説明

ニッケル(0)−燐配位子錯体の製造方法

少なくとも1個のニッケル(0)中心原子、及び少なくとも1個の燐配位子を含むニッケル(0)−燐配位子を製造するための方法が記載されている。この方法は、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル又はこれらの混合物を含むニッケル(II)供給源を、少なくとも1種の燐配位子の存在下に還元させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル(0)−燐配位子錯体を製造するための方法に関する。更に、本発明は、ニッケル(0)−燐配位子錯体を含み、そしてこの方法によって得ることができる混合物を提供するものであり、そしてこれらを、アルケンのヒドロシアン化又は不飽和ニトリルの異性化に使用する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
燐配位子のニッケル錯体は、アルケンのヒドロシアン化のために適当な触媒である。例えば、ブタジエンをヒドロシアン化して異性体のペンテンニトリルの混合物を製造するのに触媒作用を及ぼす、一座のホスファイトを有するニッケル錯体は公知である。これらの触媒は、次の、分岐2−メチル−3−ブテンニトリルの直鎖3−ペンテンニトリルへの異性化、及び3−ペンテンニトリルの、ナイロン−6,6の製造における重要な中間物であるアジポニトリルへのヒドロシアネート化にも適当である。
【0003】
特許文献1(US3903120)は、ニッケル粉末から出発して、一座のホスファイト配位子を有するゼロ価のニッケル錯体を製造する方法を記載している。この燐配位子は、一般式PZ3(但し、Zがアルキル、アルコキシ、又はアリールオキシ基である。)を有している。この方法においては、微細粒子の元素状態のニッケルが使用される。これに加え、ニトリル溶媒の存在下、及び過剰の配位子の存在下に反応を行なうことが好ましいとされている。
【0004】
特許文献2(US3846461)は、ニッケルよりも電気的に陽性である微細粒子の還元剤の存在下に、トリ有機ホスファイト化合物をニッケルクロリドと反応させることにより、トリ有機ホスファイト配位子を有するゼロ価のニッケル錯体を製造する方法を記載している。特許文献3(US3846461)に従う反応は、NH3、NH4X、Zn(NH322及びNH4Xの混合物、及びZnX2(但し、Xがハロゲン化物である。)から成る群から選ばれる助触媒の存在下に起こる。
【0005】
新しい開発の成果により、キレート配位子(多座の配位子)を有するニッケル錯体の使用により、高い活性と高い選択性の両方を操業時間を増加させることにより得ることができるので、これらの錯体は、アルケンのヒドロシアン化に使用することが有利であることが分かっている。上述した従来技術の方法は、キレート配位子を有するニッケル錯体の製造には適当ではない。しかしながら、従来技術は、キレート配位子を有するニッケル錯体の製造を可能にする方法も開示している。
【0006】
特許文献4(US5523453)は、二座の燐配位子を含むニッケル含有ヒドロシアン化触媒を製造する方法を記載している。これら錯体は、キレート配位子と錯化(transcomplexing)することにより、溶解性ニッケル(0)錯体から出発して製造される。使用した出発化合物は、Ni(COD)2、又は(oTTP)2Ni(C24)(COD=1,5−シクロオクタジエン;oTTP=P(O−オルト−C64CH33)である。開始ニッケル化合物の複雑な製造の結果、この方法は費用のかかるものになる。
【0007】
あるいは、二座のニッケル化合物とキレート配位子から出発し、還元によってニッケル(0)錯体を製造することができる可能性がある。この方法では、通常、高い温度で作業する必要があり、錯体中の熱的に不安定な配位子が、場合により分解する。
【0008】
特許文献5(US2003/010042A1)は、ニッケル(0)キレート錯体を製造するための方法を記載しているが、この記載中では、ニッケルよりも電気的に陽性である金属、特に亜鉛、又は鉄を使用してニッケルクロリドが、キレート配位子とニトリル性溶媒の存在下に還元されている。高い空−時収率(space-time yield)を達成するために、過剰のニッケルが使用されるが、過剰のニッケルは、錯化の後、再度除去しなければならない。この方法は、通常、水性のニッケルクロリドが使用されるが、特に、加水分解可能な配位子が使用された場合にその分解が起こり得るものである。操作が、無水のニッケルクロリドと共に行なわれた場合、特に加水分解可能な配位子が使用された場合、特許文献6(US2003/0100442A1)によれば、本質的に、ニッケルクロリドが、最初に所定の方法で乾燥され、この方法で、大きな表面積を有する小さな粒子(微粒子)が得られ、従って高い反応性が得られる。この方法の特に不利な点は、スプレー乾燥によって製造されるこの微細なニッケルクロリド粉末は、発癌性であるということにある。この方法の更なる不利な点は、通常、操作が、配位子の分解、又は錯体の分解が起こり得る、高い反応温度で行なわれることであり、特に配位子が熱的に不安定な場合に、これら分解が起こり得る。更なる不利な点は、この操作は、経済的に実現可能な転化を達成するために、過剰の試薬を使用しなければならないということにある。これら過剰物は、反応の完了時に、費用のかかる不便な方法で除去しなければならならず、そして任意にリサイクルされる。
【0009】
特許文献7(GB1000477)及び特許文献8(BE621207)は、燐配位子を使用してニッケル(II)化合物を還元することにより、ニッケル(0)錯体を製造するための方法に関するものである。
【0010】
特許文献9(US4385007)は、ジニトリルの製造のために、助触媒としての有機ボランと組合せて触媒として使用される、ニッケル(0)錯体を製造するための方法を記載している。この方法では、触媒と助触媒が触媒活性な組成から得られるが、この触媒活性な組成は、ペンテンニトリルのヒドロシアン化によるアジポニトリルの製造に既に使用されたものである。
【0011】
特許文献10(US3859327)は、ペンテンニトリルのヒドロシアン化ために、助触媒としての塩化亜鉛と組合わせて、触媒として使用されるニッケル(0)錯体を製造する方法を記載している。この方法では、ヒドロシアン化反応から生じるニッケル供給源が使用されている。
【0012】
【特許文献1】US3903120
【特許文献2】US3846461
【特許文献3】US3846461
【特許文献4】US5523453
【特許文献5】US2003/010042A1
【特許文献6】US2003/0100442A1
【特許文献7】GB1000477
【特許文献8】BE621207
【特許文献9】US4385007
【特許文献10】US3859327
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、実質的に上述した従来技術の不利な点を回避する、燐配位子を有するニッケル(0)錯体を製造するための方法を提供することにある。特に、錯化の間、加水分解可能な配位子が分解しないように、無水のニッケル供給源が使用されるべきである。これに加え、熱的に不安定な配位子及び結果物である錯体が分解しないように、反応条件は、穏やか(gentle)であるべきである。これに加え、本発明に従う方法は、好ましくは、仮に可能であっても錯体が製造された後にこれら物質を除去しなくても良いように、過剰な量の試薬(reagent)がないか、又は僅かなもののみで使用可能とするべきである。この方法は、キレート配位子を有するニッケル(0)−燐配位子錯体の製造にも適当であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者は、この目的は、少なくとも1個のニッケル(0)中心原子及び少なくとも1個の燐配位子を含むニッケル(0)−燐配位子錯体を製造するための方法によって達成されることを見出した。
【0015】
本発明に従う方法では、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、又はこれらの混合物を含むニッケル(II)供給源が、少なくとも1種の燐配位子の存在下に還元される。
【0016】
本発明によれば、ニッケルクロリドとは対照的に、ニッケルハロゲン化物、臭化ニッケル、及びヨウ化ニッケルを、US2003/0100442A1に記載されているスプレー乾燥を使用することなく、ニッケル(0)錯体を製造する錯化反応に使用して良いことがわかった。本発明に従って使用されるニッケル供給源の反応性は、結晶の大きさに関係なく達成されるので、このことは、ニッケルクロリドのために必要なような、高価な(複雑な)乾燥工程を余分なものとする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の特定の実施の形態では、本発明に従う方法は、このように、特別な乾燥を事前に使用することなく、特にニッケル(II)供給源のスプレー乾燥を事前に使用することなく行なわれる。
【0018】
本発明に従う方法では、臭化ニッケル、及びヨウ化ニッケルが、無水物(anhydrate)又は水化物としてそれぞれ使用されて良い。本発明において、臭化ニッケル又はヨウ化ニッケルの水化物は、二又は六水化物又は水溶液と理解される。配位子が実質的に加水分解することを避けるために、臭化ニッケル又はヨウ化ニッケルの無水物を使用することが好ましい。
【0019】
本発明に従う方法は、溶媒の存在下に行なわれることが好ましい。溶媒は、特に、有機ニトリル、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、及び上記溶媒の混合物から選ばれる。有機ニトリルに関し、アセトニトリル、プロピオニトリル、n−ブチルニトリル、n−バレロニトリル、シアノシクロプロパン、アクリロニトリル、クロトニトリル、アリルシアナイド、シス−2−ペンテンニトリル、トランス−2−ペンテンニトリル、シス−3−ペンテンニトリル、トランス−3−ペンテンニトリル、4−ペンテンニトリル、2−メチル−3−ブテンニトリル、Z−2−メチル−2−ブテンニトリル、E−2−メチル−2−ブテンニトリル、エチルスシノニトリル、アジポニトリル、メチルグルタロニトリル又はこれらの混合物が好ましい。芳香族炭化水素に関し、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン又はこれらの混合物を使用することが好ましい。脂肪族炭化水素は、直鎖又は分岐脂肪族炭化水素の群から選ばれることが好ましく、シクロヘキサン、又はメチルシクロヘキサン、又はこれらの混合物等のシクロ脂肪族の群から選ばれることがより好ましい。溶媒として、シス−3−ペンテンニトリル、トランス−3−ペンテンニトリル、アジポニトリル、メチルグルタロニトリル、又はこれらの混合物が特に好ましい。
【0020】
不活性溶媒を使用することが好ましい。
【0021】
溶媒の濃度は、それぞれ完了した反応混合物に対して、好ましくは、10〜90質量%(% by mass)、より好ましくは20〜70質量%、特に30〜60質量%である。
【0022】
配位子
本発明に従う方法において、燐配位子が使用されるが、燐配位子は、一座又は二座のホスフィン(phosphine)、ホスファイト(phosphite)、ホスフィナイト(phosphinite)、及びホスホナイト(phosphonite)からなる群から選ばれることが好ましい。
【0023】
これら燐配位子は、式(I)、
【0024】
【化1】

を有していることが好ましい。本発明において、化合物Iは、単一の化合物又は上述した式の異なる化合物の混合物である。
【0025】
本発明によれば、X1、X2、X3、それぞれが独立して、酸素又は単結合である。X1、X2、及びX3基の全てが単結合の場合、化合物Iは、式P(R123)(但し、R1、R2、及びR3の定義は後述する。)のホスフィンである。
【0026】
1、X2及びX3基の内の2個が単結合で、そして1個が酸素の場合、化合物Iは式P(OR1)(R2)(R3)、又はP(R1)(OR2)(R3)、又はP(R1)(R2)(OR3)(但し、R1、R2、及びR3の定義は後述する。)のホスフィナイトである。
【0027】
1、X2及びX3基の内の1個が単結合で、そして2個が酸素の場合、化合物Iは、式P(OR1)(OR2)(R3)、又はP(R1)(OR2)(OR3)、又はP(OR1)(R2)(OR3)(但し、R1、R2、及びR3の定義は後述する。)のホスホナイトである。
【0028】
好ましい実施の形態では、X1、X2及びX3基の全てが酸素であるべきであり、このため、化合物Iは、式(OR1)(OR2)(OR3)(但し、R1、R2、及びR3の定義は後述する。)のホスファイトであることが有利である。
【0029】
本発明によれば、R1、R2、R3は、それぞれ独立して同一又は異なる有機基である。R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル等の好ましくは1〜10個の炭素原子を有するアルキル基、フェニル、o−トリル、m−トリル、p−トリル、1−ナフチル、2−ナフチル等のアリール基、又は1,1’−ビフェノール、1,1’−ビナフトール等の、好ましくは1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビルである。R1、R2、及びR3基は、直接的に一緒に結合していても良く、すなわち、中心の燐原子を介して単独で結合していないもので良い。R1、R2、及びR3基が、一緒に直接的に結合していないことが好ましい。
【0030】
好ましい実施の形態では、R1、R2、及びR3基は、フェニル、o−トリル、m−トリル、及びp−トリルからなる群から選ばれる基である。特に好ましい実施の形態では、R1、R2、及びR3基の内の最大2個が、フェニル基であるべきである。
【0031】
他の好ましい実施の形態では、R1、R2、及びR3基はo−トリル基であるべきである。
【0032】
使用して良い、特に好ましい化合物Iは、式Ia、
【0033】
【化2】

【0034】
(但し、w、x、y、zが、それぞれ自然数であり、及び以下の条件が適用される:w+x+y+z=3、及びw、z<2。)の化合物である。
【0035】
このような化合物Iaは、例えば、(p−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(m−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(o−トリル−O−)(フェニル−O−)2P、(p−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)2(フェニル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(フェニル−O−)P、(p−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(o−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)3P、(o−トリル−O−)(m−トリル−O−)2P(o−トリル−O−)2(m−トリル−O−)P、又はこのような化合物の混合物である。
【0036】
(m−トリル−O−)3P、(m−トリル−O−)2(p−トリル−O−)P、(m−トリル−O−)(p−トリル−O−)2P、及び(p−トリル−O−)3Pを含む混合物は、例えば、原油の蒸留かす(distillative workup)として得られたm−クレゾール及びp−クレゾールの混合物(特にモル比が2:1のもの)と、燐トリクロリド等の燐トリハロゲン化物とを反応させることにより得られる。
【0037】
同様に、他の好ましい実施の形態では、燐配位子は、DE−A19953058に詳細に記載されている式Ib:
【0038】
【化3】

【0039】
(但し、
1:燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に、C1−C18−アルキル置換基を有する芳香族基、又は燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に、芳香族置換基を有する芳香族基、又は燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に、融解芳香族置換基(fused aromatic system)を有する芳香族基、
2:燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してm−位に、C1−C18−アルキル置換基を有する芳香族基、又は燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してm−位に、芳香族置換基を有する芳香族基、又は燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してm−位に、融解芳香族置換基(fused aromatic system)を有する芳香族基で、芳香族基は、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に水素原子を帯びている、
3:燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してp−位に、C1−C18−アルキル置換基を有する芳香族基、又は燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してp−位に、芳香族置換基を有する芳香族基で、芳香族基は、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に水素原子を帯びている、
4:R1、R2及びR3以外の置換基を、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−、m−及びp−位に帯びている芳香族基で、芳香族基は、燐原子を芳香族系に結合させる酸素原子に対してo−位に水素原子を帯びている、
x:1又は2
y、z、p:それぞれが独立して0、1又は2(但し、x+y+z=3である。)
である。)のホスファイトである。
【0040】
式Ibの好ましいホスファイトは、DE−A19953058から得ることができる。R1基は、o−トリル、o−エチルフェニル、o−n−プロピルフェニル、o−イソプロピルフェニル、o−n−ブチルフェニル、o−sec−ブチルルフェニル、o−tert−ブチルルフェニル、(o−フェニル)フェニル又は1−ナフチル基が有利である。
【0041】
好ましいR2基は、m−トリル、m−エチルフェニル、m−n−プロピルフェニル、m−イソプロピルフェニル、m−n−ブチルフェニル、m−sec−ブチルフェニル、m−tert−ブチルフェニル、(m−フェニル)フェニル又は2−ナフチル基である。
【0042】
有利なR3基は、p−トリル、p−エチルフェニル、p−n−プロピルフェニル、p−イソプロピルフェニル、p−n−ブチルフェニル、p−sec−ブチルフェニル、p−tert−ブチルフェニル又は(p−フェニル)フェニル基である。
【0043】
4基は、フェニルが好ましい。pはゼロが好ましい。化合物Ib中の指数x、y、z及びpに関し、以下のものが可能である。
【0044】
【表1】

【0045】
式Ibの好ましいホスファイトは、pがゼロであり、及びR1、R2及びR3がそれぞれ独立して、o−イソプロピルフェニル、m−トリル及びp−トリルであり、及びR4がフェニルであるものである。
【0046】
式Ibの好ましいホスファイトは、R1がo−イソプロピルフェニル基、R2がm−トリル基、及びR3がp−トリル基で、上述した表に記載した指数を有するものであり、また、R1がo−トリル基、R2がm−トリル基、及びR3がp−トリル基で、上述した表に記載した指数を有するものであり、追加的に、R1が1−ナフチル基、R2がm−トリル基、及びR3がp−トリル基で、上述した表に記載した指数を有するものであり、及び、R1がo−トリル基、R2が2−ナフチル基、及びR3がp−トリル基で、上述した表に記載した指数を有するものでもあり、そして、最後に、R1がo−イソpロピルフェニル基、R2が2−ナフチル基、及びR3がp−トリル基で、上述した表に記載した指数を有するものであり、及びこれらホスファイトの混合物でもある。
【0047】
式Ibのホスファイトは、
a)燐トリハロゲン化物とR1OH、R2OH、R3OH及びR4OH又はこれらの混合物からなる群から選ばれるアルコールとを反応させ、ジハロホスホラスモノエステルを得、
b)上記ジハロホスホラスモノエステルとR1OH、R2OH、R3OH及びR4OH又はこれらの混合物からなる群から選ばれるアルコールとを反応させ、ジハロホスホラスジエステルを得、及び
c)上記ジハロホスホラスジエステルとR1OH、R2OH、R3OH及びR4OH又はこれらの混合物からなる群から選ばれるアルコールとを反応させ、式Ibのホスファイトを得る、
ことによって得ても良い。
【0048】
反応は、別々になった3工程で行なってよい。同様に、3工程の内の2工程を結合しても良い、すなわち、a)とb)、又はb)とc)を結合しても良い。この代わりに、全工程a)、b)及びc)を一緒に結合しても良い。
【0049】
1OH、R2OH、R3OH及びR4OH又はこれらの混合物からなる群から選ばれるアルコールの適当なパラメーターと量は、いくつかの簡単な予備実験によって容易に決定され得る。
【0050】
有用な燐トリハロゲン化物は、原則として全ての燐トリハロゲン化物であり、好ましくは、使用されるハロゲン化物がCl、Br、I、特にCl及びこれらの混合物のものである。種々の同一又は異なる(燐トリハロゲン化物としての)ハロゲン−置換したホスフィンの混合物を使用することも可能である。PCl3が特に好ましい。ホスファイトIbの製造における反応条件と後処理(workup)の更なる詳細は、DE−A19953058から得ることができる。
【0051】
ホスファイトIbは、配位子として、異なるホスファイトIbの混合物の状態で使用されても良い。このような混合物は、例えば、ホスファイトIbの製造において得ても良い。
【0052】
しかしながら、多座、特に二座の燐配位子が好ましい。従って、使用される配位子は、好ましくは、式II、
【0053】
【化4】

【0054】
(但し、
11、X12、X13、X21、X22、X23が、それぞれ独立して、酸素又は単結合であり、
11、R12が、それぞれ独立して同一又は異なる、個々の又は橋状結合した有機基であり、
21、R22が、それぞれ独立して同一又は異なる、個々の又は橋状結合した有機基であり、
Yが、橋状結合基である)を有している。
【0055】
本発明において、化合物IIは、単一化合物又は上述した式の異なる化合物の混合物である。
【0056】
好ましい実施の形態では、X11、X12、X13、X21、X22、X23は、それぞれ酸素であって良い。このような場合、橋状結合した基Yは、ホスファイトに結合される。
【0057】
他の好ましい実施の形態では、X11及びX12は、それぞれ酸素であり、及びX13が単結合であり、又はX11及びX13がそれぞれ酸素であり、及びX12が単結合であり、従って、X11、X12及びX13に囲まれた燐原子が、ホスファイトの中心原子である。このような場合、X21、X22及びX23が、それぞれ酸素、又はX21とX22がそれぞれ酸素でX23が単結合で良く、又はX21とX23がそれぞれ酸素でX22が単結合で良く、又はX23が酸素でX21とX22がそれぞれ単結合で良く、又はX21が酸素でX22とX23がそれぞれ単結合で良く、又はX21、X22及びX23が、それぞれ単結合で良く、従って、X21、X22及びX23に囲まれた燐原子が、ホスファイト、ホスホナイト、ホスフィナイト、又はホスフィン、好ましくはホスホナイトの中心原子である。
【0058】
他の好ましい実施の形態では、X13が酸素であり、及びX11とX12がそれぞれ単結合で良く、又は、X11が酸素であり、及びX12とX13がそれぞれ単結合で良く、従って、X11、X12及びX13に囲まれた燐原子が、ホスホナイトの中心原子である。このような場合、X21、X22及びX23がそれぞれ酸素で良く、又はX23が酸素であり、及びX21とX22がそれぞれ単結合で良く、又は、X21が酸素であり、及びX22とX23がそれぞれ単結合で良く、又は、X21、X22及びX23がそれぞれ単結合で良く、従って、X21、X22及びX23に囲まれた燐原子が、ホスファイト、ホスフィナイト、又はホスフィン、好ましくはホスフィナイトの中心原子である。
【0059】
他の好ましい実施の形態では、X11、X12及びX13がそれぞれ単結合で良く、従って、X11、X12及びX13囲まれた燐原子がホスフィンの中心原子である。このような場合、X21、X22及びX23がそれぞれ酸素、又はX21、X22及びX23がそれぞれ単結合で良く、従って、X21、X22及びX23に囲まれた燐原子がホスファイト、又はホスフィン、好ましくはホスフィンの中心原子である。
【0060】
橋状結合した基Yは、例えば、C1−C4−アリール、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、トリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル、フェニル等のアリールによって置換されたアリール基アリール基であることが有利であり、又は好ましくは6個〜20個の炭素原子を芳香族系に有する無置換のアリール基、特にピロカテコール、ビス(フェノール)又はビス(ナフトール)が有利である。
【0061】
11及びR12基は、それぞれ独立して、同一又は異なる有機基であって良い。有利なR11及びR12基は、無置換の又は、単一置換、又は多置換で良い、好ましくは6個〜10個の炭素原子を有するアリール基であり、このアリール基は、無置換又は、特にC1−C4−アリール、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、トリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル、フェニル等のアリール、又は無置換のアリール基によって単一置換、又は多置換されたアリール基である。
【0062】
21及びR22基は、それぞれ独立して、同一又は異なる有機基であって良い。有利なR21及びR22基は、好ましくは6個〜10個の炭素原子を有するアリール基であり、アリール基は、無置換又は、特にC1−C4−アリール、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン、トリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル、フェニル等のアリール、又は無置換のアリール基によって置換されたアリール基である。
【0063】
11及びR12基は、それぞれが分離されて良く、又橋状結合して良い。R21及びR22基も、それぞれが分離されて良く、又橋状結合して良い。R11、R12、R21及びR22基は、それぞれが分離されて良く、2種が橋状結合し、そして2種が分離されて良く、又は4種全てが橋状結合して良く、その方法は上述のものである。
【0064】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5723641に記載された式I、II、III、IV、及びVのものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5512696に記載された式I、II、III、IV、V、VI、及びVIIのものであり、特に、実施例1〜31に使用されている化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5821378に記載された式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV及びXVのものであり、特に実施例1〜73に使用されている化合物である。
【0065】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5512695に記載された式I、II、III、IV、V及びVIのものであり、特に、実施例1〜6に使用された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5981772に記載された式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII及びXIVのものであり、特に実施例1〜66に使用された化合物である。
【0066】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US6127567に記載された化合物であり、及び実施例1〜29に使用された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US6020516に記載された式I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX及びXのものであり、特に実施例1〜33に記載された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5959135に記載された化合物であり、及び実施例1〜13に使用された化合物である。
【0067】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5847191に記載された式I、II及びIIIのものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、US5523453に記載されたものであり、特に同文献に式1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20及び21で説明された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、WO01/14392に記載されたものであり、好ましくは、同文献に式V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII、XIV、XV、XVI、XVII、XXI、XXII、XXIIIで説明された化合物である。
【0068】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、WO98/27054に記載された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、WO99/13983に記載された化合物である。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、WO99/64155に記載された化合物である。
【0069】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10038037に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10046025に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10150285に記載されたものである。
【0070】
特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10150286に記載されたものである。特に好ましい実施の形態では、有用な化合物は、ドイツ特許出願DE10207165に記載されたものである。本発明の更に特に好ましい実施の形態では、有用な燐キレート配位子は、US2003/0100442A1に記載されたものである。
【0071】
本発明の更に特に好ましい実施の形態では、有用な燐キレート配位子は、ドイツ特許出願の参照番号DE10350999.2(10.30.2003)に記載されたものであるが、同文献は、先の優先日を有しており、しかし本出願の優先日の時点では発行されていない。
【0072】
上記化合物I、Ia、Ib及びII及びその製造は本質的に公知である。使用する燐配位子は、化合物I、Ia、Ib及びIIの少なくとも2種を含む混合物でも良い。
【0073】
本発明に従う方法の特に好ましい実施の形態では、ニッケル(0)錯体の燐配位子及び/又は遊離(free) 燐配位子は、トリトリルホスファイト、二座の燐キレート配位子及び式Ib、
【0074】
【化5】

【0075】
(但し、R1、R2、及びR3が、それぞれ独立してo−イソプロピルフェニル、m−トリル及びp−トリルから選ばれ、R4が、フェニルであり;xが1又は2であり、及びy、z、pが、x+y+z+p=3を条件として、それぞれ独立して0、1又は2である)で表されるホスファイト、又はこれらの混合物から選ばれるものである。
【0076】
本発明に従う方法において、溶媒中の配位子の濃度は、好ましくは1〜90質量%、より好ましくは5〜80質量%、特に50〜80質量%である。
【0077】
本発明に従う方法に使用される還元剤は、ニッケルよりも電気的に陽性である金属、金属アルキル、電流、錯体水素化物、及び水素からなる群から選ばれることが好ましい。
【0078】
本発明に従う方法の還元剤が、ニッケルよりも電気的に陽性である金属の場合、この金属は、ナトリウム、リチウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、チタニウム、バナジウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スズ、鉛、及びトリウムからなる群から選ばれることが好ましい。この関係で、特に好ましいのは、鉄と亜鉛である。還元剤としてアルミニウムが使用された場合、水銀(II)塩又は金属アルキルの触媒的な量での反応により予備活性することが有利である。予備活性化のために、トリエチルアルミニウムを、好ましくは、0.05〜50モル%、より好ましくは、0.5〜10モル%の量で使用することが好ましい。還元金属は、微細に分割されていることが好ましく、ここで、「微細に分割」とは、金属が10メッシュ未満、より好ましくは20メッシュ未満の粒子径で使用されることを意味する。
【0079】
本発明に従う方法に使用される還元剤が、ニッケルよりも電気的に陽性である金属の場合、金属の量は、反応混合物に対して0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0080】
金属アルキルが、本発明に従う方法に還元剤として使用された場合、金属アルキルは、リチウムアルキル、ナトリウムアルキル、マグネシウムアルキルが好ましく、グリニャール試薬(Grignard reagent)、亜鉛アルキル、又はアルミニウムアルキルが特に好ましい。特に好ましくは、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム又はこれらの混合物等のアルミニウムアルキル、特にトリエチルアルミニウムである。金属アルキルは、その溶媒を使用せず、又はヘキサン、ヘプタン又はトルエン等の不活性有機溶媒中に溶解される。
【0081】
錯体水素化物が、本発明に従う方法に還元剤として使用された場合、リチウムアルミニウムヒドリド等の金属アルミニウムヒドリド、又はナトリウムボロヒドリド等の金属ボロヒドリドを使用することが好ましい。
【0082】
ニッケル(II)供給源と還元剤との間の酸化還元当量のモル割合は、好ましくは、1:1〜1:100、より好ましくは1:1〜1:50、特に1:1〜1:5である。
【0083】
本発明に従う方法において、使用される配位子は、ヒドロシアン化反応において、触媒溶液として既に使用され、及びニッケル(0)が消耗した配位子溶液中に存在しても良い。この残留触媒溶液は、通常、以下の組成:
−2〜60質量%、特に10〜40質量%のペンテンニトリル、
−0〜60質量%、特に0〜40質量%のアジポニトリル、
−0〜10質量%、特に0〜5質量%の他のニトリル、
−10〜90質量%、特に50〜90質量%の燐配位子、及び、
−0〜2質量%、特に0〜1質量%のニッケル(0)、
を有している。
【0084】
本発明に従う方法において、残留触媒溶液中に存在する遊離配位子は、従って、ニッケル(0)錯体に転化し戻しても良い。
【0085】
本発明の特別な実施の形態では、ニッケル(II)供給源の燐配位子に対する割合は、1:1〜1:100である。ニッケル(II)供給源の燐配位子に対する更に好ましい割合は、1:1〜1:3、特に1:1〜1:2である。
【0086】
本発明に従う方法は、未反応臭化ニッケル又はヨウ化物が錯体合成の後に除去され、そして錯体の製造にリサイクルされるように行なって良く、また好ましい。未反応臭化ニッケル又はヨウ化物は、ろ過、遠心分離、沈降等、当業者に公知の方法で、又はUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, Unit Operation I, Vol. B2, VCH, Weinheim, 1988,第10章、10−1〜10−59頁、第11章、11−1〜11−27頁、及び第12章、12−1〜12−61頁に記載されているハイドロサイクロン(hydrocyclone)を使用して除去されて良い。
【0087】
本発明に従う方法は、任意の圧力で行なうことができる。実施上の理由により、圧力は0.1バール(bar abs)、及び5バール、好ましくは、0.5バール及び1.5バールが好ましい。
【0088】
本発明に従う方法は、不活性ガス、例えばアルゴン又は窒素雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0089】
本発明に従う方法は、不連続的又は連続的に行なって良い。
【0090】
本発明の特別な実施の形態では、本発明に従う方法は、以下の工程、
(1)不活性ガス雰囲気下で、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル又はこれらの混合物を溶媒中に含むニッケル(II)供給源の溶液又は懸濁液を製造すること、
(2)工程(1)からの溶液又は懸濁液を、20〜120℃の予備錯化温度で1分〜24時間の製造時間攪拌すること、
(3)少なくとも1種の還元剤を、工程(2)からの溶液又は懸濁液に、20〜120℃の添加温度で加えること、
(4)工程(3)からの溶液又は懸濁液を、20〜120℃の反応温度で、30分〜12時間の反応時間、攪拌すること、
を含む。
【0091】
予備錯化温度、添加温度、及び反応温度は、それぞれが独立して、20℃〜120℃であって良い。予備錯化、追加及び反応において、30℃〜80℃の温度が特に好ましい。
【0092】
錯化期間、追加期間及び反応時間は、それぞれが独立して1分〜24時間である。予備錯化期間は、特に、1分〜3時間である。追加期間は、好ましくは1分〜30分である。反応時間は、好ましくは20分〜5時間である。
【0093】
本発明に従う方法は、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケルの反応性が高いという有利な点を有している。本発明に従って使用されるニッケル供給源の反応性は、結晶粒径に関係なく達成されるので、US2003/0100442に従うニッケルクロリドに必要な複雑な乾燥工程は不要である。このことは、低い温度においてでも反応を可能にする。更に、従来技術に開示されているようなニッケル塩の過剰な使用は必要とされない。これに加え、ニッケル(II)臭化物、又はニッケル(II)ヨウ化物、及び還元剤に関して、完全な転化が達成され、次の除去が不必要になる。高反応性の結果として、1:1までのニッケル:配位子割合が得られて良い。
【0094】
本発明は、更に、本発明に従う方法によって得ることができるニッケル(0)−燐配位子錯体を含む溶液及び、アルケンのヒドロシアン化における同錯体の使用を提供するものであり、同ヒドロシアン化は、特に、ペンテンニトリルの混合物を製造するためのブタジエンのヒドロシアン化、2−メチル−3−ブテンニトリルから3−ペンテンニトリルへの異性化、及び次にアジポニトリルの合成が続く、3−ペンテンニトリルからアジポニトリルへの新たなヒドロシアン化である。
【0095】
以下に実施例によって本発明を説明する。
【0096】
実施例
錯体合成の例において、使用したキレート配位子溶液は、3−ペンテンニトリル中のキレートホスホナイト1、
【0097】
【化6】

の溶液であった(65質量%のキレート、35質量%の3−ペンテンニトリル)。転化を測定するために、製造した錯体溶液を、活性錯化Ni(0)の検査に付した。この目的のために、溶液とトリ(m/p−トリル)ホスファイトとを混合し (一般には、1gの溶液につき1gのホスファイト)、完全な錯体転化(transcomplexation)を達成するために、約30分、80℃に維持した。その後、電気化学的酸化のための電流−電圧曲線を測定したが、この測定は、参照電極に対して静止している溶液中で、サイクリックボルタンメトリー測定器を使用して行ない、同測定器は、濃度に比例したピーク電流を供給するものである。この測定において、Ni(0)濃度が既知の溶液の較正目盛りにより試験溶液のNi(0)濃度を決定し、その後、トリ(m/p−トリル)ホスファイトで希釈して修正した。実施例に記載されたNi(0)値は、この方法で測定された、全反応溶液に対する質量%のNi(0)濃度を表す。
【0098】
実施例1〜6において、使用したニッケル供給源は、NiBr2であり、そして使用した還元剤は亜鉛粉末であった。
【0099】
実施例1:
攪拌器付き500mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、18.6g(85mmol)のNiBr2を、13gの3−ペンテンニトリルに懸濁させ、100gのキレート溶液(86mmolの配位子)を加え、そしてこの混合物を80℃で10分間、攪拌した。50℃にまで冷却した後、8g(122mmol、14eq.)のZn粉末を加え、そしてこの混合物を50℃で3時間攪拌した。1.2%(33%転化)のNi(0)値が測定された。
【0100】
実施例2:
Zn粉末を加える前に温度を40℃に下げたこと以外は、実施例1と同様の方法で反応を行なった。5時間後、2.0%(56%転化)のNi(0)値が測定された。
【0101】
実施例3:
Zn粉末を加える前に温度を30℃に下げたこと以外は、実施例1と同様の方法で反応を行なった。12時間後、1.3%(36%転化)のNi(0)値が測定された。
【0102】
実施例4:
反応混合物の希釈に61gの3−ペンテンニトリルが使用され、Zn粉末を加える前に温度を60℃に下げたこと以外は、実施例1と同様の方法で反応を行なった。4時間後、1.6%(60%転化)のNi(0)値が測定された。
【0103】
実施例5:
攪拌器付き500mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、14g(65mmol)のNiBr2を、13gの3−ペンテンニトリルに懸濁させ、100gのキレート溶液(86mmolの配位子)を加え、そしてこの混合物を80℃で10分間、攪拌した。50℃にまで冷却した後、6g(92mmol、1.4eq.)のZn粉末を加え、そしてこの混合物を50℃で5時間攪拌した。1.2%(43%転化)のNi(0)値が測定された。
【0104】
実施例6:
攪拌器付き500mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、9.3g(43mmol)のNiBr2を、13gの3−ペンテンニトリルに懸濁させ、100gのキレート溶液(86mmolの配位子)を加え、そしてこの混合物を80℃で10分間、攪拌した。50℃にまで冷却した後、4g(61mmol、1.4eq.)のZn粉末を加え、そしてこの混合物を50℃で5時間攪拌した。0.88%(44%転化)のNi(0)値が測定された。
【0105】
実施例7〜10において、使用したニッケル供給源は、NiBr2であり、使用した還元剤は鉄粉末であった。
【0106】
実施例7
攪拌器付き500mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、18.6g(85mmol)のNiBr2を、13gの3−ペンテンニトリルに懸濁させ、100gのキレート溶液(86mmolの配位子)を加え、そしてこの混合物を80℃で10分間攪拌した。30℃にまで冷却した後、5.3g(95mmol、1.1eq.)のFe粉末を加え、そしてこの混合物を30℃で4時間攪拌した。0.75%(42%転化)のNi(0)値が測定された。
【0107】
実施例8:
Fe粉末を加える前に温度を40℃に下げたこと以外は、実施例7と同様の方法で反応を行なった。4時間後、0.8%(44%転化)のNi(0)値が測定された。
【0108】
実施例9:
Fe粉末を加える前に温度を60℃に下げたこと以外は、実施例7と同様の方法で反応を行なった。4時間後、1.0%(56%転化)のNi(0)値が測定された。
【0109】
実施例10:
Fe粉末を加える前に温度を80℃に維持したこと以外は、実施例7と同様の方法で反応を行なった。4.5時間後、1.6%(89%転化)のNi(0)値が測定された。
【0110】
以下の実施例では、使用した還元剤は、Et3Alで予備活性化したアルミニウム分圧であった。
【0111】
実施例11:
攪拌器付き250mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、18g(82mmol)のNiBr2を、13gの3−ペンテンニトリルに溶解し、3.2g(119mmol)のアルミニウム粉末を混合し、ヘキサン(3mmol)中の3mlのトリエチルアルミニウム1M溶液を加え、そしてこの混合物を室温で30分攪拌し、アルミニウム粉末を活性化させた。その後、100gのキレート溶液(86mmolの配位子)を加え、そしてこの混合物を80℃で3時間、攪拌した。0.8%(25%転化)のNi(0)値が測定された。
【0112】
実施例12及び13では、使用した還元剤はEt3Alであった。
【0113】
実施例12:
攪拌器付き250mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、6.3g(29mmol)のNiBr2を、67.3gのキレート溶液(58mmolの配位子)に懸濁し、そして0℃にまで冷却した。その後、トルエン(44mmol)中、20.1(20リットル)のトリエチルアルミニウム25%溶液を徐々に計量導入した。この溶液を室温にまで徐々に暖めた後、この溶液を65℃にまで加熱し、そして更に4時間攪拌した。0.9%(49%転化)のNi(0)値が測定された。
【0114】
実施例13
攪拌器付き250mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、6.3g(29mmol)のNiBr2を、67.3gのキレート溶液(58mmolの配位子)に懸濁した。30℃で、トルエン(55mmol)中、25.1(25リットル)のトリエチルアルミニウム25%溶液を徐々に計量導入した。この後、この混合物を65℃にまで加熱し、そして4時間攪拌した。1.4%(81%転化)のNi(0)値が測定された。
【0115】
実施例14及び15では、使用したニッケル塩はヨウ化ニッケルであった。
【0116】
実施例14:
攪拌器付き250mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、27g(86mmol)のNiI2を、13gの3−ペンテンニトリルと100gのキレート溶液(86mmolの配位子)に溶解し、80℃で15分間、攪拌した。50℃にまで冷却した後、7.2g(110mmol、1.25eq.)のZn粉末を加え、そしてこの混合物を50℃で4時間攪拌した。2.2%(65%転化)のNi(0)値が測定された。
【0117】
実施例15:
Zn粉末を加える前に温度を30℃に下げたこと以外は、実施例12と同様の方法で反応を行なった。4時間後、0.5%(15%転化)のNi(0)値が測定された。
【0118】
実施例16及び17では、使用した配位子溶液は、ヒドロシアン化反応で触媒溶液として既に使用され、そしてNi(0)が非常に消耗した残留触媒溶液であった。この溶液の組成は、約20質量%のペンテンニトリル、約6質量%のアジポニトリル、約3質量%の他のニトリル、約70質量%の配位子(40mol%のキレートホスホナイト1、及び60mol%のトリ(m/p−トリル)ホスファイトの混合物からなる)、及び僅か0.8質量%のNi(0)である。
【0119】
実施例16:
攪拌器付き500mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、18.6g(85mmol)のNiBr2を、24gの3−ペンテンニトリルに懸濁させ、100gの残留触媒溶液を混合し、そして80℃で15分間、攪拌した。この後、この混合物を50℃にまで冷却し、8g(122mmol、1.4eq.)のZn粉末を加え、そしてこの混合物を50〜55℃で5時間攪拌した。1.9%(Ni:P割合1:4に相当)のNi(0)値が測定された。
【0120】
実施例17:
攪拌器付き500mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、18.6g(85mmol)のNiBr2を、24gの3−ペンテンニトリルに懸濁させ、100gの残留触媒溶液を混合し、そして80℃で20分間、攪拌した。この後、5.3g(95mmol、1.1eq.)のFe粉末を80℃で加え、そして、この混合物を80℃で4.5時間攪拌した。1.7%(Ni:P割合=1:4.4に相当)のNi(0)値が測定された。
【0121】
比較例において、ニッケル供給源として、市販の無水ニッケルクロリドを使用した。
【0122】
比較例1:
攪拌器付き500mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、11g(885mmol)のNiCl2を、13gの3−ペンテンニトリルに懸濁させ、100gのキレート溶液(86mmolの配位子)を混合し、そして80℃で15分間、攪拌した。40℃にまで冷却した後、8g(122mmol、1.4eq.)のZn粉末を加え、そしてこの混合物を40℃で4時間攪拌した。0.05%(1%の転化)のNi(0)値が測定された。
【0123】
比較例2:
Zn粉末を加える時に温度を80℃に維持したこと以外は、比較例1と同様の方法で反応を行なった。5時間後、0.4%(10%転化)のNi(0)値が測定された。
【0124】
比較例3:
攪拌器付き500mlフラスコ内で、アルゴン雰囲気下に、11g(85mmol)のNiCl2を、13gの3−ペンテンニトリルに懸濁させ、100gのキレート溶液(86mmolの配位子)を混合し、そして80℃で15分間、攪拌した。60℃にまで冷却した後、5.3g(95mmol、1.1eq.)のZn粉末を加え、そしてこの混合物を60〜65℃で10時間攪拌した。0.16%(4%の転化)のNi(0)値が測定された。
【0125】
比較例4:
Fe粉末を加える時に温度を80℃に維持したこと以外は、比較例3と同様の方法で反応を行なった。10時間後、0.4%(10%転化)のNi(0)値が測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のニッケル(0)中心原子及び少なくとも1個の燐配位子を含むニッケル(0)−燐配位子錯体の製造方法において、
臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル又はこれらの混合物を含むニッケル(II)供給源を少なくとも1種の燐配配子の存在下に還元することを特徴とする方法。
【請求項2】
有機ニトリル、芳香族又は脂肪族炭化水素及びこれらの混合物からなる群から選ばれる溶媒中で行なわれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒中の燐配位子の濃度が、溶液に対して1〜90質量%であることを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載の方法。
【請求項4】
使用する還元剤が、ニッケルよりも電気的に陽性である金属であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
使用する還元剤が、金属アルキル、電流、錯体水素化物、および水素であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
配位子が、ホスフィン、ホスファイト、ホスフィナイト、及びホスホナイトからなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
配位子が二座であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
燐配位子が、ヒドロシアン化反応における触媒溶液としてすでに使用されている配位子溶液から生ずることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
以下の工程、
(I)不活性気体雰囲気下で、溶媒中に臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル又はこれらの混合物が懸濁した溶液を製造すること、
(II)工程(I)で生じた溶液又は懸濁液を、20〜120℃の予備錯化温度及び1〜24時間の予備錯化時間で攪拌すること、
(III)工程(II)で生じた溶液又は懸濁液に、20〜120℃の添加温度で少なくとも1種の還元剤を加えること、
(IV)工程(III)で作られた懸濁液又は溶液を、20分〜24時間の反応時間、20〜120℃の反応温度で攪拌すること、
を含むことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の方法によって得られるニッケル(0)−燐配位子錯体を含む混合物。
【請求項11】
アルケンのヒドロシアン化及び異性化、及び不飽和ニトリルのヒドロシアン化及び異性化に、請求項10に記載のニッケル(0)−燐配位子錯体を含む混合物を使用する方法。

【公表番号】特表2007−509887(P2007−509887A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537187(P2006−537187)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012179
【国際公開番号】WO2005/042156
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】