説明

ドクター角度設定方法および同設定具

【課題】
版胴外周面に対するドクターブレードの角度の設定を熟練技術を要することなく容易かつ正確に行うことができ、しかも各種の版周に対して容易に対応することができるドクター角度の設定方法および設定具を提供する。
【解決手段】
版胴4を軸線方向から見た状態で、ドクターブレード1と、このドクターブレードと平行をなし、かつ版胴の中心に対してドクターブレードと同じ側に位置する版胴外周面の接線Lcとの距離Dを、所要設定角度αと版胴の半径rから、D=r(1−cosα)にて求める構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷において版胴外周面に対するドクターブレードの接触角度を容易かつ正確に設定することができるドクター角度設定方法および同設定具に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷においては、版胴に対するドクターブレードの接触角度を正確に設定することが、印刷の品質、安定に大なる影響を与える。
【0003】
したがって、ドクターブレードの接触角度を設定するための装置が従来から各種提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながら従来のものでは、装置が徒に複雑化、高コスト化するだけで、肝心のドクターブレードの接触角度を所要の値に設定できたかどうかについて正確に確認することはできず、結局はテスト印刷を行いながら接触角度の調節を行わなければならず、適切かつ正確な接触角度を得るには熟練作業員の高度な技術と豊富な経験に基づく勘に頼らなければならないのが現状であるといえる。
【0005】
ところで、出版物等の寸法が規格化されている印刷物の版の場合は、版周が決められていて、印刷機自体がこの版周に合わせてドクターブレードの位置、接触角度を所要の値に設定できる設計としてあるものもあるが、包装紙の印刷のように版周を自由に変えることができなければならない印刷を行う場合、個々の版周に合わせてドクターブレードの位置、接触角度をともに変更して正確に設定しなければならず、その設定を版周に合わせて数値化することは困難である。
【0006】
【特許文献1】特開平10−235829号公報(第1〜7頁、図1〜5)
【特許文献2】特開2003−145716号公報(第1〜6頁、図1〜6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、版胴外周面に対するドクターブレードの角度の設定を熟練技術を要することなく容易かつ正確に行うことができ、しかも各種の版周に対して容易に対応することができるドクター角度の設定方法および設定具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る方法は、版胴を軸線方向から見た状態で、ドクターブレードと、このドクターブレードと平行をなし、かつ版胴の中心に対してドクターブレードと同じ側に位置する版胴外周面の接線との距離を調節することにより、版胴外周面に対するドクターブレードの接触角度を所要の値に設定する構成としてある。
【0009】
より詳しくは、前記ドクターブレードの延長直線と、前記接線との間の距離Dを、所要設定角度αと版胴の半径rから、D=r(1−cosα)にて求めることを特徴としている。
【0010】
また本発明に係る設定具は、版胴の外周面に対して版胴の軸線方向と略直角に接触させられる摺接辺を下部に有する先端部と、上記摺接辺よりも版胴側に突出する基準辺を下部に有する基端部とを備え、上記基準辺を、ドクターホルダを挟持するドクターホルダの上面に当接させると、前記摺接辺とドクターブレードとが平行をなすように構成し、かつ、基準辺をドクターホルダの上面に当接させた状態で前記摺接辺を版胴の外周面に接触するようにドクターホルダの角度を調節すると、前記ドクターブレードが所要の角度で版胴に接触するよう前記基準辺の突出量を設定してなる構成のものとしてある。
【0011】
具体的には、前記突出量を、ドクターブレードと前記摺接辺との距離Dが、所要設定角度をα、版胴の半径をrとした場合、D=r(1−cosα)となるように設定した構成のものとしてあり、また、前記先端部を、その側面形状が先端に向かって高さが小となるテーパー状となるように構成したものとしてある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ドクターブレードと、このドクターブレードと平行をなす版胴の接線との間の距離に基づいてドクターブレードの版胴外周面に対する接触角度を正確に設定することができるので、印刷機に複雑な機構を設ける必要がなくしかも熟練技術を要することなくドクターブレードの接触角度の設定を行うことができる。
【0013】
また、一般的なドクターブレードの接触角度は例えば約60°前後となるようにすることが推奨されているので、この接触角度を統一すれば版胴の接線とドクターブレードの距離は版胴の径に応じて決まるので、版胴の径に一意対応する設定具を容易に作成することができ、種々の版周に合わせて設定具を備えておくことにより、極めて容易かつ正確に接触角度を設定することができる。
【0014】
さらに、本発明の設定具の摺接辺を版胴の外周面に、基準辺をドクターホルダの上面にあわせるだけで簡単かつ正確にドクターブレードの接触角度設定を行うことができ、しかも版胴が回転している状態でも接触角度の設定や設定どおりの角度が維持されているかの確認を行うことができる。
【0015】
また、先端部側面形状を先細りとなるように構成したものでは、版胴周辺に設けられている他のローラ類に干渉されることなくスムーズに接触角度の設定や確認を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る設定方法および設定具の実施例を添付図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。
まず、本発明方法の原理について図1、2に基づいて説明する。
【0017】
ドクターブレード1は、当て板2とともにドクターホルダ3によって挟持されていて、ドクターブレードの先端が版胴4の外周面に接触するように図示を省略した適宜の保持機構によって位置決めされており、この保持機構によってドクターブレードの版胴への接触角度、接触位置、接触圧力が調節できるようになっている。
【0018】
より詳しくは、ドクターブレード1の刃先は薄肉に形成されていて、版胴4の回転方向に向かって一般的には5°程度屈曲させられている。
【0019】
ドクターブレード1の版胴との接点A(実際は線接触となり、微視的には面接触となる)において、接触角度(仰角)αとなるように位置決めされ、この接触角度αはドクターブレードの仕様等の諸条件によって若干異なるが、一般的には60°程度が好適であるとされている。
【0020】
しかして本発明方法においては、所要の接触角度αを、版胴4を軸線方向から見た状態で、ドクターブレード1と、このドクターブレードと平行をなし、かつ版胴の中心Oに対してドクターブレードと同じ側に位置する版胴外周面の接線Lcとの距離Dを調節することにより設定する構成としてある。
【0021】
図2に基づいて具体的に説明すると、前記ドクターブレード1の延長直線Lbと、前記接線Lcとの間の距離Dは、
D=CB−AB ・・・(1)
となる。ここでABは
AB=OA・cos(∠OAB) ・・・(2)
であり、OAは半径rと等しく、∠OABは接触角度αと等しいから、
AB=r・cosα ・・・(3)
である。
また、CBは半径rと等しい。
【0022】
したがって、前記距離Dは上式(1)〜(3)より、
D=r−r・cosα
∴D=r(1−cosα)
となる。
【0023】
すなわち、所要接触角度αを直接測定しながら設定することは非常に困難を伴うのであるが、本発明によれば、所要接触角度αと版胴の半径rから、ドクターブレード1と、このドクターブレードと平行をなし、かつ版胴の中心Oに対してドクターブレードと同じ側に位置する版胴外周面の接線Lcとの距離DをD=r(1−cosα)にて求めることができる。
【0024】
次に、本発明に係る設定具の実施例について説明する。
設定具5は、板状のもので構成してあって、先端部6と基端部7を備え、先端部の下辺を摺接辺8、基端部の下辺を基準辺9としてあって、基準辺9が摺接辺8よりも下方に突出し、互いに平行をなすように形成してあり、先端部6はその側面形状が先端に向かって高さが小となるテーパー状となるように構成してある。
【0025】
そして、基準辺9の摺接辺8に対する突出量H1は、前述した距離Dから、ドクターホルダ3の上面3aとドクターブレード1との間の距離H2を減じた値に設定されている。
【0026】
すなわち上記突出量H1は、ドクターホルダ3の上面3aとドクターブレード1との間の距離H2が予め分かっているから、
H1=D−H2=r(1−cosα)―H2
にて決定することができ、版胴の半径に応じて一意対応する値を求めることができる。
【0027】
したがって、各種版周に合わせて適宜の突出量H1を有する設定具5を作成しておくことができ、基準辺9をドクターホルダ3の上面3aに当接せしめた状態で、摺接辺8を版胴4の外周面に接触させることによって、所要の接触角度αに設定されているか否かを極めて簡単かつ正確に判断することができ、ドクターホルダの位置決めや接触角度の確認を熟練技術を要することなく容易に行うことができる。
【0028】
なお、設定具5の材質は版胴に対する摩擦が低く、版胴に傷を付けにくい素材のものが好ましく、例えばポリプロピレンやポリエチレン等の合成樹脂材製のものが加工もし易く、安価に製作できて好適である。
【0029】
上述した設定具5の実施例では、摺接辺8と基準辺9を平行となるように構成してあるが、仮にドクターホルダ3の上面3aがドクターブレード1と平行でない場合には、ドクターホルダ上面3aとドクターブレード1のなす角度に応じて、基準辺と摺接辺との間に所要の角度を付し、基準辺と摺接が平行でないように設定する場合もあるし、ドクターホルダ上面の形状に凹凸がある場合には基準辺も凹凸に倣う形状に構成する場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】版胴とドクターブレードの関係を示す側面図。
【図2】本発明方法の原理を説明するための側面構成図。
【図3】本発明に係る設定具の斜視図。
【図4】本発明に係る設定具の使用状態を示す側面図。
【符号の説明】
【0031】
1 ドクターブレード
2 当て板
3 ドクターホルダ
4 版胴
5 設定具
6 先端部
7 基端部
8 摺接辺
9 基準辺
α 接触角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
版胴を軸線方向から見た状態で、ドクターブレードと、このドクターブレードと平行をなし、かつ版胴の中心に対してドクターブレードと同じ側に位置する版胴外周面の接線との距離を調節することにより、版胴外周面に対するドクターブレードの接触角度を所要の値に設定するドクター角度設定方法。
【請求項2】
前記ドクターブレードの延長直線と、前記接線との間の距離Dを、所要設定角度αと版胴の半径rから
D=r(1−cosα)
にて求める請求項1に記載のドクター角度設定方法。
【請求項3】
版胴の外周面に対して版胴の軸線方向と略直角に接触させられる摺接辺を下部に有する先端部と、上記摺接辺よりも版胴側に突出する基準辺を下部に有する基端部とを備え、上記基準辺を、ドクターホルダを挟持するドクターホルダの上面に当接させると、前記摺接辺とドクターブレードとが平行をなすように構成し、かつ、基準辺をドクターホルダの上面に当接させた状態で前記摺接辺を版胴の外周面に接触するようにドクターホルダの角度を調節すると、前記ドクターブレードが所要の角度で版胴に接触するよう前記基準辺の突出量を設定してなるドクター角度設定具。
【請求項4】
前記突出量を、ドクターブレードと前記摺接辺との距離Dが、所要設定角度をα、版胴の半径をrとした場合、
D=r(1−cosα)
となるように設定してなる請求項3に記載のドクター角度設定具。
【請求項5】
前記先端部を、その側面形状が先端に向かって高さが小となるテーパー状となるように構成してなる請求項3または4に記載のドクター角度設定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−136972(P2007−136972A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336494(P2005−336494)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(505432902)
【出願人】(505433013)
【Fターム(参考)】