説明

パッチ数の決定方法

【課題】カラーキャリブレーションに用いられるテストチャートにおける各色のパッチ数を適切なパッチ数にすること。
【解決手段】カラーキャリブレーションに用いられるテストチャートにおける各色のパッチ数の決定方法であって、第1の色と第2の色のそれぞれについて、媒体における色空間の測色値のばらつき度合いを取得するステップと、前記第1の色の前記測色値のばらつき度合いに基づいて前記第1の色のパッチ数を求め、前記第2の色の前記測色値のばらつき度合いに基づいて前記第2の色のパッチ数を求めるステップと、を含むパッチ数の決定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッチ数の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の色を表現可能なカラープリンタが多く使用されている。このようなカラープリンタでは、色の再現性を向上させるためにカラーキャリブレーションが行われる。カラーキャリブレーションを行う際には、カラーキャリブレーション用のテストチャートが印刷される。そして、このチャートを測色して色空間における測色値を取得し、測色結果に基づいてプリンタが出力する色のずれを補正することとしている。
【特許文献1】特開2006−237987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、用紙に単一階調の色を全面に印刷した場合であっても、若干ではあるが用紙上において色のばらつきを生ずる。これは、インク吐出型のプリンタを例にすると、若干ではあるが用紙の搬送量やインク滴の吐出量が変動しつつ印刷されているためである。
【0004】
用紙上に生ずる色のばらつき度合いは、使用されるインク色毎に異なる。ばらつき度合いが大きく現れる色の場合には、キャリブレーションの精度を高めるためによりパッチ数を増やしたい場合がある。また、ばらつき度合いが小さく現れる色の場合には、よりパッチ数を減らせる場合がある。パッチ数が足りない場合にはキャリブレーションによる補正の精度が低くなり、パッチ数が多い場合には測色時間が長くなる要因となるので、使用される各色のパッチ数をそれぞれ適切なパッチ数にすることが望ましい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、カラーキャリブレーションに用いられるテストチャートにおける各色のパッチ数を適切なパッチ数にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、
カラーキャリブレーションに用いられるテストチャートにおける各色のパッチ数の決定方法であって、
第1の色と第2の色のそれぞれについて、媒体における色空間の測色値のばらつき度合いを取得するステップと、
前記第1の色の前記測色値のばらつき度合いに基づいて前記第1の色のパッチ数を求め、前記第2の色の前記測色値のばらつき度合いに基づいて前記第2の色のパッチ数を求めるステップと、
を含むパッチ数の決定方法である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0009】
カラーキャリブレーションに用いられるテストチャートにおける各色のパッチ数の決定方法であって、
第1の色と第2の色のそれぞれについて、媒体における色空間の測色値のばらつき度合いを取得するステップと、
前記第1の色の前記測色値のばらつき度合いに基づいて前記第1の色のパッチ数を求め、前記第2の色の前記測色値のばらつき度合いに基づいて前記第2の色のパッチ数を求めるステップと、
を含むパッチ数の決定方法。
このようにすることで、カラーキャリブレーションに用いられるテストチャートにおける各色のパッチ数を適切なパッチ数にすることができる。
【0010】
かかるパッチ数の決定方法であって、前記第1の色のパッチ数と前記第2の色のパッチ数とが異なることが望ましい。また、前記測色値のばらつき度合いが大きいほど多くのパッチ数を割り当てることが望ましい。また、前記測色値のばらつき度合いは、複数の媒体に記録された前記第1の色と前記第2の色の測色結果に基づいて求められることが望ましい。また、前記ばらつき度合いは標準偏差で求められることが望ましい。
【0011】
また、さらに、前記第1の色と前記第2の色の前記色空間における曲線の長さに応じて、前記第1の色のパッチ数と前記第2の色のパッチ数が求められることが望ましい。また、前記色空間は均等色空間であることが望ましい。また、前記色空間は、CIE L*a*b*色空間であることが望ましい。
このようにすることで、カラーキャリブレーションに用いられるテストチャートにおける各色のパッチ数を適切なパッチ数にすることができる。
【0012】
===第1実施形態===
図1は、テストチャートにおける各インク色のパッチ数の決定システムの構成を示す図である。図には、コンピュータ100とプリンタ1とカラー測色器40が示されている。
【0013】
<カラー測色器40>
図2は、カラー測色器40の構造を説明するための図である。図には、カラー測色器40の外観図が示されている。カラー測色器40は、測色台41、バッキング42、測色ヘッド43、測色器キャリッジ44、レール45、及び、紙送りローラ46を備える。
【0014】
測色台41には、白色の板からなるバッキング42が固定されている。そして、測色ヘッド43は、バッキング42上の用紙上を走査して測色を行うようになっている。測色器キャリッジ44は、不図示のモータを備えており、レール45上を移動し、主走査方向に測色ヘッド43を移動させる。紙送りローラ46は、主走査方向の測色が完了する毎に、用紙を副走査方向に所定量搬送する。測色器40は、測色する対象に測色ヘッド43を向けることにより、CIE(1076)規格におけるL色空間に基づく複数の色成分L、a、bの色成分量を検出して検出量に対応する測色値L、a、bを生成する。つまり、各点について測色が行われると、L値、a値、及び、b値とからなる1組の測色値が得られる。ここで、CIE L色空間は、複数の色成分L、a、bを色成分量とするデバイスに依存しない均等色空間である。なお、Lは明度を表し、a,bは色相及び彩度を表す色座標である。
【0015】
カラー測色器40は、測色して生成した測色値をコンピュータ100に対して出力する。尚、出力する測色値の色空間は、CIE L色空間であってもよい。
【0016】
<プリンタ1>
プリンタ1は、インク滴を用紙上に吐出させて画像を形成するプリンタである。プリンタ1は、複数色のインクを搭載したヘッドを有しており、用紙を断続的に用紙の搬送方向に搬送しつつ、搬送方向とは直交する方向にヘッドを移動させながらインクを吐出する。そして、用紙に着弾した微少なインクの集合により画像が形成される。ここで使用されるプリンタ1は、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックK、ライトシアンLC、ライトマゼンタLM、ライトブラックLK、及び、ライトライトブラックLLKの8種類のインクを吐出可能となっている。
【0017】
尚、ここでは、上述の8色のインクを使用することとしているが、色の種類はこれに限られない。また、使用するインクは顔料からなる色材を混合した顔料インクであってもよいし、染料からなる色材を混合した染料インクであってもよい。また、ここでは、インク吐出型のプリンタを例に説明を行うが、複数色のトナーを使用して用紙上に画像を形成するカラーレーザプリンタであってもよい。
【0018】
<コンピュータ100>
コンピュータ100は、不図示の処理装置と記憶装置とを含む。処理装置は、例えばCPUなどの演算装置である。また、記憶装置は、ROM、RAM、ハードディスクドライブ、及び、CD−ROMドライブなどであって、後述するパッチ数の決定方法を実行するためのプログラムが記憶されている。RAM及びハードディスクドライブは、プログラムを実行するに際し、随時演算結果を記憶する領域としても利用される。コンピュータ100は、プリンタ1及びカラー測色器40にインタフェースを介して接続している。そして、コンピュータ100は、印刷データをプリンタ1に送信することにより、プリンタ1に所望の画像を印刷させることができる。また、コンピュータ100は、カラー測色器40に測色の指令を出力し、後述するような測色結果を取得できるようになっている。
【0019】
<カラーキャリブレーションについて>
プリンタは、個体間で少しずつ色の出力特性が異なっている。これを補正して、プリンタの色の再現性を向上させるためにカラーキャリブレーションが行われる。カラーキャリブレーションは、例えば、次のような手順で行われる。まず、プリンタは、テストチャートを印刷する。次に、印刷したテストチャートがカラー測色器に固定され、テストチャートの測色が行われる。次に、測色した測色値に基づいて、印刷した色のずれ量を求める。次に、このずれ量を補正するための変換テーブルを作成する。そして、この変換テーブルを用いてずれ量を補正しつつ印刷を行うことによって、適切な色で印刷を行うことができるようになる。
【0020】
以下に示される実施形態では、このようなキャリブレーションにおいて使用されるテストチャートにおける各色のパッチ数を決定する。
【0021】
図3は、用紙に印刷が行われたときの用紙の面内に生ずる色のばらつき度合いを説明するための図である。
【0022】
図において、紙送り方向とされているのがプリンタにおける紙送り方向である。また、図には、プリンタのヘッドの移動方向が示されている。そして、ヘッドの移動方向においてホーム側とされているのがプリンタのヘッドが待機するホーム側であり、その反対側は反ホーム側として示されている。紙送り方向の軸とヘッドの移動方向の軸とで構成される平面の垂直方向は、用紙の面内に生ずる色のばらつき度合いが示される。
【0023】
図には、1枚の用紙に、あるインク色についてある階調値の色を全面に印刷したときの、用紙の位置による色のばらつき度合いが示されている。ばらつき度合いは、測色値の平均値に対する偏差で表される。L、a、bの平均値をそれぞれLave、aave、baveとすると、このときの偏差は次式によって求められる。
偏差={(Lave−L+(aave−a+(bave−b1/2
尚、ここでは、L色空間におけるLaveが88.0、aave値が−8.8、bave値が58.9としている。
【0024】
これによると、紙送り方向について周期的な色のばらつきが生じていることが分かる。これは、プリンタ1の用紙を送るためのローラが真円ではないために、搬送量に周期的な差が生じてしまっており、このために周期的に色のばらつきが生じてしまっているものと考えられる。
【0025】
用紙に生ずる色のばらつきは、いずれのインク色においても認められるが、インク色によってそのばらつき度合いが異なる。つまり、ばらつきが生じやすいインク色とそうでないインク色が存在することになる。このように色のばらつきが生じやすいインク色については、より多くのパッチ数を用いてキャリブレーションを行うことが望ましく、また、ばらつきが生じにくいインク色については少ないパッチ数でキャリブレーションを行うことができる。このように、インク色毎の面内における色のばらつきやすさに応じてパッチ数を異ならせることで、効率よく各色のパッチを用紙に配置することができる。
【0026】
第1実施形態では、この点を考慮し、用紙の面内に生ずるインク色毎のばらつき度合いに基づいて各インク色のパッチ数を調整することとしている。
【0027】
<パッチ数の決定方法>
図4は、第1実施形態を説明するためのフローチャートである。以下、このフローチャートを参照しつつ、第1実施形態におけるパッチ数の決定方法について説明する。
【0028】
最初に、複数枚(ここでは10枚)のテストチャートが印刷される(S102)。
図5は、全インク色について同数のパッチを有するテストチャートを説明するための図である。図では、イエローY、ブラックK、ライトシアンLC、ライトマゼンタLM、ライトブラックLKのパッチは紙面の都合上省略され、シアンM、マゼンタM、及び、ライトライトブラックLLKのテストチャートの例が示されている。このようにして、本実施形態では、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックK、ライトシアンLC、ライトマゼンタLM、ライトブラックLK、及び、ライトライトブラックLLKの8種類のインク色について0〜255階調の各階調値のパッチが用紙に印刷される。図における数字は、各インク色における階調値である。
【0029】
ここでは、面内に生ずる色のばらつき度合いを求めるために、複数枚のチャートが印刷される。また、このテストチャートは、既にキャリブレーションがされているプリンタによって出力されることが望ましい。
【0030】
なお、図3における説明は、印刷における色のばらつきの現象を分かりやすくするために、一色で同一階調の印刷を行った場合の例である。ステップS102では、0〜255階調のチャートを10枚印刷することにより、同一色、同一階調のデータをそれぞれ10個ずつ得ることができるようになり、印刷における色のばらつきを同様に求めることができる。
【0031】
このように、本実施形態におけるパッチ数の決定方法では、用紙内に生ずる色のばらつき度合いを測定する。よって、単一の階調を用紙の全面にわたって印刷したものをテストチャートとして使用することとしてもよい。
【0032】
次に、印刷したテストチャートの測色が行われる(S104)。ここでは、前述の10枚のテストチャートについて測色が行われる。これにより、それぞれの用紙について、各パッチに対応する測色値が得られる。
【0033】
次に、複数枚のテストチャートの測色結果から、テストチャートのパッチ毎のL、a、bのそれぞれの標準偏差σを求める(S106)。具体的には、複数枚の用紙にわたって得られた同じ位置のパッチのL値、a値、b値の標準偏差を求める。
【0034】
の標準偏差をσとし、aの標準偏差をσとし、bの標準偏差をσとする。N枚にわたる同じ位置のパッチのL値についての標準偏差は次式によって求めることができる。

【0035】
本実施形態では、10枚の用紙から測色値を得ることができているので、Nは10となる。また、上式と同様の標準偏差を求める式を用いることによって、各パッチのσとσを求めることができる。
【0036】
次に、テストチャートの各色のパッチ毎のそれぞれの標準偏差σ、σ、σから、以下の式を用いて、各インク色のパッチ毎のEvrが求められる(S108)。Evrは、次の式によって求めることができる。
vr=(σ+σ+σ1/2
【0037】
そして、インク色毎に全パッチのEvrの平均値であるEvr_aveが求められる(S110)。そして、さらに、インク色全てについてのEvr_aveの合計が求められる(S112)。
【0038】
図6は、パッチ数の計算結果の一例を示す図である。図には、各インク色のEvr_aveと、これらの合計が示されている。また、図には、全インク色のEvr_aveに対する各インク色のEvr_aveの比率と、後述するEvr_aveに基づいて求められたパッチ数が示されている。
【0039】
vr_aveは、各インク色の用紙における色のばらつき度合いを示すものであった。よって、これらの数値の大きいものほど用紙に生ずる色のばらつき度合いが大きいということになる。Evr_aveの比率を参照すると、ブラックKの比率が0.1857となっており最も大きい。よって、本実施形態において使用されたインクの中ではブラックKの用紙における色のばらつき度合いが最も大きいということになる。一方、ここでは、ライトライトブラックLLKの比率が0.0676となっており最も小さい。よって、本実施形態において使用されたインクの中ではライトライトブラックLLKの用紙における色のばらつき度合いが最も小さいということになる。
【0040】
次に、各インク色のばらつき度合いEvr_aveから各インク色のパッチ数が求められる(S114)。Evr_aveから各インク色のパッチ数を求めるには、次式を用いる。
パッチ数=(総パッチ数−インク色数)×(該当インク色のEvr_ave)/(全インク色のEvr_aveの合計)+1
【0041】
例えば、シアンCについて計算上のパッチ数を求める場合、総パッチ数を300とし、インク色数を8とし、該当インク色のEvr_aveを0.8918とし、全インク色のEvr_aveの合計を6.6367として上式に代入する。そうすると、シアンCの計算上のパッチ数は、図にも示されているように、40.31192となる。このようにして各色の計算上のパッチ数が求められる。
【0042】
ところで、パッチ数は自然数でなければならない。よって、上述の計算結果のパッチ数の小数点以下を四捨五入して自然数にする。例えば、シアンCのパッチ数は、四捨五入することにより40となる。このようにして、各インク色のパッチ数(自然数)が求められる。
【0043】
次に、求められたパッチ数の総数と、予め決められたパッチ数とが一致しているか否かについて判定される(S116)。これは、四捨五入することによって、各インク色のパッチ数の合計が予め決められたパッチ数よりも多くなる場合や少なくなる場合があるためである。判定の結果、求められたパッチ数の総数と、予め決められたパッチ数とが一致している場合には、本フローを終了する。
【0044】
一方、求められたパッチ数の総数と、予め決められたパッチ数とが一致しない場合には、パッチ数の多いインク色のパッチ数を増減して、予め決められたパッチ数に一致させる(S118)。図6において、ブラックKの計算上のパッチ数は55.70127であり、これを四捨五入すると56である。このとき、求められた全インク色のパッチ数の合計は299となる。しかしながら、これでは予め決められたパッチ数の300と一致しない。よって、最もパッチ数が多いインク色となっているブラックKのパッチ数に1を加算しパッチ数を57とする。このようにして、予め決められたパッチ数と一致するようにパッチ数を調整する。
【0045】
このようにすることで、用紙の面内に生ずる色のばらつき度合いに基づいて各インク色のパッチ数を決定することができる。そして、このようにして求められたパッチ数で各インク色のパッチを作成する。そのとき、階調値間隔が等しくなるようにパッチを割り振るようにする。そうすることで、各インク色について用紙上の色のばらつき度合いに応じたパッチを有するテストチャートを作成することができる。そして、色のばらつき度合いの大きいインク色のパッチ数を増やし、ばらつき度合いの小さいインク色のパッチ数を減らした効率のよいテストチャートを用意することができる。
【0046】
===第2実施形態===
<CIE L空間について>
CIE L色空間は、均等色空間である。均等色空間は、色空間座標における等距離が知覚的に等しい差となる色空間である。
【0047】
図7は、CIE L色空間をL=100からa座標方向に見たときの一例である。図8は、CIE L色空間をa=120からL座標方向に見たときの一例である。図9は、CIE L色空間をb=120からL座標方向に見たときの一例である。図10は、CIE L色空間を立体的に見たときの一例である。ここでは、前述のプリンタ1が搭載する各インク色(シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックK、ライトシアンLC、ライトマゼンタLM、ライトブラックLK、ライトライトブラックLLK)のCIE L色空間における測色値をプロットすることによって得られる経路が示されている。
【0048】
各図を参照すると、各インク色によって空間内をたどる経路が異なり、またこれらの曲線の長さも異なっている。CIE L色空間は、前述の通り均等色空間であり、この空間内における距離は色差を示す。そして、曲線の長さが長い場合には階調間での色差が大きく、曲線の長さが短い場合には階調間での色差が小さい。
【0049】
例えば、図に示されているイエローYの曲線の長さは、ライトブラックLKの曲線の長さと比較して長い。そうすると、イエローYの階調値間の色差は、ライトブラックLKの階調間の色差と比較して大きいということになる。
【0050】
このように、使用されるインク色によっては、階調間の色差が大きく現れるインク色と、比較的小さく現れるインク色とが存在する。カラーキャリブレーションでは、測色結果に基づいて色のずれを補正するが、このような状況下で各インク色について同数のパッチを測色することとした場合、階調間の色差が小さく現れるインク色の場合には、L色空間において測色値間の距離が短い測色結果を得ることができる一方、階調間の色差が大きく現れる色の場合には、L色空間において測色値間の距離が離れた測色結果を得ることとなる。
【0051】
階調間の色差が色ごとに異なると、色差が大きく現れる色の場合にはパッチ数を増やしたい場合がある一方で、色差が小さく現れる色の場合にはパッチ数を減らしても良い場合がある。パッチ数が足りない場合にはキャリブレーションによる補正の精度が低くなり、パッチ数が多い場合には測色時間が長くなる要因となる。よって、使用される各インク色のパッチ数を適切なパッチ数にすることが望ましい。以下に示す第2実施形態のフローチャートでは、用紙の面内に生ずる色のばらつき度合いだけでなく、各インク色のL色空間における曲線の長さも考慮してパッチ数を決定することとしている。
【0052】
<パッチ数の決定方法>
図11は、第2実施形態を説明するためのフローチャートである。以下、本フローチャートを参照しつつ、第2実施形態におけるパッチ数の決定方法について説明する。第2実施形態では、各インク色のL色空間における曲線の長さと、用紙の面内に生ずるインク色のばらつき度合いとを考慮してパッチ数を求める。
【0053】
最初に、0〜255階調のチャートが複数枚(ここでは10枚)印刷される(S202)。印刷されるテストチャートは、前述の図5に示すテストチャートと同じものである。
【0054】
ここでも、0〜255階調のチャートを10枚印刷することにより、同一色、同一階調のデータをそれぞれ10個ずつ得ることができるようになり、印刷における色のばらつきを求めることができるようになる。
【0055】
次に、印刷したテストチャートの測色が行われる(S304)。ここでは、前述の10枚のテストチャートについて測色が行われる。これにより、それぞれの用紙について、各パッチに対応する測色値が得られる。
【0056】
次に、10枚のチャートのうち1枚目のチャートについて、パッチ間において補間された測色値が求められる(S306)。プリンタのヘッドがテストチャートのパッチを印刷するときにおいて、異なる階調のパッチの印刷に移行する際にヘッドの特性に変動を生ずることがある。そのため、本来であれば1つのパッチ内では一定の測色値を有するはずであるが、実際には若干ではあるが色のばらつきを生じている。よって、ここでは、隣り合う複数のパッチのL*値、a*値、b*値のそれぞれを用いて多項式補間を行い、各パッチの測色値を得ることとしている。尚、ここでは、多項式補間を用いて各パッチの測色値を得ることとしているが、隣り合う複数のパッチの各色色値の移動平均を求めることで各パッチの測色値を求めることとしてもよい。
【0057】
また、ここでは、1枚目のチャートについてのみ補間した測色値が求められることとしているが、これは他の9枚のテストチャートは用紙の面内に生ずる色のばらつき度合いを求めるために印刷されたチャートであるためである。
【0058】
次に、1枚目のチャートについて、1階調間の測色値距離ΔErtが計算され、インク色ごとの測色値距離ΔErtの合計Ertが求められる(S308)。階調値がkのときのL値をLとし、a値をaとし、b値をbとする。このときの1階調間のΔErtは、
ΔErt={(Lk+1−L+(ak+1−a+(bk+1−b1/2
として計算される。尚、この測色値距離ΔErtは、1階調間の色差でもある。
【0059】
次に、インク色ごとの測色値距離ΔErtの合計値Ert(測色値の曲線の長さ)が求められる。このようにして、各インク色L色空間における曲線の長さErtを求めることができる。
【0060】
図12は、第2実施形態におけるパッチ数の計算の例である。図には、インク色と、各インク色に対応するL色空間における曲線の長さErtが示されている。例えば、シアンCについての測色値のL色空間における曲線の長さとして119.618が得られることが示されている。また、図にはインク色毎のパッチ数が示されているが、これらについては後述する。
【0061】
次に、複数枚テストチャートの測色結果から、テストチャートのパッチ毎のL、a、bのそれぞれの標準偏差σを求める(S310)。具体的には、複数枚の用紙にわたって得られた同じ位置のパッチのL値、a値、b値の標準偏差を求める。ここでは、色のばらつき度合いを求めるため、補間によって求めた測色値は用いず、補間前の測色値を用いて計算が行われる。
【0062】
の標準偏差をσとし、aの標準偏差をσとし、bの標準偏差をσとする。N枚にわたる同じ位置のパッチのL値についての標準偏差は次式によって求めることができる。

【0063】
本実施形態では、10枚の用紙から測色値を得ることができているので、Nは10となる。また、上式と同様の標準偏差を求める式を用いることによって、各パッチのσとσを求めることができる。
【0064】
次に、テストチャートの各色のパッチ毎のそれぞれの標準偏差σ、σ、σから、以下の式を用いて、各インク色のパッチ毎のEvrが求められ(S312)。Evrは、次の式によって求めることができる。
vr=(σ+σ+σ1/2
【0065】
そして、インク色毎に全パッチのEvrの平均値であるEvr_aveが求められる(S314)。尚、ここでは、第1実施形態におけるテストチャートの測色結果を用いることから、これらの計算結果は第1実施形態における図6に示すものと同じ結果となる。図6には、各インク色のEvr_aveが示されている。
【0066】
次に、8色のインク色全ての測色値のL色空間における曲線の長さErtの合計が求められる(S316)。すなわち、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックK、ライトシアンLC、ライトマゼンタLM、ライトブラックLK、及び、ライトライトブラックLLKのL色空間における曲線の長さの和を求める。図12において、この結果は「合計」に示され、740.1767が示されている。
【0067】
次に、インク色ごとに割り振られるパッチ数が計算される(S318)。各色のL色空間における曲線の長さに基づいて、インク色毎に割り振られるパッチ数は、次の式によって求めることができる。
パッチ数=(全パッチ数−インク色数)×(該当インク色のErt)/(全インク色のErtの合計)+1
【0068】
上式に各インク色についての各数値を代入した計算結果が、「Ertから求めたパッチ数」の「計算」の項目において示されている。例えば、シアンCについての計算結果として、48.18935が示されている。このようにして、各インク色のErtから求めた計算上のパッチ数が求められる。
【0069】
次に、インク色全てについてのEvr_aveの合計が求められる(S320)。図6には、インク色全てについての平均値Evr_aveの合計値として6.6367が示され、さらに、全インク色のEvr_aveに対する各インク色のEvr_aveの比率が示されている。また、さらに隣には後述するEvr_aveに基づいて求められたパッチ数が示されている。
【0070】
次に、各インク色のばらつき度合いEvr_aveから各インク色のパッチ数が求められる(S318)。Evt_aveから各インク色のパッチ数を求めるには、次式を用いる。
パッチ数=(総パッチ数−インク色数)×(該当インク色のEvr_ave)/(全インク色のEvr_aveの合計)+1
【0071】
例えば、シアンCについて計算上のパッチ数を求める場合、総パッチ数を300とし、インク色数を8とし、該当インク色のEvr_aveを0.8918とし、全インク色のEvr_aveの合計を6.6367として上式に代入する。そうすると、シアンのCの計算上のパッチ数は、図6にも示されているように、40.31192となる。このようにして、各色の計算上のパッチ数が求められる。
【0072】
次に、L色空間における曲線の長さと、用紙における色のばらつき度合いとが考慮されパッチ数が求められる(S324)。ここでは、Ertから計算したパッチ数とEvrから計算したパッチ数とについて加重平均をとりパッチ数を求める。なお、説明を簡単にするために、ここでは単にErtから計算したパッチ数とEvrから計算したパッチ数との平均を求めることとする。
【0073】
例えば、シアンCにおいてErtから計算したパッチ数は48.18935であった。また、シアンCにおいてEvrから計算したパッチ数は40.31192であった。これらの平均を求めると、44.25064となる。このようにして、各色の計算上のパッチ数が求められる。
【0074】
ところで、パッチ数は自然数でなければならない。よって、上述の計算結果のパッチ数の小数点以下を四捨五入して自然数にする。例えば、シアンCのパッチ数は、四捨五入されることにより44となる。このようにして、各インク色のパッチ数(自然数)が求められる。
【0075】
次に、求められたパッチ数の総数と、予め決められたパッチ数とが一致しているか否かについて判定される(S326)。これは、前述の計算結果において、各インク色のパッチ数の合計が予め決められたパッチ数(図において300)よりも多くなる場合や小さくなる場合があるためである。判定の結果、求められたパッチ数の総数と、予め決められたパッチ数とが一致している場合には、本フローを終了する。
【0076】
一方、求められたパッチ数の総数と、予め決められたパッチ数とが一致しない場合には、パッチ数の多いインク色のパッチ数を増減して、予め決められたパッチ数に一致させる(S328)。図12において、マゼンタMの計算上のパッチ数は48.73036であり、これを四捨五入すると49である。このとき、求められた各インク色のパッチ数の合計は299となる。しかしながら、これでは予め決められたパッチ数の300と一致しない。よって、最もパッチ数が多いインク色となっているマゼンタMのパッチ数に1を加算しパッチ数を50とする。このようにして、予め決められたパッチ数と一致するようにパッチの数を調整する。
【0077】
このようにすることで、用紙の面内に生ずる色のばらつき度合いだけでなく、各インク色のL色空間における曲線の長さも考慮してパッチ数を決定することができる。
【0078】
===その他の実施の形態===
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】テストチャートにおける各インク色のパッチ数の決定システムの構成を示す図である。
【図2】カラー測色器40の構造を説明するための図である。
【図3】用紙に印刷が行われたときの用紙の面内に生ずる色のばらつき度合いを説明するための図である。
【図4】第1実施形態を説明するためのフローチャートである。
【図5】全インク色について同数のパッチを有するテストチャートを説明するための図である。
【図6】パッチ数の計算結果の一例を示す図である。
【図7】CIE L色空間をL*=100からa座標方向に見たときの一例である。
【図8】CIE L色空間をa=120からL座標方向に見たときの一例である。
【図9】CIE L色空間をb=120からL座標方向に見たときの一例である。
【図10】CIE L色空間を立体的に見たときの一例である。
【図11】第2実施形態を説明するためのフローチャートである。
【図12】第2実施形態におけるパッチ数の計算の例である。
【符号の説明】
【0080】
1 プリンタ、
40 カラー測色器、41 測色台、42 バッキング、43 測色ヘッド、
44 測色器キャリッジ、45 レール、46 紙送りローラ、
100 コンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラーキャリブレーションに用いられるテストチャートにおける各色のパッチ数の決定方法であって、
第1の色と第2の色のそれぞれについて、媒体における色空間の測色値のばらつき度合いを取得するステップと、
前記第1の色の前記測色値のばらつき度合いに基づいて前記第1の色のパッチ数を求め、前記第2の色の前記測色値のばらつき度合いに基づいて前記第2の色のパッチ数を求めるステップと、
を含むパッチ数の決定方法。
【請求項2】
前記第1の色のパッチ数と前記第2の色のパッチ数とが異なる、請求項1に記載のパッチ数の決定方法。
【請求項3】
前記測色値のばらつき度合いが大きいほど多くのパッチ数を割り当てる、請求項1又は2に記載のパッチ数の決定方法。
【請求項4】
前記測色値のばらつき度合いは、複数の媒体に記録された前記第1の色と前記第2の色の測色結果に基づいて求められる、請求項1〜3のいずれかに記載のパッチ数の決定方法。
【請求項5】
前記ばらつき度合いは標準偏差で求められる、請求項1〜4のいずれかに記載のパッチ数の決定方法。
【請求項6】
さらに、前記第1の色と前記第2の色の前記色空間における曲線の長さに応じて、前記第1の色のパッチ数と前記第2の色のパッチ数が求められる、請求項1〜5のいずれかに記載のパッチ数の決定方法。
【請求項7】
前記色空間は均等色空間である、請求項1〜6のいずれかに記載のパッチ数の決定方法。
【請求項8】
前記色空間は、CIE L色空間である、請求項1〜7のいずれかに記載のパッチ数の決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−194553(P2009−194553A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32151(P2008−32151)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】