説明

ナノ構造およびナノ構造の作製方法

【課題】格子定数差が大きな半導体基板上にボトムアップ的に制御性よくナノワイヤを作製する。
【解決手段】Au微粒子12をSi(111)基板11上に形成し、GaPナノワイヤ13をSi(111)基板11上に成長させた後、InPバッファ層14をGaPナノワイヤ13上に形成し、さらにGaInAsナノワイヤ15をInPバッファ層14上に成長させた後、GaPナノワイヤ13、InPバッファ層14およびGaInAsナノワイヤ15の周囲が覆われるようにInPキャッピング層16を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ構造およびナノ構造の作製方法に関し、特に、VLS(Vaper Liquid Solid:気相−液相−固相)成長またはVSS(Vaper Solid Solid:気相−固相−固相)成長にてナノオーダーの結晶構造を作製する方法に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
受光発光素子で多く用いられるIII−V族化合物半導体を使用したナノワイヤは、結晶が異なるSi上でも比較的良好に結合でき、光デバイスをSi回路上に容易に集積することが可能となることから、OEIC(Optoelectronic integrated circuits)への応用が期待されている。
このナノワイヤを作製する方法として、VLS成長またはVSS成長を用いる方法がある。このVLS成長またはVSS成長では、Siと格子定数の異なる化合物半導体であっても、軸方向では双晶も入ることはあるが、ドーピングを行いながら、原子の結合が途切れていない良好な単結晶を軸の垂直な方向に作製することができ、ナノオーダーの受光発光素子を形成することができる。
【0003】
現状では、化合物半導体の中でも、GaPのナノワイヤにおいては、Si基板との界面で良好に原子が結合され、エピタキシャル成長できることが確認されている(非特許文献1)。また、格子定数差が大きなInPなどの化合物半導体をSi基板上に直接VLS成長させることも行われている(非特許文献2)。さらに、Auを用いたVLS成長にてGaInAsのナノワイヤをGaAs基板上に形成することも行われている(非特許文献3)。
【0004】
一方、AlGaInAs化合物は、AlとGaの量を少なくすることで、バンドギャップを小さくすることができ、発光波長をより長波長側にシフトさせることができる。また、Al、Ga、Inの量を調整することで、AlGaInAs化合物をInP基板と格子整合をとることもできる。さらに、AlとGaの比を調整することで、量子閉じ込め構造、光の屈折率閉じ込め構造を構成することができ、半導体レーザ、光アンプ、光変調器、受光器などを実現することができる。
【0005】
【非特許文献1】K.Tateno et al.,Appl.Phys.Lett.89,033114(2006).
【非特許文献2】L.C.Chuang et al.,Appl.Phys.Lett.90,043115(2007).
【非特許文献3】Y.Kim et al.,Nano.Lett.6(2006)599.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のAlGaInAs化合物の作製方法では、MBE(分子線エピタキシー)法やMOVPE(有機金属気相成長)法が用いられるため、Si基板上にAlGaInAs化合物を結晶成長させることが困難であり、光デバイスをSi回路上に集積することができないという問題があった。
また、VLS成長またはVSS成長を用いた場合においても、GaPナノワイヤはSi(111)基板上で垂直に成長させることができるが、GaP以外のIII−V族化合物半導体ではSi(111)基板のA面にも多く成長するため、[111]B方向に成長しやすい化合物半導体ナノワイヤでは斜めに成長し、ヘテロ構造などの層構造を制御性よく作製することが困難であるという問題があった。
【0007】
さらに、格子定数差が大きなInPなどの化合物半導体をSi基板上に直接VLS成長させると、ナノワイヤの幅を大きくすることが困難となり、InPなどでは50nm程度で臨界太さとなることから、ナノワイヤの良好な成長自体が困難になるという問題があった。
そこで、本発明の目的は、格子定数差が大きな半導体基板上にボトムアップ的に制御性よくナノワイヤを作製することが可能なナノ構造およびナノ構造の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、請求項1記載のナノ構造の作製方法によれば、金属微粒子を半導体基板上に形成する工程と、VLS成長またはVSS成長にて前記金属微粒子下に第1ナノワイヤを形成する工程と、前記金属微粒子との間で前記第1ナノワイヤよりも格子定数差が大きく、前記第1ナノワイヤよりも幅の大きなバッファ層をVLS成長もしくはVSS成長と側面上への層成長との組み合わせにて前記第1ナノワイヤ上に形成する工程と、前記金属微粒子との間で前記第1ナノワイヤよりも格子定数差が大きく、前記バッファ層と格子定数の近い第2ナノワイヤを、VLS成長またはVSS成長にて前記バッファ層上に形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
これにより、半導体基板と格子定数の近い第1ナノワイヤを形成してから、第1ナノワイヤと格子定数差の大きいバッファ層をVLS成長またはVSS成長と側面上への層成長との組み合わせにて幅広に形成して、格子定数差による歪みを第1ナノワイヤとバッファ層との間で緩和することができる。このため、バッファ層と格子定数の近い第2ナノワイヤを良好な結晶性を維持しながら形成することができ、半導体基板と第2ナノワイヤとの間の格子定数差が大きい場合においても、半導体基板上にボトムアップ的に制御性よく第2ナノワイヤを作製することが可能となる。
【0010】
また、請求項2記載のナノ構造の作製方法によれば、前記第2ナノワイヤの形成後に、前記第1ナノワイヤおよび前記第2ナノワイヤの周囲を覆うキャッピング層を形成する工程を備えることを特徴とする。
これにより、第1ナノワイヤおよび第2ナノワイヤをキャッピング層にて保護することができ、第2ナノワイヤを用いて光デバイスを形成した場合においても、光デバイスを安定的に動作させることができる。
【0011】
また、請求項3記載のナノ構造の作製方法によれば、前記第2ナノワイヤの製作時に量子ドット構造または超格子構造を形成する工程と、前記第2ナノワイヤの製作時に前記量子ドット構造または超格子構造の上下に不純物をドーピングする工程を備えることを特徴とする。
これにより、VLS成長またはVSS成長にてナノワイヤ構造に発光素子を形成することができ、発光素子をSi基板上に集積することが可能となることから、OEICへの応用性を拡大することが可能となる。
【0012】
また、請求項4記載のナノ構造の作製方法によれば、共振器を構成するフォトニック結晶構造を半導体基板上に形成する工程と、前記半導体基板上に金属微粒子を形成する工程と、VLS成長またはVSS成長にて前記金属微粒子下に配置され前記共振器に入れ込まれたナノワイヤを形成する工程と工程を備えることを特徴とする。
これにより、半導体基板上にナノワイヤを形成することで、レーザ構造を作製することができ、OEICへの応用性を拡大することが可能となる。
【0013】
また、請求項5記載のナノ構造の作製方法によれば、金属微粒子をSi基板上に形成する工程と、VLS成長またはVSS成長にて前記金属微粒子下にGaPナノワイヤを形成する工程と、前記GaPナノワイヤよりも幅の大きなInPバッファ層をVLS成長またはVSS成長と側面上への層成長との組み合わせにて500から600℃の温度の範囲で前記GaPナノワイヤ上に連続して形成する工程と、VLS成長またはVSS成長にて1.3−3.4μmに発光波長のあるAlGaInAs系(III族元素に対し、In組成0.1以上、Al組成0以上0.9以下、Ga組成0以上0.9以下)ナノワイヤを前記InPバッファ層上に連続して形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0014】
これにより、Si基板と格子定数の近いGaPナノワイヤを形成してから、GaPナノワイヤと格子定数差の大きいInPバッファ層をVLS成長またはVSS成長と側面上への層成長との組み合わせにて形成することができ、良好な結晶性を維持しながら径の大きなInPバッファ層を作製することができる。このため、Al、Ga、Inの量を調整することで、InPバッファ層と格子整合されたAlGaInAs系ナノワイヤを径の大きなInPバッファ層上に形成することが可能となるとともに、AlとGaの量や比を調整することで、発光波長を変化させたり、量子閉じ込め構造、光の屈折率閉じ込め構造を構成したりすることができる。このため、Si基板とAlGaInAs系ナノワイヤとの間の格子定数差が大きい場合においても、AlGaInAs系ナノワイヤをSi基板上にボトムアップ的に制御性よく作製することが可能となり、半導体レーザ、光アンプ、光変調器、受光器などをSi基板上に集積することができる。
【0015】
また、請求項6記載のナノ構造の作製方法によれば、前記AlGaInAs系ナノワイヤの形成後に、前記AlGaInAs系ナノワイヤよりもAl組成の高いAlGaInAs系キャッピング層またはAlGaInP系キャッピング層を側面上への層成長にて500から700℃の温度の範囲で前記GaPナノワイヤおよび前記AlGaInAs系ナノワイヤの周囲に形成する工程を備えることを特徴とする。
これにより、GaPナノワイヤおよびAlGaInAs系ナノワイヤを、GaPナノワイヤおよびAlGaInAs系ナノワイヤよりもバンドギャップの広いキャッピング層にて保護することができ、AlGaInAs系ナノワイヤを用いて光デバイスを形成した場合においても、光デバイスを安定的に動作させることができる。
【0016】
また、請求項7記載のナノ構造の作製方法によれば、前記AlGaInAs系ナノワイヤの製作時にAlGaInAs系量子ドット構造またはAlGaInAs系超格子構造を形成する工程と、前記AlGaInAs系ナノワイヤの製作時に前記AlGaInAs系量子ドット構造またはAlGaInAs系超格子構造の上下に不純物をドーピングし、pin型ダイオードを形成する工程を備えることを特徴とする。
これにより、VLS成長またはVSS成長にてAlGaInAs系ナノワイヤ構造に発光素子を形成することができ、発光素子をSi基板上に集積することが可能となることから、OEICへの応用性を拡大することが可能となる。
【0017】
また、請求項8記載のナノ構造の作製方法によれば、Si基板上に形成されたGaPナノワイヤと、前記GaPナノワイヤに軸方向に接続され、前記GaPナノワイヤよりも幅の大きなInPバッファ層と、前記InPバッファ層に軸方向に接続され、1.3−3.4μmに発光波長のあるAlGaInAs系(III族元素に対し、In組成0.1以上、Al組成0以上0.9以下、Ga組成0以上0.9以下)ナノワイヤとを備えることを特徴とする。
これにより、Siとの格子定数差の大きなAlGaInAs系ナノワイヤをSi基板上に形成することができ、半導体レーザ、光アンプ、光変調器、受光器などをSi基板上に集積することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、半導体基板とナノワイヤとの間の格子定数差が大きい場合においても、半導体基板上にボトムアップ的に制御性よくナノワイヤを作製することが可能となり、半導体レーザ、光アンプ、光変調器、受光器などをSi基板上に集積することが可能となることから、OEICへの応用性を拡大することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施形態では、金半導体基板との間で第1ナノワイヤよりも格子定数差が大きく、第1ナノワイヤよりも幅の大きなバッファ層をVLS成長またはVSS成長と側面上への層成長との組み合わせにて第1ナノワイヤと第2ナノワイヤとの間に形成する。また、第2ナノワイヤの形成後に、第1ナノワイヤおよび第2ナノワイヤの周囲を覆うキャッピング層を形成するようにしてもよい。また、第2ナノワイヤの製作時に量子ドット構造または超格子構造を形成するようにしてもよく、第2ナノワイヤの製作時に不純物をドーピングし、Pin構造を形成するようにしてもよい。
【0020】
なお、半導体基板としては、例えば、Si(111)半導体基板、金属微粒子としては、例えば、直径20nm程度のAu微粒子を用いることができる。また、金属微粒子を半導体基板上に形成する方法としては、例えば、金属の蒸着とアニールによる自己形成、EBリソグラフィによるパターニング、あるいはAu微粒子12を含む溶液の塗布などの方法を用いることができる。
なお、第1ナノワイヤ、第2ナノワイヤおよびバッファ層の材料は、Si、Ge、GaInN、AlGaAs、GaInP、AlGaInN、AlGaInSb、AlGaInAs、InP、GaPの中から選択することができる。
【0021】
例えば、第1ナノワイヤの材料としてGaP、第2ナノワイヤの材料としてAlGaInAs(III族元素に対し、In組成0.1以上、Al組成0以上0.9以下、Ga組成0以上0.9以下)、バッファ層の材料としてInP、キャッピング層の材料として第2ナノワイヤのAlGaInAsよりもAl組成の高いAlGaInAsまたはInPを用いることができる。あるいは、キャッピング層の材料としてInPよりもバンドギャップの大きなAlGaInPを用いるようにしてもよい。
これにより、Siとの格子定数差の大きなAlGaInAs系ナノワイヤをSi基板上に形成することができ、半導体レーザ、光アンプ、光変調器、受光器などをSi基板上に集積することができる。
【0022】
以下、本発明の実施形態に係るナノ構造の作製方法について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るSi(111)基板上に配置されたAu微粒子を示す斜視図、図2(a)および図3は、本発明の第1実施形態に係るナノ構造の作製方法を示す断面図、図2(b)は本発明の第1実施形態に係るナノ構造の構成を示すSEM像である。
図1において、直径20nm程度のAu微粒子12をSi(111)基板11上に形成する。なお、Au微粒子12をSi(111)基板11上に形成する方法としては、例えば、金属の蒸着とアニールによる自己形成、EBリソグラフィによるパターニング、あるいはAu微粒子12を含む溶液の塗布などの方法を用いることができる。
【0023】
次に、図2に示すように、Au微粒子12が形成されたSi(111)基板11を有機気相成長炉内に設置し、TMGa(トリメチルガリウム)を1×10-5mol/mim、TBP(ターシャリブチルフォスフィン)を6×10-4mol/mimだけ流しながら480℃でGaPナノワイヤ13をSi(111)基板11上に1分だけ成長させた。
なお、GaPはSi(111)基板11上にB面を形成するため、GaPナノワイヤ13はSi(111)基板11に垂直に成長させることができる。
【0024】
また、Auを触媒としたGaPのVLS成長またはVSS成長は400−500℃の範囲内で見られるため、GaPナノワイヤ13の成長温度を480℃に設定した。
そして、TMIn(トリメチルインジウム)を1×10-5mol/mim、TBP(ターシャリブチルフォスフィン)を6×10-4mol/mimだけ流しながら550℃で20秒のエピタキシャル成長を行うことにより、InPバッファ層14をGaPナノワイヤ13上に形成した。
【0025】
なお、GaPナノワイヤ13の成長後にInPをヘテロにナノワイヤ成長させることは難しい。ただし、図2(b)に示すように、InPバッファ層14を形成する時に500−600℃の範囲内に温度を上昇させることにより、GaPナノワイヤ13の先端にInPバッファ層14をVLS成長もしくはVSS成長と側面上への層成長との組み合わせにて卵状に幅広に成長させることができることを見出した。
次に、TMGa(トリメチルガリウム)およびTMIn(トリメチルインジウム)を5×10-6mol/mim、AsH3(アルシン)を6×10-4mol/mimだけ流しながら450℃でGaInAsナノワイヤ15をInPバッファ層14上に1分だけ成長させた。
【0026】
なお、Auを触媒としたAlGaInAs(III族元素に対し、In組成0.1以上、Al組成0以上0.9以下、Ga組成0以上0.9以下)のVLS成長またはVSS成長は400−500℃の範囲内で見られるため、GaInAsナノワイヤ15の成長温度を450℃に設定した。
また、GaPナノワイヤ13の先端にInPバッファ層14を幅広に成長させることにより、GaPとInPの界面をスムースに結合させることができ、InPに格子定数の近いAlGaInAs系材料を連続してナノワイヤ成長させることができる。
【0027】
次に、TMIn(トリメチルインジウム)を2×10-5mol/mim、PH3(フォスフィン)を6×10-4mol/mimだけ流しながら550℃で5分のエピタキシャル成長を行うことにより、GaPナノワイヤ13、InPバッファ層14およびGaInAsナノワイヤ15の周囲が覆われるようにInPキャッピング層16を形成した。
なお、Auを触媒としたVLS成長もしくはVSS成長によるナノワイヤ成長から側面への層成長の起こる半導体表面でのエピタキシャル成長への成長モードの変化は500−800℃の範囲内で見られるため、InPキャッピング層16の成長温度を550℃に設定した。
【0028】
これにより、Si(111)基板11と格子定数の近いGaPナノワイヤ13を形成してから、GaPナノワイヤ13と格子定数差の大きいInPバッファ層14を形成することができ、さらにInPバッファ層14と格子整合されたGaInAsナノワイヤ15を径の大きなInPバッファ層14上に形成することが可能となる。GaInAsにAlを加えたり、Gaの量やAl、Ga、Inの組成比を調整することで、発光波長を変化させたり、量子閉じ込め構造、光の屈折率閉じ込め構造を構成したりすることができる。このため、Si(111)基板11とGaInAsナノワイヤ15との間の格子定数差が大きい場合においても、幅広なInPバッファ層14を介してGaInAsナノワイヤ15をSi(111)基板11上にボトムアップ的に制御性よく作製することが可能となり、半導体レーザ、光アンプ、光変調器、受光器などをSi(111)基板11上に集積することができる。
【0029】
なお、上述した実施形態では、InPバッファ層14上にGaInAsナノワイヤ15を形成する方法について説明したが、1.3−3.4μmに発光波長のあるAlGaInAs系(III族元素に対し、In組成0.1以上、Al組成0以上0.9以下、Ga組成0以上0.9以下)ナノワイヤならば何でも良く、例えば、AlInAsナノワイヤを形成するようにしてもよいし、InPバッファ層14上にAlGaInAs系ナノワイヤを形成する時にAl、Ga、Inの組成を変化させたりしてもよい。
【0030】
また、上述した実施形態では、キャッピング層の材料としてInPを用いる方法について説明したが、InPよりもバンドギャップの大きなAlGaInPを用いるようにしてもよい。
また、InPバッファ層14上にGaInAsナノワイヤ15を形成する時にp型またはn型不純物のドーピングを行うことにより、pin型ダイオードを形成するようにしてもよい。
【0031】
図4は、本発明の第1実施形態に係るナノ構造の発光特性を示す図である。
図4において、図3のナノ構造のサンプルについてフォトルミネッセンス測定にて発光特性を調べたところ、室温で1550nmにピークを持つ発光が確認できた。
図5は、本発明の第2実施形態に係るナノ構造の概略構成を示す断面図である。
図5において、Auの蒸着とアニールによる自己形成、EBリソグラフィによるパターニング、あるいはAu微粒子12を含む溶液の塗布などの方法を用いることにより、直径40nm程度のAu微粒子12をSi(111)基板11上に形成する。
【0032】
次に、Au微粒子12が形成されたSi(111)基板11を有機気相成長炉内に設置し、TMGa(トリメチルガリウム)を1×10-5mol/mim、PH3(フォスフィン)を6×10-4mol/mimだけ流しながら480℃でGaPナノワイヤ31をSi(111)基板11上に1分だけ成長させた。
なお、GaPはSi(111)基板11上にB面を形成するため、GaPナノワイヤ31はSi(111)基板11に垂直に成長させることができる。
【0033】
また、Auを触媒としたGaPのVLS成長またはVSS成長は400−500℃の範囲内で見られるため、GaPナノワイヤ31の成長温度を480℃に設定した。
そして、TMIn(トリメチルインジウム)を1×10-5mol/mim、TBP(ターシャリブチルフォスフィン)を6×10-4mol/mimだけ流しながら550℃で20秒のエピタキシャル成長を行うことにより、InPバッファ層32をGaPナノワイヤ31上に形成した。
【0034】
なお、InPバッファ層32を形成する時に500−600℃の範囲内に温度を上昇させることにより、GaPナノワイヤ31の先端にInPバッファ層32を卵状に幅広に成長させることができる。
次に、TMAl(トリメチルアルミニウム)およびTMIn(トリメチルインジウム)を5×10-6mol/mim、AsH3(アルシン)を6×10-4mol/mimだけ流しながら450℃でAlInAsナノワイヤ33をInPバッファ層32上に1分だけ成長させた。
【0035】
さらに、TMAl(トリメチルアルミニウム)およびTMIn(トリメチルインジウム)をそれぞれ5×10-6mol/mim、AsH3(アルシン)を6×10-4mol/mimだけ流す工程と、TMGa(トリメチルガリウム)およびTMIn(トリメチルインジウム)を5×10-6mol/mim、AsH3(アルシン)を6×10-4mol/mimだけ流す工程とを5秒ごとに切り替えながら5回だけ繰り返すことにより、AlInAs層34aとGaInAs層34bとが交互に積層されたAlGaInAs系超格子構造34を450℃でAlInAsナノワイヤ33上に成長させた。
【0036】
次に、TMAl(トリメチルアルミニウム)およびTMIn(トリメチルインジウム)を5×10-6mol/mim、AsH3(アルシン)を6×10-4mol/mimだけ流しながら450℃でAlInAsナノワイヤ35をAlGaInAs系超格子構造34上に1分だけ成長させた。
なお、Auを触媒としたAlGaInAs(III族元素に対し、In組成0.1以上、Al組成0以上0.9以下、Ga組成0以上0.9以下)のVLS成長またはVSS成長は400−500℃の範囲内で見られるため、GaInAsナノワイヤ33、35およびAlGaInAs系超格子構造34の成長温度を450℃に設定した。
【0037】
また、GaPナノワイヤ31の先端にInPバッファ層32を幅広に成長させることにより、GaPとInPの界面をスムースに結合させることができ、InPに格子定数の近いAlGaInAs系材料を連続してナノワイヤ成長させることができる。
次に、TMAl(トリメチルアルミニウム)およびTMIn(トリメチルインジウム)をそれぞれ1×10-5mol/mim、AsH3(アルシン)を6×10-4mol/mimだけ流しながら600℃で5分のエピタキシャル成長を行うことにより、GaPナノワイヤ31、InPバッファ層32、GaInAsナノワイヤ33、35およびAlGaInAs系超格子構造34の周囲が覆われるようにAlInAsキャッピング層36を形成した。
【0038】
なお、キャッピング層の材料としては、AlInAs以外にも、Gaを加えたAlGaInAsを用いるようにしてもよい。
そして、図5のナノ構造のサンプルについてフォトルミネッセンス測定にて発光特性を調べたところ、室温で1300nmにピークを持つ発光が確認できた。
なお、GaPナノワイヤ31、InPバッファ層32およびAlInAsナノワイヤ33を成長させる時にSまたはSi化合物などのn型ドーパントを供給し、AlInAsナノワイヤ35を成長させる時にZnまたはC化合物などのp型ドーパントを供給することにより、図5のナノ構造にpin型の発光ダイオードを形成するようにしてもよい。
【0039】
そして、GaPナノワイヤ31、InPバッファ層32、AlInAsナノワイヤ33、35およびAlGaInAs系超格子構造34とAlInAsキャッピング層36のナノ構造の周囲を絶縁性のポリイミドで埋め込んだ後、先端のAu微粒子12および絶縁性AlInAsキャッピング層36の先端部をエッチングにて除去し、AlInAsナノワイヤ35の先端を露出させた後、Si(111)基板11の裏面にn側電極、AlInAsナノワイヤ35の先端にp側電極を形成することにより、図5のナノ構造を発光ダイオードとして動作させることができる。
また、図5のナノ構造をフォトニック結晶などの反射鏡に囲まれた共振器に入れ込むことにより、レーザ構造を作製することができる。
【0040】
図6は、本発明の第3実施形態に係るナノ構造の概略構成を示す斜視図である。
図6において、Si(111)基板41には間隙層42を介してSi層43が形成され、Si層43にはフォトニック結晶を構成する貫通口44が形成されている。そして、Si層43の光路上には、Si(111)基板41上に成長されたナノワイヤ47が入れ込まれる貫通口45が形成され、Si(111)基板41の裏面にはn側電極46、ナノワイヤ47の先端にはp側電極48が形成されている。そして、n側電極46とp側電極48とは、ボンディングワイヤ49を介して電源50に接続されている。
【0041】
なお、ナノワイヤ47の構造としては、例えば、発光ダイオードが形成された図3のナノ構造や図5のナノ構造を用いることができる。また、ナノワイヤ47の発光部はSi層43の内部に埋め込まれるように配置することができる。
そして、ナノワイヤ47の発光部から出射された光はSi層43に形成されたフォトニック結晶を導波し、フォトニック結晶で囲まれた共振器内で共振させることにより、レーザ光として外部に取り出すことができる。
【0042】
図7は、図6のナノ構造の作製方法を示す断面図である。
図7(a)において、Si(111)基板41に間隙層42を介してSi層43を形成する。なお、Si(111)基板41に間隙層42を介してSi層43を形成する方法としては、例えば、SOI(Silicon On Insulator)基板に対して、Si基板とSi層の間のSiO2層を選択的に除去する方法を用いることができる。
【0043】
そして、例えば、電子ビーム露光技術およびドライエッチング技術を組み合わせることにより、フォトニック結晶を構成する貫通口44をSi層43に形成するとともに、ナノワイヤ47をSi層43に入れ込む貫通口45をSi層43に形成する。
次に、図7(b)に示すように、Auの蒸着とアニールによる自己形成、EBリソグラフィによるパターニング、あるいはAu微粒子51を含む溶液の塗布などの方法を用いることにより、直径40nm程度のAu微粒子51をSi(111)基板41上に形成する。
【0044】
次に、図7(c)に示すように、VLS成長またはVSS成長を用いることにより、貫通口45を介してSi層43に入れ込まれるようにしてAu微粒子51下にナノワイヤ47を形成する。なお、ナノワイヤ47の形成方法としては、図3のナノワイヤの作製方法や図5のナノワイヤの作製方法と同一の方法を用いることができる。
次に、図7(d)に示すように、Au微粒子51を除去し、Si(111)基板41の裏面にはn側電極46、ナノワイヤ47の先端にはp側電極48を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態に係るSi(111)基板上に配置されたAu微粒子を示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、本発明の第1実施形態に係るナノ構造の作製方法を示す断面図、図2(b)は、本発明の第1実施形態に係るナノ構造の構成を示すSEM像である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るナノ構造の作製方法を示す断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るナノ構造の発光特性を示す図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るナノ構造の概略構成を示す断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るナノ構造の概略構成を示す斜視図である。
【図7】図6のナノ構造の作製方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
11、41 Si(111)基板
12、51 Au微粒子
13、31、 GaPナノワイヤ
15 GaInAsナノワイヤ
33、35 AlInAsナノワイヤ
47 ナノワイヤ
14、32 InPバッファ層
16、36 InPキャッピング層
34 AlGaInAs系超格子構造
34a AlInAs層
34b GaInAs層
42 間隙層
43 Si層
44、45 貫通口
46 n側電極
48 p側電極
49 ボンディングワイヤ
50 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属微粒子を半導体基板上に形成する工程と、
VLS成長またはVSS成長にて前記金属微粒子下に第1ナノワイヤを形成する工程と、
前記金属微粒子との間で前記第1ナノワイヤよりも格子定数差が大きく、前記第1ナノワイヤよりも幅の大きなバッファ層をVLS成長もしくはVSS成長と側面上への層成長との組み合わせにて前記第1ナノワイヤ上に形成する工程と、
前記金属微粒子との間で前記第1ナノワイヤよりも格子定数差が大きく、前記バッファ層と格子定数の近い第2ナノワイヤを、VLS成長またはVSS成長にて前記バッファ層上に形成する工程とを備えることを特徴とするナノ構造の作製方法。
【請求項2】
前記第2ナノワイヤの形成後に、前記第1ナノワイヤおよび前記第2ナノワイヤの周囲を覆うキャッピング層を形成する工程を備えることを特徴とする請求項1記載のナノ構造の作製方法。
【請求項3】
前記第2ナノワイヤの製作時に量子ドット構造または超格子構造を形成する工程と、
前記第2ナノワイヤの製作時に前記量子ドット構造または超格子構造の上下に不純物をドーピングする工程を備えることを特徴とする請求項1または2記載のナノ構造の作製方法。
【請求項4】
共振器を構成するフォトニック結晶構造を半導体基板上に形成する工程と、
前記半導体基板上に金属微粒子を形成する工程と、
VLS成長またはVSS成長にて前記金属微粒子下に配置され前記共振器に入れ込まれたナノワイヤを形成する工程とを備えることを特徴とするナノ構造の作製方法。
【請求項5】
金属微粒子をSi基板上に形成する工程と、
VLS成長またはVSS成長にて前記金属微粒子下にGaPナノワイヤを形成する工程と、
前記GaPナノワイヤよりも幅の大きなInPバッファ層をVLS成長またはVSS成長と側面上への層成長との組み合わせにて500から600℃の温度の範囲で前記GaPナノワイヤ上に連続して形成する工程と、
VLS成長またはVSS成長にて1.3−3.4μmに発光波長のあるAlGaInAs系(III族元素に対し、In組成0.1以上、Al組成0以上0.9以下、Ga組成0以上0.9以下)ナノワイヤを前記InPバッファ層上に連続して形成する工程とを備えることを特徴とするナノ構造の作製方法。
【請求項6】
前記AlGaInAs系ナノワイヤの形成後に、前記AlGaInAs系ナノワイヤよりもAl組成の高いAlGaInAs系キャッピング層またはAlGaInP系キャッピング層を側面上への層成長にて500から700℃の温度の範囲で前記GaPナノワイヤおよび前記AlGaInAs系ナノワイヤの周囲に形成する工程を備えることを特徴とする請求項5記載のナノ構造の作製方法。
【請求項7】
前記AlGaInAs系ナノワイヤの製作時にAlGaInAs系量子ドット構造またはAlGaInAs系超格子構造を形成する工程と、
前記AlGaInAs系ナノワイヤの製作時に前記AlGaInAs系量子ドット構造またはAlGaInAs系超格子構造の上下に不純物をドーピングし、pin型ダイオードを形成する工程を備えることを特徴とする請求項5または6記載のナノ構造の作製方法。
【請求項8】
Si基板上に形成されたGaPナノワイヤと、
前記GaPナノワイヤに軸方向に接続され、前記GaPナノワイヤよりも幅の大きなInPバッファ層と、
前記InPバッファ層に軸方向に接続され、1.3−3.4μmに発光波長のあるAlGaInAs系(III族元素に対し、In組成0.1以上、Al組成0以上0.9以下、Ga組成0以上0.9以下)ナノワイヤとを備えることを特徴とするナノ構造。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−28797(P2009−28797A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191912(P2007−191912)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】