説明

パワーモジュール

【課題】 ワイヤボンディングを用いながら、半導体スイッチング素子の小型化および大電流化の利点を受けることができる給配電経路を有するパワーモジュールを提供する。
【解決手段】 直流電力又は交流電力の供給用のバスバー15、電極31a,32aを有する半導体スイッチング素子31,32およびバスバーと電極とを電気接続するための長尺導体とを備えるパワーモジュールにおいて、ワイヤ3の中間部分が半導体スイッチング素子の電極に電気接続され、かつ、ワイヤの中間部分を挟む両側の部分がともに、同じバスバー15に電気接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用モータへの電力供給に用いられるパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータは、電気エネルギーを機械エネルギーに変換する機能を有し、化石燃料から機械エネルギーを取り出すエンジンとともに、各種の交通手段に用いられている。交通手段のうち、自動車にはエンジン車が圧倒的に多く用いられてきたが、化石燃料の高騰や、地球温暖化防止のためのCO2排出量の抑制運動の高まりなどを背景に、電気自動車やハイブリッド自動車の使用台数が増大し、とくにハイブリッド自動車はその単位燃料当りの走行距離が高いために飛躍的にその台数を増やしている。
【0003】
交通手段に用いられるモータに限らず、モータに供給される電力は、各種電力変換装置によって電力の形態を変換される場合が多い。このとき、モータには大きな電力が供給されるので、電力変換装置も大きな電力を扱うことになり、電力変換装置自体の電力損失を減らし、効率のよい電力変換を行うことが求められる。電力変換装置には、オンオフを繰り返すスイッチとして動作する半導体デバイス、すなわちスイッチング素子が用いられる。理想的なスイッチング素子は、オン状態で電圧ゼロ、またオフ状態で電流ゼロであり、かつオンオフの状態が瞬時に切り替わるため、消費電力はゼロである。しかし、実際のスイッチング素子においては、オン状態における電圧降下による損失と、ターンオン・ターンオフ時における電圧・電流の遷移時間に伴う損失が発熱の原因となる。
【0004】
スイッチング素子は電力変換装置の重要な部分を占めるが、電力変換装置にはスイッチング素子のほかに、そのスイッチング素子の動作を制御する、マイコンやマイコンにモータの回転状態の情報を知らせるセンサなどを含む制御部が備えられる。一般に機械装置に用いられるモータには小型化、高性能化が求められるが、とくに交通手段では上記電力変換装置またはモータなどに対する小型化、大容量化(大電流化)の要求が厳しい。このため、スイッチング素子を対象に、従来のシリコン素子の小型化とともに、SiCやGaNを用いてさらなる小型化、大電流化をはかる研究開発が推進されている。このようなスイッチング素子において実現される小型化、大電流化の利点を受けるためには、スイッチング素子の使用環境を形成する電力給配電経路の大電流容量化を実現する必要がある。
【0005】
現状、スイッチング素子を配列してモータに3相交流電力を供給するパワーモジュールにおいて、スイッチング素子と、給電側端子および配電側端子とは、ワイヤで接続するのが普通であり、大電流化に応じて本数を増やして対応している。このため1つのスイッチング素子に数本から十数本のワイヤが並列に接続されることが、普通に行われている。現状、スイッチング素子の表面で、上記ワイヤとの接続に利用できる箇所はほとんど使い尽くされているといってもよい情況にある。上記のようにスイッチング素子の小型化および大電流化が実現すると、大電流化に対応して接続すべきワイヤの本数は増えるのにもかかわらず、ワイヤを接続できるスイッチング素子の面積は減少することになる。
【0006】
パワーモジュールの小型化および大電流化は、従来より精力的に行われているが、現在、ハイブリッド車等で直面している問題は、小型化のレベルなど質的に新しい段階に入っており、旧来の技術の組み合わせでは対応できないのが実情である。旧来の技術のなかで一般的なものをあげると、パワーモジュール全体をコンパクトにしながら回路インダクタンスおよび配線抵抗の低減をはかるのに、スイッチング素子と給配電用バスバーとの接続を、長ねじにより加圧体を上からバスバーおよび半導体チップに押し付けるようにして締結する方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、全体をコンパクトなものにしながら回路インダクタンスおよび配線抵抗を低くすることができる。
【特許文献1】特開2002−95268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のバスバーはパワーモジュール全体をコンパクトにするために用いられており、スイッチング素子の小型化に対応して、接続箇所のサイズを減少させながら電流容量を向上させることを目的としたものではない。またバスバーは、ワイヤボンディングに比べて、接続相手同士の位置精度の厳密性を要し、ワイヤボンディングほど位置精度の融通性が高いものではない。また、寸法精度を向上させる通常の製造方法を用いたのでは、その製造コスト等が上昇するという問題がある。
【0008】
本発明は、ワイヤボンディングを用いながら、半導体スイッチング素子において実現される小型化および大電流化の利点を受けることができる給配電経路を有するパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のパワーモジュールは、直流電力又は交流電力の供給用のバスバー、電極を有する半導体スイッチング素子およびバスバーと電極とを電気接続するための長尺導体とを備えるパワーモジュールである。このパワーモジュールにおいて、長尺導体の中間部分が半導体スイッチング素子の電極に電気接続され、かつ、長尺導体の中間部分を挟む両側の部分がともに、同じバスバーに電気接続されていることを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、半導体スイッチング素子の表面電極、たとえばIGBTであればエミッタ電極には、両側から長尺導体が接続され、その両側の延びる長尺導体はともに同じバスバーに接続することになる。このため、片側からのみ長尺導体が接続されていた場合に比べて、大略、2倍の電流を流すことが可能になる。ここで長尺導体は、帯状の薄板導体やワイヤなどがあげられるが、長尺導体であればどのような形状の導体であってもかまわない。
【0011】
また上記の長尺導体がワイヤであり、該ワイヤは、半導体スイッチング素子の表面の電極にその中間部分で接続され、該表面の電極の両側に延在しており、両側に延在するワイヤは、それぞれの端が同じバスバーの異なる部分に接続されてもよい。上記の構成によれば、半導体スイッチング素子の表面電極、たとえばIGBTであればエミッタ電極には、両側からワイヤが接続され、その両側に延在するワイヤはともに同じ端子であるバスバーに接続することになる。このため、片側からのみワイヤが接続されていた場合に比べて、大略、2倍の電流を流すことが可能になる。上記のような両側に延在するワイヤが、両側ともに、回路上、同じ端子を構成するバスバーに接続されるためには、バスバーは少なくとも半導体スイッチング素子の両側に位置する部分を持つ形状でなければならない。上記の条件を満たすバスバーの形状は各種のものが考えられる。
【0012】
上記のバスバーは、半導体スイッチング素子が実装された基板を囲むようにコ字状部分を有するか、またはF字状であることができる。このようなコ字状の形状を持つことにより、ワイヤは対向する2つのアーム部分に、その端を接続させ、その中間位置を半導体スイッチング素子電極に接続させることができる。なお、F字状の形状は、当然、コ字状部分を有する。また、矩形の半導体スイッチングを実装する実装基板の形状も矩形であることから、無駄な隙間を生じることなく空間利用効率を高めることができる。バスバーをコ字状部分を含む形状、たとえばF字状に成形することは、銅などの金属板や金属帯を打ち抜くことにより、容易である。表面には、すずめっき処理やニッケルめっき処理がなされる。
【0013】
上記の長尺導体は、電極に1箇所以上の接続箇所を持つことができる。半導体スイッチング素子は、SiCやGaNを用いることにより大電流化および大電流密度での使用を行っても耐久性は確保でき、接続箇所は1箇所でもよいが、2箇所以上とすることにより、半導体スイッチング素子に許容される電流上限まで大電流を流すのに有利となる。また半導体スイッチング素子の電極での接続箇所に大きな発熱などを生じない。なお、長尺導体のうち、とくにワイヤの接続箇所は、接触面積を大きくするためにワイヤボンディング特有のステッチボンドを形成する。
【0014】
上記の半導体スイッチング素子は裏面電極を有し、その裏面電極は該半導体スイッチング素子を実装する配線基板(金属板)に接続され、表面電極を接続する長尺導体と異なる裏面電極接続長尺導体が、配線基板(金属板)と、バスバーと半導体スイッチング素子を挟んで対向するように位置する第2のバスバーとを接続し、その裏面電極接続長尺導体の延びる方向が表面電極を接続する長尺導体の延在方向と交差する方向であるようにできる。この構成により、裏面電極接続の長尺導体は、半導体スイッチング素子の小型化により接続箇所の制約を受ける表面電極接続の長尺導体の妨害とならないように、裏面電極と導通状態の配線基板の端子部(金属板の端)とバスバーとを接続することができる。すなわち裏面電極接続長尺導体は配線基板の端を使って、バスバーと接続することができる。
【0015】
また、上記の半導体スイッチング素子は表面に制御用のゲート電極を有し、ゲート電極と制御端子コネクト部とを接続する制御端子接続ワイヤの延びる方向は、表面電極を接続するワイヤの延在する方向と交差する方向であるようにできる。この構成により、表面のエミッタ電極など主電極に接続して両側に延在する長尺導体に妨げられることなく(または表面電極接続の長尺導体の妨害をすることなく)、ゲート電極に駆動信号を伝達するワイヤを接続することができる。すなわち、表面電極に接続して両側に延在する長尺導体と、その両側に延在する長尺導体と交差するように上記の半導体スイッチング素子に片側から延びてくる長尺導体(裏面電極接続の長尺導体および制御端子接続ワイヤ)とは、互いに干渉することなく、それぞれの配線を実現することができる。
【0016】
また、半導体スイッチング素子と並列に接続するダイオードを備え、当該半導体スイッチング素子およびダイオードでは、ともにその表面電極にそれぞれ異なる長尺導体がその中間位置で接続されており、それら長尺導体の両側の端は、それぞれ同じバスバーの異なる部分に接続される構成とすることができる。ここでダイオードは、フリーホイールダイオード(Free Wheel Diode:FWD)と呼ばれるものと同じまたは同種のものである。FWDは、スイッチング素子がターンオフした際に、負荷の誘導成分に蓄積されたエネルギーを環流させる役割と、減速、制動時の余剰エネルギーを回生するための電流経路としての役割を持つものである。上記の構成によれば、長尺導体はその中間位置で、半導体スイッチング素子またはダイオードに接続すればよいので、長尺導体がワイヤの場合にはワイヤボンディングにより容易に接続でき、その作業能率を高くすることができる。
【0017】
また上記のように、半導体スイッチング素子に並列接続されるダイオードを備える場合、長尺導体は、半導体スイッチング素子およびダイオードが配列する列に沿うように延在させてもよいし、またはその列に交差するように延在する構成にしてもよい。このような構成によれば、接続のための長尺導体の配置の自由度を増すことができる。
【0018】
また、本発明の他のパワーモジュールは、第1の基板上に配置された第1の半導体スイッチング素子、第1の基板に並ぶように位置する第2の基板上に配置された第2の半導体スイッチング素子、コ字状部分を有するF字状の第1および第2のバスバーおよび接続のための複数のワイヤを備えたパワーモジュールである。このパワーモジュールでは、第1のバスバーと第2のバスバーとは、第1の基板および第2の基板を挟むように対向して、互いに上下逆に、第1の基板と第2の基板との間に、第1のバスバーのコ字状部分の下側横バーと、第2のバスバーのコ字状部分の下側横バーとが並列して重ならないように位置する。また、ワイヤは、第1のバスバーのコ字状部分の上下横バーを橋渡しするようにその両端がその上下横バーに接続され、第1の半導体スイッチング素子の表面電極にその中間位置で接続される。そして、上記のワイヤと異なる別のワイヤは、第2のバスバーのコ字状部分の上下横バーを橋渡しするようにその両端がその上下横バーに接続され、第2の半導体スイッチング素子の表面電極にその中間位置で接続されていることを特徴とする。
【0019】
上記の構成により、プラス側給電バスバー(第1のバスバー)と、マイナス側給電バスバー(このあと説明する第3のバスバー)との間に配置された、高電位側スイッチング素子(第1の半導体スイッチング素子)および低電位側スイッチング素子(第2の半導体スイッチング素子)の表面電極と、プラス側給電バスバーまたは給電側のバスバーとを、ワイヤにより、電流容量を維持しながら接続点を半減して接続することができる。
【0020】
また、上記の第1および第2の基板はその上に第1および第2の配線基板(金属板)をそれぞれ有し、第1および第2の半導体スイッチング素子は、裏面に第1および第2の裏面電極をそれぞれ有し、第1および第2の裏面電極は第1および第2の配線基板(金属板)にそれぞれ接続される。さらに表面電極を接続するワイヤと異なる裏面電極接続のためのワイヤは、第1の配線基板(金属板)と第2のバスバーのコ字状部分の縦バーを接続し、また裏面電極接続用のワイヤと異なる別の裏面電極接続のためのワイヤは、第1または第2のバスバーの縦バーに沿うように重なって位置する第3のバスバーと、第2の配線基板(金属板)とを接続している。そして、上記の裏面電極接続のためのワイヤは、いずれも、表面電極を接続するワイヤの延在方向と交差する方向に延びているようにできる。この構成により、プラス側給電バスバー(第1のバスバー)と、マイナス側給電バスバー(第3のバスバー)との間に配置された、高電位側スイッチング素子(第1の半導体スイッチング素子)および低電位側スイッチング素子(第2の半導体スイッチング素子)の裏面電極を、それぞれ相手先のバスバーに接続できる。そして、これら裏面電極接続のワイヤが、上記の表面電極接続のワイヤの配置の妨げとならないようにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明の実施の形態におけるパワーモジュール10を説明するための図である。このパワーモジュール10は、ハイブリッド自動車のモータ配電用の端子である、U相端子、V相端子およびW相端子の3相交流端子を有する。また発電機用の端子である、+端子および−端子と、Ug相端子、Vg相端子およびWg相端子とを有する。スイッチング素子としては、モータ用のスイッチング素子の31,32と、発電機用のスイッチング素子33とが配置される。モータ用スイッチング素子はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)31と、フリーホイールダイオード(Free Wheel Diode:FWD)32とがある。本説明では、トランジスタおよびダイオードはいずれも半導体スイッチング素子と呼ぶこととする。FWDは、トランジスタがターンオフした際に、負荷の誘導成分に蓄積されたエネルギーを環流させる役割と、減速、制動時の余剰エネルギーを回生するための電流経路としての役割を持つものである。これら半導体スイッチング素子31,32,33は、図示を省略した下層に絶縁基板を配置した実装基板上に実装され、その絶縁基板の下に放熱板61が配置される。上記の半導体スイッチング素子31,32,33および実装基板等は、筐体65に収納される。上記筐体65内には、スイッチング素子31の上には、上記スイッチング素子のゲート信号を制御する半導体素子等が実装された、図示しない制御信号用端子部が配置される。上記放熱板61の下にその放熱板61に接するように、冷却媒体が流れる冷却媒体路67が設けられる。冷却媒体には、不凍液であるエチレングリコール水溶液などを用いることができる。
【0022】
図1において、3相交流モータへの配電端子U相、V相またはW相端子が設けられ、これら配電端子から交流電力が配電される。スイッチング素子31は、給電端子のプラス側とマイナス側との間に、2つ直列に接続され、その2つのスイッチング素子の間に配電端子U,V,Wが接続される(回路については図6を用いてあとで説明する)。図2は、図1におけるAの領域およびAの領域を拡大した図である。領域Aに、高電位側の素子および低電位側の素子が配置される。すなわち、高電位側のIGBT31、FWD32、および低電位側のIGBT31、FWD32が配置される。領域Aの半導体スイッチング素子グループは、領域Aの半導体スイッチング素子グループとは、回路上、並列の関係にある。これは、大電流の給電および配電を行うのに、1系列だけでは容量的に対応できないために、並列に2系列設けている。
【0023】
図2において、絶縁基板1の上に配線基板(金属板)2が配置され、その上にIGBT31およびFWD32が位置している。IGBT31およびFWD32は、裏面に図示しないコレクタ電極(裏面電極)を有し、このコレクタ電極が配線基板(金属板)2に接続されている。すなわちIGBT31およびFWD32の裏面電極と配線基板(金属板)2とは、導通状態にある。IGBT31の表面にはエミッタ電極31aが露出し、またFWD32の表面には表面電極32aが露出している。IGBT31の表面電極31aおよび裏面電極と、FWD32の表面電極32aおよび裏面電極とは並列接続されている。すなわちIGBT31の表面電極31aとFWD32の表面電極32aは回路配線上同電位であり、IGBT31の裏面電極とFWD32の裏面電極は回路配線上同電位である。また、IGBT31には、エミッタ電極31aのほかにゲート電極など制御用端子が配置されているが、図2では、図示を省略している。以後の説明では、トランジスタとダイオードとが配列する方向と、表面電極接続のワイヤの延在方向とが交差する場合(実施の形態1)と、並行する場合(実施の形態2)とを便宜上分けることとする。実施の形態1のほうが、実施の形態2よりも、実用上、比較的、重要である場合が多いとおもわれる。
【0024】
(実施の形態1)−素子配列方向に交差するようにワイヤが延在する配置−
図3は、本発明の実施の形態1におけるパワーモジュールのU相部分(図1および図2のA領域)を示す図である。本実施の形態では、IGBT31とFWD32とが並ぶ方向と交差するようにワイヤ3が延在している。高電位側では、ワイヤ3は、一方の端および他方の端ともにプラス側給電バスバー15に接続し、中間位置でIGBT31およびFWD32に接続している。これはプラス側給電バスバー15が、コ字状を含むF字状に形成され、コ字の上側横バー15aと下側横バー15bが、半導体スイッチング素子31,32の両側に配置されているために可能となる。IGBT31およびFWD32の表面電極31a,32aは、それぞれ2本のワイヤ3により、プラス側給電バスバー15と接続される。2本のワイヤで接続されているが、プラス側給電バスバー15の異なる部分である両側15a,15bから表面電極31a,32aに接続されるため、従来の片側からのみの接続する場合において、4本のワイヤで接続するのと、大略同じ電流を流すことができる。そして、スイッチング素子において実現する小型化に対応するように、接続点20を半減することができる。なお、接続点20は、接触面積を大きくするために、ワイヤボンディングで通常用いられるステッチボンドとして形成される。なお、本実施の形態および次の実施の形態において、長尺導体としてワイヤの場合のみを示すが、長尺導体に帯状薄板や、スイッチング素子接続用バスバーなどを用いてもよいことはいうまでもない。
【0025】
上記のように、IGBT31およびFWD32は、ともにその表面電極31a,32aがプラス側給電バスバー15a,15bと接続する。そして、IGBT31およびFWD32の裏面電極が導通状態にある配線基板(金属板)2は、U相配電バスバー17の縦バー部分17cと裏面電極接続のワイヤ13により接続される。この部分では、金属板2の面積は十分広く、裏面電極接続のワイヤ13による接続は従来と同様の方法で行う。コ字状部分を有するF字形状のU相配電バスバー17は、上述のように、直列接続される高電位側の半導体スイッチング素子31,32と、低電位側の半導体スイッチング素子31,32との間に接続されている。したがって、U相配電バスバー17は、低電位側のIGBT31およびFWD32の表面電極31a,32aに接続される。
【0026】
低電位側でも同様に、U相配電バスバー17は、コ字状の上側横バー17aと下側横バー17bとの間で絶縁基板1および配線基板(金属板)2を取り囲んでいる。プラス側給電バスバー15とU相配電バスバー17とは、上下逆に絶縁基板1および配線基板2を挟んで対向して、2つの配線基板2の間に、その下側横バー15b,17bを並列させている。ワイヤ3は、一方の端および他方の端ともにU相配電バスバー17の上下横バー17a,17bに接続し、中間位置でIGBT31およびFWD32の表面電極31a,32aに接続している。このため高電位側の半導体スイッチング素子31,32で得られる効果と同じ効果を低電位側でも得ることができる。すなわち従来の片側からのワイヤボンディングによる場合と比べて、接続箇所を半減させながら同じ電流容量を得ることができる。低電位側において、上記のように、IGBT31およびFWD32は、ともにその表面電極31a,32aがU相配電バスバー17の上下横バー17a,17bと接続する。そして、IGBT31およびFWD32の裏面電極が導通状態にある配線基板(金属板)2は、プラス側給電バスバー15の縦バー部分15cの下に位置するマイナス側給電バスバー16のはみ出している部分と、裏面電極接続のワイヤ13により接続される。この部分では、金属板2の面積は十分広く、ワイヤによる接続は従来と同様の形態で行う。図3に示す範囲は、図1および図2のAの領域に対応しており、U相配電バスバーに対応する範囲で、並列する2つの系列A,Aのうちの1つを示すが、V相配電バスバーおよびW相配電バスバーについても、同様の形態で、給配電の主回路の接続を形成することができる。
【0027】
図3では、IGBT31にゲート駆動用のゲート電極9cのほかに制御用端子9a,9b,9d,9eが配置されている。これら制御用端子は、温度測定用ダイオードの端子9a,9b、電流検出用端子9dおよびゲート接地端子9eである。これら制御用端子9a〜9eは、制御端子ランド28を介在させて、制御端子コネクト部18の各端子と制御端子接続ワイヤ43で接続される。当然のことであるが、制御用端子9a〜9eには大電流は流れないので、制御端子接続ワイヤ43は、給配電の回路を接続するワイヤ3,13よりも細くてよい。表面電極接続のワイヤ3と、裏面電極接続のワイヤとは、同じ太さかまたは同等の太さである。
【0028】
ワイヤ3,13,43が互いに干渉しないように、有効に空間を活用するには、給配電の主回路における半導体スイッチング素子の表面電極31a,32aと各バスバー15,17とを表面電極接続のワイヤ(素子の両側に延在する両端を持つ)3と、他のワイヤ13,43とは重ならないように、延びる方向を交差方向にするなどの工夫が必要である。たとえば配線基板(金属板)2と各バスバー17,16とを接続する裏面電極接続ワイヤ13は、自ずと表面電極接続ワイヤ3と重ならない範囲に位置し、表面電極接続ワイヤ3の延在する方向と交差する方向に延びるようにする。そして、制御用端子または制御用電極9a〜9eに接続する制御端子接続ワイヤ43は、やはり表面電極接続ワイヤ3と重ならない範囲に位置し、表面電極接続ワイヤ3の延在する方向と交差する方向に延びるようにする。
【0029】
図4は、図3に示す表面電極接続ワイヤの形態を説明するための断面図である。また、図5は図3に示す表面電極接続ワイヤの形態を説明するための平面図である。図4および図5において、ヒートシンク61上に絶縁基板1が配置され、その上に配線基板(金属板)2が位置する、金属板2の上に半導体スイッチング素子31,32がはんだ接合などにより固定され、半導体スイッチング素子の裏面電極31bと金属板2とは導通状態とされる。半導体スイッチング素子31,32をコ字状に取り囲むように、絶縁層64の上にバスバー15が配置される。図5で明らかなように、ワイヤ3は、スイッチング素子31,32の表面電極31a,32aにその中間位置でステッチボンドして、両端をバスバー15にステッチボンドさせている。とくに表面電極31a,32aには、1本のワイヤが2箇所でステッチボンドを形成している。1本のワイヤでステッチボンドを2箇所形成するほうが接触面積を拡大して電流容量を拡大し、また接触抵抗に起因する発熱を抑制、または分散することができる。
【0030】
図6は、図1に示すパワーモジュール10の回路図である。とくに図3に示したA領域に対応したU相配電範囲について説明する。回路図の配線は大きく変形が可能であり、図3のバスバーなどと対応づけることは困難な場合が多いが、複数個所の相対的位置関係は対応づけができるので、図3のワイヤやバスバーの符号を図6に記入してある。本発明の実施の形態1において特徴的な表面電極接続ワイヤ3および裏面電極接続ワイヤ13の位置に、大電流が流れる。とくにスイッチング素子31,32に、SiCやGaNが用いられ、またシリコン素子に改良が加えられ、半導体スイッチング素子の小型化と大電流化が可能になった場合、これら配線部3,13に大電流を流すことができなければ、半導体素子の進歩に基づく利点を享受できない。配線部13は、裏面電極と導通する金属板2とバスバー17,16との接続であり、金属板2の面積は比較的自由に広くとれるため、大電流化のためにはワイヤ本数を増やすなどして対応は容易である。問題は、小型化され大電流化可能となった半導体素子の表面電極とバスバーとの接続であるが、本発明の実施の形態1では、ワイヤの中間位置で表面電極に接続し、両端部をコ字状のバスバーに接続することで、電流容量を維持しながら接触点を半減させることが可能となった。
【0031】
図3に示すパワーモジュール10の部分は、各種の変形が存在する。図3のパワーモジュールが高電位側の領域と、低電位側の領域とが、制御用端子の配列などに関して点対称の関係にあったのに対して、図7に示すパワーモジュールのU相配電部分は、高電位側領域と低電位側領域とが平行移動の関係にある。図3のパワーモジュールでは、マイナス側給電バスバー16がプラス側給電バスバー15と重なるように位置していたのに比して、図7のパワーモジュールでは、マイナス側給電バスバー16は、プラス側給電バスバー15と対向するU相配電バスバー17と重なるように位置している。3種類のバスバー15,16,17の位置関係を変えることにより、表面電極接続ワイヤ3および裏面電極接続ワイヤ13の領域が定まり、次いで、少なくとも高電位側では、裏面電極接続ワイヤ13と表面電極接続ワイヤ3を挟むように制御用端子9a〜9eを配置することで、ワイヤ3,13,43の配置が決定される。このとき、裏面電極接続ワイヤ13と制御端子接続ワイヤ43とはその延びる方向は互いに平行であり、かつその平行な方向は表面電極接続ワイヤ3の延びる方向と交差(直交)する。
【0032】
(実施の形態2)−素子配列方向に沿うようにワイヤが延在する配置−
図8は、本発明の実施の形態2におけるパワーモジュールのU相配電部分を示す図である。本実施の形態では、表面電極接続ワイヤ3が、スイッチング素子31,32が配列する方向に沿うように延在する点に特徴がある。プラス側給電バスバー15およびU相配電バスバー17を、ともにコ字状部分を持つF字形状に形成して、両者を基板を挟み上下逆にして対向するように配置した場合、制御用端子を接続するワイヤ43と、裏面電極接続ワイヤ13とは、表面電極接続ワイヤ3を挟むように位置することは、本発明の実施の形態1と同じである。しかしながら、低電位側では、マイナス側給電バスバー16および制御端子コネクト部18を、表面電極接続ワイヤ3に関してともに同じ側に配置してもよい(その結果、裏面電極接続ワイヤ13と制御用電極接続ワイヤ43とは、片側に配置される)。またマイナス側給電バスバー16および制御端子コネクト部18が、表面電極接続ワイヤ3を挟むように配置してもよい(その結果、裏面電極接続ワイヤ13と制御用電極接続ワイヤ43とは、同じ側に配列されず、それぞれ別の一方側に配置される)。図8は、マイナス側給電バスバー16および制御端子コネクト部18が、表面電極接続ワイヤ3を挟むように位置する場合を示す図である。しかし、図8において、制御端子コネクト部18およびマイナス側給電バスバー16の両方を、表面電極接続ワイヤ3のどちらか片側に配置してもよい(片側配置)。このような、配置が可能なのは、表面電極接続ワイヤ3が、スイッチング素子が配列する方向に沿うように延在するからであり、その結果、制御用電極9a〜9eと、裏面電極接続ワイヤ13とが、一方の側にのみ配置するスペースが生じたためである。
【0033】
図9は、低電位側において、裏面電極接続ワイヤ13と制御端子接続ワイヤ43とが片側に位置する場合を示す。図3および図7に示す実施の形態1におけるパワーモジュールの表面電極接続ワイヤ3と比較すると、本実施の形態における表面電極接続用ワイヤ3は、IGBT31またはFWD32の上を越えてワイヤを延ばす必要があり、上記したように、裏面電極接続ワイヤ13と、制御用端子9a〜9eとを同じ側に配置しなければならない等の特別の事情がある場合に用いるのがよい。このような場合でも、同じ電流容量を確保しながら接続点を半減することができる点では、実施の形態1と同じである。
【0034】
上記の本発明の実施の形態では説明しなかったが、本発明は、当然のことながら、半導体スイッチング素子が1個の素子のみで形成される場合にも適用される。半導体スイッチング素子1個のみで形成される構成は、図3、図7および図8、図9そして図6において、FWD32を除けばよい。このようなスイッチング素子1個のみで形成されるパワーモジュールにおいても、従来と同じ電流容量を維持しながら接続点を半減できる効果を得られることは明白である。また既述のように、ワイヤは、帯状の長尺導体に置き換えることができるし、また素子接続用のバスバーで置き換えることもできる。
【0035】
上記において、本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態および実施例は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のパワーモジュールでは、ワイヤの中間位置でスイッチング素子の表面電極に接続し、両側を延在させて同じバスバーの異なる部分に接続するので、従来と同じ電流容量を維持しながら接続点を半減できる。このため、開発が進行中の小型化されかつ大電流容量化されたスイッチング素子の利点を享受することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態におけるパワーモジュールを示す図である。
【図2】図1のパワーモジュールの部分を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるパワーモジュールを示す図である。
【図4】図3の表面電極接続ワイヤを説明するための断面図である。
【図5】図3の表面電極接続ワイヤを説明するための平面図である。
【図6】本発明の実施の形態のパワーモジュールの回路図である。
【図7】図3のパワーモジュールの変形例である。
【図8】本発明の実施の形態2におけるパワーモジュールを示す図である。
【図9】図8のパワーモジュールの変形例である。
【符号の説明】
【0038】
1 絶縁基板、2 配線基板(金属板)、3 表面電極接続ワイヤ、9a,9b,9c,9d,9e 制御用端子、10 パワーモジュール、13 裏面電極接続ワイヤ、15 プラス側給電バスバー、15a 上側横バー、15b 下側横バー、15c 縦バー部分、16 マイナス側給電バスバー、17 U相配電バスバー、17a 上側横バー、17b 下側横バー、17c 縦バー部分、18 制御端子コネクト部、20 接続点(ステッチボンド)、28 制御端子ランド、31,33 IGBT、31a IGBTの表面電極、31b 裏面電極、32 FWD、32a FWDの表面電極、32b 裏面電極、61 ヒートシンク(冷却板)、64 絶縁層、65 筐体、67 冷却路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力又は交流電力の供給用のバスバー、電極を有する半導体スイッチング素子および前記バスバーと前記電極とを電気接続するための長尺導体とを備えるパワーモジュールにおいて、
前記長尺導体の中間部分が前記半導体スイッチング素子の電極に電気接続され、かつ、前記長尺導体の中間部分を挟む両側の部分がともに、同じバスバーに電気接続されていることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項2】
前記長尺導体がワイヤであり、該ワイヤは、前記半導体スイッチング素子の表面の電極にその中間部分で接続され、該表面の電極の両側に延在しており、前記両側に延在するワイヤは、それぞれの端が同じバスバーの異なる部分に接続されていることを特徴とする、請求項1に記載のパワーモジュール。
【請求項3】
前記バスバーは、前記半導体スイッチング素子が実装された基板を囲むようにコ字状部分を有するか、またはF字状であることを特徴とする、請求項1または2に記載のパワーモジュール。
【請求項4】
前記長尺導体は、前記表面電極に1箇所以上の接続箇所を持つことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項5】
前記半導体スイッチング素子は裏面電極を有し、その裏面電極は該半導体スイッチング素子を実装する配線基板に接続され、前記表面電極を接続する長尺導体と異なる裏面電極接続長尺導体が、前記配線基板と第2のバスバーとを接続し、その裏面電極接続長尺導体の延びる方向が前記表面電極を接続する長尺導体の延在方向と交差する方向であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項6】
前記半導体スイッチング素子は前記表面に制御用のゲート電極を有し、前記ゲート電極と制御端子コネクト部とを接続する制御端子接続ワイヤの延びる方向は、前記表面電極を接続する長尺導体の延在する方向と交差する方向であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項7】
前記半導体スイッチング素子と並列に接続するダイオードを備え、当該半導体スイッチング素子およびダイオードでは、ともにその表面電極にそれぞれ異なる長尺導体がその中間位置で接続されており、それら長尺導体の両側の端は、それぞれ同じバスバーの異なる部分に接続されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のパワーモジュール。
【請求項8】
第1の基板上に配置された第1の半導体スイッチング素子、前記第1の基板に並ぶように位置する第2の基板上に配置された第2の半導体スイッチング素子、コ字状部分を有するF字状の第1および第2のバスバーおよび接続のための複数のワイヤを備えたパワーモジュールであって、
前記第1のバスバーと前記第2のバスバーとは、前記第1の基板および第2の基板を挟むように対向して、互いに上下逆に、前記第1の基板と第2の基板との間に、前記第1のバスバーのコ字状部分の下側横バーと、前記第2のバスバーのコ字状部分の下側横バーとが並列して重ならないように位置し、
前記ワイヤは、前記第1のバスバーのコ字状部分の上下横バーを橋渡しするようにその両端がその上下横バーに接続され、前記第1の半導体スイッチング素子の表面電極にその中間位置で接続され、
また前記ワイヤと異なる別のワイヤは、前記第2のバスバーのコ字状部分の上下横バーを橋渡しするようにその両端がその上下横バーに接続され、前記第2の半導体スイッチング素子の表面電極にその中間位置で接続されていることを特徴とする、パワーモジュール。
【請求項9】
前記第1および第2の基板はその上に第1および第2の配線基板をそれぞれ有し、前記第1および第2の半導体スイッチング素子は、裏面に第1および第2の裏面電極をそれぞれ有し、前記第1および第2の裏面電極は前記第1および第2の配線基板にそれぞれ接続され、さらに前記表面電極を接続するワイヤと異なる裏面電極接続のためのワイヤは、前記第1の配線基板と前記第2のバスバーのコ字状部分の縦バーを接続し、また前記裏面電極接続用のワイヤと異なる別の裏面電極接続のためのワイヤは、前記第1または第2のバスバーの縦バーに沿うように重なって位置する第3のバスバーと、前記第2の配線基板とを接続しており、前記裏面電極接続のためのワイヤは、いずれも、前記表面電極を接続するワイヤの延在方向と交差する方向に延びていることを特徴とする、請求項8に記載のパワーモジュール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−206140(P2009−206140A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44343(P2008−44343)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】