説明

ドライクリーニング方法

【課題】本発明の目的は、MgZn1−xO(0≦x≦1)を成膜する装置において、該成膜装置の成膜チャンバーの内壁やウェハステージ、排気配管の内壁等に付着した不要な堆積物を低温にて、かつ装置を解放することなく除去するドライクリーニング方法を提供することである。
【解決手段】組成式MgZn1−xO(0≦x≦1)で表される組成物を成膜する装置の成膜チャンバー内あるいは排気配管内に堆積する組成式MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物を、クリーニングガスを用いて除去するドライクリーニング方法において、β―ジケトンを含むクリーニングガスを用い、100℃以上400℃以下の温度で堆積する該組成物と該クリーニングガスを反応させることにより、該組成物を除去することを特徴とする、ドライクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明電極材料や半導体材料として使用されている酸化亜鉛、又はカルコパライト系太陽電池の新型バッファ層として使用されるMgZn1−xO(0≦x≦1)を成膜する装置に堆積する、MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物を除去するドライクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は透明電極材料、半導体材料として近年注目されている化合物である。また、MgZn1−xO(0≦x≦1)はカルコパイライト系太陽電池の新型バッファ層として近年注目されている組成物である。これらマグネシウムや亜鉛の酸化膜を堆積させる場合は、Zn(C1119やMg(C1119などを原料に使用したMOCVD法やスパッタリング法が用いられている。但し、上記方法を用いる成膜装置において、マグネシウムや亜鉛の酸化膜の成膜処理を行うと、該装置の成膜チャンバーの内壁やウェハステージ、更には排気配管の内壁等に、不要な堆積物として組成式MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表わされる組成物が付着する。これらの不要な堆積物が増加してくると、パーティクルの原因となり素子性能の悪化を引き起こす。
【0003】
現在、これらの不要な堆積物を除去するために、装置を解体し付着した不要な堆積物を機械的に除去する物理的洗浄や酸、アルカリ薬品に浸漬して除去するウェットクリーニングが行われている。しかしながら、これらの方法では装置を一旦大気に解放するため粉塵が装置内に入り込み汚染する問題や解体作業自体に時間と労力を必要とする問題などがある。このような問題を解決するため、近年ドライクリーニング法による亜鉛酸化物のドライクリーニングが試みられている。例えば、メタン及び水素を含む混合ガス雰囲気中で酸化亜鉛膜に対して反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)法により亜鉛酸化膜をエッチングする方法が提案されている(特許文献1)。また、高温下でCOなどの還元性ガスを用いて酸化亜鉛を還元し、生成した亜鉛蒸気を再び酸化させて酸化亜鉛を装置外部で回収する方法が提案されている(特許文献2)。
【0004】
また、MgOやMgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)についてはドライクリーニング法によるドライクリーニングの報告例が見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−3872号公報
【特許文献2】特開平5−254998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1に記載の方法では、プラズマ環境が必要であり、プラズマ励起されたラジカル及びイオン種が届きづらい反応器壁や排気配管での酸化亜鉛エッチングは困難である。また、上記の特許文献2に記載の方法では、1000℃以上の高温環境が必要であり、成膜装置内の堆積物クリーニングを想定した場合には実用的でない。
【0007】
本発明では、組成式MgZn1−xO(0≦x≦1)で表される組成物を成膜する装置において、該組成物を成膜する際に、該成膜装置の成膜チャンバーの内壁やウェハステージ、排気配管の内壁等の成膜不要な部分に組成式MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物が堆積するため、この堆積物を、低温にて除去するドライクリーニング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、組成式MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物に対し、100℃以上400℃以下の温度で、β―ジケトンを含んだクリーニングガスを反応させることにより、前記MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物を効率よく除去できることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、組成式MgZn1−xO(0≦x≦1)で表される組成物を成膜する装置の成膜チャンバー内あるいは排気配管内に堆積する組成式MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物を、クリーニングガスを用いて除去するドライクリーニング方法において、β―ジケトンを含むクリーニングガスを用い、100℃以上400℃以下の温度で堆積する該組成物と該クリーニングガスを反応させることにより、該組成物を除去することを特徴とするドライクリーニング方法を提供するものである。
【0010】
又は、前記β―ジケトンが、ヘキサフルオロアセチルアセトン又はトリフルオロアセチルアセトンであることを特徴とするドライクリーニング方法を提供するものである。
【0011】
さらに、前記クリーニングガス中に、He、Ar、N、Oからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上のガスが含有されていることを特徴とするドライクリーニング方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のドライクリーニング方法により、成膜チャンバー内あるいは排気配管内に堆積する組成式MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物を400℃以下の低温にて除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】試験に用いた装置の概略系統図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における除去対象となるものは、MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物である。具体的には、ZnO、MgO、Mg0.5Zn0.5O、Mg0.5Zn0.5OH0.1などが挙げられる。
【0015】
本発明は、組成式MgZn1−xO(0≦x≦1)で表される組成物を成膜する装置(例えば、CVD装置、スパッタ装置、真空蒸着装置など)にて、該組成物を基板に成膜する際に、該成膜装置の成膜チャンバー内あるいは排気配管内などの基板以外に不要な堆積物として組成式MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表わされる組成物が堆積するため、この堆積物を除去する方法である。
【0016】
本発明のドライクリーニング方法では、クリーニングガス中にβ―ジケトンが1種類以上含有されている必要がある。β―ジケトンとしては、例えば、ヘキサフルオロアセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトン、アセチルアセトン、ジピバロイルメタン(H−DPM)等が挙げられる。特に、高速にエッチング可能な点で、ヘキサフルオロアセチルアセトン、トリフルオロアセチルアセトンが好適である。堆積物のエッチング速度はクリーニングガス中に含まれるβ―ジケトンの濃度上昇とともに上昇する。但し、使用するβ―ジケトンの蒸気圧が低く、チャンバー内で液化が生じる可能性が懸念される場合には、希釈ガスにより適宜濃度を調整することが好ましい。また、使用されるクリーニングガス量との効率を考慮すると、β―ジケトンの濃度は10体積%以上80体積%以下であることが望ましい。
【0017】
クリーニングガス中には、上記β―ジケトンと共にHe,Ar,Nのような不活性ガス又はOからなる群から選ばれる少なくとも1種類のガスが混合されていても良く、またその濃度も特に限定されない。
【0018】
クリーニング中の温度については、除去対象の堆積物の温度が100℃以上400℃以下であることが好ましく、特に150℃以上400℃以下であることが、より高いエッチング速度を得るためには望ましい。
【0019】
クリーニング中のチャンバー内圧力は、特に限定されることは無いが、成膜で通常用いられる0.1kPa以上101.3kPa以下であることが好ましい。
【0020】
上記条件にてドライクリーニングすることにより、MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物を除去することが可能となる。
【実施例】
【0021】
図1は本試験で用いたCVD装置の概略系統図である。成膜チャンバー1には成膜のためのウェハを支持するステージ5が具備されている。成膜チャンバー1の外部及びステージ5の内部にはヒーター61、62が具備されている。成膜チャンバー1にはガス導入の為のガス配管41及びガス排気の為のガス配管42が接続されている。β―ジケトン供給系21及び希釈ガス供給系22はバルブ31、32を介してガス配管41に接続されている。真空ポンプ8はバルブ33を介してガス配管42に接続されている。成膜チャンバー1内部の圧力は成膜チャンバー1付設の圧力計(図中省略)の指示値を基に、バルブ33により制御される。
【0022】
本実施例では堆積物サンプル7として、Siウェハ上に2μm成膜されたMgZnOH膜(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)[形状3cm×3cm片]をステージ5上に設置し、クリーニング試験に供した。また、堆積物サンプル7の温度を測定する為の熱電対を堆積物サンプル7とステージ5の間に設置した(図中省略)。
【0023】
膜のエッチング量は、試験前後の膜厚の変化を断面SEM観察により測定し、その減膜量から算出した。エッチング速度は減膜量をエッチング時間で除した値である。エッチング時間はクリーニングガス導入開始から導入終了までの時間と定義し、本実施例では3分間とした。
【0024】
次に操作方法について説明する。成膜チャンバー1及びガス配管41、42を10Pa未満まで真空置換後、成膜チャンバー1内部の圧力及びヒーター61、62の温度を所定値に設定する。ヒーター61,62が所定値に達したことを確認後、バルブ31、32を開放し、β―ジケトン供給系21及び希釈ガス供給系22よりクリーニングガスを導入する。合わせて、設置した熱電対により、堆積物サンプル7の温度を測定する。所定時間(3分間)経過後、クリーニングガスの導入を停止し、成膜チャンバー1内部を真空置換後、堆積物サンプル7を取出して、エッチング量を計測した。
【0025】
[実施例1〜35]
本実施例におけるクリーニング対象物及びクリーニング条件と、そのエッチング速度の測定結果を表1に示す。成膜チャンバー圧力2.7kPa、クリーニングガスとして、Nにより50体積%に希釈したヘキサフルオロアセチルアセトンを用い、堆積物サンプル7の膜組成がZnO、Zn0.5Mg0.5O、Zn0.5Mg0.5OH0.1、Zn0.5OH、Mg0.5OH、MgOに対し、それぞれ種々の温度にて、上記操作によるクリーニング試験を実施した(実施例1〜24)。その結果、堆積物サンプル7の温度が、110℃、160℃、200℃、380℃のいずれの場合において、クリーニング可能であることが判った。
【0026】
さらに、β―ジケトンをトリフルオロアセチルアセトンに変更しその他は実施例3と同様に行なった場合や(実施例25)、希釈ガスをO、Arやその混合物に変更しその他は実施例3と同様に行なった場合(実施例26〜28)、成膜チャンバー圧力を40.0kPaとした以外は実施例3と同様に行なった場合(実施例29)、ヘキサフルオロアセチルアセトンの濃度を7、15、75、85、100体積%とした以外は実施例3と同様に行なった場合(実施例30〜34)、β―ジケトンとしてヘキサフルオロアセチルアセトンとトリフルオロアセチルアセトンを当量ずつ混合したものを用いる以外は実施例3と同様に実施した場合(実施例35)も同様にクリーニング可能であった。
【表1】

【0027】
[比較例1〜13]
本比較例におけるクリーニング対象物及びクリーニング条件と、そのエッチング速度の測定結果を表2に示す。成膜チャンバー圧力2.7kPa、希釈ガスをNとして、堆積物サンプル7の膜組成がZnO、Zn0.5Mg0.50、MgO、Zn0.5Mg0.5OH0.1、Zn0.5OH、Mg0.5OHに対し、それぞれ堆積物サンプル7の温度を90℃、420℃として、上記操作によるクリーニング試験した。その結果、クリーニングガス中にβ―ジケトンが含有されていない場合(比較例1)、堆積物サンプル7の温度が90℃或いは420℃の場合のいずれにおいても、堆積物サンプル7の膜は除去されていなかった。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、一般式MgZn1−xO(0≦x≦1)で表される組成物を成膜する装置(例えば、CVD装置、スパッタ装置、真空蒸着装置など)のクリーニングに用いることができ、特に該成膜装置の成膜チャンバー内や排気配管内に付着した組成式MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物を低温にて、かつ装置を解放することなくクリーニングする際に有効である。
【符号の説明】
【0029】
1・・・成膜チャンバー
21・・・β―ジケトン供給系
22・・・希釈ガス供給系
31、32、33・・・バルブ
41、42・・・ガス配管
5・・・ステージ
61、62・・・ヒーター
7・・・堆積物サンプル
8・・・真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式MgZn1−xO(0≦x≦1)で表される組成物を成膜する装置の成膜チャンバー内あるいは排気配管内に堆積する組成式MgZnOH(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1、且つ、0.5≦a+b≦1)で表される組成物を、クリーニングガスを用いて除去するドライクリーニング方法において、β―ジケトンを含むクリーニングガスを用い、100℃以上400℃以下の温度で堆積する該組成物と該クリーニングガスを反応させることにより、該組成物を除去することを特徴とする、ドライクリーニング方法。
【請求項2】
前記β―ジケトンが、ヘキサフルオロアセチルアセトン又はトリフルオロアセチルアセトンであることを特徴とする、請求項1に記載のドライクリーニング方法。
【請求項3】
前記クリーニングガス中に、He、Ar、N、Oからなる群から選ばれる少なくとも1種類以上のガスが含有されていることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載のドライクリーニング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−186190(P2012−186190A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46149(P2011−46149)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】