説明

ハイブリッド電気自動車の制御装置

【課題】前駆動トルクの応答性を確保しつつ燃費の抑制を図る上で有利なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】モータのコイル温度が閾値温度Tr以下である場合は、アクセルペダルの踏み込み速度Vapsが閾値速度Vr以上であると判定された時点で、エンジン22を早期に始動させる。抑制電流に発電機24で発電された発電電流が早期に加算されてフロントモータ18に供給されるため、指示トルクAに対してフロントモータ18で発生する駆動トルクBの時間遅れが最小限に抑制される。モータのコイル温度が閾値温度Trを上回る場合は、高圧バッテリー12から流れる電池電流が予め定められた閾値電流Ir以上であると判定された時点で、エンジン22を始動させる。不必要に早期にエンジン22を始動させることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド電気自動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド電気自動車として、バッテリーと、エンジンで駆動される発電機とからそれぞれ電流をモータに供給し、モータから出力された駆動トルクにより駆動輪を駆動するものが知られている。
このようなハイブリッド電気自動車において、アクセルペダルの踏み込み速度が所定値以上となると、エンジンを始動させることにより発電機で発電した電流をバッテリーからの電流に加算してモータに供給することで、アクセルペダルの急踏み込み操作に対応して駆動トルクを急激に増加させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
このようにすることで、バッテリーからモータに流れる突入電流を抑制することによりバッテリーの負担を軽減し、かつ、モータの駆動トルクの応答性を確保することが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3767103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、アクセルペダルの急踏み込みによるエンジン始動の回数が多くなるほど、燃費が低下することが懸念される。
ところで、バッテリーからモータに流れる突入電流は、モータのコイル温度が低いほど大きく、モータのコイルの温度が高いほど小さいことが知られている。
そのため、モータのコイル温度が低い場合には、エンジン始動を早期に行って発電機から電流をモータに供給することで突入電流を抑制することが好ましいといえる。
しかしながら、モータのコイル温度が高い場合には、もともと突入電流が小さいため、突入電流の抑制を図るためにエンジン始動を早期に行う必要性は低くなる。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、モータのコイル温度を考慮してエンジンの始動を行うことで駆動トルクの応答性を確保しつつ燃費の抑制を図る上で有利なハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、車両の駆動輪を駆動する電動モータと、前記電動モータに電流を供給するバッテリーと、前記電動モータに電流を供給する発電機と、前記発電機を駆動するエンジンとを備えるハイブリッド電気自動車の制御装置であって、前記電動モータのコイル温度を検出する温度検出手段と、アクセルペダルの踏み込み速度を検出する踏み込み速度検出手段と、前記バッテリーから前記電動モータに供給される電流値を検出する電流検出手段と、前記温度検出手段で検出された前記コイル温度が予め定められた閾値温度以下の場合には、前記踏み込み速度検出手段で検出された前記踏み込み速度に基づいて前記エンジンを始動させて前記発電機による発電を実行し、前記コイル温度が前記閾値温度を上回る場合には、前記電流検出手段で検出された前記電流値に基づいて前記エンジンを始動させて前記発電機による発電を実行させるエンジン制御手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によれば、電動モータのコイル温度が閾値温度以下の場合は、アクセルペダルの踏み込み速度に基づいてエンジンを始動させることにより、バッテリーから電動モータに供給される電流に発電機で発電された発電電流が早期に加算される。また、電動モータのコイル温度が閾値温度を上回る場合は、バッテリーから電動モータに供給される電流値に基づいてエンジンを始動させることにより、バッテリーから電動モータに供給される電流に発電機で発電された発電電流が加算されて電動モータに供給される。
したがって、アクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を向上させつつ、不必要にエンジンを始動させることがないので燃費を向上させることができる。
請求項2記載の発明によれば、バッテリーの温度が低下するほどエンジンの始動タイミングを早期にできるため、バッテリーの温度が低下してバッテリーから供給し得る電流が低下するような状況であってもアクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を確保する上で有利となる。
請求項3記載の発明によれば、バッテリーの充電状態(SOC)が低下するほどエンジンの始動タイミングを早期にできるため、バッテリーの充電状態(SOC)が低下してバッテリーから供給し得る電流が低下するような状況であってもアクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を確保する上で有利となる。
請求項4記載の発明によれば、バッテリーの連続通電時間が長くなるほどエンジンの始動タイミングを早期にできるため、バッテリーの連続通電時間が長くなってバッテリーから供給し得る電流が低下するような状況であってもアクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を確保する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態における制御装置30が搭載された車両10の全体構成を示すブロック図である。
【図2】制御装置30の構成を示す機能ブロック図である。
【図3】アクセルペダルの踏み込み速度Vapsの定義を示す説明図である。
【図4】閾値温度設定手段52Fによる閾値温度Trの設定動作の説明図である。
【図5】制御装置30の動作を示すメインフローチャートである。
【図6】比較例におけるドライバーがアクセルペダルを急に踏み込む操作を行った場合の電流、トルク、エンジン22の始動タイミングの説明図である。
【図7】(A)はモータのコイル温度が閾値温度Tr以下である場合におけるドライバーがアクセルペダルを急に踏み込む操作を行った場合の電流、トルク、エンジン22の始動タイミングの説明図、(B)はモータのコイル温度が閾値温度Trを上回る場合におけるドライバーがアクセルペダルを急に踏み込む操作を行った場合の電流、トルク、エンジン22の始動タイミングの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、車両10は、高圧バッテリー12と、インバータ14、16と、電動モータとしてのフロントモータ18と、電動モータとしてのリアモータ20と、内燃機関としてのエンジン22と、発電機24と、前輪26と、後輪28と、本発明に係る制御装置30とを含んで構成されている。
したがって、車両10は、モータ18、20とエンジン22とを搭載したハイブリッド電気自動車を構成している。
【0009】
高圧バッテリー12は、フロントモータ18およびリアモータ20に電力を供給するものである。また、本明細書では、高圧バッテリー12からフロントモータ18およびリアモータ20に供給される電流を電池電流という。
なお、高圧バッテリー12は、図示しない充電装置を介して、家庭用の商用電源、あるいは、充電スタンドの急速充電用電源などから供給される電力によって充電される。
【0010】
インバータ14、16は、高圧バッテリー12から供給される直流電力を三相交流電力に変換してフロントモータ18、リアモータ20にそれぞれ供給するものである。
インバータ14、16が後述するECU52の制御に基づいてフロントモータ18、リアモータ20に供給する三相交流電力を例えばPMW(パルス幅変調)によって制御することでフロントモータ18、リアモータ20から出力される駆動トルクが制御される。
【0011】
フロントモータ18は、インバータ14から供給される交流電力によって回転駆動され、減速機構32、ディファレンシャルギア34を介して前輪26に動力(駆動トルク)を与えることで前輪26を駆動するものである。
リアモータ20は、インバータ16から供給される三相交流電力によって回転駆動され、減速機構36、ディファレンシャルギア38を介して後輪28に動力(駆動トルク)を与えることで後輪28を駆動するものである。
また、車両10の回生制動時には、フロントモータ18、リアモータ20が発電機として機能し、フロントモータ18、リアモータ20で発電された三相交流電力がインバータ14、16を介して直流電力に変換されたのち高圧バッテリー12に充電される。
モータ18、20は、それぞれモータコイルを内蔵しており、これらモータコイルを流れる電流(電池電流)によって回転駆動される。
モータ18、20は、電流の供給開始と同時に、一時的に突入電流と呼ばれる過渡的に大きな電流が流れる特性を有している。
この突入電流は、モータのコイル温度が低いほど大きく、モータのコイル温度が高いほど小さい。
【0012】
エンジン22は、減速機構40、クラッチ42を介して前記の減速機構32に接続されている。クラッチ42の接続、切断はECUによって制御される。
エンジン22は、クラッチ42の切断状態で、減速機構41を介して発電機24に動力を与えることで発電機24を駆動するものである。
発電機24は、エンジン22から供給される動力により発電を行いインバータ14を介して高圧バッテリー12を充電するものである。
なお、高圧バッテリー12からフロントモータ18(リアモータ20)に電池電流を供給してフロントモータ18(リアモータ20)を駆動している状態で、エンジン22を始動して発電機24を発電させると、発電機24の電力(電流)はフロントモータ18(リアモータ20)に供給されると共に、フロントモータ18(リアモータ20)の駆動で消費されなかった電力(電流)は高圧バッテリー12に充電される。すなわち、フロントモータ18、リアモータ20には高圧バッテリー12からの電池電流に発電機24からの電流が加算されて供給されることになる。
また、以下では、説明の簡素化を図るため、フロントモータ18のみで走行する場合について説明する。しかしながら、本発明は、リアモータ20のみで走行する場合、あるいは、フロントモータ18とリアモータ20との双方で走行する場合も無論適用される。
【0013】
なお、本実施の形態では、クラッチ42の切断状態で、エンジン22が減速機構40を介して発電機24に動力を与えることで発電機24を駆動する場合を説明する。
しかしながら、クラッチ42の接続状態で、エンジン22が減速機構40、クラッチ42、減速機構32、ディファレンシャルギア34を介して前輪26に動力(駆動トルク)を与えることで前輪26を駆動しつつ、エンジン22が減速機構41を介して発電機24に動力を与えることで発電機24を駆動する場合にも本発明は無論適用される。
【0014】
制御装置30は、アクセルペダルセンサ44と、バッテリー温度センサ46と、バッテリー電流センサ48と、モータコイル温度センサ50と、ECU52とを含んで構成されている。
アクセルペダルセンサ44は、アクセルペダルの踏み込み量を検出してECU52に供給するものである。
バッテリー温度センサ46は、高圧バッテリー12の温度を検出してECU52に供給するものである。
バッテリー電流センサ48は、高圧バッテリー12からフロントモータ18に供給される電流値を検出してECU52に供給するものである。本実施の形態では、バッテリー電流センサ48が「電流検出手段」を構成している。
モータコイル温度センサ50は、フロントモータ18のコイルの温度を検出してECU52に供給するものである。本実施の形態では、モータコイル温度センサ50が「温度検出手段」を構成している。
【0015】
ECUは、CPU、制御プログラム等を格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成される。
図2に示すように、ECUは前記制御プログラムを実行することにより、踏み込み速度演算手段52Aと、バッテリー制御手段52Bと、エンジン制御手段52Cと、バッテリー充電状態検出手段52Dと、バッテリー連続通電時間検出手段52Eと、閾値温度設定手段52Fとを実現する。
【0016】
踏み込み速度演算手段52Aは、アクセルペダルセンサ44から供給されたアクセルペダルの踏み込み量の単位時間当たりの変化量であるアクセルペダルの踏み込み速度を演算するものである。
すなわち、図3に示すように、単位時間Δt当たりのアクセルペダルの踏み込み量をΔAPSとすると、踏み込み速度Vapsは、ΔAPS/Δtで定義される。
本実施の形態では、アクセルペダルセンサ44と踏み込み速度演算手段52Aとによって特許請求の範囲のアクセルペダル踏み込み速度検出手段が構成されている。
【0017】
バッテリー制御手段52Bは、アクセルペダルセンサ44によって検出されたアクセルペダルの踏み込み量に応じて、すなわち、要求される駆動トルクに応じて、高圧バッテリー12からフロントモータ18に供給される電流を制御するものである。
また、バッテリー制御手段52Bは、高圧バッテリー12からフロントモータ18に過大な突入電流が供給されないように、高圧バッテリー12からフロントモータ18に供給される電流を抑制する制御を行う。
このように突入電流を抑制することにより、高圧バッテリー12の劣化の防止が図られている。
【0018】
エンジン制御手段52Cは、エンジン22の始動、停止、回転数などを制御するものである。
エンジン制御手段52Cは、モータコイル温度センサ50で検出されたコイル温度が予め定められた閾値温度Tr以下の場合には、前記の踏み込み速度検出手段で検出された踏み込み速度Vapsが予め定められた閾値速度Vr以上であるときにエンジン22を始動させる。
なお、ドライバーがアクセルペダルを急に踏み込む操作は、フロントモータ18の駆動トルクを急に増加させる必要がある場合になされる操作であって、例えば、前方の車両を追い越す場合、登坂道路での加速や発進を行う場合などになされる。
また、エンジン制御手段52Cは、コイル温度が閾値温度Trを上回る場合には、バッテリー電流センサ48で検出された電流値が予め定められた閾値電流Ir以上であるときにエンジン22を始動させる。
【0019】
バッテリー充電状態検出手段52Dは、高圧バッテリー12の充電状態(SOC:State Of Charge)を検出するものである。充電状態(SOC)は、満充電時における電池の容量に対する充電残量の割合を比率(%)で示すものである。
バッテリー充電状態検出手段52Dによる高圧バッテリー12の充電状態の検出は、例えば、高圧バッテリー12の状態を監視する公知のバッテリー監視用ECUから充電状態の情報を取得することでなされる。
バッテリー連続通電時間検出手段52Eは、高圧バッテリー12からフロントモータ18に供給される電池電流が連続して供給される時間である連続通電時間を検出するものである。
バッテリー連続通電時間検出手段52Eによる連続通電時間の検出は、例えば、バッテリー電流センサ48の検出結果に基づいてなされる。
【0020】
閾値温度設定手段52Fは、閾値温度Trの設定を行うものである。
本実施の形態では、以下の3つの条件を満たすように閾値温度Trの設定を行う。
(1)バッテリー温度センサ46で検出された高圧バッテリー12の温度TBが低下するほど閾値温度Trが低下するように閾値温度Trを設定する。
(2)バッテリー充電状態検出手段52Dで検出された高圧バッテリー12の充電状態(SOC)が低下するほど閾値温度Trが低下するように閾値温度Trを設定する。
(3)バッテリー連続通電時間検出手段52Eで検出された連続通電時間が長くなるほど閾値温度Trが低下するように閾値温度Trを設定する。
図4は、閾値温度設定手段52Fによる閾値温度Trの設定動作の説明図である。
図4に示すように、閾値温度設定手段52Fは、第1のマップ58および第2のマップ60を備えている。
第1のマップ58は、高圧バッテリー12の電池温度TB毎に、高圧バッテリー12の連続通電時間tsと閾値温度Trとの関係を示したマップである。
第1のマップ58は、上記(1)および(3)の条件をあらわしている。
図4では、電池温度TBを3つの領域(高温、中温、低温)に区分した場合を例示している。例えば、高温の領域は、電池温度TBが温度T1以上の領域、中温の領域は電池温度TBがT2以上T1未満(T2<T1)の領域、低温の領域は温度TBがT2未満といったように規定される。なお、電池温度TBを区分する領域の数は2つ、あるいは、4つ以上であってもよいことは無論である。
第2のマップ60は、高圧バッテリー12の充電状態(SOC)毎に、高圧バッテリー12の連続通電時間tsと閾値温度Trとの関係を示したマップである。
第1のマップ60は、上記(2)および(3)の条件をあらわしている。
図4では、高圧バッテリー12の充電状態(SOC)を3つの領域(SOC高、SOC中、SOC低)に区分した場合を例示している。例えば、SOC高の領域は、SOCがSOC1以上の領域、SOC中の領域はSOCがSOC2以上SOC1未満(SOC2<SOC1)の領域、低SOCの領域はSOCがSOC2未満といったように規定される。なお、高圧バッテリー12の充電状態(SOC)を区分する領域の数は2つ、あるいは、4つ以上であってもよいことは無論である。
本実施の形態では、閾値温度設定手段52Fは、第1のマップ58に基づいて連続通電時間tsおよび電池温度TBから特定した温度閾値Trと、第2のマップ60に基づいて連続通電時間tsおよび充電状態(SOC)から特定した温度閾値Trとのうち、何れか値が小さい方を温度閾値Trとして設定するように構成されている。
【0021】
次に、図5のフローチャートを参照して制御装置30の動作について説明する。
ECU52は、フロントモータ18を用いた定常走行の状態、あるいは、定常走行を一時的に停止した走行停止の状態にある場合に、図5の処理を繰り返して実行する。
ECU52は、バッテリー温度センサ46で検出されたバッテリー温度TB、バッテリー連続通電時間検出手段52Eで検出された連続通電時間ts、バッテリー充電状態検出手段52Dで検出された充電状態(SOC)に基づいて閾値温度Trを演算し設定する(ステップS10:閾値温度設定手段52F)。
次に、モータコイル温度センサ50で検出されたモータのコイル温度が閾値温度Tr以下であるか否かを判定する(ステップS12:エンジン制御手段52C)。
ステップS12の判定結果が肯定であれば、踏み込み速度演算手段52Aで演算された踏み込み速度Vaps(ΔAPS/Δt)が予め定められた閾値速度Vr以上であるか否か、すなわち、アクセルペダルの急な踏み込み操作の有無を判定する(ステップS14:エンジン制御手段52C)。
ステップS14の判定結果が否定ならば、アクセルペダルの急な踏み込み操作がないので、一連の処理を終了(リターン)する。
ステップS14の判定結果が肯定であれば、アクセルペダルの急な踏み込み操作があるので、ECU52は、エンジン22を始動させて発電機24による発電動作を実行させる(ステップS16:エンジン制御手段52C)。これにより、高圧バッテリー12からの電流に発電機24からの電流が加算されてフロントモータ18に供給される。
すなわち、コイル温度が閾値温度Tr以下の場合には、踏み込み速度Vapsに基づいてエンジン22を始動させて発電機24による発電を実行する。
ECU52は、踏み込み速度Vaps(ΔAPS/Δt)が閾値速度Vr以上であることをもって駆動トルクの急激な増加の要求をインバータ14を介してフロントモータ18に与え、走行トルクの制御を行う(ステップS18、S20)。これにより、フロントモータ18の駆動トルクが急激に増加される(急加速がなされる)。
ECU52は、急加速が終了したか否かを判定する(ステップS22)。急加速の終了判定は、例えば、アクセルペダルの踏み込み速度Vasp、車速、駆動トルクに基づいてなされる。
ステップS22の判定結果が肯定ならば処理を終了(リターン)し、ステップS22の判定結果が否定ならば、ステップS16に戻る。
【0022】
また、ステップS12の判定結果が否定であれば、バッテリー電流センサ48で検出された高圧バッテリー12から流れる電流値が予め定められた閾値電流Ir以上であるか否かを判定する(ステップS24:エンジン制御手段52C)。
ステップS24の判定結果が肯定であれば、アクセルペダルの急な踏み込み操作があるので、ステップS16に移行して同様の処理を実施する。
すなわち、コイル温度が閾値温度Trを上回る場合には、高圧バッテリー12からフロントモータ18に供給される電流値に基づいてエンジン22を始動させて発電機24による発電を実行する。
ステップS24の判定結果が否定であれば、アクセルペダルの急な踏み込み操作がないので、処理を終了(リターン)する。
【0023】
次に、図5〜図7を参照して本実施の形態の作用効果について説明する。
以下では、ドライバーがアクセルペダルを急に踏み込む操作を行った場合における高圧バッテリー12から流れる電池電流と、発電機24で生成される発電電流と、フロントモータ18のトルクと、エンジン22の始動タイミングについて説明する。
【0024】
まず、説明を判りやすくするため、図6を参照してアクセルペダルの踏み込み量が予め定められた閾値以上となったときにエンジン22の始動を行う比較例について説明する。
図6に示すように、アクセルペダルが急に踏み込まれると、アクセルペダルの踏み込み量が予め定められた値を上回った時点からエンジン22が始動され発電電流が発生する。
このとき、モータのコイル温度が低いため、高圧バッテリー12からフロントモータ18に供給される電池電流を制限しないと、図示するように大きな突入電流が発生する。
そのため、ECU52は、高圧バッテリー12の電池電流を突入電流よりも低い抑制電流(破線)に抑制する制御を行う。
なお、図中、定格電流値は、高圧バッテリー12の劣化を防止でき電池電流の最大値を示す。したがって、抑制電流は定格電流値以下となるように制御される。
この場合、仮に前記の突入電流がそのままフロントモータ18に供給された場合、アクセルペダルの踏み込み量に対応する指示トルクAに対してフロントモータ18で発生する駆動トルクBは一定の時間遅れが生じる。
実際には、前記の突入電流よりも抑制された抑制電流に、発電機24で発電された発電電流が加算されてフロントモータ18に供給される。
しかしながら、抑制電流が突入電流よりも低いことに加え、エンジン22の始動後に発電電流が立ち上がるため、フロントモータ18に供給される電流は時間遅れを生じることから、フロントモータ18で発生する駆動トルクCは、前記の駆動トルクBよりもさらに時間遅れが生じる。
このように、アクセルペダルの急な踏み込み操作に対してエンジン22の始動タイミングが遅れるため、フロントモータ18の駆動トルクの応答性は低いものに留まる。
【0025】
次に、図7を参照して本発明に係る制御装置30を用いた場合においてドライバーがアクセルペダルを急に踏み込む操作を行った場合の電流、トルク、エンジン22の始動タイミングについて説明する。
図7(A)はモータのコイル温度が閾値温度Tr以下である場合を示し、図7(B)はモータのコイル温度が閾値温度Trを上回る場合を示す。
図7(A)に示すように、モータのコイル温度が閾値温度Tr以下である場合は、高圧バッテリー12からフロントモータ18に供給される電池電流が抑制電流に抑制される点は図6に示した比較例と同様である。
しかしながら、モータのコイル温度が閾値温度Tr以下である場合は、図5のステップS12、S14、S16、図7に示すように、アクセルペダルの踏み込み速度Vapsが閾値速度Vr以上であると判定された時点からエンジン22を始動させる。すなわち、図6の場合に比較してエンジン22を早期に始動させる。
したがって、前記の抑制電流に発電機24で発電された発電電流が早期に加算されてフロントモータ18に供給されるため、指示トルクAに対してフロントモータ18で発生する駆動トルクBの時間遅れを最小限に抑制することができ、アクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を向上させる上で有利となる。
【0026】
一方、図7(B)に示すように、モータのコイル温度が閾値温度Trを上回る場合は、高圧バッテリー12からフロントモータ18に供給される電池電流は低く突入電流が生じないため、電池電流の抑制が不要となる。
そこで、モータのコイル温度が閾値温度Trを上回る場合は、図5のステップS12、S24、S16、図7(B)に示すように、バッテリー電流センサ48で検出された高圧バッテリー12から流れる電流値が予め定められた閾値電流Ir以上であると判定された時点からエンジン22を始動させる。
すなわち、アクセルペダルの踏み込み量に応じて増加する電池電流が閾値電流Ir以上となった時点から発電機24で発電された発電電流が加算されてフロントモータ18に供給される。
したがって、図7(B)において電池電流が閾値電流Ir以上となる時点は、図7(A)に示すアクセルペダルの踏み込み速度Vapsが閾値速度Vr以上となる時点よりも遅くなるため、エンジン22の始動タイミングが図7(A)よりも遅延される。
そのため、指示トルクAに対してフロントモータ18で発生する駆動トルクBの時間遅れを最小限に抑制しつつ、不必要に早期にエンジン22を始動させることがないので、アクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を向上させると共に、燃費を向上させることができる。
【0027】
なお、高圧バッテリー12の温度TBが低下するほど高圧バッテリー12から出力し得る電池電流が低下する傾向となるため、高圧バッテリー12の温度TBが低下するほどエンジン22の始動タイミングを早期にすることがアクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を向上させる上で有利となる。
そこで、本実施の形態では、高圧バッテリー12の温度TBが低下するほどモータコイルの閾値温度Trが低下させることにより、アクセルペダルの踏み込み速度Vapsに基づいたエンジン22の始動判定を優先して行うようにした。
そのため、高圧バッテリー12の温度TBが低下して高圧バッテリー12から供給し得る電流が低下するような状況であってもアクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を確保する上で有利となる。
【0028】
また、高圧バッテリー12の充電状態(SOC)が低下するほど高圧バッテリー12から出力し得る電池電流が低下する傾向となるため、高圧バッテリー12の充電状態(SOC)が低下するほどエンジン22の始動タイミングを早期にすることがアクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を向上させる上で有利となる。
そこで、本実施の形態では、高圧バッテリー12の充電状態(SOC)が低下するほどモータコイルの閾値温度Trが低下させることにより、アクセルペダルの踏み込み速度に基づいたエンジン22の始動判定を優先して行うようにした。
そのため、高圧バッテリー12の充電状態(SOC)が低下して高圧バッテリー12から供給し得る電流が低下するような状況であってもアクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を確保する上で有利となる。
【0029】
また、高圧バッテリー12の連続通電時間が長くなるほど高圧バッテリー12から出力し得る電池電流が低下する傾向となるため、高圧バッテリー12の連続通電時間が長くなるほどエンジン22の始動タイミングを早期にすることがアクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を向上させる上で有利となる。
そこで、本実施の形態では、高圧バッテリー12の連続通電時間が長くなるほどモータコイルの閾値温度Trが低下させることにより、アクセルペダルの踏み込み速度に基づいたエンジン22の始動判定を優先して行うようにした。
そのため、高圧バッテリー12の連続通電時間が長くなって高圧バッテリー12から供給し得る電流が低下するような状況であってもアクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を確保する上で有利となる。
【0030】
なお、本実施の形態では、高圧バッテリー12の温度TB、高圧バッテリー12の充電状態(SOC)、高圧バッテリー12の連続通電時間の3つのパラメータを考慮してモータコイルの閾値温度Trの設定を行うようにした。
しかしながら、これら3つのパラメータのうちの少なくとも1つあるいは2つのパラメータを考慮してモータコイルの閾値温度Trの設定を行ってもよいし、これら3つのパラメータを考慮せずにモータコイルの閾値温度Trの設定を行ってもよい。
しかしながら、本実施の形態のように3つのパラメータを考慮してモータコイルの閾値温度Trの設定を行うと、高圧バッテリー12が供給し得る電流に応じて的確にモータコイルの閾値温度Trの設定を行うことができ、したがって、アクセルペダルの操作に対する駆動トルクの応答性を確保する上でより一層有利となる。
【符号の説明】
【0031】
10……車両、12……高圧バッテリー、14、16……インバータ、18……フロントモータ、20……リアモータ、22……エンジン、24……発電機、26……前輪、28……後輪、30……制御装置、44……アクセルペダルセンサ、46……バッテリー温度センサ、48……バッテリー電流センサ、50……モータコイル温度センサ、52……ECU、52A……踏み込み速度演算手段、52B……バッテリー制御手段、52C……エンジン制御手段、52D……バッテリー充電状態検出手段、52E……バッテリー連続通電時間検出手段、52F……閾値温度設定手段、Ir……電池電流の閾値電流、閾値電流、Tr……モータコイルの閾値温度、Vasp……アクセルペダルの踏み込み速度、Vr……閾値速度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪を駆動する電動モータと、前記電動モータに電流を供給するバッテリーと、前記電動モータに電流を供給する発電機と、前記発電機を駆動するエンジンとを備えるハイブリッド電気自動車の制御装置であって、
前記電動モータのコイル温度を検出する温度検出手段と、
アクセルペダルの踏み込み速度を検出する踏み込み速度検出手段と、
前記バッテリーから前記電動モータに供給される電流値を検出する電流検出手段と、
前記温度検出手段で検出された前記コイル温度が予め定められた閾値温度以下の場合には、前記踏み込み速度検出手段で検出された前記踏み込み速度に基づいて前記エンジンを始動させて前記発電機による発電を実行し、前記コイル温度が前記閾値温度を上回る場合には、前記電流検出手段で検出された前記電流値に基づいて前記エンジンを始動させて前記発電機による発電を実行させるエンジン制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
前記バッテリーの温度が低下するほど前記閾値温度を低くするように前記閾値温度を設定する閾値温度設定手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
前記バッテリーの充電状態が低下するほど前記閾値温度を低くするように前記閾値温度を設定する閾値温度設定手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項4】
前記バッテリーから前記電動モータに供給される電流が連続して供給される時間である連続通電時間が長くなるほど前記閾値温度を低くするように前記閾値温度を設定する閾値温度設定手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−56605(P2013−56605A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195629(P2011−195629)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】