説明

バッテリ搭載構造

【課題】 フロントサイドメンバ部材の軽量化を図りつつ、フロアパネル部材の変形を抑制出来るバッテリ搭載構造を提供する。
【解決手段】バッテリキャリア10と、フロントサイドメンバ部材4,4のフロアパネル下サイドメンバ部4c,4cとの間には、スライド機構11が設けられている。
フロントサイドメンバ部材4,4の前側メンバ部4a,4aが、車両前方からの荷重入力により、変形しながらエネルギ吸収を行っている間に、所定寸法L1、バッテリキャリア10が、車両前方方向へ向けて、フロアパネル部材3に対する相対移動が許容される。
そして、このバッテリキャリア10の車両前方方向で、受圧部8bに当接すると、前端面10eが、慣性力を引張部材8を介して、ダッシュパネル部材6に伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のバッテリ搭載構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両フロントサイドメンバ部材の車両後方位置で、フロアパネル部材下面側には、バッテリ本体を収納するバッテリキャリアが、固着されて設けられている、バッテリ搭載構造が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このように構成された従来のバッテリ搭載構造では、車両前方からの荷重入力によって、前記フロアパネル部材が変形しようとすると、前記バッテリキャリアの前端面部が、前記フロントサイドメンバ部材の後端面部に当設して、このフロントサイドメンバ部材が、前記バッテリ本体の荷重を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−246842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来のバッテリ搭載構造では、前記バッテリキャリアの前端面部が、前記フロントサイドメンバ部材の後端面部に当接して、このフロントサイドメンバ部材が、前記バッテリ本体の荷重を受けるように構成されている。
【0006】
このため、フロントサイドメンバ部材の剛性を向上させることにより、フロアパネル部材の変形を抑制しようとすると、フロントサイドメンバ部材の断面形状が大型化したり、或いは、板厚を増大させる必要が生じ、重量が増大してしまうといった問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、フロントサイドメンバ部材の軽量化を図りつつ、フロアパネル部材の変形を抑制出来るバッテリ搭載構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、フロントサイドメンバ部材の車両後方位置で、フロアパネル部材下面側には、バッテリ本体を収納するバッテリキャリアが設けられているバッテリ搭載構造である。
【0009】
そして、前記フロントサイドメンバ部材が、車両前方からの荷重入力により、変形しながらエネルギ吸収を行っている間に、前記フロアパネル部材に対して、前記バッテリキャリアが、車両前方方向への相対移動を許容するスペースを、該バッテリキャリアの車両前方に設けたスライド機構を有するバッテリ搭載構造を特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両前方からの荷重入力により、前記フロントサイドメンバ部材が、変形しながらエネルギ吸収を行っている間に、前記スライド機構によって、車両前方方向へ向けて、前記バッテリキャリアが、前記フロアパネル部材に対して相対移動する。
【0011】
このため、前記バッテリキャリアの車両前方方向への移動に伴う運動エネルギ分、前記フロントサイドメンバ部材が、吸収しなければならない荷重入力を減少させることが出来、該フロントサイドメンバ部材の断面形状や、板厚の増大を抑制して、軽量化を図ることが出来る。
【0012】
また、車両後方へ向けて変形移動する寸法が小さくなるので、前記フロアパネル部材の変形が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態の実施例1のバッテリ搭載構造で、ダッシュパネル前面部を、車両前方から見た構成を説明する正面図である。
【図2】実施の形態の実施例1のバッテリ搭載構造で、バッテリキャリアの移動で変形したダッシュパネル前面部を、車両前方から見た正面図である。
【図3】実施の形態の実施例1のバッテリ搭載構造で、車体を下面側から見た構成を説明する下面図である。
【図4】実施の形態の実施例1のバッテリ搭載構造で、車体を下面側から見て、バッテリキャリアの移動で変形したダッシュパネル前面部を説明する車両の下面図である。
【図5】実施の形態の実施例1のバッテリ搭載構造で、図1中A−A線に沿った位置での断面図である。
【図6】実施の形態の実施例1のバッテリ搭載構造で、図2中B−B線に沿った位置での断面図である。
【図7】実施の形態の実施例1のバッテリ搭載構造で、(a)は、前方からの荷重入力で、フロントサイドメンバ部材が変形を開始した様子を示し、(b)は、バッテリが拘束されて、慣性力が、ダッシュパネルに作用している様子を示し、(c)は、フロントサイドメンバ部材に押圧されて、ダッシュパネル上部が後退しつつ、バッテリの慣性力で、ダッシュパネル下部が、前方に変形する様子を示す模式的な側面図である。
【図8】実施の形態の実施例1のバッテリ搭載構造で、全長潰れ量と、ダッシュパネル後退量との関係を示すグラフ図である。
【図9】図8における荷重入力開始から、経過時間毎の運動エネルギ吸収量を説明するグラフ図である。
【図10】車体から切り離されたバッテリの模式的なモデル説明図である。
【図11】実施の形態の実施例2のバッテリ搭載構造で、(a)は、ダッシュパネル前面部を、車両前方から見た構成を説明する模式図、(b)は、バッテリキャリアの移動で変形したダッシュパネル前面部を、車両前方から見た模式図である。
【図12】実施の形態の実施例2のバッテリ搭載構造で、(a)は、ダッシュパネル前面部を、車両側方から見た様子を説明する模式図、(b)は、バッテリキャリアの移動で変形したダッシュパネル前面部を、車両側方から見た模式図である。
【図13】実施の形態の実施例3のバッテリ搭載構造で、(a)は、ダッシュパネル前面部を、車両前方から見た構成を説明する模式図、(b)は、バッテリキャリアの移動で変形したダッシュパネル前面部を、車両前方から見た模式図である。
【図14】実施の形態の実施例3のバッテリ搭載構造で、(a)は、ダッシュパネル前面部を、車両側方から見た様子を説明する模式図、(b)は、バッテリキャリアの移動で変形したダッシュパネル前面部を、車両側方から見た模式図である。
【図15】実施の形態の実施例4のバッテリ搭載構造で、バッテリキャリアの構成を示す模式的な分解斜視図である。
【図16】実施の形態の実施例4のバッテリ搭載構造で、バッテリキャリアの移動で変形したダッシュパネル前面部の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態のバッテリ搭載構造を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1乃至図16は、この発明の実施の形態のバッテリ搭載構造を示すものである。
【0016】
まず、全体の構成から説明すると、この実施の形態のバッテリ搭載構造では、図1乃至図6に示すように、車両1の乗員室2の下部を構成するフロアパネル部材3の下面側には、左,右一対設けられて、車両前後方向に沿って長手方向を延設するフロントサイドメンバ部材4,4が設けられている。
【0017】
また、このフロントサイドメンバ部材4,4は、車両前部を構成するエンジンルーム5の左,右両側縁に沿って、車両前方へ向けて、前側メンバ部4a,4aが延設されている。
【0018】
そして、この乗員室2と、エンジンルーム5との間には、前記フロアパネル部材3の前端縁3aと一体に形成されると共に、上方に向けて略鉛直に立設されるダッシュパネル部材6が設けられている。
【0019】
このダッシュパネル部材6には、前側側面部6aに、前記フロントサイドメンバ部材4,4の前側メンバ部4a,4aの後端面4b,4bが、突き当てられて固着されている。
【0020】
また、図1及び図2に示すように、このダッシュパネル部材6の前側側面部6aには、運転席足元付近に、ブレーキマスタバック装置7が、固着されている。
【0021】
更に、このダッシュパネル部材6の前側側面部6aには、前記フロアパネル部材3のセンタトンネル凹部3bの前側開口部を、略塞ぐ様に跨って、伝達手段としての引張部材8が設けられている。
【0022】
この引張部材8は、車幅方向に長手方向を沿わせて、固着部としての両端部8a,8aが、前記フロアパネル部材3の前端縁3aと、このダッシュパネル部材6の前側側面部6aとの接合部近傍に形成される傾斜面部6bに、溶接により固着されている。
【0023】
また、この両端部8a,8aは、前記前側メンバ部4a,4aの後端面4b,4bが、突き当てられて固着されている部分よりも、一定寸法h1低い位置にずらされて、固定されると共に、車幅方向でも、一定寸法w1づつ、内側にずらされた位置に固定されている。
【0024】
このため、これらの両端部8a,8aからは、前記フロントサイドメンバ部材4,4が、車両前方からの荷重入力により、前記ダッシュパネル部材6を、車両後方へ向けて、変形開始させる位置からずらされていて、オフセットされた位置で、バッテリキャリア10の慣性力が、伝達されるように構成されている。
【0025】
そして、前記フロントサイドメンバ部材4,4の前側メンバ部4a,4aの後端面4b,4bが、突き当てられて固着されている部分よりも、車両後方位置で、前記フロアパネル部材3の下面側3cには、バッテリ本体9を収納するバッテリキャリア10が設けられている。
【0026】
このバッテリキャリア10と、前記フロントサイドメンバ部材4,4のフロアパネル下サイドメンバ部4c,4cとの間には、スライド機構11が設けられている。
【0027】
このスライド機構11は、前記バッテリキャリア10の左,右両側縁から突設されて、上面部を前記フロアパネル下サイドメンバ部4c,4cの下面側に摺接させる水平スライドフランジ部10a,10aを有している。
【0028】
この水平スライドフランジ部10a,10aには、車両前後方向に沿って長手方向を有する長孔10b,10bが、前後一対、合計4個開口形成されている。
【0029】
これらの長孔10b…には、スライド可能に挿通されるボルト部材12…の各軸部が、このバッテリキャリア10の前記フロアパネル部材3の相対移動距離よりも長い移動距離を得られるように、後述する所定寸法L1以上の長手方向寸法L2…を各々有している。
【0030】
そして、各々前記ボルト部材12…が、前記フロアパネル下サイドメンバ部4c,4cの下面側に、車両上方に向けて、螺着されて、これらのボルト部材12…の頭部12a…が、この長孔10bの周縁に係合されて、前記バッテリキャリア10が、車両下方へ落下不能となるように支持されている。
【0031】
また、このバッテリキャリア10には、上面部10cの車幅方向略中央部に、突き当て凸部10dが、車両前後方向で、このバッテリキャリア10の略全長に渡り、突設形成されている。
【0032】
この突き当て凸部10dの前端面10eは、図3,図5に示すように、荷重入力が加わっていない状態では、前記引張部材8の前記両端部8a,8a間に設けられた受圧部8bから、所定寸法L1離間するように構成されている。
【0033】
そして、図2,図4,図6に示すように、車両前方への前記バッテリキャリア10のフロアパネル部材3に対する相対移動によって、この前端面10eが、受圧部8bに当接することより、前記ダッシュパネル部材6に、このバッテリキャリア10の慣性力を伝達するように、構成されている。
【0034】
この実施の形態では、前記スペースとしての所定寸法L1が設定されている。
【0035】
この所定寸法L1を設けることにより、前記フロントサイドメンバ部材4の前側メンバ部4a,4aが、車両前方からの荷重入力により、変形しながらエネルギ吸収を行っている間に、前記フロアパネル部材3に対して、前記バッテリキャリア10の車両前方方向への相対移動が許容されるように構成されている。
【0036】
そして、このバッテリキャリア10の車両前方方向で、前記受圧部8bに当接するまでの移動可能距離が、概略この所定寸法L1となる。
【0037】
そこで、この実施の形態では、スライド移動可能なスペースを確保する為、前記バッテリキャリア10が、前記ボルト部材12…によって、前記フロントサイドメンバ部材4,4に、固着される際に、前記受圧部8bから、前記前端面10eを、この所定寸法L1離間させるように構成されている。
【0038】
次に、この実施の形態のバッテリ搭載構造の作用効果について説明する。
【0039】
この実施の形態のバッテリ搭載構造の作用効果について、まず、図7に示す荷重入力の経緯に沿った模式図を用いて説明する。
【0040】
車両1の前方からの荷重入力によって、図7中(a)に示すように、フロントサイドメンバ部材4の前側メンバ部4aが、変形を開始すると、バッテリキャリア10に収納されたバッテリ本体9は、前記スライド機構11によって、車両前方へ向けて、このバッテリキャリア10と共に、移動を開始する。
【0041】
すなわち、図1,図3,図5に示すように、車両前方からの荷重入力が無い状態では、前記スライド機構11のうち、前記バッテリキャリア10の左,右両側縁から突設された水平スライドフランジ部10a,10aに開口形成された長孔10b,10bには、ボルト部材12…が挿通されて、係合固定されることにより、このバッテリキャリア10が、前記フロントサイドメンバ部材4,4のフロアパネル下サイドメンバ部4c,4cの下面側に懸架されている。
【0042】
また、前記バッテリキャリア10の前端面10eと、前記引張部材8の受圧部8bとの間に、所定寸法L1が設けられていて、前記バッテリキャリア10を、車両前方方向に向けて移動させることが可能なスペースが形成されている。
【0043】
この状態から、車両前方から前記荷重入力が加わると、前記長孔10b,10bに挿通されているボルト部材12…の頭部12a…の固定が、解除されて、前記ボルト部材12…の各軸部が、この長孔10b…内で、車両後方端縁方向へスライド移動可能な状態となる。
【0044】
このため、前記バッテリキャリア10の突き当て凸部10dが、前記フロアパネル部材3の下面側3cに、凹設形成されたセンタトンネル凹部3b内を、車両前後方向へ向けてスライド移動されると共に、前記水平スライドフランジ部10a,10aが、車幅方向左,右略同時に、前記フロアパネル下サイドメンバ部4c,4cに沿って、車両前方方向へ向けて、相対移動されて、このスペースを埋めるように、前記前端面10eと、前記引張部材8の受圧部8bとの間隔L1を減少させる。
【0045】
このように、図7中(a)に示す状態から、図7中(b)に示す状態に至るまで、荷重入力を前記フロントサイドメンバ部材4が、変形しながらエネルギ吸収を行っている間では、前記スライド機構11によって、車両前方方向へ向けて、前記バッテリキャリア10が、前記フロアパネル部材3に対して、拘束されておらず、車両前後方向へスライド移動自在の状態となっている。
【0046】
また、この実施の形態では、前記長孔10b…が、所定寸法L1以上の長手方向寸法L2…を各々有していて、スライド可能に挿通される前記ボルト部材12…の各軸部に、このバッテリキャリア10の前記フロアパネル部材3の相対移動距離よりも長い移動可能距離が与えられるように構成されているので、車両前方に向けて、前記バッテリキャリア10が相対移動している間に、何れかの前記ボルト部材12…の軸部が、前記長孔10bの車両後方側周縁部に底付きしてしまう虞がない。
【0047】
このため、円滑に、前記バッテリキャリア10が、前記フロアパネル部材3に対して、相対移動して、図9に示す面積S1(L1=約S1)のように、前記バッテリキャリア10の車両前方方向への相対移動に伴う運動エネルギ分、前記フロントサイドメンバ部材4が、吸収しなければならない荷重入力を減少させることが出来る。
【0048】
従って、例えば、前記フロントサイドメンバ部材4,4の前側メンバ部4a,4aの断面形状や、板厚の増大を抑制して、軽量化を図ることが出来ると共に、図8中、斜め矢印aに示すように、従来技術に比して、前記ダッシュパネル部材6の後退量を減少させることが出来ると共に、全長潰れ量も減少させることができる。
【0049】
このように、ダッシュパネル部材6の車両後方へ向けて変形移動する寸法が、小さくなるので、前記フロアパネル部材3の変形が抑制される。
【0050】
また、前記バッテリキャリア10が、車両前方へ相対移動すると、図7中(b)に示すように、前記引張部材8の前記両端部8a,8a間に設けられた受圧部8bに、前記バッテリキャリア10の突き当て凸部10dの前端面10eが、当接して、拘束される。
【0051】
そして、この引張部材8の前記両端部8a,8aを介して、前記バッテリキャリア10の慣性力が、前記フロアパネル部材3の前側に位置するダッシュパネル部材6に伝達される。
【0052】
このため、更に、前記フロントサイドメンバ部材4,4の前側メンバ部4a,4aが、吸収しなければならない荷重入力が、減少される。
【0053】
よって、この前側メンバ部4a,4aの断面形状や、板厚の増大を抑制し、軽量化を図ることが出来ると共に、確実に、前記ダッシュパネル部材6及びフロアパネル部材3の変形を、抑制することが出来る。
【0054】
しかも、この実施の形態では、図7中(c)及び、図2,図4,図6に示されるように、前記バッテリキャリア10の慣性力が、前記ダッシュパネル部材6を車両前方に向けて変形させようとするので、更に、前記ダッシュパネル部材6及びフロアパネル部材3の変形特性を所望のものとすることが出来る。
【0055】
この実施の形態では、前記ダッシュパネル部材6の前側側面部6aのうち、前記フロアパネル部材3の前端縁3aとの接合部近傍に形成される傾斜面部6bに、前記引張部材8の両端部8a,8aが、前記センタトンネル凹部3bの前側開口部を跨ぐように、固着されている。
【0056】
このため、前記ダッシュパネル部材6及び、前記フロアパネル部材3の双方に、所望の良好な変形特性を与えることが出来ると共に、車幅方向左,右のバランスが良好な変形特性を与えることが出来る。
【0057】
更に、前記フロントサイドメンバ部材4,4の前側メンバ部4a,4aが、車両前方からの荷重入力により、変形しながらエネルギ吸収を行っている間で、しかも、前記ダッシュパネル部材6の車両後方への変形移動が、開始される時刻まで、前記バッテリキャリア10が、前記スライド機構11によって、車両前方へ向けてスライド移動される。
【0058】
このため、前記バッテリキャリア10の車両前方方向への移動に伴う運動エネルギ分、前記フロントサイドメンバ部材4,4が、吸収しなければならない荷重入力を減少させることが出来、フロントサイドメンバ部材4,4の断面形状や、板厚の増大を抑制して、軽量化を図ることが出来る。
【0059】
また、図7中(b)に示された状態から、図7中(c)に示される状態に移行する際、前側メンバ部4a,4aを介して、伝達された前記荷重入力により、前記ダッシュパネル部材6の車両後方への変形移動が、開始される時刻には、前記スライド機構11によるスライド移動によって、前記バッテリキャリア10が、車両前方へ向けてスライド移動されて、前記引張部材8によって、前記ダッシュパネル部材6に、このバッテリキャリア10の慣性力が伝達される。
【0060】
このため、前記ダッシュパネル部材6の車両前後方向位置は、維持若しくは、更に、前記引張部材8によって、車両前方へ向けて、引っ張られて前方に変形させることが出来、前記ダッシュパネル部材6及び前記フロアパネル部材3の車両後方へ向けての変形が抑制される。
【0061】
従って、図8中、矢印bに示すように、従来技術に比して、前記ダッシュパネル部材6の後退量を、更に、減少させることが出来ると共に、全長潰れ量の増大が抑制されることができる。
【0062】
そして、この実施の形態では、図1に示すように、前記引張部材8に設けられた両端部8a,8aが、前記前側メンバ部4a,4aの後端面4b,4bが、突き当てられて固着されている部分よりも、一定寸法h1低い位置にずらされて、オフセットされた位置で、固定されると共に、車幅方向でも、一定寸法w1づつ、内側にずらされた位置に固定されている。
【0063】
このため、図10に示すように、バッテリ本体9の慣性力が、フロントサイドメンバ部材4,4の前側メンバ部4a,4aの後端面4b,4bが、突き当てられて溶接されている部分以外のダッシュパネル部材6に伝達される。
【0064】
このように、前記バッテリキャリア10のスライド移動により、前記ダッシュパネル部材6に、前記バッテリ本体9の慣性力を伝達するこれらの固定位置が、前記フロントサイドメンバ部材4,4の前側メンバ部4a,4aが、接続されて、車両1前方からの荷重入力により、前記ダッシュパネル部材6を車両後方へ向けて、変形開始させる位置である溶接部から、ずらされているので、直接、前記フロントサイドメンバ部材4,4からの荷重入力が、前記バッテリキャリア10に伝達されることが無い。
【0065】
しかも、図2及び図6に示すように、引張部材8の両端部8a,8aから伝えられるバッテリ本体9の慣性力によって、前記ダッシュパネル部材6の車両前後方向位置は、維持若しくは、更に前方に変形させることが出来、前記ダッシュパネル部材6及び前記フロアパネル部材3の車両後方へ向けて変形が、更に、抑制される。
【実施例1】
【0066】
図11及び図12は、この発明の実施の形態の実施例1を示すものである。
【0067】
なお、前記実施の形態と同一乃至均等な部分については、同一符号を付して説明する。
【0068】
この実施例1では、前記実施の形態の伝達手段としての引張部材8に代えて、平板状引張部材18が、設けられている。
【0069】
この平板状引張部材18は、車両上下方向を長手方向とする略長方形形状を呈していて、上側縁部18aが、車幅方向に長手方向を延設するクロスメンバ部材17と、前記ダッシュパネル部材6の前側側面部6aとの間に挟持された状態で、溶接されている。
【0070】
また、この平板状引張部材18の下側縁部18bは、前記センタトンネル凹部3bの車両前側開口を、略塞ぐように、下方に向けて略垂直に延設されている。
【0071】
この下側縁部18bには、車幅方向略中央に、長径方向を車幅方向に沿わせて、長円形状の係止孔部18cが開口形成されている。
【0072】
また、前記バッテリ本体9を保持するバッテリキャリア10には、前記突き当て凸部10dの前端面10eに、この係止孔部18cに、車両前後方向から挿抜可能に突設形成された係止突起部10fが、一体に設けられている。
【0073】
次に、この実施例1のバッテリ搭載構造の作用効果について説明する。
【0074】
この実施例1のバッテリ搭載構造では、前記実施の形態のバッテリ搭載構造の作用効果に加えて、更に、図11中(a)及び図12中(a)に示す状態で、車両前方から前記荷重入力が加わると、前記長孔10b,10bに挿通されているボルト部材12…の頭部12a…の固定が、解除されて、前記ボルト部材12…の各軸部が、この長孔10b…内で、車両後方端縁方向へスライド移動可能な状態となり、前記バッテリキャリア10が、車両前方へ向けてスライド移動する。
【0075】
スライド移動中は、前記バッテリキャリア10の車両前方方向への相対移動に伴う運動エネルギ分、前記フロントサイドメンバ部材4が、吸収しなければならない荷重入力を減少させることが出来る。
【0076】
そして、図11中(b)及び図12中(b)に示すように、平板状引張部材18の下側縁部18bに開口形成されている係止孔部18cに、車両後方向から前記係止突起部10fが、挿入されて、前記係止突起部10fが、この係止孔部18cに係止された状態のまま、前記平板状引張部材18が、前記バッテリキャリア10と共に、車両前方に向けて変形移動される。
【0077】
このため、確実に、前記ダッシュパネル部材6の車両後方へ向けて変形移動する寸法を減少させることが出来、前記フロアパネル部材3の変形も、抑制出来る。
【0078】
また、確実に、前記ダッシュパネル部材6を変形させる前記バッテリ本体9の慣性力を、前記平板状引張部材18に伝達することが出来るので、前記前端面10eと、受圧面を構成する平板状引張部材18の下側縁部18bとの、所定寸法L3の離間距離の設定の自由度を増大させることが出来、更に、所望の変形特性を得られる前記バッテリキャリア10のスライド移動距離を設定出来る。
【0079】
他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と同一乃至均等であるので、説明を省略する。
【実施例2】
【0080】
図13及び図14は、この発明の実施の形態の実施例2を示すものである。
【0081】
なお、前記実施の形態と同一乃至均等な部分については、同一符号を付して説明する。
【0082】
この実施例2では、前記実施例1の伝達手段としての平板状引張部材18に代えて、V字状引張部材28が、設けられている。
【0083】
このV字状引張部材28は、図13に示すように、車両正面視で、略V字状を呈する平板部材によって、主に構成されていて、車幅方向左,右各上方に斜めに延設される上端部28a,28aが、各々前記ダッシュパネル部材6の前側側面部6aに溶接により、固着されている。
【0084】
このうち、何れか一方の上端部28aは、前記ブレーキマスタバック装置7が設けられている前側側面部6aの上方位置近傍まで、延設されて溶接により固着されている。
【0085】
このV字状引張部材28の下側縁部28bは、前記センタトンネル凹部3bの車両前側開口を、略塞ぐように、下方に向けて略垂直に延設されている。
【0086】
この下側縁部28bには、車幅方向略中央に、長径方向を車幅方向に沿わせて、長円形状の係止孔部28cが、開口形成されている。
【0087】
また、前記バッテリ本体9を保持するバッテリキャリア10には、前記突き当て凸部10dの前端面10eに、この係止孔部28cに、車両前後方向から挿抜可能に突設形成された係止突起部10fが、一体に設けられている。
【0088】
次に、この実施例2のバッテリ搭載構造の作用効果について説明する。
【0089】
この実施例2のバッテリ搭載構造では、前記実施の形態のバッテリ搭載構造の作用効果に加えて、更に、図13中(a)及び図14中(a)に示す状態で、車両前方から前記荷重入力が加わると、前記長孔10b,10bに挿通されているボルト部材12…の頭部12a…の固定が、解除されて、前記ボルト部材12…の各軸部が、この長孔10b…内で、車両後方端縁方向へスライド移動可能な状態となり、前記バッテリキャリア10が、車両前方へ向けてスライド移動する。
【0090】
前記バッテリキャリア10の車両前方方向への相対移動に伴う運動エネルギ分、前記フロントサイドメンバ部材4が、吸収しなければならない荷重入力を減少させることが出来る。
【0091】
そして、図13中(b)及び図14中(b)に示すように、V字状引張部材28の下側縁部28bに開口形成されている係止孔部28cに、車両後方向から前記係止突起部10fが、挿入されて、前記係止突起部10fが、係止された状態のまま、前記V字状引張部材28を、車両前方に向けて、前記バッテリキャリア10と共に、変形移動させる。
【0092】
このため、前記ダッシュパネル部材6の車両前後方向位置は、維持若しくは、更に、前記V字状引張部材28によって、車両前方へ向けて、引っ張られて前方に変形させることが出来、前記ダッシュパネル部材6及び前記フロアパネル部材3の車両後方へ向けての変形が抑制される。
【0093】
この実施例2では、前記V字状引張部材28の一方の上端部28aは、前記ブレーキマスタバック装置7が設けられている前側側面部6aの上方位置近傍まで、延設されて溶接により固着されている。
【0094】
このため、前記ブレーキマスタバック装置7が設けられている前側側面部6aの上方位置近傍を中心として、前記ダッシュパネル部材6の前側側面部6aを、車両前方方向に向けて変形させることが出来、所望の変形特性を得られる。
【0095】
他の構成及び作用効果については、前記実施の形態及び実施例1と同一乃至均等であるので、説明を省略する。
【実施例3】
【0096】
図15及び図16は、この発明の実施の形態の実施例3を示すものである。
【0097】
なお、前記実施の形態及び実施例1,2と同一乃至均等な部分については、同一符号を付して説明する。
【0098】
この実施例3では、バッテリ本体29を保持するバッテリキャリア30が、乗員足元スペース32,32及び34,34が、凹設形成されている車体31のフロアパネル部材33下面側凹凸形状を回避して、車両前後方向にスライド移動可能となるように、このフロアパネル部材33の下面側凹凸形状に対応した形状を呈して、形成されている。
【0099】
他の構成及び作用効果については、前記実施の形態及び実施例1,2と同一乃至均等であるので、説明を省略する。
【0100】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0101】
即ち、前記実施の形態では、スライド機構11の長孔10b,10b…が、車両前後に2対設けられて、ボルト部材12,12…が各々挿通されているが、特にこれに限らず、例えば、単数若しくは、3箇所以上の複数等、どのようなスライド機構11であっても良く、形状、数量及び材質が特に限定されるものではない。
【0102】
また、前記実施の形態及び実施例1,2では、バッテリキャリア10の上面部10cから、突き当て凸部10dが一体に突設されている形状のものを、また、実施例3では、乗員足元スペース32,32及び34,34が、凹設形成されている車体31のフロアパネル部材33下面側凹凸形状を回避して、車両前後方向にスライド移動可能となるように、このフロアパネル部材33の下面側凹凸形状に対応した形状を呈して、バッテリキャリア30が形成されているが、特に、これに限らず、例えば、内部のバッテリ本体9,29の大きさや数量、若しくは、バッテリキャリア10,30の形状、数量、及び材質が特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0103】
1 車両
3,33 フロアパネル部材
3c 下面側
4 フロントサイドメンバ部材
6 ダッシュパネル部材
8 引張部材(伝達手段)
8a,8a 両端部(固着部)
8b 受圧部
9,29 バッテリ本体
10,30 バッテリキャリア
11 スライド機構
18 平板状引張部材(伝達手段)
18a 上端部(固着部)
28 V字状引張部材(伝達手段)
28a 上側縁部(固着部)
L1 所定寸法(スペース)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントサイドメンバ部材の車両後方位置で、フロアパネル部材下面側には、バッテリ本体を収納するバッテリキャリアが設けられているバッテリ搭載構造であって、
前記フロントサイドメンバ部材が、車両前方からの荷重入力により、変形しながらエネルギ吸収を行っている間に、前記フロアパネル部材に対して、前記バッテリキャリアが、車両前方方向への相対移動を許容するスペースを、該バッテリキャリアの車両前方に設けたスライド機構を有することを特徴とするバッテリ搭載構造。
【請求項2】
前記バッテリキャリアの車両前方への相対移動により、該バッテリキャリアの慣性力を、前記フロアパネル部材の前側に位置するダッシュパネル部材に、伝達する伝達手段を有することを特徴とする請求項1記載のバッテリ搭載構造。
【請求項3】
前記バッテリキャリアが、前記ダッシュパネル部材に慣性力を伝達開始するまでの相対移動を許容するスペースは、前記フロントサイドメンバ部材が、車両前方からの荷重入力により、変形しながらエネルギ吸収を行っている間で、しかも、前記ダッシュパネル部材の車両後方への変形移動が、開始される時刻までに、前記スライド機構によって、前記バッテリキャリアが車両前方へ向けてスライド移動されて、前記伝達手段によって、前記ダッシュパネル部材に慣性力が伝達されるまでの移動寸法から設定されることを特徴とする請求項2記載のバッテリ搭載構造。
【請求項4】
前記伝達手段は、前記バッテリキャリアが、前記ダッシュパネル部材に、前記バッテリ本体の慣性力を伝達する位置を、前記フロントサイドメンバ部材が、車両前方からの荷重入力により、前記ダッシュパネル部材を、車両後方へ向けて、変形開始させる位置からずらして、伝達する固着部を有することを特徴とする請求項2又は3記載のバッテリ搭載構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2010−254110(P2010−254110A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−106032(P2009−106032)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】