ナノ粒子製造方法
【課題】巨大粒子を含まないナノ粒子を提供する。
【解決手段】同軸型アーク蒸着源13に蒸発材料135を配置し、アーク放電によってアノード電極131内に蒸発材料の蒸気を放出させる。電子はアーク電流によって形成された磁界からローレンツ力を受け、真空槽10内に放出される。正電荷を有する微小な蒸気は電子に引き付けられ、真空槽10内に放出され、捕集板20表面に付着し、蒸発材料のナノ粒子が形成される。巨大な液滴はアノード電極131の壁面に衝突し、真空槽10内に放出されない。
【解決手段】同軸型アーク蒸着源13に蒸発材料135を配置し、アーク放電によってアノード電極131内に蒸発材料の蒸気を放出させる。電子はアーク電流によって形成された磁界からローレンツ力を受け、真空槽10内に放出される。正電荷を有する微小な蒸気は電子に引き付けられ、真空槽10内に放出され、捕集板20表面に付着し、蒸発材料のナノ粒子が形成される。巨大な液滴はアノード電極131の壁面に衝突し、真空槽10内に放出されない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ粒子の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの下地膜(触媒層)や燃料電池への触媒金属担持体として、コバルトナノ粒子が、また固体高分子型燃料電池やメタノール燃料電池などのナノ粒子触媒として白金ナノ粒子が注目されており、同軸型アーク蒸着源を用いて、コバルトナノ粒子や白金ナノ粒子を捕集板上に形成する試みが成されている。
【0003】
しかし、従来技術では、同軸型アーク蒸着源から例えばコバルト蒸気を発生させる際に、コバルト蒸気と共に溶融コバルトの小滴が真空槽内に放出され、図3(b)に示すように、捕集板上にはコバルトナノ粒子と共に巨大粒子が付着してしまい、コバルトナノ粒子だけを選択的に形成することができなかった。
同軸型アーク蒸着源を用いてナノサイズの微粒子を製造する技術は、例えば下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2004−307241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために創作されたものであり、ナノ粒子を選択的に形成できる技術を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、真空槽と、筒状のアノード電極と、前記アノード電極内に配置された蒸発材料を有するカソード電極と、前記アノード電極内に配置され前記カソード電極とは離間されたトリガ電極とを有し、前記トリガ電極と前記アノード電極の間にトリガ放電を発生させ、前記カソード電極の前記蒸発材料と前記アノード電極の間にアーク放電を誘起させ、ナノ粒子を前記真空槽内に放出させるナノ粒子製造方法である。
また、本発明は、前記トリガ放電を複数回繰り返し、前記トリガ放電毎に前記アーク放電を誘起させ、前記蒸発材料のナノ粒子を繰り返し放出させるナノ粒子製造方法である。
また、本発明は、前記アーク放電の尖頭電流が、1800A以上となるように設定し、一回の前記アーク放電によるアーク電流を300μ秒よりも短い期間で消滅させるナノ粒子製造方法である。
また、本発明は、前記トリガ放電は、1秒に一回以上十回以下発生させるナノ粒子製造方法である。
また、本発明は、前記真空槽内を真空排気し、前記真空槽内にヘリウムガスを大気圧よりも低い圧力まで導入し、前記ヘリウムガスの雰囲気中で前記真空槽内に前記蒸発材料のナノ粒子を放出させるナノ粒子製造方法である。
【0006】
本発明では、ナノ粒子の製造に用いる同軸型アーク蒸着源のアーク放電の尖頭電流が1800A以上となるようにコンデンサの配線長を50mm以下と短くし、カソード電極に接続されたコンデンサの容量を2200μF以下とし、放電電圧を100V以上800V以下、放電時間を300μ秒以下に設定して、アーク放電を発生させるようにした。
【0007】
一回のトリガ放電でアーク放電を一回誘起させる。アーク電流が流れる時間は300μ秒以下であるが、コンデンサを充電させる時間が必要なので、トリガ放電を発生させる周期を1〜10Hzにし、その周期でアーク放電を発生させられるようにコンデンサに充電することで、1〜100nm程度のナノ粒子が得られる。
【発明の効果】
【0008】
小滴による巨大粒子を含まない、1〜100nm程度のナノ粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられるナノ粒子製造装置を図1の符号1で示す。
このナノ粒子製造装置1は、円筒状の真空槽10を有しており、真空槽10内には、基板ステージ17が水平に配置されている。真空槽10には回転導入機構18が気密に挿通されており、真空槽10の外部に配置されたモータ19を動作させると、基板ステージ17が水平面内で回転するように構成されている。
【0010】
基板ステージ17の、鉛直下方に向けられた面には、一乃至複数枚の捕集板20が室温以下に冷却保持されている。
基板ステージ17の、鉛直下方に向けられた面と対面する位置には一乃至複数台の同軸型アーク蒸着源13が配置されている。
【0011】
同軸型アーク蒸着源13の構造を説明すると、各同軸型アーク蒸着源13は、筒状(ここでは円筒状)のアノード電極131と、カソード電極132と、トリガ電極134とを有している。
カソード電極132とトリガ電極134はアノード電極131の内部に配置されている。
【0012】
カソード電極132は、柱状であり、一端が蒸発材料135で構成され、他端が棒状電極136で構成されている。ここでは蒸発材料135には金属コバルトが用いられており、蒸発材料135は棒状電極136の先端に取りつけられ、放出口137側に配置されている。
カソード電極132は、リング状のトリガ電極134とワッシャ碍子133に挿通されている。
【0013】
ワッシャ碍子133は、蒸発材料135とトリガ電極134の間に配置されており、放出口137側から、蒸発材料135、ワッシャ碍子133、トリガ電極134の順序で並び、棒状電極136は、トリガ電極134よりも放出口137から遠い位置に配置されている。
【0014】
なお、カソード電極132とワッシャ碍子133とトリガ電極134の3つの部品は図中には詳細に示さないがネジで密着させて取り付けられている。アノード電極131はステンレス製である。
【0015】
アノード電極131と、トリガ電極134と、カソード電極132とは相互に絶縁されており、カソード電極132はアーク電源141に接続され、トリガ電極134はトリガ電源142に接続され、各電極131、132、134には異なる電圧が印加できるように構成されている。
【0016】
アーク電源141は、直流電圧源144と、コンデンサユニット145とを有している。コンデンサユニット145の両端は、アノード電極131とカソード電極132に接続されている。コンデンサユニット145と直流電圧源144とは、並列接続されている。
【0017】
直流電圧源144は800Vで数Aの電流を流す能力を有しており、コンデンサユニット145は、一定の充電時間で直流電圧源144によって充電されるように構成されている。
【0018】
トリガ電源142はパルストランスから成り、入力200Vのμ秒のパルス電圧を約17倍に昇圧して3.4kV(数μA)にして出力するように構成されており、昇圧された電圧を、カソード電極132に対して正の極性で、トリガ電極134に印加するように接続されている。
【0019】
真空槽10は真空排気系31に接続されており、真空槽10内を真空排気し、10-5Paの真空雰囲気が形成されている。真空排気系31はターボ分子ポンプとロータリポンプで構成されている。
アノード電極131と真空槽10は接地電位に接続されている。
【0020】
先ず、コンデンサユニット145の容量を2200μFとし、直流電圧源144から100Vの電圧を出力し、その電圧でコンデンサユニット145を充電し、アノード電極131とカソード電極132の間にコンデンサユニット145の充電電圧が印加される。蒸発材料135には、棒状電極136を介して、コンデンサユニット145が出力する負電圧が印加される。
【0021】
その状態で、トリガ電源142から3.4kVのパルス状のトリガ電圧を出力しカソード電極132とトリガ電極134の間に印加すると、ワッシャ碍子133の表面でトリガ放電(沿面放電)が発生する。カソード電極132とワッシャ碍子133のつなぎ目からは電子が放出される。
【0022】
このトリガ放電によってアノード電極131とカソード電極132の間の耐電圧が低下し、アノード電極131の内周面とカソード電極132の側面との間にアーク放電が発生する。
【0023】
コンデンサユニット145に充電された電荷の放電により、尖頭電流が1800A以上のアーク電流が200μ秒程度の時間流れ、カソード電極132の側面からコバルト蒸気が放出され、コバルトのプラズマが形成される。
【0024】
この時、コバルトの原子状イオンや、クラスタ化したコバルトにより、数ナノメータのナノ粒子が形成されるカソード電極132の蒸発材料135と棒状電極136はアノード電極131の中心軸線上に配置されており、アーク電源141は、棒状電極136の蒸発材料135とは反対側の端部に接続されており、アーク電流は、棒状電極136の中心軸線上を流れ、アノード電極131内に磁界が形成される。
【0025】
アノード電極131内に放出された電子は、アーク電流によって形成される磁界により、電流が流れる向きとは逆向きのローレンツ力を受け、放出口137から真空槽10内に放出される。
【0026】
カソード電極132から放出されたコバルト蒸気にはイオン(荷電粒子)と中性粒子が含まれるが、電荷質量比の小さい(電荷が質量に比べて小さい)液滴などの巨大荷電粒子や中性粒子は直進し、アノード電極131の壁面に衝突するが、電荷質量比の大きな荷電粒子は、クーロン力によって電子に引き付けられ、アノード電極131の放出口137から真空槽10内に放出される。
【0027】
各同軸型アーク蒸着源13と100mm離れた上方の位置には、基板ステージ17に室温以下に冷却保持された捕集板20が、基板ステージ17の中心を中心とする同心円上を回転移動しながら通過しており、真空槽10内に放出されたコバルト蒸気イオンが捕集板20の表面に到達すると、ナノメータオーダーのコバルトナノ粒子として、そこに付着する。
【0028】
1回のトリガ放電でアーク放電が一回誘起され、アーク電流が300μ秒流れる。
上記コンデンサユニット145の充電時間が約1秒である場合、1Hzの周期でアーク放電を発生させることができる。
所望回数のアーク放電を発生させ、捕集板20の表面に形成されたコバルトナノ粒子は、捕集板20の表面に付着した状態で回収される。
【0029】
図1の符号W1は、コンデンサユニット145とカソード電極132とを接続する配線の配線長を示しており、符号W2は、コンデンサユニット145とアノード電極131とを接続する配線の配線長を示している。
【0030】
図2(a)は、コンデンサユニットの容量を2200μF、放電電圧を100Vとし、コンデンサユニット145とカソード電極132との間の配線長L(L=W1+W2)を50mmとしたときのアーク放電の波形であり、同図(b)は、そのときの捕集板20の表面のSEM写真である。
【0031】
図3(a)は、コンデンサユニット145の容量を8800μFとし、コンデンサユニット145とカソード電極132との間の配線長を1mとしたときのアーク放電の波形であり、同図(b)は、そのときの捕集板20の表面のSEM写真である。
【0032】
図2(a)と図3(a)を比較すると、配線長Lが50mmの場合のアーク放電の尖頭電流は1850Aで放電時間は250μ秒なのに対し、1mの場合は尖頭電流が1950Aであるが、放電時間は500μ秒となっている。
図2(b)と図3(b)を比較すると、1mの場合に観察される直径数μmの小滴は、50cmの場合は殆ど観察されなくなっている。
【0033】
容量2200μF、配線超50mmにし、アーク放電を2回、5回、又は10回発生させ、アモルファスカーボンから成る捕集板20の表面にコバルトナノ粒子を付着させた。2回、5回、10回の場合のTEM写真を図4(a)、(b)、図5(a)、(b)、図6(a)、(b)にそれぞれ示す。
また、それらの捕集板20表面のEELS(Electron Energy-Loss Spectroscopy)データを図7、図8、図9に示す。
【0034】
図4(a)、(b)から、2回のトリガ放電ではナノ粒子は観察されていないが、図7のグラフでは僅かに検出されており、基板上にコバルトが存在していることがわかる。
【0035】
それに対し、図5(a)、(b)から、アーク放電を5回発生させると明らかにコバルトナノ粒子が観察されている。図8のEELSのグラフからも検出が確認できる。
【0036】
さらに、図6(a)、(b)から、アーク放電を10回発生させると、明らかに5回の場合よりもコバルトナノ粒子の密度が多くなっていることが判る。図9のEELSのグラフでも、5回の場合よりも信号強度が高くなっている。
【0037】
図10は、図6(b)の拡大TEM写真である。この図10から、約5nmのコバルトナノ粒子が均一にばら撒かれていることが分かる。
なお、上記各例では、真空槽10内にガスを導入せず、高真空雰囲気中でコバルトナノ粒子を発生させたが、上記真空槽10にはガス導入系32が接続されており、真空槽10内にコバルトに対して不活性なガスを、不図示のマスフローコントローラより、流量制御しながら導入し、導入ガス雰囲気中でコバルトナノ粒子を製造することができる。
【0038】
ここではガス導入系32はヘリウムガスボンベを有しており、真空排気しながら流量5sccmでヘリウムガスを導入し、真空槽10の内部を10Torr以上の導入ガス雰囲気にした。
【0039】
コンデンサの容量は300μF〜1100μFに設定されており、400V〜800Vの放電電圧で、アーク放電を発生させると、コバルト蒸気が真空槽10内に放出され、捕集板20に向かって飛行する。
そのコバルト蒸気は真空槽内に充満するヘリウムガスに衝突してエネルギーが低下して凝集し、均一なコバルトナノ粒子が形成される。
【0040】
なお、真空槽内に導入するガスはヘリウムガスに限定されるものではなく、コバルトに対して不活性なガスであればよい。また、導入ガスは冷却しておくと、直径が小さなコバルトナノ粒子が得られる。
【0041】
また、本発明は、上記のコバルトに限ったことではなく、例えばPt(白金)についても同様にナノ粒子を形成することができる。上記コバルトの場合と同様に図1のナノ粒子製造装置1を使用し、同軸型アーク蒸着源13の蒸発材料135に白金(99.95%)を用い、コンデンサの容量を2200μF、放電電圧400Vで10回放電させ、同軸型アーク蒸着源13から80mm離れた位置に設けたアモルファスカーボンから成る捕集板20の表面に白金ナノ粒子を付着させた。このとき、捕集板20は室温以下に冷却されており、アーク放電の尖頭電流は2000Aで、放電時間は200μ秒であった。また、得られた白金ナノ粒子のTEM写真を図11に示す。
【0042】
図11から明らかなように、直径2〜3nmで粒径の揃った白金のナノ粒子が均一に分散付着していることがわかる。
さらに、コバルトや白金以外の金属材料、半導体材料、非金属(溶融可能なもの)でも、本発明の方法によればナノ粒子の形成が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、カーボンナノチューブの下地膜(触媒層)や燃料電池への触媒金属担持に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に用いられるナノ粒子製造装置
【図2】(a):本発明(容量2200μF、配線長50cmの場合)の電圧波形 (b):その場合の捕集板表面のSEM写真
【図3】(a):従来技術(容量8800μF、配線長1mの場合)の電圧波形 (b):その場合の捕集板表面のSEM写真
【図4】(a)、(b):アーク放電を2回発生させた場合の捕集板表面のTEM写真
【図5】(a)、(b):アーク放電を5回発生させた場合の捕集板表面のTEM写真
【図6】(a)、(b):アーク放電を10回発生させた場合の捕集板表面のTEM写真
【図7】アーク放電を2回発生させた場合の捕集板表面のEELSデータ
【図8】アーク放電を5回発生させた場合の捕集板表面のEELSデータ
【図9】アーク放電を10回発生させた場合の捕集板表面のEELSデータ
【図10】図6(b)の拡大TEM写真
【図11】白金ナノ粒子のTEM写真
【符号の説明】
【0045】
10……真空槽
131……アノード電極
132……カソード電極
134……トリガ電極
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ粒子の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブの下地膜(触媒層)や燃料電池への触媒金属担持体として、コバルトナノ粒子が、また固体高分子型燃料電池やメタノール燃料電池などのナノ粒子触媒として白金ナノ粒子が注目されており、同軸型アーク蒸着源を用いて、コバルトナノ粒子や白金ナノ粒子を捕集板上に形成する試みが成されている。
【0003】
しかし、従来技術では、同軸型アーク蒸着源から例えばコバルト蒸気を発生させる際に、コバルト蒸気と共に溶融コバルトの小滴が真空槽内に放出され、図3(b)に示すように、捕集板上にはコバルトナノ粒子と共に巨大粒子が付着してしまい、コバルトナノ粒子だけを選択的に形成することができなかった。
同軸型アーク蒸着源を用いてナノサイズの微粒子を製造する技術は、例えば下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2004−307241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の課題を解決するために創作されたものであり、ナノ粒子を選択的に形成できる技術を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、真空槽と、筒状のアノード電極と、前記アノード電極内に配置された蒸発材料を有するカソード電極と、前記アノード電極内に配置され前記カソード電極とは離間されたトリガ電極とを有し、前記トリガ電極と前記アノード電極の間にトリガ放電を発生させ、前記カソード電極の前記蒸発材料と前記アノード電極の間にアーク放電を誘起させ、ナノ粒子を前記真空槽内に放出させるナノ粒子製造方法である。
また、本発明は、前記トリガ放電を複数回繰り返し、前記トリガ放電毎に前記アーク放電を誘起させ、前記蒸発材料のナノ粒子を繰り返し放出させるナノ粒子製造方法である。
また、本発明は、前記アーク放電の尖頭電流が、1800A以上となるように設定し、一回の前記アーク放電によるアーク電流を300μ秒よりも短い期間で消滅させるナノ粒子製造方法である。
また、本発明は、前記トリガ放電は、1秒に一回以上十回以下発生させるナノ粒子製造方法である。
また、本発明は、前記真空槽内を真空排気し、前記真空槽内にヘリウムガスを大気圧よりも低い圧力まで導入し、前記ヘリウムガスの雰囲気中で前記真空槽内に前記蒸発材料のナノ粒子を放出させるナノ粒子製造方法である。
【0006】
本発明では、ナノ粒子の製造に用いる同軸型アーク蒸着源のアーク放電の尖頭電流が1800A以上となるようにコンデンサの配線長を50mm以下と短くし、カソード電極に接続されたコンデンサの容量を2200μF以下とし、放電電圧を100V以上800V以下、放電時間を300μ秒以下に設定して、アーク放電を発生させるようにした。
【0007】
一回のトリガ放電でアーク放電を一回誘起させる。アーク電流が流れる時間は300μ秒以下であるが、コンデンサを充電させる時間が必要なので、トリガ放電を発生させる周期を1〜10Hzにし、その周期でアーク放電を発生させられるようにコンデンサに充電することで、1〜100nm程度のナノ粒子が得られる。
【発明の効果】
【0008】
小滴による巨大粒子を含まない、1〜100nm程度のナノ粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられるナノ粒子製造装置を図1の符号1で示す。
このナノ粒子製造装置1は、円筒状の真空槽10を有しており、真空槽10内には、基板ステージ17が水平に配置されている。真空槽10には回転導入機構18が気密に挿通されており、真空槽10の外部に配置されたモータ19を動作させると、基板ステージ17が水平面内で回転するように構成されている。
【0010】
基板ステージ17の、鉛直下方に向けられた面には、一乃至複数枚の捕集板20が室温以下に冷却保持されている。
基板ステージ17の、鉛直下方に向けられた面と対面する位置には一乃至複数台の同軸型アーク蒸着源13が配置されている。
【0011】
同軸型アーク蒸着源13の構造を説明すると、各同軸型アーク蒸着源13は、筒状(ここでは円筒状)のアノード電極131と、カソード電極132と、トリガ電極134とを有している。
カソード電極132とトリガ電極134はアノード電極131の内部に配置されている。
【0012】
カソード電極132は、柱状であり、一端が蒸発材料135で構成され、他端が棒状電極136で構成されている。ここでは蒸発材料135には金属コバルトが用いられており、蒸発材料135は棒状電極136の先端に取りつけられ、放出口137側に配置されている。
カソード電極132は、リング状のトリガ電極134とワッシャ碍子133に挿通されている。
【0013】
ワッシャ碍子133は、蒸発材料135とトリガ電極134の間に配置されており、放出口137側から、蒸発材料135、ワッシャ碍子133、トリガ電極134の順序で並び、棒状電極136は、トリガ電極134よりも放出口137から遠い位置に配置されている。
【0014】
なお、カソード電極132とワッシャ碍子133とトリガ電極134の3つの部品は図中には詳細に示さないがネジで密着させて取り付けられている。アノード電極131はステンレス製である。
【0015】
アノード電極131と、トリガ電極134と、カソード電極132とは相互に絶縁されており、カソード電極132はアーク電源141に接続され、トリガ電極134はトリガ電源142に接続され、各電極131、132、134には異なる電圧が印加できるように構成されている。
【0016】
アーク電源141は、直流電圧源144と、コンデンサユニット145とを有している。コンデンサユニット145の両端は、アノード電極131とカソード電極132に接続されている。コンデンサユニット145と直流電圧源144とは、並列接続されている。
【0017】
直流電圧源144は800Vで数Aの電流を流す能力を有しており、コンデンサユニット145は、一定の充電時間で直流電圧源144によって充電されるように構成されている。
【0018】
トリガ電源142はパルストランスから成り、入力200Vのμ秒のパルス電圧を約17倍に昇圧して3.4kV(数μA)にして出力するように構成されており、昇圧された電圧を、カソード電極132に対して正の極性で、トリガ電極134に印加するように接続されている。
【0019】
真空槽10は真空排気系31に接続されており、真空槽10内を真空排気し、10-5Paの真空雰囲気が形成されている。真空排気系31はターボ分子ポンプとロータリポンプで構成されている。
アノード電極131と真空槽10は接地電位に接続されている。
【0020】
先ず、コンデンサユニット145の容量を2200μFとし、直流電圧源144から100Vの電圧を出力し、その電圧でコンデンサユニット145を充電し、アノード電極131とカソード電極132の間にコンデンサユニット145の充電電圧が印加される。蒸発材料135には、棒状電極136を介して、コンデンサユニット145が出力する負電圧が印加される。
【0021】
その状態で、トリガ電源142から3.4kVのパルス状のトリガ電圧を出力しカソード電極132とトリガ電極134の間に印加すると、ワッシャ碍子133の表面でトリガ放電(沿面放電)が発生する。カソード電極132とワッシャ碍子133のつなぎ目からは電子が放出される。
【0022】
このトリガ放電によってアノード電極131とカソード電極132の間の耐電圧が低下し、アノード電極131の内周面とカソード電極132の側面との間にアーク放電が発生する。
【0023】
コンデンサユニット145に充電された電荷の放電により、尖頭電流が1800A以上のアーク電流が200μ秒程度の時間流れ、カソード電極132の側面からコバルト蒸気が放出され、コバルトのプラズマが形成される。
【0024】
この時、コバルトの原子状イオンや、クラスタ化したコバルトにより、数ナノメータのナノ粒子が形成されるカソード電極132の蒸発材料135と棒状電極136はアノード電極131の中心軸線上に配置されており、アーク電源141は、棒状電極136の蒸発材料135とは反対側の端部に接続されており、アーク電流は、棒状電極136の中心軸線上を流れ、アノード電極131内に磁界が形成される。
【0025】
アノード電極131内に放出された電子は、アーク電流によって形成される磁界により、電流が流れる向きとは逆向きのローレンツ力を受け、放出口137から真空槽10内に放出される。
【0026】
カソード電極132から放出されたコバルト蒸気にはイオン(荷電粒子)と中性粒子が含まれるが、電荷質量比の小さい(電荷が質量に比べて小さい)液滴などの巨大荷電粒子や中性粒子は直進し、アノード電極131の壁面に衝突するが、電荷質量比の大きな荷電粒子は、クーロン力によって電子に引き付けられ、アノード電極131の放出口137から真空槽10内に放出される。
【0027】
各同軸型アーク蒸着源13と100mm離れた上方の位置には、基板ステージ17に室温以下に冷却保持された捕集板20が、基板ステージ17の中心を中心とする同心円上を回転移動しながら通過しており、真空槽10内に放出されたコバルト蒸気イオンが捕集板20の表面に到達すると、ナノメータオーダーのコバルトナノ粒子として、そこに付着する。
【0028】
1回のトリガ放電でアーク放電が一回誘起され、アーク電流が300μ秒流れる。
上記コンデンサユニット145の充電時間が約1秒である場合、1Hzの周期でアーク放電を発生させることができる。
所望回数のアーク放電を発生させ、捕集板20の表面に形成されたコバルトナノ粒子は、捕集板20の表面に付着した状態で回収される。
【0029】
図1の符号W1は、コンデンサユニット145とカソード電極132とを接続する配線の配線長を示しており、符号W2は、コンデンサユニット145とアノード電極131とを接続する配線の配線長を示している。
【0030】
図2(a)は、コンデンサユニットの容量を2200μF、放電電圧を100Vとし、コンデンサユニット145とカソード電極132との間の配線長L(L=W1+W2)を50mmとしたときのアーク放電の波形であり、同図(b)は、そのときの捕集板20の表面のSEM写真である。
【0031】
図3(a)は、コンデンサユニット145の容量を8800μFとし、コンデンサユニット145とカソード電極132との間の配線長を1mとしたときのアーク放電の波形であり、同図(b)は、そのときの捕集板20の表面のSEM写真である。
【0032】
図2(a)と図3(a)を比較すると、配線長Lが50mmの場合のアーク放電の尖頭電流は1850Aで放電時間は250μ秒なのに対し、1mの場合は尖頭電流が1950Aであるが、放電時間は500μ秒となっている。
図2(b)と図3(b)を比較すると、1mの場合に観察される直径数μmの小滴は、50cmの場合は殆ど観察されなくなっている。
【0033】
容量2200μF、配線超50mmにし、アーク放電を2回、5回、又は10回発生させ、アモルファスカーボンから成る捕集板20の表面にコバルトナノ粒子を付着させた。2回、5回、10回の場合のTEM写真を図4(a)、(b)、図5(a)、(b)、図6(a)、(b)にそれぞれ示す。
また、それらの捕集板20表面のEELS(Electron Energy-Loss Spectroscopy)データを図7、図8、図9に示す。
【0034】
図4(a)、(b)から、2回のトリガ放電ではナノ粒子は観察されていないが、図7のグラフでは僅かに検出されており、基板上にコバルトが存在していることがわかる。
【0035】
それに対し、図5(a)、(b)から、アーク放電を5回発生させると明らかにコバルトナノ粒子が観察されている。図8のEELSのグラフからも検出が確認できる。
【0036】
さらに、図6(a)、(b)から、アーク放電を10回発生させると、明らかに5回の場合よりもコバルトナノ粒子の密度が多くなっていることが判る。図9のEELSのグラフでも、5回の場合よりも信号強度が高くなっている。
【0037】
図10は、図6(b)の拡大TEM写真である。この図10から、約5nmのコバルトナノ粒子が均一にばら撒かれていることが分かる。
なお、上記各例では、真空槽10内にガスを導入せず、高真空雰囲気中でコバルトナノ粒子を発生させたが、上記真空槽10にはガス導入系32が接続されており、真空槽10内にコバルトに対して不活性なガスを、不図示のマスフローコントローラより、流量制御しながら導入し、導入ガス雰囲気中でコバルトナノ粒子を製造することができる。
【0038】
ここではガス導入系32はヘリウムガスボンベを有しており、真空排気しながら流量5sccmでヘリウムガスを導入し、真空槽10の内部を10Torr以上の導入ガス雰囲気にした。
【0039】
コンデンサの容量は300μF〜1100μFに設定されており、400V〜800Vの放電電圧で、アーク放電を発生させると、コバルト蒸気が真空槽10内に放出され、捕集板20に向かって飛行する。
そのコバルト蒸気は真空槽内に充満するヘリウムガスに衝突してエネルギーが低下して凝集し、均一なコバルトナノ粒子が形成される。
【0040】
なお、真空槽内に導入するガスはヘリウムガスに限定されるものではなく、コバルトに対して不活性なガスであればよい。また、導入ガスは冷却しておくと、直径が小さなコバルトナノ粒子が得られる。
【0041】
また、本発明は、上記のコバルトに限ったことではなく、例えばPt(白金)についても同様にナノ粒子を形成することができる。上記コバルトの場合と同様に図1のナノ粒子製造装置1を使用し、同軸型アーク蒸着源13の蒸発材料135に白金(99.95%)を用い、コンデンサの容量を2200μF、放電電圧400Vで10回放電させ、同軸型アーク蒸着源13から80mm離れた位置に設けたアモルファスカーボンから成る捕集板20の表面に白金ナノ粒子を付着させた。このとき、捕集板20は室温以下に冷却されており、アーク放電の尖頭電流は2000Aで、放電時間は200μ秒であった。また、得られた白金ナノ粒子のTEM写真を図11に示す。
【0042】
図11から明らかなように、直径2〜3nmで粒径の揃った白金のナノ粒子が均一に分散付着していることがわかる。
さらに、コバルトや白金以外の金属材料、半導体材料、非金属(溶融可能なもの)でも、本発明の方法によればナノ粒子の形成が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、カーボンナノチューブの下地膜(触媒層)や燃料電池への触媒金属担持に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に用いられるナノ粒子製造装置
【図2】(a):本発明(容量2200μF、配線長50cmの場合)の電圧波形 (b):その場合の捕集板表面のSEM写真
【図3】(a):従来技術(容量8800μF、配線長1mの場合)の電圧波形 (b):その場合の捕集板表面のSEM写真
【図4】(a)、(b):アーク放電を2回発生させた場合の捕集板表面のTEM写真
【図5】(a)、(b):アーク放電を5回発生させた場合の捕集板表面のTEM写真
【図6】(a)、(b):アーク放電を10回発生させた場合の捕集板表面のTEM写真
【図7】アーク放電を2回発生させた場合の捕集板表面のEELSデータ
【図8】アーク放電を5回発生させた場合の捕集板表面のEELSデータ
【図9】アーク放電を10回発生させた場合の捕集板表面のEELSデータ
【図10】図6(b)の拡大TEM写真
【図11】白金ナノ粒子のTEM写真
【符号の説明】
【0045】
10……真空槽
131……アノード電極
132……カソード電極
134……トリガ電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
筒状のアノード電極と、
前記アノード電極内に配置された蒸発材料を有するカソード電極と、
前記アノード電極内に配置され前記カソード電極とは離間されたトリガ電極とを有し、前記トリガ電極と前記アノード電極の間にトリガ放電を発生させ、前記カソード電極の前記蒸発材料と前記アノード電極の間にアーク放電を誘起させ、前記蒸発材料のナノ粒子を前記真空槽内に放出させるナノ粒子製造方法。
【請求項2】
前記トリガ放電を複数回繰り返し、前記トリガ放電毎に前記アーク放電を誘起させ、前記蒸発材料のナノ粒子を繰り返し放出させる請求項1記載のナノ粒子製造方法。
【請求項3】
前記アーク放電の尖頭電流が、1800A以上となるように設定し、
一回の前記アーク放電によるアーク電流を300μ秒よりも短い期間で消滅させる請求項2記載のナノ粒子製造方法。
【請求項4】
前記トリガ放電は、1秒に一回以上十回以下発生させる請求項2記載のナノ粒子製造方法。
【請求項5】
前記真空槽内を真空排気し、前記真空槽内にヘリウムガスを大気圧よりも低い圧力まで導入し、
前記ヘリウムガスの雰囲気中で前記真空槽内に前記蒸発材料のナノ粒子を放出させる請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のナノ粒子製造方法。
【請求項1】
真空槽と、
筒状のアノード電極と、
前記アノード電極内に配置された蒸発材料を有するカソード電極と、
前記アノード電極内に配置され前記カソード電極とは離間されたトリガ電極とを有し、前記トリガ電極と前記アノード電極の間にトリガ放電を発生させ、前記カソード電極の前記蒸発材料と前記アノード電極の間にアーク放電を誘起させ、前記蒸発材料のナノ粒子を前記真空槽内に放出させるナノ粒子製造方法。
【請求項2】
前記トリガ放電を複数回繰り返し、前記トリガ放電毎に前記アーク放電を誘起させ、前記蒸発材料のナノ粒子を繰り返し放出させる請求項1記載のナノ粒子製造方法。
【請求項3】
前記アーク放電の尖頭電流が、1800A以上となるように設定し、
一回の前記アーク放電によるアーク電流を300μ秒よりも短い期間で消滅させる請求項2記載のナノ粒子製造方法。
【請求項4】
前記トリガ放電は、1秒に一回以上十回以下発生させる請求項2記載のナノ粒子製造方法。
【請求項5】
前記真空槽内を真空排気し、前記真空槽内にヘリウムガスを大気圧よりも低い圧力まで導入し、
前記ヘリウムガスの雰囲気中で前記真空槽内に前記蒸発材料のナノ粒子を放出させる請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のナノ粒子製造方法。
【図1】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−254762(P2007−254762A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76774(P2006−76774)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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