説明

パワー半導体モジュール

【課題】単一のパワー半導体モジュールに例えば12アームを搭載可能にコンパクトに実装するとともに、直流端子と交流端子のそれぞれの端子をモジュール端面にそれぞれ配置し、また、電力回路のインダクタンスを低く保つこと。
【解決手段】1枚の絶縁基板108上に2組の上アーム(100,104と102,106)を絶縁基板上の上寄り左右に配置し、2組の下アーム(101,105と103,107)を絶縁基板上の下寄り左右に配置して、絶縁基板上の配線パターンとして、2組の上アームを第1の配線パターンC01上に実装し、2組の下アームは第1の配線パターンの下に配置した第2、第3の配線パターンC02,C02上にそれぞれ実装して、第2、第3の配線パターンの間に第1の配線パターンC01を延長し、その延長した端部に正極端子T01からの配線を接続し、さらに、絶縁基板108を1モジュール中に3枚並置して実装して12in1モジュールの構成とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置に関し、特に電力変換装置に用いられるパワー半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド自動車および電気自動車の生産が増えつつある。これらの自動車では電池から供給される直流電力を電力変換装置によって交流に変換してモータを駆動する方式が一般的に用いられる。このような電力変換装置に搭載されるパワー半導体モジュールは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子をスイッチングすることにより、直流電力を交流電力に変換あるいは交流を直流に変換するものである。
【0003】
パワー半導体モジュールでは、スイッチング素子とダイオードを並列接続して(この一組をアームと称する)使用することが一般的である。この一組の半導体を正極端子と交流端子の間に接続したものを上アーム、交流端子と負極端子の間に接続したものを下アームと称する。上アームと下アームを組み合わせることによって一相の交流電力を出力することができる。したがって、三相交流を発生させるためには3組の上下アーム(合計6アーム)が必要となる。
【0004】
ところで、ハイブリッド自動車の駆動方式には様々なものが提案されている。例えば駆動用のモータと電力回生用の発電機を別に備えるシステムにおいては、モータ駆動用電力と回生電力のために合わせて2系統の電力変換装置を必要とする。2系統の三相交流を直流と変換するためには、上記の3組の上下アームから成る半導体群を2群、合計で12アームのパワー半導体素子が必要となる。
【0005】
また、車両の駆動用途にスイッチド・リラクタンス・モータ(SRモータ)を採用する場合、例えばロータ4極ステータ6極のモータでは1モータを駆動するためにステータの6端子から電力を供給する必要があり、交流1端子の出力に上下アームが必要なので、電力変換のためにはやはり12アームのパワー半導体が必要となる。このように、ハイブリッド自動車の駆動方式によっては12アームから成る電力変換装置を必要とする場合がある。
【0006】
一方、一つのケースの内部に12アームのパワー半導体を搭載し、これを半導体モジュール(以下、12in1モジュールと称する)とする技術が、例えば特許文献1に開示されている。また、上アームと下アームからなる上下アームを半導体モジュールとして、6個の半導体モジュールすなわち12個のアームを一体とした電力変換装置が、例えば特許文献2に開示され、この特許文献2には半導体モジュールの回路構成とその各構成要素の配置構成とが提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−336643号公報
【特許文献2】特開2009−219270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
汎用的に用いられるパワー半導体モジュールとしては1in1から6in1まで、すなわち一つのケースに搭載される半導体素子が6アーム以内のものが一般的であり、12in1モジュールは比較的複雑な回路構成となる。したがって、12in1モジュールをコンパクトに実装するためにはレイアウトに工夫が必要となる。
【0009】
一方、上記の特許文献1に開示された構成は、工夫したレイアウトでコンパクトに実装された例であるが、モジュールの1辺に1系統の交流端子(U,V,Wの計3本)が配置され、対向する辺にもう1系統の交流端子(同じく3本)が配置されている。さらに直流端子はモジュールの上面中央から接続する形態をとる。また、上記の特許文献2における半導体モジュールは、2in1モジュールであり、正極端子、負極端子、交流端子、ゲート端子などはすべて半導体モジュールの上面側に配置された構造となっている。
【0010】
しかしながら、車両の一般的な構成ではすべての交流端子を同じ方向にまとめて配置し、交流端子と逆側に直流端子を配置する方が好まれる場合が多い。その理由は、交流端子に接続されるモータおよび発電機はエンジンと変速機の周囲にまとめて配置され、直流端子に接続される電池はエンジンとは離れた場所に配置される場合が多いためである。また、直流端子をパワー半導体モジュールの上面中央に配置しない方が好まれる理由は、上面には制御信号の端子が配置されるため、直流電力のバスと制御信号線を同じ方向に出してしまうと制御信号ピンの配置に制約が増えるためである。
【0011】
さらに別の課題としては、電力回路のインダクタンスを低くすることが挙げられる。電力回路のインダクタンスと電流の変化率の積によって跳ね上がり電圧が決まるが、跳ね上がり電圧は部品の耐圧より低く抑える必要があるので、インダクタンスの値に応じて電流変化率の上限が決まる。しかし、電力変換の効率を高めるためには電流の変化率を大きくした方が有利であるため、回路インダクタンスをできるだけ低く抑えたい。
【0012】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、1つのパワー半導体モジュールに例えば12アームを含む複数のアームを搭載可能な簡易な構造でコンパクトに実装するとともに、パワー半導体モジュール外との直流、交流および制御信号との接続を行い易いそれぞれの端子をモジュール端面に配置とすることであり、さらに、パワー半導体モジュールの電力回路のインダクタンスを低く保つことのできるパワー半導体モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明は主として次のような構成を採用する。
1枚の絶縁基板上に2組の上アームを絶縁基板上の上寄り左右に配置し、2組の下アームを絶縁基板上の下寄り左右に配置して、絶縁基板上の配線パターンとして、2組の上アームを第1の配線パターン上に実装し、2組の下アームは第1の配線パターンの下に配置した第2、第3の配線パターン上にそれぞれ実装して、第2、第3の配線パターンの間に第1の配線パターンを延長し、その延長した端部に正極端子からの配線を接続し、さらに、この絶縁基板を1モジュール中に3枚並置して実装することによって12in1モジュールの構成とすることが本発明の概要を示す主たる特徴である。
【0014】
詳しくと記述すると、金属ベース上に搭載される1枚の絶縁基板と、前記絶縁基板上に搭載される第1〜第4のスイッチング素子及び第1〜第4のダイオードと、前記第1のスイッチング素子と前記第1のダイオードが逆並列接続された第1の上アーム、及び前記第2のスイッチング素子と前記第2のダイオードが逆並列接続された第2の上アームと、前記第3のスイッチング素子と前記第3のダイオードが逆並列接続された第1の下アーム、及び前記第4のスイッチング素子と前記第4のダイオードが逆並列接続された第2の下アームと、前記第1の上アームと前記第1の下アームの直列接続回路の一端と、前記第2の上アームと前記第2の下アームの直列接続回路の一端が接続される第1の直流端子と、前記第1の上アームと前記第1の下アームの直列接続回路の他端と、前記第2の上アームと前記第2の下アームの直列接続回路の他端が接続される第2の直流端子と、前記第1の上アームと前記第1の下アームの直列接続点が接続される第1の交流端子と、前記第2の上アームと前記第2の下アームの直列接続点が接続される第2の交流端子と、を備えるパワー半導体モジュールにおいて、前記1枚の絶縁基板上には、前記第1の上アームと前記第1の下アームからなる第1の列と、前記第2の上アームと前記第2の下アームからなる第2の列が、前記第1の上アームと前記第2の上アームが列の直交方向で対向するように、かつ前記第1の下アームと前記第2の下アームが前記列の直交方向で対向するように、前記絶縁基板の列中心線を挟んで略線対称に配置され、前記第1の列と前記第2の列の両端部の一端側に前記第1の直流端子と前記第2の直流端子が配置され、その他端側に前記第1の交流端子と前記第2の交流端子が配置される構成とする。
【0015】
また、前記パワー半導体モジュールにおいて、前記1枚の絶縁基板上には、前記スイッチング素子及びダイオードを載置し又はワイヤボンディング若しくはメタルボンディングのボンディング地点となる配線パターンを複数個形成し、前記第1と第2の下アーム側のパワー半導体モジュールの側縁側に前記第1と第2の直流端子が配置される場合、第1の配線パターン上には前記第1と第2の上アームをそれぞれ実装し、第2の配線パターン上には前記第1の下アームを実装し、第3の配線パターン上には前記第2の下アームを実装し、前記絶縁基板の列中心線を挟んで左右に離隔形成された前記第2の配線パターンと前記第3の配線パターンの間には、前記第1の配線パターンの延長部を形成し、前記延長部の端部には前記第1の直流端子である正極端子からのボンディング用の配線が接続され、第4の配線パターン上には、前記第2の直流端子である負極端子からのボンディング用の配線が接続される構成とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、12in1パワー半導体モジュールをコンパクトに実装することができる。したがって、12アームを必要とする電力変換装置を一つのパワー半導体モジュールで構成することができ、電力変換装置を小型かつ安価に製造することができる。
【0017】
また、電力回路のインダクタンスを低くできるので電力変換の際の電流変化率を大きくすることができ、電力変換の効率を高めることができる。引いては、車両の燃費を向上させると同時に、損失によって発生する熱が減るので、パワー半導体モジュールの冷却装置を小型化ないし低コスト化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例1に係るパワー半導体モジュールの各構成要素の配置構造を示す平面図である。
【図2】本実施例1に係るパワー半導体モジュールと冷却装置の全体構造を示す斜視図である。
【図3】図2に示す全体構造においてパワー半導体モジュールの蓋を開いた状態の斜視図である。
【図4】本実施例1に係るパワー半導体モジュールの2相分の各構成要素の配置構造を示す斜視図である。
【図5】本実施例1に係るパワー半導体モジュールの回路構成を示す図である。
【図6】本実施例1に係るパワー半導体モジュールの一部断面図である。
【図7】本発明の実施例2に係るパワー半導体モジュールの2相分の各構成要素の配置構造を示す斜視図である。
【図8】本実施例2に係るパワー半導体モジュールの各構成要素の配置構造を示す平面図である。
【図9】本発明の実施例3に係るパワー半導体モジュールの蓋を開いた全体構造を示す斜視図である。
【図10】本実施例3に係るパワー半導体モジュールの2相分の各構成要素の配置構造を示す斜視図である。
【図11】本実施例3に係るパワー半導体モジュールの各構成要素の配置構造を示す平面図である。
【図12】本実施例4に係るパワー半導体モジュールの2相分の各構成要素の配置構造を示す斜視図である。
【図13】本実施例4に係るパワー半導体モジュールの各構成要素の配置構造を示す平面図である。
【図14】本実施例5に係るパワー半導体モジュールの2相分の各構成要素の配置構造を示す斜視図である。
【図15】本実施例5に係るパワー半導体モジュールの各構成要素の配置構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の各実施例に係るパワー半導体モジュールについて、図面を参照しながら以下説明する。本発明の実施例1に係る半導体モジュールは図1〜図6を用いて、実施例2は図7と図8を用いて、実施例3は図9〜図11を用いて、実施例4は図12と図13を用いて、実施例5は図14と図15を用いて、それぞれ以下詳細に説明する。本発明の各実施例を説明する上で、背景技術欄に記載した各特許文献を含めた従来技術におけるパワー半導体モジュールの構成要素(IGBT、ダイオード、アーム、各端子など)の基本的な機能については、以下の実施例でも同様である。
【0020】
「実施例1」
図1には本実施例1に係るパワー半導体モジュールの絶縁基板上でのレイアウトを示している。IGBT100〜103とダイオード104〜107が絶縁基板108上に実装されており、パワー半導体モジュールの構成要素であるIGBT100〜103、ダイオード104〜107、配線パターンC01〜C05、電力端子T01〜T04、信号ピンP01〜P04(図4を参照)のそれぞれの間がボンディングワイヤW01〜W11で接続される。図1の例では、IGBT100とダイオード104の一組が1アームを構成するので、1枚の絶縁基板108の上には合計で4つのアームが搭載される(後述する図5と図6をも参照)。
【0021】
図2は本実施例に係るパワー半導体モジュールを冷却装置に搭載した斜視図である。パワー半導体モジュール113を冷却装置114に搭載して冷却水を入口115から出口116に流すことによって、パワー半導体モジュール113の損失によって発生する熱が除去される。
【0022】
図3は図2に示したパワー半導体モジュールの蓋119を外した図である。パワー半導体モジュール113の内部には図1に示した絶縁基板108が3枚並置されて実装されており、合計で12アームを搭載する12in1モジュールを構成する。図示しないが実際にはケース118の内部にはゲルが充填されて配線間の絶縁を確保する。図示例では絶縁基板108は3枚並置であるが、これに限らず複数枚並置してもよい。
【0023】
図4は、図3のケース118を取り除いて、絶縁基板1枚分の内部の配線を示す図である(実際には、端子T01〜T04とピンP01〜P03はケース118にインサート成形されるので、図4のようにケース118を取り除くことはできない)。図4を真上から見た平面図が図1である。
【0024】
4本の電力端子は、T01が正極端子、T02が負極端子、T03およびT04が交流端子である。信号ピンについては、P01およびP02がゲート信号ピン、P03がシャント抵抗122の電圧検出ピン、その他のピンP04は各所の電圧検出ピンである。シャント抵抗122は、その両端の電圧差を検出することによって電流値を測定するために使用する。
【0025】
図5は本実施例1に適用されるモータ駆動システム構成例の主回路図である。電池123から供給される直流電力をパワー半導体モジュール113で交流に変換してモータ125を駆動する。その際、直流ラインの変動電流成分を平滑化コンデンサ124で吸収して電流の平滑化を行う。図5の図示例ではモータ125はスイッチド・リラクタンス・モータであるので、ステータの6極に対して個別に交流電流を供給する必要がある。そのため、図5に示したような12アームを備えた電力変換装置が必要となる。
【0026】
図6は絶縁基板108に半導体素子を搭載した際の断面図である。絶縁基板108は表面に配線銅パターン110を、裏面にベタの銅パターン127を備える。配線パターン110(図1に示すC02に対応)上にははんだ126を用いてIGBT素子101とダイオード素子105が搭載される。また、絶縁基板108自体も基板接続はんだ128を用いて銅ベース117(図3を参照)に接続される。
【0027】
配線パターンC01〜C05について、さらに図1を参照しながら説明する。配線パターンC01は、図1の図示配置例で、絶縁基板108上において上半分と中央縦部分を含むパターンであり、その上半分には、その右側にIGBT100及びダイオード104(上アーム)が載置され左側にIGBT102及びダイオード106(上アーム)が載置される。配線パターンC02は配線パターンC01の中央縦部分の左右両側に配置された一対の配線パターンであり、その右側にIGBT101及びダイオード105(下アーム)が載置され、左側にIGBT103及びダイオード107(下アーム)が載置される。
【0028】
また、配線パターンC03は、左・右の下アームとワイヤボンディングW04・W02で接続される左右一対の配線パターンである。また、配線パターンC04は、左・右の上アームとワイヤボンディングW03・W01で接続される左右一対の配線パターンであり、この配線パターンC04はさらに交流端子T03とT04にワイヤボンディングW07とW08で接続される。また、配線パターンC05は、図1の例で絶縁基板108の最下部に配置された配線パターンであり、ワイヤボンディングW06で負極端子T02と接続されるとともに、シャント抵抗122を介して配線パターンC03と接続される。
【0029】
次に、図1、図4、図5、図6を用いて本実施例1に係るパワー半導体モジュールの各構成要素における接続関係を説明する。金属ベース127上に搭載される1枚の絶縁基板108には、第1〜第4のスイッチング素子(IGBT)100〜103及び第1〜第4のダイオード104〜107と、第1のスイッチング素子100と第1のダイオード104が逆並列接続された第1の上アームと、第2のスイッチング素子102と第2のダイオード106が逆並列接続された第2の上アームと、第3のスイッチング素子101と第3のダイオード105が逆並列接続された第1の下アームと、第4のスイッチング素子103と第4のダイオード107が逆並列接続された第2の下アームと、が搭載されている。
【0030】
さらに、第1の上アームと第1の下アームが直列に接続されるとともに、第2の上アームと第2の下アームが直列に接続され、第1の上アームと第1の下アームの直列接続回路の一端と、第2の上アームと第2の下アームの直列接続回路の一端が正極端子T01(第1の直流端子)に接続されるとともに、第1の上アームと第1の下アームの直列接続回路の他端と、第2の上アームと第2の下アームの直列接続回路の他端が負極端子T02(第2の直流端子)に接続されている。また、第1の上アームと第1の下アームの直列接続点には第1の交流端子T03が接続され、第2の上アームと第2の下アームの直列接続点には第2の交流端子T04が接続されている。
【0031】
上述したパワー半導体モジュールの各構成要素の接続関係において、第1の上アームと第1の下アームからなる第1の列(図1の例で右側の列)と、第2の上アームと第2の下アームからなる第2の列(図1の例で左側の列)とは略平行に配置されるとともに、第1の上アームと第2の上アームが図示の左右方向で、すなわち列の直交方向で互いに対向するように且つ第1の下アームと第2の下アームが図示の左右方向で、すなわち列の直交方向で互いに対向するように、第1の列と前記第2の列が配線パターンC01を間にして(絶縁基板108の列中心線を挟んで)略線対称に配置される。そして、第1の列と第2の列の両端部の一端側(図2に示すパワー半導体モジュールの113の一端側)に正極端子T01(第1の直流端子)と負極端子T02(第2の直流端子)が揃って配置され、他端側(図2に示すパワー半導体モジュールの113の他端側)に第1の交流端子T03と第2の交流端子T04が揃って配置されている。
【0032】
上述した直流端子と交流端子のパワー半導体モジュールにおける配置の意味を説明すると、車両の一般的な構成ではすべての交流端子を同じ方向にまとめて配置し、交流端子と逆側に直流端子を配置する方が好都合である場合が多く、交流端子に接続されるモータおよび発電機はエンジンと変速機の周囲にまとめて配置され、直流端子に接続される電池はエンジンとは離れた場所に配置される場合が多いためである。また、直流端子をパワー半導体モジュールの上面中央に配置しない方が好都合である理由は、上面には制御信号の端子が配置されるため、直流電力のバスと制御信号線を同じ方向に出してしまうと制御信号ピンの配置に制約が増えるためである。
【0033】
次に、本発明の実施例1に係るパワー半導体モジュールの動作について、図1と図5を参照して説明する。交流端子T03とT04は交流電流を出力するので、位相に従って電流の流出と流入を交互に繰り返す。まず、交流端子T03より電流が流出する状態での動作を述べる。このとき、正極端子T01より直流電力が供給され、ボンディングワイヤW05を通して配線パターンC01に流れ込む。ここで、ゲート信号ピンP01にゲート電圧が印加されて上アームのIGBT100がオンすると、電流はIGBT100を裏から表に通過し、ボンディングワイヤW01を通して配線パターンC04に流れる。さらに配線パターンC04からワイヤW07を通して交流端子T03から電流が流出する。
【0034】
次に、ゲート信号ピンP01の電圧が下がってIGBT100がオフすると、配線パターンC01からの電流は遮断される。このとき、負極端子T02からの帰還電流がボンディングワイヤW06を介し配線パターンC05からシャント抵抗122と配線パターンC03とワイヤW02を通して下アームのダイオード105を表から裏に通過し、配線パターンC02に流れる。配線パターンC02からワイヤW01に流れた後は上記と同様の経路で交流端子T03から流出する。
【0035】
逆に、交流端子T03から電流が流入する状態では、下アームのIGBT101と上アームのダイオード104が動作し、上記とほぼ同様の手順に従って電流が流れる。
【0036】
したがって、ゲート信号ピンP01とP02への印加電圧を制御することによって直流端子T01およびT02から交流端子T03への接続を制御することができ、電圧パルスの幅を制御するPWM(Pulse Width Modulation)によって任意周波数の交流を発生することができる。
【0037】
以上のように、IGBT100,101とダイオード104,105のセットで端子T03から1相の交流を出力できる。同様にIGBT102,103とダイオード106,107のセットで端子T04からもう1相の交流を出力できるので、1枚の絶縁基板108について2相の交流が出力できる4アームの構成であることがわかる。
【0038】
1台のパワー半導体モジュール113の中に絶縁基板108が3枚並置し搭載されるので、パワー半導体モジュール113全体では12アームの構成となる。したがって、本実施例1のパワー半導体モジュール113を用いれば6相の交流電力を直流と変換する電力変換装置を1台のパワー半導体モジュール113で構成することができる。
【0039】
さらに、本実施例1によれば、交流端子T03,T04を全てパワー半導体モジュール113の1辺に集中して配置し(図2を参照)、それと対向する辺に直流端子T01,T02をまとめて配置することができる。また、信号ピンP01〜P04はパワー半導体モジュール113の中央部の上面に配置され、電力端子T01〜T04との干渉を避けることができる。
【0040】
ところで、発明が解決しようとする課題の欄で述べたように、電力回路のインダクタンスを低くすることが求められているが、このための手法として本実施例1では、IGBT100,101を含む右半分の回路ではリカバリー電流が正極端子T01、配線パターンC01、アーム100,104、アーム101,105、配線パターンC05を通して負極端子T02に至る時計回りに回転するループを形成している。また、IGBT102,103を含む左半分の回路ではリカバリー電流が上述と同様に反時計回りに回転するループを形成している。したがって、絶縁基板108上の電力回路について時計回りと反時計回りの2つのループが形成されており、相互のインダクタンスを打ち消すことができるので、パワー半導体モジュール内部のインダクタンスを低減することができる。
【0041】
なお、本実施例ではスイッチング素子としてIGBTを用いたが、MOSFETやバイポーラトランジスタ等の他のスイッチング素子を用いても良い(以下の各実施例も同様)。
【0042】
「実施例2」
本発明の実施例2は、図1に示す電流測定用シャント抵抗122を用いずに、電流センサをパワー半導体モジュール113の外部に設ける場合の構成例であり、パワー半導体モジュール113の内部にはシャント抵抗122を含まないものである。図7は本実施例2における絶縁基板108の1枚分の内部の配線を示す斜視図である。図7を真上から見た平面図が図8である。ここで、既に説明した図1〜図6に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については、その説明を援用する。
【0043】
実施例1では図1のC03とC05に分割されていた負極側の配線パターンが、実施例2では図8に示したC03のように1つの配線パターンにまとめられる。そして、負極端子T02からのボンディングワイヤW06と下アームからのボンディングワイヤW02およびW04がいずれも配線パターンC03に接続される。このように負極側の配線パターンが簡略化されるため、絶縁基板の上下方向のサイズを縮小することができる。
【0044】
敷衍して実施例2を説明すると、1枚の絶縁基板上108には、スイッチング素子100〜103及びダイオード104〜107を載置し又はワイヤボンディングのボンディング地点となる配線パターンC01〜C04を複数個形成し、第1と第2の下アーム側のパワー半導体モジュールの側縁側に第1と第2の直流端子(T01とT02)が配置される場合、第1の配線パターンC01上には第1と第2の上アーム(100,104と102,106)をそれぞれ実装し、第2の配線パターン(右のC02)上には第1の下アームを実装し、第3の配線パターン(左のC02)上には第2の下アームを実装し、絶縁基板108の列中心線を挟んで左右に離隔形成された第2の配線パターン(右のC02)と第3の配線パターン(左のC02)の間には、第1の配線パターン01の延長部を形成し、延長部の端部には第1の直流端子である正極端子T01からのワイヤボンディング用の配線が接続され、第4の配線パターン03上には、第2の直流端子である負極端子T02からのボンディング用の配線が接続される構成となっている。当該構成は、図1に示すシャント抵抗122を接続する配線パターンC03を無くしたものに対応している。
【0045】
「実施例3」
本発明の実施例3は、電力端子T05〜T08(実施例1のT01〜T04に対応する)をワイヤボンディングではなくてメタルボンディングで接続したパワー半導体モジュールの構成例である。
【0046】
図9は本発明の実施例3に係るパワー半導体モジュールの蓋を開いた全体構造を示す斜視図であり、図10は本実施例3に係るパワー半導体モジュールの2相分の各構成要素の配置構造を示す斜視図であり、図11は本実施例3に係るパワー半導体モジュールの各構成要素の配置構造を示す平面図である。ここで、既に説明した図1〜図6に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については、その説明を援用する。
【0047】
図10を参照して、4本の電力端子T05〜T08は、T05が正極端子、T06が負極端子、T07およびT08が交流端子である。電力端子T05〜T08は、メタルボンディングによって直接に配線パターンに接合され、ワイヤボンディングを省略できるため電流の抵抗を減らし、ワイヤボンディングの工数を削減することができる。
【0048】
また、図10に示すように、直流端子T05とT06を平行にして近づけたラミネート構造(積層構造)とすることによって配線のインダクタンスを低減することができる。なお、交流端子T07およびT08に関しては、パルス電流が流れないので(交流波形であるので)、電圧跳ね上がりの問題がなく、インダクタンスを下げる必要がないのでラミネート構造にはしていない。
【0049】
さらに、図11に示したように、直流端子T05,T06との接続において、たるみが生じるワイヤボンディングではなくてメタルボンディングにすると、絶縁基板108の中央付近に各端子の接合部を持って来られるので、図1に示す配線パターンC05を直流端子側T05,T06から中央部分に引き込むことができ(図1に示す絶縁基板108の最下部に配された配線パターンC05との対比)、絶縁基板108の上下方向のサイズを縮小することができる。
【0050】
敷衍して実施例3を説明すると、第4の配線パターンC05は、第2の配線パターン(右のC02)と第3の配線パターン(左のC02)の間に介在する延長部を形成し、延長部の端部に第2の直流端子である負極端子T06からメタルボンディングで接続し、第1の配線パターン01に第1の直流端子である正極端子T05からメタルボンディングで接続し、負極端子T06と正極端子T05のメタルボンディング用の両導体は積層構造である構成となっている。
【0051】
「実施例4」
本発明の実施例4は、素子の配置を変更して絶縁基板108の縦方向のサイズを縮小したパワー半導体モジュールの構成例である。図12は本実施例4における絶縁基板108の1枚分の内部の配線を示す斜視図であり、図13は図12を真上から見た平面図である。ここで、既に説明した図9〜図11に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については、その説明を援用する。
【0052】
図13を参照して、上アームのダイオード104および106が本実施例4では上アームのIGBT100および102の内側に実装されており、この配置を採ることによって絶縁基板108の上下方向のサイズをさらに縮小することができる。
【0053】
敷衍して実施例4を説明すると、第1の上アームと第2の上アームにおける第1のダイオード104と第2のダイオード107は、第1の配線パターンC01上で絶縁基板108の列中心線の鉛直方向において、第1のスイッチング素子100と第2のスイッチング素子102の内側に実装され、第1の下アームと第2の下アームにおける第3のダイオード105と第4のダイオード107は、第2の配線パターン(右のC02)上と第3の配線パターン(左のC02)上で絶縁基板108の列中心線の並行方向において、第3のスイッチング素子101と第4のスイッチング素子103の上側に実装される構成としている。
【0054】
「実施例5」
本発明の実施例5は、直流端子T05,T06と交流端子T07,T08との配置を入れ替えて絶縁基板108の縦方向のサイズを縮小したパワー半導体モジュールの構成例である。図14は実施例5における絶縁基板108の1枚分の内部の配線を示す図であり、図15は図14を真上から見た平面図である。ここで、既に説明した図9〜11に示された同一の符号を付された構成と、同一の機能を有する部分については、説明を省略する。
【0055】
図15を参照して、正極端子T05および負極端子T06を上アーム側に配置し、交流端子T07およびT08を下アーム側に配置する。交流端子T07およびT08は配線パターンC02上に直接接続するので、図11のC04に相当する配線パターンは必要なくなり(図11では、交流端子T07,T08は配線パターンC04とワイヤボンディングW01,W03とを通して配線パターンC02に接続されている)(図5に示す配線回路をも参照)、絶縁基板108の上下方向のサイズをさらに縮小することができる。
【0056】
また、絶縁基板108の列中心線を挟んで左右に離隔形成され且つ2組の下アームを実装した配線パターンC02,C02間には配線パターンC05が形成され、この配線パターンC05に負極端子T06からのボンディング用配線が接続され、さらに、2組の上アームを実装した配線パターンC01上には、直流端子である正極端子T05からのボンディング用配線が接続される。
【0057】
敷衍して実施例5を説明すると、1枚の絶縁基板108上には、スイッチング素子100〜103及びダイオード104〜107を載置し又はワイヤボンディング若しくはメタルボンディングのボンディング地点となる配線パターンC01〜C03、C05を複数個形成し、第1と第2の上アーム側のパワー半導体モジュールの側縁側に第1と第2の直流端子(T05とT06)が配置される場合、第1の配線パターンC01上には第1と第2の上アーム(100,104と102,106)をそれぞれ実装し、第2の配線パターン(右のC02)上には第1の下アームを実装し、第3の配線パターン(左のC02)上には第2の下アームを実装し、絶縁基板108の列中心線を挟んで左右に離隔形成された第2の配線パターン(右のC02)と第3の配線パターン(左のC02)の間には第4の配線パターンC05を形成し、第4の配線パターンC05に第2の直流端子である負極端子T06からのメタルボンディング用の配線が接続され、第1の配線パターンC01上には、第1の直流端子である正極端子T05からのメタル7ボンディング用の配線が接続される構成となっている。
【符号の説明】
【0058】
100〜103 IGBT
104〜107 ダイオード
108 絶縁基板
113 パワー半導体モジュール
114 冷却装置
115 冷却水入口
116 冷却水出口
117 ベース
118 モジュールケース
119 蓋
120 ピンフィン
121 Oリング
122 シャント抵抗
123 電池
124 平滑化コンデンサ
125 モータ
126 チップ接合はんだ
127 裏面銅箔パターン
128 絶縁基板接合はんだ
129 パワー半導体モジュール
C01〜C05 配線パターン
W01〜W11 ボンディングワイヤ
T01〜T08 電力端子
P01〜P04 信号ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ベース上に搭載される1枚の絶縁基板と、
前記絶縁基板上に搭載される第1〜第4のスイッチング素子及び第1〜第4のダイオードと、
前記第1のスイッチング素子と前記第1のダイオードが逆並列接続された第1の上アーム、及び前記第2のスイッチング素子と前記第2のダイオードが逆並列接続された第2の上アームと、
前記第3のスイッチング素子と前記第3のダイオードが逆並列接続された第1の下アーム、及び前記第4のスイッチング素子と前記第4のダイオードが逆並列接続された第2の下アームと、
前記第1の上アームと前記第1の下アームの直列接続回路の一端と、前記第2の上アームと前記第2の下アームの直列接続回路の一端が接続される第1の直流端子と、
前記第1の上アームと前記第1の下アームの直列接続回路の他端と、前記第2の上アームと前記第2の下アームの直列接続回路の他端が接続される第2の直流端子と、
前記第1の上アームと前記第1の下アームの直列接続点が接続される第1の交流端子と、
前記第2の上アームと前記第2の下アームの直列接続点が接続される第2の交流端子と、を備えるパワー半導体モジュールにおいて、
前記1枚の絶縁基板上には、
前記第1の上アームと前記第1の下アームからなる第1の列と、前記第2の上アームと前記第2の下アームからなる第2の列が、前記第1の上アームと前記第2の上アームが列の直交方向で対向するように、かつ前記第1の下アームと前記第2の下アームが前記列の直交方向で対向するように、前記絶縁基板の列中心線を挟んで略線対称に配置され、
前記第1の列と前記第2の列の両端部の一端側に前記第1の直流端子と前記第2の直流端子が配置され、その他端側に前記第1の交流端子と前記第2の交流端子が配置される
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項2】
請求項1において、
前記1枚の絶縁基板上には、前記スイッチング素子及びダイオードを載置し又はワイヤボンディング若しくはメタルボンディングのボンディング地点となる配線パターンを複数個形成し、
前記第1と第2の下アーム側のパワー半導体モジュールの側縁側に前記第1と第2の直流端子が配置される場合、
第1の配線パターン上には前記第1と第2の上アームをそれぞれ実装し、第2の配線パターン上には前記第1の下アームを実装し、第3の配線パターン上には前記第2の下アームを実装し、
前記絶縁基板の列中心線を挟んで左右に離隔形成された前記第2の配線パターンと前記第3の配線パターンの間には、前記第1の配線パターンの延長部を形成し、前記延長部の端部には前記第1の直流端子である正極端子からのボンディング用の配線が接続され、
第4の配線パターン上には、前記第2の直流端子である負極端子からのボンディング用の配線が接続される
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項3】
請求項1において、
前記1枚の絶縁基板上には、前記スイッチング素子及びダイオードを載置し又はワイヤボンディング若しくはメタルボンディングのボンディング地点となる配線パターンを複数個形成し、
前記第1と第2の上アーム側のパワー半導体モジュールの側縁側に前記第1と第2の直流端子が配置される場合、
第1の配線パターン上には前記第1と第2の上アームをそれぞれ実装し、第2の配線パターン上には前記第1の下アームを実装し、第3の配線パターン上には前記第2の下アームを実装し、
前記絶縁基板の列中心線を挟んで左右に離隔形成された前記第2の配線パターンと前記第3の配線パターンの間には第4の配線パターンを形成し、前記第4の配線パターンに前記第2の直流端子である負極端子からのボンディング用の配線が接続され、
前記第1の配線パターン上には、前記第1の直流端子である正極端子からのボンディング用の配線が接続される
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項4】
請求項2において、
前記第4の配線パターンは、前記第2の配線パターンと前記第3の配線パターンの間に介在する延長部を形成し、前記延長部の端部に前記第2の直流端子である負極端子からメタルボンディングで接続し、
前記第1の配線パターンに前記第1の直流端子である正極端子からメタルボンディングで接続し、
前記負極端子と前記正極端子のメタルボンディング用の両導体は積層構造である
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項5】
請求項2または4において、
前記第1の上アームと前記第2の上アームにおける前記第1のダイオードと第2のダイオードは、前記第1の配線パターン上で前記絶縁基板の列中心線の鉛直方向において、前記第1のスイッチング素子と第2のスイッチング素子の内側に実装され、
前記第1の下アームと前記第2の下アームにおける前記第3のダイオードと第4のダイオードは、前記第2の配線パターン上と前記第3の配線パターン上で前記絶縁基板の列中心線の並行方向において、前記第3のスイッチング素子と第4のスイッチング素子の上側に実装される
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つの請求項において、
前記1枚の絶縁基板を複数枚並置して配置し、各絶縁基板における直流端子と交流端子を前記一端側と他端側にそれぞれ揃えて配置する
ことを特徴とするパワー半導体モジュール。

【図2】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−98425(P2013−98425A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241405(P2011−241405)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】