説明

ネガ型感光性平版印刷版

【課題】プラスチックフィルム支持体上に少なくとも親水性層、光重合性の感光層をこの順に有するネガ型感光性平版印刷版に於いて、高いレーザー感度を有していながら、画質が良好であり、耐刷性の高い性能を持ったネガ型感光性平版印刷版を提供する。特に水現像または印刷機上現像が可能なネガ型感光性平版印刷版を提供する。
【解決手段】プラスチックフィルム支持体上に、少なくとも親水性層、光重合性の感光層をこの順に塗設してなるネガ型感光性平版印刷版であって、親水性層が少なくとも水溶性ポリマー及び無機微粒子を含有し、更に親水性層の膜面のpH値が7.0以上にあるネガ型感光性平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチックフィルム支持体上に、少なくとも親水性層、光重合性の感光層をこの順に塗設してなるネガ型感光性平版印刷版であり、更には各種レーザーを用いて画像を形成するネガ型感光性平版印刷版に関する。特に750〜1100nmの近赤外レーザーや380〜430nmの青紫色半導体レーザーに感度を有するネガ型感光性平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
製版システムのデジタル化に伴いコンピューター画面上で組版したデータを、直接平版印刷版に出力するコンピュータートゥープレートシステム(CTP)に適した平版印刷版の需要が高まっている。近年、画像形成技術の進歩に伴い、各レーザー種に対して高感度を示す感光性平版印刷版が求められるようになっており、例えば、青紫色半導体レーザー(バイオレットレーザー)、アルゴンレーザー、ヘリウム・ネオンレーザー、赤色LED、近赤外レーザー、赤外レーザー等を用いた出力機に対応した高画質の感光性平版印刷版の研究が活発に行われている。
【0003】
従来から知られている光重合性の感光層を有する平版印刷版としては、例えば特開平9−134007号公報にはエチレン性不飽和結合を有するラジカル重合可能な化合物と光増感色素と重合開始剤を含有する平版印刷版が開示されており、特開平5−5988号公報、特開平5−194619号公報、特開2000−98603号公報等には、有機ホウ素アニオンと色素との組み合わせが開示されており、特開平4−31863号公報、特開平6−43633号公報等には色素とs−トリアジン系化合物との組み合わせが開示されており、特開平7−20629号公報、特開平7−271029号公報等にはレゾール樹脂、ノボラック樹脂、赤外線吸収剤及び光酸発生剤の組み合わせが開示されており、特開平11−212252号公報、特開平11−231535号公報等には特定の重合体と光酸発生剤と近赤外増感色素の組み合わせが開示されており、特開2001−290271号公報等には、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有する重合体を用いた感光性組成物が開示されている。しかしながら、画質及び耐刷性について充分満足できるものではなく、更なる改善が求められていた。
【0004】
一方、上記光重合性の感光性平版印刷版の処理工程は、自動現像機を用いるのが一般的であるが、自動現像機には現像槽、水洗槽、現像停止槽、ガム液槽等が必要であり、必然的に機器の占有面積は大きくなる。また、現像工程には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸カリウム等の強アルカリ性化合物を溶解したpH値が10.0以上のアルカリ性現像液が一般的に使用される。また現像処理工程を安定にするため、自動現像機の各液は、液補充等により安定化を図っており、掛かる処理液費用や廃液費用のコスト面、更に環境負荷の観点からも大きな課題であった。
【0005】
煩雑な処理液の管理が不要であり、機器の占有面積がよりコンパクトになる水現像または印刷機上での現像が可能ないわゆるプロセスレス印刷版システムが近年特に望まれており、各社から発表されている。現在までのところ、プロセスレス印刷版としては、インクジェット方式あるいは感熱転写方式を利用するもの、及びレーザー光を利用する方式として、アブレーション方式を利用するもの、熱融着タイプのもの、及びマイクロカプセル型等が挙げられる。
【0006】
インクジェット方式あるいは熱転写方式を利用する例としては、特開2000−158839号公報、特開2004−167973号公報、特開平9−99662号公報等に記載される系が挙げられる。これらは、後述するレーザー光を利用する方式に比べて画質が大きく劣る問題があり、且つ画像部耐刷性や非画像部保水性等の印刷性が充分ではない。
【0007】
一方、レーザー光を利用する方式として、アブレーション方式に関しては、例えば、特開平8−507727号公報、特開平6−186750号公報、特開平6−199064号公報、特開平7−314934号公報、特開平10−58636号公報、特開平10−244773号公報等に記載されているものが挙げられる。熱融着タイプは、例えば、特許2938397号公報、特開2001−88458号公報、特開2001−39047号公報、特開2004−50616号公報及び特開2004−237592号公報などに記載される熱により熱融着性微粒子を融着させる方式を利用するものが挙げられ、また、上記熱により熱融着性微粒子を融着させる方式において特開2003−312157号公報(特許文献1)には、支持体と隣接する層の塗布液のpHを10〜13の間に設定することで、支持体との接着を改善する方策が挙げられている。マイクロカプセル型に関しては、特開2002−29162号公報、特開2002−46361号公報、特開2002−137562号公報、特開2004−66482号公報等にみられるような、マイクロカプセルあるいは微粒子に光重合性機能を付与した素材を使用し、光重合により、これらを硬化させるタイプのものである。これらのレーザー光を利用する方式の共通する課題として、画像部の耐刷性及び画質が充分なレベルには達しておらず、また感度も低い。
【0008】
他方、プロセスレス印刷版システムの中でレーザー光を利用した光重合系の印刷版システムとして、特開2003−215801号公報(特許文献2)が挙げられる。これは水現像可能な感光性組成物として、側鎖にフェニル基を介してビニル基が結合したカチオン性もしくはアニオン性の水溶性ポリマー、光重合開始剤または酸発生剤を用いる系が開示されている。このシステムは非常に高いレーザー感度を有しているが、画質や画像部の耐刷性に於いて、まだ充分に満足できるレベルではない。
【0009】
平版印刷版の中で、プラスチックフィルムの様なフレキシブルな素材を支持体(フィルム支持体)として用いる場合がある。これらはアルミニウム支持体に比して軽量であり、且つロール状に形成が可能であり、コンパクトに露光装置に収納できるメリットがある。フィルム支持体を有する平版印刷版は、支持体上に親水性層を有するのが一般的であり、例えば特公昭49−2286号公報に記載のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリレート系ポリマーによる親水性樹脂層、特公昭56−2938号公報に記載の尿素樹脂と顔料から構成される親水性層、特開昭48−83902号公報に記載のアクリルアミド系ポリマーをアルデヒド類で硬化させて得られる親水性層、特開昭62−280766号公報に記載の水溶性メラミン樹脂、ポリビニルアルコール、水不溶性無機粉体を含有する組成物を硬化させて得られる親水性層、特開平8−184967号公報に記載の側鎖にアミジノ基を有する繰り返し単位を含む水溶性ポリマーを硬化して得られる親水性層、特開平8−272087号公報に記載の親水性(共)重合体を含有し、加水分解されたテトラアルキルオルソシリケートで硬化された親水性層、特開平10−296895号公報に記載のオニウム基を有する親水性層、特開平11−311861号公報に記載のルイス塩基部分を有する架橋親水性ポリマーを多価金属イオンとの相互作用によって三次元架橋させて得られる親水性層、特開2000−122269号公報に記載の親水性樹脂及び水分散性フィラーを含有する親水性層等が挙げられるが、何れの系に於いても画質、非画像部の保水性、画像部の耐刷性に於いて、まだ充分に満足できるレベルではない。
【0010】
特開2000−158839号公報(特許文献3)には、ポリアクリル酸等のカルボキシル基を有する水溶性ポリマーとコロイダルシリカを特定の比率で含む親水性層をフィルム支持体上に形成し、インキ脱離性の良好な結果を示している。しかしながら、親水性層が印刷中に徐々に給湿液中に溶解あるいは膨潤する問題があり、耐刷性及び画質に於いて充分に満足できるレベルではない。
【特許文献1】特開2003−312157号公報
【特許文献2】特開2003−215801号公報
【特許文献3】特開2000−158839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明の目的は、プラスチックフィルム支持体上に少なくとも親水性層、光重合性の感光層をこの順に有するネガ型感光性平版印刷版に於いて、高いレーザー感度を有していながら画質が良好であり、耐刷性の高いネガ型感光性平版印刷版を提供することであり、特に水現像または印刷機上現像が可能なネガ型感光性平版印刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の発明によって達成された。
1)プラスチックフィルム支持体上に、少なくとも親水性層と光重合性の感光層をこの順に有するネガ型感光性平版印刷版であって、親水性層が少なくとも水溶性ポリマー及び無機微粒子を含有し、更に親水性層の膜面のpH値が7.0以上であるネガ型感光性平版印刷版。
2)前記光重合性の感光層が側鎖にビニル基が置換したフェニル基と水溶性基を有する共重合ポリマーを含有する1)に記載のネガ型感光性平版印刷版。
3)前記光重合性の感光層が光重合開始剤として有機ホウ素塩及び増感色素を含有する1)もしくは2)に記載のネガ型感光性平版印刷版。
4)前記親水性層が含有する水溶性ポリマーが下記一般式(1)で示されるポリマーである1)〜3)の何れかに記載のネガ型感光性平版印刷版。
【0013】
【化1】

【0014】
式中Xはポリマー組成中に占める繰り返し単位の質量%を表し、1から40までの任意の数値を表す。繰り返し単位Aは反応性基としてカルボキシ基、アミノ基、水酸基、アセトアセトキシ基から選ばれる基を有する繰り返し単位を表し、繰り返し単位Bはポリマーを水溶性にするために必要な親水性基を有する繰り返し単位を表す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高いレーザー感度を有していながら、画質が良好であり、耐刷性の高いネガ型感光性平版印刷版を提供することができ、更に水現像または印刷機上現像が可能なネガ型感光性平版印刷版を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のネガ型感光性平版印刷版は、プラスチックフィルム支持体上に少なくとも親水性層、光重合性の感光層をこの順に塗設してなるネガ型感光性平版印刷版であって、親水性層には少なくとも水溶性ポリマー及び無機微粒子を含有し、更に親水性層の膜面のpH値が7.0以上にあるネガ型感光性平版印刷版である。このネガ型感光性平版印刷版の層構成としては、支持体の上部に親水性層、光重合性の感光層をこの順に設ける層構成の他に、例えば、支持体と親水性層との間や親水性層と光重合性の感光層との間に中間層を設けても良いし、光重合性の感光層の上部(支持体を下にして)に保護層を設けても良いし、支持体の裏側(支持体からみて親水性層面の反対面)に裏層を設けても良い。
【0017】
本発明のネガ型感光性平版印刷版の一般的な製版方法は、光重合性の感光層面に画像状に露光を行い、露光部に於いて重合反応を起こし、後に後述する現像処理を行い、未露光部の感光層は溶解もしくは剥離されて親水性層が表面に露出し、露光部は残余する。印刷時には露光部にインキが付着し未露光部には給湿液が付着しオフセット印刷が行われる。
【0018】
[親水性層が含有する水溶性ポリマー]
本発明のネガ型感光性平版印刷版の親水性層が含有する水溶性ポリマーは、後述する本発明で好ましく使用できる公知の種々の硬膜剤で硬膜可能な公知の水溶性ポリマーを用いることができる。こうした例としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水酸基を有する水溶性ポリマーや、ポリアクリル酸、ポリスチレン−マレイン酸共重合体、ポリ酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、カルボキシメチルセルロース等のカルボキシ基を有する水溶性ポリマー、及びポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等のアミノ基を有する水溶性ポリマー等を挙げることができる。尚、本発明の水溶性ポリマーの分子量は特に制限はないが、平均分子量が3000以上1000000以下であることが好ましい。また、本発明の水溶性ポリマーの好ましい量は親水性層1平方メートル当たり50mgから10gの間で含まれるのが好ましい。
【0019】
本発明の好ましい水溶性ポリマーとしては、下記一般式(1)で示されるポリマーが挙げられる。該ポリマーを用いることで、特に画質及び耐刷性に優れたネガ型感光性平版印刷版が得られる。
【0020】
【化2】

【0021】
式中Xはポリマー組成中に占める繰り返し単位の質量%を表し、1から40までの任意の数値を表す。繰り返し単位Aは反応性基としてカルボキシ基、アミノ基、水酸基、アセトアセトキシ基から選ばれる基を有する繰り返し単位を表し、繰り返し単位Bはポリマーを水溶性にするために必要な親水性基を有する繰り返し単位を表す。繰り返し単位Aによって後述する硬膜剤と反応し充分な膜強度を付与することで耐刷性が向上し、繰り返し単位Bにより現像時に未露光部の感光層の現像性(溶解性)が促進されることで、画質を向上させると推測される。
【0022】
上記一般式(1)で示される水溶性ポリマーは後述する硬膜剤との間で効率的に硬膜反応が進行するための反応性基を分子内に含むことが重要である。こうした反応性基として特に好ましい例は、カルボキシ基、アミノ基、水酸基、アセトアセトキシ基が挙げられる。これらの反応性基を分子内に有する水溶性ポリマーを得るには、反応性基を有する各種モノマーを共重合する形で組み込むことが好ましく行われる。上記一般式(1)で示す繰り返し単位Aに対応するモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、2−カルボキシエチルアクリレート、2−カルボキシエチルメタクリレート、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン、アクリルアミド−N−グリコール酸等のカルボキシ基含有モノマー及びこれらの塩、アリルアミン、ジアリルアミン、2−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレート、2−ジエチルアミノエチルアクリレート、2−ジエチルアミノエチルメタクリレート、3−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、4−アミノスチレン、4−アミノメチルスチレン、N,N−ジメチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン、N,N−ジエチル−N−(4−ビニルベンジル)アミン等のアミノ基含有モノマー、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール等の含窒素複素環含有モノマー、N−メチロールアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセロールモノメタクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類及びアセトアセトキシメタクリレート等が挙げられるが、これらの例に限定されるものではない。
【0023】
上記一般式(1)において、繰り返し単位Aの共重合体中に於ける割合であるXは1から40であり、この範囲より少なければ硬膜反応が進行しても充分な膜強度が得られない場合があり、この範囲より多ければ、下記の水溶性を付与するための繰り返し単位Bの導入による効果が薄れ、親水性層の水に対する親和性が低下する場合がある。
【0024】
更に、一般式(1)における繰り返し単位Bを与えるためのモノマーとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー及びこれらの塩、ビニルホスホン酸等のリン酸基含有モノマー及びこれらの塩、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、アクリル酸−2−(トリメチルアンモニオ)エチルエステル、メタクリル酸−2−(トリメチルアンモニオ)エチルエステル、アクリル酸−2−(トリエチルアンモニオ)エチルエステル、メタクリル酸−2−(トリエチルアンモニオ)エチルエステル、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリメチル−N−(4−ビニルベンジル)アンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基含有(メタ)アクリレート類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これら水溶性モノマーは繰り返し単位Bを構成するために1種で用いても良いし、任意の2種類以上を用いても良い。本発明に於ける好ましい水溶性ポリマーの具体例を下記に示す。尚、本発明に於いて水溶性とは1Lの水に水溶性ポリマーが0.5g以上溶解することを意味する。
【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
[親水性層が含有する無機微粒子]
本発明のネガ感光性平版印刷版の親水性層が含有する無機微粒子は、コロイダルシリカ、二酸化チタン粒子、アルミナ粒子(例えば酸化アルミニウム水和物、水酸化アルミニウム)、ゼオライト、その他の金属酸化物からなる粒子等が挙げられる。また、これらの無機微粒子は粒子表面に表面処理がなされていても良い。本発明の好ましい無機微粒子はコロイダルシリカ、二酸化チタン粒子であり、特に優れた画質と耐刷性が得られる。この理由としては、無機微粒子が親水性層の表面上で重合性の感光層と接触することで、現像時に於いて重合性の感光層の未露光部の現像が促進されることで高画質の印刷物が得られ、一方、上記の水溶性ポリマーと後述する親水性層のpH値を調整することと併せて、親水性層の無機微粒子の凝集が起こり、親水性層の表面上に適度な凹凸が形成され、現像後に残余する感光層の露光部は、充分な耐刷性が付与されるものと推測される。尚、好ましい態様である親水性層の表面の適度な凹凸とは、表面粗さRa値として0.05以上5.0以下であり、より好ましくは0.07以上1.0以下である。
【0028】
本発明に好ましく用いられるコロイダルシリカとは、光散乱方式粒度分布計で計測される平均粒子径が好ましくは5〜200nmである球状、針状、不定形あるいは、球状粒子が連なってできるネックレス状などの種々の形状、粒子径のシリカ粒子であり、水中に安定的に分散したシリカゾルが好ましく用いられる。こうした素材は、例えば日産化学工業(株)からスノーテックスの商品名で各種のコロイダルシリカが提供されており、球状のシリカゾルとしてスノーテックスXS(粒子径4〜6nm)、スノーテックスS(粒子径8〜11nm)、スノーテックス20(粒子径10〜20nm)、スノーテックスXL(粒子径40〜60nm)、スノーテックスYL(粒子径50〜80nm)、スノーテックスZL(粒子径70〜100nm)、スノーテックスMP−2040(粒子径200nm)及び表面のナトリウム塩を除去した酸性タイプのシリカゾルとしてスノーテックスOXS、OS等が好ましく使用できる。針状あるいは不定形のシリカゾルとして、例えばスノーテックスUP、OUPや触媒化成工業(株)から出されているファインカタロイドF−120等が挙げられる。ネックレス状のシリカゾルとして、スノーテックスPS−S(粒子径80〜120nm)、PS−M(粒子径80〜150nm)及びこれらの酸性タイプであるPS−SO及びPS−MO等が挙げられる。
【0029】
本発明に好ましく用いられる二酸化チタン粒子とは、平均粒子径が10〜800nmの間にある球状粒子が好ましく、その製造方法は塩素法、硫酸法がありアナタース型、ルチル型、ブルカライト型等があるが、好ましくはルチル型の二酸化チタンを無機物で表面処理したものである。二酸化チタン表面の無機処理としては、アルミナ処理、シリカ処理、ジルコニア処理、亜鉛処理、錫処理、アンチモン処理などがあり、それぞれの酸化物が用いられる。これらの中でもシリカ処理、ジルコニア処理、亜鉛処理が好ましく、特にシリカ処理、ジルコニア処理が好ましい。また、これらの無機処理は複合処理であっても良く、例えば、シリカとアルミナの複合処理、ジルコニアとアルミナの複合処理、シリカ、ジルコニア及びアルミナの複合処理が挙げられる。このような二酸化チタン粒子は、例えば堺化学工業(株)からR−11P(粒子径200nm)、R−21(粒子径200nm)、R−61N(粒子径260nm)、R−5N(粒子径250nm)、R−45M(粒子径290nm)、A−110(粒子径150nm)、A−190(粒子径150nm)、石原産業(株)からTTO−55A(粒子径30〜50nm)、TTO−55D(粒子径30〜50nm)として市販されている。
【0030】
親水性層に含まれる無機微粒子は、各々の種類の無機微粒子を単独で使用しても良いが、あるいは異なる種類の無機微粒子を種々の割合で混合して用いても良い。上述したような無機微粒子の含有量は水溶性ポリマー1質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、特に好ましくは0.5〜5質量部の範囲で含まれることである。
【0031】
[親水性層が含有する硬膜剤]
本発明の親水性層には上記水溶性ポリマーを硬膜するための硬膜剤を含有することが好ましい。かかる硬膜剤としては、公知の種々の化合物が挙げられる。具体的にはエポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物及びその誘導体、ホルマリン等のアルデヒド化合物及びメチロール化合物、ヒドラジド化合物などが好ましい例として挙げられる。
【0032】
エポキシ化合物としては分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物で、水溶性であるものが好ましく使用される。好ましいエポキシ化合物の具体例を下記に示す。
【0033】
【化5】

【0034】
上記のようなエポキシ化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に硬膜反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、カルボキシ基やアミノ基が特に好ましい。
【0035】
アジリジン化合物として好ましい化合物の具体例を下記に示す。こうしたアジリジン化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に硬膜反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、カルボキシ基が特に好ましい。
【0036】
【化6】

【0037】
オキサゾリン化合物としては、置換基として下記一般式(2)で示す基を分子内に2個以上含む化合物が好ましく、市販される各種化合物として例えば(株)日本触媒からエポクロスの商品名で提供される各種グレードの化合物が好ましく使用される。こうしたオキサゾリン化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に硬膜反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、カルボキシ基が特に好ましい。
【0038】
【化7】

【0039】
イソシアネート化合物としては、水中で安定である化合物が好ましく、いわゆる自己乳化性イソシアネート化合物や、ブロックイソシアネート化合物が好ましく使用される。自己乳化性イソシアネート化合物としては、例えば、特公昭55−7472号公報(米国特許第3,996,154号明細書)、特開平5−222150号公報(米国特許第5,252,696号明細書)、特開平9−71720号公報、特開平9−328654号公報、特開平10−60073号公報等に記載されるような自己乳化性イソシアネートを指す。こうしたイソシアネート化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に硬膜反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、水酸基やアミノ基が特に好ましい。
【0040】
ホルムアルデヒド、グリオキサール等のアルデヒド化合物及びメチロール化合物の例としては、ホルムアルデヒド、グリオキザール、及び下記に示すような種々のN−メチロール化合物を例示することができる。こうした化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に硬膜反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、カルボキシ基や水酸基やアミノ基が特に好ましい。
【0041】
【化8】

【0042】
ヒドラジド化合物として好ましく使用できる化合物の具体例を下記に示す。こうしたヒドラジド化合物と該水溶性ポリマーとの間で効率的に硬膜反応が進行するためには、該水溶性ポリマー中に含まれる反応性基としては、アセトアセトキシ基のような活性メチレン基が特に好ましい。
【0043】
【化9】

【0044】
上記のような種々の硬膜剤と該水溶性ポリマーとの比率に関しては好ましい範囲が存在する。該水溶性ポリマー100質量部に対して硬膜剤は1〜40質量部の範囲で用いることが好ましく、1質量部未満では印刷中に親水性層の剥離が生じる場合がある。逆に40質量部を超えて用いた場合には、地汚れが発生する場合がある。
【0045】
[親水性層の膜面のpH値]
本発明において、親水性層の膜面のpH値を7.0以上に調整することが必要である。好ましい態様はpH値を7.0〜12.0の間に調整することであり、より好ましい態様はpH値を8.0〜10.0の間に調整することである。これにより画質及び耐刷性が向上する。画質及び耐刷性が向上する理由としては、親水性層が中性〜アルカリ性になるため、親水性の高い膜面が形成され、現像処理時においては未露光部の重合性の感光層の現像をより促進することで画質が向上し、一方、該pH値の調整により親水性層の塗布液を塗設した後の乾燥工程において、上述した無機微粒子の凝集によって親水性層の表面上に適度な凹凸が形成されるため、現像後に残余する露光部の重合性の感光層は充分な耐刷性が付与されるものと推測される。尚、親水性層の膜面のpH値を7.0以上に調整するために、親水性層はアルカリ性無機化合物(例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等)、アルカリ性有機化合物(例えばトリエチルアミン等)等を含有しても良い。親水性層の膜面のpH値は、親水性層上に極僅かなイオン交換水を付与し、市販されている膜面測定用のpH測定器を用いて測定できる。
【0046】
本発明の親水性層は、公知の種々の塗布方式を用いてプラスチックフィルム支持体上に親水性層の塗布液を塗布し、乾燥して得られる。塗布方式としては、例えばロールコーティング、ディップコーティング、エアナイフコーティング、グラビアコーティング、ホッパーコーティング、ブレードコーティング、ワイヤドクターコーティング等が挙げられる。この親水性層の塗布液は水を主溶媒とするのが好ましく、前述の水溶性ポリマー、無機微粒子、pH調整剤及び硬膜剤の他に界面活性剤、有機溶剤(例えばエタノール、アセトン、テトラヒドロフラン等)等を含有することができる。乾燥工程は一般的なドライヤー設備を用いることができ、乾燥温度に制限はないが30〜150℃の範囲内が好ましい。
【0047】
親水性層の乾燥塗布量に関しては好ましい範囲が存在し、プラスチックフィルム支持体上に乾燥質量で1平方メートルあたり0.2gから10gの範囲で形成することが好ましく、最も好ましい範囲は1平方メートルあたり0.5〜3gの間である。
【0048】
[光重合性の感光層が含有するポリマー]
本発明のネガ型感光性平版印刷版が有する光重合性の感光層とは、具体的には重合性二重結合を有するモノマーを共重合成分として含むポリマーと、光重合開始剤を含有する感光層である。重合性二重結合を有するモノマーとしては例えばアリルアクリレート、アリルメタクリレート、ビニルアクリレート、ビニルメタクリレート、1−プロペニルアクリレート、1−プロペニルメタクリレート、β−フェニルビニルメタクリレート、β−フェニルビニルアクリレート、ビニルメタクリルアミド、ビニルアクリルアミド、α−クロロビニルメタクリレート、α−クロロビニルアクリレート、β−メトキシビニルメタクリレート、β−メトキシビニルアクリレート、ビニルチオアクリレート、ビニルチオメタクリレート等を挙げることができる。
【0049】
上記のポリマーの好ましい態様として、重合性二重結合を有するモノマーと水溶性基含有モノマー(例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン、4−スルホスチレン、アクリロニトリル等)を共重合成分として含む側鎖に重合性二重結合と水溶性基を有する共重合ポリマーがある。ポリマー構造中に水溶性基を含むことで、未露光部の感光層の現像性が促進され、画質がより向上すると推測される。
【0050】
上述した共重合ポリマーのより好ましい態様として、重合性二重結合を有するモノマーとしてビニル基が置換したフェニル基を有するモノマーを共重合成分として含む、側鎖にビニル基が置換したフェニル基と水溶性基を有する共重合ポリマーが挙げられる。ビニル基が置換したフェニル基とは、ベンゼン環やナフタレン環等の芳香族環にビニル基が置換されており、該ビニル基はハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等で置換されていても良く、また芳香族環にも置換基を有していても良い。ポリマー構造中の側鎖にビニル基が置換したフェニル基と水溶性基を有する共重合ポリマーを光重合性の感光層に含有せしめることで、発生するラジカルにより生成するスチリルラジカル同士の再結合により高感度なネガ型感光性平版印刷版が得られる。しかし高感度である反面、光量にリニアに依存し画像が形成されるために、画質が悪化するという問題を有する。ビニル基が置換したフェニル基とは、詳細には下記一般式(3)で表される。
【0051】
【化10】

【0052】
式中、R11、R12及びR13は、同じであっても異なっていても良く、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基から選ばれる基を表し、これらの基を構成するアルキル基及びアリール基は、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等で置換されていても良い。これらの基の中でも、R11が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(例えばメチル基、エチル基等)であり、R12及びR13が水素原子であるものが特に好ましい。
【0053】
式中、R14は水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基から選ばれる基を表す。また、これらの基を構成するアルキル基及びアリール基は、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等で置換されていても良い。
【0054】
式中、m1は0〜4の整数を表し、p1は0または1の整数を表す。また、L1は炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子から選ばれる原子または水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子群からなる多価の連結基を表す。
【0055】
1を構成する複素環の例としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらの複素環は置換基を有していても良い。
【0056】
上述した多価の連結基が置換基を有する場合、置換基としては、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基等が挙げられる。
【0057】
共重合ポリマーの最も好ましい態様として、重合性二重結合を有するモノマーとしてビニル基が置換したフェニル基を有するモノマーと、水溶性基含有モノマーとして構造中にカルボキシ基を有するモノマー(例えばアクリル酸、メタクリル酸、4−カルボキシスチレン、カルボキシエチルアクリレート等)を共重合成分として含む、側鎖にビニル基が置換したフェニル基とカルボキシ基を有する共重合ポリマー(以降、カルボン酸型ポリマーと称する)が挙げられる。このカルボン酸型ポリマーにより画質が向上する。この理由としてはカルボン酸型ポリマーが有するカルボキシ基が、現像処理時に現像液に含有するアルカリ性物質(例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエチルアミン等)と塩を形成し、より未露光部の重合性の感光層の現像が促進され、画質が向上するものと推測される。従って、カルボン酸型ポリマーを用いる場合は、現像処理に於いて後述するアルカリ性現像液を用いる方法(以降、アルカリ現像と称する)が好ましい。尚、アルカリ性現像液のpH値は10.0以上である。
【0058】
本発明に於けるカルボン酸型ポリマーの具体例を下記に示す。
【0059】
【化11】

【0060】
また共重合ポリマーの最も好ましい態様として、重合性二重結合を有するモノマーとしてビニル基が置換したフェニル基を有するモノマーと水溶性基含有モノマーとして構造中にスルホン酸基を有しているモノマー(例えば3−スルホプロピルメタクリレート、4−スルホスチレン、4−スルホ−n−ブチルメタクリルアミド、スルホ−tert−ブチルアクリルアミド等)を共重合成分として含む、側鎖にビニル基が置換したフェニル基とスルホン酸基を有する共重合ポリマー(以降、スルホン酸型ポリマーと称する)が挙げられ、該スルホン酸基は塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、トリエチルアンモニウム塩、リチウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等)を形成していても良い。このスルホン酸型ポリマーは構造中に有するスルホン酸基が水溶性を高めるため、上述したアルカリ性現像液を用いても良いが、現像液のpH値が4.0以上10.0未満の範囲内にある中性現像液(水現像液)を用いる方法(以降、水現像と称する)、または露光後の露光済み版を印刷機に装着して印刷機上で現像を行う方法(以降、機上現像と称する)が可能となる。また前述のカルボン酸型ポリマーと同様、側鎖にビニル基が置換したフェニル基を有することで、高感度化が可能となる。
【0061】
本発明に於けるスルホン酸型ポリマーの具体例を下記に示す。
【0062】
【化12】

【0063】
[感光層が含有する光重合開始剤]
本発明のネガ型感光性平版印刷版の光重合性の感光層には光重合開始剤が含まれる。本発明に用いられる光重合開始剤としては、光または電子線の照射によりラジカルを発生しうる化合物であれば任意の化合物を用いることができる。
【0064】
本発明に用いることのできる光重合開始剤の例としては(a)有機ホウ素塩化合物、(b)芳香族オニウム塩化合物、(c)有機過酸化物、(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物、(e)ケトオキシムエステル化合物、(f)アジニウム塩化合物、(g)活性エステル化合物、(h)メタロセン化合物、(i)トリハロアルキル置換化合物、(j)芳香族ケトン類等が挙げられ、特に好ましい光重合開始剤は(a)有機ホウ素塩化合物である。
【0065】
(a)有機ホウ素塩化合物の例としては、特開平8−217813号公報、特開平9−106242号公報、特開平9−188685号公報、特開平9−188686号公報、特開平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素アンモニウム化合物、特開平6−175561号公報、特開平6−175564号公報、特開平6−157623号公報等に記載の有機ホウ素スルホニウム化合物及び有機ホウ素オキソスルホニウム化合物、特開平6−175553号公報、特開平6−175554号公報等に記載の有機ホウ素ヨードニウム化合物、特開平9−188710号公報等に記載の有機ホウ素ホスホニウム化合物、特開平6−348011号公報、特開平7−128785号公報、特開平7−140589号公報、特開平7−292014号公報、特開平7−306527号公報等に記載の有機ホウ素遷移金属配位錯体化合物等が挙げられる。また、特開昭62−143044号公報、特開平5−194619号公報等に記載の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有するカチオン性色素が挙げられる。
【0066】
(b)芳香族オニウム塩化合物の例としては、N、P、As、Sb、Bi、O、S、Se、TeまたはIの芳香族オニウム塩が含まれる。このような芳香族オニウム塩化合物は特公昭52−14277号公報、特公昭52−14278号公報、特公昭52−14279号公報等に例示されている化合物を挙げることができる。
【0067】
(c)有機過酸化物の例としては、分子中に酸素−酸素結合を一個以上有する有機化合物のほとんど全てが含まれるが、例えば、3,3′,4,4′−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−アミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−ヘキシルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(tert−オクチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(クミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3′,4,4′−テトラ(p−イソプロピルクミルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、ジ(tert−ブチルジパーオキシ)イソフタレート等の過酸化エステル系が好ましい。
【0068】
(d)ヘキサアリールビイミダゾール化合物の例としては、特公昭45−37377号公報、同昭44−86516号公報に記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
【0069】
(e)ケトオキシムエステル化合物の例としては、3−ベンゾイロキシイミノブタン−2−オン、3−アセトキシイミノブタン−2−オン、3−プロピオニルオキシイミノブタン−2−オン、2−アセトキシイミノペンタン−3−オン、2−アセトキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ベンゾイロキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン、3−(p−トルエンスルホニルオキシイミノ)ブタン−2−オン、2−エトキシカルボニルオキシイミノ−1−フェニルプロパン−1−オン等が挙げられる。
【0070】
(f)アジニウム塩化合物の例としては、特開昭63−138345号公報、特開昭63−142345号公報、特開昭63−142346号公報、特開昭63−143537号公報、特公昭46−42363号公報等に記載のN−O結合を有する化合物群を挙げることができる。
【0071】
(g)活性エステル化合物の例としては特公昭62−6223号公報等に記載のイミドスルホネート化合物、特公昭63−14340号公報、特開昭59−174831号公報等に記載の活性スルホネート類を挙げることができる。
【0072】
(h)メタロセン化合物の例としては、特開昭59−152396号公報、特開昭61−151197号公報、特開昭63−41484号公報、特開平2−249号公報、特開平2−4705号公報等に記載のチタノセン化合物ならびに、特開平1−304453号公報、特開平1−152109号公報等に記載の鉄−アレーン錯体等を挙げることができる。
【0073】
(i)トリハロアルキル置換化合物の例としては、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、米国特許第3,954,475号明細書、米国特許第3,987,037号明細書、米国特許第4,189,323号明細書、特開昭61−151644号公報、特開昭63−298339号公報、特開平4−69661号公報、特開平11−153859号公報等に記載のトリハロメチル−s−トリアジン化合物、特開昭54−74728号公報、特開昭55−77742号公報、特開昭60−138539号公報、特開昭61−143748号公報、特開平4−362644号公報、特開平11−84649号公報等に記載の2−トリハロメチル−1,3,4−オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。また、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環あるいは含窒素複素環に結合した、特開2001−290271号公報等に記載のトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0074】
(j)芳香族ケトン類の好ましい例としては、「RADIATION CURING IN POLYMER SCIENCE AND TECHNOLOGY」 J.P.FUOASSIER,J.F.RABEK(1993)、P.77〜P.177に記載のベンゾフェノン骨格、あるいはチオキサントン骨格を有する化合物、特公昭47−6416号公報に記載のα−チオベンゾフェノン化合物、特公昭47−3981号公報に記載のベンゾインエーテル化合物、特公昭47−22326号公報に記載のα−置換ベンゾイン化合物、特公昭47−23664号公報に記載のベンゾイン誘導体、特開昭57−30704号公報に記載のアロイルホスホン酸エステル、特公昭60−26483号公報に記載のジアルコキシベンゾフェノン類、特公昭60−26403号公報、特開昭62−81345号公報に記載のベンゾインエーテル類、特開平2−211452号公報に記載のp−ジ(ジメチルアミノベンゾイル)ベンゼン、特開昭61−194062号公報に記載のチオ置換芳香族ケトン、特公平2−9597号公報に記載のアシルホスフィンスルフィド、特公平2−9596号公報に記載のアシルホスフィン類、特公昭63−61950号公報に記載のチオキサントン類、特公昭59−42864号公報に記載のクマリン類を挙げることができる。
【0075】
本発明に用いられる光重合開始剤には光酸発生剤として知られている化合物も含まれる。光酸発生剤は、光または電子線の照射により分解し、塩酸、スルホン酸等の強酸やルイス酸の如き酸を発生しうる化合物であれば任意の化合物を用いることができる。本発明に用いることのできる光酸発生剤の例としては、(k)芳香族ジアゾニウム塩化合物、(l)ピバリン酸−o−ニトロベンジルエステル、ベンゼンスルホン酸−o−ニトロベンジルエステル等のo−ニトロベンジルエステル類、(m)9,10−ジメトキシアントラセン−2−スルホン酸−4−ニトロベンジルエステル、ピロガロールトリスメタンスルホネート、ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸エステル類等のスルホン酸エステル誘導体、(n)ジベンジルスルホン、4−クロロフェニル−4′−メトキシフェニルジスルホン等のスルホン類、(o)リン酸エステル誘導体及び(p)米国特許第3,332,936号明細書、特開平2−83638号公報、特開平11−322707号公報、特開2000−1469号公報等に記載のスルホニルジアゾメタン化合物等を挙げることができる。
【0076】
本発明で特に好ましい光重合開始剤である有機ホウ素塩化合物は、有機ホウ素塩から構成されており、有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記一般式(4)で表される。
【0077】
【化13】

【0078】
式中、R21、R22、R23及びR24は各々同じであっても異なっていても良く、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R21、R22、R23及びR24の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0079】
上記の有機ホウ素アニオンは、これと塩を形成するカチオンが同時に存在する。この場合のカチオンとしては、アルカリ金属イオン、オニウムイオン及びカチオン性増感色素が挙げられる。オニウム塩としては、アンモニウム、スルホニウム、ヨードニウム及びホスホニウム化合物が挙げられる。アルカリ金属イオンまたはオニウム化合物と有機ホウ素アニオンとの塩を用いる場合には、別に増感色素を添加することで色素が吸収する光の波長範囲での感光性を付与することが行われる。また、カチオン性増感色素の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを含有する場合は、該増感色素の吸収波長に応じて感光性が付与される。しかし、後者の場合は更にアルカリ金属もしくはオニウム塩の対アニオンとして有機ホウ素アニオンを併せて含有するのが好ましい。
【0080】
本発明に用いられる有機ホウ素塩としては、先に示した一般式(4)で表される有機ホウ素アニオンを含む塩であり、塩を形成するカチオンとしてはアルカリ金属イオン及びオニウム化合物が好ましく使用される。特に好ましい例は、有機ホウ素アニオンとのオニウム塩として、テトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の具体例を下記に示す。
【0081】
【化14】

【0082】
【化15】

【0083】
本発明において、有機ホウ素塩とともに用いることで更に高感度化、硬調化が具現される光重合開始剤としてトリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体及びオキサジアゾール誘導体が挙げられ、あるいは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環あるいは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0084】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい具体例を下記に示す。
【0085】
【化16】

【0086】
【化17】

【0087】
上記光重合開始剤は単独で用いても良いし、任意の2種以上の組み合わせで用いても良い。光重合開始剤の含有量は、重合性二重結合を有するモノマーを共重合成分として含むポリマーの100質量部に対して、1〜100質量部の範囲が好ましく、更に1〜40質量部の範囲が特に好ましい。
【0088】
[光重合性の感光層が含有する増感色素]
本発明のネガ型感光性平版印刷版の光重合性の感光層には増感色素が含まれることが好ましい。かかる増感色素は増感色素が有する吸収極大波長に前述の光重合開始剤を増感するものである。これにより各種レーザー(例えば青紫色半導体レーザー、近赤外レーザー)による露光に対応することが可能になる。そして前記光重合開始剤が有機ホウ素塩である場合、該増感色素と組み合わせることで、各種レーザー光に対する感度が非常に高くなる特徴を有する。しかしながらこの様な高感度なネガ型感光性平版印刷版は各種レーザー光で露光する場合、画像端部がレーザー光のエネルギー分布に依存し、画像端部のシャープネスが損なわれ画質の低下を招く問題があった。またレーザー光のエネルギー分布に伴い、画像部の光重合が不十分になり、重合不十分な画像端部は印刷での画像の変化を招き、耐刷性不良の原因にもなっていた。しかしながら上述した本発明の親水性層を用いることで、高いレーザー感度を有していながら、画質が良好であり、耐刷性の高い性能を発現できる。前述の増感色素は、具体的には380〜1300nmの波長域において光重合開始剤の分解を増感するものであり、種々のカチオン性色素、アニオン性色素及び電荷を有しない中性の色素としてメロシアニン、クマリン、キサンテン、チオキサンテン、アゾ色素等が使用できる。本発明に関わる増感色素の具体例を以下に示す。
【0089】
【化18】

【0090】
【化19】

【0091】
本発明の増感色素として、青紫色半導体レーザー(バイオレットレーザー)対応のため、380〜430nmの波長領域の光に感光性を持たせる系が特に好ましく、増感色素として、こうした波長領域に吸収を有することが必要であり、こうした目的で使用される特に好ましい具体例を以下に示す。
【0092】
【化20】

【0093】
本発明の増感色素として、近赤外レーザー対応のため、750〜1100nmの波長領域の光に感光性を持たせる系が特に好ましく、増感色素として、こうした波長領域に吸収を有することが必要であり、こうした目的で使用される特に好ましい具体例を以下に示す。
【0094】
【化21】

【0095】
上記増感色素は単独で用いても良いし、任意の2種以上の組み合わせで用いても良い。増感色素の含有量は、重合性二重結合を有するモノマーを共重合成分として含むポリマーの100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲が好ましく、更に0.5〜20質量部の範囲が特に好ましい。
【0096】
光重合性の感光層を構成する他の要素として着色剤の添加も好ましく行うことができる。着色剤としては露光及び現像処理後に於いて画像部の視認性を高める目的で使用されるものであり、カーボンブラック、フタロシアニン系色素、トリアリールメタン系色素、アントラキノン系色素、アゾ系色素等の各種の色素及び顔料を使用することができる。
【0097】
光重合性の感光層を構成する要素については上述の要素以外にも種々の目的で他の要素を追加して含有することもできる。例えば感光層組成物のブロッキングを防止する目的で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0098】
光重合性の感光層の乾燥塗布量に関しては好ましい範囲が存在し、乾燥質量で1平方メートルあたり0.2gから5gの範囲で形成することが好ましく、最も好ましい範囲は1平方メートルあたり0.5gから3gの範囲である。
【0099】
[支持体]
本発明のネガ型感光性平版印刷版の支持体には、各種プラスチックフィルムが挙げられる。プラスチックフィルム支持体として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、硝酸セルロースなどが代表的に挙げられ、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましく用いられる。これらのフィルムは親水性層を設ける前に、表面に親水化加工が施されていることが好ましく、こうした親水化加工としては、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。更なる親水化加工として基材上に設ける親水性層との接着性を高めるため基材上に中間層を設けても良い。中間層としては、親水性樹脂を主成分とする層が有効である。親水性樹脂としては、ゼラチン、ゼラチン誘導体(例えば、フタル化ゼラチン)、ヒドロキエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、キサンタン、カチオン性ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等の水溶性樹脂が好ましい。
【0100】
[現像処理方法]
本発明のネガ型感光性平版印刷版の現像処理方法に於いて、露光部は光重合性の感光層が光重合反応を起こしているため、画像状に残余し(画像部)、未露光部は現像処理によって光重合性の感光層が膨潤あるいは溶解されることで親水性層が表面に露出され(非画像部)、平版印刷版が得られる。一般的に高感度な光重合性の感光層を用いると、ネガ型感光性平版印刷版の場合、画像部が太くなる傾向(非画像部が細くなる傾向)にあり、元の画像データを再現せず、結果画質の悪い印刷物となる。また、この問題を解決するために、例えば現像処理条件の調整(例えば現像液温度を上げる方法、現像時間を長くする方法)を行うと、画像部の耐刷性が欠如することが多い。本発明のネガ型感光性平版印刷版は下記の現像処理方法に於いて、画質を損なわず、高い耐刷性を有することができる。
【0101】
以下に本発明の現像処理方法に関して説明する。本発明のネガ型感光性平版印刷版の現像処理方法としてアルカリ現像がある。このアルカリ現像にはアルカリ性現像液が用いられ、該現像液のpH値は10.0以上である。この現像液にはアルカリ性無機化合物(例えば水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム等)、アルカリ性有機化合物(例えばトリエチルアミン等)、更に他の添加剤として、エタノール、イソプロパノール、n−ブチルセルソルブ、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種有機溶剤、あるいは、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の界面活性剤等を添加することもできる。尚、この処理方法は現像工程の後に、例えば酸性水溶液による停止工程や水洗工程等を含んでも良い。
【0102】
本発明のネガ型感光性平版印刷版の現像処理方法として水現像がある。この水現像は現像液のpH値が4.0以上10.0未満の範囲内にある中性現像液(水現像液)を用いる方法である。本発明における水現像とは、水だけで現像を行う方策と、水に他の添加剤を添加した現像液を用いる方策があり、この添加剤として、エタノール、イソプロパノール、n−ブチルセルソルブ、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種有機溶剤、あるいは、アニオン系、カチオン系、ノニオン系等の界面活性剤等を添加することが可能である。添加剤の量は添加剤の種類、目的によって異なるが、水100質量部に対して20質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以下の範囲である。更に、市販の印刷版用版面保護液や、印刷版用湿し水を使用することもできる。尚、この処理方法は現像工程の後に、例えば水洗工程等を含んでも良い。
【0103】
本発明のネガ型感光性平版印刷版の現像処理方法として機上現像がある。この方法は上述した現像工程を介さず、露光後の版を印刷機に装着し、印刷機上で現像を行うシステムであり、機上現像は未露光部の光重合性の感光層がブランケットに転写して、ブランケットを介して印刷紙等に転写させる方法、給湿液用ロールを介して給湿液に未露光部の光重合性の感光層を溶解もしくは分散させる方法等がある。
【0104】
上述した現像処理方法に於いて、アルカリ現像はアルカリ性現像液に含まれるアルカリ性化合物が、感光層の露光部の膜強度を少なからず低下させるが、水現像や機上現像はアルカリ性化合物を含まないため、感光層の露光部へのダメージは最小限に抑えられ、より高い耐刷性を有する。よって、本発明のより好ましい現像処理方法は水現像と機上現像である。
【0105】
以下実施例により本発明を更に詳しく説明するが、効果はもとより本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0106】
<親水性層>
厚みが100μmのポリエステルフィルム支持体上に、下記の親水性層処方1にてワイヤーバーで乾燥重量が2.0g(1平方メートル当たり)になるように親水性層の塗布を行い、60℃の乾燥機にて3分間乾燥を行い、更に乾燥物を40℃の乾燥機にて2日間加熱を行い、本発明及び比較の親水性層塗布サンプルを得た。尚、親水性層の膜面のpH値は親水性層塗布サンプルの親水性層上に0.05mlのイオン交換水を付与し、堀場製作所製平面複合pH電極6261−10Cを用いて測定した。各サンプルの膜面のpH値を表1に示す。
【0107】
<親水性層処方1>
水溶性ポリマー(表1に記載) 1質量部
無機微粒子 堺化学工業(株)製R−61N(平均粒径230nm)
1.5質量部
硬膜剤 40質量%グリオキサール水溶液 0.5質量部
pH調整剤(水酸化ナトリウム水溶液もしくは硫酸水溶液にて調整)
イオン交換水 20質量部
【0108】
尚、親水性塗布サンプルの中で比較A及び比較Bは上記処方の中のpH調整剤を用いておらず、pH未調整の親水性層塗布サンプルである。
【0109】
<光重合性の感光層>
上記親水性層塗布サンプル上(親水性層の表面)に、下記の感光層処方1にてワイヤーバーで乾燥重量が1.5g(1平方メートル当たり)になるように光重合性の感光層の塗布を行い、70℃の乾燥機にて3分間乾燥を行い、本発明及び比較のネガ型感光性平版印刷版のサンプルを得た。
【0110】
<感光層処方1>
カルボン酸型ポリマー CP−1 1質量部
光重合開始剤 BC−4 0.1質量部
光重合開始剤 T−1 0.1質量部
増感色素 S−16 0.05質量部
着色剤 ビクトリアブルー 0.2質量部
アセトン 5質量部
エタノール 5質量部
テトラヒドロフラン 10質量部
【0111】
<露光試験>
得られたネガ型感光性平版印刷版を、830nm半導体レーザーを搭載した外面ドラム方式プレートセッター大日本スクリーン製造(株)製PT−R4000を使用して、ドラム回転速度650rpmで、露光エネルギー量75mJ/cm2にてレーザー露光(1200dpi、100線)を行い、比較及び本発明の露光済み版を得た。
【0112】
<アルカリ現像処理>
上記露光済み版を厚さ200μmのアルミ板上に貼り付けて(感光層が上側)、自動現像機として大日本スクリーン製造(株)製PS版用自動現像機PD−1310を用いてアルカリ現像処理を行い、アルカリ現像プレートを得た。尚、アルカリ現像の条件は該自動現像機の第1槽(処理工程中にモルトン機構を有する)に下記アルカリ性現像液(液温度30℃)、第2槽及び第3槽には水を張り、アルカリ性現像液での処理時間は15秒の設定にて行った。
【0113】
<アルカリ性現像液>
アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム 10質量部
トリエタノールアミン 35質量部
炭酸ナトリウム 10質量部
EDTA2ナトリウム 1質量部
イオン交換水にて1000質量部とした。
pH=11.2に調整。
【0114】
<印刷試験方法>
上記現像処理で得られた各々のプレートを、印刷機リョービ560に装着し、給湿液として10質量%イソプロピルアルコール水溶液、インキとして大日本インキ化学工業(株)製Fグロス墨(ハードタイプ)を用いて印刷を行い、100枚目(印刷物画質評価)及び1000枚目より1000枚毎に3万枚目まで(耐刷性評価用)の印刷物をサンプリングした。印刷時の条件は室内温度が23℃、室内湿度が55%RHであった。
【0115】
<印刷物画質評価基準>
上記の100枚目印刷物に於いて、画像データが50%網点に相当する箇所の網点面積率を測定し(測定器X−RiteDot)、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。尚、網点面積率が50%に近い値ほど画質は良い。
3:網点面積率が50%以上55%未満
2:網点面積率が55%以上60%未満
1:網点面積率が60%以上
【0116】
<印刷物耐刷性評価基準>
上記の1000枚目から3万枚目の印刷物(1000枚毎)に於いて、画像部に欠損がないか、目視にて観察し、耐刷性を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。尚、評価基準の数値が大きいほど耐刷性は良い。
5:3万枚目でも画像部に欠損がみられない
4:2万1000枚目〜2万9000枚目の間に画像部に欠損が発生する
3:1万1000枚目〜2万枚目の間に画像部に欠損が発生する
2:2000枚目〜1万枚目の間に画像部に欠損が発生する
1:1000枚目で画像部に欠損がある
【0117】
【表1】

【0118】
表1の結果よりアルカリ現像処理に於いて、本発明のネガ型感光性平版印刷版は比較のネガ型感光性平版印刷版に対して、画質が良好であり、高い耐刷性を有していることが分かる。尚、比較のネガ型感光性平版印刷版は、レーザー露光時に露光エネルギー量を低減することで、画質を向上させることが可能であるが、耐刷性は表1の結果より更に悪化することが推測される。
【実施例2】
【0119】
<親水性層>
下記の親水性層処方2にて実施例1と同様の方法にて本発明及び比較の親水性層塗布サンプルを得た。各サンプルの膜面のpH値を表2に示す。
【0120】
<親水性層処方2>
水溶性ポリマー(表2に記載) 1質量部
無機微粒子 日産化学工業(株)製スノーテックスPS−M(粒子径80〜150nm)
表2に記載
硬膜剤 H−1 0.2質量部
pH調整剤(水酸化ナトリウム水溶液もしくは硫酸水溶液にて調整)
イオン交換水 20質量部
【0121】
尚、親水性塗布サンプルの中で比較E及び比較Fは上記処方の中のpH調整剤を用いておらず、pH未調整の親水性層塗布サンプルである。
【0122】
<光重合性の感光層>
上記親水性層塗布サンプル上(親水性層の表面)に、下記の感光層処方2にて実施例1と同様の方法で光重合性の感光層を塗設し(乾燥重量が1平方メートル当たり1.5g)、本発明及び比較のネガ型感光性平版印刷版を得た。
【0123】
<感光層処方2>
スルホン酸型ポリマー SP−1 1質量部
光重合開始剤 BC−4 0.1質量部
光重合開始剤 T−1 0.1質量部
増感色素 S−16 0.05質量部
着色剤 ビクトリアブルー 0.2質量部
アセトン 5質量部
エタノール 5質量部
テトラヒドロフラン 10質量部
【0124】
また、表2の本発明17のネガ型感光性平版印刷版の親水性層が含有するスノーテックスPS−MをR−61Nに変更した以外は本発明17のネガ型感光性平版印刷版と同様にして、本発明28のネガ型感光性平版印刷版を作製した。
【0125】
<水現像処理>
上記の比較及び本発明のネガ型感光性平版印刷版を、実施例1と同様の方法で露光を行い、その露光済み版を実施例1と同様にアルミ板上に貼り付けて、自動現像機として大日本スクリーン製造(株)製PS版用自動現像機PD−1310を用いて水現像し、水現像プレートを得た。尚、水現像の条件は、該自動現像機の第1槽(処理工程中にモルトン機構を有する)にイオン交換水を張り、液温度が30℃、処理時間が15秒の設定で上記露光済み版の処理を行い、第1槽の出口から処理済み版を取り出し、後に自然乾燥して、水現像プレートを得た。
【0126】
実施例1と同様の印刷試験を行い画質及び耐刷性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0127】
【表2】

【0128】
表2の結果より水現像処理に於いても、本発明のネガ型感光性平版印刷版は比較のネガ型感光性平版印刷版に対して、画質が良好であり、高い耐刷性を有していることが分かり、且つ実施例1の表1の結果と比べると、本発明の水現像処理がアルカリ現像処理に比してより好ましい態様であることが分かる。
【実施例3】
【0129】
<機上現像及び機上現像適性評価基準>
実施例2で得られた露光済みプレート(水現像を未実施)を用いて、機上現像を行い、機上現像適性及び印刷性の評価を行った。印刷機ハイデルベルグQM−46に実施例2の露光済みプレートを装着し、給湿液として液温度を23℃に調整した2質量%アストロマークスリー(日研化学研究所(株)製)水溶液、インキとしてスーパーTEKPLUSマゼンダL(T&K TOKA(株)製)を用いて、回転数7000rpmで印刷を開始し、正常な印刷物が得られるまでの枚数で評価を行った。印刷時の条件は室内温度が23℃、室内湿度が55%RHであった。尚、ここでの正常な印刷物とは、印刷物中の50%網点に相当する箇所の網点面積率を測定し(測定器X−RiteDot)、網点面積率が55%以下になった時の印刷物を示す。以下に機上現像適性の評価基準を示す。数値が大きいほど機上現像に適している。結果を表3に示す。
4:50枚未満で正常な印刷物が得られる
3:50枚以上100枚未満で正常な印刷物が得られる
2:100枚以上200枚未満で正常な印刷物が得られる
1:200枚以上で正常な印刷物が得られる
【0130】
<耐刷試験方法及び評価基準>
上記印刷試験に於いて、機上現像後、同条件にて3万枚まで印刷を行い(1000枚毎にサンプリング)、上記と同様の耐刷性評価を行った。結果を表3に示す。
5:3万枚目でも画像部に欠損がみられない
4:2万1000枚目〜2万9000枚目の間に画像部に欠損が発生する
3:1万1000枚目〜2万枚目の間に画像部に欠損が発生する
2:2000枚目〜1万枚目の間に画像部に欠損が発生する
1:1000枚目で画像部に欠損がある
【0131】
【表3】

【0132】
表3の結果より、本発明のネガ型感光性平版印刷版は機上現像に適応でき、且つ耐刷性への影響もみられなかったことが分かる。対して比較は機上現像処理に適合せず、耐刷性も低いことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルム支持体上に、少なくとも親水性層と光重合性の感光層をこの順に有するネガ型感光性平版印刷版であって、親水性層が少なくとも水溶性ポリマー及び無機微粒子を含有し、更に親水性層の膜面のpH値が7.0以上であるネガ型感光性平版印刷版。
【請求項2】
前記光重合性の感光層が側鎖にビニル基が置換したフェニル基と水溶性基を有する共重合ポリマーを含有する請求項1に記載のネガ型感光性平版印刷版。
【請求項3】
前記光重合性の感光層が光重合開始剤として有機ホウ素塩及び増感色素を含有する請求項1もしくは2に記載のネガ型感光性平版印刷版。
【請求項4】
前記親水性層が含有する水溶性ポリマーが下記一般式(1)で示されるポリマーである請求項1〜3の何れかに記載のネガ型感光性平版印刷版。
【化1】

(式中Xはポリマー組成中に占める繰り返し単位の質量%を表し、1から40までの任意の数値を表す。繰り返し単位Aは反応性基としてカルボキシ基、アミノ基、水酸基、アセトアセトキシ基から選ばれる基を有する繰り返し単位を表し、繰り返し単位Bはポリマーを水溶性にするために必要な親水性基を有する繰り返し単位を表す。)

【公開番号】特開2009−226596(P2009−226596A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70968(P2008−70968)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】