説明

トランスミッション支持構造

【課題】 最低地上高を確保するとともに、車体剛性を確保しつつ前面衝突時には剛性部材とともにトランスミッションを容易に脱落させる。
【解決手段】 鞍型構成のクロスメンバ1にトランスミッションTを支持部3、4にて吊り下げ、前記クロスメンバ1の下方にクロスメンバ1の両端部を連結するスティフナー2を配設するとともに、該スティフナー2に、正面視で前記支持部3、4あるいはトランスミッションTと干渉する干渉部Lを形成して、クロスメンバ1を効果的に補剛し、車体幅方向の車体剛性を確保して、操縦安定性、耐振動・耐騒音性能を向上させ、前面衝突時には、スティフナー2がトランスミッションTあるいはその支持部3、4と干渉して容易に脱落し、トランスミッションTの後退を妨げず、フレーム等の変形による衝撃吸収を促進できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体フロアトンネルに適合する鞍型構成のクロスメンバにトランスミッションを支持部にて吊り下げて支持させたトランスミッション支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、直進走行や操舵走行の際の迅速な応答での安定した運転が可能な操縦安定性は、車体フレームの剛性や懸架装置の硬さに左右される。一方、走行中の乗心地は適度の柔軟性を有する懸架装置が好適である。しかしながら、懸架装置が柔らか過ぎたり、車体剛性が低すぎると不快感が生じる。また、車体の剛性が低いと、荒れた路面での走行時に振動によりドラミングが発生する虞れがあった。このような操縦安定性に大きな影響をもたらす車体の剛性については、種々の技術が施されている。
【0003】
一方、後輪駆動車や四輪駆動車に多用されているエンジン縦置きパワーユニットを車体に支持する際には、パワーユニットにおけるトランスミッションの後部近傍をフロアトンネル部に支持することになる。そして近年では、前面衝突時にパワーユニットが車室空間内に侵入することを防止するために、前面衝突時にはパワーユニットを比較的容易に脱落させるように構成している。通常、パワーユニット後部のトランスミッションをフロアトンネルに支持するには、フロアトンネルに適合する鞍型構成としたクロスメンバを用いている。そのようなトランスミッションマウント構造の典型例として下記特許文献1に開示されたものがある。
【特許文献1】実開平6−55955号公報(請求項1参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に開示された自動車用の車体構造は、図7に示すように、車体の下部に形成されたフロアトンネル部32内において、車体前後方向に配置された駆動系部材(パワーユニット)31が断面ハット形の遮熱板(クロスメンバ)16によりフロアパネル21に支持される。遮熱板16は駆動系部材31の下部を支持し、遮熱板16とフロアパネル21との間には緩衝材22が介設される。遮熱板16には、前後方向に複数の突起部18を形成して空気流を円滑にしたので、駆動系部材31と遮熱板16との間のクリアランスを小さくできることとなった。
【0005】
しかしながら、前面衝突時の駆動系部材31の落下対策は何ら講じられていないため、前面衝突時に駆動系が脱落しないまま後退し、車室空間に悪影響を招く虞れがある他、駆動系からの衝撃が遮熱板16を介してフロアトンネル部32に伝達されてフロアトンネル部32が変形してしまい、車室空間に悪影響を招く虞れがあった。
【0006】
そこで本発明は、前記従来の自動車の車体構造の諸課題を解決して、鞍型クロスメンバを用いて車体剛性を確保しつつ前面衝突時には剛性部材とともにトランスミッションを容易に脱落させることが可能なトランスミッション支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明は、車体フロアトンネルに適合する鞍型構成のクロスメンバにトランスミッションを支持部にて吊り下げて支持させたトランスミッション支持構造において、前記クロスメンバの下方にクロスメンバの両端部を連結するスティフナーを配設するとともに、該スティフナーに、正面視で前記支持部あるいはトランスミッションと干渉する干渉部を形成したことを特徴とする。また本発明は、前記スティフナーのクロスメンバへの取付具を介した連結部に、車体幅方向外側に開放したスリットを形成したことを特徴とする。また本発明は、前記スティフナーに、前記支持部あるいはトランスミッション側に突出する干渉部を形成したことを特徴とする。また本発明は、前記支持部あるいはトランスミッションに、前記スティフナー側に突出する干渉部を形成したことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車体フロアトンネルに適合する鞍型構成のクロスメンバにトランスミッションを支持部にて吊り下げて支持させたトランスミッション支持構造において、前記クロスメンバの下方にクロスメンバの両端部を連結するスティフナーを配設するとともに、該スティフナーに、正面視で前記支持部あるいはトランスミッションと干渉する干渉部を形成したことにより、スティフナーがトランスミッションを吊下げ支持する鞍型のクロスメンバを効果的に補剛し、サスペンション入力に対する車体幅方向の車体剛性を確保して、操縦安定性、耐振動・耐騒音性能が向上し、車体への取付部剛性も向上して振動・騒音性能も向上する上、前面衝突時には、スティフナーがトランスミッションあるいはその支持部と干渉して容易に脱落し、トランスミッションの後退を妨げることなく、フロントフレーム等の変形による衝撃吸収を促進できる。
【0009】
また、前記スティフナーのクロスメンバへの取付具を介した連結部に、車体幅方向外側に開放したスリットを形成した場合は、前面衝突時に、トランスミッションやその取付部に押されて内側後方に向かうスティフナーが、車体への取付具からの脱落がさらに容易に行われて、トランスミッションの後退を妨げることなく、フロントフレーム等の変形による衝撃吸収をより促進できる。さらに、前記スティフナーに、前記支持部あるいはトランスミッション側に突出する干渉部を形成した場合は、スティフナーに僅かな改良を加えて干渉部を形成することで、確実にスティフナーとトランスミッションあるいはその支持部とを干渉させて、前面衝突時にスティフナーを脱落させることが可能となる。
【0010】
さらにまた、前記支持部あるいはトランスミッションに、前記スティフナー側に突出する干渉部を形成した場合は、スティフナーの形状はそのままにして、トランスミッションあるいはその支持部側に僅かな改良を加えて干渉部を形成することで、確実にスティフナーとトランスミッションあるいはその支持部とを干渉させて、前面衝突時にスティフナーを脱落させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本発明のトランスミッション支持構造の基本的な構成は、図1に示すように、車体フロアトンネルに適合する鞍型構成のクロスメンバ1にトランスミッションTを支持部3、4にて吊り下げて支持させたトランスミッション支持構造において、前記クロスメンバ1の下方にクロスメンバ1の両端部を連結するスティフナー2を配設するとともに、該スティフナー2に、正面視で前記支持部3、4あるいはトランスミッションTと干渉する干渉部Lを形成したことを特徴とする。
【実施例1】
【0012】
図1および図2は本発明のトランスミッション支持構造の実施例1を示すもので、図1(A)は底部前方から見た斜視図、図1(B)はトランスミッションが省略された正面図、図2はスティフナーの底面図である。図示省略の断面形状が台形の車体フロアトンネルに適合する鞍型構成のクロスメンバ1の両側下端部が、車体フロアトンネルの両側のフロアパネルに固定される。本実施例では、図1(A)の底面図に示すように、鞍型構成のクロスメンバ1の下方に開いた両端部を補強すべく、クロスメンバ1にスティフナー2の両端部8、9を固定する取付ボルト10、10および11、11が、クロスメンバ1のフロアパネルへの取付けのための取付ボルトを兼用する。図2に示すように、スティフナー2の両端部8、9には、取付具である前記取付ボルト10、11等を介した連結部に、車体幅方向外側に開放したスリット12、13が形成される。これらのスリット12、13に取付ボルト10、10および11、11が挿入される。
【0013】
鞍型構成のクロスメンバ1に対して、トランスミッションTが吊下げ支持される。クロスメンバ1の側壁傾斜部に吊下げブラケット3を設置し、該吊下げブラケット3に対して吊下げボルト5を介してクッションブラケット4が支持される。クッションブラケット4の上下の端部に配設されたミッション取付ボルト6、7により、トランスミッションTの後端部近傍のケーシングの適宜部位を支持して吊り下げる。したがって、トランスミッションTを吊り下げるクロスメンバ1の下方には、スティフナー2のみが配設されるだけで、スティフナー2により効果的に補強されたクロスメンバ1への吊下げ支持により、最低地上高を確保しつつ、トランスミッションTを可及的に低く取り付けて低重心化が可能となり、走行安定性に寄与できる。
【0014】
本発明では、図1(B)に示すように、正面視で、スティフナー2とトランスミッションTあるいはその支持部3、4とが干渉する干渉部Lを形成したことを特徴とする。図示の例では、クッションブラケット4の下部がスティフナー2の上方に湾曲した部分と干渉するように構成される。したがって、前面衝突時に衝撃荷重を受けて、図面手前側から紙背(車両後方)側に移動するトランスミッションTにより、クッションブラケット4が後方に押されてスティフナー2と干渉し、クロスメンバ1の補強部材であるスティフナー2を後方へ押しつけで脱落させる。 図2に示すように、クッションブラケット4を介してトランスミッションTからの荷重TFを前方から受けたスティフナー2は内側後方(図面上方)に向かって変形し、スティフナー2の両端部8、9に形成された車体幅方向外側に開放したスリット12、13に挿入固定された取付ボルト10、11から容易に離脱する。
【0015】
かくして、通常走行時には、スティフナー2がトランスミッションTを吊下げ支持する鞍型のクロスメンバ1を効果的に補剛し、サスペンション入力に対する車体幅方向の車体剛性を確保して、操縦安定性、耐振動・耐騒音性能が向上し、車体への取付部剛性も向上して振動・騒音性能も向上する上、前面衝突時には、スティフナー2がトランスミッションTあるいはその支持部と干渉して容易に脱落し、トランスミッションTの後退を妨げることなく、フロントフレーム等の変形による衝撃吸収を促進できる。鞍型構成のクロスメンバ1についても、補強部材であるスティフナー2が脱落することによって、比較的容易に変形して衝撃吸収機能が発揮される。
【実施例2】
【0016】
図3は本発明のトランンスミッション支持構造の実施例2を示すスティフナーの底面図である。本実施例では、スティフナー2の両端部8、9に形成された車体幅方向外側に開放したスリット12、13として、クッションブラケット4等を介したトランスミッションTからの荷重TFを前方から受けたスティフナー2の内側後方に向かう変形方向に一致させたスリット12、13としたものである。つまり、スティフナー2の両端部8、9に形成されるスリット12、13を斜め前方へ向けて形成したものである。これにより、トランスミッションTからの荷重TFを前方から受けたスティフナー2の内側後方に向かう変形に沿って、スリット12、13が取付ボルト10、11から容易に外れるので、スティフナー2が最小の変形にて容易に脱落する。
【実施例3】
【0017】
図4は本発明のトランンスミッション支持構造の実施例3を示すもので、図4(A)は正面図、図4(B)は図4(A)のA−A断面図である。本実施例のものは、スティフナーとトランスミッションあるいはその支持部と干渉させるものとして、スティフナー2に、前記トランスミッションTあるいは支持部3、4側に突出する干渉部14を構成したものである。図示の例では、スティフナー2の上面に側面視で断面L字状の干渉ブラケット14を設置したものである。これにより、衝突前(図4(B))のトランスミッションT’や支持部3’、4’(点線位置)が、衝突後のトランスミッションTや支持部3、4の位置にて干渉する干渉部Lを、スティフナー2に形成したので、スティフナー2に僅かな改良を加えて干渉部Lを形成することで、確実にスティフナー2とトランスミッションTあるいはその支持部3、4とを干渉させて、前面衝突時にスティフナー2を有効に脱落させることが可能となる。
【実施例4】
【0018】
図5は本発明のトランンスミッション支持構造の実施例4を示すもので、図5(A)は正面図、図5(B)は図5(A)のB−B断面図である。本実施例のものは、スティフナーとトランスミッションあるいはその支持部と干渉させるものとして、前記トランスミッションTあるいは支持部3、4に、スティフナー2側に突出する干渉部Lとして、アングル状の係止突起15を形成したものである。これにより、スティフナー2の形状はそのままにして、トランスミッションTあるいはその支持部3、4側に僅かな改良を加えて干渉部Lを形成することで、確実にスティフナー2とトランスミッションTあるいはその支持部3、4とを干渉させて、前面衝突時に、トランスミッションTあるいは支持部3、4により、スティフナー2を確実にを脱落させることが可能となる。衝突前(図5(B))のトランスミッションT’や支持部3’、4’(点線位置)が、衝突後にトランスミッションTや支持部3、4から突出形成したアングル状の係止突起15が、確実にスティフナー2と干渉してこれを脱落させる。
【実施例5】
【0019】
図6は本発明のトランンスミッション支持構造の実施例5を示すスティフナーの底面斜視図である。本実施例では、スティフナー2の両端部8、9がクロスメンバ1の両端部近傍にスポット溶接S等により固着されたものである。したがって、本実施例では、クロスメンバ1をフロアパネルに固定する取付ボルト10、11は利用されない。本実施例のものでも、クッションブラケット4の下部がスティフナー2の上方に湾曲した部分と干渉するように構成された干渉部Lを有する。これにより、前面衝突時に衝撃荷重を受けて、図面手前側から紙背(車両後方)側に移動するトランスミッションにより、クッションブラケット4が後方に押されてスティフナー2と干渉し、クロスメンバ1の補強部材であるスティフナー2を後方へ押しつけ、前記スポット溶接部Sが容易に破断してスティフナー2を脱落させることができる。
【0020】
以上、本発明の各実施の形態について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、クロスメンバの形状(フロアトンネルの形状に適合させた鞍型断面とされるが、フロアトンネルの下面に密着させてもよいし、振動伝達を抑制するために、側面等は所定の距離を隔てて隙間を設けてもよい。)、形式、クロスメンバが取り付けられる車体フロアすなわちフロアトンネルの形状(鞍型の形状、円弧状鞍型、台形状鞍型等)、クロスメンバの両端下部の車体フロアへの取付け形態(スティフナーと共締めした取付ボルト等による取付け、溶接等、緩衝材の介設等)、クロスメンバへのトランスミッションの吊下げ形態(クロスメンバの側面や最上部に設置した吊下げブラケットやクッションブラケット等の支持部を介したトランスミッションケーシングへの直接の支持や、別途の支持部材を介したトランスミッションケーシングの支持等。ただし、スティフナーとの干渉部を構成した形状とされる。)等については適宜選定できる。
【0021】
また、スティフナーの形状(取付ボルト等を受け入れる両端部の車体幅方向外側に開放したスリット等の形状、傾斜角度、スリットの対向辺部に凹凸形状を付して取付ボルトとの摩擦力を調整して脱落荷重を制御してもよい。スリットの対向面が平行でなくてもよい。トランスミッションあるいはその支持部との干渉部を構成するための上方への湾曲形態や、断面L字状の干渉ブラケット等の付設等)、形式およびクロスメンバへの取付形態(スリットと車体に螺合した取付ボルトとの組合せの他、予め車体側に設置した固定取付具にスティフナーの傾斜スリット部をスライドさせて取り付けてもよい。)、トランスミッションあるいはその支持部におけるスティフナーとの干渉部の形状(係止突起を、トランスミッションのケーシングあるいはその支持部である吊下げブラケットやクッションブラケットから一体に延設してもよいし、別体にて設置してもよい)等についても適宜選定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のトランスミッション支持構造の実施例1を示すもので、図1(A)は底部前方から見た斜視図、図1(B)はトランスミッションが省略された正面図である。
【図2】同、スティフナーの底面図である。
【図3】本発明のトランンスミッション支持構造の実施例2を示すスティフナーの底面図である。
【図4】本発明のトランンスミッション支持構造の実施例3を示すもので、図4(A)は正面図、図4(B)は図4(A)のA−A断面図である。
【図5】本発明のトランンスミッション支持構造の実施例4を示すもので、図5(A)は正面図、図5(B)は図5(A)のB−B断面図である。
【図6】本発明のトランンスミッション支持構造の実施例5を示すスティフナーの底面斜視図である。
【図7】従来の自動車の車体構造の説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 クロスメンバ
2 スティフナー
3 吊下げブラケット(支持部)
4 クッションブラケット(支持部)
5 吊下げボルト
6 ミッション取付ボルト
7 ミッション取付ボルト
8 スティフナー左端部
9 スティフナー右端部
10 左車体取付ボルト
11 右車体取付ボルト
12 左スリット部
13 右スリット部
14 干渉ブラケット
15 係止突起
L 干渉部
T トランスミッション
S スポット溶接部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フロアトンネルに適合する鞍型構成のクロスメンバにトランスミッションを支持部にて吊り下げて支持させたトランスミッション支持構造において、前記クロスメンバの下方にクロスメンバの両端部を連結するスティフナーを配設するとともに、該スティフナーに、正面視で前記支持部あるいはトランスミッションと干渉する干渉部を形成したことを特徴とするトランスミッション支持構造。
【請求項2】
前記スティフナーのクロスメンバへの取付具を介した連結部に、車体幅方向外側に開放したスリットを形成したことを特徴とする請求項1に記載のトランスミッション支持構造。
【請求項3】
前記スティフナーに、前記支持部あるいはトランスミッション側に突出する干渉部を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のトランスミッション支持構造。
【請求項4】
前記支持部あるいはトランスミッションに、前記スティフナー側に突出する干渉部を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のトランスミッション支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−15630(P2007−15630A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201092(P2005−201092)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】