアシェルポリマーを適用する場合、コアシェルポリマーは平均粒子径が体積平均粒子径で1〜500nmであることが好ましく、3〜300nmであればさらに好ましい。なお、体積平均粒子径はナノトラック粒度分布測定装置(日機装(株)製)を用いて測定することができる。本発明で使用されるコアシェルポリマーの体積平均粒子径が1nm以下では製造することが困難であるか、または非常に高価となり実質的に使用することができず、体積平均粒子径が500nm以上ではトウプリプレグの製造工程における該トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を含浸させる工程において強化繊維で濾別され、トウプリプレグ中において分散状態が不均一になる場合があるので好ましくない。
【0044】
本発明において、構成要素[E]の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部中に、0.5〜30質量部配合されることが好ましく、1〜20質量部であればさらに好ましい。配合量が0.5質量部以上であれば、成形後の繊維強化複合材料に必要とされる破壊靭性が得られやすく、さらに、配合量が20質量部以下であれば、得られるトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなることを抑え、強化繊維に無理なく含浸できるため、トウプリプレグ用により適したものとなる。
【0045】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物には、硬化物の耐熱性や力学特性に対し著しい低下を及ぼさない範囲で1分子中に1個のエポキシ基しか有していないモノエポキシ化合物を適宜配合することができる。
【0046】
また、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物には、加熱硬化して得られる硬化物、ひいては該硬化物と強化繊維とで構成される繊維強化複合材料の物性を著しく低下させない範囲で可塑剤、染料、有機顔料や無機充填材、高分子化合物、酸化防止剤、紫外線吸収剤、カップリング剤、界面活性剤などを適宜配合することもできる。
【0047】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物は、未硬化の状態であれば各成分の配合割合は、赤外吸収分析(略称:IR)、水素−核磁気共鳴(略称:H−NMR)、炭素−13核磁気共鳴(略称:13C−NMR)、ガスクロマトグラフ−質量分析(略称:GC−MS)、高速液体クロマトグラフィー(略称:HPLC)などの分析方法を組み合わせることにより同定することができる。例えば、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を水、アルコール類、アセトニトリル、ジクロロメタン、トリフルオロ酢酸などの単独あるいは混合溶媒に溶解させた後、不純物を濾過し、上澄み液をHPLCで、濾別されたものをIRで測定するなどの方法を用いることができる。また、上記方法にて樹脂組成物に配合されている成分を同定することができ、得られた分子量やエポキシ基の数といった情報から、配合されているエポキシ樹脂成分のエポキシ当量を算出することもできる。
【0048】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物は、該エポキシ樹脂組成物を使用したトウプリプレグをボビンからの解舒する時や、繊維強化複合材料を成形するまでの工程において、毛羽の発生を抑制するため、25℃の温度における粘度が40Pa・s以下であることを必須とし、好ましくは20Pa・s以下であり、より好ましいのは10Pa・s以下である。なお、粘度測定は動的粘弾性装置ARES−2KFRTN1−FCO−STD(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、上部測定冶具に直径50mmの平板、下部測定冶具に平板底のカップを用い、上部と下部の冶具間距離が1mmとなるように該エポキシ樹脂組成物をセット後、ねじりモード(測定周波数:0.5Hz)で測定する。また、樹脂セッティングから所定温度の粘度を測定するまでの時間は15分以内とする。該エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度が40Pa・sより高い場合、トウプリプレグの製造において、強化繊維に該エポキシ樹脂組成物が完全に含浸できず、未含浸部が発生したり、得られたトウプリプレグをボビンから解舒したり、繊維強化複合材料を製造する工程において毛羽が発生したりする。本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度の下限には特に制限はなく、低いほど強化繊維への含浸性が向上し、得られるトウプリプレグの自己接着性を抑制して毛羽の発生を抑制できる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物の25℃の温度においる粘度を40Pa・s以下とするためには、本発明で使用される構成要素[A]〜[C]までを適切な範囲で配合することであり、特に構成要素[C]は粘度上昇に対する影響が大きいため、上述のとおり、構成要素[C]の配合量を、好ましくは全エポキシ樹脂成分100質量部中に5〜40質量部とすること、より好ましくは全エポキシ樹脂成分100質量部中に7〜25質量部とすることである。本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度の下限は特に制限が無く、粘度が低いほど強化繊維の含浸性およびボビンからの解舒性、工程通過性が向上するため、トウプリプレグ用途のマトリックス樹脂には好ましい。
【0050】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物は、80〜180℃の任意温度で、0.5〜10時間の範囲の任意時間で加熱することで架橋反応を進行させて硬化物を得ることができる。加熱条件は1段階でも良く、複数の加熱条件を組み合わせた多段階条件でも良い。特に燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器を想定した場合は、80〜150℃の温度の範囲の任意温度で、0.5〜5時間の範囲の任意時間で加熱硬化することにより、所望する硬化物の物性を得ることができる。
【0051】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を135℃の温度下で2時間かけて加熱硬化した硬化物のガラス転移温度は130℃以上であり、135℃以上であれば好ましい。ここでガラス転移温度は、JIS K7121(1987)に従い、DSC法にて求めた中間点温度である。測定装置には示差走査熱量計DSC Q2000(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、窒素ガス雰囲気下において昇温速度40℃/分で測定した。ガラス転移温度が130℃以上とすることで、該エポキシ樹脂組成物を適用した繊維強化複合材料、例えば圧力容器などを使用する環境温度により、繊維強化複合材料に発生するゆがみ、変形が原因となる力学物性の低下を抑制でき、耐環境性に優れた繊維強化複合材料が得られるため好ましい。ガラス転移温度の上限に特に制限はないが、一般的にエポキシ樹脂組成物の硬化物は240℃付近で熱分解を開始するため、230℃以上で力学物性の著しい低下が起こる可能性がある
また、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を135℃の温度下で2時間かけて加熱硬化した硬化物の25℃の温度における破壊靭性(モードIにおける臨界応力拡大係数:KIc)が0.8MPa/m0.5以上であることが好ましく、1MPa/m0.5以上であればさらに好ましい。25℃の温度におけるKIcを0.8MPa/m0.5以上とすることで、該エポキシ樹脂組成物を適用した繊維強化複合材料を繰り返し使用することで発生する疲労による力学物性の低下および破損を抑制でき、優れた疲労特性の繊維強化複合材料が得られる。25℃の温度におけるKIcの上限に特に制限はなく、この値が大きいほど、該エポキシ樹脂組成物を適用した繊維強化複合材料の疲労特性が向上する。
【0052】
本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を用いた好ましいトウプリプレグは、該トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を、フィラメントが20,000〜70,000本で構成される強化繊維束に含浸したものである。ここでいうフィラメント数は、複数ストランドで合糸して用いた場合、その全部のストランド数の合計を意味する。用いられるフィラメントの直径は、3〜20μmであることが好ましい。
【0053】
本発明のトウプリプレグで使用される強化繊維としては、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、ガラス繊維およびアラミド繊維等が挙げられ、特に軽量かつ高性能であり、優れた力学特性の繊維強化複合材料が得られる点で、炭素繊維が好ましく用いられる。
【0054】
かかる強化繊維として好ましく用いられる炭素繊維としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
【0055】
かかるアクリル系の炭素繊維は、例えば、次に述べる工程を経て製造することができる。アクリロニトリルを主成分とするモノマーから得られるポリアクリロニトリルを含む紡糸原液を、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、または溶融紡糸法により紡糸する。紡糸後の凝固糸は、製糸工程を経て、プリカーサーとし、続いて耐炎化および炭化などの工程を経て炭素繊維を得ることができる。
【0056】
炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができるが、有撚糸の場合は強化繊維束を構成するフィラメントの配合が平行ではないため、繊維強化複合材料の力学特性の低下の原因となることから、繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良い解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
【0057】
強化繊維として炭素繊維を用いる場合、20,000〜70,000フィラメントで構成され、単糸あたりの繊度が0.03〜0.07texの範囲であることが好ましく、より好ましくは30,000〜60,000フィラメントで構成され、単糸あたりの繊度が0.04〜0.05texである。ここで、繊度とは単糸1000m当たりの重量(以下、texと言う)を指す。炭素繊維の単糸繊度を0.03〜0.07texのような単糸繊度の小さい炭素繊維へのエポキシ樹脂組成物の含浸は困難であったが、本発明のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物は粘度が低いため、このような炭素繊維フィラメント数および単糸繊度がかかる範囲の炭素繊維にも製造時にエポキシ樹脂組成物が単繊維間に容易に含浸することができる。また、工程通過時の毛羽の発生が少なく、かつ所望するドレープ性を有するトウプリプレグを得ることができる。
【0058】
かかる炭素繊維は、引張弾性率が180〜400GPaの範囲であることが好ましい。弾性率がこの範囲より低いと、得られる繊維強化複合材料の剛性が不足し軽量化が不十分となる場合があり、逆に弾性率がこの範囲より高いと、一般に炭素繊維の強度が低下する傾向がある。より好ましい弾性率は、200〜370GPaの範囲内であり、さらに好ましくは220〜350GPaの範囲内である。ここで、炭素繊維の引張弾性率は、JIS R7601−2006に従い測定された値である。
【0059】
本発明のトウプリプレグは、様々な公知の方法で製造することができる。すなわち、該トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトンやメタノールなどの有機溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させた後、オーブンなどを用いて有機溶媒を蒸発させてトウプリプレグとするウェット法、あるいは、該トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を、有機溶媒を用いずに加熱により低粘度化し、強化繊維束を浸漬させながら含浸させるフィラメントワインディング法、加熱して低粘度化した該エポキシ樹脂組成物をロールや離型紙上にフィルム化し、次いで強化繊維束の片面、あるいは両面に転写したあと、屈曲ロールあるいは圧力ロールを通すことで加圧して含浸させるホットメルト法などで製造でき、トウプリプレグ中に残留する有機溶媒が実質的に皆無であり、高品位なトウプリプレグが製造できることから、ホットメルト法を好ましく用いることができる。
【0060】
本発明のトウプリプレグは、通常、前記した方法でエポキシ樹脂を含浸した後、一旦ボビンに巻き取り、繊維強化複合材料の成形工程にて巻き取ったボビンから再び解舒され、芯材に所定の角度で巻かれるが、前記含浸工程のあと、ボビンに巻き取らず、直接、芯材に所定の角度で巻いて繊維強化複合材料を成形することも可能である。
【0061】
本発明のトウプリプレグは、強化繊維の体積含有率(Vf)が50〜75%であることが好ましく、より好ましくは53〜72%である。体積含有率がかかる範囲より少ないと得られる繊維強化複合材料の重量が重くなり、また、応力集中の影響で強度が低下する傾向がある。また、強化繊維の体積含有率がかかる範囲より多いと得られる繊維強化複合材料内部に未含浸部分やボイドのような欠陥部分が発生することが非常に多く、物性低下を起こしてしまうことがある。
また、本発明のトウプリプレグは、繊維強化複合材料の製造工程において、ボビンに巻き取られた該トウプリプレグが解舒され、次いで工程中に配置された複数のロールを通過してマンドレルに供給される。そのため、解舒時および工程通過時に強化繊維が毛羽立たないことが必要である。
【0062】
本発明のトウプリプレグは擦過毛羽数が、トウプリプレグ1m当たり20個以下であることが好ましく、15固以下であればさらに好ましい。擦過毛羽数が1m当たり20個以下とすることで、高品位であり、所望する力学物性を有する繊維強化複合材料が得られるため好ましい。擦過毛羽数の下限に特に制限はなく、0個であれば最も好ましい。ここで擦過毛羽数は次の方法で求めることができる。
【0063】
すなわち、該トウプリプレグが巻かれたボビンを、温度23±5℃、相対湿度60±20%に管理された温調室に30分以上放置する。次いで、かかる温調室内にある擦過毛羽装置のクリールに該トウプリプレグが巻かれたボビンを設置する。ボビンから該トウプリプレグを引き出し、擦過毛羽装置に通して糸道を作製する。糸道は、ボビンから引き出された該トウプリプレグは、先ず表面が硬質クロムメッキされ、かつ鏡面仕上げされ、直径が20mmのステンレス製自由回転式フリーガイドバーを通り、任意の角度で屈曲される。
【0064】
次いで、表面を硬質クロムメッキされ、鏡面仕上げではない、直径が20mmのステンレス製固定ガイドバー1に通される。この時、該トウプリプレグは、進行方向から100度の角度で屈曲されるように設定することで、該トウプリプレグに十分な摩擦が加えられ、擦過毛羽が発生しやすい状況となる。固定ガイドバー1を通った該トウプリプレグは固定ガイドバー1と同一材料の固定ガイドバー2を通されることで任意の角度に屈曲された後、毛羽カウンターを通り、再度ボビンに巻き取られる。毛羽カウンターは、ランプ光を走行しているトウプリプレグに照射し、その照射光をレンズで集光せしめた状態で、フォトトランジスタで毛羽数を検出するものである。検出精度としては、長さ2mm以上で、かつ炭素繊維の単繊維径が3ミクロン以上の毛羽を検出することができる。該トウプリプレグの走行速度を7.5m/分、該トウプリプレグがボビンから解舒される時の解舒張力を0.3〜0.5kgf/本に調整して走行を開始し、糸道が安定したことを確認後、毛羽カウンターを作動させて、走行状態での擦過毛羽の評価を、サンプル毎に1分間測定を3回繰り返す。それぞれ1分間でカウントされた擦過毛羽数をX1、X2、X3として、下式(1)から擦過毛羽数X[個/m]を算出する。
式(1):X=(X1+X2+X3)/22.5。
【0065】
本発明のトウプリプレグは、従来から知られている様々な方法によって繊維強化複合材料とすることができる。例えば、該トウプリプレグをテープワインド法により、芯材の軸に対して所定の角度で巻回した後、オーブン中で加熱して硬化することで中空の管状繊維強化複合材料を得ることができる。硬化させる時に芯材に巻回したものの表面に熱収縮性のテープを巻いてもよい。熱収縮性のテープを芯材に巻回したものの表面に巻くと、硬化時にテープが収縮することによって圧力が加わり、得られる中空の管状繊維強化複合材料の表面品位が向上し、内部に発生するボイドを抑制することができる。
【0066】
また、別の繊維強化複合材料を作製する方法としては、該トウプリプレグをテーププレースメント法により、剛体ツールの上に積層し、その後可撓性フィルムでシールした後、剛体ツールと可撓性フィルムの間を真空ポンプにて吸引して脱気し、オートクレーブに設置後、加熱、加圧することで、任意形状を有した繊維強化複合材料を得ることができる。
【0067】
ここで、剛体ツールの材質としては、スチールやアルミニウム等の金属、繊維強化プラスチック(FRP)、木材および石膏など既存の各種のものが用いられる。可撓性のフィルムの材料には、ナイロン、フッ素樹脂およびシリコーン樹脂等が用いられる。
【0068】
本発明のプリプレグを用いて製造された繊維強化複合材料は、外部からの衝撃に対する耐衝撃性に優れることから、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に使用することができ、特に燃料電池に使用されるような水素ガスなどを充填する高圧力容器に好適に使用することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。
【0070】
<エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物の粘度測定>
各実施例および比較例で用いられるエポキシ樹脂、ならびに各実施例および比較例で得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の粘度は、動的粘弾性装置ARES−2KFRTN1−FCO−STD(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、上部測定冶具に直径50mmの平板、下部測定冶具に平板底のカップを用い、上部と下部の冶具間距離が1mmとなるように得られたエポキシ樹脂組成物をセットし、ねじりモード(測定周波数:0.5Hz)で測定した。また、樹脂セッティングから所定温度の粘度を測定するまでの時間は15分以内とした。
【0071】
<樹脂硬化物の破壊靱性(KIc)の測定方法>
各実施例および比較例で得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を所定の型枠内に注入し、熱風オーブン中で室温から135℃の温度まで1分間に1.5℃ずつ昇温した後、135℃の温度下で2時間保持して該エポキシ樹脂組成物を硬化した。次いで、135℃の温度から室温まで1分間に2.5℃ずつ降温し、型枠から脱型することで、6mm厚の樹脂硬化板を作製した。得られた樹脂硬化板を、ASTM D5045−99に記載の試験片形状に加工を行った後、ASTM D5045−99に従ってKIc試験を行った。サンプル数は5とした。
【0072】
<ガラス転移温度の測定>
得られた樹脂硬化板のから小片(5〜10mg)を採取し、JIS K7121(1987)に従い、中間点ガラス転移温度(Tmg)を測定した。測定には示差走査熱量計DSC Q2000(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用い、窒素ガス雰囲気下において昇温速度40℃/分で測定した。サンプル数は2とした。
【0073】
<トウプリプレグの作製>
各実施例および比較例で得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物を以下の方法によるホットメルト法により、強化繊維束に含浸し、トウプリプレグとした。
【0074】
具体的には、強化繊維を送り出すクリール、強化繊維束を開繊する拡幅バー、プレヒーター、エポキシ樹脂組成物を含浸する溝付きキスロール、絞り(含浸)ロール、引取ロールおよび巻取り用ワインダーを備えたトウプリプレグ製造装置に強化繊維束を通し、糸道を作る。この際、任意のフィラメント数にするため、糸を数本合糸してもよい。該エポキシ樹脂組成物は、ダイヤフラム式のチューブポンプにて溝付きキスロールに供給される。キスロール部には掻き取りブレードが設置されており、キスロールとブレードのキャップを調整することで得られるトウプリプレグのVf(強化繊維の体積含有率)を調整する。ボビンから送り出された強化繊維束は、開繊された後、該エポキシ樹脂組成物が供給されたキスロールの溝部分を通過することで、該エポキシ樹脂組成物が供給される。次いで、絞りロールを通過することで該エポキシ樹脂組成物が強化繊維束内部まで含浸される。最後に引取ロールを通った後、ワインダーにて巻き取ることで、トウプリプレグのボビンとした。
【0075】
なお、トウプリプレグを作製する際のライン速度は10m/分、巻取ライン張力は3200kgfとした。
【0076】
<トウプリプレグのVf測定>
各実施例および比較例で得られたトウプリプレグから1mを採取して重量を測定した。得られたトウプリプレグ1m当たりの重量から、使用した強化繊維の重量(繊度を1000で除した値)を引き、樹脂組成物の重量を算出する。強化繊維の重量を強化繊維の密度で除して、体積に換算する。同様に算出した樹脂組成物の重量を、樹脂組成物の密度で除して体積換算する。尚、樹脂組成物の密度はJIS K7232(1986)に従い測定する。算出された強化繊維の体積を、強化繊維の体積と樹脂組成物の体積を足した値で除し、100をかけてVf(繊維体積含有量)とした。
【0077】
<擦過毛羽数の測定>
各実施例および比較例で得られたトウプリプレグのボビンを、温度23±5℃、相対湿度60±20%に管理された温調室に30分以上放置した後、次の方法にて測定した。かかる温調室内にある擦過毛羽装置のクリールに該トウプリプレグが巻かれたボビンを設置する。ボビンから該トウプリプレグを引き出し、擦過毛羽装置に通して糸道を作製する。糸道は、ボビンから引き出された該トウプリプレグは、先ず表面が硬質クロムメッキされ、かつ鏡面仕上げされ、直径が20mmのステンレス製自由回転式フリーガイドバーを通り、任意の角度で屈曲される。次いで、表面を硬質クロムメッキされ、鏡面仕上げではない、直径が20mmのステンレス製固定ガイドバー1に通される。この時、該トウプリプレグは、進行方向から100度の角度で屈曲されるように設定する。固定ガイドバー1を通った該トウプリプレグは固定ガイドバー1と同一材料の固定ガイドバー2を通されることで任意の角度に屈曲された後、毛羽カウンターを通り、再度ボビンに巻き取られる。毛羽カウンターは、ランプ光を走行しているトウプリプレグに照射し、その照射光をレンズで集光せしめた状態で、フォトトランジスタで毛羽数を検出するものである。検出精度としては、長さ2mm以上で、かつ炭素繊維の単繊維径が3ミクロン以上の毛羽を検出することができる。該トウプリプレグの走行速度を7.5m/分、該トウプリプレグがボビンから解舒される時の解舒張力を0.3〜0.5kgf/本に調整して走行を開始し、糸道が安定したことを確認後、毛羽カウンターを作動させて、走行状態での擦過毛羽の評価を、サンプル毎に1分間測定を3回繰り返す。それぞれ1分間でカウントされた擦過毛羽数をX1、X2、X3として、下式(1)から擦過毛羽数X[個/m]を算出した。
式(1):X=(X1+X2+X3)/22.5。
【0078】
<各実施例および比較例で使用した原料>
構成要素[A]
・“ARALDITE”(登録商標) MY0510(N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)アニリン、ハンツマン・ジャパン(株)製)
構成要素[B]
・“jER”(登録商標)806(液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、25℃における粘度2.3Pa・s、三菱化学(株)製)
・“エポトート”(登録商標)YD−128(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、25℃における粘度14Pa・s、新日鐵化学(株)製)
・“jER”(登録商標)825(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、25℃における粘度5Pa・s、三菱化学(株)製)。
【0079】
構成要素[C]
・“jER”(登録商標)1001(固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量475g/eq、三菱化学(株)製)
・“エポトート”(登録商標)YDF−2001(固形ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量475g/eq、新日鐵化学(株)製)
・“jER”(登録商標)1007(固形ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量1925g/eq、三菱化学(株)製)。
【0080】
構成要素[D]
・“リカシッド”MH700(4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸、酸無水物当量164g/eq、新日本理化(株)製)
・HN−2200(3or4−メチル−1,2,3,6,−テトラヒドロ無水フタル酸、酸無水物当量151g/eq、日立化成工業(株)製)。
【0081】
構成要素[E]
・“カネエース”(登録商標)MX−125(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(75質量%、構成要素[B]に対応)、コアシェルポリマー(25質量%、コア:スチレンとブタジエンの共重合体、体積平均粒子径:100nm)、(株)カネカ製)
・“カネエース”(登録商標)MX−113(ビスフェノールA型エポキシ樹脂(67質量%、構成要素[B]に対応)、コアシェルポリマー(33質量%、コア:スチレンとブタジエンの共重合体、体積平均粒子径:100nm)、(株)カネカ製)。
【0082】
その他
・“ホクコーTPP”(登録商標)(トリフェニルホスフィン、北興化学工業(株)製)
・“カオーライザー”(登録商標)No.20(N,N−ジメチルベンジルアミン、花王(株)製)
炭素繊維
・“トレカ”(登録商標)T700SC−12000(引張強度4.9GPa、引張弾性率230GPa、伸び2.1%、繊維比重1.80、単糸繊度0.067tex、東レ(株)製)
・“トレカ”(登録商標)T700SC−24000(引張強度4.9GPa、引張弾性率230GPa、伸び2.1%、繊維比重1.80、単糸繊度0.067tex、東レ(株)製)
・“トレカ”(登録商標)T800SC−24000(引張強度5.88GPa、引張弾性率294GPa、伸び2%、繊維比重1.80、単糸繊度0.043tex、東レ(株)製)
・“トレカ”(登録商標)M30SC−18000(引張強度5.49GPa、引張弾性率294GPa、伸び1.9%、繊維比重1.73、単糸繊度0.042tex、東レ(株)製)。
【0083】
<実施例1>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[A]として“ARALDITE”(登録商標) MY0510を20g、構成要素[B]として“jER”(登録商標)806を64g、構成要素[C]として“エポトート”(登録商標)YDF−2001を16g、ビーカーに投入後、120℃の温度まで加温し、30分間かけて撹拌混練を行った。“エポトート”(登録商標)YDF−2001の形状がなく、均一に溶解していることを確認後、25℃の温度まで冷却した。別途、ビーカーにて“リカシッド”(登録商標)MH700と“カオーライザー”(登録商標)No.20を103対1(質量比)となるように、25℃の温度で混合し、得られた液状物104gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練してトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0084】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って測定した結果、0.5Pa・sであり、トウプリプレグに適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は135℃、樹脂靭性は1.0MPa/m0.5と高い値であった。
【0085】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ”(登録商標)M30SC−18000を2本合糸し、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0086】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、73%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、8個/mと少ない値であり、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れていた。
【0087】
<実施例2>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[A]として“ARALDITE”(登録商標)MY0510を7g、構成要素[B]として“エポトート”(登録商標)YD−128を49g、構成要素[C]として“jER”(登録商標)1001を8g、ビーカーに投入後、120℃の温度まで加温し、30分間かけて撹拌混練を行った。“jER”(登録商標)1001の形状がなく、均一に溶解していることを確認後、25℃の温度まで冷却し、次いで“カネエース”(登録商標)MX−125を48g投入し、撹拌混練した。別途、ビーカーにて“リカシッド”(登録商標)MH700と“ホクコーTPP”(登録商標)を90対1(質量比)となるように、80℃の温度で混合し、25℃の温度まで冷却した。得られた液状物91gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練し、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0088】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って測定した結果、0.3Pa・sであり、トウプリプレグ用に適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は133℃、樹脂靭性は1.1MPa/m0.5と高い値であった。
【0089】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ”(登録商標)T700SC−24000を用い、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0090】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、75%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、7個/mと少ない値であり、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れていた。
【0091】
<実施例3>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[A]として“ARALDITE”(登録商標)MY0510を10g、構成要素[B]として“jER”(登録商標)806を60g、構成要素[C]として“エポトート”(登録商標)YDF−2001を30g、ビーカーに投入後、120℃の温度まで加温し、30分間かけて撹拌混練を行った。“エポトート”(登録商標)YDF−2001の形状がなく、均一に溶解していることを確認後、25℃の温度まで冷却した。別途、ビーカーにてHN−2200と“カオーライザー”No.20を80対1(質量比)となるように、25℃の温度で混合した。得られた液状物81gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練し、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0092】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って測定した結果、0.8Pa・sであり、トウプリプレグ用に適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は130℃、樹脂靭性は1.0MPa/m0.5と高い値であった。
【0093】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ”(登録商標)T800SC−24000を用い、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0094】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、72%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、5個/mと少ない値であり、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れていた。
【0095】
<実施例4>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[A]として“ARALDITE”(登録商標)MY0510を13g、構成要素[B]として“jER”(登録商標)825を30g、構成要素[C]として“エポトート”(登録商標)YDF−2001を28g、ビーカーに投入後、120℃の温度まで加温し、30分間かけて撹拌混練を行った。“エポトート”(登録商標)YDF−2001の形状がなく、均一に溶解していることを確認後、25℃の温度まで冷却し、次いで、“カネエース”(登録商標)MX−113を45g投入して撹拌混練した。別途、ビーカーにてHN−2200と“カオーライザー”No.20を81対1(質量比)となるように、25℃の温度で混合した。得られた液状物82gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練し、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0096】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って測定した結果、0.7Pa・sであり、トウプリプレグ用に適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は133℃、樹脂靭性は1.5MPa/m0.5と高い値であった。
【0097】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ”(登録商標)M30SC−18000を2本合糸し、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0098】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、73%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、3個/mと少ない値であり、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れていた。
【0099】
<実施例5>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[A]として“ARALDITE”(登録商標)MY0510を25g、構成要素[B]として“エポトート”(登録商標)YD−128を29g、構成要素[C]として“エポトート”(登録商標)YDF−2001を20g、ビーカーに投入後、120℃の温度まで加温し、30分間かけて撹拌混練を行った。“エポトート”(登録商標)YDF−2001の形状がなく、均一に溶解していることを確認後、25℃の温度まで冷却し、次いで、“カネエース”(登録商標)MX−113を39g投入し、撹拌混練した。別途、ビーカーにて“リカシッド”MH700と“ホクコーTPP”(登録商標)を99対1(質量比)となるように、80℃の温度で溶解混練し、25℃の温度まで冷却した。得られた液状物100gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練し、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0100】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って測定した結果、0.6Pa・sであり、トウプリプレグ用に適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は146℃、樹脂靭性は1.3MPa/m0.5と高い値であった。
【0101】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ”(登録商標)M30SC−18000を2本合糸し、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0102】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、73%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、7個/mと少ない値であり、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れていた。
【0103】
<比較例1>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[A]として“ARALDITE”(登録商標)MY0510を25g、構成要素[B]として“jER”(登録商標)806を30g、“カネエース”(登録商標)MX−125を60g、ビーカーに投入後、25℃の温度で撹拌混練した。別途、ビーカーにて“リカシッド”(登録商標)MH700と“カオーライザー”(登録商標)No.20を114対1(質量比)となるように、25℃の温度で混合した。得られた液状物115gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練し、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0104】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って測定した結果、0.1Pa・sであり、トウプリプレグ用に適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は137℃と高い値であったが、樹脂靭性は0.7MPa/m0.5と低い値であった。
【0105】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ”(登録商標)T800SC−24000を用い、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0106】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、71%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、5個/mと少ない値であり、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れていた。
【0107】
<比較例2>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[B]として“エポトート”(登録商標)YD−128を55g、構成要素[C]として“jER”(登録商標)1001を25g、ビーカーに投入後、120℃の温度まで加温し、30分間かけて撹拌混練を行った。“jER”(登録商標)1001の形状がなく、均一に溶解していることを確認後、25℃の温度まで冷却し、次いで、“カネエース(登録商標)”MX−113を30g投入し、撹拌混練した。別途、ビーカーにて“リカシッド”MH700と“ホクコーTPP”(登録商標)を75対1(質量比)となるように、80℃の温度で混合し、25℃の温度まで冷却した。得られた液状物76gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練し、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0108】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って測定した結果、0.9Pa・sであり、トウプリプレグ用に適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は91℃と低い値であったが、樹脂靭性は1.1MPa/m0.5と高い値であった。
【0109】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ”(登録商標)M30SC−18000を2本合糸し、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0110】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、72%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、6個/mと少ない値であり、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れていた。
【0111】
<比較例3>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[A]として“ARALDITE”(登録商標)MY0510を25g、構成要素[B]として“jER”(登録商標)806を44g、構成要素[C]として“jER”(登録商標)1007を10g、ビーカーに投入後、140℃の温度まで加温し、30分間かけて撹拌混練を行った。“jER”(登録商標)1007の形状がなく、均一に溶解していることを確認後、25℃の温度まで冷却し、次いで、“カネエース”(登録商標)MX−125を28g投入し、撹拌混練した。別途、ビーカーにてHN−2200と“ホクコーTPP”(登録商標)を98対1(質量比)となるように、80℃の温度で混合し、25℃の温度まで冷却した。得られた液状物99gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練し、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0112】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って測定した結果、9Pa・sであり、トウプリプレグ用に適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は120℃と低い値であったが、樹脂靭性は1.0MPa/m0.5と高い値であった。
【0113】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ”(登録商標)T800SC−24000を用い、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0114】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、75%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、20個/m以上と非常に多く、ボビンからの解舒性および工程通過性が悪いものであった。
【0115】
<比較例4>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[A]として“ARALDITE”(登録商標)MY0510を11g、構成要素[B]として“jER”(登録商標)806を20g、構成要素[C]として“jER”(登録商標)1001を55g、ビーカーに投入後、120℃の温度まで加温し、30分間かけて撹拌混練を行った。“jER”(登録商標)1001の形状がなく、均一に溶解していることを確認後、25℃の温度まで冷却し、次いで、“カネエース”(登録商標)MX−113を21g投入し、撹拌混練した。別途、ビーカーにて“リカシッド”MH700と“カオーライザー”No.20を71対1(質量比)となるように、25℃の温度で混合した。得られた液状物72gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練し、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0116】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って速やかに測定した結果、5Pa・sであり、トウプリプレグ用に適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は120℃と低い値になり、樹脂靭性は1.0MPa/m0.5と高い値であった。
【0117】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ”(登録商標)M30SC−18000を2本合糸し、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0118】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、73%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、18個/mと少なく、ボビンからの解舒性および工程通過性に優れていた。
【0119】
<比較例5>
[エポキシ樹脂組成物の調製]
表1に示す配合割合にて混合する。具体的には、構成要素[A]として“ARALDITE”(登録商標)MY0510を15g、構成要素[B]として“jER”(登録商標)806を46g、構成要素[C]として“エポトート”(登録商標)YDF−2001を15g、ビーカーに投入後、120℃の温度まで加温し、30分間かけて撹拌混練を行った。“エポトート”(登録商標)YDF−2001の形状がなく、均一に溶解していることを確認後、25℃の温度まで冷却し、次いで、“カネエース”(登録商標)MX−113を36g投入し、撹拌混練した。別途、ビーカーにて“リカシッド”(登録商標)MH700と“カオーライザー”No.20を99対1(質量比)となるように、25℃の温度で混合した。得られた液状物100gを、前記で得られたエポキシ樹脂の混合物に投入し、速やかに撹拌混練し、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物とした。
【0120】
[エポキシ樹脂組成物の特性]
得られたトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物の25℃の温度における粘度を前記した方法に従って測定した結果、0.8Pa・sであり、トウプリプレグ用に適したものであった。また、前記した方法により樹脂硬化物を作製し、ガラス転移温度および破壊靭性を測定した結果、ガラス転移温度は131℃、樹脂靭性は1.1MPa/m0.5と高い値であった。
【0121】
[トウプリプレグの作製]
強化繊維束として“トレカ(登録商標)”T700SC−12000を10本合糸し、前記方法にてトウプリプレグを作製した。
【0122】
[トウプリプレグの特性]
得られたトウプリプレグを前記方法にてVfを測定したところ、72%であった。また、前記方法にて擦過毛羽数を測定したところ、20個/m以上と非常に多く、ボビンからの解舒性および工程通過性が悪いものであった。
【0123】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも次の構成要素[A]〜[D]を含み、25℃における粘度が40Pa・s以下であるエポキシ樹脂組成物であって、該エポキシ樹脂組成物を135℃の温度で2時間硬化した硬化物のガラス転移温度が130℃以上であり、破壊靭性が0.8MPa/m0.5以上である、トウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物。
[A]N,N−ビス(2,3−エポキシプロピル)−4−(2,3−エポキシプロポキシ)アニリン
[B]1分子中に2個のエポキシ基を有し、25℃における粘度が70Pa・s以下であるエポキシ樹脂
[C]エポキシ当量が350〜700g/eqの範囲であり、25℃において固形であるエポキシ樹脂
[D]酸無水物
【請求項2】
構成要素[E]として、コア成分が少なくともスチレンとブタジエンが含まれる共重合体であり、シェル成分が少なくともメタクリル酸メチルとスチレンを含み、かつエポキシ樹脂と反応する官能基を有するものであるコアシェルポリマーを含む、請求項1に記載のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
構成要素[E]であるコアシェルポリマーの体積平均粒子径が1〜500nmである、請求項2に記載のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
構成要素[C]の配合量が、全エポキシ樹脂成分100質量部中に対して5〜40質量部である、請求項1〜3のいずれかに記載のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のトウプリプレグ用エポキシ樹脂組成物が、20,000〜70,000フィラメントからなる強化繊維束に含浸されてなるトウプリプレグ。
【請求項6】
強化繊維が炭素繊維である、請求項5に記載のトウプリプレグ。
【請求項7】
炭素繊維の単糸あたりの繊度が0.03〜0.07texの範囲である、請求項6に記載のトウプリプレグ。
【請求項8】
強化繊維の体積含有率が50〜75%である、請求項5〜7のいずれかに記載のトウプリプレグ。
【請求項9】
擦過毛羽評価方法で測定された擦過毛羽数が、1m当たり20個以下である、請求項5〜8に記載のトウプリプレグ。

【公開番号】特開2012−56980(P2012−56980A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198524(P2010−198524)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】