ハーネスのノイズフィルタ構造
【課題】ノイズを確実に抑制することは勿論のこと、部品点数を削減し、コンパクト化や軽量化やコスト削減等を可能とする。
【解決手段】絶縁性のクランプ部材6,6’,22の内側に磁性体1が保持され、磁性体の径方向外側にワイヤハーネスの電線7の巻き部7aが螺旋状に配置され、巻き部の始端と終端とに続く電線7がクランプ部材の各電線固定部4,4’,10に固定されたハーネスのノイズフィルタ構造を採用する。クランプ部材6,6’は、磁性体1を挿入する孔部8を有する筒状部2,2’を備える。クランプ部材6,6’の外周又は筒状部2,2’の外周に巻き部7aを配置した。磁性体1の外周に巻き部7aを配置した。クランプ部材6,6’又は筒状部2,2’又は磁性体1に電線巻付け用の螺旋状の溝部3を設けた。クランプ部材6,6’,22に、取付側のパネル14に対する係止部5を設けた。
【解決手段】絶縁性のクランプ部材6,6’,22の内側に磁性体1が保持され、磁性体の径方向外側にワイヤハーネスの電線7の巻き部7aが螺旋状に配置され、巻き部の始端と終端とに続く電線7がクランプ部材の各電線固定部4,4’,10に固定されたハーネスのノイズフィルタ構造を採用する。クランプ部材6,6’は、磁性体1を挿入する孔部8を有する筒状部2,2’を備える。クランプ部材6,6’の外周又は筒状部2,2’の外周に巻き部7aを配置した。磁性体1の外周に巻き部7aを配置した。クランプ部材6,6’又は筒状部2,2’又は磁性体1に電線巻付け用の螺旋状の溝部3を設けた。クランプ部材6,6’,22に、取付側のパネル14に対する係止部5を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の電気部品等のノイズ対策としてフェライトコア等の磁性体を用いたハーネスのノイズフィルタ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車には様々な電気部品が搭載されており、EMC対策のために、コンデンサやコイルを用いて種々の形態のノイズフィルタが搭載されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、分割式のフェライトコアに電線挿通用の溝を設け、フェライトコアを合成樹脂製のケースに収容し、コネクタの導出電線をフェライトコアの溝に挿通させて、ケースを閉じて構成される、いわゆる後付け式のノイズフィルタ(図示せず)が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、円柱状のフェライトコアの周囲に絶縁被覆銅線をコイル状に巻き付け、絶縁被覆銅線の両端を圧着端子でハーネス(電線)に接続し、絶縁被覆銅線と圧着端子とを合成樹脂製のケース内に収容して構成される、いわゆるサブハーネス組み込み式のノイズフィルタ(図示せず)が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、円柱状の磁性コアの周囲に巻線コイルを配線して接着剤で固定し、巻線コイルの一端を金属製の一方の端子に接続し、巻線コイルの他端を他方の端子に接続して、各端子を樹脂材の台に固定して構成される、いわゆるターミナル組み込み式のノイズフィルタ(図示せず)が記載されている。
【0006】
上記各例におけるフェライトは、金属酸化物(電気的に絶縁性を示す)の強磁性体で、例えばセラミックとして焼結したものあり、金属に較べて固有抵抗が大きいので、高周波での使用に適している。コアは中子、鉄心等の意味である。フェライトコアの磁化に応じて、ノイズ電流の流れている電線のインピーダンス(Ω)が増加し、ノイズ電流の伝播が抑えられる。電線にノイズとなる高周波電流が流れると、磁界が発生し、これをフェライトコアが吸収し、熱に変換して放射する。磁性体としては、フェライト以外にパーマロイや鉄心等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−5751号公報(図1,図3)
【特許文献2】特開平8−330759号公報(図1)
【特許文献3】特開2008−109484号公報(図2〜図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記引用文献1に記載されたノイズフィルタにあっては、ハーネス(電線)にノイズフィルタを固定するだけなので、フェライトコアの重みで電線に直接力がかかってしまい、車両等の振動で電線が傷んだり、雑音を生じてしまうという懸念があった。
【0009】
また、引用文献2に記載されたノイズフィルタにあっては、銅線のコイルとハーネス(電線)との接続や、フェライトコアとコイルとの固定や、ケースとハーネスとの固定等を必要として、部品点数が増加し、構造が複雑化するという問題があった。
【0010】
また、引用文献3に記載されたノイズフィルタにあっては、各端子と巻線コイルとの接続や固定のための構造が複雑になるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記した点に鑑み、ノイズを確実に抑制することは勿論のこと、部品点数を削減し、コンパクト化、軽量化やコスト削減、部品組付作業の削減、搭載(取付)側の省スペース化を可能としたハーネスのノイズフィルタ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、絶縁性のクランプ部材の内側に磁性体が保持され、該磁性体の径方向外側にワイヤハーネスの電線の巻き部が螺旋状に配置され、該巻き部の始端と終端とに続く該電線が該クランプ部材の各電線固定部に固定されたことを特徴とする。
【0013】
上記構成により、ワイヤハーネスの電線が磁性体の径方向外側で螺旋状に巻かれたことで、従来の銅線を螺旋状に巻いてハーネスに接続する場合に較べて、端子等の接続部品と接続工数が不要となる。また、巻き部の始端と終端とに続く各電線部分がクランプ部材の各電線固定部に固定されたことで、巻き部のばらけや離脱が防止され、ノイズ吸収が確実に行われる。
【0014】
請求項2に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項1記載のハーネスのノイズフィルタ構造において、前記クランプ部材が、前記磁性体を挿入する孔部を有する筒状部を備えたことを特徴とする。
【0015】
上記構成により、磁性体が筒状部の孔部の一方の開口(入口)から孔部内に挿入されてガタつきなく保持される。磁性体は孔部内に圧入等で固定してもよく、あるいは孔部に沿って移動自在(ストッパは要する)としてもよい。
【0016】
請求項3に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項1記載のクランプ部材の外周又は請求項2記載の筒状部の外周に前記巻き部が配置されたことを特徴とする。
【0017】
上記構成により、磁性体の外周に巻き部を設けないことで、クランプ部材又は筒状部の内側に磁性体が隙間なく挿入配置されて正確に位置決めされる。
【0018】
請求項4に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項1記載のハーネスのノイズフィルタ構造において、前記磁性体の外周に前記巻き部が配置されたことを特徴とする。
【0019】
上記構成により、磁性体の外周の電線巻き部が外側のクランプ部材で外部との干渉等から安全に保護される。また、巻き部に続く電線がクランプ部材の電線固定部に固定されて、磁性体からの巻き部の離脱が防止される。
【0020】
請求項5に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項2記載のクランプ部材又は請求項3記載の筒状部又は請求項4記載の磁性体に電線巻付け用の螺旋状の溝部が設けられたことを特徴とする。
【0021】
上記構成により、溝部に沿って電線が正しいピッチで正確に巻き付けられ、ノイズ吸収が確実に行われる。また、溝部内に電線の巻き部が埋没することで、外観構造がコンパクト化される。
【0022】
請求項6に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項1〜5の何れかに記載のハーネスのノイズフィルタ構造において、前記クランプ部材に、取付側のパネルに対する係止部が設けられたことを特徴とする。
【0023】
上記構成により、磁性体と電線巻き部を保持したクランプ部材がノイズフィルタとして係止部で車両パネルの孔部等にワンタッチで固定される。車両パネルへの係止部の係止は通常のワイヤハーネスの係止と同様に行われる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の発明によれば、ワイヤハーネスの電線でノイズフィルタの一部を構成したことで、従来の銅線でコイル巻き部を形成し、巻き部をハーネスに接続する場合に較べて、接続用の端子や接続工数が不要となり、部品点数の削減と、構造の軽量化と、コスト削減と、部品組付作業の削減と、搭載側の省スペース化が可能となる。また、巻き部に続く電線をクランプ部材の電線固定部に固定したことで、巻き部のばらけや離脱が防止され、ノイズの抑制が確実に行われ、ノイズ吸収の信頼性が向上する。
【0025】
請求項2記載の発明によれば、筒状部の孔部に磁性体を挿入することで、簡単に磁性体を保持させることができる。また、筒状部は従来のケースに較べて開閉用のヒンジや係止手段等が不要であるから、構造を簡素化・コンパクト化・省スペース化することができる。
【0026】
請求項3記載の発明によれば、クランプ部材又は筒状部の内側に磁性体を隙間なく配置することで、構造をコンパクト化することができ、しかもクランプ部材又は筒状部の外周の電線巻き部に対して、クランプ部材又は筒状部の内側に磁性体を正確に位置決めして、ノイズ吸収性を高めることができる。
【0027】
請求項4記載の発明によれば、ワイヤハーネスの電線を磁性体に直接巻き付けることで、ノイズ吸収効率を高めることができる。また、電線の巻付け部をクランプ部材で覆って外部との干渉から保護することができる。
【0028】
請求項5記載の発明によれば、溝部に沿って電線を正しいピッチで正確に巻き付けることで、ノイズ吸収性を高めることができる。また、溝部内に電線の巻き部を埋没させることで、構造を径方向にコンパクト化することができる。
【0029】
請求項6記載の発明によれば、磁性体と電線の巻き部とクランプ部材とで成るノイズフィルタを車両等のパネルに作業性良く固定して、ノイズフィルタの振れやそれに起因する電線の摩耗等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】(a)(b)は図1の実施形態の一変形例を電線の巻き付け順に示す斜視図である。
【図3】本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造の他の実施形態を示す、(a)は分解斜視図、(b)は組付状態の斜視図である。
【図4】(a)は各実施形態における電線固定部の一例を示す斜視図、(b)は他の例を示す正面図である。
【図5】(a)は電線巻付け溝を有する筒状部の一例を示す斜視図、(b)は電線巻付け溝の一例を示す(a)のA−A相当断面図である。
【図6】(a)はクランプ部材の筒状部の一例を示す斜視図、(b)はクランプ部材の係止部の変形例を示す斜視図である。
【図7】クランプ部材の第一変形例を示す分解斜視図である。
【図8】クランプ部材の第二変形例を示す斜視図である。
【図9】クランプ部材の第三変形例を示す、(a)は分解斜視図、(b)は正面図である。
【図10】クランプ部材の第四変形例を示す、(a)は開いた状態の斜視図、(b)は閉じた状態の斜視図である。
【図11】クランプ部材の第五変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造の一実施形態を示すものである。
【0032】
この構造は、円柱状のフェライトコア(磁性体)1と、フェライトコア1を挿入保持する筒状部2と、筒状部2の外周に形成された電線巻付け用の螺旋状の溝部3と、筒状部2の長手方向の前後端に一体に設けられた電線固定部4と、筒状部2の長手方向中央に一体に設けられた係止部5とで成る合成(絶縁)樹脂製のクランプ部材6と、筒状部2の溝部3に沿って螺旋状に配索され、溝部3の前後で各電線固定部4に固定された絶縁被覆電線(以下電線と言う)7とで構成されたものである。
【0033】
筒状部2は断面円形の外周面と同心に、フェライトコア1を挿入するための断面円形の貫通した孔部8を有している。筒状部2の外周の溝部3は、中央部2aを除く前半と後半とに狭ピッチで等間隔に形成され、中央部2aにおいて係止部5を避けて広ピッチで形成されている。本例の電線巻付け用の溝部3は電線7の外径よりも若干大きな径で断面略半円状に形成されている。
【0034】
なお、溝部3を半円よりも深く形成して溝部3内に電線7を完全に(外部への電線4の突出なく)収容することも可能である。また、溝部3を電線7の外径と同じ径ないし若干小さい径で形成し、溝部3内に電線7を押し込んで固定させることも可能である。溝部3の始端と終端との二箇所で溝部3を電線7の外径と同じ径ないし若干小さい径で形成して、電線7を部分的に固定させることも可能である。電線7の螺旋状の巻付け部(コイル巻き部)を符号7aで示す。
【0035】
前後端の電線固定部4は、筒状部2の前後端に続く水平な板部9と、板部9の上面に立設された電線挟持片10とで構成され、挟持片10は中央に電線圧入用のスリット11を有している。
【0036】
中央の係止部5は既存の係止クリップであり、下向きの皿状のばねリップ12と、ばねリップ12の中央から垂下された一対の可撓性の爪部13とで構成されている。爪部13が車両のパネル14の孔15に挿入され、ばねリップ12がパネル14の上面に弾接して、孔15への爪部13の係合を上下のガタつきなく行わせる。
【0037】
フェライトコア1は筒状部2の孔部8内に例えば圧入ないし接着剤等で固定される。フェライトコア1を孔部8内に前後方向移動自在に挿入し、各電線固定部4の挟持片10をフェライトコア1の前後端に接近させて配置し、挟持片10でフェライトコア1の移動を阻止するストッパを成すことも可能である。
【0038】
合成樹脂製の挟持片10又は板部9は板厚方向の可撓性を有し、フェライトコア1を筒状部2内に挿入する際に撓んでフェライトコア1の挿入を許容することが好ましい。電線固定部4を筒状部2とは別体に形成し、フェライトコア1を筒状部2内に挿入した後、筒状部2に電線固定部4を係止手段で係止させることも可能ではある。
【0039】
フェライトコア1を筒状部2内に挿入した後、電線7を溝部3に沿って筒状部の外周に螺旋状に巻き付ける。あるいは、溝部3に沿って筒状部2の外周に電線7を巻き付けた後、フェライトコア1を筒状部2内に挿入し、電線7を電線固定部4に固定する。あるいは、溝部3に沿って筒状部2の外周に電線7を巻き付け、電線固定部4に固定した後、板部9を下向きに屈曲させてフェライトコア1を筒状部2内に挿入する。
【0040】
何れの場合でも、電線7は溝部3に沿って正しいピッチと巻き数で簡単且つ確実に筒状部2に巻き付けられる。電線7はワイヤハーネス製造工程においても溝部3に沿って誰でも簡単且つ確実に巻き付けることができる。電線7の巻き数が多いほど、減衰効果が高まり、ノイズが除去されるが、ノイズに応じたピッチと巻き数を溝部3によって簡単且つ確実に得ることができる。
【0041】
電線7はワイヤハーネスの一部(ハーネス)であるので、従来(特許文献2)のようにコイル巻き部をワイヤハーネス(電線)に端子で接続する手間や接続用の端子が不要である。電線7は電線固定部4の挟持片10のスリット11に上方から手指等で挿入(圧入係止)することで固定される。これについては後述する。例えば電線7の一方は電気部品や電装品等といった負荷側(図示せず)に接続され、電線7の他方は電源供給側や信号供給側に接続される。
【0042】
フェライトコア1とクランプ部材6とワイヤハーネスの電線7との三部品で簡単且つコンパクトなノイズフィルタ構造が構成される。従来(特許文献1,2)のようなケースや、ケースに代わる収縮チューブ等が不要であるから、構造が簡素化・コンパクト化され、車両側のノイズフィルタ16の取付部位が省スペース化される。なお、明細書において上下前後左右の方向性は説明の便宜上のものであり、クランプ部材6の取付方向と一致するとは限らない。
【0043】
図2(a)(b)は、クランプ部材6’の筒状部2’の中央ではなく一端部に係止部5を一体に設けた実施形態を示すものである。その他の構成は図1の実施形態と同様であるので、同じ構成部分には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
図2(a)の如く、筒状部2’の前後両端に電線固定部4’,4が一体に設けられ、一方の電線固定部4’の水平な板部9’の下面(裏面)に係止部5であるばねリップ12とその中央の爪部13とが一体に設けられている。一方の板部9’は他方の板部9よりも係止部5に合わせて幅広に形成されている。板部9’を下向きに押して爪部13をパネル14(図1)の孔15にスムーズに挿入可能である。中央に係止部5がないので、筒状部2’の外周の溝部3は全長に渡って等ピッチで形成されている。
【0045】
図2(a)は、電線8を溝部3に沿って筒状部2’の外周に巻き付けている途中の状態であり、電線7は巻付け始端側の電線固定部4に固定され、その状態で溝部3に滑りなく作業性良く巻き付けられる。これは図1の実施形態においても同様である。フェライトコア1は予め筒状部2’内に挿入されている。図2(b)の如く、電線7を螺旋状に巻き終わった後、巻付け終端側の電線固定部4’に固定する。電線7の巻き部を符号7aで示す。
【0046】
図3(a)(b)は、本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造の他の実施形態を示すものである。
【0047】
この構造は、図3(a)の如く、円柱状のフェライトコア(磁性体)1と、フェライトコア1の外周面に螺旋状に巻き付けられるワイヤハーネスの一部である絶縁被覆電線7と、電線7を巻き付けたフェライトコア1を収容保持する略半円筒状のカバー19と、カバー19を薄肉のヒンジ20で開閉自在に連結した基板部21と、基板部21の前後端の上面(表面)に設けられた電線固定部としての挟持片10と、基板部21の中央の下面(裏面)に設けられた係止部5とを備えるクランプ部材22とで構成されている。図1の実施形態と同じ構成部分には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0048】
図1の実施形態ではクランプ部材6に電線7を巻き付けたのに対し、図3の実施形態ではフェライトコア1に電線7を巻き付けている。電線7はフェライトコア1の外周面に接着剤等で固定される。フェライトコア1の外周面に螺旋状の電線巻付け用の溝部(3)を設けることも可能である。
【0049】
カバー19は開閉先端側に係止部として例えば係止孔23を有し、水平な基板部21に係合部として係合突起24を有している。カバー19の内面側に電線付きのフェライトコア1を収容し、カバー19を閉止することで、カバー19の内面と基板部21の上面との間に電線付きのフェライトコア1が挟持固定される。フェライトコア1における電線7の巻き部7aに続く前後の真直部分7bを基板部21の前後の挟持片10のスリット11内に上方から挿入固定させる。
【0050】
カバー19と基板部21との間に電線付きのフェライトコア1を前後方向移動自在に収容した場合は、前後の挟持片10がフェライトコア1に対するストッパとして作用する。係止部5の爪13をパネル14(図1)の孔15に挿入係止させ、ばねリップ12をパネル14の上面に弾接させる。
【0051】
従来(特許文献2)の断面円形のケースに較べて基板部21が平坦であるので、構造がコンパクト化・省スペース化される。また、電線7が前後の電線固定部10に固定されることで、フェライトコア1からの電線7のコイル巻き部(巻付け部)7aの離脱が防止される。また、電線7がワイヤハーネスの一部であり、電線固定部10をカバー19で覆う必要がないので、従来(特許文献2)のケースに較べてカバー19が小型化・省スペース化される。
【0052】
また、図1,図2の実施形態においても同様であるが、車両によるノイズ評価等に基づいて、ワイヤハーネスの電線7へのコイル巻き部7aの追加(形成)や削除(形成せず)を容易に行うことができる。特に、ワイヤハーネスのクランプ固定位置(パネル孔15)を流用することで、車両への電線7のコイル巻き部7aの設定(追加)を容易に行うことができる。また、上記した各ノイズフィルタ構造はワイヤハーネスの製造工程において作業者又は簡易治具により簡単に生産することができる。
【0053】
図4(a)は、上記各実施形態における電線固定部である挟持片10の一例を示すものであり、左右一対の挟持片部10aの高さ方向中間部の内面にスリット11内に突出する傾斜状の一対の突起10bが設けられ、電線7は上方から突起10b間に挿入され、突起10bを乗り越しつつ係止片部10aを外向きに開いて、突起10bの下側に係合し、突起10bで抜け出しを阻止されつつ挟持片部10aの内面で径方向に弾性的に押されて挟持される。
【0054】
図4(b)の如く、一対の突起10bに代えて一つの斜め下向きの可撓性の係止片10cを設け、電線7を係止片10cを乗り越えてスリット11内に挿入して左右の挟持片部10aで挟持固定させることも可能である。何れの場合も、電線7を挟持片10で固定することで、筒状部2からの電線巻付け部7aの離脱が確実に防止される。
【0055】
図5(a)(b)は、図1,図2の実施形態におけるクランプ部材6の筒状部2の電線巻付け用の溝部3の一例を示すものである。図5(b)の断面図の如く、溝部3は入口3aが狭く、内部が広く形成され、狭い入口3aから溝部3内に押し込まれた電線7は、狭い入口3aによって離脱が防止され、筒状部2における電線巻き部7aの位置決め性と筒状部2への電線7の巻付け作業性が向上する。図5において電線固定部4は図示を省略している。
【0056】
図6(a)(b)は、図1の実施形態における係止部5の一変形例を示すものである。この係止部5’は、図6(a)の如く筒状部2とは別体に形成され、筒状部2の内側にフェライトコア1を挿入し、筒状部2の外周に電線7を巻いた後、図6(b)の如く筒状部2の外周側にバンド25等で締付固定される。係止部5’は、バンド25と、バンド25の長手方向中間部に一体に設けられたばねリップ12とその中心の爪部13と、バンド25の基端に一体に設けられたバンド挿入係止部(図示せず)とで構成される。図6において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0057】
図7は、図1の実施形態において、フェライトコア1をクランプ部材26の有底の筒状部2内に挿入し、キャップ28で筒状部27の入口27aを閉じて、筒状部27内にフェライトコア1を収容固定する例を示すものである。本例のキャップ28は、フェライトコア1の端部を押さえるばね片28aと、筒状部27の入口側の切欠27bに係合する突起28bとを有している。図7において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0058】
図8は、図1の実施形態において、合成樹脂製のクランプ部材29の筒状部30内にフェライトコア1をインサート成形で隙間やガタ付きなく完全固定した例を示すものである。図8において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0059】
図9(a)(b)は、図1の実施形態の筒状部2に代えてスリット状の上部開口31aを有する弾性の筒状部31を用い、筒状部31の前後端に、フェライトコア1に対するストッパとしてのばね片32を設け、上部開口31aからフェライトコア1を筒状部31内に挿入し、筒状部31の縮径方向のばね力でフェライトコア1を固定し、且つ前後のばね片32でフェライトコア1を前後方向に固定し、筒状部31の外周に電線7を螺旋状に巻回したクランプ部材33の例を示すものである。図9において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0060】
図10(a)(b)は、図1の実施形態の筒状部2や図3の実施形態のカバー19と基板部21に代えて、二分割式の円筒状のケース34を用い、ケース34のベース部34a内にフェライトコア1を収容保持し、ケース34のカバー部34bにフェライトコア押さえ用のばね片35と、ベース部34aの係止突起36に対する係合枠片37とを設け、カバー部34bを閉じて、ケース34の外周に電線7を螺旋状に巻き付けたクランプ部材38の例を示すものである。電線7はケース34の外周に代えてフェライトコア1の外周に巻き付けてもよい。図10において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0061】
図11は、図10の例と同様(ばね片はない)のケース34を用い、ケース内に、電線7を巻き付けたフェライトコア1を収容し、ケース内にホットメルト樹脂やポッティング樹脂といった樹脂材39を注入してフェライトコア1を保持固定したクランプ部材40の例を示すものである。
【0062】
なお、上記各実施形態においては、係止部5でクランプ部材6,6’,22をパネル14に固定したが、係止部5に代えてボルト挿通用のブラケット(図示せず)やスライド固定用のスルーブラケット等(図示せず)をクランプ部材6,6’,22に設けたり、あるいは係止部5等を排除して、ワイヤハーネスの他の電線と共にクランプ部材6,6’,22を配索してテープ巻き等でパネル14等に固定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、例えば自動車のワイヤハーネスの一部として車両内の電気部品等のノイズを吸収するために利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 フェライトコア(磁性体)
2,2’ 筒状部
3 溝部
4,4’ 電線固定部
5 係止部
6,6’,22 クランプ部材
7 電線
7a 巻き部
8 孔部
10 挟持片(電線固定部)
14 パネル
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の電気部品等のノイズ対策としてフェライトコア等の磁性体を用いたハーネスのノイズフィルタ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車には様々な電気部品が搭載されており、EMC対策のために、コンデンサやコイルを用いて種々の形態のノイズフィルタが搭載されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、分割式のフェライトコアに電線挿通用の溝を設け、フェライトコアを合成樹脂製のケースに収容し、コネクタの導出電線をフェライトコアの溝に挿通させて、ケースを閉じて構成される、いわゆる後付け式のノイズフィルタ(図示せず)が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、円柱状のフェライトコアの周囲に絶縁被覆銅線をコイル状に巻き付け、絶縁被覆銅線の両端を圧着端子でハーネス(電線)に接続し、絶縁被覆銅線と圧着端子とを合成樹脂製のケース内に収容して構成される、いわゆるサブハーネス組み込み式のノイズフィルタ(図示せず)が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、円柱状の磁性コアの周囲に巻線コイルを配線して接着剤で固定し、巻線コイルの一端を金属製の一方の端子に接続し、巻線コイルの他端を他方の端子に接続して、各端子を樹脂材の台に固定して構成される、いわゆるターミナル組み込み式のノイズフィルタ(図示せず)が記載されている。
【0006】
上記各例におけるフェライトは、金属酸化物(電気的に絶縁性を示す)の強磁性体で、例えばセラミックとして焼結したものあり、金属に較べて固有抵抗が大きいので、高周波での使用に適している。コアは中子、鉄心等の意味である。フェライトコアの磁化に応じて、ノイズ電流の流れている電線のインピーダンス(Ω)が増加し、ノイズ電流の伝播が抑えられる。電線にノイズとなる高周波電流が流れると、磁界が発生し、これをフェライトコアが吸収し、熱に変換して放射する。磁性体としては、フェライト以外にパーマロイや鉄心等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−5751号公報(図1,図3)
【特許文献2】特開平8−330759号公報(図1)
【特許文献3】特開2008−109484号公報(図2〜図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記引用文献1に記載されたノイズフィルタにあっては、ハーネス(電線)にノイズフィルタを固定するだけなので、フェライトコアの重みで電線に直接力がかかってしまい、車両等の振動で電線が傷んだり、雑音を生じてしまうという懸念があった。
【0009】
また、引用文献2に記載されたノイズフィルタにあっては、銅線のコイルとハーネス(電線)との接続や、フェライトコアとコイルとの固定や、ケースとハーネスとの固定等を必要として、部品点数が増加し、構造が複雑化するという問題があった。
【0010】
また、引用文献3に記載されたノイズフィルタにあっては、各端子と巻線コイルとの接続や固定のための構造が複雑になるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記した点に鑑み、ノイズを確実に抑制することは勿論のこと、部品点数を削減し、コンパクト化、軽量化やコスト削減、部品組付作業の削減、搭載(取付)側の省スペース化を可能としたハーネスのノイズフィルタ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、絶縁性のクランプ部材の内側に磁性体が保持され、該磁性体の径方向外側にワイヤハーネスの電線の巻き部が螺旋状に配置され、該巻き部の始端と終端とに続く該電線が該クランプ部材の各電線固定部に固定されたことを特徴とする。
【0013】
上記構成により、ワイヤハーネスの電線が磁性体の径方向外側で螺旋状に巻かれたことで、従来の銅線を螺旋状に巻いてハーネスに接続する場合に較べて、端子等の接続部品と接続工数が不要となる。また、巻き部の始端と終端とに続く各電線部分がクランプ部材の各電線固定部に固定されたことで、巻き部のばらけや離脱が防止され、ノイズ吸収が確実に行われる。
【0014】
請求項2に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項1記載のハーネスのノイズフィルタ構造において、前記クランプ部材が、前記磁性体を挿入する孔部を有する筒状部を備えたことを特徴とする。
【0015】
上記構成により、磁性体が筒状部の孔部の一方の開口(入口)から孔部内に挿入されてガタつきなく保持される。磁性体は孔部内に圧入等で固定してもよく、あるいは孔部に沿って移動自在(ストッパは要する)としてもよい。
【0016】
請求項3に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項1記載のクランプ部材の外周又は請求項2記載の筒状部の外周に前記巻き部が配置されたことを特徴とする。
【0017】
上記構成により、磁性体の外周に巻き部を設けないことで、クランプ部材又は筒状部の内側に磁性体が隙間なく挿入配置されて正確に位置決めされる。
【0018】
請求項4に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項1記載のハーネスのノイズフィルタ構造において、前記磁性体の外周に前記巻き部が配置されたことを特徴とする。
【0019】
上記構成により、磁性体の外周の電線巻き部が外側のクランプ部材で外部との干渉等から安全に保護される。また、巻き部に続く電線がクランプ部材の電線固定部に固定されて、磁性体からの巻き部の離脱が防止される。
【0020】
請求項5に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項2記載のクランプ部材又は請求項3記載の筒状部又は請求項4記載の磁性体に電線巻付け用の螺旋状の溝部が設けられたことを特徴とする。
【0021】
上記構成により、溝部に沿って電線が正しいピッチで正確に巻き付けられ、ノイズ吸収が確実に行われる。また、溝部内に電線の巻き部が埋没することで、外観構造がコンパクト化される。
【0022】
請求項6に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、請求項1〜5の何れかに記載のハーネスのノイズフィルタ構造において、前記クランプ部材に、取付側のパネルに対する係止部が設けられたことを特徴とする。
【0023】
上記構成により、磁性体と電線巻き部を保持したクランプ部材がノイズフィルタとして係止部で車両パネルの孔部等にワンタッチで固定される。車両パネルへの係止部の係止は通常のワイヤハーネスの係止と同様に行われる。
【発明の効果】
【0024】
請求項1記載の発明によれば、ワイヤハーネスの電線でノイズフィルタの一部を構成したことで、従来の銅線でコイル巻き部を形成し、巻き部をハーネスに接続する場合に較べて、接続用の端子や接続工数が不要となり、部品点数の削減と、構造の軽量化と、コスト削減と、部品組付作業の削減と、搭載側の省スペース化が可能となる。また、巻き部に続く電線をクランプ部材の電線固定部に固定したことで、巻き部のばらけや離脱が防止され、ノイズの抑制が確実に行われ、ノイズ吸収の信頼性が向上する。
【0025】
請求項2記載の発明によれば、筒状部の孔部に磁性体を挿入することで、簡単に磁性体を保持させることができる。また、筒状部は従来のケースに較べて開閉用のヒンジや係止手段等が不要であるから、構造を簡素化・コンパクト化・省スペース化することができる。
【0026】
請求項3記載の発明によれば、クランプ部材又は筒状部の内側に磁性体を隙間なく配置することで、構造をコンパクト化することができ、しかもクランプ部材又は筒状部の外周の電線巻き部に対して、クランプ部材又は筒状部の内側に磁性体を正確に位置決めして、ノイズ吸収性を高めることができる。
【0027】
請求項4記載の発明によれば、ワイヤハーネスの電線を磁性体に直接巻き付けることで、ノイズ吸収効率を高めることができる。また、電線の巻付け部をクランプ部材で覆って外部との干渉から保護することができる。
【0028】
請求項5記載の発明によれば、溝部に沿って電線を正しいピッチで正確に巻き付けることで、ノイズ吸収性を高めることができる。また、溝部内に電線の巻き部を埋没させることで、構造を径方向にコンパクト化することができる。
【0029】
請求項6記載の発明によれば、磁性体と電線の巻き部とクランプ部材とで成るノイズフィルタを車両等のパネルに作業性良く固定して、ノイズフィルタの振れやそれに起因する電線の摩耗等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】(a)(b)は図1の実施形態の一変形例を電線の巻き付け順に示す斜視図である。
【図3】本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造の他の実施形態を示す、(a)は分解斜視図、(b)は組付状態の斜視図である。
【図4】(a)は各実施形態における電線固定部の一例を示す斜視図、(b)は他の例を示す正面図である。
【図5】(a)は電線巻付け溝を有する筒状部の一例を示す斜視図、(b)は電線巻付け溝の一例を示す(a)のA−A相当断面図である。
【図6】(a)はクランプ部材の筒状部の一例を示す斜視図、(b)はクランプ部材の係止部の変形例を示す斜視図である。
【図7】クランプ部材の第一変形例を示す分解斜視図である。
【図8】クランプ部材の第二変形例を示す斜視図である。
【図9】クランプ部材の第三変形例を示す、(a)は分解斜視図、(b)は正面図である。
【図10】クランプ部材の第四変形例を示す、(a)は開いた状態の斜視図、(b)は閉じた状態の斜視図である。
【図11】クランプ部材の第五変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造の一実施形態を示すものである。
【0032】
この構造は、円柱状のフェライトコア(磁性体)1と、フェライトコア1を挿入保持する筒状部2と、筒状部2の外周に形成された電線巻付け用の螺旋状の溝部3と、筒状部2の長手方向の前後端に一体に設けられた電線固定部4と、筒状部2の長手方向中央に一体に設けられた係止部5とで成る合成(絶縁)樹脂製のクランプ部材6と、筒状部2の溝部3に沿って螺旋状に配索され、溝部3の前後で各電線固定部4に固定された絶縁被覆電線(以下電線と言う)7とで構成されたものである。
【0033】
筒状部2は断面円形の外周面と同心に、フェライトコア1を挿入するための断面円形の貫通した孔部8を有している。筒状部2の外周の溝部3は、中央部2aを除く前半と後半とに狭ピッチで等間隔に形成され、中央部2aにおいて係止部5を避けて広ピッチで形成されている。本例の電線巻付け用の溝部3は電線7の外径よりも若干大きな径で断面略半円状に形成されている。
【0034】
なお、溝部3を半円よりも深く形成して溝部3内に電線7を完全に(外部への電線4の突出なく)収容することも可能である。また、溝部3を電線7の外径と同じ径ないし若干小さい径で形成し、溝部3内に電線7を押し込んで固定させることも可能である。溝部3の始端と終端との二箇所で溝部3を電線7の外径と同じ径ないし若干小さい径で形成して、電線7を部分的に固定させることも可能である。電線7の螺旋状の巻付け部(コイル巻き部)を符号7aで示す。
【0035】
前後端の電線固定部4は、筒状部2の前後端に続く水平な板部9と、板部9の上面に立設された電線挟持片10とで構成され、挟持片10は中央に電線圧入用のスリット11を有している。
【0036】
中央の係止部5は既存の係止クリップであり、下向きの皿状のばねリップ12と、ばねリップ12の中央から垂下された一対の可撓性の爪部13とで構成されている。爪部13が車両のパネル14の孔15に挿入され、ばねリップ12がパネル14の上面に弾接して、孔15への爪部13の係合を上下のガタつきなく行わせる。
【0037】
フェライトコア1は筒状部2の孔部8内に例えば圧入ないし接着剤等で固定される。フェライトコア1を孔部8内に前後方向移動自在に挿入し、各電線固定部4の挟持片10をフェライトコア1の前後端に接近させて配置し、挟持片10でフェライトコア1の移動を阻止するストッパを成すことも可能である。
【0038】
合成樹脂製の挟持片10又は板部9は板厚方向の可撓性を有し、フェライトコア1を筒状部2内に挿入する際に撓んでフェライトコア1の挿入を許容することが好ましい。電線固定部4を筒状部2とは別体に形成し、フェライトコア1を筒状部2内に挿入した後、筒状部2に電線固定部4を係止手段で係止させることも可能ではある。
【0039】
フェライトコア1を筒状部2内に挿入した後、電線7を溝部3に沿って筒状部の外周に螺旋状に巻き付ける。あるいは、溝部3に沿って筒状部2の外周に電線7を巻き付けた後、フェライトコア1を筒状部2内に挿入し、電線7を電線固定部4に固定する。あるいは、溝部3に沿って筒状部2の外周に電線7を巻き付け、電線固定部4に固定した後、板部9を下向きに屈曲させてフェライトコア1を筒状部2内に挿入する。
【0040】
何れの場合でも、電線7は溝部3に沿って正しいピッチと巻き数で簡単且つ確実に筒状部2に巻き付けられる。電線7はワイヤハーネス製造工程においても溝部3に沿って誰でも簡単且つ確実に巻き付けることができる。電線7の巻き数が多いほど、減衰効果が高まり、ノイズが除去されるが、ノイズに応じたピッチと巻き数を溝部3によって簡単且つ確実に得ることができる。
【0041】
電線7はワイヤハーネスの一部(ハーネス)であるので、従来(特許文献2)のようにコイル巻き部をワイヤハーネス(電線)に端子で接続する手間や接続用の端子が不要である。電線7は電線固定部4の挟持片10のスリット11に上方から手指等で挿入(圧入係止)することで固定される。これについては後述する。例えば電線7の一方は電気部品や電装品等といった負荷側(図示せず)に接続され、電線7の他方は電源供給側や信号供給側に接続される。
【0042】
フェライトコア1とクランプ部材6とワイヤハーネスの電線7との三部品で簡単且つコンパクトなノイズフィルタ構造が構成される。従来(特許文献1,2)のようなケースや、ケースに代わる収縮チューブ等が不要であるから、構造が簡素化・コンパクト化され、車両側のノイズフィルタ16の取付部位が省スペース化される。なお、明細書において上下前後左右の方向性は説明の便宜上のものであり、クランプ部材6の取付方向と一致するとは限らない。
【0043】
図2(a)(b)は、クランプ部材6’の筒状部2’の中央ではなく一端部に係止部5を一体に設けた実施形態を示すものである。その他の構成は図1の実施形態と同様であるので、同じ構成部分には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
図2(a)の如く、筒状部2’の前後両端に電線固定部4’,4が一体に設けられ、一方の電線固定部4’の水平な板部9’の下面(裏面)に係止部5であるばねリップ12とその中央の爪部13とが一体に設けられている。一方の板部9’は他方の板部9よりも係止部5に合わせて幅広に形成されている。板部9’を下向きに押して爪部13をパネル14(図1)の孔15にスムーズに挿入可能である。中央に係止部5がないので、筒状部2’の外周の溝部3は全長に渡って等ピッチで形成されている。
【0045】
図2(a)は、電線8を溝部3に沿って筒状部2’の外周に巻き付けている途中の状態であり、電線7は巻付け始端側の電線固定部4に固定され、その状態で溝部3に滑りなく作業性良く巻き付けられる。これは図1の実施形態においても同様である。フェライトコア1は予め筒状部2’内に挿入されている。図2(b)の如く、電線7を螺旋状に巻き終わった後、巻付け終端側の電線固定部4’に固定する。電線7の巻き部を符号7aで示す。
【0046】
図3(a)(b)は、本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造の他の実施形態を示すものである。
【0047】
この構造は、図3(a)の如く、円柱状のフェライトコア(磁性体)1と、フェライトコア1の外周面に螺旋状に巻き付けられるワイヤハーネスの一部である絶縁被覆電線7と、電線7を巻き付けたフェライトコア1を収容保持する略半円筒状のカバー19と、カバー19を薄肉のヒンジ20で開閉自在に連結した基板部21と、基板部21の前後端の上面(表面)に設けられた電線固定部としての挟持片10と、基板部21の中央の下面(裏面)に設けられた係止部5とを備えるクランプ部材22とで構成されている。図1の実施形態と同じ構成部分には同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0048】
図1の実施形態ではクランプ部材6に電線7を巻き付けたのに対し、図3の実施形態ではフェライトコア1に電線7を巻き付けている。電線7はフェライトコア1の外周面に接着剤等で固定される。フェライトコア1の外周面に螺旋状の電線巻付け用の溝部(3)を設けることも可能である。
【0049】
カバー19は開閉先端側に係止部として例えば係止孔23を有し、水平な基板部21に係合部として係合突起24を有している。カバー19の内面側に電線付きのフェライトコア1を収容し、カバー19を閉止することで、カバー19の内面と基板部21の上面との間に電線付きのフェライトコア1が挟持固定される。フェライトコア1における電線7の巻き部7aに続く前後の真直部分7bを基板部21の前後の挟持片10のスリット11内に上方から挿入固定させる。
【0050】
カバー19と基板部21との間に電線付きのフェライトコア1を前後方向移動自在に収容した場合は、前後の挟持片10がフェライトコア1に対するストッパとして作用する。係止部5の爪13をパネル14(図1)の孔15に挿入係止させ、ばねリップ12をパネル14の上面に弾接させる。
【0051】
従来(特許文献2)の断面円形のケースに較べて基板部21が平坦であるので、構造がコンパクト化・省スペース化される。また、電線7が前後の電線固定部10に固定されることで、フェライトコア1からの電線7のコイル巻き部(巻付け部)7aの離脱が防止される。また、電線7がワイヤハーネスの一部であり、電線固定部10をカバー19で覆う必要がないので、従来(特許文献2)のケースに較べてカバー19が小型化・省スペース化される。
【0052】
また、図1,図2の実施形態においても同様であるが、車両によるノイズ評価等に基づいて、ワイヤハーネスの電線7へのコイル巻き部7aの追加(形成)や削除(形成せず)を容易に行うことができる。特に、ワイヤハーネスのクランプ固定位置(パネル孔15)を流用することで、車両への電線7のコイル巻き部7aの設定(追加)を容易に行うことができる。また、上記した各ノイズフィルタ構造はワイヤハーネスの製造工程において作業者又は簡易治具により簡単に生産することができる。
【0053】
図4(a)は、上記各実施形態における電線固定部である挟持片10の一例を示すものであり、左右一対の挟持片部10aの高さ方向中間部の内面にスリット11内に突出する傾斜状の一対の突起10bが設けられ、電線7は上方から突起10b間に挿入され、突起10bを乗り越しつつ係止片部10aを外向きに開いて、突起10bの下側に係合し、突起10bで抜け出しを阻止されつつ挟持片部10aの内面で径方向に弾性的に押されて挟持される。
【0054】
図4(b)の如く、一対の突起10bに代えて一つの斜め下向きの可撓性の係止片10cを設け、電線7を係止片10cを乗り越えてスリット11内に挿入して左右の挟持片部10aで挟持固定させることも可能である。何れの場合も、電線7を挟持片10で固定することで、筒状部2からの電線巻付け部7aの離脱が確実に防止される。
【0055】
図5(a)(b)は、図1,図2の実施形態におけるクランプ部材6の筒状部2の電線巻付け用の溝部3の一例を示すものである。図5(b)の断面図の如く、溝部3は入口3aが狭く、内部が広く形成され、狭い入口3aから溝部3内に押し込まれた電線7は、狭い入口3aによって離脱が防止され、筒状部2における電線巻き部7aの位置決め性と筒状部2への電線7の巻付け作業性が向上する。図5において電線固定部4は図示を省略している。
【0056】
図6(a)(b)は、図1の実施形態における係止部5の一変形例を示すものである。この係止部5’は、図6(a)の如く筒状部2とは別体に形成され、筒状部2の内側にフェライトコア1を挿入し、筒状部2の外周に電線7を巻いた後、図6(b)の如く筒状部2の外周側にバンド25等で締付固定される。係止部5’は、バンド25と、バンド25の長手方向中間部に一体に設けられたばねリップ12とその中心の爪部13と、バンド25の基端に一体に設けられたバンド挿入係止部(図示せず)とで構成される。図6において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0057】
図7は、図1の実施形態において、フェライトコア1をクランプ部材26の有底の筒状部2内に挿入し、キャップ28で筒状部27の入口27aを閉じて、筒状部27内にフェライトコア1を収容固定する例を示すものである。本例のキャップ28は、フェライトコア1の端部を押さえるばね片28aと、筒状部27の入口側の切欠27bに係合する突起28bとを有している。図7において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0058】
図8は、図1の実施形態において、合成樹脂製のクランプ部材29の筒状部30内にフェライトコア1をインサート成形で隙間やガタ付きなく完全固定した例を示すものである。図8において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0059】
図9(a)(b)は、図1の実施形態の筒状部2に代えてスリット状の上部開口31aを有する弾性の筒状部31を用い、筒状部31の前後端に、フェライトコア1に対するストッパとしてのばね片32を設け、上部開口31aからフェライトコア1を筒状部31内に挿入し、筒状部31の縮径方向のばね力でフェライトコア1を固定し、且つ前後のばね片32でフェライトコア1を前後方向に固定し、筒状部31の外周に電線7を螺旋状に巻回したクランプ部材33の例を示すものである。図9において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0060】
図10(a)(b)は、図1の実施形態の筒状部2や図3の実施形態のカバー19と基板部21に代えて、二分割式の円筒状のケース34を用い、ケース34のベース部34a内にフェライトコア1を収容保持し、ケース34のカバー部34bにフェライトコア押さえ用のばね片35と、ベース部34aの係止突起36に対する係合枠片37とを設け、カバー部34bを閉じて、ケース34の外周に電線7を螺旋状に巻き付けたクランプ部材38の例を示すものである。電線7はケース34の外周に代えてフェライトコア1の外周に巻き付けてもよい。図10において、電線固定部4や電線巻付け用の溝部3は図示を省略している。
【0061】
図11は、図10の例と同様(ばね片はない)のケース34を用い、ケース内に、電線7を巻き付けたフェライトコア1を収容し、ケース内にホットメルト樹脂やポッティング樹脂といった樹脂材39を注入してフェライトコア1を保持固定したクランプ部材40の例を示すものである。
【0062】
なお、上記各実施形態においては、係止部5でクランプ部材6,6’,22をパネル14に固定したが、係止部5に代えてボルト挿通用のブラケット(図示せず)やスライド固定用のスルーブラケット等(図示せず)をクランプ部材6,6’,22に設けたり、あるいは係止部5等を排除して、ワイヤハーネスの他の電線と共にクランプ部材6,6’,22を配索してテープ巻き等でパネル14等に固定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るハーネスのノイズフィルタ構造は、例えば自動車のワイヤハーネスの一部として車両内の電気部品等のノイズを吸収するために利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 フェライトコア(磁性体)
2,2’ 筒状部
3 溝部
4,4’ 電線固定部
5 係止部
6,6’,22 クランプ部材
7 電線
7a 巻き部
8 孔部
10 挟持片(電線固定部)
14 パネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性のクランプ部材の内側に磁性体が保持され、該磁性体の径方向外側にワイヤハーネスの電線の巻き部が螺旋状に配置され、該巻き部の始端と終端とに続く該電線が該クランプ部材の各電線固定部に固定されたことを特徴とするハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項2】
前記クランプ部材が、前記磁性体を挿入する孔部を有する筒状部を備えたことを特徴とする請求項1記載のハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項3】
請求項1記載のクランプ部材の外周又は請求項2記載の筒状部の外周に前記巻き部が配置されたことを特徴とするハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項4】
前記磁性体の外周に前記巻き部が配置されたことを特徴とする請求項1記載のハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項5】
請求項2記載のクランプ部材又は請求項3記載の筒状部又は請求項4記載の磁性体に電線巻付け用の螺旋状の溝部が設けられたことを特徴とするハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項6】
前記クランプ部材に、取付側のパネルに対する係止部が設けられたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項1】
絶縁性のクランプ部材の内側に磁性体が保持され、該磁性体の径方向外側にワイヤハーネスの電線の巻き部が螺旋状に配置され、該巻き部の始端と終端とに続く該電線が該クランプ部材の各電線固定部に固定されたことを特徴とするハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項2】
前記クランプ部材が、前記磁性体を挿入する孔部を有する筒状部を備えたことを特徴とする請求項1記載のハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項3】
請求項1記載のクランプ部材の外周又は請求項2記載の筒状部の外周に前記巻き部が配置されたことを特徴とするハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項4】
前記磁性体の外周に前記巻き部が配置されたことを特徴とする請求項1記載のハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項5】
請求項2記載のクランプ部材又は請求項3記載の筒状部又は請求項4記載の磁性体に電線巻付け用の螺旋状の溝部が設けられたことを特徴とするハーネスのノイズフィルタ構造。
【請求項6】
前記クランプ部材に、取付側のパネルに対する係止部が設けられたことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のハーネスのノイズフィルタ構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−61610(P2011−61610A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210633(P2009−210633)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
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