説明

ニトリル化合物の水素添加によるアミンの製造方法

本発明は、触媒の存在下におけるニトリル化合物の水素添加によるアミン化合物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、ラネー金属をベースとする触媒の存在下におけるジニトリル化合物の連続水素添加によるジアミンの製造方法に関する。本発明の方法は、不純物の生成及び触媒活性の低下を最低限にするためにニトリル化合物のモル流量及び水素添加栓流反応器中の触媒の重量流量を調節することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の存在下におけるニトリル化合物の水素添加(即ち水素化)によるアミン化合物の製造方法に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、ラネー金属をベースとする触媒の存在下におけるジニトリル化合物の連続水素添加によるジアミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
工業的に利用されているアミン化合物の製造方法の1つは、ニトリル化合物の接触水素添加である。
【0004】
例えば、数多くの化合物やポリマーの製造における重要な化学中間体であるヘキサメチレンジアミンは、多くの場合アジポニトリルの接触水素添加によって製造されている。
【0005】
例として、酸化鉄や酸化コバルトのような金属酸化物を触媒として存在させた下でのアジポニトリルの水素添加方法を挙げることができる。これらの方法は、一般的に高圧高温で、そしてしばしばアンモニアの存在下において、実施される。
【0006】
広く用いられている他の水素添加方法は、水及び塩基性化合物の存在下で、ラネー金属(より詳細にはラネーニッケル又はラネーコバルト)をベースとする系を触媒として用いることから成る。これらの方法においては、比較的低圧低温で、アンモニアの不在下において反応が実施される。後者のラネー金属をベースとする触媒を用いた水素添加方法は、所定のタイプの反応器中で実施することができる。実際、この触媒は自然発火性なので、用いられる反応器は、反応媒体中への触媒の連続導入の効率的な調節が可能なものでなければならない。また、反応媒体中に懸濁させる触媒の量を調節し、この懸濁液の制御/調節された循環を提供することも必要である。
【0007】
そして、これらの触媒は、ニトリル化合物の水素添加方法においてある種の条件下で用いられた時に、触媒活性に強い影響が及ぼされることがある。
【0008】
Chemical Engineering Science, Vol. 47, No. 9-11, 2289-94 (1992)に発表された論文には、ニトリル化合物がラネーニッケル又はラネーコバルトをベースとする触媒を失活させることが示されている。この失活を防ぐために、Chemical Engineering Science, Vol. 35, 135-141 (1980)に発表された論文には、最適混合条件を得るための高い反応媒体循環率と、高いニトリル化合物濃度を示す領域ができるのを回避するための乱流とを採用した反応器を用いることが提唱されている。実際、高濃度のニトリル化合物は触媒の失活をもたらす。
【0009】
これらの方法はすべて、触媒の活性の低下を減らすための解決策として、反応媒体を効率的に混合して反応器中のどの箇所においても同じ反応成分濃度及び同じ触媒濃度にすることが可能な系を用いる。
【0010】
このような混合状況は達成するのが困難であり、国際公開WO00/37424号パンフレットに記載されたもののような複雑な装置を必要とする。この国際公開パンフレットに記載された発明は、混合状況を改善し且つ反応器の任意の箇所における濃度の均一性を改善するために静的ミキサーを使用することに関するものである。
【0011】
さらに、これらの解決策は、栓流(ピストン流れ)条件下で運転される反応器(例えば懸濁状の触媒床を循環させて運転される気泡塔類、気泡塔と気体を分離するためのサイクロンヘッドとを含む反応器)(以下、RTCタイプの反応器と称する)中で水素添加反応を連続的に実施する場合には、適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開WO00/37424号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Chemical Engineering Science, Vol. 47, No. 9-11, 2289-94 (1992)
【非特許文献2】Chemical Engineering Science, Vol. 35, 135-141 (1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の1つの目的は、アミン化合物を得るためのラネー金属をベースとする触媒の存在下におけるニトリル化合物の連続式水素添加方法であって、生成するアミンから分離するのが困難な不純物が生成するのを防止しながら、触媒の活性の低下速度を抑制することができる前記方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的で、本発明は、少なくとも1個のニトリル官能基を含む化合物の水素添加による少なくとも1個のアミン官能基を含む化合物の連続式製造方法であって、
・ラネー金属をベースとする触媒の懸濁粒子と無機塩基と水とを含む反応媒体が循環する栓流タイプの反応器に、水素及びニトリル化合物を含む気体を供給し、
・前記栓流反応器の出口において、触媒を分離した後のアミン化合物を含む反応媒体の一部分を取り出し、該反応媒体の残りの部分を前記栓流反応器にリサイクルし、
・前記の分離された触媒を前記栓流反応器にリサイクルし、
・新たな触媒流を前記栓流反応器に供給する
ことから成ること、並びに
前記栓流反応器へのニトリル化合物及び/又は触媒の供給流量を、15×10-5〜35×10-5モルH2/g触媒/秒の範囲の初期活性を示す触媒について、[単位時間当たりに供給されるニトリル化合物のモル数]対[前記栓流反応器中の触媒の重量流量]の比Pが触媒1kg当たりニトリル化合物0.02〜0.15モルの範囲に保たれるように調節すること
を特徴とする前記製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施するのに適した装置の一実施形態の概略図である。
【図2】本発明を実施するのに適した装置の別の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
触媒の重量流量は、用いる装置の物質収支により、又は栓流反応器若しくはプラントの別の部分(例えば栓流反応器への反応媒体のリサイクルをもたらす部分)における触媒の濃度を分析することにより、得ることができる。
【0018】
触媒の重量流量はまた、触媒が循環するプラント中の様々な位置(例えば反応媒体から分離した後の栓流反応器へのリサイクル触媒流中)で触媒の濃度を測定し、この反応を実施するために用いられるプラントの流体力学を考慮に入れながら数学的に補外することによって、得ることもできる。この数学的補外(又は触媒の濃度の測定と栓流反応器中の触媒の流量との間の相関関係)は、先端技術においてよく知られている流体力学ルールを適用することにより又は検量線若しくは図を作成するための系統的測定により、それぞれのプラントについて確立することができる。
【0019】
触媒の活性は、測定方法について決定される温度及び圧力及びKOH/触媒重量比の条件下において、単位時間当たりに所定量のラネーニッケル触媒について、アジポニトリルを還元してヘキサメチレンジアミンを得る際に消費される水素のモル量によって表わされる。
【0020】
触媒の初期活性は、下記の手順を実施することによって決定される:
【0021】
アルゴンで脱気した脱塩水50ミリリットルを、250ミリリットルのビーカー中に注ぐ。スパチュラを用いて、分析されるべき触媒から成るスラリー約2gを取り出す。この試験サンプルを前記ビーカー中に導入し、脱気した脱塩水約100ミリリットルを添加する。
【0022】
この混合物を撹拌して、分析すべき触媒を懸濁させる。ビーカーの底部にマグネットプレートを置くことによって水を触媒から分離する。脱気した脱塩水を取り除く。このビーカー中に、脱塩水150ミリリットルを注ぐ。
【0023】
このビーカーをマグネット上に置く:洗浄水を取り除き、次いで脱気した水50〜100ミリリットルを添加する。脱気した脱塩水で触媒を洗浄する。洗浄操作の終わりに、水のpHが7付近でなければならない。
【0024】
比重瓶(ピクノメーター)を前記触媒の上澄み液で満たす。この比重瓶を計量して秤の零点を規定する。この比重瓶を秤から取り除く。ピペットによってこの比重瓶から少量の水を取り除く。同じピペットによってビーカーから前記触媒を取り出す。比重瓶に所定量の触媒を導入し、この比重瓶を前記上澄み液で調整する。
【0025】
この比重瓶を計量し、水+触媒で満たされた比重瓶と水で満たされた比重瓶との間の重量差(W)を読み取る。触媒の重量wcatalystは、1.15×Wに等しい。上記の計量操作を所望の量が得られるまで繰り返すことによって、比重瓶中の触媒の量を調整する:取り出される触媒の量は、有利には以下に等しい:
ほぼ正確に0.4000gの、新たに洗浄され、再生され又は使用された触媒
(0.3960g≦wcatalyst≦0.4040g)
【0026】
比重瓶中に導入された触媒の量wcatalystを記録する(精度:0.0001g)。きれいな乾いた反応器及びその支持台を秤の上に置く。秤の目盛りを0に合わせる。比重瓶の内容物をきれいな乾いた反応器中に移し替える。比重瓶中に導入された触媒を全部集めるために、必要量の脱塩水で比重瓶をすすぐ。反応器の底にマグネットプレートを用いて、できるだけ多くの水を取り除く。
【0027】
前記触媒に好適なマイクロシリンジを用いて6.8N水酸化カリウムKOHを添加する(即ち47マイクロリットル)。この溶液に、反応器中の溶液の重量が4.66gになるように脱塩水を補充する。この反応器に純粋なHMD37.8gを添加する。
【0028】
この反応器をパイロットスケールの装置中に入れ、加熱を開始する(設定温度80℃)。反応器のヘッドスペースを窒素で3回パージする。水素を50バールの圧力で供給する。反応器のヘッドスペースを、水素を入れて排出させることによって、水素パージする。水素供給源における圧力を維持し又は再確立しながら、この操作を3回繰り返す。水素による反応器の3回のパージの終わりに、反応器を水素で加圧して20バールにする。
【0029】
撹拌を開始する(設定温度80℃、撹拌速度2000回転/分)。長い針を備えたガラスシリンジにより、ほぼ正確に6.00gのアジポニトリル(AdN)を取り出す。針を備えた装填されたシリンジによって秤を0調整する。アジポニトリルを滴下漏斗中に導入する。針を備えた空のシリンジを計量する。滴下漏斗中に導入されたアジポニトリルの重量WADNを記録する(これは5.70〜6.30gの範囲でなければならない)。
【0030】
反応器を水素供給源からの水素で加圧し、50バールの供給源圧力を再確立する。供給源及び反応器の圧力が一定であることを確認する。温度及び撹拌が達成されたら、反応器中にAdNを導入するために、最初に僅かに、次いで1回の操作で完全に、滴下漏斗の弁を開く。反応器内の圧力は25バールに上昇させる。
【0031】
供給源からの反応器への水素の供給は、水素圧力曲線が安定になるまで開いておく。反応期間を通じて、供給源の水素圧力を時間の関数として記録しておく。反応器中の水素圧力が安定化したら、反応器への水素供給を閉じる。反応器の加熱を停止し、反応媒体を45℃の温度まで冷ます。反応器をゆっくり圧抜きし、撹拌を停止する。反応器のヘッドスペースを窒素で3回パージする。反応器の内容物を脱塩水ですすぎながら容器中に取り出す。
【0032】
触媒の活性は、下記の式で与えられる反応器の初期速度によって決定される。
【数1】

Δtinitialは、もしも反応の間に触媒が絶えず置き換えられていたならば水素添加に要したであろう時間(分)である。これは、反応開始時の圧力を記録する曲線の勾配と反応終了時の勾配(一般的に0)との間の交点の横座標によって決定される。この曲線は、時間の関数としての供給源における水素圧力の変化を表わす。水素添加の初期速度は、モルH2/g触媒/秒で表わされる。
【0033】
特定範囲の触媒活性を示す触媒についてこの比Pを調節することによって、本出願人は、この反応に関して得られている知識の教示とは反対に、回収されるアミンの不純物(特にジアミノシクロヘキサン)含有率が非常に低くなり、そして触媒活性の低下速度が非常に低くなるということを見出した。
【0034】
実際、ある種の条件下において、アジポニトリルは水素添加によって反応して、ヘキサメチレンジアミンから分離するのが困難な環状ジアミンのジアミノシクロヘキサンを与えることがあることが知られている。従って、最小の資本コスト及び最小のエネルギー消費で精製することができるヘキサメチレンジアミンを得るために、この環状ジアミンの生成を抑制することが重要である。[ニトリル化合物]対[触媒の重量]の比Pが高ければこのジアミノシクロヘキサンタイプの不純物の生成が抑制できることが知られている。しかしながら、これらの条件下では、触媒活性の低下速度が高いことも知られている。
【0035】
本出願人はまた、上記の運転特徴を守ることによって得られるヘキサメチレンジアミンが低い不純物濃度[これは一般的にヘキサメチレンジアミンのUV分析によって検出され、UV指数(IUV)の形で表わされる純度特徴である]を示すことも見出した。この指数は、5cmの長さのセル中に存在させた32.4重量%水性HMD溶液の275nmの波長におけるUV吸収を測定することによって得られる。
【0036】
本発明は、一方でジアミノシクロヘキサン(DCH)タイプの不純物及び/又はUV分析によって検出できる不純物の生成を抑制することが可能な反応実施条件を提供する。これらの条件とは、高い比P([ニトリル化合物のモル流量]対[栓流反応器中の触媒の重量流量])と特定触媒活性を示す触媒との組合せを採用することに相当する。これらの条件下では、比Pが高いにも拘らず、触媒の活性の低下速度は非常に低いレベルに保たれる。これは通常は低い比Pについて得られる結果である。
【0037】
本発明の方法は、特にそして好ましくは、ヘキサメチレンジアミンのようなジアミン化合物を得るためのアジポニトリルのようなジニトリル化合物の水素添加に適用される。
【0038】
本発明の方法は、特定範囲の触媒活性について、所定範囲内の[ニトリル化合物のモル流量]対[栓流反応器中の触媒の重量流量]の比Pを採用することによって、例えば環状ジアミンのような不純物の生成の著しい抑制及び触媒活性の低下速度の減速を同時に達成することが可能である。
【0039】
本発明の1つの特徴に従えば、前記水素添加反応は、溶剤の存在下において実施される。好適な溶剤の中では、水素添加によって得られるアミンが好ましい溶剤である。例えばアジポニトリルの水素添加の場合には、ヘキサメチレンジアミンを溶剤の主成分として用いるのが有利である。溶剤中のアミンの濃度は、溶剤の50〜99重量%の範囲であるのが有利であり、60〜99重量%の範囲であるのが好ましい。
【0040】
前記水素添加反応は、他の溶剤成分として水が存在する下で実施するのが有利である。この水は、一般的に反応媒体全体に対して50重量%以下、有利には20重量%以下、より一層好ましくは0.1〜15重量%の範囲の量で存在させる。
【0041】
水に加えて又は水の代わりに、アルコールタイプの少なくとも1種の他の溶剤を用いることも可能である。好適なアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、グリコール類、例えばエチレングリコール、ポリオール類、又はこれらの化合物の混合物を挙げることができる。
【0042】
水素添加触媒は、ラネー金属、好ましくはラネーニッケル又はラネーコバルトを含む。有利には、ラネー金属と共に促進剤元素を用いることができる。これらの促進剤元素は、元素周期表の第IIB族及び第IVB〜VIIB族の元素から選択される。該促進剤元素は、チタン、クロム、ジルコニウム、バナジウム、モリブデン、マンガン、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉄及びそれらの組合せより成る群から選択される。
【0043】
水素添加反応は、塩基性化合物の存在下、好ましくはLiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH及びそれらの混合物のような無機塩基の存在下で実施される。NaOH及びKOHを用いるのが好ましい。
【0044】
塩基の添加量は、触媒1kg当たり塩基少なくとも0.1モル、好ましくは触媒1kg当たり塩基0.1〜2モルの範囲、より一層有利には触媒1kg当たり塩基0.3〜1.5モルの範囲になるように決定される。
【0045】
水素添加反応は、150℃以下、好ましくは120℃以下、より一層好ましくは100℃以下の温度において実施される。この反応温度は、50℃〜100℃の範囲にするのが一般的である。
【0046】
反応器中の水素圧力は、概ね0.10〜10MPaの範囲とする。
【0047】
本発明の好ましい実施形態に従えば、本発明の水素添加反応は、添付した図1及び図2を参照した下記の装置中で連続式で実施される。これらの図面は、本発明を実施するのに適した装置の実施形態の概略図を表す。
【0048】
本発明の方法を実施するのに適した装置は、優れた気体/液体接触、接触後のこれら2つの相の迅速且つ効率的な分離、水素添加生成物と触媒との連続的な分離、及び触媒のリサイクルを、触媒の失活をできるだけ少なくするのに適した時間で、可能にするものである。
【0049】
前記の装置は、次の3つの主要区画を有する。懸濁した触媒床を循環させながら気泡塔の原理に従って運転される反応区画、気体/液体分離区画、並びに前記触媒のリサイクル及び液体(水素添加生成物)の取り出しを伴う触媒/液体分離区画。
【0050】
前記反応区画は1個以上のU字形の管を含み、その枝は垂直であり又は僅かに傾いており、各U字の枝の一方は気体/液体/固体触媒分散体の上昇をもたらし、もう一方は少なくとも部分的に脱ガスされた液体の戻りをもたらす。この反応区画はまた、上昇用の枝の下部に、水素の入口、ジニトリルの入口、新たな触媒(助触媒あり又はなし)の入口及びリサイクルされる触媒の入口の4つの入口を含む。
【0051】
気体/液体分離区画は、縦型円筒部に、1個以上の接線方向の入口(反応器の上昇用枝から入って来る)、1個以上の接線方向出口(反応器の下降用枝に向かう)、気体出口及び反応混合物出口(液体/固体分離に向かう)を含ませて成る。気体/液体/固体触媒分散体用の入口は、脱ガスされた液体が出て行く箇所より上に位置する箇所に挿入される。この部分がサイクロンヘッドを形成する。
【0052】
液体/固体分離区画は、触媒から水素添加生成物を分離し且つこの触媒をリサイクルすることが可能なデカンターから成る。前記水素添加生成物は連続的に取り出され、一方、デカンターで分離された触媒懸濁液は、反応区画の水素導入箇所の上流に戻される。触媒の一部を新たな触媒に置き換えることが必要と判断された時に、パージを実施する。
【0053】
用語「新たな触媒」とは、本明細書においては、「バージン」触媒、即ち水素添加反応においてまだ用いられていない触媒、又はバージン触媒と再生触媒との混合物、又は再生触媒のみを意味すると理解すべきである。この新たな触媒は、バージン触媒と再生触媒とを混合した後に、又はバージン触媒流と再生触媒流との2つの流れの形で、導入することができる。
【0054】
本発明の方法に好適な装置は、例として図1に図示したものであることができる。この装置においては、縦型円筒管(1)が湾曲管(2)によって水平管(3)に結合し、この水平管(3)は、管(1)より直径が大きい縦型円筒体から成る気体/液体分離器(4)中に、接線方向で入る。
【0055】
前記分離器(4)は、気体又は蒸気排出用配管(5)を含む。前記の管(3)の入口箇所より下に位置する箇所において分離器に対して接線方向で出て行く水平管(6)は、湾曲管(7)を介して第2の縦型管(8)に連結され、この縦型管(8)は湾曲部(9)を介して前記の管(1)に連通する。管(1)及び(8)と湾曲部(9)との組合せがU字を形成する。管(1)はその下部に水素導入用配管(10)及びジニトリル導入用配管(13)を含む。管(1)及び(8)は、図1に示されるように、冷却用又は加熱用流体の循環が可能なジャケット(11)及び(12)を含むことができる。湾曲部(9)は新たな触媒用の入口(30)及びリサイクル触媒用の入口(21)を含む。
【0056】
管(1)及び(8)は、垂直であっても僅かに傾いていてもよい(後者の場合、それらの軸が下向きに収束するようなものであるのが好ましい)。
【0057】
湾曲部(2、7、9)の曲率半径は、循環路全体を循環する物質の圧力低下ができるだけ小さくなるように、化学技術者の慣用のルールに従って計算される。それらの湾曲角度は45°〜135°の範囲であることができ、60°〜120°の範囲であるのが好ましい。
【0058】
図1において、水素は配管(10)から導入される。この配管には、任意の標準的な分散装置を備え付けることができるが、しかし単純に壁と同一平面にある管を管(1)の内側に配置させるだけで充分である。この配管(10)は、水素源に連結され、この水素は大気圧又はそれより高い圧力において導入することができる。
【0059】
気体排出用配管(5)は、水素添加生成物から分離された気体を処理するための任意の装置に連結することができる。図1には、(5)からの気体を凝縮器(14)に通す装置が示されている。この凝縮器(14)中で、分離器(4)に同伴された蒸気が水素から分離される。得られた凝縮液は、配管(31)から装置にリサイクルされる。過剰分の水素は次いでパージ(ガス抜き)装置(15)を含む管路を経由してコンプレッサー(16)中に通され、次いで水素添加の際に消費された水素(及びパージされた分)を補償することが意図される量の水素を(17)において導入した後に、(10)においてリサイクルされる。
【0060】
脱ガスして触媒を取り除いた水素添加生成物を取り出すことが必要である。きれいな(即ち何ら触媒を含まない)水素添加生成物を取り出せるようにするためには、デカンター(18)を分離器(4)のすぐ下に配置させる。分離器(4)において気相が分離された液体/触媒懸濁液が、デカンター(18)に入る。このデカンター(18)は、円筒部(19)の末端に円錐形部(20)が設けられて成る。
【0061】
管路(21)は、濃縮された触媒スラリーを湾曲部(9)に連続的に戻す働きをする。触媒を含まない水素添加生成物は、管路(22)から出て行く。この管路(22)はトラップ(23)に連結され、このトラップ(23)にはオーバーフロー(24)が連結され、これがきれいな水素添加生成物を連続的に取り出すことを可能にする。この装置全体の液位は、ジニトリル、溶剤及び触媒の混合物の等容量を連続的に導入することによって一定に保たれる。円錐形部(20)でデカンテーションされた触媒は、配管(21)を経由して管(9)にリサイクルされる。この配管(21)は、消費された触媒をパージするための配管(32)を含み、この消費された触媒は随意に再生することができる。
【0062】
図2に、本発明の範囲内に入るデカンテーションの特定的な形をより詳細に示す。一方で触媒塊及び水素添加生成物の過剰に迅速な移動がデカンター(18)中に広がらないようにするため、他方で水素がデカンター内に入らないようにするために、2つの領域(気体/液体分離区画及び液体/固体分離区画)の分離が必要である。しかしながら、いずれにしても触媒の付着の原因となってはならない。このような結果は分離器(4)とデカンター(18)との間に隔壁(26)を設置し、気体/液体分離器とデカンターとの間の循環が、液体速度を有意に(例えば0.5m/秒未満の値に)低下させるために計算された直径を有する管路(27)によってもたらされるようにすることによって、達成される。この管路(27)は、管路(27)の直径以上の直径を有する管によってデカンター内に入り込んでいる。
【0063】
ヘキサメチレンジアミンを得るためのアジポニトリルの水素添加方法を実施するために上記の装置を使用することにより、液状反応混合物中の水素の良好な分散を達成することができる。この分散は、U字管全体で安定であり且つ均一である。この装置は、前記のように、連続的に且つ触媒が有意に失活することなく、リサイクルされるべき触媒から水素添加生成物を分離して取り出すことを可能にする。
【0064】
このような装置において、前記のニトリル化合物のモル流量対触媒の重量流量の比Pは、管(1)に相当する反応領域又は栓流反応器中に存在するものである。しかしながら、触媒の重量流量を測定するためには、触媒をリサイクルするための管(21)中のリサイクル触媒の存在濃度又は反応媒体を戻すための管(8)中の触媒の濃度を測定するのが有利である。
【実施例】
【0065】
本発明のその他の詳細や利点は、単に例示として下に与えた実施例からより一層明らかになるであろう。
【0066】
例1:
図1に示した装置中で82℃の温度及び23バールの圧力においてアジポニトリルを連続的にヘキサメチレンジアミンに水素添加する。反応媒体は、管(13)から供給されるアジポニトリル、管(17)から供給される水素、水酸化カリウム、ヘキサメチレンジアミン、水及びラネーニッケルを含む触媒を含む。この触媒は、上記の試験に従って測定して26×10-5モルH2/g触媒/秒の活性を示す。触媒の濃度及びアジポニトリルの供給流量は、水素添加反応器(1)中のファクターPが0.041〜0.054モルAdN/kg触媒となるように調節する。
【0067】
(24)において回収されたヘキサメチレンジアミンは、次の純度特徴を示した(上記の方法又は慣用の技術に従って測定):
・ジアミノシクロヘキサン(DCH)の濃度:1900ppm
・IUV:1.5。
【0068】
例2:
42×10-5モルH2/g触媒/秒の活性を示す触媒を用い、触媒の濃度及び反応器(1)中のAdN流量を反応器中のファクターPが0.042〜0.055モルAdN/kg触媒となるように設定して、例1を繰り返した。(24)において回収されたヘキサメチレンジアミンは、次の純度特徴を示した:
・ジアミノシクロヘキサン(DCH)の濃度:3500ppm
・IUV:5。
【0069】
これらの試験は、反応器出口において生産されるヘキサメチレンジアミンの品質に対する所定範囲内のファクターPについての触媒の活性の影響をはっきり示している。
【符号の説明】
【0070】
1・・・縦型円筒管(栓流反応器)
4・・・気体/液体分離区画
8・・・第2の縦型管(反応媒体リサイクル用管路)
10・・・水素導入用配管
13・・・ジニトリル導入用配管
14・・・凝縮器
15・・・パージ(ガス抜き)装置
16・・・コンプレッサー
17・・・水素導入用配管
18・・・デカンター(液体/固体分離区画)
21・・・触媒リサイクル用管路
22・・・水素添加生成物用管路
23・・・トラップ
24・・・オーバーフロー(水素添加生成物)
26・・・隔壁
30・・・新たな触媒用の入口
32・・・消費された触媒をパージする配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のニトリル官能基を含む化合物の水素添加による少なくとも1個のアミン官能基を含む化合物の連続式合成方法であって、
・ラネー金属をベースとする触媒の懸濁粒子と無機塩基と水とを含む反応媒体が循環する栓流タイプの反応器に、水素及びニトリル化合物を含む気体を供給し、
・前記栓流反応器の出口において、触媒を分離した後のアミン化合物を含む反応媒体の一部分を取り出し、該反応媒体の残りの部分を前記栓流反応器にリサイクルし、
・前記の分離された触媒を前記栓流反応器にリサイクルし、
・新たな触媒流を前記栓流反応器に供給する
ことから成ること、並びに
前記栓流反応器へのニトリル化合物及び/又は触媒の供給流量を、15×10-5〜35×10-5モルH2/g触媒/秒の範囲の初期活性を示す触媒について、[単位時間当たりに供給されるニトリル化合物のモル数]対[前記栓流反応器中の触媒の重量流量]の比Pが触媒1kg当たりニトリル化合物0.02〜0.15モルの範囲に保たれるように調節すること
を特徴とする、前記合成方法。
【請求項2】
前記反応媒体が溶剤を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶剤が水素添加反応によって生成するアミンであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ニトリル化合物がアジポニトリルであり、合成されるアミンがヘキサメチレンジアミンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記栓流反応器の出口において触媒粒子のデカンテーションのための領域を含み、その上澄み相がアミンを含む媒体の取り出しを含む第1の外部ループを介して前記栓流反応器にリサイクルされ、デカンテーションされた相が第2の外部ループを介して前記栓流反応器にリサイクルされることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
消費された触媒を第2の外部ループから取り出し、前記栓流反応器の入口又は前記の第2の外部ループに新たな触媒を供給することを含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記の新たな触媒がバージン触媒、再生触媒又はそれらの混合物から成ることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記栓流反応器中の触媒の総重量を計算するために前記の第2の外部ループ中の触媒の濃度を測定することを含むことを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記触媒がラネーニッケル又はラネーコバルトをベースとすることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記触媒が元素周期表の第IIB族及び第IVB〜VIIB族の元素並びにそれらの組合せから選択される促進剤を含むことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記無機塩基がLiOH、NaOH、KOH、RbOH、CsOH及びそれらの混合物より成る群から選択されることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記無機塩基がKOH、NaOH及びそれらの混合物より成る群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記反応媒体中の塩基の量が、触媒1kg当たり塩基0.1モル〜触媒1kg当たり塩基2モルの範囲であることを特徴とする、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
反応温度が50℃〜150℃の範囲であり且つ水素圧力が0.1MPa〜10MPaの範囲であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−503720(P2010−503720A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528749(P2009−528749)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001476
【国際公開番号】WO2008/034964
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】