説明

ナノポア分離装置及びその使用方法

【課題】ナノポアを用いてバイオポリマを分離する技術を提供すること
【解決手段】本発明はナノポアベースの分離装置とシステム、及びこれらを用いるための方法とキットに関する。当該装置を利用して、核酸及び蛋白質のようなバイオポリマを分離し評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、バイオポリマの分野に関し、より具体的には、ナノポア構造を用いて、バイオポリマ(例えば、核酸及び蛋白質のような)を分離するための装置、システム、方法、及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオポリマを分離し、特性を明らかにし、比較し、及び単離する能力には、機能的ゲノム学及びプロテオミクス、及び分子診断技術において重要な用途がある。生体分子を分離するための1つの方法は、電気泳動法である。電気泳動法は一般に、生体分子の混合物を含有する媒質に電流を加えることに依存する。分子は、電荷及びサイズによって決まる速度で、媒質中を移動し、これらのパラメータの差に基づいて分離され得る。核酸及び蛋白質の電気泳動には一般に、アガロース及びアクリルアミドが用いられる。
【0003】
高電圧(例えば、5〜15kV)にさらされる内径の狭い毛細管内で分子の分離が生じるキャピラリー電気泳動法では、毛細管の内側に電流を導電する電解質溶液の利用が採用される。毛細管の一方の端部に少量の試料が注入される。各種試料成分が毛細管中を移動して、検出器を通過する際に、それらの存在を検出するために、毛細管の反対側の端部には、検出器が配置される。試料は、蛍光マーカで標識付けされることができ、試料成分が検出器における光ビームを通過すると、蛍光マーカが蛍光を発し、その蛍光が電気信号として検出されるようになっている。従来のキャピラリー電気泳動システムでは、分離される試料の解析または検出は、試料がまだ毛細管内にある間に実施され、吸光度及び蛍光性といった測光技術を用いて達成され得る。吸光度及び蛍光性は、励起光が向けられる毛細管の場所におけるものであり、試料から放出される光(例えば、蛍光)が、検出器によって測定され、それにより分離成分に関する情報が提供される。こうしたシステムの欠点は、石英ガラス毛細管の管形状によって、試料の検出を妨害する大幅な光の散乱が生じるという点である。
【0004】
微小流体チップを用いて、毛細管ではなく、基材に形成されたチャネルを用いて、電気泳動法を実施することができる。しかしながら、微小流体チップは、高処理量の手法に適するが、チップ形成に用いられる材料によって励起光が散乱する点で、オンチップ検出は、依然として問題が生じる可能性がある。
【特許文献1】米国特許第5,948,902号明細書
【特許文献2】米国特許第4,683,195号明細書
【特許文献3】米国特許第4,683,202号明細書
【特許文献4】米国特許第4,965,188号明細書
【特許文献5】米国特許第6,706,204号明細書
【非特許文献1】Messing, J.著、「Methods Enzymol. 」、1983年、第101巻,p.20-78
【非特許文献2】Li他著、「Ion beam sculpting at nanometer length scales」、Nature、2001年、第412巻、p.166-169
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、上述した技術的な問題を克服、又は少なくとも緩和することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は概して、バイオポリマの分野に関し、より具体的には、ナノポア構造を用いて、バイオポリマ(例えば、核酸及び蛋白質のような)を分離するための装置、システム、方法、及びキットに関する。本発明によるナノポアを用いた分離技術によれば、最小限の量の試料を使用ながら、高速かつ高処理量でバイオポリマの評価する機会が提供される。
【0007】
一実施形態では、本発明は、バイオポリマ(例えば、核酸または蛋白質など)を分離するための方法を提供する。この方法は、ナノポアによって第2のリザーバに接続された第1のリザーバに複数のバイオポリマを準備し、ナノポアを横切ってバイオポリマを移動させするのに十分な電界をナノポアの両端に確立し、それによりそのバイオポリマを他のバイオポリマから分離し、移動したバイオポリマを第2のリザーバに集めるか、又は他のバイオポリマを第1のリザーバに集めることを含む。一態様では、選択されたサイズのバイオポリマを移動させるのに十分な量の時間にわたって、電界が印加される。別の態様では、選択されたサイズのバイオポリマを移動させるのに十分な量の時間の後に、極性が逆転される。このプロセスは、選択されたサイズからなるほぼ純粋な分子集団が第2のリザーバに供給されるまで、1回または複数回繰り返され得る。
【0008】
一実施形態では、第1と第2のリザーバは、複数のナノポアによって接続される。別の実施形態では、第1のリザーバは複数の副リザーバからなり、各副リザーバがナノポアによって第2のリザーバに接続される。一態様では、電界が、ナノポアの少なくとも2つに別個に印加される。別の態様では、特性の異なる(例えば、異なるサイズなど)バイオポリマが、少なくとも2つのナノポアを通って移動させられる。この方法はさらに、移動後に、第1及び/又は第2のリザーバから集められたバイオポリマを除去するステップを含むことができる。一態様では、除去されたバイオポリマが、さらに処理される(例えば、濃縮、配列決定(シークエンシング)、質量分析、又は他の処理ステップによって)。この方法を用いて、わずかに1つのモノマー(例えば、核酸の場合は、1つの塩基対)だけしか異ならないバイオポリマを分離することができる。
【0009】
一態様では、電圧バイアスは、ナノポアの両端の電流がしきい値量未満に減少し始めてからの経過した時間量に関連した入力を受信するプロセッサによって制御される。プロセッサは、電圧を印加する電圧源に対して、選択されたサイズのバイオポリマを移動させるのに十分な所定の時間が経過した後に、電圧の印加を停止するか、又は印加電圧の極性を逆転する命令を与える。一態様では、プロセッサはメモリにアクセスし、所定の時間に関連したデータがそのメモリに格納される。別の態様では、プロセッサは、ユーザ装置と通信し、ユーザは、プロセッサと通信するユーザ装置のディスプレイ又はインターフェイスに、所定の時間に関連したデータを入力する。
【0010】
ある態様では、第2のリザーバが、ナノポアによって第3のリザーバに接続され、この方法は、第2のリザーバと第3のリザーバを接続するナノポアの両端に、第2のリザーバからナノポアを横切って第3のリザーバにバイオポリマを移動させるのに十分な電界を確立することを含む。
【0011】
一実施形態では、本発明は、ナノポアによって第2のリザーバに接続可能な第1のリザーバと、ナノポアの両端に電界を発生するための電圧源と、電圧源と連絡するプロセッサを含む装置も提供し、この場合、プロセッサは、電圧源に対して、電圧を印加する時間期間を調整する命令を与える。一態様では、第1のリザーバは、ナノポアを含むチャネルによって第2のリザーバに接続可能である。別の態様では、プロセッサは、電圧源に対して、ナノポアを横切って選択されたサイズのバイオポリマを移動させるのに十分な時間期間の後に、印加電圧の極性を逆転させる命令を与える。さらなる態様では、装置は、時間と共に電流を測定するための検出器を含み、プロセッサは、電圧源に対して、電流がしきい値レベル未満に減少してから所定の時間期間(例えば、選択されたサイズのバイオポリマを移動させるのに十分な時間期間)の後に、電圧の印加を停止するか、又は印加電圧の極性を逆転させる命令を与える。
【0012】
一態様では、第1のリザーバは、複数のナノポアによって第2のリザーバに接続可能である。別の態様では、第1及び第2のリザーバの一方または両方が、バイオポリマを除去するための排出ポートを含む。さらなる態様では、第1及び/又は第2のリザーバが、チャネルを含む。さらに別の態様では、装置が、第2のリザーバと流体連絡する接続チャネルを含む。
【0013】
一態様では、第1のリザーバが複数の副リザーバからなり、各副リザーバが、ナノポアによって第2のリザーバに接続可能である。電圧は、少なくとも2つの副リザーバのナノポアの両端に別個に印加され得る。別の態様では、装置は、ナノポアによって第2のリザーバに接続可能な第3のリザーバを含み、電圧は、第1と第2のリザーバを接続するナノポア、及び第2と第3のリザーバを接続するナノポアの両端に別個に印加され得る。
【0014】
一実施形態では、本発明はさらに、装置内のプロセッサの1つ又は複数の機能を実行するためのプログラムコードを保持するコンピュータ可読媒体を含む、コンピュータプログラム製品を提供する。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、任意の前述した装置と、電流インピーダンスとバイオポリマのサイズを関連づけるデータを含む、関連データベースを含むメモリとを備えるシステムも提供し、この場合、プロセッサはメモリにアクセスする。
【0016】
さらなる実施形態では、本発明はさらに、任意の前述した装置と、バイオポリマを含むキットを提供する。一態様では、バイオポリマは既知のサイズからなる。別の態様では、キットは、既知のサイズの複数のバイオポリマを含む。追加の試薬及び組成物が、上述した任意の方法を実施するために提供され得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるナノポアを用いた分離技術によれば、最小限の量の試料を使用ながら、高速かつ高処理量でバイオポリマを評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の目的及び特徴については、以下の詳細な説明と、添付図面を参照することにより、より深く理解され得る。本明細書に示される図面は、必ずしも一定の縮尺に従わずに描かれており、分りやすくするために、一部のコンポーネント及び特徴は誇張されている。図1〜図4には、リザーバ及びチャネルが開放または露出された状態で、本発明の概略図が示されているという点に留意されたい。装置は、これらの描写にそっくりそのまま同じにする必要はない。例えば、リザーバ及びチャネルは、完全に密閉されてもよいし、或いは基材内または他の同様のタイプの材料内に収容されてもよい。
【0019】
本発明について詳細に説明する前に、理解しておくべきことは、本発明は、特定の組成物、方法ステップ、又は装置に制限されるものではなく、そのようなものとして変化する可能性があるということである。また、理解しておくべきことは、本明細書において用いられる用語は、特定の実施形態を説明する目的だけであり、制限することを意図したものではないということである。本明細書に記載された方法は、論理的に可能性のある、記載された事象の任意の順序、並びに事象の記載された順序で実施され得る。さらに、ある値の範囲が提供される場合には、その範囲の上限と下限との間に介在する全ての値、及びその記載された範囲内における任意の他の記載された値または介在する値が、本発明の範囲内に含まれることは理解されたい。また、説明される本発明の変形態様に関するいかなる任意の特徴も、本明細書で説明された任意の1つ又は複数の特徴とは別個に、又はそれらと組み合わせて記載され、特許請求され得ることが意図されている。
【0020】
以下において別段の規定がない限り、本明細書において用いられるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術における当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。さらに、本明細書では、分りやすくするために、いくつかの要素が定義される。
【0021】
本明細書で言及される全ての刊行物は、それに関連してそれらの刊行物が引用される、方法及び/又は材料の開示、及び説明のために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0022】
本明細書で説明される刊行物は、ただ単にその開示が本出願の出願日より前であったという理由で提示されているだけである。本明細書には、本発明が、先願発明によってこうした刊行物に先行する資格がないことを承認するとみなされるべき点は何もない。さらに、提示された刊行物の日付は、実際の刊行日と異なる可能性があり、別個に確認される必要があるかもしれない。
【0023】
留意しなければならないのは、本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられる限りにおいて、「1つの」といった記載がない限り、その用語には複数の指示対象物が含まれるという点である。従って、例えば、「バイオポリマ」への言及には、2つ以上のバイオポリマが含まれ、「電圧源」への言及には、複数の電圧源が含まれる等である。
【0024】
以下の定義は、以下の説明において用いられる特定の用語のために提供される。
【0025】
「バイオポリマ(生物高分子)」は、1つ又は複数のタイプの反復単位からなる高分子である。バイオポリマは一般に、生体系において見出され、特に、多糖類(炭水化物など)、ペプチド(この用語は、抗体または抗原結合性蛋白質のようなポリペプチド及び蛋白質を含むために用いられる)、グリカン、プロテオグリカン、脂質、スフィンゴ脂質、及びポリヌクレオチド、並びにアミノ酸類似体または非アミノ酸基、或いはヌクレオチド類似体または非ヌクレオチド基から構成されるか、又はそれらを含有する化合物といったそれらの類似体を含む。これは、従来のバックボーンが非自然発生または合成バックボーンと置換されたポリヌクレオチド、及び1つ又は複数の従来の塩基が、ワトソンクリックタイプ、ウォッブルタイプ等のような、水素結合相互作用に関係することが可能な基(自然または合成)と置換された核酸(又は、合成または自然発生類似体)を含む。場合によっては、バイオポリマのバックボーンを分枝させることができる。バイオポリマは、バックボーン組成が異質であり、それによりペプチド核酸(核酸に連結されたアミノ酸を有し、強化された安定性を有する)のように、可能性のある任意の組み合わせの互いに連結された高分子の構成単位を含んでいる可能性がある。本明細書においてバイオポリマの連結された構成単位に関連して用いられる限りにおいて、「連結された」または「連結」は、2つの独立体が、任意の物理化学的手段によって互いに結合されていることを表わしている。こうした連結は、当該技術者によく知られており、以下に限定されないが、アミド、エステル、及びチオエステル連結を含む。連結には、合成または修飾連結が含まれる。
【0026】
ポリヌクレオチドには、一本鎖または複数本鎖の構成が含まれており、この場合、1つ又は複数の鎖(ストランド)は、完全に互いに整列され得るか、又は整列され得ない。「ヌクレオチド」は核酸のサブユニットを表わしており、燐酸基、五炭糖及び窒素含有塩基、並びに高分子の形で(ポリヌクレオチドとして)2つの自然発生ポリヌクレオチドと類似した配列特異的な態様で自然発生ポリヌクレオチドとハイブリダイズできる、こうしたサブユニットの機能的アナログ(合成であろうと自然発生であろうと)を有する。バイオポリマには、発生源に関係なく、DNA(cDNAを含む)、RNA、オリゴヌクレオチド、PNA、LNA、及び特許文献1及びそこに引用されている参考文献に記載されたような他のポリヌクレオチドが含まれる。
【0027】
ポリヌクレオチドを調製するために、さまざまな技術を用いることができる。こうしたポリヌクレオチドは、生物学的合成または化学合成によって得られることができる。短い配列(約100までのヌクレオチド)の場合、化学合成が経済的であり、特定の合成ステップ中に、低分子量化合物および/または修飾塩基を組み込む便利な方法を提供し、ターゲットポリヌクレオチドの結合配列の長さと領域の選択において、極めて適応性がある。ポリヌクレオチドは、市販の自動核酸合成装置に用いられるような、標準的な方法によって合成され得る。適切に修飾されたガラスまたは樹脂上においてDNAを化学合成することにより、結果として、DNAがその表面に共有結合でき、場合によっては、洗浄及び試料の取り扱いにおいて好都合であるかもしれない。より長い配列の場合、例えば、非特許文献1に記載されたような一本鎖DNAに関するM13の利用、又は特許文献2、特許文献3、及び特許文献4に記載されたようなポリメラーゼ連鎖反応の利用といった、分子生物学において用いられる標準的な複製方法を利用することができる。
【0028】
「オリゴヌクレオチド」は、一般に、長さが約10〜100のヌクレオチドからなるヌクレオチド多量体を表わすが、「ポリヌクレオチド」には、任意の数のヌクレオチドを有するヌクレオチド多量体が含まれる。
【0029】
「バイオモノマー」は、同じか、又は別のバイオモノマーと連結して、バイオポリマを形成することができる単一単位(例えば、2つの連結基の一方または両方が、除去可能な保護基を有することができる2つの連結基を備える、単一のアミノ酸またはヌクレオチド)を表わしている。
【0030】
本明細書において用いられる限りにおいて、「ナノポア」は、少なくとも寸法がナノメートルの、材料(生体物質または非生体物質またはその組み合わせ)の開口部を表わしている。一態様では、「ナノポア」という用語は、固形材料における少なくとも1対の電極間にある任意のポア又は穴を表わしている。ナノポアの寸法は異ならせることができるが、一般に、バイオポリマのナノポア通過を抑制するのに十分なほど小さく、一度に単一の分子だけしか通過できないようになっている。ナノポアのサイズは、例えば、約1nm〜約300nmの範囲とすることができる。実施形態によっては、ナノポアは、チャネルの少なくとも一部に沿ったナノポアの寸法を含む、ナノチャネルの壁面によって画定される。こうしたナノポアのいずれかの側におけるチャネルの一部はそれぞれ、その装置の第1と第2のリザーバを画定することができる。
【0031】
「基材」は、固体の場合もあれば、そうでない場合もあり、保持、埋め込み、取り付けが可能であり、又は電極の全体または一部を含むことができる任意の表面を表わしている。本明細書において用いられる限りにおいて、「ハウジングを具備する装置」には、チャネルを具備する基材が包含される。
【0032】
「内」という用語は、「内部」にあること、及び/又は一部が外部にある可能性もあることを表わしている。例えば、ナノポア「内」のバイオポリマは、バイオポリマ全体がナノポアの開口部内部にあることを意味するか、又はバイオポリマのわずかな部分だけが、ナノポアの近くに位置し、かなりの部分がナノポアの外部に突き出していることを意味する場合もある。
【0033】
「移動」または「移動させる」という用語は、ある側から別の側への移動、即ち規定の方向における移動を表している。速度と方向を有するあるベクトルに沿って進むバイオポリマの任意の動作である。
【0034】
「一部」または「バイオポリマの一部」という用語は、一部分、サブユニット、モノマー単位、モノマー単位の一部、原子、原子の一部、原子の集合体、電荷、又は荷電単位を表わしている。
【0035】
「電圧勾配」という用語は、任意の2つの電極間に電位を確立する能力を備えることを表わしている。
【0036】
「近接」という用語は、およそ、近いか、隣にあるか、又は隣接することを表わしている。例えば、ナノポアは、電極の近くでも、電極の隣でも、電極を貫通していても、又は電極に隣接していてもよい。これには、線形空間、2次元空間、及び3次元空間における間隔が含まれる。
【0037】
ポリヌクレオチドに関連した「ハイブリッド形成(ハイブリダイズ)」、「アニーリング」、及び「結合」という用語は、同義的に使用される。「結合効率」は、所与の時間量で、所与の組をなす条件下において形成される結合生成物の絶対的または相対的収量として測定される、結合反応の生産性を表わしている。「ハイブリッド形成効率」は、結合効率の特定のサブクラスであり、結合成分がポリヌクレオチドである場合の結合効率を表わしている。
【0038】
また、本明細書全体を通じて、「上方」、「下方」といった用語は、相対的な意味で用いられているにすぎないことを理解されたい。
【0039】
「組(セット)」は、1つの要素のタイプ、又は複数の異なるタイプを有することができる。
【0040】
「流体」は、本明細書において、液体を表わすために使用される。
【0041】
本明細書において用いられる限りにおいて、「微小流体チップ」という用語は、プラスチック又はシリコン又はガラスのチップだけではなく、バイオポリマを通すために内部に形成されたいくつかの小さいチャネル、溝、トレンチ、トラフ、又は類似の構造を有することができるスライド、ウェーハ、ディスク等のような、任意の基材も含まれる。
【0042】
本明細書において用いられる限りにおいて、「チャネル」という用語は、基材を通る通路を表し、「溝」、「トラフ」、又は「トレンチ」と同義的に用いられている。チャネルの幾何学形状は、多種多様にすることができ、円形、矩形、正方形、D字形、台形、又は他の多角形断面を備えた管状通路を含む。チャネルは、チャネル形状を変化させることを含むことができる(例えば、あるセクションでは矩形で、別のセクションでは台形)。チャネルは、基材を通る湾曲経路または角度のある経路を形成することができ、他のチャネルを横切るか、又はそれらと交差することが可能であり、さまざまな実施形態において、互いにほぼ平行をなすことも可能である。実施形態によっては、チャネルは、分離媒質、試薬(例えば、酵素、ヌクレアーゼ、ポリメラーゼ、抗体、核酸、ポリペプチド、ペプチド等)、及び/又は緩衝液で充填される。
【0043】
本明細書において用いられる限りにおいて、「分離媒質」という用語は、試料成分の電気泳動分離が生じる媒質を表わしている。分離媒質には一般に、いくつかの成分が含まれ、少なくともそれらの成分の1つが電荷を伝える成分または電解質である。電荷を伝える成分は通常、分離媒質を規定のpHに維持するための緩衝系の一部である。サイズは異なるが、遊離液中におけ帯電・摩擦抵抗比が同じである、ポリヌクレオチド、蛋白質、又は他の生体分子を分離するための媒質にはさらに、ふるい分け成分が含まれる。こうしたふるい分け成分は一般に、例えば、架橋ポリアクリルアミド又はアガロースのような架橋重合体ゲル、又は例えば、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース等の溶液のような高分子溶液からなる。
【0044】
「情報通信」は、適切な通信チャネル(例えば、私設ネットワーク又は公衆網)を介して、その情報を表わすデータを信号(例えば、電気、光、無線、磁気等)として伝送することを表わしている。
【0045】
本明細書において用いられる限りにおいて、システムの別のコンポーネントと「通信する」又は「連絡する」システムのコンポーネントは、そのコンポーネントから入力を受信して、及び/又はそのコンポーネントに出力を供給して、システム機能を実現する。別のコンポーネントと「通信する」又は「連絡する」コンポーネントは、必ずしもそうとは限らないが、他のコンポーネントに物理的に接続することができる。例えば、コンポーネントは、他のコンポーネントへ情報を伝達し、及び/又は他のコンポーネントからの情報を受け取ることができる。
【0046】
ある要素を「転送する」ことは、その要素を物理的に移送するか、又は別な方法で移送する(それが可能な場合)かにかかわらず、ある場所から次の場所にその要素を持ってくる任意の方法を表わしており、少なくともデータの場合、データを保持する媒体を物理的に移送するか、又はデータ通信を行うことが含まれる。
【0047】
「コンピュータベースのシステム」は、本発明の情報を分析するために使用されるハードウェア手段、ソフトウェア手段、及びデータ記憶手段を表わしている。本発明のコンピュータベースのシステムの最小ハードウェアには、中央処理装置(CPU)、入力手段、出力手段、及びデータ記憶手段が含まれる。当業者ならば容易に理解されるように、現在利用可能なコンピュータベースのシステムはどれでも、本発明における利用に適している。データ記憶手段には、上述したような当該情報の記録を含む任意の製品、又はこうした製品にアクセス可能なメモリアクセス手段を含むことができる。いくつかの例では、コンピュータベースのシステムは、1つ又は複数の無線装置を含むことができる。
【0048】
コンピュータ可読媒体にデータ、プログラム、又は他の情報を「記録」することは、当該技術において知られている任意の係る方法を利用して、情報を格納するプロセスを表わしている。格納された情報にアクセスするために用いられる手段に基づいて、従来の任意のデータ記憶構造を選択することができる。例えば、ワードプロセッシングテキストファイル、データベースフォーマット等のような、さまざまなデータプロセッサプログラム及びフォーマットを利用して、格納することができる。
【0049】
「プロセッサ」は、それに必要な機能を実行する、任意のハードウェア及び/又はソフトウェアの組み合わせを表わしている。例えば、本明細書の任意のプロセッサは、例えば、電子コントローラ、メインフレーム、サーバ、又はパーソナルコンピュータ(デスクトップ又はポータブル)の形態で入手可能な、プログラム可能なデジタルマイクロプロセッサとすることができる。プロセッサがプログラム可能であれば、適切なプログラムが遠隔位置からプロセッサに伝達されることもできるし、又はコンピュータプログラム製品(磁気、光、又は固体素子ベースのいずれであるかにかかわらず、携帯用または固定式コンピュータ可読記憶媒体のような)に予め保存されることもできる。例えば、磁気媒体または光ディスクは、プログラムを保持することができ、その対応するステーションにおける各プロセッサと通信する適切な読取装置によって読み出され得る。
【0050】
「査定」及び「評価」という用語は、任意の形の測定を表わすために同義的に用いられ、ある要素の有無の判定を含む。「判定」、「測定」、「査定」、及び「検定」といった用語は、同義的に用いられ、定量的判定と定性的判定の両方を含む。査定は、相対的または絶対的とすることができる。「の存在の査定」には、ある存在するものの量の判定、並びにその有無の判定が含まれる。
【0051】
「利用(使用)」という用語は、その通常の意味を有しており、従って、例えば、ある目的を達成するための方法または構成を役に立つようにするといったように、使用することを意味する。例えば、プログラムを利用して、ファイルを作成する場合、ファイルを作成するためのプログラムが実行されるが、このファイルは通常、プログラムの出力である。別の例では、コンピュータファイルが利用される場合、通常、コンピュータファイルにアクセスして、読み取り、ファイルに格納されている情報を利用して、ある目的が達成される。同様に、例えば、バーコードのような一意の識別子が利用される場合、通常、一意の識別子を読み取って、例えば、その一意の識別子に関連したオブジェクト又はファイルが識別される。
【0052】
ナノポアを含む装置
一実施形態では、本発明は、バイオポリマの分離を実施するための装置1を提供する。一態様において、装置は、第1のリザーバ3及び第2のリザーバ4を画定するハウジング2を含む。第1のリザーバ3は、ナノポア5を介して第2のリザーバ4に接続可能である。一態様において、ナノポア5は、バイオポリマの分子(例えば、ポリヌクレオチド、ポリペプチド等)を一度に1つだけしか通すことができないような寸法になっている。
【0053】
分離されるべきバイオポリマは、上述したような核酸、蛋白質(例えば、抗体)、ペプチド、炭水化物、グリカン、脂質、スフィンゴ脂質、プロテオグリカン等とすることができる。分子の形状またはサイズは、重要ではなく、本発明によるナノポアを通って移動できなければならない。核酸のバイオポリマには、RNA、DNA、又はRNA・DNA複合体が含まれる。核酸バイオポリマは、一本鎖、二本鎖、又は部分的二本鎖とすることができる。バイオポリマの電気特性を修正するために利用可能な、金属のような付加材料をバイオポリマに加えることができる。例えば、バイオポリマに、金属または材料を付加し、ドーピングし、又は挿入することによって、正味の双極子、電荷が提供されることができ、及び/又はバイオポリマを介して導電することが可能になる。バイオポリマの材料によって、ナノポア開口部に隣接して配置されたオプションの電極間で電子トンネル効果が可能になる。一態様では、バイオポリマは、第1及び第2のリザーバ内における、及び/又はナノポアを通って移動する際の、バイオポリマの位置を追跡する態様をもたらす、分子または材料を含む。別の態様では、バイオポリマは、バイオポリマの電気特性を変える場合もあれば、変えない場合もある標識でもって直接的または間接的に標識付けされる。さらなる態様では、バイオポリマは、その直径及び/又は長さを増加するタグでもって標識付けされる。タグは、特定の配列特性(例えば、選択されたヌクレオチド又はアミノ酸配列)を有するバイオポリマに選択的に結合され得る。
【0054】
ナノポアは、生体分子から(例えば、固形支持体上の脂質二重層から)、又は脂質膜、イオンチャネル等に埋め込まれたポア形成分子(例えば、α溶血素)から、又は非生体材料から生成され得る。別の態様では、ナノポアは、半導体材料から生成される。半導体材料には、以下に制限するわけではないが、マイクロエレクトロニクス材料のような有機材料及び無機材料、Si、Al2O、SiOのような絶縁材料、ポリアミドのような有機高分子及び無機高分子、テフロン(R)のようなプラスチック、シリコンゴムのようなエラストマ、及びガラスが含まれる。ナノポアは、集積回路(IC)製造技術、及び以下に制限するわけではないが、フォトリソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、エピタキシャル成長、イオンビームスパッタリング、エッチング、TEM電子ビームの放射、及びプラズマ促進化学蒸着(PECVD)を含む他の方法を利用して生成され得る。例えば、特許文献5を参照されたい。また、非特許文献2も参照されたい。1つの方法で生成されたポアは、初期の製造後に、PECVDのエッチング等によって、サイズを変更され得る。
【0055】
第1及び第2のリザーバは、任意の形状または寸法を有することができる。一態様では、第1及び/又は第2のリザーバは、基材にチャネルを含む。チャネルのサイズは変動することができる。一態様において、チャネルの幅は、約10mm未満、約5mm未満、約1mm未満、約100nm未満、又は約10nm未満の場合さえある。
【0056】
第1のリザーバは、例えば、分離されるべきバイオポリマの集団を含む溶液のような溶液を、第1のリザーバに入れるためのポート又は注入口を含むことができる。さらなる態様では、第2のリザーバは、所望の特性を有する分離されたバイオポリマを含む溶液のような溶液を、第2のリザーバから除去するためのポート又は排出口を含む。また、第1のリザーバが、1つ又は複数の排出ポートを含むこともでき、第2のリザーバが、1つ又は複数の注入ポートを含むこともできる。
【0057】
ハウジング材料は、基材及びナノポアの設計技術において知られているさまざまな材料からなることができる。材料は固体材料の場合もあれば、そうでない場合もある。例えば、材料は、メッシュ、ワイヤ、又はナノポアを構築することができる他の材料からなることができる。こうした材料は、シリコン、シリカ、Siのような半導体材料、シリコンを多量に含有する窒化珪素、酸窒化ケイ素、炭素ベースの材料、プラスチック、ポリマ、樹脂、ガラス、金属、又は半導体又は導電性材料をエッチングする、又は製造するための技術において知られている他の材料、及びそれらの組み合わせからなることができる。いくつかの態様では、ハウジングは、少なくとも部分的に光透過性である。しかしながら、別の態様では、ハウジングは、光不透過性である(透過するのは光の10%未満である)。一態様において、ハウジングは、1つ又は複数の層を含む材料からなり、そのうちの1つを導電層とすることができる。別の態様では、装置は、非導電性材料の層をさらに含む。
【0058】
ハウジングは、さまざまな形状及びサイズからなることができる。一態様では、装置のハウジングは、基材にエッチングされた、又はエンボス加工された1つ又は複数のリザーバ又はチャネルを含む基材からなる。しかしながら、ハウジングは、ナノポアを形成することができる十分な大きさと、十分な幅を備えていなければならない。
【0059】
いくつかの態様では、ナノポアの開口部を画定する材料がコーティングされて、その材料を不動態化するか、又は開口部の電気特性を修正することができる。例えば、有機材料または無機材料を堆積して、表面の凸凹の状態(例えば、ナノポアの製造に用いられるエッチング技術の結果として生じる)を低減することができる。一態様では、コーティングは、蛋白質のような生体分子を含む。ナノポアを含むナノチャネルも同様にコーティングされ得る。ナノチャネルは、完全に又は部分的にコーティングされ得る。
【0060】
別の態様では、第1及び第2のリザーバは、ナノポアを含む膜によって分離される。膜の一方の側を負に帯電し(又は、負の帯電状態になるようにし)、もう一方の側を正に帯電し(又は正の帯電状態になるようにして)、負の帯電分子(核酸のような)がナノポアを通過するように駆動され得る。
【0061】
ナノポアは、ハウジング上の/ハウジング中のどこにでも配置され得る。ナノポアのサイズは、約1nm〜約300nmもの大きさ、又は約2nm〜約20nm、約1nm〜約20nm、約1nm〜約10nm、及び約1nm〜2nmの範囲にわたることができる。
【0062】
一態様において、開口部は、ナノポアを横切って移動するバイオポリマを一度に1つの分子に制限するのに十分な大きさである。例えば、ナノポアは、バイオポリマの幅と同様にすることができる。一態様において、ナノポアは、一本鎖の核酸分子の通過を許容するが、二本鎖の核酸分子の通過を許容しないようにするのに十分な大きさであり、一方、別の態様では、ナノポアは、単一の二本鎖分子または部分的に二本鎖の分子の通過を許容するのに十分な大きさである。例えば、ナノポアは、約2〜20nm、約2〜10nm、又は約2〜4nmの直径を含む。
【0063】
図1に示すように、本発明の一実施形態において、装置は、ナノポアが配置されたチャネル壁面を画定するチャネル6を含む。一態様において、この「ナノチャネル」6によって、装置の第1のリザーバ3と第2のリザーバ4が接続される。図面には、第1及び第2のリザーバ3及び4と、ナノチャネル6を画定する単一の連続したハウジングが示されているが、これらのリザーバ及びチャネルを形成するために、さまざまなタイプのハウジング又は基材を使用することができる。例えば、第1及び第2のリザーバは、第1及び第2のリザーバと、ナノポアチャネルとに連絡する場合もあれば、そうでない場合もある、追加リザーバ及びチャネルを含むより大型の微小流体装置またはMEMS装置の一部とすることができる。さらに、第1及び第2のリザーバは、1つ又は複数の流体供給装置および他の周辺装置(例えば、ポンプ、配管、毛細管等)に接続可能である。第1及び第2のリザーバを含む装置は、第1及び第2のリザーバを画定するハウジング又は基材と同じ材料又は異なる材料からなることができる。第1及び第2のリザーバは、微細加工、鋳造、又は熱成形といった、任意の適切なプロセスを利用して製造され得る。
【0064】
ハウジングは、単一体の基材材料から機械加工されるか、又は単一体の基材材料に形成又は鋳造され得る。代案として、ハウジングは、2つ以上のセクション又はプレートから作成され得る。例えば、ハウジングは、上部プレートと下部プレートからなることができ、それぞれのプレートは、第1及び第2のリザーバの一部(例えば、下半分または上半分)を構成し、そのため第1及び第2のリザーバは、2つのプレートを接合することによって形成される。代案として、一方のプレートが、第1及び/又は第2のリザーバの全体を含み、もう一方のプレートが、リザーバのカバーとすることもできる。プレートは、互いから取り外すこともできる。
【0065】
いくつかの態様では、第1及び/又は第2のリザーバは、1つ又は複数の接続チャネルと直接的、又は間接的に連絡する。1つ又は複数の接続チャネルは、さまざまなサイズ及び形状とすることができる。例えば、チャネルは、少なくとも1つの寸法(例えば、幅のような)が1mm未満のマイクロチャネル、又は少なくとも1つの寸法が1μm未満のナノチャネルとすることができる。チャネルは、蛇行形状、直線形状、角度の付いた形状、又はこれらの形状の組み合わせとすることができる。一態様では、上述したように、第1及び/又は第2のリザーバ自体は、チャネルとして構成され得る。接続チャネルによって、試薬及び/又は緩衝液を第1及び第2のリザーバに供給することができる。代案として、又は追加的に、第1及び/又は第2のチャネルと連絡する注入ポートを利用して、試薬及び/又は緩衝液を第1及び/又は第2のリザーバに供給することもできる。
【0066】
ナノポアの片側又は両側に導通電極7を設けて、ナノポアの両端に電界を印加することができる。電極7は、ナノポアの範囲内に配置される必要はなく、第1及び第2のリザーバの壁面と連続している必要もなく、例えば、電極は壁面から離れていてもよい。
【0067】
装置の電極は、導電性材料からなる。導電性材料には、以下に制限するわけではないが、導電性金属、並びにプラチナ、イリジウム、パラジウム、金、水銀、水銀カロメル、スズ、銅、亜鉛、鉄、マグネシウム、コバルト、ニッケル、及びバナジウム、及びそれらのさまざまな組み合わせが含まれる。また、Ag/AgCl又はHg/HgO電極のような電気化学電極を利用することもできる。また、電気伝導を可能にする技術においてよく知られた他の材料を用いることもできる。電極は、サイズ及び/又は形状を異ならせることができる。バイオポリマの流れを阻止するか、又は妨げる泡の形成を避けるために、電極には、泡の形成を最小限に抑えることの助けになる、パラジウムのような材料からなることができる。
【0068】
装置内におけるバイオポリマの移動は、バイオポリマを取り囲む液体の電気浸透流、及び/又は液体内におけるバイオポリマの界面動電移動に依存することができる。電気浸透移動と界面動電移動のこの組み合わせは、電極7によって発生する電界の空間的勾配の存在によって生じる効果を含むことができる。
【0069】
また、装置1は、バイオポリマを移動させるための1つ又は複数の機構を含むこともできる。こうした機構には、以下に制限するわけではないが、電気泳動流、電気浸透流、界面動電流、シース流、栓流、放物線流、ハーゲンポアズィユの流れ、電気流体力学的流れ、レプテーション(reptation)、浸透勾配、拡散、電界、圧力等を提供するための機構を含むことができる。図1には、1対の電極を備えた装置1が示されているが、第1のリザーバ3又は第2のリザーバ4内、及び/又は1つ又は複数の接続チャネル又は接続リザーバ内におけるバイオポリマの移動を制御するために、追加電極を設けることができる。ある実施形態では、第1及び第2のリザーバは、毛細管電気泳動、オンチップ分離といった電気泳動分離を実施するために、毛細管又はチャネルと連絡する。こうした追加の分離コンポーネントを利用して、例えば、第1のリザーバに入る試料の複雑性を単純化することができる。ある実施形態では、リザーバは、試料を濃縮するための媒質(例えば、結合分子を伴う、又は伴わない固相、フィルタ、ゲル等)と連絡できる。一態様では、第1及び/又は第2のリザーバは、第1及び/又は第2のリザーバに直接的、又は間接的に接続されたチャネル内の濃縮媒質と連絡する。
【0070】
装置の電極は、ハウジングに対してどこにでも配置され得る電圧源8に接続可能である。電圧源8は、接続されたそれぞれの電極間に電圧勾配を確立することができなければならない。本発明には、さまざまな電圧源を用いることができる。一態様では、電圧源8は、所望の数のバイオポリマを第1のリザーバ3から第2のリザーバ4に移動させた後に、電圧を逆転させるための極性切換え可能な電圧源からなる。ある実施形態では、電圧源8の極性を切り換えることによって、バイオポリマを第2のリザーバ4から移動させて、第1のリザーバ3に戻すことができる。
【0071】
さらに、増幅器または検出器を利用して、バイオポリマがナノポアを横切る際に、開口部の両端におけるイオン伝導または電子伝導の変化を検出することができる。別の態様では、装置は、時間と共に電流を測定することができる検出器9に接続可能である。さらなる態様において、検出器9は、ナノポアのいずれかの側に適切に配置された電極を利用して、ナノポアの両端の電子流を測定する。
【0072】
追加の検出器を設けることもできる。例えば、第1又は第2のリザーバ、又はナノポアチャネルの1つ以上における流体の電気特性または他の特性の検出、及び/又は流体中における分子(例えば、バイオポリマのような)の特性の検出が可能な検出器を設けることができる。一態様では、検出器は、第1又は第2のリザーバ、及び/又はナノポアチャネル内の溶液中におけるバイオポリマ(直接的、又は間接的に標識付けされた)の標識を検出することができる。例えば、標識は、蛍光標識とすることができ、検出器は、光検出器とすることができる。一態様では、標識によって、ある特定配列のバイオポリマに選択的に標識付けされる。こうした検出器を利用して、リザーバ内における、及び/又は第1及び第2のリザーバと連絡している接続チャネル又は他のリザーバ内におけるバイオポリマの存在、量、及び/又はタイプを検出することができる。
【0073】
さらなる態様では、一方または両方のリザーバ、及び/又は接続チャネルは、例えば、温度、pH等のような、リザーバ(単数または複数)及び/又は接続チャネルに関する条件を検知するためのセンサ(単数または複数)を含む。
【0074】
さらに別の態様では、第1及び/又は第2のリザーバは、加熱要素(単数または複数)を含む。所望の場合、係る要素を利用して、一本鎖核酸分子から二本鎖形態への変換、及び/又は温度感知プロセス(例えば、耐熱性ポリメラーゼによって媒介される増幅のような)を実施することができる。
【0075】
一実施形態では、本発明は、バイオポリマの移動をモニタする(例えば、電流を時間と共に測定することによって)検出器9からデータを取得するために、プロセッサ10と通信する上述した装置の1つを含むシステムを提供する。一態様では、プロセッサが、例えば、電界の特性を変更し、電圧源をオフにし、電圧極性を逆にし、1つ又は複数のセンサ、検出器、加熱要素、流体または試料の供給装置、流体またはバイオポリマの収集装置等の機能を実施するために、1つ又は複数の装置コンポーネントにフィードバックを供給する。プロセッサの機能は、ハードウェア、ソフトウェア及び/又はそれらの組み合わせによって少なくとも部分的に実施され得る。
【0076】
一態様では、プロセッサ10はメモリにアクセスする。メモリは、磁気記憶装置、光記憶装置、又は固体記憶装置とすることができる(固定式か携帯用かの何れかで、磁気ディスクまたは光ディスク又はテープ又はRAM、又は他の任意の適切な装置を含む)。プロセッサは、上述したように、それに必要とされる機能の全てを実行するために、必要なプログラムコードを保持するコンピュータ可読媒体から適切にプログラムされた汎用デジタルマイクロプロセッサを含むことができる。適切なプログラムは、プロセッサに遠隔的に供給されることができ、又はメモリ又は他の何らかの携帯用または固定式コンピュータ可読記憶媒体のようなコンピュータプログラム製品に予め保存されることができる。例えば、磁気ディスクまたは光ディスクは、プログラムを保持することができ、プロセッサと通信するディスク読取装置により読み出され得る。
【0077】
一態様では、プロセッサによって収集されるデータ(例えば、電流の経時変化に関するデータのような)は、メモリに格納され得る。別の態様では、1つ又は複数のバイオポリマのサイズに電圧を印加すべき時間に関連したデータが、メモリ(例えば、関連データベース)に格納される。さらなる態様では、電流インピーダンスの観測後の時間量を1つ又は複数のバイオポリマのサイズに関連づけるデータが、メモリに格納される。さらに別の態様では、電流インピーダンスの観測後に、所定の時間が経過した旨の通知に応答して、プロセッサ10は、電圧源8に対して、電圧の印加停止、及び/又は極性の逆転の命令を供給する。こうした通知は、検出器9(電流を時間と共にモニタする)がプロセッサ10に信号を送る場合に提供され得る。一態様では、ユーザによって所定の時間が選択される。例えば、ユーザは、プロセッサと通信するユーザ装置のインターフェイスに、分離及び/又は単離されるべき所望の分子サイズを入力し、分子サイズに関連した時間期間(例えば、関連データベース内の)がプロセッサによって識別される。次いで、検出器9は、所定の時間が経過した際にプロセッサ10に通知し、次いで、プロセッサ10は、電圧源8に命令を送って、電圧の印加を停止、及び/又は電圧の極性を逆転する。一態様では、検出器9は、プロセッサ10に信号を供給するタイマ/カウンタ回路と通信する。タイマ/カウンタは、プロセッサ10から独立した回路とすることができ、又は代案として、プロセッサの一部とすることができる。ある態様では、クロック信号が、デジタルシグナルプロセッサを介してプロセッサ10に送られる。別の態様では、所定の時間がメモリに格納される。さらなる態様では、1つ又は複数のシステムコンポーネントからのフィードバックに応答して、プロセッサによって所定の時間を選択することができる。
【0078】
リザーバ及びナノポアの他の構成も可能であり、本発明の範囲内に包含される。
【0079】
図2に示すような一実施形態では、本発明は、バイオポリマの並行分離を実施するための装置を提供し、これによってプロセスの処理量が増大する。一態様では、装置は、複数のナノチャネル6によって第2のリザーバ4に接続された第1のリザーバ3を含み、ナノチャネル6はそれぞれ、ナノポア5を含む。装置は、各ナノポア5毎に1つずつの、複数の電極対7をさらに含む。プロセッサ10を利用して、電圧源8からナノポア5に電圧バイアスを加えることができる。一態様では、こうした装置は、少なくとも約2個、少なくとも約5個、少なくとも約10個、少なくとも約20個、少なくとも約50個、少なくとも約100個のナノチャネル6を含むことができる。別の態様では、装置は、第1及び/又は第2のリザーバへ供給する、同様または異なる数の接続チャネルを含む。検出器9は、電流の経時変化をモニタする。一般に、これらの変化の振幅は、ナノポア5のそれぞれにおいて同じになる。
【0080】
図3に示すような別の実施形態では、装置は、選別分離用に構成され得る。一態様では、装置は、複数の第1のリザーバ3A、3B、3C、及び3Dを含み、それらの各々は、ナノチャネル6を構成する独立したナノポア5を介して、単一の第2のリザーバ4に接続する。各ナノポア5は、関連した電極対7を含む(又は、各ナノチャネル6が、図示しない電極を形成することができる)。第1のリザーバの少なくとも2つは、電圧源8によって独立して制御されるので、他方のナノポア5に印加される(又は、印加されない)電圧とは無関係に、ナノポア5の一方に電圧バイアスを印加することができる。一態様では、各ナノポア5の両端の電圧バイアスは、独立して制御される。この実施形態により、さまざまな特性を含む可能性がある、複数の特性に従ってバイオポリマを分離することが可能になると同時に、複数のナノポアを設けることによって可能となる高い処理能力を利用することも可能になる。図3は、選別を行って、単一のリザーバ(リザーバB)に入れることができることを示すが、図5に示すように、ある態様では、複数の特性に従って、バイオポリマを選別して、2つ以上のリザーバに入れることができる装置が提供される。例えば、バイオポリマの混合集団(異なるサイズといった、少なくとも2つの異なる特性を含む)を第1のリザーバA内に準備し、選別して、副リザーバB1、B2、B3、B4等に入れることができ、副リザーバはそれぞれ、ナノポア5によって第1のリザーバと流体連絡する。一態様では、2つ以上のリザーバの両端における電圧バイアスは、独立して制御されるが、選別されて、2つ以上の副リザーバに入れられる分子は、さまざまな特性を有することができる。
【0081】
図4に示すようなさらなる実施形態では、装置は、タンデム分離用に構成される。一態様では、装置は、少なくとも3つのリザーバを含み、それらのうちの少なくとも1つは、2つのナノポアによって他の2つのリザーバに接続する。例えば、図4は、ナノチャネル6によって直列に配置および接続された3つのリザーバ11、12、及び13を示す。ナノチャネル6の各ナノポア5は、ナノポア5のいずれかの側にある1対の電極によって発生された電界にさらされることができる。従って、他の2つのリザーバを接続する「橋渡しリザーバ」の働きをするリザーバは、ナノポア5の各側に1つずつ、2つの電極7を含むことができる。電圧バイアスは、各ナノポアチャネル6に印加されることができ、各ナノチャネル6の電圧は、独立して制御され得る。例えば、所定の時間にわたって、電極対14の両端に印加される電圧バイアスを利用して、リザーバ11と12との間におけるポリマの移動を制御することにより、第1のサイズを有するバイオポリマを分離することができ、所定の時間にわたって(例えば、異なる所定の時間)、電極対15の両端に印加される電圧バイアスを利用して、第2のサイズ(例えば、第1のサイズとは異なるサイズ)を有するポリマを分離し、これらをリザーバ12からリザーバ13に移動させることができる。装置は、複数の化合物を分離するために、より多くのリザーバを含むように修正され得る。一態様では、少なくとも3つのリザーバ11、12、及び13が、リザーバ(単数または複数)からの試料/流体/試薬の除去、及び/又はリザーバ(単数または複数)への試料/流体/試薬の追加のために、1つ又は複数の注入ポート及び/又は排出ポートを含む。1つ又は複数のリザーバは、上述したように1つ又は複数の接続チャネルを含むことができる。態様によっては、1つ又は複数のリザーバが、バイオポリマの移動以外に、1つ又は複数のシステム機能を実施することができる。例えば、1つ又は複数のリザーバ内において、増幅反応、酵素消化、ハイブリッド形成または他の結合反応、試料濃縮等を実施することができる。さらに、又は代案として、ナノポアを含まないが、ナノポアを含むリザーバに接続可能な1つ又は複数の接続チャネル又はリザーバにおいて、1つ又は複数のシステム機能を実施することができる。
【0082】
さらに別の実施形態では、装置は、並行、選別、及び/又はタンデム分離の組合せを実施するように構成され得る。選別分離は、複数のリザーバから単一のリザーバに、又は単一のリザーバから複数の異なるリザーバに、又はそれらの何らかの組合せで行うことができる。
【0083】
ナノポアをベースにした分離装置の利用方法
一実施形態では、本発明は、上述したようなナノポアをベースにした分離装置を利用するための方法を提供する。一態様では、この方法は、ナノポア5を含むナノチャネル6によって第2のリザーバ4に接続された第1のリザーバ3内に、複数のバイオポリマ(例えば、異なる数のモノマーを含むバイオポリマ)を準備すること、ナノポア5を横切ってバイオポリマを移動させるのに十分な電界をチャネル6の両端に確立し、それによって、そのバイオポリマを他のバイオポリマから分離すること、移動したバイオポリマを第2のリザーバ4に集めるか、又は残りのバイオポリマを第1のリザーバ3に集めることを含む。
【0084】
この方法を利用して、同じタイプのバイオポリマ又は異なるタイプのバイオポリマを分離することができる。一態様では、バイオポリマは、核酸分子を含む。別の態様では、バイオポリマはポリペプチド分子を含む。さらなる態様では、この方法を利用して、核酸分子およびポリペプチド分子の両方が分離され、例えば、この方法を利用して、ポリペプチドから核酸分子を分離するか、又は特定の特性(例えば、サイズ)を有する核酸及びポリペプチドを、他の特性を有する核酸及びポリペプチドから分離することができる。
【0085】
一般に、第1及び第2のリザーバ3及び4には、バイオポリマに、ナノポア5を横切って一方のリザーバからもう一方のリザーバに移動するのに十分な移動性を与える、流体のような媒質が含まれる。一態様では、媒質は、電解質溶液のような導電性媒質からなる。例えば、媒質は、電流を伝えることができるイオン(例えば、ナトリウム、カリウム、塩化物、カルシウム、セシウム、バリウム、硫酸塩、又はリン酸塩)を含むことができる。
【0086】
第1のリザーバ3と第2のリザーバ4との間で、ナノポア5の両端に電圧差を加えることができる。電圧バイアスの大きさは、ある特定のサイズのバイオポリマをナノポア5に集めるように選択され得る。典型的な電圧は、約20ミリボルト〜1ボルトの範囲とすることができるが、電圧は、特定の用途に適合するように最適化され得る。
【0087】
ナノポア5の両端のコンダクタンスは、導電性媒質を介したナノポア5を横切る電流の流れを測定することによって求められ得る。バイオポリマがナノポア5を通って移動する際、イオン電流が妨げられ、測定されるイオン電流の減少が観測される。所与のシステム及び印加電圧に関して、移動速度(例えば、1秒当たりのヌクレオチド塩基またはアミノ酸の数といった、ポリマの移動における1秒当たりのモノマー数)は、ほぼ一定であり、従って、移動時間は、ポリマの長さに比例する。このように、イオン電流が妨げられる持続時間は、バイオポリマの長さとサイズに比例する。バイオポリマがナノポア5を通過した後に、イオン電流は、妨げられないレベル、例えば、バイオポリマの移動前に観測されたレベルに戻る。本発明の一実施形態では、ナノポア5を横切って選択されたサイズのバイオポリマを移動させ、バイオポリマの試料集団における他のバイオポリマからそのバイオポリマを分離するのに十分な時間量にわたって、ナノポア5の両端に電界が印加される。電流は、例えば、検出器9によってリアルタイムで測定されることができ、時間及び電圧に対する電流変化に関連したデータがプロセッサ10に供給される。
【0088】
一態様では、電流変化に関連したデータに応答して、プロセッサ10は、システムに電圧源8の電圧を変更するような命令を供給する。例えば、プロセッサ10は、電圧源8に極性を逆にするような命令を供給することができる。一態様では、プロセッサ10は、関心のある特性(例えば、所望のモノマー数)を有するバイオポリマの分離に必要な移動時間を示す、所定時間経過の通知を受信し、この通知に応答して、電圧源8に命令を与えて、ナノポア5の両端に印加される電圧バイアスの特性を変更する。
【0089】
プロセッサは、検出器9と通信するカウンタ/タイマ回路のようなタイマ機構から時間経過の通知を受信することができ、及び/又は時間間隔をモニタして、時間間隔に関連した情報をプロセッサ10に提供することが可能な処理コンポーネント(例えば、カウンタ/タイマを含むマイクロプロセッサのような)を備えるか、又はそれらの処理コンポーネントと通信できる。一態様では、時間経過が所定の時間に一致した場合に、プロセッサは、上述のように、電圧源8に命令を与えることができる。所定の時間を構成する時間長は、ユーザが、例えば、プロセッサ10と通信しているユーザ装置のディスプレイに時間期間を入力することによって(直接的に、又はネットワーク又はサーバを介して)、及び/又は所定の時間を含み、プロセッサによって実行される、コンピュータ可読媒体(例えば、コンピュータプログラム製品)からの命令によって設定され得る。代案として、又はさらに、1つ又は複数のシステムコンポーネント(例えば、装置の1つ又は複数のリザーバと連絡するセンサのような)からのフィードバックに応答して、所定の時間を設定することもできる。
【0090】
一態様では、バイオポリマがナノチャネル6を横切って移動を開始すると(例えば、イオン電流の減少が検出されると)、検出器9は、イオン電流が妨げられる時間(「移動時間」)の記録を開始する。移動時間が所定の時間未満である場合、印加電圧の極性は同じままであり、ポリマは、ナノポア5を通って、第1のリザーバ3から第2のリザーバ4に達する。次いで、このプロセスが繰り返され、別のバイオポリマが第2のリザーバ4に供給される。記録された移動時間が所定の時間を超えると、プロセッサ10は、電圧源8に対して、電圧源の極性をスイッチするための命令を与える。これが行われると、ポリマは、その移動方向を逆転し、第1のリザーバ3に戻る。妨げられない電流レベルに達すると(即ち、バイオポリマが第1のリザーバ3に戻ると)、プロセッサ10は、電圧源8に対して、初期の極性に戻すように命令する。このプロセスは、任意の回数だけ繰り返され得る。ある特定の分離時間後、第1のリザーバには、依然として、モノマーサイズの異なるバイオポリマが含まれる可能性があるが、第2のリザーバ4内のバイオポリマのほぼ全ては、その移動時間が所定の時間未満のバイオポリマからなる。
【0091】
一態様では、所定の時間は、以下の分離を実現するように設定される。即ち、モノマーの数が最も少ないバイオポリマだけが、第2のリザーバ4に移動する一方で、モノマーの数が最も多いバイオポリマだけが、第1のリザーバ3に残る。
【0092】
複数の平行ナノポア(例えば、図2に示すような)を設けることによって、複数のバイオポリマを分離することができる。さらに、バイオポリマは、例えば、図3に示すように、複数の異なる特性(例えば、異なる長さ)に従って、同時に分離され得る。例えば、図4に示すように、複数のリザーバをタンデムに設けることにより、バイオポリマの順次選別を実施することができる。これらの手法の組み合わせ及び変形態様を利用することができ、それらは本発明の範囲内に包含される。
【0093】
一態様では、この方法は、分離が行われた後に、1つ又は複数のリザーバからバイオポリマを除去するステップ、集めるステップ、及び/又は単離するステップを含む。
【0094】
電圧を印加した後のある特定の期間後に、電流の一時的低下を生じることを必要とすることにより、ナノポアを介した移動に望ましいサイズのバイオポリマを選択することができる。バイオポリマが長くなるほど、ナノポアを介した移動に要する時間も長くなる。選択されたサイズのバイオポリマを移動させるのに必要な時間は、既知のサイズの標準的バイオポリマ分子を利用して実験的に決めることができる。その後、未知のサイズのバイオポリマに電圧を印加して、第1及び第2のリザーバ内において、サイズに応じてこれらを分離することができる。
【0095】
本発明の方法は、生体分子の分離を利用するさまざまな用途に用いることができる。
【0096】
一態様では、挿入、除去、又はそれらの組み合わせを含む方法によって、核酸分子の識別が可能になる。例えば、この方法を利用して、長さが塩基対1つ分以上異なる核酸を分離することができる。一態様では、この方法を利用して、核酸分子における全塩基対の数の1%だけサイズが異なる核酸を分離することができる。分離されるべき核酸分子のサイズは異なり、一態様では、1〜100,000塩基対以上にわたる可能性がある。
【0097】
従って、本発明の方法、装置、及びシステムは、サイズの異なる対立遺伝子多型(例えば、突然変異体のような)を分離するのに有用な検定法である。また、この方法を利用して、RFLP分析、クローニング生成物(クローニング中間体)(例えば、連結核酸のような)の分離及び単離、ポリペプチドの分離、一本鎖分子からの二本鎖または部分的二本鎖分子の分離、他の分子に結合した分子(例えば、他の核酸に結合した核酸、ポリペプチドに結合した核酸、他のポリペプチドに結合したポリペプチド等)の分離、処理されていない形態の分子から処理された形態の分子(例えば、非切断蛋白質から切断蛋白質、不消化分子から消化核酸分子、スプライスされていない分子からスプライスされたRNA分子)の分離、非修飾バイオポリマからの修飾ポリマの分離、サイズに基づく染色体の分離、非再配列遺伝子から再配列遺伝子の分離(例えば、非再配列遺伝子を含む断片から再配列遺伝子を含む断片を分離することによる)、ゲノムDNA分子からのプラスミドDNA分子の分離および単離等において、増幅産物(例えば、PCR生成物)又は他のプライマ伸長生成物を分離及び単離することができる。
【0098】
分離された分子はさらに、例えば、濃縮、特性解明(例えば、配列決定)、単離等により処理され得る。ある実施形態では、非結合分子からの結合分子の分離を利用して、互いに作用し合う受容体、リガンド、又は配列を同定することができる。例えば、第1のバイオポリマの集団は、第2のバイオポリマの集団(検出可能な標識及び/又はアフィニティタグで標識付け可能な)、及び本発明によるナノポア装置を用いて結合されていないバイオポリマから分離された結合複合体と接触させることができる。結合パートナは、ナノポア装置を利用して、又は別の方法によって互いから分離(例えば、標識付けされていない、又はタグ付けされていない分子から標識付けされた又はタグ付けされた分子を分離)されることができ、標識付けされた/タグ付けされた分子、又は標識付けされていない/タグ付けされていない分子はさらに、配列決定または別の適切な検定法(例えば、質量分析法)によって評価され得る。結合パートナは、いくつかの実施形態ではプローブとして利用され得る。例えば、既知の核酸配列を利用して、非相補的核酸から相補的核酸を分離することができる。同様に、ポリペプチド(例えば、抗体または抗原結合フラグメント)は、他のポリペプチド(例えば、抗原のような)のプローブとして利用され得る。ある実施形態では、核酸がポリペプチドのプローブとして利用され、またその逆も行われる(例えば、核酸分子を利用して、転写因子または他の核酸結合分子について試料を探査することができる)。
【0099】
リンカー分子および/またはタグがバイオポリマと選択的に結びつけられることができ(例えば、選択された配列のバイオポリマと結合または結びつけられる)、それによりバイオポリマのサイズを拡大し、これを利用して、選択された配列を含まないバイオポリマから選択された配列のバイオポリマを分離することができる。
【0100】
ある態様では、プロセッサ10は、1つ又は複数のリザーバ内のバイオポリマの特性(例えば、バイオポリマの配列、他の分子との結合が可能か否か、そのサイズ等)に関するデータを取得する。こうしたデータは、プロセッサと連絡するメモリから取得されるか、又はメモリに追加される。ある実施形態では、システムのユーザによって、1つ又は複数のリザーバ内のバイオポリマの特性に関連したデータが、プロセッサと連絡しているユーザ装置のディスプレイに入力される。これは、遠隔的に、又は局所的に(例えば、ナノポア装置が配置されている同じ部屋において)実施され得る。追加の、又は代替の実施形態において、ユーザは、ユーザ装置のディスプレイ上で、1つ又は複数のリザーバ内のバイオポリマに関連したデータを閲覧することができる。
【0101】
また、分離された分子を定量化することもできる。例えば、リザーバに移動した、及び/又はバイオポリマの第2のリザーバへの移動後も第1のリザーバ内に残っているバイオポリマの量を求めて、分離されていない試料内にあったバイオポリマの数と比較することができる。これによって、自然核酸、突然変異核酸、及び/又は病原性核酸、スプライスされた、スプライスされていない、又は様々に(variently)スプライスされたRNAバイオポリマ、処理された、及び/又は処理されていないバイオポリマ、修飾または非修飾バイオポリマの発現の測度が提供され得る。
【0102】
本発明による装置、方法、及びシステムを用いて、分離ステップを利用可能な他の検定法を実施することができ、それらは、本発明の範囲内に包含される。
【0103】
キット
バイオポリマ分離検定法に使用するキットが提供される。対象のキットは、少なくとも、本発明のナノポア装置を含む。このキットはさらに、試料調製試薬、緩衝液、標識、酵素、制御バイオポリマ(例えば、既知のサイズの)等のような、検定の実施に必要な1つ又は複数の追加コンポーネントを含むことができる。そういうものだから、キットは、水薬瓶または瓶のような1つ又は複数の容器を含むことができ、各容器は、検定のための独立したコンポーネントを含む。一般に、キットはさらに、本発明に従って対象分離検定法を如何にして実施するかについての命令を含み、この場合、これらの命令は概して、キットのパッケージ挿入物及びパッケージの少なくとも一方に存在する。一態様では、キットは、本発明による1つ又は複数のコンピュータプログラム製品を含む。
【0104】
本明細書で引用された全ての文献は、あたかも、各個別の刊行物または特許文献または特許出願が、そっくりそのまま参照により組み込まれることを特に個別に指示されていたかのように、本明細書において、参照により、同程度までそっくりそのまま組み込まれている。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の一態様によるバイオポリマの分離システムを例示した概略図である。
【図2】本発明の一態様によるバイオポリマの並行分離システムを例示した概略図である。
【図3】本発明の一態様によるナノポアチャネルアレイを含む選別分離システムを例示した概略図である。
【図4】本発明の一態様によるバイオポリマのタンデム分離システムを例示した概略図である。
【図5】本発明の別の態様による複数のナノポアチャネルを含む選別分離システムを例示した概略図である。
【符号の説明】
【0106】
3、4、リザーバ
5 ナノポア
6 ナノチャネル
7 電極
8 電圧源
9 検出器
10 プロセッサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオポリマを分離するための方法であって、
ナノポアによって第2のリザーバに接続された第1のリザーバに複数のバイオポリマを準備し、
前記ナノポアを横切ってバイオポリマを移動させるのに十分な電界を前記ナノポアの両端に確立し、それにより前記バイオポリマが他のバイオポリマから分離され、及び
移動したバイオポリマを前記第2のリザーバに集めるか、又はバイオポリマを前記第1のリザーバに集めることを含む、方法。
【請求項2】
前記バイオポリマが核酸分子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸分子が一本鎖である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸が少なくとも部分的に二本鎖である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記バイオポリマが別の分子に結合され、前記方法が、結合バイオポリマを移動させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記バイオポリマが別の分子に結合され、前記方法が、非結合バイオポリマを移動させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオポリマがポリペプチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
選択されたサイズのバイオポリマを移動させるのに十分な時間量にわたって、電界が印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記複数のバイオポリマが、ポリペプチド、DNA、RNA、及び炭水化物のうちの少なくとも2つを含み、前記方法が、ポリペプチド、DNA、RNA、及び炭水化物からなるグループから選択されたバイオポリマを第2のリザーバに移動させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記選択されたサイズの複数のバイオポリマを前記第2のリザーバに集めることをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び第2のリザーバが、複数のナノポアによって接続されている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のリザーバが、複数の副リザーバからなり、各副リザーバが、ナノポアによって前記第2のリザーバに接続されている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
電界が前記ナノポアの少なくとも2つに別個に印加される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
特性の異なるバイオポリマが、前記ナノポアの少なくとも2つを通って移動させられる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記異なる特性が、異なるサイズを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記移動後に、前記第1又は第2のリザーバから前記集められたバイオポリマを除去することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記移動後に、前記第1のリザーバのバイオポリマを第1の容器に移し、バイオポリマを前記第2のリザーバから第2の容器に移すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記除去したバイオポリマの配列を決定することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記バイオポリマが核酸であり、前記選択されたサイズのバイオポリマが、前記第1のリザーバに残っているバイオポリマとはサイズの異なる約100未満の塩基対である、請求項8に記載の方法。
【請求項20】
前記選択されたサイズのバイオポリマが、前記第1のリザーバに残っているバイオポリマとはサイズの異なる約20未満の塩基対である、請求項8に記載の方法。
【請求項21】
前記選択されたサイズのバイオポリマが、前記第1のリザーバに残っているバイオポリマとはサイズの異なる約10未満の塩基対である、請求項4に記載の方法。
【請求項22】
前記ナノポアの両端の電流を時間と共にモニタすることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記電界が、前記ナノポアの両端に電圧バイアスを印加することによって確立され、前記方法が、選択されたサイズのバイオポリマを前記第2のリザーバに移動させるのに十分な時間期間後に、前記印加した電圧の極性を逆転させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
ナノポアの両端の電流がしきい値量未満に減少し始めた後の時間経過に関連した入力を受信して、前記選択されたサイズのバイオポリマを移動させるのに十分な所定の時間後に、前記電圧を印加する電圧源に対して、前記電圧の印加を停止するか、又は前記印加した電圧の極性を逆転させる命令を与えるプロセッサによって、前記電圧バイアスが制御される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記プロセッサが、メモリにアクセスし、前記所定の時間に関連したデータが前記メモリに格納される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記プロセッサが、ユーザ装置と通信し、ユーザによって、前記所定の時間に関連したデータが前記ユーザ装置のディスプレイに入力される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記所定の時間にわたって前記電圧を印加することが、1回または複数回繰り返される、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
複数のバイオポリマが、前記第1のリザーバと前記第2のリザーバを接続する1つ又は複数のナノポアを通って、前記第2のリザーバに移動させられ、前記方法が、移動したバイオポリマを濃縮することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記方法を利用して、対立遺伝子多型が分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記方法を利用して、増幅産物が分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記方法を利用して、核酸試料とヌクレアーゼを接触させることによって生じた核酸の断片が分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記ヌクレアーゼが制限酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記方法を利用して、非連結核酸分子から連結核酸分子が分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記方法を利用して、クローニング中間体が分離および/または単離される、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記方法を利用して、処理されていないバイオポリマから処理されたバイオポリマが分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記方法を利用して、非修飾バイオポリマから修飾バイオポリマが分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項37】
前記方法を利用して、スプライスされていないか、又は代わりのスプライスされた分子から、スプライスされたRNA分子またはそのcDNAコピーが分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
前記方法を利用して、サイズの異なる染色体が分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項39】
前記方法を利用して、ゲノムDNAからプラスミドDNAが分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項40】
前記方法を利用して、非再配列遺伝子から再配列遺伝子が分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項41】
前記方法が、結合分子を集めて、結合した分子を分離し、前記結合分子の一方または両方の配列を決定することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項42】
集められたバイオポリマに質量分析を受けさせることをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項43】
前記第2のリザーバがナノポアによって第3のリザーバに接続され、前記方法が、前記第2のリザーバと前記第3のリザーバを接続する前記ナノポアの両端に、前記第2のリザーバから前記ナノポアを横切って前記第3のリザーバにバイオポリマを移動させるのに十分な電界を確立することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項44】
ナノポアによって第2のリザーバに接続可能な第1のリザーバと、
前記ナノポアの両端に電界を発生するための電圧源と、及び
前記電圧源と連絡するプロセッサとを備え、
前記プロセッサが、電圧の印加される時間期間を調整するための命令を、前記電圧源に与える、装置。
【請求項45】
前記第1のリザーバが、前記ナノポアを含むチャネルによって前記第2のリザーバに接続可能である、請求項44に記載の装置。
【請求項46】
前記プロセッサが、選択されたサイズのバイオポリマを、前記ナノポアを横切って移動させるのに十分な時間期間の後に、前記電圧源に対して印加電圧の極性を逆転させる命令を与える、請求項44に記載の装置。
【請求項47】
前記装置が、電流を時間と共に測定するための検出器を含み、電流がしきい値レベル未満に減少した後の所定の時間期間後に、前記プロセッサが、前記電圧源に対して、電圧の印加を停止するか、又は印加電圧の極性を逆転させる命令を与える、請求項44に記載の装置。
【請求項48】
前記所定の時間が、選択されたサイズのバイオポリマを移動させるのに十分な時間である、請求項47に記載の装置。
【請求項49】
前記第1のリザーバが複数のナノポアによって前記第2のリザーバに接続可能である、請求項44に記載の装置。
【請求項50】
前記第1及び第2のリザーバの一方または両方が、バイオポリマを除去するための排出ポートを含む、請求項44に記載の装置。
【請求項51】
前記第1及び/又は第2のリザーバがチャネルを含む、請求項44に記載の装置。
【請求項52】
前記装置が、前記第2のリザーバと流体連絡している接続チャネルを含む、請求項44に記載の装置。
【請求項53】
前記第1のリザーバが複数の副リザーバからなり、各副リザーバが、ナノポアによって前記第2のリザーバに接続可能である、請求項44に記載の装置。
【請求項54】
少なくとも2つの副リザーバのナノポアの両端に別個に電圧を印加することができる、請求項53に記載の装置。
【請求項55】
前記装置が、ナノポアによって前記第2のリザーバに接続可能な第3のリザーバをさらに含み、第1と第2のリザーバ、及び第2と第3のリザーバを接続するナノポアの両端に、別個に電圧を印加することができる、請求項53に記載の装置。
【請求項56】
前記第2のリザーバが複数の副リザーバからなり、各副リザーバが、ナノポアによって前記第1のリザーバに接続可能である、請求項44に記載の装置。
【請求項57】
前記副リザーバのそれぞれが、試料を除去するための排出ポートを含む、請求項56に記載の装置。
【請求項58】
各ナノポアの両端の電圧が別個に制御される、請求項52に記載の装置。
【請求項59】
前記装置が、前記ナノポアのいずれかの側に電極をさらに含む、請求項44に記載の装置。
【請求項60】
請求項44に記載の装置と、電流インピーダンスとバイオポリマのサイズを関連づけるデータを含む関連データベースを含むメモリとを備え、前記プロセッサが前記メモリにアクセスする、システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−113057(P2006−113057A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292107(P2005−292107)
【出願日】平成17年10月5日(2005.10.5)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【住所又は居所原語表記】395 Page Mill Road Palo Alto,California U.S.A.
【Fターム(参考)】