説明

バー塗布装置、それを用いた塗布方法、及び光学フィルムの製造方法

【課題】塗布直後において、塗布面に縦スジ等のムラが生じることなく、均質な塗布を行う。
【解決手段】
走行するウエブ18に塗布液を塗布するバー20と、バー20の下側に設けられ、該バー20を回転自在に支持するバー受け部材22と、バー20よりも帯状体走行方向の上流側に設けられ、ウエブ18に塗布する塗布液を供給するスロット34と、バー20よりも帯状体走行方向の下流側に設けられ、バー表面を流下する余剰塗布液を排出するスロット40と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バー塗布装置、それを用いた塗布方法、及び光学フィルムの製造方法に係り、特に液晶表示装置に好適な品質を有する光学フィルムを製造するための塗布技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光学補償フィルム等の光学機能性フィルムの製造における塗布では、塗布液を均一且つ薄層に塗布形成することが要求される。しかしながら、このような薄層塗布では、ストリークやスクラッチ等の塗布欠陥を生じることが多く、従来から各種の対策が検討されている。
【0003】
たとえば、ブレードコーターにおいて、ファウンテンノズルから塗布液を吹き出す前に、塗布液にせん断力を付与して低粘度化する方法(特許文献1)、ロッドコーターにおいて、ロッドのワイヤー間の溝に引っかかる異物や凝集物を除去するための異物除去ブラシ等をロッドバーホルダに設ける方法(特許文献2)等が提案されている。また、支持体上に塗布膜を形成した後、掻き取りローラにより余剰液を掻き取り必要膜厚を得る塗布方法において、掻き取りローラ表面の乾きに起因する塗布故障を抑制するために、掻き取りローラ表面に塗布液又は溶剤を供給する方法が提案されている(特許文献3)。
【0004】
特許文献4では、バー断面の最大半径とバー受け部断面の円弧の曲率半径との関係、バーホールド角等を規定することで、バー振動による段状塗布ムラ、バーとバー支持部材との間の泡発生に起因する塗布筋故障を防止することが提案されている。
【0005】
特許文献5では、塗布バーの接触部に対して支持体送り方向の上流側に堰を設けて、接触部と堰との間に液溜まりを構成し、堰から塗布液の一部をオーバーフローさせることが提案されている。これにより、塗布速度を上げた際に、1次側(塗布バーの接触部に対して支持体送り方向の上流側)の液溜めに規則的な渦が発生することにより生じる塗布スジの発生を抑制できるとされている。
【特許文献1】特開平7−189196号公報
【特許文献2】特開平7−246358号公報
【特許文献3】特開平9−294956号公報
【特許文献4】特開2006−82059号公報
【特許文献5】特開2003−33702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献4、5のようなバー塗布では、図9の従来図に示すように、バー2の乾きによる塗布故障を防止するために、バー2を支持するバー支持部材3を介してウエブ走行方向下流側(以下、2次側という)にも堰部材4を設置し、塗布液8を供給するスリット5を形成している。そして、スリット5から塗布液を供給してバー表面との間に塗布液ビードを形成し、余剰の塗布液は堰部材4の上面4Aをオーバーフローさせて排出している。
【0007】
しかしながら、バー2の回転速度を高くすると、2次側のスリット出口の液溜り部6では、バー2の乾き防止用に供給する塗布液q1とバー表面を流下する余剰塗布液q2とが勢いよく合流し、塗布液に渦等の乱れが生じる(矢印参照)。この合流点での塗布液の乱れは、周辺の気相の乱れを生じさせ、塗布液から揮発する揮発性ガスに濃度分布を生じる原因となる。これにより、ウエブ7の塗布面7Aに縦スジ状のムラを生じるという問題があった。
【0008】
これに対して、上記従来の方法では、いずれも塗布後の揮発性ガス濃度分布に起因するムラを解決するものではなかった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、塗布直後において、塗布面に縦スジ等のムラが生じることがなく、均質な塗布を行うことができるバー塗布装置及びそれを用いた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、走行する帯状体に塗布液を塗布するバーと、前記バーの下側に設けられ、該バーを回転自在に支持する支持部材と、前記バーよりも帯状体走行方向の上流側に設けられ、前記帯状体に塗布する塗布液を供給する供給スロットと、前記バーよりも帯状体走行方向の下流側に設けられ、前記バー表面を流下する余剰塗布液を排出する排出スロットと、を備えたことを特徴とするバー塗布装置を提供する。
【0011】
請求項1によれば、支持部材の下流側に、バー表面を流下する余剰塗布液を排出するための排出スロットを設け、該排出スロットから余剰塗布液を回収するようにする。これにより、バーの帯状体走行方向の下流側において塗布液同士が複雑に合流することがなく、渦等の乱れが生じるのを抑制できる。また、この渦等の乱れに起因する揮発性ガスの濃度分布を生じることもないので、塗布直後において塗布面に縦スジ等のムラが生じるのを抑制できる。
【0012】
請求項2は請求項1において、前記排出スロットは、前記余剰塗布液が自由表面を形成するまでの時間が1秒以下となるように設けられたことを特徴とする。
【0013】
請求項2によれば、余剰塗布液が排出スロットに回収されるまでの時間を短くするので、余剰塗布液の流動の乱れにより、塗布面近傍に縦スジ等のムラが生じるのを抑制できる。自由表面を形成するまでの時間とは、余剰塗布液がバー表面から排出スロットの開口部に流入するまでの時間(平均滞留時間ともいう)をいう。自由表面を形成するまでの時間を上記範囲にする方法としては、例えば、液溜りを形成させないように排出スロットの幅や開口形状を調整したり、排出スロット内の減圧度を調整したりする方法が含まれる。
【0014】
請求項3は請求項1又は2において、前記支持部材本体の前記バーよりも前記帯状体走行方向の下流側には、前記バー表面を流れる余剰塗布液を滞留させるための堰部が設けられたことを特徴とする。
【0015】
請求項3によれば、バーの支持部材本体の下流側に、バー表面を流れる余剰塗布液をバーの近傍に滞留させるための堰部を設ける。これにより、従来のように、バーの乾きを防止するための塗布液を新たに供給しなくても、バー表面を流下する余剰塗布液をバーの近傍に滞留させることで、バー表面の乾きを効率的に防止できる。さらに、堰部をバーの近傍に設けるので堰部の容積を小さくすることができ、余剰塗布液による渦等の乱れを生じ難くすることもできる。
【0016】
請求項4は請求項3において、前記堰部は、該堰部における前記余剰塗布液の平均滞留時間が1秒以下となる大きさに設定されたことを特徴とする。
【0017】
請求項4によれば、堰部が、該堰部における余剰塗布液の平均滞留時間が1秒以下となる大きさに設定されるので、余剰塗布液による渦等の乱れを生じ難くすることができる。
【0018】
本発明の請求項5は前記目的を達成するために、請求項1〜4の何れか1項に記載のバー塗布装置を用いて、走行する帯状体に塗布液を塗布することを特徴とする塗布方法を提供する。
【0019】
請求項5によれば、バーの下流側において、塗布直後の塗布面近傍に揮発性ガスによる濃度分布を生じさせないので、帯状体の塗布面に縦スジ状のムラが生じるのを抑制できる。
【0020】
本発明の請求項6は前記目的を達成するために、予めラビング処理した配向膜層が形成された帯状体上に、液晶性ディスコティック化合物を含有する塗布液を塗布した後、該塗布した塗布面を乾燥させて光学異方性層を形成する光学フィルムの製造方法であって、前記塗布液は、請求項1〜4の何れか1項に記載のバー塗布装置により塗布することを特徴とする光学フィルムの製造方法を提供する。
【0021】
請求項6によれば、塗布面にムラを生じることなく、良好な品質の光学フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、塗布直後において、塗布面に縦スジ等のムラが生じることがなく、均質な塗布を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、添付図面に従って本発明に係るバー塗布装置及び塗布方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0024】
まず、本発明に係るバー塗布装置の構成について説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施態様を示すバー塗布装置の側面断面図である。図2は、バー塗布ヘッドの一部を断面で示した斜視図である。
【0026】
図1及び図2に示すように、バー塗布装置10は、バー塗布ヘッド12と、該バー塗布ヘッド12を挟んでウエブ走行方向の上流側と下流側とに設けられた一対のガイドローラ14、16と、を備えている。そして、ウエブ18がバー塗布ヘッド12のバー20にラップされた状態で塗布液が塗布される。
【0027】
バー塗布ヘッド12は、主に、両端が図示しない軸受により回転自在に支持されたバー(ワイヤーバー)20と、そのバー20の全長にわたって支持するバー受け部材22と、バー受け部材22よりも上流側において、バー受け部材22との間に塗布液の給液路24を形成する上流側堰部材28と、バー受け部材22よりも下流側において、余剰塗布液を排出する排液路26を形成する下流側堰部材30と、より構成されている。
【0028】
給液路24は、マニホールド32とスロット34とより構成され、マニホールド32に給液された塗布液がスロット34を介してウエブ18の幅方向に均一に押し出される。これにより、バー20に対してウエブ18の搬送方向の上流側(以下、1次側という)には1次側ビード36が形成される。
【0029】
排液路26は、マニホールド38とスロット40とより構成され、バー20表面を流下する余剰塗布液がスロット40を介してマニホールド38へ回収される。マニホールド38へ回収された余剰塗布液は、図示しない吸引ポンプ等によりマニホールド38外へ排出される。このバー20表面を流下する余剰塗布液は、バー20とバー受け部材22との間に空気を巻き込まないように作用する。
【0030】
これら1次側のビード36を形成する塗布液が回転するバー20によってピックアップされることにより、バー20にラップして連続走行するウエブ18に塗布される。給液路24から1次側ビード36に供給された塗布液のうち余剰の塗布液は、スロット40、及び上流側堰部材28の外側28Aを流下する。
【0031】
バー20の回転は、ウエブ18の走行によって従動回転する場合、駆動源を設けて回転駆動する場合の何れでも良く、また回転駆動する方向はウエブ18の走行方向と同方向への回転でも、逆方向への回転でもよい。
【0032】
図3は、バー20の概略を説明する説明図であり、図4は図3のバー20の軸線方向断面からみたバー表面のワイヤーの断面状態を示す拡大断面図である。
【0033】
バー20(ワイヤーバー)は、図3に示すように、円柱状の芯金44の表面にワイヤー46を巻回してワイヤー列48を形成することで作成されている。バー20は、図4に示すように、ワイヤー46の太さを変えることで、ワイヤー列48のワイヤー46同士の間に保持する塗布液量を変えることができ、これにより所望厚みの塗布膜を精度良く塗布することができる。
【0034】
バー20に使用されるワイヤー46は、線径が0.06〜0.2mmのものが好ましく、0.06〜0.1mmのものがより好ましい。ワイヤー46の線径が0.2mmを超えると塗布量が多くなりすぎ、高速薄膜塗布に有効なバー塗布法の使用法として適切でない。バー20の直径は、特に限定されないが、薄層塗布に適する点で3mm〜15mmの範囲の細径のものが好ましい。このように、バー径3mm〜15mm、ワイヤー径0.06〜0.2mmのバー20で塗布液をウエブに塗布することで、湿潤厚さが5〜15μmの薄膜な塗布膜を得ることができる。
【0035】
図5は、本発明に係るバー塗布ヘッド12の2次側の拡大断面図である。
【0036】
図5に示すように、バー20の2次側に、バー20の表面を流下する余剰の塗布液を鉛直下方向に排出するためのスロット40が設けられている。該スロット40に連通するマニホールド38には、必要に応じて図示しない吸引ポンプ等が接続され、余剰塗布液をスムーズに回収できるように構成することができる。
【0037】
なお、余剰塗布液の回収を妨げない範囲で、スロット40開口付近に適量滞留するようにスロット幅を設定することが好ましい。具体的には、スロット幅LAは、1mm以上の範囲にすることが好ましい。
【0038】
スロット40は、バー20の表面を流下する余剰塗布液が、自由表面を形成するまでの時間(平均滞留時間ともいう)が1秒以下となるように設けられることが好ましい。具体的には、例えば、スロット40の開口部に液溜りを形成させないように、排出スロットの幅を1mm以上持たせて排出する機構を設けることが好ましい。その他、スロット40の開口形状を広くしたり、スロット40内の減圧度を調整したりすることによって、自由表面を形成するまでの時間を小さくすることもできる。
【0039】
次に、上記の如く構成されたバー塗布装置10によりウエブ18に塗布液を塗布する塗布方法について図1及び図5を参照して説明する。
【0040】
塗布液は、図1に示すように、塗布ヘッド12の給液路24内に供給されて1次側のビード36を形成し、回転するバー20によってピックアップされウエブ18に塗布される。この際、ウエブ18とバー20との接触部において塗布液の計量が行われて所望の塗布量のみがウエブ18に塗布される。
【0041】
このようなバー塗布において、本実施の形態では、バー受け部材22本体よりも2次側にスロット40を含む排液路26を設けるので、塗布面に縦スジ状のムラを生じさせないようにすることができる。
【0042】
すなわち、図5に示すように、バー20の表面を流下する余剰塗布液は、バー受け部材22の下流側をつたってスロット40から回収される。このため、従来のようにバー20の2次側に塗布液を供給することで塗布液同士が複雑に合流することがない(図9参照)。したがって、塗布直後の塗布面近傍50に上記乱れに起因する揮発性ガスの濃度分布を生じることもなく、塗布面に縦スジ等のムラが生じるのを抑制できる。
【0043】
図6及び図7は、バー塗布装置10の変形例を示す断面図である。
【0044】
図6に示すように、バー受け部材22本体のバー20の2次側に、上記余剰の塗布液を滞留させるためのダム部31が設けられてもよい。
【0045】
ダム部31は、バー表面から流下する余剰塗布液による渦等の乱れを発生させないようにする上で、余剰塗布液の平均滞留時間が1秒以下となる大きさに形成されることが好ましい。ここで、平均滞留時間は、バー20の表面を流下する余剰塗布液がダム部31に流入するまでの時間をいう。この平均滞留時間は、ダム部31の図面上の断面積と塗布液の流量から算出することもできる。
【0046】
ダム部31の形状は、特に限定されないが、バー支持面22Aの2次側にバー全長にわたって堰状に設けられることが好ましい。要は、ダム部31において、バー表面から流下する余剰塗布液を受けることができ、且つ滞留させることができる形状であればよい。ダム部31の余剰塗布液を受ける面は平面でも曲面でもよく、バー受け部材22本体に対する設置位置も図6に限定されるものではない。
【0047】
このように構成することで、余剰塗布液をダム部31で一旦滞留させることができ、バー表面の乾きを抑制する。また、ダム部31は、余剰塗布液の平均滞留時間が1秒以下となる容積であるため、渦等の乱れを生じ難くすることができる。したがって、従来のように、バー表面の乾き防止用の塗布液を新たに供給しなくても、塗布面に縦スジ状のムラが生じるのを抑制できる。
【0048】
また、図7に示すように、下流側堰部材30を設置せず、バー表面を流下する余剰塗布液をバー受け部材22の下流側に排出させる構成としてもよい。
【0049】
次に、本発明に係るバー塗布装置10の適用例について説明する。図8は、本発明のバー塗布装置10を組み込んだ光学補償シートの製造ライン80である。
【0050】
光学機能フィルムの製造ライン80は、図8に示されるように、送出機82から予め配向膜形成用のポリマー層が形成された透明支持体であるウエブ18が送り出される。次に、ウエブ18はガイドローラ84によってガイドされてラビング処理装置86に送りこまれる。そして、ウエブ18のポリマー層には、ラビングローラ88によりラビング処理が施される。ラビングローラ88の下流には除塵機90が設けられており、ウエブ18の表面に付着した塵を取り除く。除塵機90の下流には本発明に係るバー塗布ヘッド12が設けられている。そして、バー塗布ヘッド12によりディスコネマティック液晶を含む塗布液がウエブ18に塗布される。塗布ヘッド12の下流には、乾燥ゾーン92、加熱ゾーン94が順次設けられており、ウエブ18上の塗布液が乾燥・加熱されて液晶層が形成される。更に、この下流には紫外線ランプ96が設けられており、紫外線照射により、液晶を架橋させ、所望のポリマーを形成する。これにより、光学補償フィルムが製造され、製造された光学補償フィルムは巻取機98に巻き取られる。
【0051】
このように、本発明に係るバー塗布装置10を、光学補償フィルムの液晶層の塗布(ディスコネマティック液晶を含む塗布液の塗布)に用いるので、縦スジ等のムラのない良好な面質のフィルムを製造できる。
【0052】
本発明に使用されるウエブ18としては、紙、プラスチックフィルム、レジンコーティッド紙、合成紙等が包含される。プラスチックフィルムの材質は、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等のビニル重合体、6,6−ナイロン、6−ナイロン等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ヘルローストリアセテート、セルロースダイアセテート等のセルロースアセテート等が使用される。またレジンコーティッド紙に用いる樹脂としては、ポリエチレンをはじめとするポリオレフィンが代表的であるが、必ずしもこれに限定されない。ウエブの厚さも特に限定されないが、0.01mm〜1.0mm程度のものが取扱い、汎用性より見て有利である。
【0053】
本発明に用いられる塗布液は特に限定は無く、高分子化合物の水又は有機溶媒液、顔料分散液、コロイド溶液等が適用できる。特に、薄層塗布を均一且つ高精度に行うことが求められる各種光学フィルムの塗布液、例えば、液晶性ディスコティック塗布液等が好適である。また、塗布液の粘度が高い場合、塗布膜厚や塗布速度、塗布後の乾燥速度等にもよるが、ワイヤー目或いは溝の目が消えずにバー筋故障となるため、0.5Pa・s以下が望ましい。
【0054】
なお、本実施形態では、バー20としてワイヤーバーを用いる例で説明したが、これに限定されず、例えば、溝切りバー、フラットバー等でもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0056】
(実施例1)
本発明に係るバー塗布装置10を組み込んだ図8の光学補償フィルムの製造ライン80において、塗布直後の縦スジ故障への影響を評価した。
【0057】
ウエブ18は、厚さ100μmのトリアセチルセルロース(フジタック、富士写真フィルム(株)製)の表面に長鎖アルキル変性ポバールの2重量%溶液をフィルム1m2当たり25mlになるように塗布後、60°Cで1分間乾燥させて配向膜用樹脂層を形成したものを使用した。このウエブ18を、送出機82から送り出すと共に50m/分で搬送しながらラビング処理装置86によって配向膜用樹脂層表面にラビング処理を行って配向膜を形成した。ラビング処理におけるラビングローラ88の押し付け圧力を、配向膜樹脂層の1cm2あたり10kgf/cm2にすると共に、回転周速を5.0m/秒にした。
【0058】
そして、配向膜用樹脂層をラビング処理して得られた配向膜上に、バー塗布装置10を使用して塗布液を塗布した。塗布液は、下記に示すディスコティック化合物TE−8のR(1)とR(2)の重量比で4:1の混合物に対し、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート(V♯360、大阪有機科学(株)製)を10重量%、セルロースアセテートブチレート(CAB531−1、イーストマンケミカル社製)を0.6重量%、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製)を3重量%、増感剤(カヤキュアーDET−X、日本化薬(株)製)を1重量%、添加し、最終的にその混合物の32重量%メチルエチルケトン溶液とした。その液晶性化合物を含む液に、さらにフッ素系界面活性剤(フルオロ脂肪族基含有共重合体、メガファックF780、大日本インキ(株)製)を0.3重量%添加し、塗布液として使用した。
【0059】
【化1】

【0060】
そして、図5のバー塗布装置10において、バー支持面22Aに、バー径8mm、線径80μmのワイヤー46のバー20を支持し、ウエブ18を走行速度24〜36m/分で走行させながらバー20も同速で順回転させ、バー塗布ヘッド12から塗布液をウエブ1m2当たり5ml(湿潤膜厚5μm)になるように配向膜上に塗布した。
【0061】
塗布液は、常温(25℃)における粘度ηが3×10−3cPであり、バー表面を流下する余剰塗布液の流量が1.07×10−5/秒であった。また、余剰塗布液が、バー20の表面を流れ、自由表面を形成するまでの時間は0.5587秒であった。この結果を表1に示す。
【0062】
そして、塗布直後においてバー20の2次側のウエブ18の塗布面の縦スジ状のムラを目視により評価した。評価基準は、以下のようにした。
【0063】
○…縦スジ状のムラがほとんどなく、製造品質を良好に満たすレベル
△…縦スジ状のムラが若干みられるが製造上問題ないレベル
×…縦スジ状のムラが多く、製品品質を満たさず不合格となるレベル
評価結果を表1に示す。
【0064】
(実施例2)
余剰塗布液がバー20の表面を流れ、自由表面を形成するまでの時間を1.117秒となるようにスロット40の幅を変えた以外は、実施例1と同様にした。この結果を表1に示す。
【0065】
(実施例3)
バー受け部材22のバー2次側に、図6に示すようなダム部31(平均滞留時間:0.1513秒)を設けた以外は実施例1と同様にした。この結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
従来の図9に示すように、スロット40から塗布液(バーの乾き防止、塗布面の乾燥雰囲気の調整)を供給し、下流側堰部材30上をオーバーフローさせるようにした以外は、実施例1と同様にした。この結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、スロット40から余剰塗布液を回収した実施例1〜3では、いずれも縦スジは極めて少なかった。特に、バー受け部材22のバー20の2次側にダム部31を設けた実施例3では、バー表面の乾きを効果的に抑制でき、バー乾きスジも大幅に減少した。また、自由表面形成時間が1秒未満である実施例1では、液溜り部において渦等の乱れが発生することなく、縦スジが大幅に減少することがわかった。
【0069】
これに対して、スロット40から塗布液を供給し、余剰塗布液を下流側堰部材30上にオーバーフローさせた従来の比較例1では、下流側堰部材30のスロット40出口の液溜り部において渦等の乱れが生じ、縦スジが多くみられた。
【0070】
以上から、本発明を適用することで、塗布直後の塗布面に縦スジ、バーの乾きによるスジ等のムラが生じるのを抑制できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本実施形態のバー塗布装置の側面断面図である。
【図2】本実施形態のバー塗布装置の一部を断面で示した斜視図である。
【図3】本実施形態のバーを説明する説明図である。
【図4】本実施形態におけるバー表面の断面図である。
【図5】本実施形態におけるバー2次側の部分断面図である。
【図6】バー塗布装置の別態様を示す断面図である。
【図7】バー塗布装置の別態様を示す断面図である。
【図8】本実施形態のバー塗布装置を組み込んだ光学補償シートの製造ラインの説明図である。
【図9】従来のバー塗布装置を説明する側面断面図である。
【符号の説明】
【0072】
10…バー塗布装置、12…バー塗布ヘッド、14、16…ガイドローラ、18…ウエブ、20…バー、22…バー受け部材、22A…バー支持面、24…給液路、26…排液路、28…上流側堰部材、30…下流側堰部材、31…ダム部(堰部)、32、38…マニホールド、34…スロット(供給用)、36…1次側ビード、40…スロット(排出用)、50…液溜り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する帯状体に塗布液を塗布するバーと、
前記バーの下側に設けられ、該バーを回転自在に支持する支持部材と、
前記バーよりも帯状体走行方向の上流側に設けられ、前記帯状体に塗布する塗布液を供給する供給スロットと、
前記バーよりも帯状体走行方向の下流側に設けられ、前記バー表面を流下する余剰塗布液を排出する排出スロットと、
を備えたことを特徴とするバー塗布装置。
【請求項2】
前記排出スロットは、前記余剰塗布液が自由表面を形成するまでの時間が1秒以下となるように設けられたことを特徴とする請求項1に記載のバー塗布装置。
【請求項3】
前記支持部材本体の前記バーよりも前記帯状体走行方向の下流側には、前記バー表面を流れる余剰塗布液を滞留させるための堰部が設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載のバー塗布装置。
【請求項4】
前記堰部は、該堰部における前記余剰塗布液の平均滞留時間が1秒以下となる大きさに設定されたことを特徴とする請求項3に記載のバー塗布装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載のバー塗布装置を用いて、走行する帯状体に塗布液を塗布することを特徴とする塗布方法。
【請求項6】
予めラビング処理した配向膜層が形成された帯状体上に、液晶性ディスコティック化合物を含有する塗布液を塗布した後、該塗布した塗布面を乾燥させて光学異方性層を形成する光学フィルムの製造方法であって、
前記塗布液は、請求項1〜4の何れか1項に記載のバー塗布装置により塗布することを特徴とする光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−82768(P2009−82768A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252243(P2007−252243)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】