説明

ニッケル水素蓄電池

【課題】C軸積層構成を備えた希土類−Mg−Ni系合金を用いたニッケル水素蓄電池において、吸蔵水素量に依存して水素平衡圧が変動することを可及的に抑制し、電気化学的容量の大きなニッケル水素蓄電池を提供する。
【解決手段】La−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池であって、前記水素吸蔵合金は、複数の結晶相が結晶構造のC軸方向に積層された積層構造を有し、且つ、前記水素吸蔵合金は、3B族元素(Alを除く)、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有してなるニッケル水素蓄電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵合金を負極材料に使用してなるニッケル水素蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金を負極材料に使用したニッケル水素蓄電池は、(a)高容量であること、(b)過充電及び過放電に強いこと、(c)高効率充放電が可能であること、(d)クリーンであることなどの特長を有しており、種々の用途において使用されている。
【0003】
このようなニッケル水素蓄電池の負極材料として、優れたサイクル特性を発揮するCaCu5型結晶構造を有するAB5系希土類−Ni系合金が実用化されている。しかし、該AB5系希土類−Ni系合金を電極材料として用いた場合には、放電容量は約300mAh/gが上限となっており、該合金を用いた放電容量の更なる改善は困難な状況となっている。
【0004】
一方、新たな水素吸蔵合金として希土類−Mg−Ni系合金が注目されており、このような希土類−Mg−Ni系合金を電極材として使用することにより、AB5系合金を上回る放電容量が得られることが報告されている(特許文献1等)。
【特許文献1】特開平11−323469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの研究によれば、このような希土類−Mg−Ni系合金のうち、特に、該合金を構成する結晶相が、結晶構造のC軸方向に積層されてなる構成(以下、単に「C軸積層構成」ともいう)を備えた水素吸蔵合金が、C軸積層構成を有しない希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金よりも、高い放電容量を発揮しうることを見出した。
【0006】
しかるに、このようなC軸積層構成を備えた特殊な希土類−Mg−Ni系合金について更なる研究を行った結果、該合金が水素を放出する圧力(以下、水素平衡圧ともいう)は、該合金中に吸蔵された水素量(以下、吸蔵水素量ともいう)に依存し、該吸蔵水素量が変化するにつれて水素平衡圧も大きく変動するという問題点が見出された。つまり、ニッケル水素蓄電池では利用しうる水素平衡圧の範囲が限られるため、水素平衡圧の変動が大きい水素吸蔵合金を備えたニッケル水素蓄電池では、電極反応に利用できる吸蔵水素量が減少してしまい、放電容量の小さい電池となってしまう。
【0007】
そこで本発明は、C軸積層構成を備えた希土類−Mg−Ni系合金を用いたニッケル水素蓄電池において、吸蔵水素量に依存して水素平衡圧が変動することを可及的に抑制し、電気化学的容量の大きなニッケル水素蓄電池を提供することを一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するべく、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、C軸積層構成を備えた希土類−Mg−Ni系の水素吸蔵合金に対し、3B族元素(Alを除く)、4B族元素又は5B族元素の何れかを添加することにより、吸蔵水素量に依存する水素平衡圧の変動が大幅に低減されるとともに、水素吸蔵容量も高めうることを見出し、本発明を想到するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、La−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池であって、前記水素吸蔵合金は、複数の結晶相が結晶構造のC軸方向に積層された積層構造を有し、且つ、前記水素吸蔵合金は、3B族元素(Alを除く)、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有してなることを特徴とするニッケル水素蓄電池を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、好ましくは、前記3B族元素がインジウムであり、前記4B族元素がスズであり、前記5B族元素がアンチモン及びビスマスの何れか一方又は両方であることを特徴とする前記ニッケル水素蓄電池を提供するものである。
【0011】
尚、La−Mg−Ni系の水素吸蔵合金とは、希土類元素、Mg、およびNiを含み、且つ、Ni原子の数が、希土類元素の数およびMg原子の数の合計の3倍より大きく5倍未満である合金を意味するものであるが、本発明では、3B族元素(Alを除く)、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素を添加するため、Niの一部がこれらの添加元素に置換されたものである。
特に、複数の結晶相が結晶構造のC軸方向に積層された積層構造を有するLa−Mg−Ni系の水素吸蔵合金であって、3B族元素(Alを除く)、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有してなるものは、組成が、下記一般式
R1vR2xR3yR4z
(ここで、R1はYおよび希土類元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素、R2はMg、Ca、Sr、およびBaからなる群より選択される1種又は2種以上の元素、R3はNi、Co、Cu、Mn、Al、Cr、Fe、Zn、V、Nb、Ta、Ti、ZrおよびHfからなる群より選択される1種又は2種以上の元素、R4はAlを除く3B族元素、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素、v、x、yおよびzは、それぞれ15≦v≦19、2≦x≦6、76≦y≦80、0.5≦z≦2.5、およびv+x+y+z=100を満たす数である。)
で表される合金を好適に用いることができる。
【0012】
また、本発明において、原子パーセントとは、存在する原子の全数に対する特定の原子の数の百分率をいう。従って、例えばカルシウムを1原子パーセント含む合金は、合金の原子100個のうちカルシウム原子を1個含むような比率を意味するものである。
【0013】
本発明によれば、複数の結晶相が結晶構造のC軸方向に積層された積層構造を有するLa−Mg−Ni系水素吸蔵合金において、3B族元素(Alを除く)、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有するようにしたことにより、C軸方向に積層された異なる結晶相間における水素占有エネルギーの差が小さくなり、吸蔵水素量の変化による水素平衡圧の変動が抑制された結晶構造になったものと推測される。
吸蔵水素量の変化による水素平衡圧の変動が抑制されると、合金内に吸蔵された水素を有効に利用することが可能となるため、結果として、該合金を用いた電池の電気化学的容量を増大させることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に係るニッケル水素蓄電池によれば、La−Mg−Ni系水素吸蔵合金の優れた特性が発揮されると同時に、従来、該La−Mg−Ni系水素吸蔵合金の欠点であった水素平衡圧の変動が低減され、吸蔵された水素を効率良く使用しうる高効率の電池が提供されることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るニッケル水素蓄電池は、La−Mg−Ni系の水素吸蔵合金粒子を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池であって、複数の結晶相が結晶構造のC軸方向に積層された積層構造を有し、且つ、前記水素吸蔵合金は、3B族元素(Alを除く)、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素(以下、添加元素ともいう)を含有してなることを特徴とする。
【0016】
本発明において、C軸方向に積層される結晶相としては、六方晶Pr5Co19型結晶構造を有する結晶相(以下、単にPr5Co19相ともいう)、菱面体晶Ce5Co19型結晶構造を有する結晶相(以下、単にCe5Co19相ともいう)、六方晶Ce2Ni7型の結晶構造を有する結晶相(以下、単にCe2Ni7相ともいう)、およびGd2Co7型結晶構造を有する結晶相などが挙げられる。
【0017】
ここで、Pr5Co19型結晶構造とは、A24ユニット間に、AB5ユニットが3ユニット挿入された結晶構造であり、Ce5Co19型結晶構造とは、A24ユニット間に、AB5ユニットが3ユニット挿入された結晶構造であり、Ce2Ni7型の結晶構造とは、A24ユニット間に、AB5ユニットが2ユニット挿入された結晶構造であり、Gd2Co7形結晶構造とは、A24ユニット間に、AB5ユニットが2ユニット挿入された結晶構造である。
尚、A24ユニットとは、六方晶MgZn2型結晶構造(C14構造)又は六方晶MgCu2型結晶構造(C15構造)を持つ結晶格子であり、AB5ユニットとは、六方晶CaCu5型結晶構造を持つ結晶格子である。
また、一般に、Aは、希土類元素とMgからなる群より選択される何れかの元素を表し、Bは、遷移金属元素とAlからなる群より選択される何れかの元素を表すものである。
【0018】
また、前記各結晶構造を有する結晶相は、例えば、粉砕した合金粉末についてX線回折測定を行い、得られたX線回折パターンをリートベルト法により解析することによって結晶構造を特定することができる。
【0019】
前記アルミニウム(Al)以外の3B族元素としては、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Ta)が挙げられるが、中でも、インジウム(In)を用いることが好ましい。
インジウム(In)を用いた場合には、他の3B族元素を用いた場合と比較して、吸蔵水素量による水素平衡圧の変動が、より一層有効に抑制されることとなる。
尚、本発明で用いる3B族元素として、アルミニウム以外の元素を挙げているが、アルミニウムが含まれることを排除する意図ではない。アルミニウムは、従来より水素吸蔵合金の構成元素として利用されているが、本発明でも同様に、アルミニウムを含有した水素吸蔵合金を使用することができる。
【0020】
また、前記4B族元素としては、炭素(C)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)が挙げられるが、中でも、スズ(Sn)を用いることが好ましい。
スズ(Sn)を用いた場合には、他の4B族元素を用いた場合と比較して、吸蔵水素量による水素平衡圧の変動が、より一層有効に抑制されることとなる。
【0021】
また、前記5B族元素としては、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)が挙げられるが、中でも、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)を用いることが好ましい。
アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)を用いた場合には、他の5B族元素を用いた場合と比較して、吸蔵水素量による水素平衡圧の変動が、より一層有効に抑制されることとなる。
【0022】
これら添加元素の添加量は、前記一般式において、R4の含有割合を意味するzとしても述べたように、0.5原子%以上2.5原子%以下であることが好ましく、0.7原子%以上2.1原子%以下とすることがより好ましい。
添加量を0.5原子%以上とすることによって、該添加元素による水素平衡圧の変動抑制作用がより一層発揮されやすくなり、また、2.5原子%以下とすることによって、CaCu5型結晶構造相の生成量を減らし、放電容量を高めることができる。
【0023】
また、前記添加元素を合金中に固溶させやすくするという観点から、Mgの添加量は6.0原子%以下とすることが好ましく、2.5原子%以上4.2原子%以下とすることがより好ましい。
【0024】
さらに、本発明で用いられるLa−Mg−Ni系の水素吸蔵合金は、好ましくは0.67以上0.82以下の電子濃度、より好ましくは0.72以上0.80以下、さらに好ましくは0.72以上0.76以下の電子濃度となるように、元素が配合されたものとしうる。
電子濃度が上記範囲であれば、Mgや上記添加元素の偏析が抑制され、積層構造を構成する格子が安定して生成され、放電容量が増大するという効果がある。
【0025】
尚、電子濃度とは、結晶格子に含まれる原子の価電子数の平均値を意味し、各原子の価電子数としては、次の値を用いて求められるものである。即ち、Yおよび希土類元素=3、Mg、Ca、SrおよびBa=2、Ni,Co,Mn,Fe=0、Cu=1、Zn=2、Cr=6、V,Nb,Ta=5、Ti,Zr,Hf=4、3B族元素=3、4B族元素=4、5B族元素=5である。
【0026】
本発明で用いられるLa−Mg−Ni系の水素吸蔵合金は、希土類元素、Mg、Ni及び前記添加元素を含み、且つ、Ni原子及び添加元素の合計数が、希土類元素の数およびMg原子の数の合計の3倍より大きく5倍未満である合金を意味するものである。
【0027】
該合金の組成は、下記一般式
R1vR2xR3yR4z
で表される合金が好適である。
ここで、上記一般式中、R1は、Yおよび希土類元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素であり、好ましくは、La、Ce、Pr、Nd、SmおよびYからなる群より選択される1種又は2種以上の元素である。
R2は、Mg、Ca、Sr、およびBaからなる群より選択される1種又は2種以上の元素、好ましくは、Mg又はCaの少なくとも何れか1つの元素である。
R3は、Ni、Co、Cu、Mn、Al、Cr、Fe、Zn、V、Nb、Ta、Ti、ZrおよびHfからなる群より選択される1種又は2種以上の元素、好ましくは、Ni、CoおよびAlからなる群より選択される1種又は2種以上の元素である。
R4は、Alを除く3B族元素、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素、好ましくは、In、Sn、Sb及びBiからなる群より選択される1種又は2種以上の元素である。
【0028】
また、v、x、yおよびzは、v+x+y+z=100を満たす数であり、
vは、15.0≦v≦19.0を満たし、好ましくは16.7≦v≦18.6を満たす数であり、xは、2.0≦x≦6.0を満たし、好ましくは2.5≦x≦4.2を満たす数であり、yは、76.0≦y≦80.0を満たし、好ましくは76.0≦y≦79.3を満たす数であり、zは、0.5≦z≦2.5を満たし、好ましくは0.7≦z≦2.1を満たす数である。
【0029】
特に、本発明においては、前記組成において3.3≦(y+z)/(v+x)≦3.9を満たす合金をより好適に用いることができる。斯かる組成の合金を用いることにより、常温常圧付近で可逆的に水素を吸蔵放出することができ、高い水素吸蔵容量を示すという効果がある。さらに、3.58≦(y+z)/(v+x)≦3.82とすることがより好ましく、係る組成の合金を用いることにより、上記効果がより一層顕著となる。
【0030】
次に、本発明に係るニッケル水素蓄電池の製造方法について説明する。
まず、一実施形態としての水素吸蔵合金の製造方法は、上述のような所定の組成比となるように配合された合金原料を溶融する溶融工程と、溶融した合金原料を1000K/秒以上の冷却速度で急冷凝固する冷却工程と、冷却された合金を加圧状態の不活性ガス雰囲気下で860℃以上1000℃以下の温度範囲で焼鈍する焼鈍工程とを備えるものである。
【0031】
より具体的に説明すると、まず、目的とする水素吸蔵合金の化学組成に基づいて、原料インゴッド(合金原料)を所定量秤量する。
溶融工程においては、前記合金原料をルツボに入れ、不活性ガス雰囲気中又は真空中で高周波溶融炉を用い、例えば、1200℃以上1600℃以下に加熱して合金原料を溶融させる。
【0032】
冷却工程においては、溶融した合金原料を冷却して固化させる。冷却速度は、1000K/秒以上(急冷ともいう)が好ましい。1000K/秒以上で急冷することにより、合金組成が微細化し、均質化するという効果がある。また、該冷却速度は、1000000K/秒以下の範囲に設定することができる。
【0033】
該冷却方法としては、具体的には、冷却速度が100000K/秒以上であるメルトスピニング法、冷却速度が10000K/秒程度であるガスアトマイズ法などを好適に用いることができる。
【0034】
焼鈍工程においては、不活性ガス雰囲気下の加圧状態において、例えば、電気炉等を用いて860℃以上1000℃以下に加熱する。加圧条件としては、0.2MPa(ゲージ圧)以上1.0MPa(ゲージ圧)以下が好ましい。また、該焼鈍工程における処理時間は、3時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0035】
このようにして得られた水素吸蔵合金は、複数の結晶相が結晶構造のC軸方向に積層された積層構造を有する傾向にあり、特に、上記のような合金原料を用いることにより、前記水素吸蔵合金は、3B族元素(Alを除く)、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有するものとなる。
【0036】
本発明に係る水素吸蔵合金電極は、例えば上述のようにして作製した水素吸蔵合金を水素吸蔵媒体として備えたものである。水素吸蔵合金を水素吸蔵媒体として電極に使用する際には、該水素吸蔵合金を粉砕して使用することが好ましい。
電極製作時の水素吸蔵合金の粉砕は、焼鈍の前後のどちらで行ってもよいが、粉砕により表面積が大きくなるため、合金の表面酸化を防止する観点から、焼鈍後に粉砕するのが望ましい。粉砕は、合金表面の酸化防止のために不活性雰囲気中で行うことが好ましい。
前記粉砕には、例えば、機械粉砕、水素化粉砕などが用いられる。
【0037】
水素吸蔵合金電極は、上述のようにして得られた水素吸蔵合金粉末を樹脂組成物やゴム組成物などの結着剤と混合し、所定形状に加圧成形することにより作製することができる。そして、該水素吸蔵合金電極を負極とし、別途作製した水酸化ニッケル製電極等を正極とし、電解液として水酸化カリウム水溶液等を充填することにより、本発明に係るニッケル水素蓄電池を作製することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
La−Mg−Ni系水素吸蔵合金の作製
化学組成がLa13.8Pr4.2Mg2.9Ni70.8Al3.1In1.0となるように原料インゴットを所定量秤量してルツボに入れ、減圧アルゴンガス雰囲気下で高周波溶融炉を用いて1500℃に加熱し、材料を溶融した。溶融後、メルトスピニング法を適用して急冷し、合金を固化させた。
次に、得られた合金を0.2MPa(ゲージ圧、以下同じ)に加圧されたアルゴンガス雰囲気下で、910℃にて熱処理を行った後、得られた水素吸蔵合金を粉砕して平均粒径(D50)が20μmの水素吸蔵合金粉末とした。
【0040】
結晶構造の測定及び存在割合の算出
得られた水素吸蔵合金粉末をX線回折装置(BrukerAXS社製、品番M06XCE)を用いて、40kV、100mA(Cu管球)の条件下で測定を行った。さらに、構造解析として、リートベルト法(解析ソフト:RIETAN2000)による解析を行い、C軸積層体であるか否かの確認を行った。
【0041】
ニッケル水素蓄電池(開放形セル)による電気化学的容量の測定
1)電極の作製
前記水素吸蔵合金粉末を負極に用いることによって開放形のニッケル水素蓄電池を製作した。具体的には、上記のようにして得られた水素吸蔵合金粉末100重量部に、ニッケル粉末(INCO社製、#210)3重量部を加えて混合した後、増粘剤(メチルセルロース)を溶解した水溶液を加え、さらに、結着剤(スチレンブタジエンゴム)を1.5重量部加えてペースト状にしたものを厚み45μmのニッケルめっきした穿孔鋼板(開口率60%)の両面に塗布して乾燥させた後、厚さ0.36mmにプレスし、負極とした。一方、正極としては、容量過剰のシンター式水酸化ニッケル電極を用いた。
【0042】
2)開放形電池の作製
上述のようにして作製した電極をセパレータを介して正極で挟み込み、これらの電極に1kgf/cm2の圧力がかかるようにボルトで固定し、開放形セルに組み立てた。電解液としては、6.8mol/LのKOH溶液および0.8mol/LのLiOH溶液からなる混合液を使用した。
【0043】
3−1)水素平衡圧の測定
作製した開放形電池について、P(平衡水素圧)−C(水素濃度)−T(温度)曲線を測定することにより、水素平衡圧を求めた。具体的には、容量法或いはジーベルツ法と呼ばれる手法により、一定温度の状態で試料にかかる水素ガス圧力を変化させ、平衡圧力を測ると共に、ガスの体積と圧力変化から反応した水素量を測る手法で行った。該測定法は、JIS H7201(1991)「水素吸蔵合金の圧力−組成等温線(PCT曲線)の測定方法」に規定されたものである。尚、実際の測定に際しては、鈴木商館製のPCT装置(自動ジーベルツ装置)を用い、80℃にて圧力−組成等温線図(PCT曲線)を測定した。測定結果を表1に示す。
【0044】
3−2)水素平衡圧による評価
吸蔵水素量がH/M(合金金属1原子当りに吸蔵される水素原子数)=0.1の場合の水素平衡圧(MPa)をPeq1とし、H/M=0.8の場合の水素平衡圧をPeq2とし、吸蔵素量がH/M=0.1〜H/M=0.8まで変化する際の水素平衡圧の変化量、即ち、水素平衡圧の傾きをlog(Peq2/Peq1)として算出した。算出結果を表1に示す。
【0045】
4)電気化学的容量の測定
作製した開放形電池を20℃の水槽中に入れ、0.1ItAで150%の充電と、0.2ItAで終止電圧が0.6V(対Hg/HgO)となる放電とを、10サイクル繰り返した。そして、最大となる放電容量を電気化学的容量 [mAh/g]とした。測定結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2〜16および比較例1〜20)
下記表1に示すような原料組成の水素吸蔵合金粒子、具体的には、C軸積層構造を有するLa−Mg−Ni系水素吸蔵合金と、C軸積層構造を有さないLa−Mg−Ni系水素吸蔵合金と、AB5系水素吸蔵合金とをそれぞれ作成し、実施例1と同様にしてニッケル水素蓄電池の水素平衡圧と電気化学的容量とを測定した。得られた結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
また、各水素吸蔵合金について、R4元素の添加量と電気化学的容量との関係をグラフ上にプロットした。該グラフを図1に示す。
【0049】
表1及び図1に示すように、C軸積層構造を有するLa−Mg−Ni系水素吸蔵合金においては、前記R4元素を添加して合金を作製することにより、該合金を用いたニッケル水素蓄電池の電気化学的容量を増大させうる傾向を有することが認められる。これは、C軸積層構造を有するLa−Mg−Ni系水素吸蔵合金において、吸蔵水素量に対して水素平衡圧が変化し難くなったことによるものと考えられる。
【0050】
より具体的には、前記表1によると、吸蔵水素量の変動に対する水素平衡圧の変化の度合いを示すlog(Peq2/Peq1)の値が1未満である場合に、ニッケル水素蓄電池の電気化学的容量が大きな値となっていることが認められる。
これは、吸蔵水素量の変動に伴う水素平衡圧の変化の度合いがlog(Peq2/Peq1)<1である場合に、電気化学的容量の増大が顕著であることを意味するものである。
さらに、前記表1によると、Peq1の値が0.03以上である場合に、ニッケル水素蓄電池の電気化学的容量が大きな値となっていることが認められる。この現象は、Peq1を0.03MPa以上とすることで電気化学的に利用可能な圧力範囲が広がったことに起因するものである。このように、本発明においては、吸蔵水素量の変動に伴う水素平衡圧の変化の度合いを抑制することに加えて、Peq1の値を0.03以上とすることにより、電気化学的容量をさらに増大させることができる。
尚、上述のように、水素平衡圧の変動の度合いをlog(Peq2/Peq1)<1とし、且つPeq1≧0.03とした場合は、従来と比べ、充放電反応の期間を通して水素平衡圧が高い状態に維持されるので、従来よりも高効率な放電性能が発揮されることとなる。
【0051】
ここで、C軸積層構造を有するLa−Mg−Ni系水素吸蔵合金にSbを添加した実施例3と、同じくBiを添加した実施例4と、同じく何も添加しない比較例1について、吸蔵水素量に対する水素平衡圧の変化を測定した。結果を図2に示す。
【0052】
図2に示すように、何も添加しない比較例1に対し、前記R4元素であるSbやBiを添加した実施例では、水素平衡圧の傾斜が小さくなっており、吸蔵水素量の変動に対して水素平衡圧が変化し難くなっていることが認められる。
また、H/M=0.1における実施例の水素平衡圧が、比較例の水素平衡圧よりも大きな値となっていることも認められる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】R4元素の添加量と電気化学的容量との関係をプロットしたグラフ。
【図2】C軸積層構造を有するLa−Mg−Ni系水素吸蔵合金にSbを添加した実施例3と、同じくBiを添加した実施例4と、同じく何も添加しない比較例1について、吸蔵水素量に対する水素平衡圧の測定結果を示したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
La−Mg−Ni系の水素吸蔵合金を含む負極を備えたニッケル水素蓄電池であって、前記水素吸蔵合金は、複数の結晶相が結晶構造のC軸方向に積層された積層構造を有し、且つ、前記水素吸蔵合金は、3B族元素(Alを除く)、4B族元素および5B族元素からなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有してなることを特徴とするニッケル水素蓄電池。
【請求項2】
前記3B族元素がインジウムであり、前記4B族元素がスズであり、前記5B族元素がアンチモン及びビスマスの何れか一方又は両方であることを特徴とする請求項1記載のニッケル水素蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−163986(P2009−163986A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−619(P2008−619)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】