説明

ニオブ酸カリウム堆積体およびその製造方法、表面弾性波素子、周波数フィルタ、発振器、電子回路、並びに、電子機器

【課題】 ニオブ酸カリウムの薄膜を有するニオブ酸カリウム堆積体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体100は、
R面サファイア基板11と、
R面サファイア基板11の上方に形成された、金属酸化物からなるバッファ層12と、
バッファ層12の上方に形成されたニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13と、
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の上方に形成された、ニオブ酸カリウム層14またはニオブ酸カリウム固溶体層と、
を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸カリウム堆積体およびその製造方法、表面弾性波素子、周波数フィルタ、発振器、電子回路、並びに、電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信分野の著しい発展に伴い、表面弾性波素子の需要が急速に拡大している。表面弾性波素子の開発の方向としては、小型化、高効率化、高周波化の方向にある。そのためには、より大きな電気機械結合係数、より安定的な温度特性、より大きな表面弾性波伝播速度が必要となる。
【0003】
ところで、ニオブ酸カリウム(KNbO)(斜方晶表示としては、a=0.5695nm、b=0.3973nm、c=0.5721nm、立方晶表示としては、a=0.4015nm)の単結晶基板は、大きな電気機械結合係数を示すことが見出されている。例えば、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.37(1998)2929.に記載されているように、0°YカットX伝播KNbO単結晶基板(以下「0°Y−X−KNbO基板」という)は、電気機械結合係数が50%程度という非常に大きな値を示すことが実験で確認されている。また、同文献には、45°から75°までの回転YカットX伝播KNbO単結晶基板(「回転Y−X−KNbO基板」という)を用いたフィルタの発振周波数が、室温付近で零温度特性を示すことが報告されている。
【0004】
圧電体の単結晶基板を用いた表面弾性波素子では、電気機械結合係数、温度係数、音速などは、圧電体材料固有の値であり、カット角および伝播方向で決定される。0°Y−X−KNbO基板は、大きな電気機械結合係数を示すが、45°から75°までの回転Y−X−KNbO基板のような室温付近での零温度特性を示さない。また、0°Y−X−KNbO基板の音速は、同じペロブスカイト型酸化物であるSrTiOなどに比べて遅い。このように、KNbO単結晶基板を用いるだけでは、高電気機械結合係数、零温度特性、高音速の全てを満足させることはできない。一方、何らかの大面積の基板上にニオブ酸カリウム薄膜を形成して表面弾性波素子を作製することは、困難な場合がある。
【非特許文献1】Jpn.J.Appl.Phys.Vol.37(1998)2929.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ニオブ酸カリウムの薄膜を有するニオブ酸カリウム堆積体およびその製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、上記表面弾性波素子を含む周波数フィルタ、発振器、電子回路、および、電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体は、
R面サファイア基板と、
前記R面サファイア基板の上方に形成された、金属酸化物からなるバッファ層と、
前記バッファ層の上方に形成されたニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層と、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層の上方に形成された、ニオブ酸カリウム層またはニオブ酸カリウム固溶体層と、
を含む。
【0009】
なお、本発明において、特定のもの(以下、「A」という)の上方に他の特定のもの(以下、「B」という)を形成するとは、A上に直接Bを形成する場合と、A上に、A上の他のものを介してBを形成する場合と、を含む。また、本発明において、Aの上方に形成されたBとは、A上に直接形成されたBと、A上に、A上の他のものを介して形成されたBと、を含む。
【0010】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記R面サファイア基板は、R面(1−102)であることができる。
【0011】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記バッファ層は、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、
前記バッファ層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いていることができる。
【0012】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記バッファ層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)と成す角が、1度以上15度以下であることができる。
【0013】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記ニオブ酸カリウム層または前記ニオブ酸カリウム固溶体層は、擬立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、
前記ニオブ酸カリウム層または前記ニオブ酸カリウム固溶体層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いていることができる。
【0014】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記ニオブ酸カリウム層または前記ニオブ酸カリウム固溶体層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)と成す角が、1度以上15度以下であることができる。
【0015】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層は、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いていることができる。
【0016】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)と成す角が、1度以上15度以下であることができる。
【0017】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記バッファ層は、岩塩構造の金属酸化物であることができる。
【0018】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記金属酸化物は、酸化マグネシウムであることができる。
【0019】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記ニオブ酸カリウム固溶体層は、K1−xNaNb1−yTa(0<x<1、0<y<1)で表される固溶体であることができる。
【0020】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層は、ニオブ、チタンおよびジルコニウムに対して、5モル%以上、30モル%以下のニオブを含むことができる。
【0021】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層は、さらに、0.5モル%以上のシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むことができる。
【0022】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体において、さらに、前記ニオブ酸カリウム層の上に他のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層を有する。
【0023】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法は、
R面サファイア基板の上方に、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長したバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層の上方に、前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層を形成する工程と、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層の上方に、ニオブ酸カリウム層またはニオブ酸カリウム固溶体層を形成する工程と、
を含み、
前記前駆体組成物は、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛を形成するための前駆体を含み、該前駆体は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムを含み、かつ一部にエステル結合を有する。
【0024】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法において、前記前駆体は、さらに鉛を含むことができる。
【0025】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法において、前記前駆体組成物は、前記前駆体が有機溶媒に溶解もしくは分散されていることができる。
【0026】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法において、前記前駆体組成物は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムの金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合して得られ、
前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有する前駆体を含むことができる。
【0027】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法において、前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルは、2価のカルボン酸またはカルボン酸エステルであることができる。
【0028】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法において、前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに金属カルボン酸塩を用いたゾルゲル原料を含むことができる。
【0029】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法において、前記金属カルボン酸塩は、鉛のカルボン酸塩であることができる。
【0030】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法において、前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに有機金属化合物を含むことができる。
【0031】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法において、前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらにシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むゾルゲル原料を用いることができる。
【0032】
本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体の製造方法において、さらに、前記ニオブ酸カリウム層またはニオブ酸カリウム固溶体層の上に、前記前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより、他のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層を形成する工程を有することができる。
【0033】
本発明に係る表面弾性波素子は、上述のニオブ酸カリウム堆積体を有する。
【0034】
本発明に係る周波数フィルタは、上述の表面弾性波素子を有する。
【0035】
本発明に係る発振器は、上述の表面弾性波素子を有する。
【0036】
本発明に係る電子回路は、上述の周波数フィルタおよび上述の発振器のうちの少なくとも一方を有する。
【0037】
本発明に係る電子機器は、上述の電子回路を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明に好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0039】
1.第1の実施形態
1.1. 図1は、本実施形態に係るニオブ酸カリウム堆積体100を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係るニオブ酸カリウム堆積体100は、基板11と、基板11上に形成されたバッファ層12と、バッファ層12上に形成されたニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13と、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13上に形成されたニオブ酸カリウム層14と、を含むことができる。
【0040】
基板11としては、R面サファイア基板を用いることができる。R面サファイア基板を用いることは、バッファ層12、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13およびニオブ酸カリウム層14をエピタキシャル成長させることができる点、大面積基板を安価に入手できる点、さらに、エッチング液への耐性があり、繰返して利用できる点で好ましい。
【0041】
バッファ層12としては、例えば、岩塩構造の金属酸化物を用いることができる。岩塩構造の金属酸化物としては、例えば、MgO(酸化マグネシウム)を用いることができる。
【0042】
バッファ層12は、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長している。バッファ層12の(100)面は、R面サファイア基板11のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いていることが好ましい。このことを図2および図3を用いて説明する。
【0043】
図2は、六方晶のサファイア結晶を模式的に示す図であり、図3は、バッファ層12の(100)面の傾きを模式的に示す図である。R面サファイア基板11のR面(1−102)とは、図2におけるN−S面である。図3に示すように、R面サファイア基板11のN−S面(即ち、R面)に対して、バッファ層12の(100)面は、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いている。言い換えるならば、バッファ層12の(100)面と、R面とが交差する直線は、[11−20]方向ベクトルと平行である。このようなバッファ層12を形成することにより、後に述べる所望のニオブ酸カリウム層14を得ることができる。バッファ層12の(100)面が、R面サファイア基板11のR面(1−102)と成す角δは、1度以上15度以下であるのが好ましい。
【0044】
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13は、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長している。そして、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の(100)面は、バッファ層12と同様に、前記R面サファイア基板のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いていることができる。ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)と成す角が、好ましくは1度以上15度以下である。なお、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の(100)面がR面と成す角は、バッファ層12の(100)面がR面と成す角δと同じであることも、違うこともできる。
【0045】
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13は、組成の特徴として、ニオブ、チタンおよびジルコニウムに対して、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、30モル%以下のニオブを含むことができる。また、本実施形態に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13は、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、5モル%以下のシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むことができる。
【0046】
以下に、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13がニオブを含むことによる特徴について述べる。
【0047】
ニオブは、チタンとサイズがほぼ同じで(イオン半径が近く、原子半径は同一である)、重さが2倍あり、格子振動による原子間の衝突によっても格子から原子が抜けにくい。また原子価は、+5価で安定であり、たとえ鉛が抜けても、Nb5+により鉛抜けの価数を補うことができる。また結晶化時に、鉛抜けが発生したとしても、サイズの大きな酸素が抜けるより、サイズの小さなニオブが入る方が容易である。
【0048】
また、ニオブは+4価も存在するため、Ti4+の代わりは十分に行うことが可能である。更に、ニオブは共有結合性が非常に強く、鉛も抜け難くなっていると考えられる(H.Miyazawa,E.Natori,S.Miyashita;Jpn.J.Appl.Phys.39(2000)5679)。
【0049】
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(PZTN)層13によれば、ニオブを前述した特定の割合で含むことにより、鉛の欠損による悪影響を解消し、優れた組成制御性を有する。その結果、PZTNは、通常のPb(Zr,Ti)O(PZT)に比べて極めて良好な表面モフォロジーおよび絶縁性などを有する。
【0050】
これまでも、PZTへのニオブのドーピングは、主にZrリッチの稜面体晶領域で行われてきたが、その量は、0.2〜0.025モル%(J.Am.Ceram.Soc,84(2001)902;Phys.Rev.Let,83(1999)1347)程度と、極僅かなものである。このようにニオブを多量にドーピングすることができなかった要因は、ニオブを例えば10モル%添加すると、結晶化温度が800℃以上に上昇してしまうことによるものであったと考えられる。
【0051】
PZTN膜に、更にシリコンを例えば、0.5〜5モル%の割合で添加することが好ましい。これによりPZTNの結晶化エネルギーを低減させることができる。すなわち、ニオブの添加とともに、シリコンを添加することでPZTNの結晶化温度の低減を図ることができる。また、シリコンの代わりに、シリコンとゲルマニウムを用いることもできる。
【0052】
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の膜厚は、特に限定されず、バッファ層12の平坦性が改善され、かつ、ニオブ酸カリウム層14がエピタキシャル成長するのに十分であればよく、例えば10nmないし100nmであることができる。
【0053】
ニオブ酸カリウム層14は、擬立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長している。そして、図3に示すように、ニオブ酸カリウム層14の(100)面は、R面サファイア基板11のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いている。なお、図3は、上述したように、バッファ層12の(100)面の傾きを模式的に示す図であるが、同様に、ニオブ酸カリウム層14の(100)面の傾きを模式的に示す図でもある。
【0054】
ニオブ酸カリウム層14の擬立方晶(100)面が、R面サファイア基板11のR面(1−102)と成す角Δは、1度以上15度以下であるのが好ましい。なお、ニオブ酸カリウム層14の(100)面がR面と成す角Δは、バッファ層12の(100)面がR面と成す角δと同じであることも、違うこともできる。
【0055】
ニオブ酸カリウム層14は、単結晶または多結晶のニオブ酸カリウムを有する。ニオブ酸カリウム層14の厚さは、特に限定されず、適用されるデバイスなどによって適宜選択され、例えば、100nm以上10μm以下とすることができる。
【0056】
また、本実施形態では、上述したニオブ酸カリウム層14の代わりに、ニオブ酸カリウムのニオブおよびカリウムの一部が他の元素で置換されたニオブ酸カリウム固溶体の層であってもよい。このようなニオブ酸カリウム固溶体としては、例えば、ニオブ酸タンタル酸ナトリウムカリウム固溶体(K1−xNaNb1−yTa(0<x<1、0<y<1))で表される固溶体を挙げることができる。このことは、第2の実施形態でも同様である。
【0057】
1.2. 次に、ニオブ酸カリウム堆積体100の製造方法について述べる。
【0058】
(1) まず、図1に示すように、R面サファイア基板からなる基板(以下「R面サファイア基板」ともいう)11を用意する。R面サファイア基板11は、予め脱脂洗浄されている。脱脂洗浄は、R面サファイア基板11を有機溶媒に浸漬させ、超音波洗浄機を用いて行うことができる。ここで、有機溶媒としては、特に限定されないが、例えばエチルアルコールとアセトンとの混合液を使用することができる。
【0059】
(2) 次に、図1に示すように、レーザーアブレーション法によって、R面サファイア基板11上にMgOからなるバッファ層12を形成する。
【0060】
具体的には、脱脂洗浄したR面サファイア基板11を基板ホルダーに装填したあと、室温での背圧が1×10−7Torrの真空装置内に基板ホルダーごと導入する。次に、例えば、5×10−5Torrの酸素分圧になるように酸素ガスを導入し、赤外線ランプを用いて20℃/分で400℃まで加熱昇温する。なお、昇温速度、基板温度、圧力などの条件は、これに限るものではない。
【0061】
次に、レーザー光をバッファ層用のマグネシウムターゲットに照射し、このターゲットからマグネシウム原子を叩き出すレーザーアブレーション法により、プルームを発生させる。そして、このプルームはR面サファイア基板11上に向けて出射され、R面サファイア基板11上に接触する。その結果、R面サファイア基板11上に、立方晶表示で(100)配向のMgOからなるバッファ層12がエピタキシャル成長によって形成される。このバッファ層12は、前述した結晶構造の特徴を有する。
【0062】
バッファ層12の厚さは、特に限定されないが、R面サファイア基板11とニオブ酸カリウム層14の反応を防ぎ、かつ酸化マグネシウム自身の潮解性によるニオブ酸カリウム層14の劣化を防ぐ、という点を考慮すると5nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0063】
なお、マグネシウム原子、または後の工程における所望の原子をターゲットから叩き出す方法としては、上述したレーザー光をターゲット表面に照射する方法の他、例えば、アルゴンガス(不活性ガス)プラズマや電子線等をターゲット表面に照射(入射)する方法を用いることもできる。これらの中では、レーザー光をターゲット表面に照射する方法が好ましい。この方法によれば、レーザー光の入射窓を備えた簡易な構成の真空装置を用いて、原子をターゲットから容易にかつ確実に叩き出すことができる。
【0064】
ターゲットに照射するレーザー光としては、波長が150〜300nm程度、パルス長が1〜100ns程度のパルス光が好適に用いられる。具体的には、レーザー光としては、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、XeClエキシマレーザー等のエキシマレーザー、さらにYAGレーザー、YVOレーザー、COレーザーなどが挙げられる。これらの中でも、特にArFエキシマレーザーまたはKrFエキシマレーザーが好適とされる。ArFエキシマレーザーおよびKrFエキシマレーザーは、いずれも取り扱いが容易であり、また、より効率良く原子をターゲットから叩き出すことができる。
【0065】
レーザー光の照射時の各条件は、プルームが十分に基板11に到達でき、バッファ層12としてのMgOがエピタキシャル成長できるのであれば、特に限定されない。レーザー光の照射時の条件としては、例えば、レーザーエネルギー密度が2J/cm以上3J/cm以下、レーザー周波数が5Hz以上20Hz以下、ターゲットと基板11との距離(以下「ターゲット基板間距離」という)が30mm以上100mm以下、基板温度が400℃以上600℃以下、堆積中の酸素分圧が1×10−5Torr以上1×10−3Torr以下とすることができる。
【0066】
(3) 次いで、図1に示すように、バッファ層12上に、前駆体組成物を塗布した後、熱処理することによりニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13を形成する。ここで、前駆体組成物の塗布法としては、特に限定されず、公知の塗布方法、例えば、スピンコート法、ディッピング法などを用いることができる。また、熱処理としては、少なくとも前駆体組成物を結晶化させるための熱処理を含む。かかる熱処理としては、特に限定されず、公知の方法、例えばラピッドサーマルアニール(RTA)法などを用いることができる。
【0067】
前駆体組成物は、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛を形成するための前駆体を含む。該前駆体は、少なくともニオブ、チタン、およびジルコニウムを含み、かつ一部にエステル結合を有する。前駆体は、有機溶媒に溶解もしくは分散されている。有機溶媒としては、アルコールを用いることができる。アルコールとしては、特に限定されないが、ブタノール、メタノール、エタノール、プロパノールなどの1価のアルコール、または多価アルコールを例示できる。かかるアルコールとしては、例えば以下のものをあげることができる。
【0068】
1価のアルコール類;
プロパノール(プロピルアルコール)として、1−プロパノール(沸点97.4℃)、2−プロパノール(沸点82.7℃)、
ブタノール(ブチルアルコール)として、1−ブタノール(沸点117℃)、2−ブタノール(沸点100℃)、2−メチル−1−プロパノール(沸点108℃)、2−メチル−2−プロパノール(融点25.4℃,沸点83℃)、
ペンタノール(アミルアルコール)として、1−ペンタノール(沸点137℃)、3−メチル−1−ブタノール(沸点131℃)、2−メチル−1−ブタノール(沸点128℃)、2,2ジメチル−1−プロパノール(沸点113℃)、2−ペンタノール(沸点119℃)、3−メチル−2−ブタノール(沸点112.5℃)、3−ペンタノール(沸点117℃)、2−メチル−2−ブタノール(沸点102℃)、
多価アルコール類;
エチレングリコール(融点−11.5℃,沸点197.5℃)、グリセリン(融点17℃,沸点290℃)。
【0069】
本実施形態で用いられる前駆体組成物は、後に詳述するように、前駆体がポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有していて可逆的反応が可能なため、高分子化された前駆体を分解して金属アルコキシドとすることができる。そのため、この金属アルコキシドを前駆体原料として再利用することができる。
【0070】
さらに、本実施形態で用いられる前駆体組成物には、以下のような利点がある。市販されているPZTゾルゲル溶液では、一般に鉛原料として酢酸鉛が用いられるが、酢酸鉛は他のTiやZrのアルコキシドと結合し難く、鉛が前駆体のネットワーク中に取り込まれ難い。これに対し、本実施形態では、後に詳述するように、これまで困難であった前駆体での鉛のネットワーク化が容易であり、鉛を取り込んだネットワーク(前駆体)を含むことができる。そのため、本実施形態で用いられる前駆体組成物は、従来のゾルゲル原料に比べて、組成制御性が高く、PZTNの鉛抜けを防止できる。
【0071】
例えば2価のポリカルボン酸であるコハク酸を例にとって説明する。コハク酸の2つのカルボキシル基のうち、初めに酸として働くどちらか一方の第1カルボルシル基はその酸性度がpH=4.0と酢酸のpH=4.56よりも小さく、酢酸よりも強い酸であるため、酢酸鉛は、コハク酸と結合する。つまり弱酸の塩+強酸→強酸の塩+弱酸となる。更に、コハク酸の残った第2カルボルシル基が、別のMOD分子或いはアルコキシドと結合するため、前駆体での鉛のネットワーク化が容易となる。
【0072】
本実施形態で用いられる前駆体組成物は以下のようにして得られる。
【0073】
前駆体組成物は、金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合することによって得られる。ゾルゲル原料は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムを含む。このようにして得られた前駆体組成物は、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有する前駆体を含む。
【0074】
図28および図29に、本実施形態の製造方法における前駆体の生成反応を模式的に示す。
【0075】
前駆体の生成反応は、大別すると、図28に示すような第1段目のアルコキシ基の置換反応と、図29に示すような第2段目のエステル化による高分子ネットワークの形成反応とを含む。図28および図29では、便宜的に、ポリカルボン酸エステルとしてコハク酸ジメチルを用い、有機溶媒としてn−ブタノールを用いた例を示す。コハク酸ジメチルは非極性であるがアルコール中で解離してジカルボン酸となる。
【0076】
第1段目の反応においては、図28に示すように、コハク酸ジメチルとゾルゲル原料の金属アルコキシドとのエステル化によって両者はエステル結合される。すなわち、コハク酸ジメチルはn−ブタノール中で解離し、一方のカルボニル基(第1カルボニル基)にプロトンが付加した状態となる。この第1カルボニル基と、金属アルコキシドのアルコキシ基との置換反応が起き、第1カルボキシル基がエステル化された反応生成物とアルコールが生成する。ここで、「エステル結合」とは、カルボニル基と酸素原子との結合(−COO−)を意味する。
【0077】
第2段目の反応においては、図29に示すように、第1段目の反応で残った他方のカルボキシル基(第2カルボキシル基)と金属アルコキシドのアルコキシ基との置換反応が起き、第2カルボキシル基がエステル化された反応生成物とアルコールが生成する。
【0078】
このように、2段階の反応によって、ゾルゲル原料に含まれる、金属アルコキシドの加水分解・縮合物同士がエステル結合した高分子ネットワークが得られる。したがって、この高分子ネットワークは、該ネットワーク内に適度に秩序よくエステル結合を有する。なお、コハク酸ジメチルは2段階解離し、第1カルボキシル基は第2カルボキシル基より酸解離定数が大きいため、第1段目の反応は第2段目の反応より反応速度が大きい。したがって、第2段目の反応は第1段目の反応よりゆっくり進むことになる。
【0079】
本実施形態において、前述したエステル化反応を促進するためには、以下の方法を採用できる。
【0080】
(a) 反応物の濃度あるいは反応性を大きくする。具体的には、反応系の温度を上げることにより、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの解離度を大きくすることによって反応性を高める。反応系の温度は、有機溶媒の沸点などに依存するが、室温より高く有機溶媒の沸点より低い温度であることが望ましい。反応系の温度としては、例えば100℃以下、好ましくは50〜100℃であることができる。
【0081】
(b) 反応副生成物を除去する。具体的には、エステル化と共に生成する水、アルコールを除去することでエステル化がさらに進行する。
【0082】
(c) 物理的に反応物の分子運動を加速する。具体的には、例えば紫外線などのエネルギー線を照射して反応物の反応性を高める。
【0083】
前駆体組成物の製造方法に用いられる有機溶媒は、前述したようなアルコールであることができる。溶媒としてアルコールを用いると、ゾルゲル原料とポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの両者を良好に溶解することができる。
【0084】
ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの使用量は、ゾルゲル原料およびPZTNの組成比に依存するが、ポリカルボン酸が結合する、例えばPZTゾルゲル原料、PbNbゾルゲル原料、PbSiゾルゲル原料の合計モルイオン濃度とポリカルボン酸のモルイオン濃度は、好ましくは1≦(ポリカルボン酸のモルイオン濃度)/(原料溶液の総モルイオン濃度)、より好ましくは1:1とすることができる。ポリカルボン酸の添加量は、例えば0.35モルとすることができる。
【0085】
すなわち、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルの添加量は、結合させたい原料溶液の総モル数と等しいかそれ以上であることが望ましい。両者のモルイオン濃度の比が1:1で、原料すべてが結合する。エステルは、酸性溶液中で安定に存在するので、エステルを安定に存在させるために、原料溶液の総モル数よりも、ポリカルボン酸を多く入れることが好ましい。また、ここで、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルのモル数とは、モル数を価数で割ったモルイオン濃度のことである。つまり、2価のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルであれば、1分子のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルが、2分子の原料分子を結合することができるので、2価のポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルであれば、原料溶液1モルに対して、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステル0.5モルで1:1ということになる。
【0086】
また、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルも、初めから酸ではなく、ポリカルボン酸のエステルをアルコール中で解離させて、ポリカルボン酸となる。この場合、添加するアルコールは、1≦(アルコールのモル数/ポリカルボン酸エステルのモル数)であることが望ましい。全てのポリカルボン酸エステルが十分に解離するには、アルコールのモル数が多いほうが、安定して解離するからである。ここで、アルコールおよびポリカルボン酸エステルのモル数とは、アルコールのモル数およびポリカルボン酸エステルのモル数をそれぞれの価数で割った、いわゆる、モルイオン濃度を意味する。
【0087】
前駆体組成物の製造方法において、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルは、2価以上であることができる。ポリカルボン酸としては、以下のものを例示できる。
【0088】
3価のカルボン酸としては、Trans−アコニット酸、トリメシン酸、4価のカルボン酸としては、ピロメリット酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸等が挙げられる。また、アルコール中で解離してポリカルボン酸として働くポリカルボン酸エステルとしては、2価のコハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、マロン酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジエチル、3価のクエン酸トリブチル、1,1,2−エタントリカルボン酸トリエチル、4価の1,1,2,2−エタンテトラカルボン酸テトラエチル、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸トリメチル等が挙げられる。
【0089】
これらのポリカルボン酸エステルは、アルコール存在下で解離してポリカルボン酸としての働きを示す。以上のポリカルボン酸またはそのエステルの例を図27(A)〜図27(D)に示す。また、本実施形態で用いられる前駆体組成物は、ポリカルボン酸を用いて、ネットワークをエステル化で繋げていくことに特徴があり、例えば酢酸や酢酸メチルといった、モノカルボン酸およびそのエステルでは、エステルネットワークが成長しない。
【0090】
前駆体組成物の製造方法において、2価のカルボン酸エステルとしては、好ましくは、コハク酸エステル、マレイン酸エステルおよびマロン酸エステルから選択される少なくとも1種であることができる。これらのエステルの具体例としては、コハク酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マロン酸ジメチルをあげることができる。
【0091】
ポリカルボン酸エステルの分子量は、150以下であることが好ましい。ポリカルボン酸エステルの分子量が大きすぎると、熱処理時においてエステルが揮発する際に膜にダメージを与えやすく、緻密な膜を得られないことがある。また、ポリカルボン酸エステルは、室温において液体であることが好ましい。ポリカルボン酸エステルが室温で固体であると、液がゲル化することがある。
【0092】
前駆体組成物の製造方法において、ゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合する際に、さらに金属カルボン酸塩を用いたゾルゲル原料を含むことができる。かかる金属カルボン酸塩としては、代表的に、鉛のカルボン酸塩である酢酸鉛、さらに図26に示すような、オクチル酸鉛、オクチル酸ニオブ、オクチル酸鉛ニオブなどを挙げることができる。
【0093】
前駆体組成物の製造方法において、ゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合する際に、さらに有機金属化合物(MOD原料)を用いることができる。このように、前駆体組成物の製造方法においては、アルコキシド原料同士をエステル結合するだけでなく、MOD原料とアルコキシド原料をエステル結合することができる。
【0094】
かかる有機金属化合物としては、例えばオクチル酸ニオブを用いることができる。オクチル酸ニオブは、図26に示したように、Nbが2原子共有結合して、その他の部分にオクチル基が存在する構造である。この場合、Nb−Nbは2原子が結合しているが、それ以上のネットワークは存在しないため、これをMOD原料として扱っている。
【0095】
カルボン酸とMOD原料のネットワーク形成は、主にアルコール交換反応で進行する。例えば、オクチル酸ニオブの場合、カルボン酸とオクチル基の間で反応し(アルコール交換反応)、R−COO−Nbという、エステル化が進行する。このように、本実施形態では、MOD原料をエステル化することにより、MOD原料とアルコキシドとの縮合によってMOD原料の分子を前駆体のネットワークに結合することができる。
【0096】
前駆体組成物の製造方法において、ゾルゲル原料として、少なくともPbZrO用ゾルゲル溶液、PbTiO用ゾルゲル溶液、およびPbNbO用ゾルゲル溶液を混合したものを用いることができる。例えば、PbNbO用ゾルゲル溶液は、オクチル酸鉛とオクチル酸ニオブを混合して形成され、両者のアルコール交換反応によって得られるオクチル酸鉛ニオブ(図26参照)を用いることができる。
【0097】
さらに、前駆体組成物の製造方法においては、金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料として、シリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むゾルゲル原料を用いることができる。これらのゾルゲル原料を加えることによって、既に述べたように結晶化温度を下げることができる。このようなゾルゲル溶液としては、PbSiO用ゾルゲル溶液を単独で、もしくはPbSiO用ゾルゲル溶液とPbGeO用ゾルゲル溶液の両者を用いることができる。このようなシリコンやゲルマニウムを含むゾルゲル原料を用いることにより、成膜時の温度を低くすることができ、450℃程度からPZTNの結晶化が可能である。
【0098】
前駆体組成物の前駆体は、複数の分子ネットワークの間に適度にエステル結合を有しているので、可逆的反応が可能である。そのため、前駆体において、図28に示す左方向の反応を進行させることで、高分子化された前駆体(高分子ネットワーク)を分解して金属アルコキシドの縮合物とすることができる。
【0099】
(4) 次に、図1に示すように、レーザーアブレーション法によって、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13上にニオブ酸カリウム層14を形成する。
【0100】
具体的には、レーザー光をニオブ酸カリウム用のターゲット、例えばK0.6Nb0.4ターゲットに照射し、このターゲットからカリウム原子、ニオブ原子および酸素原子を叩き出すレーザーアブレーション法により、プルームを発生させる。そして、このプルームは、R面サファイア基板11上に向けて出射されてニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13に接触する。その結果、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13上に、擬立方晶表示において(100)配向のニオブ酸カリウム層14がエピタキシャル成長によって形成される。
【0101】
また、レーザーアブレーション法の条件は、プルームが十分にニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13に到達できるならば、特に限定されない。レーザー光の照射時の条件としては、例えば、レーザーエネルギー密度が1J/cm以上3J/cm以下、レーザー周波数が5Hz以上20Hz以下、ターゲット基板間距離が30mm以上100mm以下、基板温度が600℃以上800℃以下、堆積中の酸素分圧が1×10−2Torr以上1Torr以下とすることができる。
【0102】
本実施形態では、レーザーアブレーション時の条件を選択することにより、ニオブ酸カリウムを単結晶、または多結晶(好ましくは単相の多結晶)とすることができる。
【0103】
なお、上述した例では、K0.6Nb0.4ターゲットを用いたが、ターゲットの組成比はこれに限定されない。例えば、ニオブ酸カリウム層14の形成には、Tri−Phase−Epitaxy法に適した組成比のターゲットを用いることができる。Tri−Phase−Epitaxy法は、気相原料を固液共存領域の温度に保持した基体に堆積し、液相中から固相を析出させる方法である。
【0104】
具体的には、まず、基体(本実施形態では、基板11と、バッファ層12とニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13からなる)上に堆積させた直後の液相状態のKNb1−xにおけるカリウムのモル組成比xが、0.5≦x≦xの範囲となるような気相原料であるプルームを基体に供給する。なお、xは、所定の酸素分圧下におけるKNbOと3KO・Nbとの共晶点におけるxである。次に、基体の温度Tを、T≦T≦Tの範囲に保持することにより、プルームの供給で基体上に堆積させたKNb1−xの残液を蒸発させる。これにより、KNb1−xからKNbO単結晶を基体上に析出させることができる。なお、Tは、所定の酸素分圧下におけるKNbOと3KO・Nbとの共晶点における温度である。また、Tは、所定の酸素分圧下であって、基体上に堆積させた直後の液相状態のKNb1−xにおける完全溶融温度である。
【0105】
以上の工程により、図1に示すニオブ酸カリウム堆積体100を形成することができる。
【0106】
さらに、必要に応じて、ニオブ酸カリウム層14の表面を平坦化するための研磨処理を行うことができる。このような研磨処理としては、バフ研磨、CMP(Chemical Mechanical Polishing)などを用いることができる。
【0107】
また、本実施形態では、バッファ層12およびニオブ酸カリウム層14の成膜方法として、レーザーアブレーションを用いたが、成膜方法はこれに限定されず、例えば蒸着法、MOCVD法、スパッタ法を用いることができる。
【0108】
1.3. 本実施形態によれば、R面サファイア基板11の上に立方晶(100)配向のMgOからなるバッファ層12を気相法で形成し、バッファ層12の上に液相法を用いてニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13を形成し、さらにニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13上に気相法を用いてニオブ酸カリウム層14を形成する。これにより、ニオブ酸カリウム層14の単一相薄膜をエピタキシャル成長させることができる。このニオブ酸カリウム層14を用いることにより、後述するように、電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を得ることができる。
【0109】
また、本実施形態によれば、ニオブ酸カリウム層14の(100)面は、R面サファイア基板11のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いている。このニオブ酸カリウム層14を用いることにより、後述するように、電気機械結合係数のより一層大きな表面弾性波素子を得ることができる。
【0110】
さらに、本実施形態によれば、バッファ層12上にニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13を形成することにより、ニオブ酸カリウム層14の表面モフォロジーを改善できる。すなわち、本実施形態で得られるニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13は、表面モフォロジーと絶縁性に非常に優れており、さらにバッファ層12上にエピタキシャル成長で成膜されるため、バッファ層12の結晶配向制御性を維持した状態で、ニオブ酸カリウム層14の結晶特性をさらに向上させることができる。
【0111】
本実施形態において、上述したニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛(PZTN)層13が得られるメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下に述べる前駆体組成物の影響によるところが大きいと考えられる。
【0112】
すなわち、前駆体組成物においては、ポリカルボン酸によって、ゾルゲル原料の金属アルコキシドの加水分解・縮合物(複数の分子ネットワーク)同士がエステル結合によって縮重合した高分子ネットワークが得られる。したがって、この高分子ネットワークには、上記加水分解・縮合物に由来する複数の分子ネットワークの間に適度にエステル結合を有する。そして、エステル化反応は、温度制御などで容易に行うことができる。
【0113】
また、前駆体組成物は、前述したように、複数の分子ネットワークの間に適度にエステル結合を有しているので、可逆的反応が可能である。そのため、PZTN膜の成膜後に残った組成物において、高分子化された前駆体(高分子ネットワーク)を分解して金属アルコキシド(もしくはその縮合物からなる分子ネットワーク)とすることができる。このような金属アルコキシド(もしくはその縮合物からなる分子ネットワーク)は、前駆体原料として再利用することができるので、鉛などの有害とされる物質を再利用でき、環境の面からもメリットが大きい。
【0114】
さらに、前駆体組成物は、これまで困難であった前駆体での鉛のネットワーク化が容易となり、鉛を取り込んだ分子ネットワーク(前駆体)を含むことができ、高い組成制御性を有することができる。
【0115】
1.4. 実施例1
まず、R面サファイア単結晶基板からなる基板11を有機溶媒に浸漬させ、超音波洗浄機を用いて脱脂洗浄を行った。ここで、有機溶媒としては、エチルアルコールとアセトンの1:1混合液を使用した。次に、基板11を基板ホルダーに装填した後、室温での背圧1×10−7Torrの真空装置内に基板ホルダーごと導入し、5×10−5Torrの酸素分圧になるように酸素ガスを導入し、赤外線ランプを用いて20℃/分で400℃まで加熱昇温した。このとき、図4(A)に示すように、サファイア[11−20]方向からの反射高速電子線回折(Reflection High Energy Electron Diffraction:RHEED)により得られたパターンには、ストリーク状の回折パターンが観測された。
【0116】
次に、マグネシウムターゲットの表面に、エネルギー密度2.5J/cm、周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマレーザー(波長248nm)のパルス光を入射し、ターゲット表面にマグネシウムのプラズマプルームを発生させた。このプラズマプルームを、基板温度400℃、酸素分圧5×10−5Torrの条件で基板11に照射し、MgOからなるバッファ層12を形成した。ターゲット基板間距離は70mmとし、照射時間は30分とし、バッファ層12の膜厚は50nmとした。
【0117】
このようにして得られた堆積体について、サファイア[11−20]方向からのRHEEDパターンを求めたところ、図4(B)に示すパターンが得られた。このRHEEDパターンには、回折パターンが現れており、MgOからなるバッファ層12がエピタキシャル成長していることが確認された。
【0118】
さらに、この堆積体のMgOからなるバッファ層12のX線回折パターン(2θ−θスキャン)を図5に示す。図5に示すように、基板11のピークの他には観測されなかった。2θ値をMgO(200)(a=0.4212nmとすると2θ=42.92°)に固定した場合のX線回折パターン(ωスキャン)を図6および図7に示す。ωスキャンの回転軸がサファイア[11−20]に平行な場合には、図6に示すように、中心より9.2°シフトしたピークが観測された。ωスキャンの回転軸がサファイア[−1101]に平行な場合には、図7に示すように、ピークは観測されなかった。これらの結果から、基板11より約9°傾いたMgO(100)膜が成長していることが確認された。
【0119】
次いで、バッファ層12上に前駆体組成物を塗布し、さらに加熱処理することにより、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13を形成した。
【0120】
本実施例では、次のようにして前駆体組成物を得た。前駆体組成物は、Pb、Zr、Ti、およびNbの少なくともいずれかを含む第1ないし第3の原料溶液と、ポリカルボン酸エステルとしてのコハク酸ジメチルと、有機溶媒としてのn−ブタノールとを混合して得られた。混合液は、ゾルゲル原料とコハク酸ジメチルとを1:1の割合(モルイオン濃度)でn−ブタノールに溶解したものである。
【0121】
第1の原料溶液としては、PZTNの構成金属元素のうち、PbおよびZrによるPbZrOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0122】
第2の原料溶液としは、PZTNの構成金属元素のうち、PbおよびTiによるPbTiOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0123】
第3の原料溶液としては、PZTNの構成金属元素のうち、PbおよびNbによるPbNbOペロブスカイト結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を用いた。
【0124】
上記第1、第2および第3の原料溶液を用いて、PbZr0.2Ti0.6Nb0.2(PZTN)膜を形成する場合、(第1の原料溶液):(第2の原料溶液):(第3の原料溶液)=2:6:2の比で混合する。さらに、PZTN膜の結晶化温度を低下させる目的で、第4の原料溶液として、PbSiO結晶を形成するための縮重合体をn−ブタノールの溶媒に無水状態で溶解した溶液を、3モル%の割合で上記混合溶液中に添加した。すなわち、ゾルゲル原料として上記第1、第2、第3および第4の原料溶液の混合溶液を用いることで、PZTNの結晶化温度を700℃以下の温度で結晶化させることが可能となる。
【0125】
ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13は、以下の方法で得た。
【0126】
まず、室温にて、上記第1ないし第4の原料溶液と、コハク酸ジメチルとをn−ブタノールに溶解して溶液を調製した。そして、この溶液を80℃で60分間加熱して溶液(前駆体組成物)を調整した。ついで、この溶液をスピン塗布法によってR面サファイア基板11上に塗布し、ホットプレートを用いて150〜180℃(150℃)で乾燥処理を行い、アルコールを除去した。その後、ホットプレートを用いて300〜350℃(300℃)で脱脂熱処理を行った。その後、必要に応じて上記塗布工程、乾燥処理工程および脱脂熱処理を複数回行い所望の膜厚の塗布膜を得た。さらに、結晶化アニール(焼成)により、膜厚150nmのPZTN膜12を得た。結晶化のための焼成は、酸素雰囲気中でラピッドサーマルアニール(RTA)を用いて、650〜700℃(700℃)で行った。
【0127】
次に、バッファ層12およびニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13が形成されたサファイア基板11を基板ホルダーに装填したあと、室温での背圧1×10−7Torrの真空装置内に基板ホルダーごと導入し、5×10−5Torrの酸素分圧になるように酸素ガスを導入し、赤外線ランプを用いて20℃/分で400℃まで加熱昇温した。
【0128】
次に、K0.6Nb0.4ターゲットの表面に、エネルギー密度2J/cm、周波数10Hz、パルス長10nsの条件でKrFエキシマレーザーのパルス光を入射し、ターゲット表面にK、Nb、Oのプラズマプルームを発生させた。このプラズマプルームを、基板温度600℃、酸素分圧0.5Torrの条件で基板11に向けて照射し、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の上にニオブ酸カリウム層14を形成した。ターゲット基板間距離は70mmとし、照射時間は240分とし、ニオブ酸カリウム層14の膜厚は1μmとした。
【0129】
以上の工程により、ニオブ酸カリウム堆積体100(図1参照)を得た。
【0130】
このようにして得られた堆積体について、サファイア[11−20]方向からのRHEEDパターンを求めたところ、図4(C)に示すパターンが得られた。このパターンには、明確な回折パターンが現れており、ニオブ酸カリウムがエピタキシャル成長していることが確認された。
【0131】
さらに、この堆積体のニオブ酸カリウム(KNbO)層14のX線回折パターン(2θ−θスキャン)を図8に示す。図8に示すように、KNbOを擬立方晶の面指数で表記すると、KNbO(100)pc、KNbO(200)pcのピークが観測された。従って、KNbOは(100)pc配向していることが確認された。KNbO(200)pc(2θ=45.12°)のX線回折パターン(ωスキャン)を図9および図10に示す。ωスキャンの回転軸がサファイア[11−20]に平行な場合には、図9に示すように、中心より6.3°シフトしたピークが観測された。ωスキャンの回転軸がサファイア[−1101]に平行な場合には、図10に示すように、ピークは観測されなかった。これらの結果から、基板11より約6°傾いたKNbO(100)pc膜が成長していることが確認された。
【0132】
また、X線回折極点図を測定したところ、図11〜図13に示す結果が得られた。図11、図12、図13は、それぞれ、サファイア(0006)(2θ=41.7°)、MgO(202)(2θ=62.3°)、PZTN(101)およびKNbO(101)pc(2θ=31.5°)のX線回折極点図である。なお、図13では、PZTNとKNbOの結果が示される。図12および図13に示すように、MgO(202)と、PZTN(101),KNbO(101)pcのスポットは、ともに4回対称性を示しており、面間でKNbO(100)pc/PZTN(101)/MgO(100)/サファイア(1−102)、面内でKNbO[010]pc//PZTN[101]//MgO[010]//サファイア[11−20]のエピタキシャル成長方位の関係になっていることが分かった。
【0133】
また、図12および図13に示すように、4スポットの中心が極点図の中心(Psi=0度)からサファイア[−1101]方向に、それぞれ9゜、6゜、6゜程度シフトしている。これらは、上述したωスキャンのシフト量と一致している。従って、MgOからなるバッファ層12は、(100)面が基板11のR面に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として、9゜程度傾いた状態でエピタキシャル成長しており、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13は、立方晶表示において(100)面が基板11のR面に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として、6゜程度傾いた状態でエピタキシャル成長しており、ニオブ酸カリウム層14は、擬立方晶表示において(100)面が基板11のR面に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として、6゜程度傾いた状態でエピタキシャル成長していることが確認された。
【0134】
さらに、本実施例で得られたニオブ酸カリウム堆積体100の表面を光学顕微鏡で観察したところ、図14に示すように、非常に表面モフォロジーが良いことが確認された。また、ニオブ酸カリウム堆積体100は、肉眼で観察して透明であった。このことは、ニオブ酸カリウム層14の表面が平坦であって、しかも結晶粒が揃っていることを示している。
【0135】
2.第2の実施形態
2.1. 図15は、本実施形態に係るニオブ酸カリウム堆積体200を模式的に示す断面図である。本実施形態に係るニオブ酸カリウム堆積体200は、基板11と、基板11上に形成されたバッファ層12と、バッファ層12上に形成された第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13と、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13上に形成されたニオブ酸カリウム層14と、ニオブ酸カリウム層14上に形成された第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15と、を含むことができる。本実施形態では、ニオブ酸カリウム層14上にさらに第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15を有する点で、第1の実施形態と異なる。第1の実施形態にかかるニオブ酸カリウム堆積体100と同様の部材には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0136】
基板11としては、第1の実施形態と同様に、R面サファイア基板を用いることができる。
【0137】
バッファ層12としては、第1の実施形態と同様に、岩塩構造の金属酸化物、例えばMgO(酸化マグネシウム)を用いることができる。また、バッファ層12は、第1の実施形態と同様に、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、バッファ層12の(100)面は、R面サファイア基板11のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いていることができる。
【0138】
第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13は、第1の実施形態と同様に、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、そして、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いていることができる。
【0139】
さらに、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13は、第1の実施形態と同様に、組成の特徴として、ニオブ、チタンおよびジルコニウムに対して、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、30モル%以下のニオブを含むことができる。また、本実施形態に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層は、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、5モル%以下のシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むことができる。
【0140】
ニオブ酸カリウム層14は、第1の実施形態と同様に、擬立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、そして、ニオブ酸カリウム層14の(100)面は、R面サファイア基板11のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いていることができる。
【0141】
ニオブ酸カリウム層14は、単結晶または多結晶のニオブ酸カリウムを有する。ニオブ酸カリウム層14の厚さは、特に限定されず、適用されるデバイスなどによって適宜選択され、例えば、100nm以上10μm以下とすることができる。
【0142】
第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15は、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13と同様に、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、そして、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いていることができる。第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15の(100)面は、R面サファイア基板のR面(1−102)と成す角が、好ましくは1度以上15度以下である。
【0143】
さらに、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15は、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13と同様に、組成の特徴として、ニオブ、チタンおよびジルコニウムに対して、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、30モル%以下のニオブを含むことができる。また、本実施形態に係るニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層は、好ましくは0.5モル%以上、より好ましくは0.5モル%以上、5モル%以下のシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むことができる。
【0144】
2.2. 次に、ニオブ酸カリウム堆積体200の製造方法について述べる。
【0145】
(1) まず、図15に示すように、第1の実施形態と同様に、R面サファイア基板からなる基板(以下「R面サファイア基板」ともいう)11を用意する。
【0146】
(2) 次に、図15に示すように、レーザーアブレーション法によって、R面サファイア基板11上にMgOからなるバッファ層12を形成する。バッファ層12の形成方法は、第1の実施形態と同様である。
【0147】
(3) 次に、図15に示すように、バッファ層12上に、前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13を形成する。第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の形成方法は、第1の実施形態と同様である。
【0148】
(4) 次に、図15に示すように、レーザーアブレーション法によって、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13上にニオブ酸カリウム層14を形成する。ニオブ酸カリウム層14の形成方法は、第1の実施形態と同様である。
【0149】
(5) 次に、ニオブ酸カリウム層14上に、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15を形成する。このニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15の形成方法は、(3)の第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13の形成方法と同様である。すなわち、ニオブ酸カリウム層14上に前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15を形成する。この第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15は、下のニオブ酸カリウム層14によってエピキャシタル成長し、前述した特定の配向を有する。
【0150】
以上の工程によって、R面サファイア基板11上に、バッファ層12、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13、ニオブ酸カリウム層14および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15が順に積層されたニオブ酸カリウム堆積体200が得られる。
【0151】
また、本実施形態では、バッファ層12およびニオブ酸カリウム層14の成膜方法として、レーザーアブレーションを用いたが、成膜方法はこれに限定されず、例えば蒸着法、MOCVD法、スパッタ法を用いることができる。
【0152】
2.3. 本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、R面サファイア基板11の上に立方晶(100)配向のMgOからなるバッファ層12を形成し、バッファ層12の上に液相法を用いて第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13を形成し、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13上に気相法を用いてニオブ酸カリウム層14を形成し、さらに、液相法によって第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15を形成する。これにより、ニオブ酸カリウム層14の単一相薄膜をエピタキシャル成長させることができる。このニオブ酸カリウム層14を用いることにより、後述するように、電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を得ることができる。
【0153】
本実施形態によれば、ニオブ酸カリウム層14の(100)面は、R面サファイア基板11のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いている。このニオブ酸カリウム層14を用いることにより、後述するように、電気機械結合係数のより一層大きな表面弾性波素子を得ることができる。
【0154】
本実施形態によれば、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15は優れた表面モフォロジーおよび絶縁性を有するので、例えばこのニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15上に良好な界面状態を有する導電層(電極層)を形成することができる。
【0155】
さらに、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、バッファ層12上に第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13を形成することにより、ニオブ酸カリウム層14の表面モフォロジーを改善できる。すなわち、本実施形態で得られるニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13は、表面モフォロジーと絶縁性に非常に優れており、さらにバッファ層12上にエピタキシャル成長で成膜されるため、バッファ層12の結晶配向制御性を維持した状態で、ニオブ酸カリウム層14の結晶特性をさらに向上させることができる。
【0156】
2.4. 実施例2
本実施例では、実施例1で得られたニオブ酸カリウム堆積体100の上に、さらに第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15を形成した以外は、実施例1と同様にしてニオブ酸カリウム堆積体200を形成した。第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15は、実施例1と同様な前駆体組成物を用いて塗膜を形成し、実施例1と同様な熱処理を行って形成した。このニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15は、膜厚が50nmである。
【0157】
このようにして得られた堆積体200について、サファイア[11−20]方向からのRHEEDパターンを求めたところ、図4(C)に示すパターンと同様のパターンが得られた。このパターンには、明確な回折パターンが現れており、ニオブ酸カリウムがエピタキシャル成長していることが確認された。
【0158】
さらに、この堆積体200のニオブ酸カリウム(KNbO)層14のX線回折パターン(2θ−θスキャン)は、図8に示すパターンと同様であった。すなわち、本実施例のKNbOを擬立方晶の面指数で表記すると、KNbO(100)pc、KNbO(200)pcのピークが観測された。従って、KNbOは(100)pc配向していることが確認された。また、KNbO(200)pc(2θ=45.12°)のX線回折パターン(ωスキャン)も実施例1と同様に、ωスキャンの回転軸がサファイア[11−20]に平行な場合には、図9に示すように、中心より6.3°シフトしたピークが観測された。ωスキャンの回転軸がサファイア[−1101]に平行な場合には、図10に示すように、ピークは観測されなかった。これらの結果から、基板11より約6°傾いたKNbO(100)pc膜が成長していることが確認された。
【0159】
また、X線回折極点図を測定したところ、図11〜図13に示す結果と同様な結果が得られた。すなわち、それぞれ、サファイア(0006)(2θ=41.7°)、MgO(202)(2θ=62.3°)、PZTN(101)およびKNbO(101)pc(2θ=31.5°)のX線回折極点図から、MgO(202)と、PZTN(101),KNbO(101)pcのスポットは、ともに4回対称性を示しており、面間でKNbO(100)pc/PZTN(101)/MgO(100)/サファイア(1−102)、面内でKNbO[010]pc//PZTN[101]//MgO[010]//サファイア[11−20]のエピタキシャル成長方位の関係になっていることが分かった。
【0160】
また、図12および図13に示すように、4スポットの中心が極点図の中心(Psi=0度)からサファイア[−1101]方向に、それぞれ9゜、6゜、6゜程度シフトしている。これらは、上述したωスキャンのシフト量と一致している。従って、MgOからなるバッファ層12は、(100)面が基板11のR面に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として、9゜程度傾いた状態でエピタキシャル成長しており、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13,15は、立方晶表示において(100)面が基板11のR面に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として、6゜程度傾いた状態でエピタキシャル成長しており、ニオブ酸カリウム層14は、擬立方晶表示において(100)面が基板11のR面に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として、6゜程度傾いた状態でエピタキシャル成長していることが確認された。
【0161】
さらに、本実施例で得られたニオブ酸カリウム堆積体200は、実施例1と同様に、表面モフォロジーが良いことが確認された。また、本実施例のニオブ酸カリウム堆積体200は、肉眼で観察して透明であった。このことは、ニオブ酸カリウム層14の表面が平坦であって、しかも結晶粒が揃っていることを示している。
【0162】
3.第3の実施形態
次に、本発明を適用した第3の実施形態に係る表面弾性波素子の一例について、図面を参照しながら説明する。図16は、本実施形態に係る表面弾性波素子300を模式的に示す断面図である。図16において、図1に示すニオブ酸カリウム堆積体100の部材と実質的に同じ部材には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0163】
表面弾性波素子300は、基板11と、基板11上に形成されたバッファ層12と、バッファ層12上に形成されたニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13と、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13上に形成されたニオブ酸カリウム層14と、ニオブ酸カリウム層14上に形成されたインターディジタル型電極(以下、「IDT電極」という)18,19と、を含む。IDT電極18,19は、所定のパターンを有する。
【0164】
本実施形態に係る表面弾性波素子300は、本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体、例えば、図1に示すニオブ酸カリウム堆積体100を含む。従って、表面弾性波素子300を構成するニオブ酸カリウム層14は、ニオブ酸カリウム堆積体100のニオブ酸カリウム層14と同じ特徴を有する。ニオブ酸カリウム層14は、上述したように、単結晶または多結晶のニオブ酸カリウムから構成されている。
【0165】
本実施形態に係る表面弾性波素子300は、本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体を用いて、例えば以下のようにして形成される。
【0166】
まず、図1に示すニオブ酸カリウム堆積体100のニオブ酸カリウム層14上に、例えば真空蒸着法により金属層を形成する。金属層としては、例えばアルミニウムを用いることができる。次に、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いて金属層をパターニングすることにより、ニオブ酸カリウム層14上にIDT電極18,19を形成する。
【0167】
本実施形態に係る表面弾性波素子は、本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体を有する。従って、本実施形態によれば、電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を実現することが可能となる。
【0168】
次に、本実施形態に係る表面弾性波素子300について行った実験例について述べる。
【0169】
上述した第1の実施形態における実施例1のニオブ酸カリウム堆積体100を用いて、実施例の表面弾性波素子300を形成した。ニオブ酸カリウム堆積体100は、透明かつ単結晶状のニオブ酸カリウム層14を有する。なお、IDT電極としては、厚さ100nmのアルミニウム層を用いた。IDT電極のラインアンドスペース(Line&Space)は、1.25μmとした。
【0170】
得られた表面弾性波素子300について、IDT電極18,19の間での表面弾性波の伝播速度Vopenを測定した。その結果から求められた音速は、5000m/sであった。また、IDT電極18,19の間を金属薄膜で覆った場合の表面弾性波の伝播速度Vshortとの差から求められた電気機械結合係数は20%であった。
【0171】
なお、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13を用いないで、バッファ層上にニオブ酸カリウム層を直接形成した場合には、電気機械結合係数は10%であった。したがって、本実施例によれば、ニオブ酸カリウム層14上に第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13を形成することにより、電気機械結合係数が改善することが確認された。
【0172】
4.第4の実施形態
次に、本発明を適用した第4の実施形態に係る表面弾性波素子の一例について、図面を参照しながら説明する。図17は、本実施形態に係る表面弾性波素子400を模式的に示す断面図である。図17において、図15に示すニオブ酸カリウム堆積体200の部材と実質的に同じ部材には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0173】
表面弾性波素子400は、基板11と、基板11上に形成された、バッファ層12、第1のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13、ニオブ酸カリウム層14および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15からなるニオブ酸カリウム堆積体と、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15上に形成されたインターディジタル型電極(以下、「IDT電極」という)18,19と、を含む。IDT電極18,19は、所定のパターンを有する。
【0174】
本実施形態に係る表面弾性波素子400は、本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体、例えば、図15に示すニオブ酸カリウム堆積体200を含む。従って、表面弾性波素子400を構成するニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13,15およびニオブ酸カリウム層14は、第2の実施形態で述べたと同様の特徴を有する。すなわち、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層13,15およびニオブ酸カリウム層14は、特定の配向性を有し、かつ4回対称性をもったエピタキシャル成長による結晶構造を有する。
【0175】
本実施形態に係る表面弾性波素子400は、例えば以下のようにして形成される。
【0176】
まず、図15に示すニオブ酸カリウム堆積体200の第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15上に、例えば真空蒸着法により金属層を形成する。金属層としては、例えばアルミニウムを用いることができる。次に、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術を用いて金属層をパターニングすることにより、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15上にIDT電極18,19を形成する。本実施形態では、第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15を有することによりニオブ酸カリウム堆積体の表面モフォロジーが非常に良好になり、例えば界面状態の優れたIDT電極18,19を形成することができる。
【0177】
本実施形態に係る表面弾性波素子400は、主にデバイス特性を決めるニオブ酸カリウム層14および第2のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15を有する。従って、本実施形態によれば、電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を実現することが可能となる。
【0178】
次に、本実施形態に係る表面弾性波素子400について行った実験例について述べる。
【0179】
前述した第2の実施形態における実施例2のニオブ酸カリウム堆積体200を用いて、実施例の表面弾性波素子400を形成した。なお、IDT電極としては、厚さ100nmのアルミニウム層を用いた。IDT電極としては、厚さ100nmのアルミニウム膜を用いた。また、IDT電極のラインアンドスペース(L&S)は、1.25μmであった。
【0180】
得られた表面弾性波素子400について、IDT電極18,19の間での表面弾性波の伝播速度Vopenを測定した。その結果から求められた音速は、5000m/sであった。また、IDT電極18,19の間を金属薄膜で覆った場合の表面弾性波の伝播速度Vshortとの差から求められた電気機械結合係数は25%であった。
【0181】
また、本実施例では、ニオブ酸カリウム層14上にさらにニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層15を形成することにより、第3の実施形態の実験例に比べてさらに電気機械結合係数が改善されることが確認された。
【0182】
5.第5の実施形態
次に、本発明を適用した第5の実施形態に係る周波数フィルタの一例について、図面を参照しながら説明する。図18は、本実施形態の周波数フィルタを模式的に示す図である。
【0183】
図18に示すように、周波数フィルタは基体140を有する。この基体140としては、本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体、例えば図1,図15に示すニオブ酸カリウム堆積体100,200を用いることができる。
【0184】
基体140の上面には、IDT電極141、142が形成されている。また、IDT電極141、142を挟むように、基体140の上面には吸音部143、144が形成されている。吸音部143、144は、基体140の表面を伝播する表面弾性波を吸収するものである。基体140上に形成されたIDT電極141には高周波信号源145が接続されており、IDT電極142には信号線が接続されている。
【0185】
次に、上述の周波数フィルタの動作について説明する。
【0186】
前記構成において、高周波信号源145から高周波信号が出力されると、この高周波信号はIDT電極141に印加され、これによって基体140の上面に表面弾性波が発生する。IDT電極141から吸音部143側へ伝播した表面弾性波は、吸音部143で吸収されるが、IDT電極142側へ伝播した表面弾性波のうち、IDT電極142のピッチ等に応じて定まる特定の周波数または特定の帯域の周波数の表面弾性波は電気信号に変換されて、信号線を介して端子146a、146bに取り出される。なお、前記特定の周波数または特定の帯域の周波数以外の周波数成分は、大部分がIDT電極142を通過して吸音部144に吸収される。このようにして、本実施形態の周波数フィルタが有するIDT電極141に供給した電気信号のうち、特定の周波数または特定の帯域の周波数の表面弾性波のみを得る(フィルタリングする)ことができる。
【0187】
6.第6の実施形態
次に、本発明を適用した第6の実施形態に係る発振器の一例について、図面を参照しながら説明する。図19は、本実施形態の発振器を模式的に示す図である。
【0188】
図19に示すように、発振器は基体150を有する。この基体150としては、上述した周波数フィルタと同様に、本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体、例えば図1,図15に示すニオブ酸カリウム堆積体100,200を用いることができる。
【0189】
基体150の上面には、IDT電極151が形成されており、さらに、IDT電極151を挟むように、IDT電極152、153が形成されている。IDT電極151を構成する一方の櫛歯状電極151aには、高周波信号源154が接続されており、他方の櫛歯状電極151bには、信号線が接続されている。なお、IDT電極151は、電気信号印加用電極に相当し、IDT電極152、153は、IDT電極151によって発生される表面弾性波の特定の周波数成分または特定の帯域の周波数成分を共振させる共振用電極に相当する。
【0190】
次に、上述の発振器の動作について説明する。
【0191】
前記構成において、高周波信号源154から高周波信号が出力されると、この高周波信号は、IDT電極151の一方の櫛歯状電極151aに印加され、これによって基体150の上面にIDT電極152側に伝播する表面弾性波およびIDT電極153側に伝播する表面弾性波が発生する。これらの表面弾性波のうちの特定の周波数成分の表面弾性波は、IDT電極152およびIDT電極153で反射され、IDT電極152とIDT電極153との間には定在波が発生する。この特定の周波数成分の表面弾性波がIDT電極152、153で反射を繰り返すことにより、特定の周波数成分または特定の帯域の周波数成分が共振して、振幅が増大する。この特定の周波数成分または特定の帯域の周波数成分の表面弾性波の一部は、IDT電極151の他方の櫛歯状電極151bから取り出され、IDT電極152とIDT電極153との共振周波数に応じた周波数(または、ある程度の帯域を有する周波数)の電気信号が端子155aと端子155bに取り出すことができる。
【0192】
図20および図21は、上述した発振器をVCSO(Voltage Controlled SAW Oscillator:電圧制御SAW発振器)に応用した場合の一例を模式的に示す図であり、図20は側面透視図であり、図21は上面透視図である。
【0193】
VCSOは、金属製(Alまたはステンレススチール製)の筐体60内部に実装されて構成されている。基板61上には、IC(Integrated Circuit)62および発振器63が実装されている。この場合、IC62は、外部の回路(不図示)から入力される電圧値に応じて、発振器63に印加する周波数を制御する発振回路である。
【0194】
発振器63は、基体64上に、IDT電極65a〜65cが形成されており、その構成は、図19に示す発振器とほぼ同様である。基体64としては、上述した図19に示す発振器と同様に、本発明に係るニオブ酸カリウム堆積体、例えば図1,15に示すニオブ酸カリウム堆積体100,200を用いることができる。
【0195】
基板61上には、IC62と発振器63とを電気的に接続するための配線66がパターニングされている。IC62および配線66が、例えば金線等のワイヤー線67によって接続され、発振器63および配線66が金線等のワイヤー線68によって接続されている。これにより、IC62と発振器63とが配線66を介して電気的に接続されている。
【0196】
図20および図21に示すVCSOは、例えば、図22に示すPLL回路のVCO(Voltage Controlled Oscillator)として用いられる。図22は、PLL回路の基本構成を示すブロック図である。PLL回路は、位相比較器71、低域フィルタ72、増幅器73、およびVCO74から構成されている。位相比較器71は、入力端子70から入力される信号の位相(または周波数)と、VCO74から出力される信号の位相(または周波数)とを比較し、その差に応じて値が設定される誤差電圧信号を出力するものである。低域フィルタ72は、位相比較器71から出力される誤差電圧信号の位置の低周波成分のみを通過させるものである。増幅器73は、低域フィルタ72から出力される信号を増幅するものである。VCO74は、入力された電圧値に応じて発振する周波数が、ある範囲で連続的に変化する発振回路である。
【0197】
このような構成のもとにPLL回路は、入力端子70から入力される位相(または周波数)と、VCO74から出力される信号の位相(または周波数)との差が減少するように動作し、VCO74から出力される信号の周波数を入力端子70から入力される信号の周波数に同期させる。VCO74から出力される信号の周波数が入力端子70から入力される信号の周波数に同期すると、その後は一定の位相差を除いて入力端子70から入力される信号に一致し、また、入力信号の変化に追従するような信号を出力するようになる。
【0198】
以上述べたように、本実施形態に係る周波数フィルタおよび発振器は、本発明に係る電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を有する。従って、本実施形態によれば、周波数フィルタおよび発振器の小型化を実現することが可能となる。
【0199】
7.第7の実施形態
7.1. 次に、本発明を適用した第7の実施形態に係る電子回路および電子機器の第1の例について、図面を参照しながら説明する。図23は、本実施形態に係る電子機器500の電気的構成を示すブロック図である。電子機器500とは、例えば携帯電話機である。
【0200】
電子機器500は、電子回路510、送話部80、受話部91、入力部94、表示部95、およびアンテナ部86を有する。電子回路310は、送信信号処理回路81、送信ミキサ82、送信フィルタ83、送信電力増幅器84、送受分波器85、低雑音増幅器87、受信フィルタ88、受信ミキサ89、受信信号処理回路90、周波数シンセサイザ92、および制御回路93を有する。
【0201】
電子回路510において、送信フィルタ83および受信フィルタ88として、図18に示す周波数フィルタを用いることができる。フィルタリングする周波数(通過させる周波数)は、送信ミキサ82から出力される信号のうちの必要となる周波数、および、受信ミキサ89で必要となる周波数に応じて、送信フィルタ83および受信フィルタ88で個別に設定されている。また、周波数シンセサイザ92内に設けられるPLL回路(図22参照)のVCO74として、図19に示す発振器、または図20および図21に示すVCSOを用いることができる。
【0202】
送話部80は、例えば音波信号を電気信号に変換するマイクロフォン等で実現されるものである。送信信号処理回路81は、送話部80から出力される電気信号に対して、例えばD/A変換処理、変調処理等の処理を施す回路である。送信ミキサ82は、周波数シンセサイザ92から出力される信号を用いて送信信号処理回路81から出力される信号をミキシングするものである。送信フィルタ83は、中間周波数(以下、「IF」と表記する)の必要となる周波数の信号のみを通過させ、不要となる周波数の信号をカットするものである。送信フィルタ83から出力される信号は、変換回路(図示せず)によってRF信号に変換される。送信電力増幅器84は、送信フィルタ83から出力されるRF信号の電力を増幅し、送受分波器85へ出力するものである。
【0203】
送受分波器85は、送信電力増幅器84から出力されるRF信号をアンテナ部86へ出力し、アンテナ部86から電波の形で送信するものである。また、送受分波器85は、アンテナ部86で受信した受信信号を分波して、低雑音増幅器87へ出力するものである。低雑音増幅器87は、送受分波器85からの受信信号を増幅するものである。低雑音増幅器87から出力される信号は、変換回路(図示せず)によってIFに変換される。
【0204】
受信フィルタ88は、変換回路(図示せず)によって変換されたIFの必要となる周波数の信号のみを通過させ、不要となる周波数の信号をカットするものである。受信ミキサ89は、周波数シンセサイザ92から出力される信号を用いて、受信フィルタ88から出力される信号をミキシングするものである。受信信号処理回路90は、受信ミキサ89から出力される信号に対して、例えばA/D変換処理、復調処理等の処理を施す回路である。受話部91は、例えば電気信号を音波に変換する小型スピーカ等で実現されるものである。
【0205】
周波数シンセサイザ92は、送信ミキサ82へ供給する信号、および、受信ミキサ89へ供給する信号を生成する回路である。周波数シンセサイザ92は、PLL回路を有し、このPLL回路から出力される信号を分周して新たな信号を生成することができる。制御回路93は、送信信号処理回路81、受信信号処理回路90、周波数シンセサイザ92、入力部94、および表示部95を制御する。表示部95は、例えば携帯電話機の使用者に対して機器の状態を表示する。入力部94は、例えば携帯電話機の使用者の指示を入力する。
【0206】
7.2. 次に、本発明を適用した第7の実施形態に係る電子回路および電子機器の第2の例について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、電子機器の例として、リーダライタ2000およびそれを用いた通信システム3000について説明する。図24は、本実施形態に係るリーダライタ2000を用いた通信システム3000を示す図であり、図25は、図24に示す通信システム3000の概略ブロック図である。
【0207】
図24に示すように、通信システム3000は、リーダライタ2000と、非接触情報媒体2200と、を含む。リーダライタ2000は、キャリア周波数fを有する電波W(以下「キャリア」ともいう)を非接触情報媒体2200へ送信し、または非接触情報媒体2200から受信し、無線通信を利用して非接触情報媒体2200と交信する。電波Wは任意の周波数帯のキャリア周波数fcを使用することができる。図24および図25に示されるように、リーダライタ2000は、本体2105と、本体2105上面に位置するアンテナ部2110と、本体2105内部に格納される制御インターフェース部2120と、電源回路172と、を含む。アンテナ部2110と制御インターフェース部2120とは、ケーブル2180によって電気的に接続されている。また、図示はしないが、リーダライタ2000は、制御インターフェース部2120を介して、外部ホスト装置(処理装置など)に接続されている。
【0208】
アンテナ部2110は、非接触情報媒体2200との間で情報の通信を行う機能を有する。アンテナ部2110は、図24に示すように、所定の通信領域(点線で示す領域)を有する。アンテナ部2110は、ループアンテナ112および整合回路114により構成される。
【0209】
制御インターフェース部2120は、送信部161と、減衰振動キャンセル部(以下「キャンセル部」という)140と、受信部168と、コントローラ160と、を含む。
【0210】
送信部161は、外部装置(図示せず)より送信されたデータを変調し、ループアンテナ112に送信する。送信部161は、発振回路162と、変調回路163と、駆動回路164と、を含む。発振回路162は、所定の周波数のキァリアを発生させるための回路である。発振回路162は、通常、水晶振動子等を用いて構成されるが、上述した本発明に係る発振器を用いることにより、通信周波数の高周波化、検出感度の向上が可能となる。変調回路163は、キャリアを与えられた情報に従って変調する回路である。駆動回路164は、変調されたキャリアを受けて電力増幅し、アンテナ部2110を駆動する。
【0211】
キャンセル部165は、キャリアのON/OFFに伴い、アンテナ部2110のループアンテナ112によって発生する減衰振動を抑制する機能を有する。キャンセル部165は、ロジック回路166と、キャンセル回路167と、を含む。
【0212】
受信部168は、検波部169と、復調回路170と、を含む。受信部168は、非接触情報媒体2200が送信した信号を復元する。検波部169は、例えば、ループアンテナ112に流れる電流の変化を検出する。検波部169は、例えばRFフィルタを含むことができる。RFフィルタとしては、通常、水晶振動子等を用いるが、上述した本発明に係る周波数フィルタを用いることにより、通信周波数の高周波化、検出感度の向上、小型化が可能となる。復調回路170は、検波部169で検出された変化分を復調する回路である。
【0213】
コントローラ160は、復調した信号から情報を取り出して外部装置に転送する。電源回路172は、外部より電力の供給を受けて適宜電圧変換を行い、各回路に対し必要電力を供給する回路である。なお、内蔵電池を電力源とすることもできる。
【0214】
非接触情報媒体2200は、リーダライタ2000と電磁波(電波)を用いて交信する。非接触情報媒体2200としては、例えば、非接触ICタグ、非接触ICカードなどを挙げることができる。
【0215】
次に、本実施形態のリーダライタ2000を用いた通信システム3000の動作について説明する。リーダライタ2000から非接触情報媒体2200にデータが送られる場合には、図示しない外部装置からのデータは、リーダライタ2000において、コントローラ160で処理されて送信部161に送られる。送信部161では、発振回路162から一定振幅の高周波信号がキャリアとして供給されており、このキャリアが変調回路163により変調されて、変調高周波信号が出力される。変調回路163から出力される変調高周波信号は、駆動回路164を介してアンテナ部2110に供給される。これと同時に、キャンセル部165が、変調高周波信号のOFFタイミングに同期して、所定のパルス信号を生成し、ループアンテナ112における減衰振動の抑制に寄与する。
【0216】
非接触情報媒体2200においては、アンテナ部186を介して、変調高周波信号が受信回路180に供給される。また、変調高周波信号は、電源回路182に供給されて、非接触情報媒体2200の各部に必要な所定の電源電圧が生成される。受信回路180から出力されたデータは、復調されてロジック制御回路184に供給される。ロジック制御回路184は、クロック183の出力に基づいて動作し、供給されるデータを処理して所定のデータをメモリ185に書き込む。
【0217】
非接触情報媒体2200からリーダライタ2000にデータが送られる場合は、リーダライタ2000において、変調回路163からは無変調で一定振幅の高周波信号が出力される。高周波信号は、駆動回路164、アンテナ部2110のループアンテナ112を介して、非接触情報媒体2200に送られる。
【0218】
非接触情報媒体2200においては、メモリ185から読み出されたデータがロジック制御回路184で処理されて、送信回路181に供給される。送信回路181では、データの‘1’、‘0’ビットに応じて、スイッチがON/OFFする。
【0219】
リーダライタ2000においては、送信回路181のスイッチがON/OFFすると、アンテナ部2110のループアンテナ112の負荷が変動する。このため、ループアンテナ112に流れる高周波電流の振幅が変動する。即ち、高周波電流は、非接触情報媒体2200から供給されるデータによって振幅変調される。この高周波電流は、受信部168の検波部169で検出され、復調回路170で復調されてデータが得られる。このデータは、コントローラ160で処理され、外部装置などに送られる。
【0220】
7.3. 本実施形態に係る電子回路および電子機器は、本発明に係る電気機械結合係数の大きな表面弾性波素子を有する。従って、本実施形態によれば、電子回路および電子機器の省電力化を実現することが可能となる。
【0221】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【0222】
例えば、本発明に係る周波数フィルタ、発振器はそれぞれ、UWBシステム、携帯電話機、無線LAN等における広帯域フィルタ、VCOに適用することができる。
【0223】
また、例えば、上記実施形態においては、電子機器として携帯電話機およびリーダライタを用いた通信システムを、電子回路として携帯電話機およびリーダライタ内に設けられる電子回路をその一例として挙げて説明した。しかしながら、本発明はこれらに限定されることなく、種々の移動体通信機器およびその内部に設けられる電子回路に適用することができる。例えば、BS(Broadcast Satellite)放送等を受信するチューナなどの据置状態で使用される通信機器およびその内部に設けられる電子回路、光ケーブル中を伝播する光信号等を用いるHUBなどの電子機器およびその内部に設けられる電子回路にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】第1の実施形態に係るニオブ酸カリウム堆積体を模式的に示す断面図。
【図2】六方晶のサファイア結晶を模式的に示す図。
【図3】バッファ層、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜層およびニオブ酸カリウム層の傾きを模式的に示す図。
【図4】(A)〜(C)は、それぞれ実施例1に係るサファイア基板、バッファ層およびKNbO層のRHHEDパターン。
【図5】実施例1に係るバッファ層の2θ−θスキャンのX線回折図。
【図6】実施例1に係るバッファ層のωスキャンのX線回折図。
【図7】実施例1に係るバッファ層のωスキャンのX線回折図。
【図8】実施例1に係るKNbO層の2θ−θスキャンのX線回折図。
【図9】実施例1に係るKNbO層のωスキャンのX線回折図。
【図10】実施例1に係るKNbO層のωスキャンのX線回折図。
【図11】実施例1に係るサファイア基板のX線回折極点図。
【図12】実施例1に係るバッファ層のX線回折極点図。
【図13】実施例1に係るPZTNおよびKNbOのX線回折極点図。
【図14】実施例1に係る堆積体の表面の顕微鏡写真図。
【図15】第2の実施形態に係るニオブ酸カリウム堆積体を模式的に示す断面図。
【図16】第3の実施形態に係る表面弾性波素子を示す断面図。
【図17】第4の実施形態に係る表面弾性波素子を示す断面図。
【図18】第5の実施形態に係る周波数フィルタを示す斜視図。
【図19】第6の実施形態に係る発振器を示す斜視図。
【図20】第6の実施形態に係る発振器をVCSOに応用した一例を示す概略図。
【図21】第6の実施形態に係る発振器をVCSOに応用した一例を示す概略図。
【図22】PLL回路の基本構成を示すブロック図。
【図23】第7の実施形態に係る電子回路の構成を示すブロック図。
【図24】第7の実施形態に係るリーダライタを用いた通信システムを示す図。
【図25】図24に示す通信システムの概略ブロック図。
【図26】第1の実施形態において用いられる、鉛を含むカルボン酸を示す図。
【図27.A】第1の実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。
【図27.B】第1の実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。
【図27.C】第1の実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。
【図27.D】第1の実施形態において用いられる、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルを示す図。
【図28】第1の実施形態で用いられる前駆体組成物における前駆体の生成反応を示す図。
【図29】第1の実施形態で用いられる前駆体組成物における前駆体の生成反応を示す図。
【符号の説明】
【0225】
11 基板(R面サファイア基板)、12 バッファ層、13 ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜、14 ニオブ酸カリウム層、15 ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛膜、70 入力端子、71 位相比較器、72 低域フィルタ、73 増幅器、74 VCO、80 送話部、81 送信信号処理回路、82 送信ミキサ、83 送信フィルタ、84 送信電力増幅器、85 送受分波器、86 アンテナ部、87 低雑音増幅器、88 受信フィルタ、89 受信ミキサ、90 受信信号処理回路、91 受話部、92 周波数シンセサイザ、93 制御回路、94 入力部、95 表示部、100 ニオブ酸カリウム堆積体、112 ループアンテナ、114 整合回路、140 基体、141 IDT電極、142 IDT電極、143 吸音部、144 吸音部、145 高周波信号源、150 基体、151 IDT電極、152 IDT電極、153 IDT電極、154 高周波信号源、160 コントローラ、161 送信部、162 発振回路、163 変調回路、164 駆動回路、165 キャンセル部、166 ロジック回路、167 キャンセル回路、168 受信部、169 検波部、170 復調回路、172 電源回路、180 受信回路、181 送信回路、182 電源回路、183 クロック、184 ロジック制御回路、185 メモリ、186 アンテナ部、200 表面弾性波素子、250 発振器、300 電子機器、310 電子回路、2000 リーダライタ、2105 本体、2110 アンテナ部、2120 制御インターフェース部、2200 非接触情報媒体、3000 通信システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R面サファイア基板と、
前記R面サファイア基板の上方に形成された、金属酸化物からなるバッファ層と、
前記バッファ層の上方に形成されたニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層と、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層の上方に形成された、ニオブ酸カリウム層またはニオブ酸カリウム固溶体層と、
を含む、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項2】
請求項1において、
前記R面サファイア基板は、R面(1−102)である、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記バッファ層は、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、
前記バッファ層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いている、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項4】
請求項3において、
前記バッファ層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)と成す角が、1度以上15度以下である、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記ニオブ酸カリウム層または前記ニオブ酸カリウム固溶体層は、擬立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、
前記ニオブ酸カリウム層または前記ニオブ酸カリウム固溶体層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いている、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項6】
請求項5において、
前記ニオブ酸カリウム層または前記ニオブ酸カリウム固溶体層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)と成す角が、1度以上15度以下である、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層は、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長しており、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)に対して、[11−20]方向ベクトルを回転軸として傾いている、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項8】
請求項7において、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層の(100)面は、前記R面サファイア基板のR面(1−102)と成す角が、1度以上15度以下である、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記バッファ層は、岩塩構造の金属酸化物である、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項10】
請求項9において、
前記金属酸化物は、酸化マグネシウムである、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかにおいて、
前記ニオブ酸カリウム固溶体層は、K1−xNaNb1−yTa(0<x<1、0<y<1)で表される固溶体である、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかにおいて、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層は、ニオブ、チタンおよびジルコニウムに対して、5モル%以上、30モル%以下のニオブを含む、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれかにおいて、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層は、さらに、0.5モル%以上のシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含む、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかにおいて、
さらに、前記ニオブ酸カリウム層の上に他のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層を有する、ニオブ酸カリウム堆積体。
【請求項15】
R面サファイア基板の上方に、立方晶表示において(100)配向でエピタキシャル成長したバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層の上方に、前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層を形成する工程と、
前記ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層の上方に、ニオブ酸カリウム層またはニオブ酸カリウム固溶体層を形成する工程と、
を含み、
前記前駆体組成物は、ニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛を形成するための前駆体を含み、該前駆体は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムを含み、かつ一部にエステル結合を有する、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項16】
請求項15において、
前記前駆体は、さらに鉛を含む、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項17】
請求項15または16において、
前記前駆体組成物は、前記前駆体が有機溶媒に溶解もしくは分散されている、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項18】
請求項15ないし17のいずれかにおいて、
前記前駆体組成物は、少なくともニオブ、チタンおよびジルコニウムの金属アルコキシドの加水分解・縮合物を含むゾルゲル原料と、ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、有機溶媒とを混合して得られ、
前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルに由来するポリカルボン酸と金属アルコキシドとのエステル化によるエステル結合を有する前駆体を含む、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項19】
請求項18において、
前記ポリカルボン酸または前記ポリカルボン酸エステルは、2価のカルボン酸またはカルボン酸エステルである、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項20】
請求項15ないし19のいずれかにおいて、
前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに金属カルボン酸塩を用いたゾルゲル原料を含む、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項21】
請求項20において、
前記金属カルボン酸塩は、鉛のカルボン酸塩である、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項22】
請求項15ないし21のいずれかにおいて、
前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらに有機金属化合物を含む、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項23】
請求項15ないし22のいずれかにおいて、
前記ゾルゲル原料と、前記ポリカルボン酸またはポリカルボン酸エステルと、前記有機溶媒とを混合する際に、さらにシリコン、あるいはシリコンおよびゲルマニウムを含むゾルゲル原料を用いる、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項24】
請求項15ないし23のいずれかにおいて、
さらに、前記ニオブ酸カリウム層またはニオブ酸カリウム固溶体層の上に、前記前駆体組成物を塗布した後、熱処理することにより、他のニオブ酸チタン酸ジルコン酸鉛層を形成する工程を有する、ニオブ酸カリウム堆積体の製造方法。
【請求項25】
請求項1ないし14のいずれかに記載のニオブ酸カリウム堆積体を有する、表面弾性波素子。
【請求項26】
請求項25に記載の表面弾性波素子を有する、周波数フィルタ。
【請求項27】
請求項25に記載の表面弾性波素子を有する、発振器。
【請求項28】
請求項26に記載の周波数フィルタおよび請求項27に記載の発振器のうちの少なくとも一方を有する、電子回路。
【請求項29】
請求項28に記載の電子回路を有する、電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27.A】
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【図27.B】
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【図27.C】
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【図27.D】
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【図28】
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【図29】
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【図4】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−278870(P2006−278870A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97976(P2005−97976)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】