説明

パルサープレートの取り付け構造

【課題】パルサープレートの振動時,パルサープレートのボスの周縁部の,該プレート周方向に直面する側に生じる集中応力を広く分散して,ボス周りの耐久性向上を図る。
【解決手段】内燃機関用クランク軸Cの,クランクアーム3及びカウンタウエイト4よりなる回転壁部9の端面10に,その周方向に並ぶ複数の凹部12を形成する一方,端面10に重ねられるパルサープレートPに,複数の凹部12に収容される複数の有底筒状のボス15を形成し,これらボス15をパルサープレートPに固着部材18により固着してなる,パルサープレートの取り付け構造において,ボス15の筒状部15aを,短径D1をパルサープレートPの周方向Aに向け,長径D2をパルサープレートPの半径方向Bに向ける異形円筒状に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,内燃機関用クランク軸の,クランクアーム及びカウンタウエイトよりなる回転壁部の端面に,その周方向に並ぶ複数の凹部を形成する一方,前記端面に重ねられるパルサープレートに,前記複数の凹部に収容される複数の有底筒状のボスを形成し,これらボスをパルサープレートに固着部材により固着してなる,パルサープレートの取り付け構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝるパルサープレートの取り付け構造は,特許文献1参照に開示されるように,既に知られている。
【特許文献1】特開平11−13736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
かゝるパルサープレートの取り付け構造において,クランク軸の回転壁部の端面に,その周方向に並ぶ複数の凹部を形成する一方,前記端面に重ねられるパルサープレートに,前記複数の凹部に収容される複数の有底筒状のボスを形成し,これらボスを固着部材によりパルサープレートに固着することは,有底筒状のボスが高剛性であることから,パルサープレートの回転壁部に対する固着力を高めることができる。
【0004】
しかしながら,パルサープレートは,その肉厚が比較的薄いため,エンジンの運転中に振動することがあり,その振動によれば,高剛性の前記ボスの周縁部に集中応力が発生する。
【0005】
ところで,パルサープレートの振動は,特に,複数の前記ボス間の板状部で激しいため,前記ボスの周縁部に生じる集中応力は,該周縁部の,パルサープレートの周方向に直面する側で特に大きいことが本発明者によって究明された。
【0006】
本発明は,かゝる究明に基づいてなされたもので,パルサープレートの振動時,パルサープレートの前記ボスの周縁部の,パルサープレートの周方向に直面する側に生じる集中応力を広く分散して,前記ボス周りの耐久性向上に寄与し得る,構造簡単なパルサープレートの取り付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明は,内燃機関用クランク軸の,クランクアーム及びカウンタウエイトよりなる回転壁部の端面に,その周方向に並ぶ複数の凹部を形成する一方,前記端面に重ねられるパルサープレートに,前記複数の凹部に収容される複数の有底筒状のボスを形成し,これらボスをパルサープレートに固着部材により固着してなる,パルサープレートの取り付け構造において,前記ボスの筒状部を,短径をパルサープレートの周方向に向けると共に長径をパルサープレートの半径方向に向ける異形円筒状に形成したことを第1の特徴とする。
【0008】
尚,前記回転壁部の端面は取り付け面10は,後述する本発明の実施例中の取り付け面10に対応し,また固着部材はボルト18に対応する。
【0009】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記ボスの筒状部を楕円筒状に形成したことを第2の特徴とする。
【0010】
さらに本発明は,第1又は第2の特徴に加えて,前記ボスの筒状部両端に連なる曲がり部の曲率を,長径側より短径側で小さく設定したことを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば,パルサープレートのボスの筒状部は,短径をパルサープレートの周方向に向けると共に長径をパルサープレートの半径方向に向ける異形円筒状に形成されるので,エンジンの運転中,パルサープレートの隣接するボス間の板状部で振動が発生すると,その振動は,長径の範囲で異形円筒状部の周縁部に伝達されることになり,したがってその振動に起因する応力を長径の範囲で異形円筒状部の周縁部に広く分散させることになり,各ボスの周りの耐久性を図ることができる。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,パルサープレートのボスの楕円筒状部の曲率の変化は極めて滑らかであるから,応力の分散も理想的で,各ボス周りの耐久性を効果的に高めることができる。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば,パルサープレートのボスの筒状部両端に連なる曲がり部の曲率を,長径側より短径側で小さく設定したことで,パルサープレートの隣接するボス間の板状部での振動時,特にボスの短径側,即ちパルサープレート周方向B側の周縁部に発生する集中応力を,より広く分散することができ,各ボス15周りの耐久性を一層高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の一実施例に基づいて以下に説明する。
【0015】
図1は本発明の第1実施例に係るパルサープレートの取り付け構造を備える,内燃機関用クランク軸の要部縦断側面図,図2は図1の2矢視図,図3は図2の図3−3線拡大断面図,図4は図2の図4−4線拡大断面図,図5は本発明の第2実施例を示す,図2の要部に対応する拡大図,図6は本発明の第3実施例を示す,図3との対応図である。
【0016】
先ず,図1〜図4に示す本発明の第1実施例の説明より始める。図1及び図2において,クランク軸Cは多気筒内燃機関用であって,クランクケースの複数のメインベアリングにより支承される複数のジャーナル1,複数のコンロッドの大端部が連接される複数のクランクピン2,並びに互いに隣接するジャーナル1及びクランクピン2間を一体に連結する複数のクランクアーム3を備えており,各クランクアーム3には,ジャーナル1の中心軸線を挟んでクランクアーム3と反対方向に延びるカウンタウエイト4が一体に連設される。またクランク軸Cの一端には,クランクプーリやフライホイール等の被動部材がボルト結合されるフランジ5が形成される。
【0017】
図2に示すように,クランクアーム3は周方向に沿って幅狭に,またカウンタウエイト4は周方向に沿って幅広にそれぞれ形成され,これらクランクアーム3及びカウンタウエイト4により回転壁部9が構成される。そしてフランジ5側の最外側の回転壁部9に磁性金属板をプレス成形してなるパルサープレートPが取り付けられる。このパルサープレートPは,その外周に多数の突起7を任意に配列しており,その外周面に対向して,機関本体に設置される不図示の回転センサが配置される。
【0018】
而して,上記回転センサには,その検出部にホール素子及び磁石を内蔵されるもので,パルサープレートPがクランク軸Cと共に回転するとき,回転センサ内の磁気変動をホール素子により電気信号に変換し,それを演算することによりクランク軸Cの回転位置,回転速度,回転加速度等を知ることができる。
【0019】
さて,クランク軸Cの前記回転壁部9へのパルサープレートPの取り付け構造について,図1〜図3により説明する。
【0020】
図1に示すように,最外側の回転壁部9の外端面には,フランジ5より大径でジャーナル1と同心の環状位置決め段部8と,この環状位置決め段部8の根元からクランクアーム3及びカウンタウエイト4に向かって半径方向に広がる取り付け面10が形成される。クランクアーム3の外側面の,回転方向に沿う両側部には,クランクアーム3の減肉のための斜面3aが形成されており,このため取り付け面10は,クランクアーム3側ではカウンタウエイト4側に比して一層狭くなっている。
【0021】
図1及び図2に示すように,取り付け面10には,周方向に並ぶ複数個(図示例では4個)の同形(図示例では円形)の凹部12が設けられる。その際,4個の凹部12は,少なくとも1つの凹部12と,この1つの凹部12の両側に隣接する他の凹部12との各周方向間隔S1,S2を相互に相違させるように配置される。図示例の場合は,4個の凹部12は,ジャーナル1と同心の仮想円20上において各隣接する凹部12間の周方向間隔を全て相違させるように配置される。そしてこれら4個の凹部12の各中心部にはねじ孔13がそれぞれ形成される。さらにカウンタウエイト4側の取り付け面10の所定箇所にキー溝14が形成される。その際,キー溝14は,その長手方向がパルサープレートPの半径線に沿うように配置される。
【0022】
一方,パルサープレートPには,その中心部に前記環状位置決め段部8に嵌合する位置決め孔11が,またその位置決め孔11を囲繞するように,前記4個の凹部12にそれぞれ収容される4個のボス15が形成される。各ボス15は,有底楕円筒状をなすもので,その楕円の筒状部15aは,短径D1をパルサープレートPの周方向Aに向け,長径D2をパルサープレートPの半径方向Bに向けるように配置され,各ボス15の底部には,各凹部12のねじ孔13に対応するボルト孔17が設けられる。
【0023】
さらにパルサープレートPには,前記キー溝14に係合するキー部16が一体成形される。このキー部16は,パルサープレートPから,その一端面側に弓なりに突出した弓なり帯状部16aと,この弓なり帯状部16aの両端をこのパルサープレートPに一体に連結する一対の連結部16bとよりなっており,その弓なり帯状部16aは,前記キー溝14と同様に,その長手方向がパルサープレートPの半径方向に沿うように配置されて,キー溝14の両内側面間に嵌合するようになっている(図3参照)。そして,この弓なり帯状部16aが前記キー溝14に密に嵌合するとき,取り付け面10の全ての凹部12に,パルサープレートPの全てのボス15が緩く嵌合するようになっている。
【0024】
キー部16の成形に際しては,先ず,キー部16の両側面が臨むように一対の長孔19(図2参照)をパルサープレートPに打ち抜き,次いで両長孔19間に挟まれる帯状部16aを,ボス15の突出方向へ弓なりにプレス成形するものであり,こうすることにより弓なり帯状部16aの成形を,パルサープレート本体に抵抗されることなく容易に行うことができる。
【0025】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0026】
回転壁部9の取り付け面10へのパルサープレートPの取り付けに当たっては,先ず,クランク軸Cのフランジ5側からパルサープレートPの位置決め孔11を回転壁部9の環状位置決め段部8に嵌合する。その際,パルサープレートPのキー部16を取り付け面10のキー溝14に係合すると共に,パルサープレートPの各ボス15を,それに対応する取り付け面10の凹部12に挿入しながら,パルサープレートPを取り付け面10に重ねる。次いで各ボルト孔17に挿通したボルト18をねじ孔13に螺合,緊締すれば,各ボス15が対応する凹部12の底面に締結され,上記取り付け面10の定位置に正確にパルサープレートPを取り付けることができる。特に,有底筒状をなす各ボス15は剛性が高いから,パルサープレートPの取り付け面10への固着強度を高めることができる。
【0027】
しかしながら,プレス製のパルサープレートPは,肉厚が比較的薄いので,エンジンの運転中,クランク軸Cのトルク変動時,隣接するボス15間の板状部で激しく振動することがあり,その板状部の振動によれば,各ボス15の筒状部15aの周縁部に応力が集中的に発生するが,各ボス15の筒状部15aは,短径D1をパルサープレートPの周方向Aに向け,長径D2をパルサープレートPの半径方向Bに向ける楕円筒状部15aに形成されるので,パルサープレートPのボス15間の板状部の振動は,長径D2の範囲で楕円筒状部15aの周縁部に伝達されることになり,したがってその振動に起因する応力を長径D2の範囲で楕円筒状部15aの周縁部に広く分散させることになり,各ボス15周りの耐久性を図ることができる。特に,楕円筒状部15aの楕円の曲率の変化は極めて滑らかであるから,応力の分散も理想的で,各ボス15周りの耐久性を効果的に高めることができる。
【0028】
各凹部12に収容される各ボルト18の頭部18aは,対応するボス15内に収容され,パルサープレートPの外端面からの突出物とはならないから,パルサープレートPの,クランクケース内壁への近接配置を可能にする。
【0029】
またパルサープレートPのキー部16は,パルサープレートPから,その一端面側に弓なりに突出してキー溝14に係合する弓なり帯状部16aと,この弓なり帯状部の両端をこのパルサープレートPに一体に連結する一対の連結部16bとで構成されるので,両持ち式でパルサープレートPに支持され,高い剛性を有することができる,したがってキー溝と協働して,パルサープレートPの取り付け面10,即ちクランク軸Cに対する周方向位置決め精度を高めることができる。しかも両持ちのキー部16には,鋭利な先端部が存在しないので,プレス加工後,面取り等の仕上げ加工は不要であり,パルサープレートPの生産性を高めることができる。
【0030】
特に,互いに嵌合するキー溝14及び弓なり帯状部16aは,パルサープレートPの半径方向に沿って配置されるので,キー溝14及び弓なり帯状部16aの,パルサープレートPの半径方向に沿う両側面が互いに広い範囲で当接することになり,クランク軸Cに対するパルサープレートPの所定の周方向位置を,より正確に保持することができる。
【0031】
また取り付け面10は,前述のように,クランクアーム3側よりもカウンタウエイト4側が広いので,カウンタウエイト4側の取り付け面10にキー溝14を形成するときは,その形成位置を広い範囲で選択することができ,設計の自由度が高くなり,パルサープレートPの位置決め上,好都合である。しかもキー溝14の形成に際しては,取り付け面10に肉盛りする必要もないから,生産性が良好であると共に,クランク軸Cの肉盛りによる重量バランスの崩れを防ぐことができる。
【0032】
さらにボルト18によるパルサープレートP及び回転壁部9の固着部,即ち凹部12及びボス15は,パルサープレートPの周方向に並ぶ複数箇所に設けられると共に,少なくとも一個所の固着部12,15と,この一個所の固着部12,15の両側に隣接する他の個所の固着部12,15との各周方向間隔S1,S2が相互に相違するように配置されるので,回転壁部9に対するパルサープレートPの取り付け位置が一箇所に限定されることになり,誤組立を防ぐことができ,したがって誤組立によるキー部16の損傷を防ぐことができる。
【0033】
次に,図5に示す本発明の第2実施例について説明する。
【0034】
この第2実施例では,パルサープレートPのボス15の筒状部15aは,長径D2に当たる間隔を置いて互いに対向する一対の円弧壁部22と,短径D1に当る間隔を置いて互いに対向する一対の直線壁部23とを連続的に接続して断面小判形に形成される。その際,このボス15の筒状部15aは,前実施例と同様に,短径D1をパルサープレートPの周方向Aに向け,長径D2をパルサープレートPの半径方向Bに向けるように配置される。その他の構成は,前実施例と同様であるので,図中,前実施例と対応する部分には,同一の参照符号を付して,その説明を省略する。
【0035】
次に,図6に示す本発明の第3実施例について説明する。
【0036】
この第3実施例では,パルサープレートPのボス15の楕円筒状部15aの両端に連なる曲がり部は,その曲率が長径D2側(図4参照)より短径D1側で小さくなるように形成される。その他の構成は,前記第1実施例と同様であるので,図6中,第1実施例と対応する部分には同一の参照符号を付して,重複する説明を省略する。
【0037】
この実施例によれば,パルサープレートPが,隣接するボス15間の板状部で激しく振動したとき,特にボス15の短径D1側,即ちパルサープレートP周方向B側の周縁部に発生する集中応力を,より広く分散することができ,各ボス15周りの耐久性を一層高めることができる。
【0038】
この第2実施例によっても,前実施例と略同様の作用効果を発揮することができる。
【0039】
本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,ボルト18によるパルサープレートP及び回転壁部9の固着部は少なくとも2箇所あればよく,単に2箇所の場合には,2箇所の固着部の両側の周方向間隔を相違させれば,誤組立を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のパルサープレートの取り付け構造を備える,内燃機関用クランク軸の要部縦断側面図。
【図2】図1の2矢視図。
【図3】図2の3−3線拡大断面図。
【図4】図2の図4−4線拡大断面図。
【図5】本発明の第2実施例を示す,図2の要部に対応する拡大図。
【図6】本発明の第3実施例を示す,図3との対応図。
【符号の説明】
【0041】
A・・・・パルサープレートの周方向
B・・・・パルサープレートの半径方向
C・・・・クランク軸
D1・・・短径
D2・・・長径
P・・・・パルサープレート
2・・・・クランクピン
3・・・・クランクアーム
4・・・・カウンタウエイト
9・・・・回転壁部
10・・・取り付け面
12・・・凹部
15・・・ボス
15a・・筒状部
15b・・底部
18・・・固着部材(ボルト)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用クランク軸(C)の,クランクアーム(3)及びカウンタウエイト(4)よりなる回転壁部(9)の端面(10)に,その周方向に並ぶ複数の凹部(12)を形成する一方,前記端面(10)に重ねられるパルサープレート(P)に,前記複数の凹部(12)に収容される複数の有底筒状のボス(15)を形成し,これらボス(15)をパルサープレート(P)に固着部材(18)により固着してなる,パルサープレートの取り付け構造において,
前記ボス(15)の筒状部(15a)を,短径(D1)をパルサープレート(P)の周方向(A)に向けると共に長径(D2)をパルサープレート(P)の半径方向(B)に向ける異形円筒状に形成したことを特徴とする,パルサープレートの取り付け構造。
【請求項2】
請求項1記載のパルサープレートの取り付け構造において,
前記ボス(15)の筒状部(15a)を楕円筒状に形成したことを特徴とする,パルサープレートの取り付け構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載のパルサープレートの取り付け構造において,
前記ボス(15)の筒状部(15a)両端に連なる曲がり部の曲率を,長径(D2)側より短径(D1)側で小さく設定したことを特徴とする,パルサープレートの取り付け構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−190585(P2008−190585A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24291(P2007−24291)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】