説明

ハイブリッド車両の冷却装置

【課題】この発明は、ハイブリッド車両に搭載したエンジンやモータ機器の冷却を十分に果たせるように冷却性能を向上させることを目的とする。
【解決手段】この発明は、エンジンと発電機と走行用モータとデファレンシャル装置とからなるパワーユニットをエンジンルームの両サイドメンバ間に配置し、インバータを発電機および走行用モータの上方に配置し、エンジン用冷却回路の第1ラジエータとモータ機器用冷却回路の第2ラジエータとを車両幅方向に並べてエンジンルームの前面部に配置したハイブリッド車両の冷却装置において、発電機とこの発電機の側方に位置するサイドメンバとの間に形成される隙間をエンジンとこのエンジンの側方に位置するサイドメンバとの間に形成される隙間より大きくするようにパワーユニットを両サイドメンバ間でエンジンの側方に位置するサイドメンバ側に偏った位置に配置したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はハイブリッド車両の冷却装置に係り、特に、ハイブリッド車両に搭載したエンジンやモータ機器の冷却を十分に果たすことができるハイブリッド車両の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両においては、エンジンルームの車両幅方向両側部に配置される一対のサイドメンバ間に、エンジン、エンジンで駆動される発電機、走行用モータ、デファレンシヤル装置等で構成されるパワーユニットと、走行モータヘ供給する電力を調整するインバータと、冷却装置とを配置している。この際、発電機および走行用モータは、エンジンの車両幅方向側部に配置され、インバータは配線の取り回しを容易にするため、発電機および走行用モータの上方に重ねて配置されることが多かった。
また、エンジンと発電機、走行用モータ、インバータ等のモータ機器とでは発熱量が異なるため、冷却装置はエンジンを冷却するエンジン用冷却回路とモータ機器を冷却するモータ機器用冷却回路とに分けられ、夫々の回路にエンジン用のラジエータとモータ機器用のラジエータとを備えている。また、これらエンジン用とモータ機器用との各ラジエータは、車両幅方向に並べてエンジンルームの前面部に配置されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−238345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、エンジン用のラジエータとモータ機器用のラジエータとを車両幅方向に並べてエンジンルームの前面部に配置し、その後方に配置される発電機および走行用モータの上方にインバータを重ねて配置した場合には、発電機および走行用モータの熱がこれら発電機および走行用モータの上方に配置されたインバータに伝わり易くなるとともに、車両幅方向でインバータ側に配置されるラジエータの風抜けが悪くなり、冷却性能が低下する問題があった。
【0005】
この発明は、ハイブリッド車両に搭載したエンジンやモータ機器の冷却を十分に果たせるように冷却性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、エンジンルームの車両幅方向両側部に左右一対のサイドメンバを配置し、エンジンと発電機とを車両幅方向に並べて配置するとともに走行用モータとデファレンシャル装置とを車両上下方向に重ねて前記発電機の後方に配置したパワーユニットを前記両サイドメンバ間に配置し、前記走行用モータに供給する電力を調整するインバータを前記発電機および前記走行用モータの上方に配置し、前記エンジンを冷却するエンジン用冷却回路に設けられる第1ラジエータと、前記発電機と前記走行用モータと前記インバータ等のモータ機器を冷却するモータ機器用冷却回路に設けられる第2ラジエータとを車両幅方向に並べて前記エンジンルームの前面部に配置したハイブリッド車両の冷却装置において、前記発電機とこの発電機の側方に位置するサイドメンバとの間に形成される隙間を前記エンジンとこのエンジンの側方に位置するサイドメンバとの間に形成される隙間より大きくするように前記パワーユニットを前記両サイドメンバ間で前記エンジンの側方に位置するサイドメンバ側に偏った位置に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明のハイブリッド車両の冷却装置は、パワーユニットをエンジンの側方に位置するサイドメンバ側に偏った位置に配置することで、発電機および走行用モータが車両上下方向でインバータと重なる部分を少なくして、発電機および走行用モータで発生する熱がインバータに伝わることを防止できる。
また、この発明のハイブリッド車両の冷却装置は、発電機および走行用モータとこれらの側方に位置するサイドメンバとの間に形成される隙間を拡げて、インバータの下方に第1または第2ラジエータを通過した冷却風を排出する通路を形成できる。このため、この発明のハイブリッド車両の冷却装置は、インバータの前方側に配置される第1または第2ラジエータを通過する冷却風の風量を増加させて、第1または第2ラジエータの冷却性能を向上させることができる。
以上のように、この発明のハイブリッド車両の冷却装置では、発電機および走行用モータからインバータヘの熱伝達を防止でき、かつインバータの前方に配置される第1または第2ラジエータの放熱性を向上させることができるため、ハイブリッド車両の冷却性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ハイブリッド車両のエンジンルームの正面図である。
【図2】ハイブリッド車両のエンジンルームの側面図である。
【図3】ハイブリッド車両のエンジンルームの平面図である。
【図4】冷却装置の冷却回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明は、パワーユニットをエンジンの側方に位置するサイドメンバ側に偏った位置に配置することで、発電機と発電機の側方に位置するサイドメンバとの間に形成される隙間を大きくし、発電機および走行用モータからインバータヘの熱伝達を防止し、かつインバータの前方の第1または第2ラジエータの放熱性を向上させ、冷却性能を向上させている。
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
図1〜図4は、この発明の実施例を示すものである。図1〜図3において、1はハイブリッド車両、2・3は右・左サイドメンバ、4はクロスメンバ、5はダッシュパネル、6はエンジンルーム、7・8は右・左前輪である。ハイブリッド車両1は、車両幅方向両側部に左右一対の右・左サイドメンバ2・3を配置し、右・左サイドメンバ2・3のダッシュパネル5側の下部にクロスメンバ4の車両幅方向両端を連結し、ダッシュパネル4の前側にエンジンルーム6を設け、右・左サイドメンバ2・3外側に右・左前輪7・8を配置している。
ハイブリッド車両1は、エンジンルーム6の右・左サイドメンバ2・3間に、パワーユニット9を配置している。パワーユニット9は、エンジン10と、このエンジン10で駆動される発電機11と、発電機11の発電した電力で駆動される走行用モータ12と、走行用モータ12の駆動力を右・左前輪7・8に伝達するデファレンシヤル装置13等で構成される。パワーユニット9は、図2・図3に示すように、エンジン10と発電機11とを車両幅方向に並べて配置するとともに、走行用モータ12とデファレンシャル装置13とを車両上下方向に重ねて発電機11の後方に配置している。
また、ハイブリッド車両1は、走行用モータ12に供給する電力を調整するインバータ14を、発電機11および走行用モータ12の上方に配置している。インバータ14は、発電機11、走行用モータ12とともにモータ機器15を構成する。
前記パワーユニット9は、エンジン10の車両幅方向左側に発電機11を連結し、発電機11の車両前後方向後側の上方に走行用モータ12を配設し、走行用モータ12の車両幅方向右側の下方にデファレンシャル装置13を連結している。
エンジン10は、図3に示すように、車両幅方向右側に右マウントブラケット16を取り付け、この右マウントブラケット16をエンジン10の車両幅方向右側に近接して位置するサイドメンバ2に取り付けた右マウント17に接続している。発電機11は、図1・図2に示すように、発電機11の車両幅方向左側に左マウントブラケット18を取り付け、この左マウントブラケット18を発電機11の車両幅方向左側に離間して位置する左サイドメンバ3に取り付けた左マウント19に接続している。走行用モータ12は、図1・図2に示すように、走行用モータ12の車両前後方向後側に後マウントブラケット20を取り付け、この後マウントブラケット20を走行用モータ12の車両前後方向後側に近接して位置するクロスメンバ4に取り付けられた後マウント21に接続している。
また、インバータ14は、図1・図2に示すように、車両幅方向左側にインバータブラケット22を取り付け、このインバータブラケット22をインバータ14の車両幅方向左側に近接して位置する左サイドメンバ3に取り付けている。
【0011】
ハイブリッド車両1は、エンジン10、発電機11、走行用モータ12、インバータ14を冷却する冷却装置23をエンジンルーム6に配置している。冷却装置23は、図4に示すように、エンジン10を冷却するエンジン用冷却回路24と、モータ機器15の発電機11、走行用モータ12、インバータ14を冷却するモータ機器用冷却回路25とからなる。
前記エンジン用冷却回路24は、エンジン10の冷却水を冷却するエンジン用の第1ラジエータ26を備えている。第1ラジエータ26は、第1冷却ファン27を有し、エンジン用アウトレットホース28とエンジン用インレットホース29とでエンジン10に連絡している。エンジン用アウトレットホース28のエンジン側端には、エンジン10の駆動力で駆動されるエンジン用ウォータポンプ30を備えている。また、第1ラジエータ26には、エンジン用リザーブタンク31をエンジン用リザーブホース32で連絡している。
エンジン用冷却回路24は、エンジン用ウォータポンプ30で第1ラジエータ26とエンジン10との間に冷却水を循環させ、第1ラジエータ26で冷却した冷却水でエンジン10を冷却する。
前記モータ機器用冷却回路25は、モータ機器15の冷却水を冷却する第2ラジエータ33を備えている。第2ラジエータ33は、第2冷却ファン34を有し、モータ機器用アウトレットホース35でインバータ14に連絡している。インバータ14は、中間ホース36で走行用モータ12に連絡している。走行用モータ12は、中間ホース37で発電機11に連絡している。発電機11は、モータ機器用インレットホース38で第2ラジエータ33に連絡している。モータ機器用アウトレットホース35の途中には、電動式のモータ機器用ウォータポンプ39を備えている。また、第2ラジエータ33には、モータ機器用リザーブタンク40をモータ機器用リザーブホース41で連絡している。
モータ機器用冷却回路25は、モータ機器用ウォータポンプ39で第2ラジエータ33とインバータ14、走行用モータ12、発電機11との間に冷却水を循環させ、第2ラジエータ33で冷却した冷却水でインバータ14、走行用モータ12、発電機11を冷却する。
なお、モータ機器用冷却回路25のモータ機器用リザーブタンク40は、図4に破線で示すように、異なるモータ機器用リザーブホース42でインバータ14をエンジン用リザーブタンク31に連絡することで、エンジン用リザーブタンク31に一体化して省略することができる。
【0012】
ハイブリッド車両1の冷却装置23は、図3に示すように、エンジン10を冷却するエンジン用冷却回路24に設けられる第1ラジエータ26と、発電機11と走行用モータ12とインバータ14とのモータ機器15を冷却するモータ機器用冷却回路25に設けられる第2ラジエータ33とを、車両幅方向に並べてエンジンルーム6のパワーユニット9よりも前方の前面部に配置している。
このハイブリッド車両1は、図1に示すように、発電機11とこの発電機11の車両幅方向左側の側方に離間して位置する左サイドメンバ3との間に形成される隙間S1を、エンジン10とこのエンジン10の車両幅方向右側の側方に近接して位置する右サイドメンバ2との間に形成される隙間S2よりも大きく(S1>S2)するように、パワーユニット9を右・左サイドメンバ2・3間でエンジン10の側方に位置する右サイドメンバ2側に偏った位置に配置している。
パワーユニット9は、発電機11に取り付けた左マウントブラケット18を発電機11の車両幅方向左側に離間して位置する左サイドメンバ3に取り付けた左マウント19に接続することで、車両幅方向の中心で車両前後方向に延びる車体中心線Cに対して、車両幅方向右側に偏らせてエンジンルーム6に搭載されることになり、発電機11と左サイドメンバ3との間に隙間S1を形成している。この隙間S1は、エンジン10と右サイドメンバ2との間に形成される隙間S2よりも大きくすることができる。また、パワーユニット9は、車両幅方向右側に偏って位置されることで、発電機11および走行用モータ12とインバータ14とはそれぞれ車両幅方向右側と車両幅方向左側とに相互に離間して位置されることになる。
これにより、ハイブリッド車両1の冷却装置23は、発電機11および走行用モータ12が車両上下方向でインバータ14と重なる部分を少なくして、発電機11および走行用モータ12で発生する熱が上方のインバータ14に伝わることを防止できる。
また、冷却装置23は、発電機11および走行用モータ12とこれらの側方に位置する左サイドメンバ3との間に形成される隙間S1を拡げて、図1・図2に示すように、インバータ14の下方にエンジン用の第1ラジエータ26を通過した冷却風を排出する通路43を形成できる。
このため、このハイブリッド車両1の冷却装置は、インバータ14の前方側に配置される第1ラジエータ26を通過する冷却風の風量を増加させて、この第1ラジエータ26の冷却性能を向上させることができる。
以上のように、このハイブリッド車両1の冷却装置23では、発電機11および走行用モータ12からインバータ14ヘの熱伝達を防止でき、かつインバータ14の前方に配置される第1ラジエータ26の放熱性を向上させることができるため、ハイブリッド車両1の冷却性能を向上させることができる。
【0013】
また、冷却装置23は、第1ラジエータ26を、車両前後方向でインバータ14と重なる位置に配置している。
これにより、このハイブリッド車両1の冷却装置23は、発電機11や走行用モータ12やインバータ14等といったモータ機器類15と比べて、発熱量が大きく、かつモータ機器15用の第2ラジエータ32よりも冷却の必要性が高いエンジン用の第1ラジエータ26を、車両1の前方から視た場合に車両前後方向においてインバータ14と前後に重なる位置に配置することで、インバータ14の下方の隙間S1により第1ラジエータ26を通過した冷却風を排出する通路43を確保でき、第1ラジエータ26に必要な放熱量を確保できる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
この発明は、発電機および走行用モータからインバータヘの熱伝達を防止し、かつインバータの前方のエンジン用の第1ラジエータの放熱性を向上させるものであり、ハイブリッド車両にかぎらず、ガソリンエンジン等のパワーユニットを搭載した車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0015】
1 ハイブリッド車両
2 右サイドメンバ
3 左サイドメンバ
4 クロスメンバ
5 ダッシュパネル
6 エンジンルーム
9 パワーユニット
10 エンジン
11 発電機
12 走行用モータ
13 デファレンシヤル装置
14 インバータ
15 モータ機器
23 冷却装置
24 エンジン用冷却回路
25 モータ機器用冷却回路
26 第1ラジエータ
33 第2ラジエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームの車両幅方向両側部に左右一対のサイドメンバを配置し、
エンジンと発電機とを車両幅方向に並べて配置するとともに走行用モータとデファレンシャル装置とを車両上下方向に重ねて前記発電機の後方に配置したパワーユニットを前記両サイドメンバ間に配置し、
前記走行用モータに供給する電力を調整するインバータを前記発電機および前記走行用モータの上方に配置し、
前記エンジンを冷却するエンジン用冷却回路に設けられる第1ラジエータと、前記発電機と前記走行用モータと前記インバータ等のモータ機器を冷却するモータ機器用冷却回路に設けられる第2ラジエータとを車両幅方向に並べて前記エンジンルームの前面部に配置したハイブリッド車両の冷却装置において、
前記発電機とこの発電機の側方に位置するサイドメンバとの間に形成される隙間を前記エンジンとこのエンジンの側方に位置するサイドメンバとの間に形成される隙間より大きくするように前記パワーユニットを前記両サイドメンバ間で前記エンジンの側方に位置するサイドメンバ側に偏った位置に配置したことを特徴とするハイブリッド車両の冷却装置。
【請求項2】
前記第1ラジエータを、車両前後方向で前記インバータと重なる位置に配置したことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−68188(P2011−68188A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218938(P2009−218938)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】