説明

ニキビ治療剤

【課題】抗アクネ効果に優れ、ニキビ治療に有効なニキビ治療剤を提供する。
【解決手段】シクンシ科のターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica、和名:セイタカミロバラン)、セリ科のブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule、和名:ハクサンサイコ)、ツヅラフジ科のシサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)からなる群から選ばれた一種または二種以上の植物の抽出物を含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニキビ治療効果に優れたニキビ治療剤およびニキビ用皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ニキビは主として思春期に発現する皮膚疾患で、その正式な名称を尋常性座瘡といい、臨床的には“毛嚢脂腺系を中心に毛孔に起こる慢性の炎症性変化”と定義されている。その発症病理はいまだ不明な点が多いが、一般には皮脂分泌過剰、毛嚢角化、毛嚢内細菌が重要な役割を果たしつつ、種々の要因が複雑に絡み合っている皮膚疾患であると考えられている。従って、ニキビ治療の外用薬としては、上記の各要因に対応して、皮脂抑制・吸収成分、角質軟化・剥離成分、抗菌・殺菌成分および抗炎症成分を配合したクリーム、軟膏が一般に多く用いられている。
【0003】
しかし、上記の各種成分を配合した既存のニキビ治療薬には種々の欠点が報告されている。
例えば、皮脂分泌抑制成分である女性ホルモンは、表皮の成長を抑制し、皮脂の分泌を減少させるものであるが、この種のホルモン剤がひきおこす副作用は思春期の男女にとって好ましいものではない。また、角質軟化・剥離成分の代表例である硫黄および二硫化セレン等の硫黄化合物は、上記の女性ホルモンのような副作用はないが、連用することにより皮膚刺激、皮膚のかさつき等を起こすケースが多い。また、皮脂抑制作用を有する塩酸ピリドキシンやシャクヤクエキス、ゴボウエキスといった生薬や、皮脂吸収作用を有するマイカ等は単独でクリームや軟膏等に配合しても十分な皮脂抑制吸収効果はみられず、ニキビ治療の効果は必ずしも十分なものではなかった。さらに、イオウ、ヒノキチオール、感光素201号およびベルベリン等の抗菌・殺菌成分は、皮膚常在菌であるプロピオニバクテリウムアクネス(Propionibacterium acnes )に対して、試験管内では極めて高い抗菌力を発揮しても、実際にクリーム、軟膏に配合してニキビ治療に用いると期待した治療効果を発揮しないものがほとんどである。
【0004】
一方、ターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica、和名:セイタカミロバラン)の抽出物に関しては、抗菌剤として有効であることが見出されており(特許文献1)、またこの植物抽出物を含む老化防止食品が知られている(特許文献2)。
ブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule、和名:ハクサンサイコ)の抽出物に関しては、ヒアルロン酸やコラーゲン等の産生を促進させることや(特許文献3、特許文献4)、コラーゲンゲル収縮促進剤として有用であることが知られている(特許文献5)。
シサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)に関しては、ヒアルロン酸産生促進剤として有用であること(特許文献4)、CO−Xを阻害して炎症性疾患を予防することが知られている(特許文献6)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−136141号公報
【特許文献2】特許第2972807号公報
【特許文献3】国際公開第99/17715号パンフレット
【特許文献4】特開2006−137690号公報
【特許文献5】特開2001−39850号公報
【特許文献6】特表2004−532811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは上記事情に鑑み、種々の植物抽出物について鋭意研究を重ねた結果、特定の植物抽出物が、ニキビ治療の目的が良好に達成され、ニキビ治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シクンシ科のターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica、和名:セイタカミロバラン)、セリ科のブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule、和名:ハクサンサイコ)、ツヅラフジ科のシサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)からなる群から選ばれた一種または二種以上の植物の抽出物を含むことを特徴とするニキビ治療剤である。
【0008】
また本発明は、上記のニキビ治療剤を有効成分として含むことを特徴とするニキビ治療用皮膚外用剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗アクネ効果を奏し、ニキビ治療に有効なニキビ治療剤を提供することができる。
また本発明によれば、上記ニキビ治療剤を外用の基剤に配合することにより、ニキビ治療に有効性を発揮することができるニキビ治療用皮膚外用剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。
本発明のニキビ治療剤は、シクンシ科のターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica、和名:セイタカミロバラン)、セリ科のブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule、和名:ハクサンサイコ)、ツヅラフジ科のシサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)からなる群から選ばれた一種または二種以上の植物の抽出物を含むものである。
【0011】
シクンシ科のターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica、和名:セイタカミロバラン)は、前記したように抗菌作用があることが公知で、また老化防止食品として用いられることが知られている。
ブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule、和名:ハクサンサイコ)は、ヒアルロン酸やコラーゲンに対する産生促進作用があることが知られている。
シサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)は、ヒアルロン酸産生促進作用があることや、CO−Xを阻害して炎症性疾患を予防することが知られている。
【0012】
本発明のニキビ治療剤で用いられる各植物は、上記のようにいずれも外用で用いた報告はあるものの、抗アクネ作用があることについての報告はなく、ニキビ治療に有効であることは今までに知られていなかった。
【0013】
本発明に用いられる植物抽出物は、上記植物の葉、地下茎を含む茎、根、果実、植物全草等を抽出溶媒と共に浸漬または加熱還流した後、濾過し、濃縮して得られる。本発明に用いられる抽出溶媒は、通常抽出に用いられる溶媒であれば何でもよく、特にメタノール、エタノール等の一級アルコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングルコール等の多価アルコール類、含水アルコール類、アセトン、酢酸エチルエステル等の有機溶媒または水を単独あるいは組み合わせて用いることができるが、メタノール、エタノール、1,3−ブチレングリコールアルコール類もしくは含水アルコールが特に好ましい。本発明のニキビ治療剤は上記植物抽出物からなるものであるが、上記植物を単独で用いた植物抽出物であっても、あるいは混合して用いた植物抽出物であっても良い。
【0014】
各植物の好ましい抽出部位としては、ターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica)は果実、ブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule )は根、シサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)は根が好ましい。但し、それぞれの植物は、葉、花、茎、根、果実等の他の部位の抽出物も用いることが出来る。
これらの植物は、自生したものであっても、あるいは栽培された植物であってもよい。
【0015】
なお、本発明のニキビ治療剤は、実質的に上記植物抽出物の一種または二種以上からなる配合原料であるが、他の成分を含んでいてもよい。このニキビ治療剤が基剤中に配合されて、本発明のニキビ治療用皮膚外用剤が提供される。ニキビ治療用皮膚外用剤中における本発明のニキビ治療剤の配合量は、乾燥物換算で0.001〜10質量%が好ましく、さらに好ましくは0.01〜10質量%である。
【0016】
本発明のニキビ治療用皮膚外用剤は、本発明によるニキビ治療剤を皮膚外用剤の基剤に配合して製造される。本発明のニキビ治療用皮膚外用剤は、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤、各種薬剤、キレート剤、pH調製剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0017】
本発明のニキビ治療用皮膚外用剤とは、医薬品、医薬部外品、化粧品等の分野にて、皮膚に適用される組成物を意味する。その剤型は本発明の効果が発揮される限り限定されない。軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤など、従来、皮膚外用剤に用いられる製品であれば、いずれでもよい。
【実施例】
【0018】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。配合量は特記しない限り質量%で示す。
実施例に先立ち、本発明の植物抽出物のアクネ菌阻害効果に関する試験方法とその結果について説明する。
【0019】
A.植物抽出物の調製
本発明の実施例で用いられた植物は全てネパール国内で採取されたものであるが、発明の実施においてはネパール産に限定されるものではない。
【0020】
(1)ターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica )のエタノール抽出物
ターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica )の果実50gを、室温で1週間500mlのエタノールに浸漬し、抽出液をろ過、溶媒を留去し、エタノール抽出物2.1gを得た。
(2)ブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule )のエタノール抽出物
ブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule )の根100gを、室温で1週間1000mlのエタノールに浸漬し、抽出液をろ過、溶媒を留去し、エタノール抽出物4.3gを得た。
(3)シサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)のエタノール抽出物
シサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)の根20gを、室温で1週間200mlのエタノールに浸漬し、抽出液をろ過、溶媒を留去し、エタノール抽出物1.05gを得た。
【0021】
B.抗アクネ効果の測定方法およびその結果
(1)抗アクネ効果の測定方法
抗アクネ効果の測定は、供試菌としてPropionibacterium acnes JCM 6425、Propionibacterium acnes JCM 6473、Propionibacterium acnes ATCC 11827(以上、アクネ菌)、Staphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)、Staphylococcus epidermidis NBRC12993(白色ブドウ球菌)、Escherichia coli NBRC3972(大腸菌)、Pseudomonas aeruginosa NBRC13275(緑膿菌)およびCandida albicans JCM2085(カンジダ菌)を用い、次に示すペーパーディスク法によって行った。
菌液を塗抹した直径90mmの寒天平板培地の中央部に生薬エキス(1質量%のDMSO溶液)を含浸させた直径8mmのペーパーディスクを静置した。37℃で3日間培養後、培地上に発現した発育阻止帯の有無を測定し、抗菌性を評価した。
【0022】
(2)抗アクネ効果の測定結果
ターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica )、ブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule )、シサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)の各抽出物を用いて抗アクネ効果測定を行った。また参考として、従来より抗アクネ効果のあることが知られているオウバクエキスについても測定した。上記(1)における阻止帯の直径(mm)を測定した結果について、阻止帯直径が10mm未満を×、阻止帯直径が10mm以上を○とした。その結果を表1に示す。
表1からわかるように、各植物抽出物に、抗アクネ効果が認められた。したがってこれらの抽出物は、ニキビ治療剤として有効であることが分かる。
【0023】
【表1】

【0024】
以下に種々の剤型の本発明によるニキビ用皮膚外用剤の実施例を示すが、本発明はこの処方例によって何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲によって特定されるものであることはいうまでもない。各処方例の皮膚外用剤は、その具体的な剤型に応じて常法により製造した。
【0025】
処方例1 ローション
(1) リジンベタイン 1.0 質量%
(2) シャクヤクエキス 0.5
(3) アンチパイン 0.05
(4) グリセリン 4.0
(5) ターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica)エタノール抽出物 1.0
(6) 感光素201号 0.001
(7) 1,3−ブチレングリコール 4.0
(8) エタノール 7.0
(9) ポリオキシエチレンオレイルアルコール 0.5
(10)メチルパラベン 0.05
(11)クエン酸 0.01
(12)クエン酸ソーダ 0.1
(13)香料 0.05
(14)精製水 残余
【0026】
処方例2 クリーム
(1) セトステアリルアルコール 3.5 質量%
(2) スクワラン 40.0
(3) ミツロウ 3.0
(4) 還元ラノリン 5.0
(5) エチルパラベン 0.3
(6) ポリオキシエチレン(20)
ソルビタンモノパルミチン酸エステル 2.0
(7) ステアリン酸モノグリセリド 2.0
(8) 香料 0.03
(9) トラネキサム酸ヘキシルアミド 5.0
(10) ブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule)80%エタノール抽出物 2.0
(11)イオウ 0.3
(12)アラントイン 0.05
(13)塩酸アルギニン 0.5
(14)リン酸ピリドキサール 0.1
(15)オルニチンベタイン 0.05
(16)1,3−ブチレングリコール 5.0
(17)グリセリン 5.0
(18)精製水 残余
【0027】
処方例3 乳液
(1) トラネキサム酸塩酸塩 1.0 質量%
(2) ゴボウエキス 1.5
(3) アラニンベタイン 0.05
(4) ステアリン酸 1.5
(5) セチルアルコール 0.5
(6) ミツロウ 2.0
(7) シサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)水抽出物 1.0
(8) オウバクエキス 0.1
(9) メントール 0.01
(10)ポリオキシエチレン(10)モノオレイン酸エステル 1.0
(11)グリセリンモノステアリン酸エステル 1.0
(12)プロピレングリコール 5.0
(13)エタノール 3.0
(14)エチルパラベン 0.3
(15)香料 0.03
(16)精製水 残余
【0028】
処方例4 軟膏
(1) トラネキサム酸n−ヘキシルエステル塩酸塩 1.0 質量%
(2) グリチルリチン酸ピリドキシン 1.0
(3) γ−ブチロベタイン 0.1
(4) ステアリルアルコール 18.0
(5) ターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica)30%エタノール抽出物 1.0
(6) モクロウ 20.0
(7) ポリオキシエチレン(10)モノオレイン酸エステル 0.25
(8) グリセリンモノステアリン酸エステル 0.25
(9) ワセリン 40.0
(10)精製水 残余
【0029】
処方例5 パック
(1) アセタミド 1.0 質量%
(2) トリパルミチン酸ピリドキシン 1.5
(3) フェニルアラニルベタイン 0.1
(4) ポリビニルアルコール 15.0
(5) ポリエチレングリコール 3.0
(6) ブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule)1,3−ブチレングリコール抽出物 2.0
(7) イブプロフェンピコノール 0.01
(8) 亜鉛華 1.0
(9) プロピレングリコール 7.0
(10)エタノール 10.0
(11)メチルパラベン 0.05
(12)香料 0.05
(13)精製水 残余
【0030】
処方例6 固形白粉
(1) タルク 85.4 質量%
(2) ステアリン酸 1.5
(3) ラノリン 5.0
(4) スクワラン 5.0
(5) ソルビタンセスキオレイン酸エステル 2.0
(6) トリエタノールアミン 1.0
(7) シサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)50% 1,3−ブチレングリコール抽出物 0.1
(8) p−アミノメチル安息香酸 1.0
(9) ジカプリル酸ピリドキシン 0.1
(10)グルタミン酸ベタイン 0.1
(11)顔料 適量
(12)香料 適量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクンシ科のターミナリア ベレリカ(Terminalia belerica、和名:セイタカミロバラン)、セリ科のブプレウルム ロンギカウレ(Bupleurum longicaule、和名:ハクサンサイコ)、ツヅラフジ科のシサムペロス パレイラ(Cissampelos pareira)からなる群から選ばれた一種または二種以上の植物の抽出物を含むことを特徴とするニキビ治療剤。
【請求項2】
請求項1に記載のニキビ治療剤を有効成分として含むことを特徴とするニキビ治療用皮膚外用剤。

【公開番号】特開2009−62312(P2009−62312A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231047(P2007−231047)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】