説明

バルク熱伝導率を増大させるためのナノ材料含有有機マトリックス

【課題】 ヒートシンクと発熱部品との間で効率的に熱伝達する改良組成物の提供。
【解決手段】 ポリマーマトリックスにナノ粒子をブレンドしてなる熱伝導組成物。本発明の組成物は、ポリマー複合材のバルク熱伝導率を増大させ、熱伝導材料と対合面との間に存在する界面熱抵抗を低減する。また、ナノ粒子含有配合物は、ナノ粒子を含まない配合物よりもミクロン粒度の粒子の相分離が少ない。ある実施形態では、熱伝導組成物(2)は発熱部品(3)とヒートシンク(1)の間に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーマトリックスの熱伝導率を増大させるためのナノ粒子の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの電気部品は動作中に熱を発生する。こうした熱を電気部品から効率的に除去しないと熱が蓄積してしまう。その結果、電気部品の誤動作又は永久的損傷が起こりかねない。そこで、電気回路及びシステムでは、動作中の熱除去を促進するため熱管理技術が用いられることが多い。
【0003】
熱管理技術では、ある形態のヒートシンクを用いて電気系の高温領域から放熱させることが多い。ヒートシンクは熱伝導率の高い材料(例えば、典型的には金属)からなる構造体であり、電気部品と機械的に結合して熱除去を促す。比較的簡単な形態では、ヒートシンクは、動作中の電気回路と接触させた金属片(例えばアルミニウム又は銅)からなるものが挙げられる。電気回路からの熱はユニット間の機械的界面を通してヒートシンクに流れ込む。
【0004】
典型的な電気部品では、動作時にヒートシンクの平面を電気部品の平面と接触配置し、ある種の形態の接着剤又は固定手段を用いてヒートシンクを適所に保持することによって、ヒートシンクを発熱部品と機械的に結合させる。自明であろうが、ヒートシンクの表面及び部品の表面が完全に平坦又は平滑であることは滅多にないので、通常はこれらの表面間に空隙が存在する。周知の通り、向かい合った二つの面の間に空隙が存在すると、それらの表面間の界面を通しての伝熱能力が低下する。こうした空隙は、ヒートシンクの熱管理装置としての有効性及び価値を下げる。この問題に対処するため、伝熱表面間に配置してそれらの間の熱抵抗を低下させるためのポリマー組成物が開発されている。現状の熱伝導材料のバルク熱伝導率はポリマーマトリックスの低い熱伝導率(熱伝導材料つまりTIMに典型的にみられるポリマーでは約0.2W/m−K)によって大きく制限されている。ある概算では(“Thermally Conductive Polymer Compositions,” D.M. Bigg., Polymer Composites, June 1986, Vol.7, No.3)、電気絶縁性ポリマー複合材で達成可能な最大バルク熱伝導率は、ベースポリマーマトリックスのわずか20〜30倍にすぎない。この数字は、充填剤の熱伝導率がベースポリマーマトリックスの熱伝導率の100倍を超えると、充填剤の種類とは関係なくほとんど変化しなくなる。そのため、ポリマー材料の熱伝導率はヒートシンクの熱伝導率に比べて低く、発熱部品からヒートシンクへの熱伝達は非効率的になる。加えて、1)ミクロ又はナノボイド並びに2)充填剤の粒度よりも小さい表面凹凸内にミクロン粒度の充填剤が入り込めないため又は充填剤の沈降による充填剤欠乏層に起因する境界面の欠陥によって、効果的な熱伝達性能はさらに低下する。
【非特許文献1】“Thermally Conductive Polymer Compositions,” D.M. Bigg., Polymer Composites, June 1986, Vol.7, No.3
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、ヒートシンクと発熱部品との間で効率的に熱伝達する改良組成物に対するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る熱伝導組成物は、1種以上のオルガノ官能基で官能化されたナノ粒子を有機マトリックス中にブレンドしたものを含む。ある実施形態では、熱伝導組成物はミクロン粒度の充填材粒子も含む。
【0007】
また、オルガノ官能化ナノ粒子を有機マトリックスとブレンドしてなる熱伝導組成物に各々接した発熱部品とヒートシンク又はヒートスプレッダとを備える電気部品についても、本明細書に開示する。
【0008】
本発明に係る熱伝達効率を増大させる方法は、オルガノ官能化ナノ粒子を有機マトリックスとブレンドしてなる熱伝導組成物を発熱部品とヒートシンク又はヒートスプレッダとの間に挿入する段階を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、官能化ナノ粒子を有機マトリックスとブレンドしてなる熱伝導組成物を提供する。ナノ粒子は、マトリックスに共有結合していてもよいし、非共有結合力でマトリックス全体に分散していてもよい。本発明のナノ粒子を含有するマトリックスはナノ粒子を含まないマトリックスよりも高い熱伝導率を有する。官能化ナノ粒子は、加工処理と取扱いの容易な粘度を保持したまま、マトリックスのバルク熱伝導率を高める。
【0010】
後述のナノ粒子含有有機マトリックスとミクロン粒度の充填材とからなる実施形態に係るポリマー複合材は、ミクロン粒度の充填材と有機マトリックスのみからなる同様のブレンドよりも高い熱伝導率を達成できる。そのため、達成可能な最大バルク熱伝導率が向上する。さらに、ナノ粒子は、ミクロン粒度の充填材では入り込めない表面の細孔及び凹凸に入り込めるので、界面抵抗の影響を低減できる。
【0011】
ポリマーマトリックスにおける熱伝導率の向上は、充填材の沈降が起こって「スキン層」(ミクロ充填材を殆ど又は全く含んでいない層)が現れるような場合に界面抵抗を低減するのにも有利である。スキン層が別の方法で達成可能な熱伝導率よりも高い熱伝導率を有していれば、熱伝達の低下はさほど深刻にはならないであろう。ナノ粒子の配合のもう一つの利点は、これらの微粒子がミクロン粒度の充填材の沈降速度を抑制又は低減して熱伝導材料で充填剤欠乏層が生じる確率を低下させることである。
【0012】
官能化することができて有機マトリックスよりも高い熱伝導率を有するナノ粒子であれば、どのようなものも本組成物の製造に使用することができる。適当なナノ粒子としては、特に限定されないが、コロイダルシリカ、かご型シルセスキオキサン(「POSS」)、ナノ粒度の金属酸化物(例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア)、ナノ粒度の金属窒化物(例えば窒化ホウ素、窒化アルミニウム)及びナノ金属粒子(例えば銀、金又は銅ナノ粒子)が挙げられる。特に有用な実施形態では、ナノ粒子はオルガノ官能化POSS材料又はコロイダルシリカである。コロイダルシリカは、水性その他の溶媒中のサブミクロン粒度のシリカ(SiO)粒子の分散体として存在する。コロイダルシリカは、最大約85重量%の二酸化ケイ素(SiO)、通例約80重量%以下の二酸化ケイ素を含有する。コロイダルシリカの粒径は通例約1nm〜約250nmであり、さらに典型的には約5〜約150nmである。
【0013】
ナノ粒子は、有機マトリックスとの相溶性を向上させるため官能化される。従って、ナノ粒子に付加される官能基の正確な化学的性状は、選択に係る特定のナノ粒子の化学的性状及びマトリックスの化学的組成を始めとする様々な因子に依存する。また、官能基は反応性でも、非反応性でも、それらの組合せであってもよい。反応性官能基は、ナノ粒子を分散させる有機マトリックス或いは最終組成物が設けられる対合面いずれかと反応できるものである。化学反応によって、ナノ粒子は共有結合を介して有機マトリックス又は対合面に結合する。適当な官能化剤としては、アルキル、アルケニル、アルキニル、シリル、シロキシル、アクリレート、メタクリレート、エポキシド、アリール、ヒドリド、アミノ、ヒドロキシルその他の官能基を有するオルガノアルコキシシラン、オルガノクロロシラン、オルガノアセテートシラン及びオルガノシラザンが挙げられる。官能基をナノ粒子に付加する反応スキームは当業者の技術常識に属する。好都合なことに、官能化ナノ粒子は、有機マトリックスとの混合を容易にする相溶性溶媒中の分散体として製造することができる。特に有用な分散体は固形分が20〜50%ものであるが、分散体を注入又は流動させることができる固形分であればどのような固形分のものであっても使用できる。
【0014】
特に有用な実施形態では、官能化ナノ粒子はオルガノ官能化POSS材料又はオルガノアルコキシシランで官能化されたコロイダルシリカである。
【0015】
コロイダルシリカの官能化に使用されるオルガノアルコキシシランは次式に包含される。
【0016】
(RSi(OR4−a
式中、Rは各々独立にC1−18一価炭化水素基又はC6−14アリール基であり、C1−18一価炭化水素基は適宜アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、エポキシド、ビニル、アリル、スチレン系、シリル又はシロキシル基でさらに官能化されていてもよく、Rは各々独立にC1−18一価炭化水素基又は水素基であり、「a」は1〜3の整数である。好ましくは、本発明の技術的範囲に属するオルガノアルコキシシランは、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MAPTMS)、1−ヘキセニルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−ドデシルトリエトキシシラン及び2−(3−ビニル−テトラメチルジシロキシル)−エチルトリメトキシシランである。複数の官能基の組合せも可能である。通例、オルガノアルコキシシランは、コロイダルシリカに含まれる二酸化ケイ素の重量を基準にして約2〜約60重量%存在する。得られたオルガノ官能化コロイダルシリカはpHを中和するため酸又は塩基で処理してもよい。酸又は塩基並びにシラノールとアルコキシシラン基の縮合を促進するその他の触媒も、官能化プロセスの促進に使用できる。かかる触媒としては、有機チタン及び有機スズ化合物、例えば、テトラブチルチタネート、チタンイソプロポキシビス(アセチルアセトナト)、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート又はこれらの組合せが挙げられる。
【0017】
コロイダルシリカの官能化は、脂肪族アルコールを加えておいた市販のコロイダルシリカ水性分散体にオルガノアルコキシシラン官能化剤を上述の重量比で添加することによって実施できる。得られる脂肪族アルコール中に官能化コロイダルシリカとオルガノアルコキシシラン官能化剤を含む組成物を、本明細書では予備分散体と定義される。適当な脂肪族アルコールとしては、特に限定されないが、イソプロパノール、t−ブタノール、2−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール及びこれらの組合せが挙げられる。脂肪族アルコールの量は通例、水性コロイダルシリカ予備分散体中に存在する二酸化ケイ素の量の約1〜約25倍である。場合によっては、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジニルオキシ(つまり4−ヒドロキシTEMPO)のような安定剤を予備分散体に添加してもよい。場合によっては、透明予備分散体のpH得を調節するため少量の酸又は塩基を加えてもよい。
【0018】
得られた予備分散体を典型的には約50〜約140℃に約1〜約5時間加熱して、アルコキシシランとコロイダルシリカ表面のOH基との縮合を促進し、コロイダルシリカの官能化を達成する。
【0019】
官能化ナノ粒子を有機マトリックスと混合して本発明の組成物を形成する。有機マトリックスはどのようなポリマー材料であってもよい。適当な有機マトリックスとしては、特に限定されないが、ポリジメチルシロキサン樹脂、エポキシ樹脂、アクリレート樹脂、他のオルガノ官能化ポリシロキサン樹脂、ポリイミド樹脂、フルオロカーボン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、フッ素化ポリアリルエーテル、ポリアミド樹脂、ポリイミドアミド樹脂、フェノールレゾール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フルオロ樹脂その他当業者に公知の他のポリマー系が挙げられる。(慣用ポリマーについては、“Polymer Handbook”, Branduf,J, Immergut,E.H, Grulke, Eric A, Wiley Interscience Publication, New York, 4th ed.(1999)、“Polymer Data Handbook”, Mark,James, Oxford University Press, New York (1999)参照。)。好ましい硬化可能な熱硬化性マトリックスは、ラジカル重合、原子移動、ラジカル重合開環重合、開環メタセシス重合、アニオン重合、カチオン重合その他当業者に公知の方法で架橋網目構造を形成し得るアクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリジメチルシロキサン樹脂その他のオルガノ官能化ポリシロキサン樹脂である。適当な硬化性シリコーン樹脂としては、例えば“Chemistry and Technology of Silicone”, Noll, W., Academic Press 1968に記載の付加硬化型及び縮合硬化型マトリックスが挙げられる。ポリマーマトリックスが硬化性ポリマーでない場合、得られる熱伝導組成物は、製造時に部品を一つに保持し、装置作動中に熱を伝達できるゲル、グリース又は相変化材料として配合できる。特に有用な実施形態では、官能化ナノ粒子との相溶性を向上させるため有機マトリックスは官能化される。
【0020】
官能化ナノ粒子と有機マトリックスとの混合を促進するため、組成物に適宜1種以上の溶媒を添加してもよい。適当な脂肪族溶媒としては、特に限定されないが、イソプロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、トルエン、キシレン、n−メチルピロリドン、ジクロロベンゼン及びこれらの組合せが挙げられる。
【0021】
官能化ナノ粒子と有機マトリックスとの混合法は特に重要ではない。ナノ粒子を予備分散体に配合する場合、予備分散体に有機マトリックス及び適宜溶媒を加えてもよい。
【0022】
酸性又は塩基性不純物を除去するため、組成物を酸若しくは塩基又はイオン交換樹脂で処理してもよい。好適には、この組成物を約0.5〜約250トルの真空及び約20〜約140℃の温度に付せば、溶媒、残留水、それらの組合せのような低沸点成分を実質的に除去することができる。その結果、有機マトリックス中の官能化ナノ粒子の分散体が得られ、本明細書ではこれを最終分散体という。低沸点成分の実質的な除去とは、本明細書中では、低沸点成分の総量の約90%以上の除去と定義される。
【0023】
適宜、官能化コロイダルシリカの予備分散体又は最終分散体をさらに官能化してもよい。低沸点成分を少なくとも部分的に除去した後、官能化コロイダルシリカの残留ヒドロキシル官能基と反応する適当な封鎖剤を予備分散体又は最終分散体中の二酸化ケイ素の存在量の約0.05〜約10倍の量で添加する。低沸点成分の部分的除去とは、本明細書では、低沸点成分の総量の約10%以上、好ましくは低沸点成分の総量の約50%以上の除去をいう。封鎖官能化コロイダルシリカとは、組成物全体に存在する遊離ヒドロキシル基の10%以上、好ましくは20%以上、さらに好ましくは35%以上が封鎖剤との反応で官能化されたものと定義される。官能化コロイダルシリカを有効に封鎖すると、場合によっては最終分散体の室温安定性を向上させることができる。
【0024】
好ましい封鎖剤としては、シリル化剤のような、ヒドロキシルと反応性の物質が挙げられる。シリル化剤の例としては、特に限定されないが、ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、テトラメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジフェニルテトラメチルジシラザン、N−(トリメチルシリル)ジエチルアミン、1−(トリメチルシリル)イミダゾール、トリメチルクロロシラン、ペンタメチルクロロジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン及びこれらの組合せが挙げられる。最終分散体を次いで約20〜約140℃で約0.5〜約48時間加熱する。得られた混合物を濾過する。予備分散体を封鎖剤と反応させた場合、1種以上の有機マトリックス組成物を添加して最終分散体を形成する。有機材料中の官能化コロイダルシリカの混合物を約0.5〜約250トルの圧力で濃縮して最終濃縮分散体を形成する。このプロセスで、溶媒、残留水、封鎖剤とヒドロキシル基の副生物、過剰の封鎖剤及びこれらの組合せのような低沸点成分が実質的に除去される。
【0025】
適宜、最終分散体組成物全体をミクロン粒度の充填材とブレンドしてもよい。ミクロン粒度の充填材を添加すると、組成物の熱伝導率を実質的に増大させることができる。従って、ミクロ充填材の添加によって、ポリマーマトリックスの熱伝導率に対する官能化ナノ粒子の効果が大きく増幅される。例として、ポリマーマトリックスの熱伝導率が0.2W/m−Kの場合、適当なミクロ充填材を80〜90wt%添加すると熱伝導率を2.0W/m−Kに高めることができる。しかし、本発明に従って官能化ナノ粒子を添加すると、ポリマーマトリックスの初期熱伝導率をさらに0.3W/m−K以上に高めることができ、上記と同量のミクロン粒度の充填材の添加で熱伝導率が約3W/m−Kに上昇し、ナノ粒子を含まない組成物に比べて50%増大する。ミクロ粒子だけの添加によって熱伝導率を3W/m−Kに高めると、非常に粘稠な組成物が得られ、加工処理が容易ではなく、電子装置、特にフリップ/チップ装置の製造で必要とされる程度に流動しない。一方、本発明に従ってナノ粒子を使用すると、容易に加工処理できる十分な低粘度を保持したまま、熱伝導率が増大する。
【0026】
充填材はミクロン粒度の熱伝導性材料であり、補強用のものでも非補強用のものでもよい。充填材としては、例えば、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、石英微粉、非晶質シリカ、カーボンブラック、グラファイト、ダイヤモンド、金属(例えば銀、金、アルミニウム、銅)、炭化ケイ素、アルミニウム水和物、金属窒化物(例えば窒化ホウ素、窒化アルミニウム)、金属酸化物(例えば酸化アルミニウム、酸化亜鉛、二酸化チタン又は酸化鉄)及びこれらの組合せが挙げられる。充填材が存在する場合、通例、最終組成物全体の重量を基準にして約10〜約95重量%の量で存在する。さらに典型的には、充填材は、最終分散体組成物全体の重量を基準にして約20〜約90重量%の量で存在する。
【0027】
本組成物におけるナノ粒子の存在によって、ミクロ充填材の存在する組成物の安定性も向上する。ナノ粒子は、同量のミクロ充填材を含んでいるがナノ粒子を含まない組成物に比べて、組成物を収容した容器の底へのミクロ粒子の沈降を抑制することが判明した。
【0028】
最終組成物の硬化を促進するため、最終分散体に硬化触媒を添加してもよい。通例、触媒は、硬化性組成物全体の約10ppm〜約10重量%の量で存在する。カチオン型硬化触媒の例としては、特に限定されないが、ビスアリールヨードニウム塩(例えば、ヘキサフルオロアンチモン酸ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウム、ヘキサフルオロアンチモン酸(オクチルオキシフェニルフェニル)ヨードニウム、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸ビスアリールヨードニウム)、トリアリールスルホニウム塩及びこれらの組合せのようなオニウム触媒が挙げられる。ラジカル硬化触媒の例としては、特に限定されないが、各種のペルオキシド(例えばtert−ブチルペルオキシベンゾエート)、アゾ化合物(例えば2−2’−アゾビス−イソブチルニトリル)及びニトロキシド(例えば4−ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。付加硬化型シリコーン樹脂については、好ましい触媒は様々な第8〜10族遷移金属(例えばルテニウム、ロジウム、白金)錯体である。縮合硬化型シリコーンについては、好ましい触媒はオルガノスズ又はオルガノチタン錯体である。これらの触媒の構造の詳細は当業者に公知である。
【0029】
カチオン型硬化性マトリックスについては、適宜、有効量のラジカル発生化合物、例えば芳香族ピナコール、ベンゾインアルキルエーテル、有機ペルオキシド及びこれらの組合せを任意成分として添加してもよい。ラジカル発生化合物は低温でのオニウム塩の分解を促進する。
【0030】
エポキシ樹脂では、カルボン酸無水物系硬化剤及びヒドロキシル基含有有機化合物のような硬化剤を任意成分として硬化触媒と共に添加してもよい。この場合、硬化触媒は、特に限定されないが、アミン、アルキル置換イミダゾール、イミダゾリウム塩、ホスフィン、金属塩、トリフェニルホスフィン、アルキル−イミダゾール及びアルミニウムアセチルアセトナト並びにこれらの組合せから選択できる。エポキシ樹脂については、適宜、多官能性アミンのような硬化剤を架橋剤として配合してもよい。代表的なアミンとしては、特に限定されないが、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,2−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミンその他2以上のアミノ基を有する化合物が挙げられる。
【0031】
エポキシ樹脂について、代表的な無水物硬化剤としては、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、無水フタル酸、ピロメリト酸二無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、無水ドデセニルコハク酸、無水ジクロロマレイン酸、無水クロレンド酸、無水テトラクロロフタル酸などが挙げられる。2種以上の無水物系硬化剤を含む組合せも使用することができる。具体例は、“Chemistry and Technology of the Epoxy Resins” B. Ellis (Ed.) Chapman Hall, New York, 1993及び“Epoxy Resins Chemistry and Technology”, edited by C.A.May, Marcel Dekker, New York, 2nd edition, 1988に記載されている。
【0032】
付加硬化型シリコーン樹脂では、最終配合物中のSi−H/ビニルモル比が0.5〜5.0、好ましくは0.9〜2.0となるように、多官能性Si−H含有シリコーン流体のような架橋剤を配合できる。
【0033】
付加硬化型シリコーン樹脂では、硬化特性を変化させて所望の貯蔵安定性を達成するため、適宜、抑制剤を配合してもよい。抑制剤としては、特に限定されないが、ホスフィン化合物、アミン化合物、イソシアヌレート、アルキニルアルコール、マレイン酸エステルその他当業者に公知の化合物が挙げられる。
【0034】
また、組成物の粘度を低減するため、反応性有機希釈剤を硬化性組成物全体に添加してもよい。反応性希釈剤の例としては、特に限定されないが、3−エチル−3−ヒドロキシメチル−オキセタン、ドデシルグリシジルエーテル、4−ビニル−1−シクロヘキサンジエポキシド、ジ(β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル)−テトラメチルジシロキサン、各種ジエン(例えば1,5−ヘキサジエン)、アルケン(例えばn−オクテン)、アルケン、スチレン系化合物、アクリレート又はメタクリレート含有化合物(例えば、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン)及びこれらの組合せが挙げられる。処方物の粘度を低減するため非反応性希釈剤を組成物に添加してもよい。非反応性希釈剤の例としては、特に限定されないが、低沸点脂肪族炭化水素(例えばオクタン)、トルエン、エチルアセテート、ブチルアセテート、1−メトキシプロピルアセテート、エチレングリコール、ジメチルエーテル、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0035】
トリアルコキシオルガノシランのような有効量の接着促進剤を最終分散体全体に使用してもよく、例として、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)フマレートなどが挙げられる。有効量は通例最終分散体全体を基準にして約0.01〜約2重量%である。
【0036】
適宜、難燃剤も、最終分散体全体の量に対して約0.5〜約20重量%で最終分散体全体に使用できる。難燃剤の例としては、ホスホルアミド、トリフェニルホスフェート(TPP)、レゾルシノールジホスフェート(RDP)、ビスフェノール−A−ジホスフェート(BPA−DP)、有機ホスフィンオキシド、ハロゲン化エポキシ樹脂(テトラブロモビスフェノールA)、金属酸化物、金属水酸化物及びこれらの組合せが挙げられる。
【0037】
最終分散体組成物は手練りしてもよいし、ドウミキサー、チェーンカンミキサー、プラネタリーミキサー、二軸押出機、二本又は三本ロールミルのような慣用混合装置で混合してもよい。分散体成分のブレンディングは、当業者が用いる任意の手段により回分法、連続法又は半連続法で実施できる。
【0038】
硬化プロセスは当業者に公知の方法で実施できる。硬化は熱硬化、UV光硬化、マイクロ波硬化、電子ビーム硬化及びこれらの組合せのような方法で実施できる。硬化は通例約20〜約250℃、さらに典型的には約20〜約150℃の温度で起こる。硬化は通例約1気圧(「atm」)〜約5トン/平方インチ、さらに典型的には約1気圧〜約100ポンド/平方インチ(「psi」)の圧力で起こる。また、硬化は、通例約30秒〜約5時間、さらに典型的には約90秒〜約60分間で起こる。適宜、硬化組成物を約100〜約150℃の温度で約1〜約4時間後硬化してもよい。
【0039】
官能化ナノ粒子の添加は、ベースポリマーマトリックスのバルク熱伝導率増大させるために用いられ、特に電気部品の部材間のような2つの物体間に配置したときの熱伝導率を向上させる。また、本発明の熱伝導組成物は、上述のような熱が伝わる2つの部品の表面に本質的に存在する界面熱抵抗を低減する。本発明の熱伝導組成物は、コンピューター、半導体のような電子装置又は部品間の熱伝達が必要とされるあらゆる装置に使用できる。例えば、図1に概略を示すように、本発明の熱伝導組成物2は半導体チップ3とヒートシンク1の間に介在させれば、空隙を埋めて熱伝達を促すことができる。本発明の熱伝導組成物の層2は20〜150ミクロン程度に薄くでき、それでも所望の効果を与える。本発明の熱伝導組成物の施工は、当技術分野で公知の方法で達成できる。慣用法としては、スクリーン印刷、孔版印刷、シリング分配及びピックアンドプレース装置が挙げられる。
【0040】
別の態様では、本発明の組成物をシートに成形して所望の形状にカットしてもよい。この実施形態では、本発明の組成物は好適には熱伝導パッドとして用いられ、電子部品間に配置される。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施形態などについて説明してきたが、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的範囲に属する他の実施形態は当業者には自明であろう。
【実施例】
【0042】
実施例1
4.95gの分散体組成物は、31wt%(wt%は未官能化コロイダルSiOを基準)のメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(「MAPTMS」)官能化コロイダルSiO(20nm)とアクリルオキシ末端ポリジメチルシロキサン(Gelest社製DMSU22、MW約1000〜1200)からなるものであった。さらに、2gのMAPTMS、0.13gのヨードニウム塩(GE Silicones社製UV9380c)及び45.6gのアルミナ(昭和電工(株)製AS10)を分散体組成物にブレンドした。アルミナの添加量は配合物全体の86.5wt%であった。分散体組成物を120℃で硬化させた。分散体組成物の熱伝導率を測定したところ、室温で2.6W/m−K±0.05、100℃で2.55W/m−Kであった。比較として、アクリレート単独の熱伝導率は86.5wt%のアルミナ(平均粒径=38ミクロン)を充填したとき100℃で約1.4〜1.9w/m−Kである。表1参照。
【0043】
実施例2
1.82gのオクタキス(ジメチルシロキシ−T8−シルセキオキサン)(TOSiMe2H、Gelest社製)、0.73gの1,5−ヘキサメチル−トリシロキサン(MDM GE Silicones社製)、1.53gの1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン(GE Silicones社製)、1.04gのビニル末端ポリジメチルシロキサン(Gelest社製、MW 9400)DMSV22、適当な触媒及び20gのアルミナ(昭和電工(株)製AS−40及び住友化学(株)製AA04)の分散体組成物をブレンドした。アルミナの添加量は配合物全体の約80wt%であった。分散体組成物を80℃で硬化させた。分散体組成物の熱伝導率を測定したところ、室温で1.99W/m−K±0.15、100℃で1.70W/m−K±0.10であった。比較として、ポリジメチルシロキサン(「PDMS」)の熱伝導率は80wt%のアルミナ(平均粒径はAS40では10μm、AA04では0.4μm)を充填したとき約1.00W/m−Kである。表1参照。
【0044】
実施例3
7gのGE Silicones社製FCS100(1,6−ヘキサンジオールジアクリレート中に40wt%のMAPTMS官能化コロイダルSiOを含む)、0.14gのヨードニウム塩(GE Silicones社製UV9380c)及び43gのアルミナ(昭和電工(株)製AS50及び住友化学(株)製AA04)を含む分散体組成物をブレンドした。アルミナの添加量は配合物全体の86wt%であった。分散体の熱伝導率を測定したところ、室温で3.35W/m−K±0.20W/m−K、100℃で3.25W/m−K±0.15であった。比較として、アクリレートの熱伝導率は86.5wt%のアルミナ(平均粒径はAS50では10μm、住友化学(株)製では0.4μm)を充填したとき100℃で約1.4〜1.9w/m−Kである。表1参照。
【0045】
【表1】

実施例4
最終分散体は、脂環式エポキシ樹脂(Dow社製UVR6105)中に、56wt%のフェニルトリメトキシシラン官能化コロイダルシリカ(SiO含量及び官能基を基準)、触媒として1wt%のヨードニウム塩(GE Silicones社製UV9392c)及び0.5wt%のベンゾイルピナコール(Aldrich社製)からなるものであった。分散体を156℃で5分間硬化させ、測定したところ熱伝導率は25℃で0.37W/m−Kであった。ナノ粒子を含まない典型的なエポキシの熱伝導率は25℃で0.2〜0.25W/m−Kである。
【0046】
実施例5
最終分散体は、ビニル末端ポリジメチル−コ−ジフェニル−シロキサン(Gelest社製PDV1625)中の、フェニルトリメトキシシランで官能化してさらにヘキサメチルジシラジン(HMDZ)で末端封鎖した22wt%のコロイダルシリカからなるものであった。コロイダルシリカ及び縮合官能基のwt%は約27%である。最終分散体5.33gを、0.04gの白金触媒パッケージ(最終配合物中の[Pt]=7.5ppm)及び0.14gのポリジメチル−コ−メチルヒドリド−シロキサン(GE Silicones社製88466)と混合した。最終配合物は流動性の材料であった。上記組成物を150℃で1時間硬化させてバルク熱伝導率0.17W/m−Kの材料を得た。
【0047】
実施例6
10.06gのビニル末端ポリジメチル−コ−ジフェニル−シロキサン(Gelest社製PDV1625)、0.38gのポリジメチル−コ−メチルヒドリド−シロキサン(GE Silicones社製88466)、1.10gのフェニルトリメトキシシラン及び0.10gの触媒パッケージ(最終配合物中の目標[Pt]=7.5ppm)からなるストック溶液を調製した。このストック溶液2.76gを、0.44gの溶融シリカ(電気化学工業(株)製、平均粒径=5ミクロン)及び0.35gの二重処理ヒュームドシリカ(GE Silicones社製88318)と混合した。この混合物は非流動性の高粘度ペーストであった。
【0048】
この組成物を150℃で1時間硬化させた。バルク熱伝導率は実施例5と同じく25℃で0.17W/m−Kであった。
【0049】
実施例7
実施例5に記載の適量の最終分散体をシリンジから、8×8mmアルミニウムクーポンの上に手作業でX字形に形成した。その上に第2のアルミニウムクーポンを載置して、得られたサンドイッチ構造体を150℃のオーブンに1時間入れて硬化を完了させた。このTIM層の接合面(ボンドライン)厚さは16.8ミクロンである。TIM層の有効熱伝導率は25℃で0.18W/m−Kである。TIM層を通しての総熱抵抗は94mm−K/Wであった。
【0050】
同様の3層サンドイッチ構造体を実施例6に記載の配合物で作成した。接合面厚さは23ミクロンであり、TIM層の有効熱伝導率は25℃で0.13W/m−Kであった。TIM層を通しての総熱抵抗は173mm−K/Wであった。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態などについて説明してきたが、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的範囲に属する他の実施形態は当業者には自明であろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明に係る電気部品の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックスとナノ粒子とのブレンドを含んでなる熱伝導組成物。
【請求項2】
オルガノ官能化コロイダルシリカ及びオルガノ官能化POSSからなる群から選択されるオルガノ官能化ナノ粒子と硬化性ポリマーマトリックスとのブレンドを含んでなる熱伝導組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子が1種以上のオルガノアルコキシシランで官能化されている、請求項1又は請求項2記載の熱伝導組成物。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスが硬化性ポリマー組成物を含む、請求項1又は請求項3記載の熱伝導組成物。
【請求項5】
さらにミクロン粒度の充填材を含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の熱伝導組成物。
【請求項6】
発熱部品(3)を、ポリマーマトリックスとナノ粒子とのブレンドを含んでなる熱伝導組成物(2)と接触させて配置する段階、及び
ヒートシンク(1)を熱伝導組成物(2)と接触させて配置する段階
を含んでなる、熱伝達性を増大させる方法。
【請求項7】
発熱部品(3)を熱伝導組成物(2)と接触させて配置する段階が、発熱部品(3)を、1種以上のオルガノアルコキシシランで官能化されたコロイダルシリカ及び1種以上のオルガノアルコキシシランで官能化されたPOSSからなる群から選択されるナノ粒子と硬化性ポリマーマトリックスとのブレンドと接触させて配置することを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
発熱部品(3)、
ヒートシンク(1)、及び
発熱部品(3)とヒートシンク(1)との間に介在する熱伝導組成物(2)
を備える電子部品であって、熱伝導組成物(2)がポリマーマトリックスとナノ粒子とのブレンドを含んでなる、電子部品。
【請求項9】
熱伝導組成物(2)が予め形成されたパッドからなる、請求項8記載の電子部品。
【請求項10】
ミクロン粒度の充填剤を充填したポリマー組成物の相分離を遅延させる方法であって、オルガノ官能化ナノ粒子をポリマー組成物にブレンドすることを含んでなる方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−538135(P2007−538135A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527154(P2007−527154)
【出願日】平成16年5月20日(2004.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/015745
【国際公開番号】WO2005/119771
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【復代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
【Fターム(参考)】