説明

ハイブリッド車両に搭載された二次電池の管理方法

【課題】ハイブリッド車両の二次電池の端子電圧が、使用可能な範囲の下限値以下とならないように管理する。
【解決手段】二次電池の放電が長時間連続するほど増加し、かつ放電しなくなってから時間が経過するほど減少する電流積算値Sを算出する。この電流積算値Sに基づき、内燃機関の始動判定を行う始動判定電圧Vrefを補正する。電流積算値Sが大きいほど、開始判定電圧Vrefが増加するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に搭載された二次電池の管理方法であって、特に、二次電池の端子電圧が定められた使用範囲の下限値以下とならないように管理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両を駆動する動力源として内燃機関と電動機を備えたハイブリッド車両が普及している。ハイブリッド車両はまた、電動機の電源として二次電池等の蓄電装置を備えている。二次電池は、その端子電圧が所定の範囲に収まるように管理されて使用される。蓄電量が少ないときには、内燃機関により電動機を駆動して、発電機として機能させ二次電池に充電する制御が行われる。内燃機関を始動すべきかの判定は、蓄電量と関連する二次電池の端子電圧に基づき行われる。内燃機関の始動は、専用の電動機(いわゆるスタータモータ)または動力源である電動機により内燃機関のクランクシャフトを駆動して行われる。このため、内燃機関を始動するときには、大きな電流が流れ、二次電池の端子電圧が低下する。このときに、端子電圧が、所定の使用範囲の下限値より低くならないように、内燃機関の始動を判定するための端子電圧は、前記下限値より余裕を持って高めに設定される。
【0003】
下記特許文献1には、車両の走行速度と二次電池の蓄電量に基づき、内燃機関を始動させる端子電圧を設定し、この端子電圧を下回った場合、内燃機関を始動する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−254603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハイブリッド車両には、内燃機関を停止し、電動機のみにより車両を駆動して走行することが可能なものがある。また、商用電源からの電力を二次電池に充電し、長い時間、電動機のみの走行を可能とする、プラグインハイブリッド車両と呼ばれるタイプもある。
【0006】
電動機による走行時間が長くなり、二次電池からの放電が長い時間継続すると、内燃機関始動時の端子電圧の低下がより急峻になる傾向がある。このため、内燃機関の始動時に想定していたより大きく端子電圧が低下し、使用範囲の下限値より低くなる場合がある。特に、前記のプラグインハイブリッド車両の場合、放電時間が長時間連続する使用態様が考えられる。
【0007】
本発明は、長い放電時間によって、端子電圧が使用範囲の下限値より低くなることを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハイブリッド車両に搭載された二次電池の管理方法は、二次電池の放電時間が、より直近で、より長時間連続するほど、内燃機関の始動を判定するための端子電圧を高く設定する。これにより、端子電圧の使用範囲下限値と内燃機関の始動開始時の端子電圧との差が大きくなり、内燃機関始動時の大きな端子電圧低下に対し、より大きな余裕ができる。
【0009】
本発明の他の態様の二次電池の管理方法は、まず、車両速度と二次電池の蓄電量に基づき、始動開始電圧の基礎または基準となる基礎電圧を算出する。二次電池の放電が、より直近に、より長時間連続するほど増加する補正電圧を算出する。前記基礎電圧に前記補正電圧を加算して前記始動判定電圧を算出する。補正電圧の分、端子電圧の使用範囲下限値と内燃機関の始動開始時の端子電圧との差が大きくり、より大きな余裕ができる。
【0010】
本発明の更に他の態様の二次電池の管理方法は、まず、車両速度と二次電池の蓄電量に基づき、始動開始電圧の基礎となる基礎電圧を算出し、一方二次電池の内部抵抗を取得する。そして、二次電池の放電が、より直近に、より長時間連続するほど、かつ二次電池の内部抵抗が大きいほど増加する補正電圧を算出する。前記基礎電圧に前記補正電圧を加算して前記始動判定電圧を算出する。補正電圧の分、端子電圧の使用範囲下限値と内燃機関の始動開始時の端子電圧との差が大きくり、より大きな余裕ができる。
【0011】
本発明の更に他の態様の二次電池の管理方法は、内燃機関の始動時に、二次電池端子電圧の使用範囲の下限値を下回った場合、この下限値を下回った分、始動判定電圧を高くする。始動判定電圧が高くなったことにより、次回以降の内燃機関の始動時に、端子電圧の余裕が大きくなる。
【発明の効果】
【0012】
長時間の放電継続後、二次電池端子電圧の使用範囲下限値に対する内燃機関始動開始時の端子電圧の余裕が大きくなり、内燃機関の始動時に端子電圧が前記使用範囲下限値より低くなることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プラグインハイブリッド車両の駆動装置の概略構成図である。
【図2】長時間放電後の内燃機関始動に伴う端子電圧および他の関連する変数の変化を示す図である。
【図3】始動判定電圧の他の設定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、プラグインハイブリッド車両の駆動装置10の概略構成を示すブロック図である。駆動装置10は、動力源として内燃機関12および電動機14を有する。内燃機関12の出力と電動機14の出力は、変速機構および差動機構を含む動力伝達機16を介して駆動輪18に伝達される。電動機14は、二つの電動機を含む形式であってもよい。この場合、動力伝達機に遊星歯車機構を搭載するようにし、二つの電動機をそれぞれ遊星歯車機構のサンギアとリングギア、内燃機関をキャリアに接続する構成とすることができる。
【0015】
電動機14には、インバータ20を介して二次電池22が接続され、二次電池22から放電された電力で駆動される。また、電動機14は、車両の慣性または内燃機関12により駆動されることより発電し、発電された電力がインバータ20を介して二次電池22に充電される。また、商用電源に接続されるプラグ24が備えられ、商用電源からの電力をインバータ20を介して二次電池に充電することができる。
【0016】
駆動装置10は、内燃機関12と電動機14を制御するために、制御部26を有する。制御部26は、運転者のアクセルペダルやブレーキペダルの操作および運行状況(冷却水温、車両速度、シフトレンジなど)に基づき内燃機関12および電動機14の制御を行う。また、制御部26は、所定の条件を満たした場合、内燃機関12を停止し、電動機14のみによる走行を実行する。内燃機関12を停止制御する条件は、例えば、二次電池22の蓄電量が十分にあり、車両が停止、または低速走行している場合などである。内燃機関12の停止条件が満たされなくなったら、制御部26は、電動機14により内燃機関のクランクシャフトを回転させて、内燃機関12を始動する。
【0017】
二次電池22は、これの保護のために、使用可能な端子電圧の範囲(使用範囲)が定められている。制御部26は、二次電池22の端子電圧がこの使用範囲内になるよう、内燃機関12と電動機14を制御して、二次電池22の蓄電量を制御し、端子電圧が使用範囲に収まるよう管理する。例えば、二次電池22の蓄電量が低下すると端子電圧が低下し、制御部26はこれを検知すると、内燃機関12を始動制御し、内燃機関により電動機を駆動して発電を行い、二次電池22を充電する。充電により蓄電量が回復すると端子電圧も高くなる。
【0018】
内燃機関12を始動する際には、電動機14により内燃機関の出力軸であるクランク軸を回転させる必要があり、電力が必要となる。このとき、比較的大きな電力が必要となり、この放電により二次電池22の端子電圧が低下する。したがって、端子電圧が使用範囲の下限値となってから内燃機関12を始動すると、この始動のために更に端子電圧が低下し、下限値を下回ってしまう。そこで、内燃機関12を始動しても、下限値を下回らないように、内燃機関12を始動すべきか判定するための端子電圧(以下、始動判定電圧と記す。)は、下限値より余裕を持って大きめに設定される。
【0019】
また、内燃機関12の始動時の端子電圧の低下量は、二次電池22の状態によっても変化する。例えば、二次電池22からの放電が長時間となった場合、分極が溜まり電圧低下が急峻となり、その低下量も大きくなる。また、長時間の放電がより近い過去に、つまりより直近に生じていた方が、その影響が大きい。この長時間の放電を評価する、つまりどの程度長く、どの程度最近に放電が行われたかを示す値である電流積算値Sを導入する。電流積算値Sは、次の式(1)で定められる。
【0020】
S(t+Δt)=(1−α×Δt)S(t)+β×I(t)×Δt ・・・(1)
I(t):時刻tにおける放電電流
α:忘却係数
β:電流積算係数
【0021】
式(1)は、展開すると、
S(t+Δt)=S(t)+β×I(t)×Δt−α×Δt×S(t) ・・・(2)
となり、右辺第1項、第2項は、時刻tにおける電流値を時刻tまでに積算した電流値に加算していることを示す。また、右辺第3項は、積算された電流値から所定量の値が常に減算されることを示している。よって、放電されなくなると、第3項の効果のために、電流積算値Sは、減少することになる。したがって、電流積算値は、放電が継続すると増加し、また、放電があってからの時間が経過するほど減少する。
【0022】
忘却係数α、電流積算係数βは、駆動装置の各種条件、二次電池の特徴に基づき適宜決定され、簡易的には固定値とすることができる。また、二次電池の温度、蓄電量により定まる値とすることができる。この場合、温度、蓄電量と、各係数α,βの関係を対応表の形で予め制御部26内に記憶しておき、検出された温度、蓄電量から対応する各係数を読み出して定めることができる。また、温度、蓄電量を変数とした関数を予め規定しておき、この関数に従って制御部26内で各係数を算出するようにしてもよい。さらに、各係数α,βは、温度、蓄電量に、検出された二次電池の内部抵抗を加え、これらの変数と各係数α,βとの関係の対応表を用いて算出されるようにしてもよい。また、温度、蓄電量、内部抵抗を変数とした関数を予め規定しておき、これらの変数を検出して各係数を算出してもよい。上記の対応表または関数は、予め実験的に求めておき、制御部26内に記憶しておく。
【0023】
制御部26は更に、電流積算値Sに基づき、内燃機関の始動判定を行うための始動判定電圧Vrefを増加させるための補正値Vcを求める。放電連続時間に係る条件以外の条件により定められた基礎または基準となる始動判定電圧Vb(以下、基礎電圧Vbと記す。)に、補正値Vcを加算した値をあらたに始動判定電圧Vrefとする。
【0024】
図2は、二次電池22の放電が連続し、その後内燃機関12を始動するときの電流、電圧等の変化の様子を示す図である。図2(a)は二次電池22の放電電流Iを示す。長時間の放電後、内燃機関12の始動(時刻t1 )のために放電電流Iが増加し、内燃機関が始動されると放電電流Iは低下する。図2(b)は前述の電流積算値Sを示す。放電が続くと電流積算値Sは徐々に増加する。内燃機関12の始動に伴い放電電流Iが低下すると、電流積算値Sは、式(2)の第3項の効果により減少する。
【0025】
図2(c)は、二次電池22の端子電圧Vと、端子電圧を管理するための各しきい値を示す図である。Vuで示す電圧が、二次電池22の使用範囲の下限の端子電圧である(以下、下限端子電圧Vuと記す。)。Vrefは、内燃機関の始動判定を行うための電圧である。端子電圧Vが、この始動判定電圧Vref以下となった場合、制御部26は内燃機関12を始動する必要があると判断し、始動するための制御を実行する。始動判定電圧Vrefは、前述のように基礎電圧Vbに補正値Vcを加算して得られる。電圧Vbは、下限端子電圧Vuに対して余裕を設けるための電圧であり、固定値としてもよく、また車両の運行状況、二次電池22の状態等から定めるようにしても良い。例えば、二次電池22の蓄電量、車両の速度に基づき定めることができ、より具体的には、蓄電量が多いほど、また車両速度が高いほど小さくする。この駆動装置10においては、更に長時間継続する放電の影響を考慮するために、補正値Vcが導入される。電流積算値Sと適切な補正値Vcの関係を予め実験的に求めておき、この関係に基づき電流積算値Sから補正値Vcを算出する。
【0026】
制御部26は、端子電圧Vが始動判定電圧Vref以下となったと判定すると、内燃機関の始動制御を実行する。内燃機関12の始動のために放電電流が増加し、これに伴って端子電圧が低下する。前述のように、この低下は、長時間の連続放電の影響により、より急峻となり、低下量も大きくなる。しかし、この駆動装置においては、補正値Vcにより始動判定電圧Vrefがかさ上げされており、端子電圧Vが下限値Vu以下となることが防止される。内燃機関12が自立的な回転を開始すると、二次電池22からの放電が減少するために、端子電圧Vは回復し、更に、内燃機関の駆動による発電が行われ、これが二次電池に充電されれば、端子電圧Vは更に上昇する。
【0027】
図2(d)は、内燃機関12の回転速度を示す図である。時刻t1で制御部26により始動判定制御が開始されると、内燃機関12の回転速度は上昇し、自立的に回転するようになると、所定の速度、例えばアイドリング回転速度で運転が行われる。
【0028】
上述の駆動装置10においては、電流積算値Sに基づき算出された補正値Vcを基礎電圧Vbに加算した。しかし、これに替えて電流積算値Sに基づき補正係数を算出し、この係数を基礎電圧Vbに乗算して始動判定電圧Vrefを算出するようにしてもよい。
【0029】
図3は、始動判定電圧Vrefの他の設定方法について説明するための図である。内燃機関12の始動などにより、二次電池22の端子電圧Vが低下し、一時的に下限値Vuを下回った場合、この下回った分ΔVを始動判定電圧Vrefに加算し、新たな始動判定電圧Vrefを設定する。この新たな設定は、端子電圧Vの急な変動が解消し、安定した後に行われるのが望ましい。始動判定電圧Vrefが更新された後の内燃機関の始動は、下限値Vuに対して余裕を持った端子電圧(V=Vref)のときに行われる。
【符号の説明】
【0030】
10 駆動装置、12 内燃機関、14 電動機、22 二次電池、26 制御部、
V 端子電圧、Vref 始動判定電圧、Vb 基礎始動判定電圧、Vc 補正値、Vu 下限端子電圧、S 電流積算値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動する内燃機関および電動機を備え、電動機のみによる走行が可能なハイブリッド車両において、電動機に電力を供給する二次電池の端子電圧が始動判定電圧以下となったとき内燃機関を始動する二次電池の管理方法であって、
二次電池の放電が、より直近で、より長時間連続するほど、前記始動判定電圧をより高くする、二次電池の管理方法。
【請求項2】
車両を駆動する内燃機関および電動機を備え、電動機のみによる走行が可能なハイブリッド車両において、電動機に電力を供給する二次電池の端子電圧が始動判定電圧以下となったとき内燃機関を始動する二次電池の管理方法であって、
車両速度と二次電池の蓄電量に基づき、始動開始電圧の基礎となる基礎電圧を算出し、
二次電池の放電が、より直近に、より長時間連続するほど増加する補正電圧を算出し、
前記基礎電圧に前記補正電圧を加算して前記始動判定電圧を算出する、
二次電池の管理方法。
【請求項3】
車両を駆動する内燃機関および電動機を備え、電動機のみによる走行が可能なハイブリッド車両において、電動機に電力を供給する二次電池の端子電圧が始動判定電圧以下となったとき内燃機関を始動する二次電池の管理方法であって、
車両速度と二次電池の蓄電量に基づき、始動判定電圧の基礎となる基礎電圧を算出し、
二次電池の内部抵抗を取得し、
二次電池の放電が、より直近に、より長時間連続するほど、かつ二次電池の内部抵抗が大きいほど増加する補正電圧を算出し、
前記基礎電圧に前記補正電圧を加算して前記始動判定電圧を算出する、
二次電池の管理方法。
【請求項4】
車両を駆動する内燃機関および電動機を備え、電動機のみによる走行が可能なハイブリッド車両において、電動機に電力を供給する二次電池の端子電圧が始動判定電圧以下となったとき内燃機関を始動する二次電池の管理方法であって、
内燃機関の始動時に、二次電池端子電圧の使用範囲の下限値を下回った場合、この下限値を下回った分、始動判定電圧を高くする、二次電池の管理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−86624(P2012−86624A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233571(P2010−233571)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】