ハイブリッド車両の振動制御装置
【課題】制振機能の向上を図ることが可能なハイブリッド車両の振動制御装置を提供する。
【解決手段】振動制御装置10は、エンジン20及びモータジェネレータ22間、並びに、モータジェネレータ22及び駆動輪26間を非締結又は部分締結状態としてモータジェネレータ22の回転速度をフィードバック制御により目標回転速度に制御し、且つ、エンジン20のトルク変動に応じたトルク変動をモータジェネレータトルクに加算して出力するものである。制振制御装置10のECU14は、モータジェネレータトルクに加算するトルク変動により生じるモータジェネレータ22の回転速度変動を算出し、算出した回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出し、算出した補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する。
【解決手段】振動制御装置10は、エンジン20及びモータジェネレータ22間、並びに、モータジェネレータ22及び駆動輪26間を非締結又は部分締結状態としてモータジェネレータ22の回転速度をフィードバック制御により目標回転速度に制御し、且つ、エンジン20のトルク変動に応じたトルク変動をモータジェネレータトルクに加算して出力するものである。制振制御装置10のECU14は、モータジェネレータトルクに加算するトルク変動により生じるモータジェネレータ22の回転速度変動を算出し、算出した回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出し、算出した補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の振動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関とモータを組み合わせて車両を駆動するハイブリッド自動車においては、燃費向上のために、車両停止時に内燃機関を一時的に停止し、発進とともにモータにより内燃機関を始動するアイドルストップが行われる。また走行中においても、比較的低負荷走行時等に内燃機関を停止し、モータのみにより走行するEV走行が行われる。この内燃機関始動時及び停止時には、内燃機関から吸入空気の圧縮・膨張に伴うトルク変動が発生するため、それが駆動系やエンジンマウント系の共振を励起して、大きな振動が発生する。
【0003】
そこで、内燃機関停止時に内燃機関の回転速度に基づいて内燃機関のトルク変動を算出し、それと逆位相のトルク変動をモータから発生させることにより、内燃機関のトルク変動を打ち消し、エンジン振動を低減するハイブリッド車両の振動制御装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、内燃機関とモータの回転軸間が非剛結もしくは非締結の場合、アイドル運転時に内燃機関とモータのトルク変動を算出し、それを打ち消すトルクをモータから発生させることにより、エンジン振動を低減するハイブリッド車両の振動制御装置が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−305807号公報
【特許文献2】特開2004−312857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の振動制御装置では、内燃機関のトルク変動を打ち消すトルクをモータから発生させる制振制御を行うため、エンジン振動は低減する。しかし、エンジン振動を打ち消すためにモータから発生したトルクは車両駆動軸へ伝達されるため、それが車体に伝達されて却って車体振動を悪化させてしまう場合がある。
【0007】
このため、モータと車両駆動軸間にクラッチを設置し、クラッチを部分結合状態にすることにより駆動軸にトルク変動が伝達されるのを防止する試みがある。
【0008】
しかし、クラッチを部分結合状態とするだけでは不十分である。すなわち、モータは、フィードバック制御を行っており、回転速度を目標回転速度となるように制御している。このため、内燃機関のトルク変動を打ち消すために、これに応じたモータトルク変動を行うと、フィードバック制御の影響でモータトルク変動を小さくする制御が実施されてしまい、
結果としてエンジン振動の抑制効果が低減してしまう。
【0009】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、制振機能の向上を図ることが可能なハイブリッド車両の振動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のハイブリッド車両の振動制御装置は、内燃機関と電動機とを備えると共に、内燃機関及び電動機間、並びに、電動機及び駆動輪間を非締結又は部分締結状態として電動機の回転速度をフィードバック制御により目標回転速度に制御し、且つ、内燃機関の運転状態に基づいて推定された内燃機関のトルク変動に負の所定係数を乗じたトルク変動を電動機トルクに加算して出力するハイブリッド車両の振動制御装置であって、電動機トルクに加算するトルク変動により生じる電動機の回転速度変動を算出する回転速度変動算出手段と、前記回転速度変動算出手段により算出された回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する補正目標回転速度算出手段と、前記補正目標回転速度算出手段により算出された補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転速度変動を算出し、算出した回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出し、算出した補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施するため、補正目標回転速度を算出しない場合には制振のために算出したトルク変動を打ち消すようにフィードバック制御されてしまうが、回転速度変動を目標回転速度に加算して得られた補正目標回転速度を算出してフィードバック制御を実施するため、フィードバック制御によってトルク変動を打ち消すように制御されにくくなり、制振機能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る振動制御装置を搭載したハイブリッド車両を模式的に示す構成図である。
【図2】本実施形態に係る振動制御装置の基本動作を示すタイミングチャートである。
【図3】減速時における各特性を示すグラフであって、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)はモータ回転速度を示している。
【図4】モータジェネレータのトルクを示すグラフであって、(a)は回転速度を一定値に制御するための目標トルク(モータ回転速度制御トルク)を示し、(b)はエンジン20のトルク変動を打ち消すための目標トルク(モータ制振制御トルク)を示し、(c)はモータ出力トルクを示している。
【図5】図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図6】図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図7】図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図8】図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図9】図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図10】図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る振動制御装置を搭載したハイブリッド車両を模式的に示す構成図である。図1に示すように、ハイブリッド車両1は、ディーゼルエンジンとモータジェネレータとの2種類の動力源で車輪を駆動することにより、低燃費化を実現したものである。
【0014】
ハイブリッド車両1は、エンジン(内燃機関)20、第1クラッチ21、モータジェネレータ(電動機)22、第2クラッチ23、変速機24、デファレンシャルギア25、駆動軸26、車輪27、及びエンジンマウント28を備えている。
【0015】
エンジン20は、6気筒4サイクルエンジンからなっている。第1クラッチ21は、エンジン20の出力軸に連結されている。第1クラッチ21の出力軸はモータジェネレータ22のロータ入力軸に接続されている。モータジェネレータ22は、エンジン20の動力補助、発電、減速時の回生、及びエンジン始動を行うものである。また、モータジェネレータ22のロータの出力軸は第2クラッチ23の入力軸に連結されている。第2クラッチ23の出力軸は変速機24の入力軸に接続されている。
【0016】
変速機24は、5速自動変速機であって、変速機24の出力軸はデファレンシャルギア25を介して駆動軸26に連結される。駆動軸26には車輪27が接続されている。また、エンジン20、モータジェネレータ22、及び変速機24が結合されたパワープラントは、エンジンマウント28を介して車体に弾性支持されている。
【0017】
さらに、ハイブリッド車両1は、制振制御装置10と、バッテリ29と、インジェクタ30とを備えている。また、制振制御装置10は、第1クラッチ制御装置11と、第2クラッチ制御装置12と、インバータ13と、ECU(Engine Control Unit)14と、各
種センサ15とを備えている。
【0018】
第1クラッチ制御装置11は、第1クラッチ21の結合及び分離を制御するものである。同様に、第2クラッチ制御装置12は、第2クラッチ23の結合及び分離を制御するものである。インバータ13は、モータジェネレータ22の三相コイルに対して要求トルクを得るための駆動電流を出力するものである。また、インバータ13は、回生時に得られる電力をバッテリ29に供給して充電を行わせるものでもある。
【0019】
ECU14は、車両制御の中枢をなす制御装置であって、エンジン20、クラッチ制御装置11,12、及びインバータ13を総合的に制御する。また、各種センサ15は、エンジン20のクランク角θを検出するクランク角センサ(クランク角検出手段)15a、エンジン20の回転速度を検出する回転速度センサ(回転速度検出手段)15b、運転者によるアクセルペダル操作量を検出するためのアクセルセンサ15c、及び、ブレーキペダル操作量を検出するためのブレーキセンサ15dからなっている。これらセンサ15は、各種の検出信号を随時ECU14に送信するようになっている。なお、アクセルセンサ15cとブレーキセンサ15dはそれぞれのペダル操作の有無を検出するためのアクセルスイッチ及びブレーキスイッチを内蔵している。
【0020】
ECU14は上記各センサ15の検出信号を基に、エンジン20に対して燃料噴射を行うインジェクタ30へ燃料噴射量制御信号を出力する。また、ECU14は、インバータ13に対して、モータジェネレータ22の出力トルクを制御するための界磁電流制御信号を出力する。
【0021】
図2は、本実施形態に係る振動制御装置10の基本動作を示すタイミングチャートである。エンジン20には、エンジン回転軸回りにエンジン20本体が回転振動するロール共振が存在する。特に、エンジン20は、トルク変動の(気筒数/2)次で表される回転基本次数成分(6気筒の場合は回転3次)がロール共振周波数と略一致すると、大きな振動を発生してしまう。そして、振動は、エンジンマウント28を介して車体に伝達され、大きな車体振動を引き起こす。通常、このロール共振周波数を、エンジン20の常用運転領域から外すため、アイドル回転速度の回転基本次数以下の周波数となるようにエンジンマウント28のばね定数が設定されている。しかし、エンジン始動時やエンジン停止時においては、回転基本次数成分がこれらの共振周波数を通過するため、共振が励起される。
【0022】
図2に示すように、まず、時刻t1においてブレーキペダルが開放されると、ブレーキスイッチがオフとなり、ブレーキセンサ15dはその旨の信号をECU14に出力する。ECU14は、これに伴い、第1クラッチ制御装置11を制御して第1クラッチ21を締結させると共に(図2(f)参照)、モータジェネレータ22にトルク指令値を与え(図2(e)参照)、モータジェネレータ22を回転駆動させる(図2(c)参照)。これにより、エンジン20は始動していないものの、第1クラッチ21を介して接続されるため、エンジン20についても回転駆動することとなる(図2(c)参照)。そして、エンジン20及びモータジェネレータ22の回転速度が上昇する(図2(b)(c)参照)。次いで、回転速度が特定値(本実施形態では1000rpm)に達すると、インジェクタ30から燃料噴射が開始され、エンジンはアイドル運転を行う(図2(d)参照)。なお、この段階において第2クラッチ23は締結しておらず(図2(g)参照)、車速は0kmである(図2(a)参照)。
【0023】
次に、時刻t2においてアクセルペダルが踏み込まれたとすると、アクセルセンサ15cは、その旨の信号を出力すると共にアクセル操作量の信号についてもECU14に出力する。これにより、ECU14は、エンジン20及びモータジェネレータ22に対するトルク指令値を演算し、そのトルク指令値に応じたエンジントルク信号及びモータトルク信号を出力する発生する(図2(d)(e)参照)。また、第2クラッチ制御装置12は、第2クラッチ23の部分締結を経て完全締結とし(図2(g)参照)、車両1を駆動させる(図2(a)参照)。そして、車速は次第に上昇していく(図2(a)参照)。なお、時刻t2〜t3の期間では、エンジン20とモータジェネレータ22との双方により車両1が加速される。
【0024】
次いで、時刻t3においてアクセルペダルの操作量が一定とされたとする。すなわち、運転者が車両1を定速走行させようとしているとする。この場合、加速を要しないため、ECU14は、アクセルセンサ15cからの信号に基づいて、エンジントルク及びモータジェネレータトルクを低下させる(図2(d)(e)参照)。そして、ECU14は、エンジン20及びモータジェネレータ22の回転速度を一定に保つ(図2(b)(c)参照)。
【0025】
そして、定速走行が一定時間経過した時刻t4に達したとする。この場合、ECU14は定速走行に入ったと判断し、エンジン20への燃料噴射を停止する。これにより、エンジントルクはゼロになると共に(図2(d)参照)、エンジン回転速度は低下し始め、最終的にゼロとなる(図2(b)参照)。
【0026】
また、時刻t4直後のエンジン20の停止過程において、第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ11を開放する(図2(f)参照)。このとき、ECU14は、エンジントルク変動をキャンセルするトルクを、モータジェネレータ22から発生させる。すなわち制振制御を実施する(図2(e)参照)。実施の過程において第2クラッチ制御装置12は第2クラッチ23を部分締結とし(図2(g)参照)、振動が駆動軸26に伝達されに
くいようにする。
【0027】
そして、時刻t5において再度アクセルが踏み込まれると、加速のためにECU14はモータジェネレータ22のトルクを増大させる(図2(e)参照)。また、第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を部分締結にし(図2(f)参照)、第1クラッチ21の部分締結による滑りトルクによってエンジン回転速度を上昇させる(図2(b)参照)。そして、エンジン20が目標の回転速度に達すると、第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を完全締結し(図2(f)参照)、ECU14は、インジェクタ30から燃料噴射を開始させると共に、エンジントルクを上昇させる(図2(d)参照)。
【0028】
また、時刻t5においてECU14は、エンジントルク変動をキャンセルするトルクを、モータジェネレータ22から発生させる制振制御を実施する(図2(e)参照)。実施の過程において第2クラッチ制御装置12は第2クラッチ23を部分締結とし(図2(g)参照)、振動が駆動軸26に伝達されにくいようにする。
【0029】
次いで、時刻t6でアクセルスイッチがオフになり、ブレーキが踏まれたとする。これにより、ECU14は、燃料噴射を停止すると共に、モータジェネレータ22から回生トルクを発生する(図2(e)参照)。そして、車両1を減速すると共に(図2(b)参照)、その減速エネルギーを電気エネルギーとしてバッテリ29に充電する。
【0030】
次に、ブレーキが踏まれてから特定の時間が経過した時刻t7となったとする。この場合、第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放し(図2(f)参照)、エンジン20を停止する(図2(b)(d)参照)。この際においても、ECU14は、エンジントルク変動をキャンセルするトルクを、モータジェネレータ22から発生させる制振制御を実施する(図2(e)参照)。この際、同様に第2クラッチ制御装置12は第2クラッチ23を部分締結とし(図2(g)参照)、振動が駆動軸26に伝達されにくいようにする。そして、時刻t8で車両1が停止する。
【0031】
次に、図2の時刻t4,t5,t7において実施される制振制御について詳細に説明する。4サイクルエンジンでは停止時のようなモータリング時(非燃焼時)においても、その回転とともに空気を圧縮・膨張させることにより、気筒内の圧力が上下する。そして、そのクランク角におけるクランク・コンロッドの幾何的形状により、気筒内圧力がトルクに変換されてトルク変動が起き、それが振動系に対する加振力となる。
【0032】
エンジン振動はトルク変動の反力がエンジン本体に入力されることにより発生するため、本実施形態のようにエンジン回転軸とモータジェネレータ22とを第1クラッチ21で切り離して停止したり、第1クラッチ21を部分締結して始動したりする場合でも、モータジェネレータ22からそのトルク変動と逆相のトルク変動を発生することにより、そのトルク変動反力もエンジン本体に入力され、エンジントルク変動反力を打ち消すことができ、エンジン振動を低減することが可能となる。
【0033】
しかし、駆動軸26に関しては、第2クラッチ22が締結状態であると、モータジェネレータ22から発生するトルク変動がそのまま車両駆動軸26に出力されてしまう。そのため、図2に示したように、制振制御を行う際は第2クラッチ23の締結力を制御することにより部分締結状態とし、滑りトルクだけを駆動軸26に伝達させることにより、トルク変動が駆動軸26に伝達されることを防止している。
【0034】
ところが、モータジェネレータ22は、設定した目標回転速度となるようにフィードバック制御を行っている。このため、モータジェネレータ22は、フィードバックゲインが大きい場合、設定した目標回転速度(すなわち一定の回転速度)となるように回転制御さ
れ、振動を打ち消すようなトルク変動を発生させることが困難となってしまう。
【0035】
なお、目標回転速度は、図2に示す時刻t4のように一定速度走行で要求駆動トルクが正の場合には、正の滑りトルクを発生させるために、第2クラッチ23の出力軸、つまり変速機入力軸回転速度より高い回転速度に設定される。また、時刻t7のように減速のための回生時で要求駆動トルクが負の場合には、負の滑りトルクを発生させるために、変速機入力軸回転速度より低い回転速度に設定される。
【0036】
ここで、振動を打ち消すようなトルク変動を発生させることが困難となってしまう理由を、図3を参照して説明する。図3は、減速時における各特性を示すグラフであって、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)はモータ回転速度を示している。
【0037】
図3(a)に示すように、車両減速時においてエンジン20の回転速度は低下していくが、エンジン回転速度がゼロとなる付近において回転速度の揺らぎが発生している。すなわち、エンジン20のトルク変動が発生しており、これが振動の原因となる。
【0038】
このため、モータジェネレータ22は、エンジン20のトルク変動を打ち消すように制御される。図3(b)に示すようにモータジェネレータ22は、エンジン20のトルク変動に負の所定係数を乗じたトルク変動が発生させられる。このため、モータジェネレータ22は、エンジン20の停止付近において回転速度が揺らいでおり、振動を打ち消すように制御される。しかし、モータジェネレータ22は、駆動軸26に振動を伝えないようにするために第2クラッチ23が部分締結状態とされるため、元々1500rpm付近だったモータジェネレータ22の回転速度が1700rpmの一定値に制御されるようになる。この結果、エンジン20のトルク変動を打ち消すようなトルクの発生が困難となる。特に、ゲインが小さい場合には回転速度が1700rpmの一定値となるように制御されにくくなるため、エンジン20のトルク変動を打ち消すようなトルクを発生し易くなるが、ゲインが大きい場合には回転速度が1700rpmの一定値となるように制御され易く、エンジン20のトルク変動を打ち消すようなトルクの発生が困難となる。
【0039】
より詳細に説明する。図4は、モータジェネレータ22のトルクを示すグラフであって、(a)は回転速度を一定値に制御するための目標トルク(モータ回転速度制御トルク)を示し、(b)はエンジン20のトルク変動を打ち消すための目標トルク(モータ制振制御トルク)を示し、(c)はモータ出力トルクを示している。
【0040】
図4(a)に示すモータジェネレータ22の回転速度を一定に保つためのトルクと、図4(b)に示すエンジン20のトルク変動を打ち消すトルクとは、逆位相となっている。このため、モータジェネレータ22の出力トルクは、図4(a)と図4(b)とに示すトルクが合算されて、図4(c)に示すようになってしまう。すなわち、図4(c)に示すように、逆位相同士のトルクが打ち消しあって、エンジン20のトルク変動を打ち消すための充分なトルクが得られなくなってしまう。
【0041】
そこで、本実施形態に係る振動制御装置10は、ECU14内に、回転速度変動算出機能と、補正目標回転速度算出機能と、制御機能とを備えている。回転速度変動算出機能は、エンジン20のトルク変動を打ち消すために、モータジェネレータ22に加算するトルク変動により生じるモータジェネレータ22の回転速度変動を算出する機能である。補正目標回転速度算出機能は、回転速度変動算出機能により算出された回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する機能である。制御機能は、補正目標回転速度算出機能により算出された補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する機能である。
【0042】
以下、具体的に説明する。まず、ECU14は、エンジン20のトルク変動を算出する。ここで、ECU14は、エンジン20の回転速度及びクランク角に対するエンジン20のトルク変動をマップとして予め記憶している。このため、ECU14は、クランク角センサ15aと回転速度センサ15bとの検出信号からマップを参照することにより、エンジン20のトルク変動を算出する。
【0043】
エンジン20のトルク変動を算出した後、ECU14は、回転速度変動算出機能によって、モータジェネレータ22に加算するトルク変動により生じるモータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。具体的にECU14は、
【数1】
なる演算式から、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。具体的に、モータジェネレータ22の回転速度がモータジェネレータ22のトルクTの積分として式(1)で表されるため、これを離散化したクランク角に対するトルクT(i)について表すと式(2)のようになる。ECU14は、上記式(1)及び式(2)からモータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。なお、トルクTは、振動を打ち消すためにエンジン20のトルク変動を逆相にしたものである。
【0044】
また、ECU14は、予め上記式(1)及び式(2)に対応したマップを記憶しており、マップに基づいてモータジェネレータ22の回転速度変動を算出することが望ましい。ここで、マップは、エンジン20のトルク変動のクランク角積分を、モータジェネレータ22の回転子慣性モーメント、及び、エンジン20の回転速度で除することにより算出されている。ECU14は、このマップを記憶しており、回転速度センサ15bにより検出されたエンジン20の回転速度と、クランク角センサ15aにより検出されたエンジン20のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。
【0045】
モータジェネレータ22の回転速度変動を算出した後、ECU14は、補正目標回転速度算出機能によって、回転速度変動算出機能により算出された回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する。これにより、ECU14は、制御機能によってフィードバック制御を行ったとしても、補正目標回転速度に基づいてモータジェネレータ22を制御することとなり、たとえゲインが大きかったとしても、エンジン20のトルク変動を打ち消すようにモータジェネレータ22を駆動させることができる。
【0046】
ここで、本実施形態に係る振動制御装置10の動作を図2の動作に当てはめて説明する
。図5は、図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0047】
まず、図5(a)に示すように定速走行しており、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図5(c)参照)。その後、定速走行が一定時間経過した時刻t41に達したとする。時刻t41においてECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図5(c)参照)。このため、図5(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0048】
その後、時刻t42において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放して、エンジン20を停止動作させる(図5(a)参照)。また、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(1)及び式(2)に対応したマップから、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0049】
この結果、図5(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t42から時刻t43の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図5(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0050】
そして、時刻t43においてエンジン回転速度が低下し、300rpm(所定回転速度)以下となったとする。これにより、ECU14は、補正目標回転速度の算出を中止する。このため、時刻t43以降においては、目標回転速度は1700rpmに保たれる。このように、ECU14の補正目標回転速度算出機能は、エンジン20の回転速度が所定回転速度以下の場合に補正目標回転速度の算出を中止し、制御機能は、目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する。ここで、式(1)及び式(2)に対応するマップは、エンジン20の回転速度で除することにより算出されているため、エンジン20の回転速度が低くなると、モータジェネレータ22の回転速度変動の算出にあたり誤差が大きくなってしまう。しかし、エンジン20の回転速度が所定回転速度以下の場合には補正目標回転速度の算出を中止するため、誤差が大きい可能性がある補正目標回転速度に従ったフィードバック制御を実施してしまうことを防止することができる。
【0051】
そして、エンジン20が停止すると、時刻t44において第2クラッチ23が完全締結状態となり、定速走行が継続される。
【0052】
なお、図5に示す説明においてECU14の回転速度変動算出機能は、車両1が定速走行する場合、すなわち回転速度センサ15bにより検出されたエンジン20の回転速度が略一定の場合に、回転速度変動を算出する。ここで、マップは、エンジン20の回転速度で除することにより算出されているため、エンジン20の回転速度が低くなると、モータジェネレータ22の回転速度変動の算出にあたり誤差が大きくなってしまう。しかし、エンジン20の回転速度が略一定である定速走行時には上記誤差が大きくならず、好適に回転速度変動を算出することができる。
【0053】
図6は、図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を
示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0054】
まず、エンジン20の回転速度がゼロであり(図6(a)参照)、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図6(c)参照)。その後、時刻t51においてアクセルが踏み込まれると、ECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図6(b)参照)。このため、図6(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0055】
その後、時刻t52において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放状態から部分締結状態とし、エンジン20を始動させる(図6(a)参照)。そして、時刻t53においてエンジンの回転速度が300rpmに達したとする。これにより、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(1)及び式(2)に対応したマップから、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0056】
この結果、図6(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t53から時刻t54の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図6(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0057】
そして、エンジン20の回転速度が1500rpmに到達すると、エンジン20の回転速度は一定に保たれ、時刻t54において第1及び第2クラッチ21,23は完全締結状態となり、エンジン20とモータジェネレータ22の双方で、車両1を加速させることとなる。
【0058】
なお、時刻t52から時刻t53において制振制御が実行されない理由は図5に示した時刻t43から時刻t44の説明と同じであり、誤差が大きい可能性がある補正目標回転速度に従ったフィードバック制御を実施してしまうことを防止するためである。
【0059】
このようにして、第1実施形態に係るハイブリッド車両1の振動制御装置10によれば、回転速度変動を算出し、算出した回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出し、算出した補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施するため、補正目標回転速度を算出しない場合には制振のために算出したトルク変動を打ち消すようにフィードバック制御されてしまうが、回転速度変動を目標回転速度に加算して得られた補正目標回転速度を算出してフィードバック制御を実施するため、フィードバック制御によってトルク変動を打ち消すように制御されにくくなり、制振機能の向上を図ることができる。
【0060】
また、検出されたエンジン20の回転速度と、検出されたエンジン20のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出するため、マップを参照することにより演算量を少なくすることができる。
【0061】
また、エンジン20の回転速度が所定回転速度以下の場合に補正目標回転速度の算出を中止し、目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する。ここで、マップは、
エンジン20の回転速度で除することにより算出されているため、エンジン20の回転速度が低くなると、エンジン20の回転速度変動の算出にあたり誤差が大きくなってしまう。しかし、エンジン20の回転速度が所定回転速度以下の場合には補正目標回転速度の算出を中止するため、誤差が大きい可能性がある補正目標回転速度に従ったフィードバック制御を実施してしまうことを防止することができる。
【0062】
また、エンジン20の回転速度が略一定の場合に、回転速度変動を算出する。ここで、マップは、エンジン20の回転速度で除することにより算出されているため、エンジン20の回転速度が低くなると、エンジン20の回転速度変動の算出にあたり誤差が大きくなってしまう。しかし、エンジン20の回転速度が略一定である定速走行時には上記誤差が大きくならず、好適に回転速度変動を算出することができる。
【0063】
なお、第1実施形態ではエンジン20の回転速度が所定回転速度以下である場合に、補正目標回転速度の算出を中止しているが、これに限らず、例えば、エンジン20の始動から第1所定時間が経過するまで、及び、エンジン20の停止前の第2所定時間の少なくとも一方において、補正目標回転速度の算出を中止してもよい。これにより、所定回転速度以下に中止する場合と同様に、誤差が大きい可能性がある補正目標回転速度に従ったフィードバック制御を実施してしまうことを防止することができる。
【0064】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る制振制御装置10は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容が一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0065】
第2実施形態においてECU14の回転速度変動算出機能は、モータジェネレータ22のトルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、モータジェネレータ22の回転子慣性モーメントで除すことにより、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。具体的に回転速度変動算出機能は式(3)に示すような演算式から、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。
【数2】
つまり離散時間で処理されるデジタルコントローラであるECU14で、モータジェネレータ22から発生する制振制御トルクを式(3)に基づき時間積分することにより、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出することができる。この時間積分では、式(2)のようにエンジン回転速度での割り算が無いため、エンジン20の極低回転速度においても誤差が少なく回転速度変動の算出が可能である。
【0066】
図7は、図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0067】
まず、図7(a)に示すように定速走行しており、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図7(c)参照)。その後、定速走行が一定時間経過した時刻t41’に達したとする。時刻t41’においてECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図7(c)参照)。このため、図7(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0068】
その後、時刻t42’において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放して、エンジン20を停止動作させる(図7(a)参照)。また、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(3)に基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0069】
この結果、図7(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t42’から時刻t43’の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図7(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0070】
そして、時刻t43’においてエンジン20が停止する。特に第2実施形態では、第1実施形態のように、エンジン回転速度が300rpm以下となっても補正目標回転速度の算出を中止しておらず、エンジン停止直前のような過渡運転時においても回転速度変動の精度低下を抑制することができる。
【0071】
その後、時刻t43’になるとエンジン20が停止し、時刻t44’において第2クラッチ23が完全締結状態となり、定速走行が継続される。
【0072】
図8は、図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0073】
まず、エンジン20の回転速度がゼロであり(図8(a)参照)、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図8(c)参照)。その後、時刻t51’においてアクセルが踏み込まれると、ECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図8(c)参照)。このため、図8(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0074】
その後、時刻t52’において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放状態から部分締結状態とし、エンジン20を始動させる(図8(a)参照)。そして、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(3)に基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0075】
この結果、図8(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t53’から時刻t54’の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図8(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0076】
また、第2実施形態では、第1実施形態のように、エンジン回転速度が300rpm以下となっても補正目標回転速度の算出を中止しておらず、エンジン始動直後のような過渡
運転時においても回転速度変動の精度低下を抑制することができる。
【0077】
そして、エンジン20の回転速度が1500rpmに到達すると、エンジン20の回転速度は一定に保たれ、時刻t54’において第1及び第2クラッチ21,23は完全締結状態となり、エンジン20とモータジェネレータ22の双方で、車両1を加速させることとなる。
【0078】
このようにして、第2実施形態に係るハイブリッド車両1の振動制御装置10によれば、第1実施形態と同様に、制振機能の向上を図ることができる。
【0079】
また、モータジェネレータ22から出力されるトルク変動を時間積分した値をモータジェネレータ22の回転子慣性モーメントで除すことにより、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出するため、除する値にエンジン20の回転速度を含んでおらずエンジン20の回転速度が小さくとも誤差を少なくすることができる。これにより、エンジン20の始動時や停止時のような回転速度が小さい過渡運転時においても回転速度変動の精度低下を抑制することができる。
【0080】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態に係る制振制御装置10は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容が一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0081】
第3実施形態では、第1実施形態に係る補正目標回転速度の算出方法と、第2実施形態に係る補正目標回転速度の算出方法とを組み合わせている。より詳細に説明すると、エンジン20が一定回転で運転されている場合には第1実施形態に係る補正目標回転速度の算出方法を行い、エンジン20の始動時や停止時には第2実施形態に係る補正目標回転速度の算出方法を行う。これにより、エンジン20の状態に応じて適切な補正目標回転速度の算出方法を採用することとしている。
【0082】
また、第2実施形態では、式(3)から明らかなようにモータジェネレータ22の回転速度変動を時間積分により算出するため、その積分誤差により補正目標回転速度の値がドリフトしてしまう。すなわち、図7(b)に示す時刻t42’の直後のように、本来の補正目標回転速度の平均値を1700rpmとしなければならないが、積分誤差によって時刻t43’の直前には1800〜1900rpmとなってしまい、図7(c)に示すようにモータ回転速度も高まってしまう。このため、時刻t44’において第2クラッチ23を完全締結状態とすると、モータ回転速度が高まっていることから、モータ回転速度が第2クラッチ23を完全締結状態とできる状態(1500rpm)に低下するまでの待ち時間が長くなってしまう。この結果、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの時間が長くなってしまう。また、図8に示すエンジン始動時においても同様に積分誤差からモータ回転速度が高まってしまい、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの待ち時間が長くなってしまい、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの時間が長くなってしまう(図8(c)時刻t54’前後を参照)。
【0083】
そこで、第3実施形態では、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの時間が長くならないように対策を行っている。すなわち、エンジン20の停止直前等において回転速度変動をゼロに漸近させることにより、モータ回転速度が第2クラッチ23を完全締結状態とできる状態(1500rpm)に低下するまでの待ち時間を短くし、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの時間について短縮を図っている。
【0084】
図9は、図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速
度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0085】
まず、図9(a)に示すように定速走行しており、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図9(c)参照)。その後、定速走行が一定時間経過した時刻t41’’に達したとする。時刻t41’’においてECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図9(c)参照)。
【0086】
加えて、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記式(1)及び式(2)に対応したマップから、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する(第1機能)。これにより、モータ回転速度の振幅はフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大に示すように制振成分が小さくなっていないことから、振動が抑えられることとなる(図9(c)参照)。
【0087】
その後、時刻t42’’において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放して、エンジン20を停止動作させる(図9(a)参照)。また、上記した式(3)に基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する(第2機能)。この結果、図9(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t42’’から時刻t43’’の間において揺らぎを示し、振動が抑えられることとなる(図9(c)参照)。
【0088】
なお、時刻t42’’において回転速度変動の算出方法が変更されるため、回転速度変動の値が不連続となって、却って振動が悪化してしまう可能性がある。そこで、第3実施形態では、第1機能による算出から第2機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第1機能によって算出された回転速度変動を、第2機能による時間積分の積分初期値とする。これにより、回転速度変動が不連続とならず、振動悪化を防止することができる。
【0089】
そして、時刻t43’’においてエンジン20の回転速度が0rpm(第2所定回転速度)以下となる(図9(a)参照)。これにより、ECU14の補正目標回転速度算出機能は、「1」から「0」に漸近する係数を、既に算出した回転速度変動に乗じ、回転速度変動をゼロに漸近させる。このように、第3実施形態において補正目標回転速度算出機能は、エンジン20の回転速度が第2所定回転速度以下になってからの時間が経過するに従って、回転速度変動をゼロに漸近させる。
【0090】
その後、時刻t44’’になるとエンジン20が停止し、時刻t45’’において第2クラッチ23が完全締結状態となり、定速走行が継続される。なお、図9(c)から明らかなように、時刻t43’’から回転速度変動がゼロに漸近させられるため、時刻t44’’においては既にモータ回転速度が1700rpmまで低下している。これにより、モータ回転速度が第2クラッチ23を完全締結状態とできる状態(1500rpm)に低下するまでの待ち時間は、第2実施形態よりも短縮されることとなる。
【0091】
以上がエンジン20の停止時の制振制御である。また、第3実施形態ではエンジン20の始動時においても、図9を参照して説明した制御と同様に第1実施形態と第2実施形態との補正目標回転速度の算出方法を採用し、且つ、回転速度変動をゼロに漸近させるようにしている。
【0092】
図10は、図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0093】
まず、エンジン20の回転速度がゼロであり(図10(a)参照)、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図10(c)参照)。その後、時刻t51’’においてアクセルが踏み込まれると、ECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図10(c)参照)。このため、図10(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0094】
その後、時刻t52’’において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放状態から部分締結状態とし、エンジン20を始動させる(図10(a)参照)。そして、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(3)に基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する(第2機能)。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0095】
この結果、図10(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t52’’から時刻t53’’の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図10(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0096】
そして、エンジン20の回転速度が1500rpmに到達すると、エンジン20の回転速度は一定に保たれる(図10(a)参照)。また、時刻t53’’においてECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、式(1)及び式(2)に対応するマップに基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する(第1機能)。
【0097】
この際、回転速度変動が不連続となると振動悪化を招くため、ECU14の回転速度変動算出機能は、第2機能による算出から第1機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第2機能によって算出された回転速度変動から、切り替え直後に第1機能によって算出された回転速度変動を差し引く。そして、補正目標回転速度算出機能は、差し引いた値を第1機能によって算出された目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する。これにより、振動悪化を防止する。
【0098】
加えて、時刻t53’’においてECU14の補正目標回転速度算出機能は、「1」から「0」に漸近する係数を既に算出した回転速度変動に乗じ、回転速度変動をゼロに漸近させる。このように、第3実施形態において補正目標回転速度算出機能は、エンジン20の回転速度が第3所定回転速度に達してからの時間が経過するに従って、回転速度変動をゼロに漸近させる。これにより、第2クラッチ23の完全締結までに要する時間の短縮化を図る。
【0099】
そして、時刻t54’’においてモータ回転速度は1700rpmまで低下し(図10(c)参照)、時刻t55’’において目標回転速度が1500rpmに設定され(図10(b)参照)、モータ回転速度が1500rpmに到達すると、第1及び第2クラッチ21,23は完全締結状態となり、エンジン20とモータジェネレータ22の双方で、車
両1を加速させることとなる。
【0100】
このようにして、第3実施形態に係るハイブリッド車両1の振動制御装置10によれば、第1実施形態と同様に、制振機能の向上を図ることができる。
【0101】
また、エンジン20の回転速度が第2所定回転速度以下の場合、補正目標回転速度をゼロに漸近させるため、エンジン20の停止直前などにおいて補正目標回転速度のドリフトなどを防止することができる。
【0102】
また、エンジン20の回転速度とエンジン20のクランク角と予め記憶されたマップとに基づいて、回転速度変動を算出する第1機能と、モータジェネレータ22のトルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、モータジェネレータ22の回転子慣性モーメントで除すことにより、回転速度変動を算出する第2機能と、を有し、第1機能による算出から第2機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第1機能によって算出された回転速度変動を、第2機能による時間積分の積分初期値とする。このように、積分初期値を設定することにより、回転速度変動が不連続とならず、不連続による振動悪化を防止することができる。
【0103】
また、エンジン20の回転速度とエンジン20のクランク角と予め記憶されたマップとに基づいて、回転速度変動を算出する第1機能と、モータジェネレータ22のトルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、モータジェネレータ22の回転子慣性モーメントで除すことにより、回転速度変動を算出する第2機能と、を有し、第2機能による算出から第1機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第2機能によって算出された回転速度変動から、切り替え直後に第1機能によって算出された回転速度変動を差し引き、差し引いた値を第1機能によって算出された目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する。このように、差し引いた値を第1機能によって算出された目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出することにより、回転速度変動が不連続とならず、不連続による振動悪化を防止することができる。
【0104】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、各実施形態を組み合わせるようにしてもよい。例えば、上記実施形態では、図2に示した時刻t4,t6における制振制御を例に説明したが、これに限らず、時刻t7における制振制御に適用してもよい。さらには、図2に示す例に限らず、他のタイミングにおける制振制御に適用してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1…ハイブリッド車両
10…制振制御装置
11…第1クラッチ制御装置
12…第2クラッチ制御装置
13…インバータ
14…ECU(回転速度変動算出手段、補正目標回転速度算出手段、制御手段)
15…センサ
15a…クランク角センサ(クランク角検出手段)
15b…回転速度センサ(回転速度検出手段)
15c…アクセルセンサ
15d…ブレーキセンサ
20…エンジン(内燃機関)
21…第1クラッチ
22…モータジェネレータ(電動機)
23…第2クラッチ
24…変速機
25…デファレンシャルギア
26…駆動軸
27…車輪
28…エンジンマウント
29…バッテリ
30…インジェクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の振動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関とモータを組み合わせて車両を駆動するハイブリッド自動車においては、燃費向上のために、車両停止時に内燃機関を一時的に停止し、発進とともにモータにより内燃機関を始動するアイドルストップが行われる。また走行中においても、比較的低負荷走行時等に内燃機関を停止し、モータのみにより走行するEV走行が行われる。この内燃機関始動時及び停止時には、内燃機関から吸入空気の圧縮・膨張に伴うトルク変動が発生するため、それが駆動系やエンジンマウント系の共振を励起して、大きな振動が発生する。
【0003】
そこで、内燃機関停止時に内燃機関の回転速度に基づいて内燃機関のトルク変動を算出し、それと逆位相のトルク変動をモータから発生させることにより、内燃機関のトルク変動を打ち消し、エンジン振動を低減するハイブリッド車両の振動制御装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、内燃機関とモータの回転軸間が非剛結もしくは非締結の場合、アイドル運転時に内燃機関とモータのトルク変動を算出し、それを打ち消すトルクをモータから発生させることにより、エンジン振動を低減するハイブリッド車両の振動制御装置が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−305807号公報
【特許文献2】特開2004−312857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の振動制御装置では、内燃機関のトルク変動を打ち消すトルクをモータから発生させる制振制御を行うため、エンジン振動は低減する。しかし、エンジン振動を打ち消すためにモータから発生したトルクは車両駆動軸へ伝達されるため、それが車体に伝達されて却って車体振動を悪化させてしまう場合がある。
【0007】
このため、モータと車両駆動軸間にクラッチを設置し、クラッチを部分結合状態にすることにより駆動軸にトルク変動が伝達されるのを防止する試みがある。
【0008】
しかし、クラッチを部分結合状態とするだけでは不十分である。すなわち、モータは、フィードバック制御を行っており、回転速度を目標回転速度となるように制御している。このため、内燃機関のトルク変動を打ち消すために、これに応じたモータトルク変動を行うと、フィードバック制御の影響でモータトルク変動を小さくする制御が実施されてしまい、
結果としてエンジン振動の抑制効果が低減してしまう。
【0009】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、制振機能の向上を図ることが可能なハイブリッド車両の振動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のハイブリッド車両の振動制御装置は、内燃機関と電動機とを備えると共に、内燃機関及び電動機間、並びに、電動機及び駆動輪間を非締結又は部分締結状態として電動機の回転速度をフィードバック制御により目標回転速度に制御し、且つ、内燃機関の運転状態に基づいて推定された内燃機関のトルク変動に負の所定係数を乗じたトルク変動を電動機トルクに加算して出力するハイブリッド車両の振動制御装置であって、電動機トルクに加算するトルク変動により生じる電動機の回転速度変動を算出する回転速度変動算出手段と、前記回転速度変動算出手段により算出された回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する補正目標回転速度算出手段と、前記補正目標回転速度算出手段により算出された補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転速度変動を算出し、算出した回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出し、算出した補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施するため、補正目標回転速度を算出しない場合には制振のために算出したトルク変動を打ち消すようにフィードバック制御されてしまうが、回転速度変動を目標回転速度に加算して得られた補正目標回転速度を算出してフィードバック制御を実施するため、フィードバック制御によってトルク変動を打ち消すように制御されにくくなり、制振機能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態に係る振動制御装置を搭載したハイブリッド車両を模式的に示す構成図である。
【図2】本実施形態に係る振動制御装置の基本動作を示すタイミングチャートである。
【図3】減速時における各特性を示すグラフであって、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)はモータ回転速度を示している。
【図4】モータジェネレータのトルクを示すグラフであって、(a)は回転速度を一定値に制御するための目標トルク(モータ回転速度制御トルク)を示し、(b)はエンジン20のトルク変動を打ち消すための目標トルク(モータ制振制御トルク)を示し、(c)はモータ出力トルクを示している。
【図5】図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図6】図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図7】図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図8】図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図9】図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【図10】図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータの回転速度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る振動制御装置を搭載したハイブリッド車両を模式的に示す構成図である。図1に示すように、ハイブリッド車両1は、ディーゼルエンジンとモータジェネレータとの2種類の動力源で車輪を駆動することにより、低燃費化を実現したものである。
【0014】
ハイブリッド車両1は、エンジン(内燃機関)20、第1クラッチ21、モータジェネレータ(電動機)22、第2クラッチ23、変速機24、デファレンシャルギア25、駆動軸26、車輪27、及びエンジンマウント28を備えている。
【0015】
エンジン20は、6気筒4サイクルエンジンからなっている。第1クラッチ21は、エンジン20の出力軸に連結されている。第1クラッチ21の出力軸はモータジェネレータ22のロータ入力軸に接続されている。モータジェネレータ22は、エンジン20の動力補助、発電、減速時の回生、及びエンジン始動を行うものである。また、モータジェネレータ22のロータの出力軸は第2クラッチ23の入力軸に連結されている。第2クラッチ23の出力軸は変速機24の入力軸に接続されている。
【0016】
変速機24は、5速自動変速機であって、変速機24の出力軸はデファレンシャルギア25を介して駆動軸26に連結される。駆動軸26には車輪27が接続されている。また、エンジン20、モータジェネレータ22、及び変速機24が結合されたパワープラントは、エンジンマウント28を介して車体に弾性支持されている。
【0017】
さらに、ハイブリッド車両1は、制振制御装置10と、バッテリ29と、インジェクタ30とを備えている。また、制振制御装置10は、第1クラッチ制御装置11と、第2クラッチ制御装置12と、インバータ13と、ECU(Engine Control Unit)14と、各
種センサ15とを備えている。
【0018】
第1クラッチ制御装置11は、第1クラッチ21の結合及び分離を制御するものである。同様に、第2クラッチ制御装置12は、第2クラッチ23の結合及び分離を制御するものである。インバータ13は、モータジェネレータ22の三相コイルに対して要求トルクを得るための駆動電流を出力するものである。また、インバータ13は、回生時に得られる電力をバッテリ29に供給して充電を行わせるものでもある。
【0019】
ECU14は、車両制御の中枢をなす制御装置であって、エンジン20、クラッチ制御装置11,12、及びインバータ13を総合的に制御する。また、各種センサ15は、エンジン20のクランク角θを検出するクランク角センサ(クランク角検出手段)15a、エンジン20の回転速度を検出する回転速度センサ(回転速度検出手段)15b、運転者によるアクセルペダル操作量を検出するためのアクセルセンサ15c、及び、ブレーキペダル操作量を検出するためのブレーキセンサ15dからなっている。これらセンサ15は、各種の検出信号を随時ECU14に送信するようになっている。なお、アクセルセンサ15cとブレーキセンサ15dはそれぞれのペダル操作の有無を検出するためのアクセルスイッチ及びブレーキスイッチを内蔵している。
【0020】
ECU14は上記各センサ15の検出信号を基に、エンジン20に対して燃料噴射を行うインジェクタ30へ燃料噴射量制御信号を出力する。また、ECU14は、インバータ13に対して、モータジェネレータ22の出力トルクを制御するための界磁電流制御信号を出力する。
【0021】
図2は、本実施形態に係る振動制御装置10の基本動作を示すタイミングチャートである。エンジン20には、エンジン回転軸回りにエンジン20本体が回転振動するロール共振が存在する。特に、エンジン20は、トルク変動の(気筒数/2)次で表される回転基本次数成分(6気筒の場合は回転3次)がロール共振周波数と略一致すると、大きな振動を発生してしまう。そして、振動は、エンジンマウント28を介して車体に伝達され、大きな車体振動を引き起こす。通常、このロール共振周波数を、エンジン20の常用運転領域から外すため、アイドル回転速度の回転基本次数以下の周波数となるようにエンジンマウント28のばね定数が設定されている。しかし、エンジン始動時やエンジン停止時においては、回転基本次数成分がこれらの共振周波数を通過するため、共振が励起される。
【0022】
図2に示すように、まず、時刻t1においてブレーキペダルが開放されると、ブレーキスイッチがオフとなり、ブレーキセンサ15dはその旨の信号をECU14に出力する。ECU14は、これに伴い、第1クラッチ制御装置11を制御して第1クラッチ21を締結させると共に(図2(f)参照)、モータジェネレータ22にトルク指令値を与え(図2(e)参照)、モータジェネレータ22を回転駆動させる(図2(c)参照)。これにより、エンジン20は始動していないものの、第1クラッチ21を介して接続されるため、エンジン20についても回転駆動することとなる(図2(c)参照)。そして、エンジン20及びモータジェネレータ22の回転速度が上昇する(図2(b)(c)参照)。次いで、回転速度が特定値(本実施形態では1000rpm)に達すると、インジェクタ30から燃料噴射が開始され、エンジンはアイドル運転を行う(図2(d)参照)。なお、この段階において第2クラッチ23は締結しておらず(図2(g)参照)、車速は0kmである(図2(a)参照)。
【0023】
次に、時刻t2においてアクセルペダルが踏み込まれたとすると、アクセルセンサ15cは、その旨の信号を出力すると共にアクセル操作量の信号についてもECU14に出力する。これにより、ECU14は、エンジン20及びモータジェネレータ22に対するトルク指令値を演算し、そのトルク指令値に応じたエンジントルク信号及びモータトルク信号を出力する発生する(図2(d)(e)参照)。また、第2クラッチ制御装置12は、第2クラッチ23の部分締結を経て完全締結とし(図2(g)参照)、車両1を駆動させる(図2(a)参照)。そして、車速は次第に上昇していく(図2(a)参照)。なお、時刻t2〜t3の期間では、エンジン20とモータジェネレータ22との双方により車両1が加速される。
【0024】
次いで、時刻t3においてアクセルペダルの操作量が一定とされたとする。すなわち、運転者が車両1を定速走行させようとしているとする。この場合、加速を要しないため、ECU14は、アクセルセンサ15cからの信号に基づいて、エンジントルク及びモータジェネレータトルクを低下させる(図2(d)(e)参照)。そして、ECU14は、エンジン20及びモータジェネレータ22の回転速度を一定に保つ(図2(b)(c)参照)。
【0025】
そして、定速走行が一定時間経過した時刻t4に達したとする。この場合、ECU14は定速走行に入ったと判断し、エンジン20への燃料噴射を停止する。これにより、エンジントルクはゼロになると共に(図2(d)参照)、エンジン回転速度は低下し始め、最終的にゼロとなる(図2(b)参照)。
【0026】
また、時刻t4直後のエンジン20の停止過程において、第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ11を開放する(図2(f)参照)。このとき、ECU14は、エンジントルク変動をキャンセルするトルクを、モータジェネレータ22から発生させる。すなわち制振制御を実施する(図2(e)参照)。実施の過程において第2クラッチ制御装置12は第2クラッチ23を部分締結とし(図2(g)参照)、振動が駆動軸26に伝達されに
くいようにする。
【0027】
そして、時刻t5において再度アクセルが踏み込まれると、加速のためにECU14はモータジェネレータ22のトルクを増大させる(図2(e)参照)。また、第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を部分締結にし(図2(f)参照)、第1クラッチ21の部分締結による滑りトルクによってエンジン回転速度を上昇させる(図2(b)参照)。そして、エンジン20が目標の回転速度に達すると、第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を完全締結し(図2(f)参照)、ECU14は、インジェクタ30から燃料噴射を開始させると共に、エンジントルクを上昇させる(図2(d)参照)。
【0028】
また、時刻t5においてECU14は、エンジントルク変動をキャンセルするトルクを、モータジェネレータ22から発生させる制振制御を実施する(図2(e)参照)。実施の過程において第2クラッチ制御装置12は第2クラッチ23を部分締結とし(図2(g)参照)、振動が駆動軸26に伝達されにくいようにする。
【0029】
次いで、時刻t6でアクセルスイッチがオフになり、ブレーキが踏まれたとする。これにより、ECU14は、燃料噴射を停止すると共に、モータジェネレータ22から回生トルクを発生する(図2(e)参照)。そして、車両1を減速すると共に(図2(b)参照)、その減速エネルギーを電気エネルギーとしてバッテリ29に充電する。
【0030】
次に、ブレーキが踏まれてから特定の時間が経過した時刻t7となったとする。この場合、第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放し(図2(f)参照)、エンジン20を停止する(図2(b)(d)参照)。この際においても、ECU14は、エンジントルク変動をキャンセルするトルクを、モータジェネレータ22から発生させる制振制御を実施する(図2(e)参照)。この際、同様に第2クラッチ制御装置12は第2クラッチ23を部分締結とし(図2(g)参照)、振動が駆動軸26に伝達されにくいようにする。そして、時刻t8で車両1が停止する。
【0031】
次に、図2の時刻t4,t5,t7において実施される制振制御について詳細に説明する。4サイクルエンジンでは停止時のようなモータリング時(非燃焼時)においても、その回転とともに空気を圧縮・膨張させることにより、気筒内の圧力が上下する。そして、そのクランク角におけるクランク・コンロッドの幾何的形状により、気筒内圧力がトルクに変換されてトルク変動が起き、それが振動系に対する加振力となる。
【0032】
エンジン振動はトルク変動の反力がエンジン本体に入力されることにより発生するため、本実施形態のようにエンジン回転軸とモータジェネレータ22とを第1クラッチ21で切り離して停止したり、第1クラッチ21を部分締結して始動したりする場合でも、モータジェネレータ22からそのトルク変動と逆相のトルク変動を発生することにより、そのトルク変動反力もエンジン本体に入力され、エンジントルク変動反力を打ち消すことができ、エンジン振動を低減することが可能となる。
【0033】
しかし、駆動軸26に関しては、第2クラッチ22が締結状態であると、モータジェネレータ22から発生するトルク変動がそのまま車両駆動軸26に出力されてしまう。そのため、図2に示したように、制振制御を行う際は第2クラッチ23の締結力を制御することにより部分締結状態とし、滑りトルクだけを駆動軸26に伝達させることにより、トルク変動が駆動軸26に伝達されることを防止している。
【0034】
ところが、モータジェネレータ22は、設定した目標回転速度となるようにフィードバック制御を行っている。このため、モータジェネレータ22は、フィードバックゲインが大きい場合、設定した目標回転速度(すなわち一定の回転速度)となるように回転制御さ
れ、振動を打ち消すようなトルク変動を発生させることが困難となってしまう。
【0035】
なお、目標回転速度は、図2に示す時刻t4のように一定速度走行で要求駆動トルクが正の場合には、正の滑りトルクを発生させるために、第2クラッチ23の出力軸、つまり変速機入力軸回転速度より高い回転速度に設定される。また、時刻t7のように減速のための回生時で要求駆動トルクが負の場合には、負の滑りトルクを発生させるために、変速機入力軸回転速度より低い回転速度に設定される。
【0036】
ここで、振動を打ち消すようなトルク変動を発生させることが困難となってしまう理由を、図3を参照して説明する。図3は、減速時における各特性を示すグラフであって、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)はモータ回転速度を示している。
【0037】
図3(a)に示すように、車両減速時においてエンジン20の回転速度は低下していくが、エンジン回転速度がゼロとなる付近において回転速度の揺らぎが発生している。すなわち、エンジン20のトルク変動が発生しており、これが振動の原因となる。
【0038】
このため、モータジェネレータ22は、エンジン20のトルク変動を打ち消すように制御される。図3(b)に示すようにモータジェネレータ22は、エンジン20のトルク変動に負の所定係数を乗じたトルク変動が発生させられる。このため、モータジェネレータ22は、エンジン20の停止付近において回転速度が揺らいでおり、振動を打ち消すように制御される。しかし、モータジェネレータ22は、駆動軸26に振動を伝えないようにするために第2クラッチ23が部分締結状態とされるため、元々1500rpm付近だったモータジェネレータ22の回転速度が1700rpmの一定値に制御されるようになる。この結果、エンジン20のトルク変動を打ち消すようなトルクの発生が困難となる。特に、ゲインが小さい場合には回転速度が1700rpmの一定値となるように制御されにくくなるため、エンジン20のトルク変動を打ち消すようなトルクを発生し易くなるが、ゲインが大きい場合には回転速度が1700rpmの一定値となるように制御され易く、エンジン20のトルク変動を打ち消すようなトルクの発生が困難となる。
【0039】
より詳細に説明する。図4は、モータジェネレータ22のトルクを示すグラフであって、(a)は回転速度を一定値に制御するための目標トルク(モータ回転速度制御トルク)を示し、(b)はエンジン20のトルク変動を打ち消すための目標トルク(モータ制振制御トルク)を示し、(c)はモータ出力トルクを示している。
【0040】
図4(a)に示すモータジェネレータ22の回転速度を一定に保つためのトルクと、図4(b)に示すエンジン20のトルク変動を打ち消すトルクとは、逆位相となっている。このため、モータジェネレータ22の出力トルクは、図4(a)と図4(b)とに示すトルクが合算されて、図4(c)に示すようになってしまう。すなわち、図4(c)に示すように、逆位相同士のトルクが打ち消しあって、エンジン20のトルク変動を打ち消すための充分なトルクが得られなくなってしまう。
【0041】
そこで、本実施形態に係る振動制御装置10は、ECU14内に、回転速度変動算出機能と、補正目標回転速度算出機能と、制御機能とを備えている。回転速度変動算出機能は、エンジン20のトルク変動を打ち消すために、モータジェネレータ22に加算するトルク変動により生じるモータジェネレータ22の回転速度変動を算出する機能である。補正目標回転速度算出機能は、回転速度変動算出機能により算出された回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する機能である。制御機能は、補正目標回転速度算出機能により算出された補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する機能である。
【0042】
以下、具体的に説明する。まず、ECU14は、エンジン20のトルク変動を算出する。ここで、ECU14は、エンジン20の回転速度及びクランク角に対するエンジン20のトルク変動をマップとして予め記憶している。このため、ECU14は、クランク角センサ15aと回転速度センサ15bとの検出信号からマップを参照することにより、エンジン20のトルク変動を算出する。
【0043】
エンジン20のトルク変動を算出した後、ECU14は、回転速度変動算出機能によって、モータジェネレータ22に加算するトルク変動により生じるモータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。具体的にECU14は、
【数1】
なる演算式から、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。具体的に、モータジェネレータ22の回転速度がモータジェネレータ22のトルクTの積分として式(1)で表されるため、これを離散化したクランク角に対するトルクT(i)について表すと式(2)のようになる。ECU14は、上記式(1)及び式(2)からモータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。なお、トルクTは、振動を打ち消すためにエンジン20のトルク変動を逆相にしたものである。
【0044】
また、ECU14は、予め上記式(1)及び式(2)に対応したマップを記憶しており、マップに基づいてモータジェネレータ22の回転速度変動を算出することが望ましい。ここで、マップは、エンジン20のトルク変動のクランク角積分を、モータジェネレータ22の回転子慣性モーメント、及び、エンジン20の回転速度で除することにより算出されている。ECU14は、このマップを記憶しており、回転速度センサ15bにより検出されたエンジン20の回転速度と、クランク角センサ15aにより検出されたエンジン20のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。
【0045】
モータジェネレータ22の回転速度変動を算出した後、ECU14は、補正目標回転速度算出機能によって、回転速度変動算出機能により算出された回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する。これにより、ECU14は、制御機能によってフィードバック制御を行ったとしても、補正目標回転速度に基づいてモータジェネレータ22を制御することとなり、たとえゲインが大きかったとしても、エンジン20のトルク変動を打ち消すようにモータジェネレータ22を駆動させることができる。
【0046】
ここで、本実施形態に係る振動制御装置10の動作を図2の動作に当てはめて説明する
。図5は、図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0047】
まず、図5(a)に示すように定速走行しており、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図5(c)参照)。その後、定速走行が一定時間経過した時刻t41に達したとする。時刻t41においてECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図5(c)参照)。このため、図5(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0048】
その後、時刻t42において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放して、エンジン20を停止動作させる(図5(a)参照)。また、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(1)及び式(2)に対応したマップから、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0049】
この結果、図5(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t42から時刻t43の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図5(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0050】
そして、時刻t43においてエンジン回転速度が低下し、300rpm(所定回転速度)以下となったとする。これにより、ECU14は、補正目標回転速度の算出を中止する。このため、時刻t43以降においては、目標回転速度は1700rpmに保たれる。このように、ECU14の補正目標回転速度算出機能は、エンジン20の回転速度が所定回転速度以下の場合に補正目標回転速度の算出を中止し、制御機能は、目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する。ここで、式(1)及び式(2)に対応するマップは、エンジン20の回転速度で除することにより算出されているため、エンジン20の回転速度が低くなると、モータジェネレータ22の回転速度変動の算出にあたり誤差が大きくなってしまう。しかし、エンジン20の回転速度が所定回転速度以下の場合には補正目標回転速度の算出を中止するため、誤差が大きい可能性がある補正目標回転速度に従ったフィードバック制御を実施してしまうことを防止することができる。
【0051】
そして、エンジン20が停止すると、時刻t44において第2クラッチ23が完全締結状態となり、定速走行が継続される。
【0052】
なお、図5に示す説明においてECU14の回転速度変動算出機能は、車両1が定速走行する場合、すなわち回転速度センサ15bにより検出されたエンジン20の回転速度が略一定の場合に、回転速度変動を算出する。ここで、マップは、エンジン20の回転速度で除することにより算出されているため、エンジン20の回転速度が低くなると、モータジェネレータ22の回転速度変動の算出にあたり誤差が大きくなってしまう。しかし、エンジン20の回転速度が略一定である定速走行時には上記誤差が大きくならず、好適に回転速度変動を算出することができる。
【0053】
図6は、図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を
示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0054】
まず、エンジン20の回転速度がゼロであり(図6(a)参照)、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図6(c)参照)。その後、時刻t51においてアクセルが踏み込まれると、ECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図6(b)参照)。このため、図6(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0055】
その後、時刻t52において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放状態から部分締結状態とし、エンジン20を始動させる(図6(a)参照)。そして、時刻t53においてエンジンの回転速度が300rpmに達したとする。これにより、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(1)及び式(2)に対応したマップから、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0056】
この結果、図6(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t53から時刻t54の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図6(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0057】
そして、エンジン20の回転速度が1500rpmに到達すると、エンジン20の回転速度は一定に保たれ、時刻t54において第1及び第2クラッチ21,23は完全締結状態となり、エンジン20とモータジェネレータ22の双方で、車両1を加速させることとなる。
【0058】
なお、時刻t52から時刻t53において制振制御が実行されない理由は図5に示した時刻t43から時刻t44の説明と同じであり、誤差が大きい可能性がある補正目標回転速度に従ったフィードバック制御を実施してしまうことを防止するためである。
【0059】
このようにして、第1実施形態に係るハイブリッド車両1の振動制御装置10によれば、回転速度変動を算出し、算出した回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出し、算出した補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施するため、補正目標回転速度を算出しない場合には制振のために算出したトルク変動を打ち消すようにフィードバック制御されてしまうが、回転速度変動を目標回転速度に加算して得られた補正目標回転速度を算出してフィードバック制御を実施するため、フィードバック制御によってトルク変動を打ち消すように制御されにくくなり、制振機能の向上を図ることができる。
【0060】
また、検出されたエンジン20の回転速度と、検出されたエンジン20のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出するため、マップを参照することにより演算量を少なくすることができる。
【0061】
また、エンジン20の回転速度が所定回転速度以下の場合に補正目標回転速度の算出を中止し、目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する。ここで、マップは、
エンジン20の回転速度で除することにより算出されているため、エンジン20の回転速度が低くなると、エンジン20の回転速度変動の算出にあたり誤差が大きくなってしまう。しかし、エンジン20の回転速度が所定回転速度以下の場合には補正目標回転速度の算出を中止するため、誤差が大きい可能性がある補正目標回転速度に従ったフィードバック制御を実施してしまうことを防止することができる。
【0062】
また、エンジン20の回転速度が略一定の場合に、回転速度変動を算出する。ここで、マップは、エンジン20の回転速度で除することにより算出されているため、エンジン20の回転速度が低くなると、エンジン20の回転速度変動の算出にあたり誤差が大きくなってしまう。しかし、エンジン20の回転速度が略一定である定速走行時には上記誤差が大きくならず、好適に回転速度変動を算出することができる。
【0063】
なお、第1実施形態ではエンジン20の回転速度が所定回転速度以下である場合に、補正目標回転速度の算出を中止しているが、これに限らず、例えば、エンジン20の始動から第1所定時間が経過するまで、及び、エンジン20の停止前の第2所定時間の少なくとも一方において、補正目標回転速度の算出を中止してもよい。これにより、所定回転速度以下に中止する場合と同様に、誤差が大きい可能性がある補正目標回転速度に従ったフィードバック制御を実施してしまうことを防止することができる。
【0064】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る制振制御装置10は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容が一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0065】
第2実施形態においてECU14の回転速度変動算出機能は、モータジェネレータ22のトルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、モータジェネレータ22の回転子慣性モーメントで除すことにより、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。具体的に回転速度変動算出機能は式(3)に示すような演算式から、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。
【数2】
つまり離散時間で処理されるデジタルコントローラであるECU14で、モータジェネレータ22から発生する制振制御トルクを式(3)に基づき時間積分することにより、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出することができる。この時間積分では、式(2)のようにエンジン回転速度での割り算が無いため、エンジン20の極低回転速度においても誤差が少なく回転速度変動の算出が可能である。
【0066】
図7は、図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0067】
まず、図7(a)に示すように定速走行しており、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図7(c)参照)。その後、定速走行が一定時間経過した時刻t41’に達したとする。時刻t41’においてECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図7(c)参照)。このため、図7(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0068】
その後、時刻t42’において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放して、エンジン20を停止動作させる(図7(a)参照)。また、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(3)に基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0069】
この結果、図7(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t42’から時刻t43’の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図7(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0070】
そして、時刻t43’においてエンジン20が停止する。特に第2実施形態では、第1実施形態のように、エンジン回転速度が300rpm以下となっても補正目標回転速度の算出を中止しておらず、エンジン停止直前のような過渡運転時においても回転速度変動の精度低下を抑制することができる。
【0071】
その後、時刻t43’になるとエンジン20が停止し、時刻t44’において第2クラッチ23が完全締結状態となり、定速走行が継続される。
【0072】
図8は、図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0073】
まず、エンジン20の回転速度がゼロであり(図8(a)参照)、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図8(c)参照)。その後、時刻t51’においてアクセルが踏み込まれると、ECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図8(c)参照)。このため、図8(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0074】
その後、時刻t52’において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放状態から部分締結状態とし、エンジン20を始動させる(図8(a)参照)。そして、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(3)に基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0075】
この結果、図8(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t53’から時刻t54’の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図8(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0076】
また、第2実施形態では、第1実施形態のように、エンジン回転速度が300rpm以下となっても補正目標回転速度の算出を中止しておらず、エンジン始動直後のような過渡
運転時においても回転速度変動の精度低下を抑制することができる。
【0077】
そして、エンジン20の回転速度が1500rpmに到達すると、エンジン20の回転速度は一定に保たれ、時刻t54’において第1及び第2クラッチ21,23は完全締結状態となり、エンジン20とモータジェネレータ22の双方で、車両1を加速させることとなる。
【0078】
このようにして、第2実施形態に係るハイブリッド車両1の振動制御装置10によれば、第1実施形態と同様に、制振機能の向上を図ることができる。
【0079】
また、モータジェネレータ22から出力されるトルク変動を時間積分した値をモータジェネレータ22の回転子慣性モーメントで除すことにより、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出するため、除する値にエンジン20の回転速度を含んでおらずエンジン20の回転速度が小さくとも誤差を少なくすることができる。これにより、エンジン20の始動時や停止時のような回転速度が小さい過渡運転時においても回転速度変動の精度低下を抑制することができる。
【0080】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態に係る制振制御装置10は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容が一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点のみを説明する。
【0081】
第3実施形態では、第1実施形態に係る補正目標回転速度の算出方法と、第2実施形態に係る補正目標回転速度の算出方法とを組み合わせている。より詳細に説明すると、エンジン20が一定回転で運転されている場合には第1実施形態に係る補正目標回転速度の算出方法を行い、エンジン20の始動時や停止時には第2実施形態に係る補正目標回転速度の算出方法を行う。これにより、エンジン20の状態に応じて適切な補正目標回転速度の算出方法を採用することとしている。
【0082】
また、第2実施形態では、式(3)から明らかなようにモータジェネレータ22の回転速度変動を時間積分により算出するため、その積分誤差により補正目標回転速度の値がドリフトしてしまう。すなわち、図7(b)に示す時刻t42’の直後のように、本来の補正目標回転速度の平均値を1700rpmとしなければならないが、積分誤差によって時刻t43’の直前には1800〜1900rpmとなってしまい、図7(c)に示すようにモータ回転速度も高まってしまう。このため、時刻t44’において第2クラッチ23を完全締結状態とすると、モータ回転速度が高まっていることから、モータ回転速度が第2クラッチ23を完全締結状態とできる状態(1500rpm)に低下するまでの待ち時間が長くなってしまう。この結果、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの時間が長くなってしまう。また、図8に示すエンジン始動時においても同様に積分誤差からモータ回転速度が高まってしまい、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの待ち時間が長くなってしまい、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの時間が長くなってしまう(図8(c)時刻t54’前後を参照)。
【0083】
そこで、第3実施形態では、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの時間が長くならないように対策を行っている。すなわち、エンジン20の停止直前等において回転速度変動をゼロに漸近させることにより、モータ回転速度が第2クラッチ23を完全締結状態とできる状態(1500rpm)に低下するまでの待ち時間を短くし、第2クラッチ23を完全締結状態とするまでの時間について短縮を図っている。
【0084】
図9は、図2に示した時刻t4(定速走行時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速
度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0085】
まず、図9(a)に示すように定速走行しており、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図9(c)参照)。その後、定速走行が一定時間経過した時刻t41’’に達したとする。時刻t41’’においてECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図9(c)参照)。
【0086】
加えて、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記式(1)及び式(2)に対応したマップから、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する(第1機能)。これにより、モータ回転速度の振幅はフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大に示すように制振成分が小さくなっていないことから、振動が抑えられることとなる(図9(c)参照)。
【0087】
その後、時刻t42’’において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放して、エンジン20を停止動作させる(図9(a)参照)。また、上記した式(3)に基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する(第2機能)。この結果、図9(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t42’’から時刻t43’’の間において揺らぎを示し、振動が抑えられることとなる(図9(c)参照)。
【0088】
なお、時刻t42’’において回転速度変動の算出方法が変更されるため、回転速度変動の値が不連続となって、却って振動が悪化してしまう可能性がある。そこで、第3実施形態では、第1機能による算出から第2機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第1機能によって算出された回転速度変動を、第2機能による時間積分の積分初期値とする。これにより、回転速度変動が不連続とならず、振動悪化を防止することができる。
【0089】
そして、時刻t43’’においてエンジン20の回転速度が0rpm(第2所定回転速度)以下となる(図9(a)参照)。これにより、ECU14の補正目標回転速度算出機能は、「1」から「0」に漸近する係数を、既に算出した回転速度変動に乗じ、回転速度変動をゼロに漸近させる。このように、第3実施形態において補正目標回転速度算出機能は、エンジン20の回転速度が第2所定回転速度以下になってからの時間が経過するに従って、回転速度変動をゼロに漸近させる。
【0090】
その後、時刻t44’’になるとエンジン20が停止し、時刻t45’’において第2クラッチ23が完全締結状態となり、定速走行が継続される。なお、図9(c)から明らかなように、時刻t43’’から回転速度変動がゼロに漸近させられるため、時刻t44’’においては既にモータ回転速度が1700rpmまで低下している。これにより、モータ回転速度が第2クラッチ23を完全締結状態とできる状態(1500rpm)に低下するまでの待ち時間は、第2実施形態よりも短縮されることとなる。
【0091】
以上がエンジン20の停止時の制振制御である。また、第3実施形態ではエンジン20の始動時においても、図9を参照して説明した制御と同様に第1実施形態と第2実施形態との補正目標回転速度の算出方法を採用し、且つ、回転速度変動をゼロに漸近させるようにしている。
【0092】
図10は、図2に示した時刻t5(エンジン始動時)における振動制御装置10の動作を示すタイミングチャートであり、(a)はエンジン回転速度を示し、(b)は補正目標回転速度を示し、(c)はモータジェネレータ22の回転速度を示している。
【0093】
まず、エンジン20の回転速度がゼロであり(図10(a)参照)、モータ回転速度が1500rpmとなっているとする(図10(c)参照)。その後、時刻t51’’においてアクセルが踏み込まれると、ECU14は、第2クラッチ23を部分締結状態として滑らせながら、モータジェネレータ回転速度を1700rpmに設定してフィードバック制御を実施する(図10(c)参照)。このため、図10(b)に示すように目標回転速度は、1700rpmという一定値に制御される。
【0094】
その後、時刻t52’’において第1クラッチ制御装置11は第1クラッチ21を開放状態から部分締結状態とし、エンジン20を始動させる(図10(a)参照)。そして、ECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、マップに基づいてエンジン20のトルク変動を算出する。そして、ECU14は、上記した式(3)に基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する(第2機能)。次に、ECU14は、目標回転速度である1700rpmに、モータジェネレータ22の回転速度変動を加算して、補正目標回転速度を算出する。
【0095】
この結果、図10(b)に示すように、補正目標回転速度は、時刻t52’’から時刻t53’’の間において揺らぎを示すこととなる。そして、ECU14は、この補正目標回転速度に基づいてフィードバック制御するため、振動が抑えられることとなる(図10(c)参照)。特に、モータ回転速度がエンジン回転速度と逆位相となっており、且つ、モータ回転速度の振幅がフィードバック制御を行っているにも拘わらず、図3(b)のゲイン大のように制振成分が小さくなっていないことから、振動は好適に抑えられることとなる。
【0096】
そして、エンジン20の回転速度が1500rpmに到達すると、エンジン20の回転速度は一定に保たれる(図10(a)参照)。また、時刻t53’’においてECU14は、センサ15a,15bからの検出信号を入力し、式(1)及び式(2)に対応するマップに基づいて、モータジェネレータ22の回転速度変動を算出する(第1機能)。
【0097】
この際、回転速度変動が不連続となると振動悪化を招くため、ECU14の回転速度変動算出機能は、第2機能による算出から第1機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第2機能によって算出された回転速度変動から、切り替え直後に第1機能によって算出された回転速度変動を差し引く。そして、補正目標回転速度算出機能は、差し引いた値を第1機能によって算出された目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する。これにより、振動悪化を防止する。
【0098】
加えて、時刻t53’’においてECU14の補正目標回転速度算出機能は、「1」から「0」に漸近する係数を既に算出した回転速度変動に乗じ、回転速度変動をゼロに漸近させる。このように、第3実施形態において補正目標回転速度算出機能は、エンジン20の回転速度が第3所定回転速度に達してからの時間が経過するに従って、回転速度変動をゼロに漸近させる。これにより、第2クラッチ23の完全締結までに要する時間の短縮化を図る。
【0099】
そして、時刻t54’’においてモータ回転速度は1700rpmまで低下し(図10(c)参照)、時刻t55’’において目標回転速度が1500rpmに設定され(図10(b)参照)、モータ回転速度が1500rpmに到達すると、第1及び第2クラッチ21,23は完全締結状態となり、エンジン20とモータジェネレータ22の双方で、車
両1を加速させることとなる。
【0100】
このようにして、第3実施形態に係るハイブリッド車両1の振動制御装置10によれば、第1実施形態と同様に、制振機能の向上を図ることができる。
【0101】
また、エンジン20の回転速度が第2所定回転速度以下の場合、補正目標回転速度をゼロに漸近させるため、エンジン20の停止直前などにおいて補正目標回転速度のドリフトなどを防止することができる。
【0102】
また、エンジン20の回転速度とエンジン20のクランク角と予め記憶されたマップとに基づいて、回転速度変動を算出する第1機能と、モータジェネレータ22のトルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、モータジェネレータ22の回転子慣性モーメントで除すことにより、回転速度変動を算出する第2機能と、を有し、第1機能による算出から第2機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第1機能によって算出された回転速度変動を、第2機能による時間積分の積分初期値とする。このように、積分初期値を設定することにより、回転速度変動が不連続とならず、不連続による振動悪化を防止することができる。
【0103】
また、エンジン20の回転速度とエンジン20のクランク角と予め記憶されたマップとに基づいて、回転速度変動を算出する第1機能と、モータジェネレータ22のトルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、モータジェネレータ22の回転子慣性モーメントで除すことにより、回転速度変動を算出する第2機能と、を有し、第2機能による算出から第1機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第2機能によって算出された回転速度変動から、切り替え直後に第1機能によって算出された回転速度変動を差し引き、差し引いた値を第1機能によって算出された目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する。このように、差し引いた値を第1機能によって算出された目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出することにより、回転速度変動が不連続とならず、不連続による振動悪化を防止することができる。
【0104】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものでは無く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、各実施形態を組み合わせるようにしてもよい。例えば、上記実施形態では、図2に示した時刻t4,t6における制振制御を例に説明したが、これに限らず、時刻t7における制振制御に適用してもよい。さらには、図2に示す例に限らず、他のタイミングにおける制振制御に適用してもよい。
【符号の説明】
【0105】
1…ハイブリッド車両
10…制振制御装置
11…第1クラッチ制御装置
12…第2クラッチ制御装置
13…インバータ
14…ECU(回転速度変動算出手段、補正目標回転速度算出手段、制御手段)
15…センサ
15a…クランク角センサ(クランク角検出手段)
15b…回転速度センサ(回転速度検出手段)
15c…アクセルセンサ
15d…ブレーキセンサ
20…エンジン(内燃機関)
21…第1クラッチ
22…モータジェネレータ(電動機)
23…第2クラッチ
24…変速機
25…デファレンシャルギア
26…駆動軸
27…車輪
28…エンジンマウント
29…バッテリ
30…インジェクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動機とを備えると共に、内燃機関及び電動機間、並びに、電動機及び駆動輪間を非締結又は部分締結状態として電動機の回転速度をフィードバック制御により目標回転速度に制御し、且つ、内燃機関の運転状態に基づいて推定された内燃機関のトルク変動に負の所定係数を乗じたトルク変動を電動機トルクに加算して出力するハイブリッド車両の振動制御装置であって、
電動機トルクに加算するトルク変動により生じる電動機の回転速度変動を算出する回転速度変動算出手段と、
前記回転速度変動算出手段により算出された回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する補正目標回転速度算出手段と、
前記補正目標回転速度算出手段により算出された補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項2】
前記回転速度変動算出手段は、電動機トルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、電動機の回転子慣性モーメントで除すことにより、電動機の回転速度変動を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項3】
内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
内燃機関のクランク角を検出するクランク角検出手段と、をさらに備え、
前記回転速度変動算出手段は、前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度と、前記クランク角検出手段により検出された内燃機関のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、電動機の回転速度変動を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項4】
前記マップは、内燃機関のトルク変動のクランク角積分を、電動機の回転子慣性モーメント、及び、内燃機関の回転速度で除することにより算出されている
ことを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項5】
前記補正目標回転速度算出手段は、前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度が所定回転速度以下の場合に補正目標回転速度の算出を中止し、
前記制御手段は、目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する
ことを特徴とする請求項4のいずれかに記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項6】
前記補正目標回転速度算出手段は、内燃機関始動から第1所定時間が経過するまで、及び、内燃機関停止前の第2所定時間の少なくとも一方において、補正目標回転速度の算出を中止し、
前記制御手段は、目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する
ことを特徴とする請求項4のいずれかに記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項7】
内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段をさらに備え、
前記補正目標回転速度算出手段は、前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度が第2所定回転速度以下の場合、内燃機関の回転速度が第2所定回転速度以下になってからの時間が経過するに従って、前記回転速度変動をゼロに漸近させる
ことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項8】
前記回転速度変動算出手段は、前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度が略一定の場合に、回転速度変動を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の振動制動制御装置。
【請求項9】
内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
内燃機関のクランク角を検出するクランク角検出手段と、をさらに備え、
前記回転速度変動算出手段は、
前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度と、前記クランク角検出手段により検出された内燃機関のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、回転速度変動を算出する第1機能と、
電動機トルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、電動機の回転子慣性モーメントで除すことにより、回転速度変動を算出する第2機能と、を有し、
第1機能による算出から第2機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第1機能によって算出された回転速度変動を、前記第2機能による時間積分の積分初期値とする
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項10】
内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
内燃機関のクランク角を検出するクランク角検出手段と、をさらに備え、
前記回転速度変動算出手段は、
前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度と、前記クランク角検出手段により検出された内燃機関のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、回転速度変動を算出する第1機能と、
電動機トルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、電動機の回転子慣性モーメントで除すことにより、回転速度変動を算出する第2機能と、を有し、
第2機能による算出から第1機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第2機能によって算出された回転速度変動から、切り替え直後に第1機能によって算出された回転速度変動を差し引き、
前記補正目標回転速度算出手段は、差し引いた値を第1機能によって算出された目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項1】
内燃機関と電動機とを備えると共に、内燃機関及び電動機間、並びに、電動機及び駆動輪間を非締結又は部分締結状態として電動機の回転速度をフィードバック制御により目標回転速度に制御し、且つ、内燃機関の運転状態に基づいて推定された内燃機関のトルク変動に負の所定係数を乗じたトルク変動を電動機トルクに加算して出力するハイブリッド車両の振動制御装置であって、
電動機トルクに加算するトルク変動により生じる電動機の回転速度変動を算出する回転速度変動算出手段と、
前記回転速度変動算出手段により算出された回転速度変動を目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する補正目標回転速度算出手段と、
前記補正目標回転速度算出手段により算出された補正目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項2】
前記回転速度変動算出手段は、電動機トルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、電動機の回転子慣性モーメントで除すことにより、電動機の回転速度変動を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項3】
内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
内燃機関のクランク角を検出するクランク角検出手段と、をさらに備え、
前記回転速度変動算出手段は、前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度と、前記クランク角検出手段により検出された内燃機関のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、電動機の回転速度変動を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項4】
前記マップは、内燃機関のトルク変動のクランク角積分を、電動機の回転子慣性モーメント、及び、内燃機関の回転速度で除することにより算出されている
ことを特徴とする請求項3に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項5】
前記補正目標回転速度算出手段は、前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度が所定回転速度以下の場合に補正目標回転速度の算出を中止し、
前記制御手段は、目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する
ことを特徴とする請求項4のいずれかに記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項6】
前記補正目標回転速度算出手段は、内燃機関始動から第1所定時間が経過するまで、及び、内燃機関停止前の第2所定時間の少なくとも一方において、補正目標回転速度の算出を中止し、
前記制御手段は、目標回転速度になるようにフィードバック制御を実施する
ことを特徴とする請求項4のいずれかに記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項7】
内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段をさらに備え、
前記補正目標回転速度算出手段は、前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度が第2所定回転速度以下の場合、内燃機関の回転速度が第2所定回転速度以下になってからの時間が経過するに従って、前記回転速度変動をゼロに漸近させる
ことを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項8】
前記回転速度変動算出手段は、前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度が略一定の場合に、回転速度変動を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド車両の振動制動制御装置。
【請求項9】
内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
内燃機関のクランク角を検出するクランク角検出手段と、をさらに備え、
前記回転速度変動算出手段は、
前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度と、前記クランク角検出手段により検出された内燃機関のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、回転速度変動を算出する第1機能と、
電動機トルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、電動機の回転子慣性モーメントで除すことにより、回転速度変動を算出する第2機能と、を有し、
第1機能による算出から第2機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第1機能によって算出された回転速度変動を、前記第2機能による時間積分の積分初期値とする
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【請求項10】
内燃機関の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
内燃機関のクランク角を検出するクランク角検出手段と、をさらに備え、
前記回転速度変動算出手段は、
前記回転速度検出手段により検出された内燃機関の回転速度と、前記クランク角検出手段により検出された内燃機関のクランク角と、予め記憶されたマップとに基づいて、回転速度変動を算出する第1機能と、
電動機トルクに加算するトルク変動を時間積分した値を、電動機の回転子慣性モーメントで除すことにより、回転速度変動を算出する第2機能と、を有し、
第2機能による算出から第1機能による算出へ切り替える場合、切り替え直前に第2機能によって算出された回転速度変動から、切り替え直後に第1機能によって算出された回転速度変動を差し引き、
前記補正目標回転速度算出手段は、差し引いた値を第1機能によって算出された目標回転速度に加算して補正目標回転速度を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の振動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−274875(P2010−274875A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131888(P2009−131888)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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