説明

ヒドロキシビアリルカルボン酸誘導体,その製造方法および抗インフルエンザウイルス活性

【課題】 新規ヒドロキシビアリルカルボン酸誘導体および抗インフルエンザウイルス剤を提供すること。
【解決手段】 一般式(I):
【化65】


[式中,Rは,HまたはOHであり,Rは,OH,C1−3のアルコキシ基またはNRである]
で表される化合物またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステル,この化合物を製造する方法,ならびにこの化合物またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステルを有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤が開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,新規ヒドロキシビアリルカルボン酸(HBCA)誘導体,その製造方法,ならびにかかるヒドロキシビアリルカルボン酸誘導体を有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザはインフルエンザウイルスにより引き起こされる急性の伝染性の病気であり,症状としては,気道の炎症,発熱,悪寒,筋肉痛,衰弱および倦怠感等を特徴とする。インフルエンザは,健常な成人であれば7〜10日間程度で治癒するが,乳幼児や高齢者,あるいは慢性疾患を有する患者では,肺炎やインフルエンザ脳症を併発して死亡につながる場合もありうる。
【0003】
インフルエンザの感染予防のために毎年ワクチン接種が行われているが,インフルエンザウイルスは抗原性が変化しやすく,ワクチン接種のみでは流行を防止することが難しい。現在抗インフルエンザ薬として使用されている治療剤には,アマンタジン,リン酸オセルタミビル,およびザナミビルがある。しかし,小児における安全性や副作用の危険,および耐性ウイルスの出現の可能性があることから,インフルエンザウイルスに対して有効でありかつ安全性の高い別の薬剤の開発が求められている。
【0004】
特開平3−101623には,茶ポリフェノールを有効成分とするインフルエンザウイルス感染予防剤が開示されている。また,本発明者らは先に,ジデオキシエピガロカテキンガレート:
【化1】

が天然のエピガロカテキンガレートと同等の抗インフルエンザウイルス活性を有することを見いだした(特開2008−156324,Furuta T. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2007, 17(11):3095-8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−101623
【特許文献2】特開2008−156324
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Furuta T. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 2007, 17(11):3095-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は,抗インフルエンザウイルス活性を有する新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,茶の成分であるカテキン類やテアフラビン類について,その構造と抗インフルエンザウイルス活性との相関を研究するために各種の誘導体を化学合成してその活性を測定したところ,驚くべきことに,ある種のヒドロキシビアリルカルボン酸誘導体(HBCA誘導体)が高い抗インフルエンザウイルス活性を有することを見いだした。
【0009】
すなわち,本発明は,一般式(I):
一般式(I):
【化2】

[式中,Rは,HまたはOHであり,Rは,OH,C1−3のアルコキシ基またはNRであり,Rは,HまたはC1−3のアルキル基であり,Rは,H,C1−6のアルキル基,フェニル基またはベンジル基であり,これらの基は,ハロゲン,C1−3のアルコキシ基およびC1−3のアセチル基からなる群より選択される1〜3個の基で置換されていてもよく,または,RおよびRは,これらが結合しているNと一緒になって,ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環を形成し,前記ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環は,ハロゲンおよびC1−3アルキルから選択される1〜3個の基で置換されていてもよい]
で表される化合物またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステルを提供する。
【0010】
好ましくは,式(I)中,Rは,下記の基:
【化3】

からなる群より選択される。
【0011】
別の観点においては,本発明は,上述の一般式(I)で表される化合物またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステルを有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤を提供する。
【0012】
さらに別の観点においては,本発明は,上述の一般式(I)で表される化合物の製造方法を提供する。式(I)の化合物のうち,RがOCHである一般式(Ia):
【化4】

[式中,Rは,HまたはOHである]
の化合物を製造する方法は,次の各工程を含む:
カテコールまたはピロガロールのフェノール性水酸基を保護し,ブロム化した後に,トリアルキルボロンと反応させて,式(III):
【化5】

[式中,Rは,HまたはORであり,Rはフェノール性水酸基の保護基である]
の有機ボロン酸を生成し;
没食子酸メチルのフェノール性水酸基を保護した後にブロム化することにより,式(IV):
【化6】

のブロム体を生成し,
式(III)の有機ボロン酸と式(IV)のブロム体から鈴木−宮浦カップリングにより式(V):
【化7】

のビフェニル化合物を生成し,そして
式(V)の化合物を脱保護することにより式(Ia)の化合物を得る。
【0013】
式(I)の化合物のうち,RがOHである一般式(II):
【化8】

の化合物を製造する方法は,以下の各工程を含む:
上述の式(V):
【化9】

[式中,Rは,HまたはORであり,Rはフェノール性水酸基の保護基である]
で表される化合物のメチルエステル部を加水分解し,次に脱保護する。
【0014】
式(I)の化合物のうち,RがNRである一般式(Ib):
【化10】

[式中,Rは,HまたはOHであり,Rは,HまたはC1−3のアルキル基であり,Rは,H,C1−6のアルキル基,フェニル基またはベンジル基であり,これらの基は,ハロゲン,C1−3のアルコキシ基およびC1−3のアセチル基からなる群より選択される1〜3個の基で置換されていてもよく,または,RおよびRは,これらが結合しているNと一緒になって,ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環を形成し,前記ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環は,ハロゲンおよびC1−3アルキルから選択される1〜3個の基で置換されていてもよい]
で表される化合物を製造する方法は,以下の各工程を含む:
式(II):
【化11】

[式中,Rは,HまたはOHである]
で表される化合物のフェノール性水酸基を保護して,式(VI):
【化12】

[式中,Rは,HまたはORであり,Rはフェノール性水酸基の保護基である]
で表される化合物を形成し;
式(VII)の化合物を式(VIII):
NHR
のアミンと縮合させて式(IX):
【化13】

[式中,R,R,RおよびRは上で定義したとおりである]
で表される化合物を形成し;
式(IX)の化合物を脱保護して,式(Ib):
【化14】

[式中,R,RおよびRは上で定義したとおりである]
の化合物を形成する。
【0015】
上記の各式において,Rはフェノール性水酸基の保護基であり,水酸基の保護基として一般に使用されるいずれの基を用いてもよい。例えば,メタンスルホニル基,トリフルオロメタンスルホニル基,ベンゼンスルホニル基,トルエンスルホニル基,ニトロベンゼンスルホニル基,アセチル基,トリクロロアセチル基,トリフルオロアセチル基,ベンゾイル基,ピバロイル基,直鎖または分枝鎖のC1−4アルキル基,ベンジル基,トリメチルシリル基,トリエチルシリル基,t-ブチルジメチルシリル基,t-ブチルジフェニルシリル基などが挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により抗インフルエンザウイルス活性を示す新規ヒドロキシビアリルカルボン酸誘導体(HBCA誘導体)を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は,一般式(I):
【化15】

[式中,Rは,HまたはOHであり,Rは,OH,C1−3のアルコキシ基またはNRであり,Rは,HまたはC1−3のアルキル基であり,Rは,H,C1−6のアルキル基,フェニル基またはベンジル基であり,これらの基は,ハロゲン,C1−3のアルコキシ基およびC1−3のアセチル基からなる群より選択される1〜3個の基で置換されていてもよく,または,RおよびRは,これらが結合しているNと一緒になって,ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環を形成し,前記ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環は,ハロゲンおよびC1−3アルキルから選択される1〜3個の基で置換されていてもよい]
で表されるヒドロキシビアリルカルボン酸誘導体(HBCA誘導体)またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステルを提供する。本発明においては,式(I)のHBCA誘導体は,高い抗インフルエンザウイルス剤を有することが見いだされた。
【0018】
上記一般式(I)の化合物のうち,RがOCHである式(Ia):
【化16】

[式中,Rは,HまたはOHである]
の化合物は,本発明の一般式(I)の別の化合物の合成中間体としても有用である。式(Ia)の化合物は,カテコールまたはピロガロールと,没食子酸エステルから,以下のようにして合成することができる。
【0019】
まず,カテコール (9a) またはピロガロール (9b) のフェノール性水酸基を保護して10a,b とした後,NBS を用いてブロム化し,ブロム体11a,b とする。次に,n-BuLi もしくはi-PrMgBr・LiClと反応させた後,(i-PrO)3B を反応させる。塩酸で加水分解することにより,カテコール及びピロガロールに対応するボロン酸 7a,b を得ることができる(スキーム1)。なお,以下の各スキームにおいては,水酸基の保護基の例としてベンジル基(Bn)を用いて説明するが,保護基としては上述の式(III)においてRとして表されるいずれの基を用いてもよい。
【化17】

【0020】
ビアリール体のもう1つのフラグメントであるブロム体 8 は,没食子酸メチル (12) のフェノール性水酸基をベンジル保護して 13とした後,NBS を用いてブロム化することにより得られる(スキーム2)。
【化18】

【0021】
このように合成したボロン酸 7a-b とブロム体 8 に対し,スキーム3に示すようにして,Pd(PPh3)4,炭酸ナトリウム,塩化リチウムを用いた鈴木−宮浦カップリングを行うことにより,ビアリール体 6a-b を得る。
【化19】

続いて,脱保護することにより,式(Ia)の化合物が得られる。
【化20】

【0022】
上記一般式(I)の化合物のうち,RがOCまたはOCである化合物は,上記6a-bの化合物を,カルボジイミドおよびジメチルアミノピリジンの存在下で,エタノールまたはプロパノールと反応させ,続いて触媒的水素化を行うことで脱保護することにより合成することができる。
【0023】
上記一般式(I)の化合物のうち,RがOHである式(II):
【化21】

の化合物は,スキーム4に示すようにして合成することができる。上記6a-b の化合物のメチルエステル部を加水分解してカルボン酸 14a-b とする。次に,カルボン酸 14a-b に対し,触媒的水素化を行うことで脱保護し,カルボン酸ユニットを有するビフェニル誘導体 15a-b を合成することができる。
【化22】

【0024】
本発明の一般式(I)の化合物のうち,RがNRである化合物は,14a-bのカルボン酸から出発して,スキーム5にしたがって合成することができる。まず,14a-bの化合物を適当なカップリング剤の存在下でアミンと縮合させる。次に脱保護して本発明のアミノ誘導体を得ることができる。
【化23】

【0025】
アミンとしては,水性アンモニアや,1級または2級の任意のアミンを用いることができる。アミンの例としては,限定されないが,メチルアミン,エチルアミン,プロピルアミン,ブチルアミン等のアルキルアミン,ジメチルアミン,メチルエチルアミン等のジアルキルアミン,アニリン,ベンジルアミン等のアリールアミンが挙げられ,これらのアルキル基またはアリール基は,ハロゲン,C1−3のアルコキシ基,またはC1−3のアセチル基で置換されていてもよい。あるいは,ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環などの環状2級アミンであってもよい。アミンの好ましい例は,メチルアミン,ジメチルアミン,ブチルアミン,ピロリジン,アニリン,ベンジルアミン,モルホリン,ジメチルアミンである。
【0026】
カルボン酸とアミンとの縮合は,1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)の存在下で,カルボジイミドを用いてアミンとカルボン酸を反応させることにより行うことができる。カルボジイミドとしては,例えば,EDCI(1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩,ジイソプロピルカルボジイミド,ジシクロヘキシルカルボジイミド等を用いることができる。あるいは,カルボキシアミド生成用縮合剤であるDMT−MM(4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド)を用いてカップリングさせてもよい。
【0027】
本発明の式(I)の化合物は,インフルエンザウイルスの増殖を抑制する活性を有する。本発明の化合物の抗インフルエンザウイルス活性は,定法にしたがって測定することができる。一例としては,試験化合物の希釈列溶液とインフルエンザウイルス懸濁液とを混合し,一定時間インキュベーションした後,MDCK細胞などの被検細胞を培養したプレートに加える。一定時間インキュベーションした後,細胞を洗浄し,ウイルスに感染した細胞の数または割合を,プラークアッセイ法,免疫染色法,酵素活性測定法などにより測定する。
【0028】
本発明において,抗インフルエンザウイルス剤とは,本発明にしたがうHBCA誘導体またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステルを,薬学的に許容しうる担体もしくは賦形剤とともに含む医薬組成物を表す。本発明の抗インフルエンザウイルス剤は,インフルエンザウイルスの感染に関連する疾患を予防および/または治療することができ,例えば,インフルエンザウイルスの感染に伴う疾患の症状を軽減または排除すること,感染患者中のインフルエンザウイルスの増殖を阻害すること,ウイルスの活性を低下させること,および/またはウイルスを消滅もしくは減少させることができる。
【0029】
薬学的に許容しうる塩としては,薬理学的に許容されるものであれば特に限定されず,例えば,ナトリウム,カリウム,カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属,アンモニアや各種有機塩基との反応により得られる塩類,あるいは,無機または有機酸,例えば,塩酸,臭化水素酸,硫酸,硝酸,リン酸,メタンスルホン酸,エタンスルホン酸,p−トルエンスルホン酸,サリチル酸,リンゴ酸,クエン酸,マレイン酸,コハク酸,酒石酸との反応により得られる塩を表す。溶媒和物とは,例えば,水和物,アルコール和物などを表す。
【0030】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤は,当業者に公知の方法で製剤化することができる。例えば,薬学的に許容しうる担体もしくは賦形剤,具体的には,滅菌水や生理食塩水,植物油,乳化剤,懸濁剤,界面活性剤,安定剤,香味剤,ベヒクル,防腐剤,結合剤などと適宜組み合わせて,一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。
【0031】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤の適当な投与経路には,限定されないが,経口,直腸内,経粘膜,または腸内投与,または筋肉内,皮下,骨髄内,鞘内,直接心室内,静脈内,硝子体内,腹腔内,鼻腔内,または眼内注射が含まれる。投与経路および投与方法は,患者の年齢,症状により適宜選択することができる。経口または経鼻投与が好ましい。経口投与用には,例えば,化合物をカプセル剤,錠剤および液体製剤(シロップ剤,エリキシル剤および濃縮ドロップ剤など)のような慣用の経口投与形に製剤することができる。吸入用には,本発明の化合物を乾燥粉体または適当な溶液,懸濁液,またはエアロゾルとして製剤することができる。粉体および溶液は,当該技術分野において知られる適当な添加物とともに製剤することができる。非経口投与用には,本発明の化合物またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステルを当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうるベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0032】
本発明の抗インフルエンザウイルス剤の投与量としては,例えば,一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲で選ぶことが可能である。あるいは,例えば,患者あたり0.001〜100000mg/bodyの範囲で投与量を選ぶことができるが,これらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量,投与方法は,患者の体重や年齢,症状などにより変動するが,当業者であれば適宜選択することが可能である。
【0033】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1 ジ−O−ベンジルカテコール(10a)の合成
【化24】

DMF(270mL)中の9a(30.0g,272mmol)およびKCO(150g,1.09mol)の撹拌懸濁液に,室温でBnBr(72.0mL,599mmol)を加えた。混合物を100℃で2時間撹拌し,セライトパッドで濾過した。濾液をHOに加え,AcOEtで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をAcOEtから再結晶して精製し,10a(56.9g,72%)を白色針状物として得た。
10a:H NMR(270MHz,CDCl)δ7.25−7.46(m,10H),6.87−6.96(m,4H),5.21(s,4H)
【0035】
実施例2 4−ブロモ−1,2−ジ−O−ベンジルカテコール(11a)の合成
【化25】

DMF(100mL)中の10a(30.0g,103mmol)の撹拌溶液に,DMF(30.0mL)中のNBS(19.3g,108mmol)を室温で滴加し,混合物を室温で12時間撹拌した。反応混合物をHOに加え,AcOEtで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をAcOEt/ヘキサンから再結晶して精製し,11a(27.1g,71%)を白色固体として得た。
11a:H NMR(270MHz,CDCl)δ7.28−7.47(m,10H),7.07(d,1H,J=2.5Hz),6.98(dd,1H,J=2.5Hz,8.6Hz),6.79(d,1H,J=8.6Hz),5.12(brs,4H)
【0036】
実施例3 3,4−ジ−O−ベンジルベンゼンホウ酸(7a)の合成
【化26】

THF(237mL)中の11a(19.0g,51.5mmol)の撹拌溶液に,n−BuLi(29.7mL,77.2mmol,ヘキサン中2.6M溶液)を−78℃で滴加し,混合物を−78℃で1時間撹拌した。ホウ酸トリイソプロピル(41.6mL,180mmol)を−78℃で反応混合物に加え,混合物を室温で1時間撹拌した。反応混合物を2N HClに加え,CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHClからCHCl:MeOH=95:5)により精製し,CHCl/ヘキサンから再結晶して,7a(5.81g,34%)を白色固体として得た。
7a:H NMR(270MHz,CDCl)δ7.69−7.73(m,2H),7.22−7.52(m,10H),7.04(d,1H,J=8.6Hz),5.27(brs,4H)
【0037】
実施例4 (ベンゼン−1,2,3−トリイルトリス(オキシ))トリス(メチレン)トリベンゼン(10b)の合成
【化27】

DMF(150mL)中の9b(20.0g,159mmol)およびKCO(132g,952mmol)の撹拌懸濁液に,室温でBnBr(75.3mL,634mmol)を加えた。混合物を100℃で2時間撹拌し,セライトパッドを通して濾過した。濾液をHOに加え,AcOEtで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をAcOEtから再結晶して精製し,10b(52.9g,84%)を白色針状物として得た。
10b:H NMR(270MHz,CDCl)δ7.25−7.45(m,15H),6.93(t,1H,J=8.5Hz),6.63(d,2H,J=8.5Hz),5.11(s,4H),5.07(s,2H)
【0038】
実施例5 (4−ブロモベンゼン−1,2,3−トリイル)トリス(オキシ)トリス(メチレン)トリベンゼン(11b)の合成
【化28】

DMF(100mL)中の10b(40.0g,101mmol)の撹拌溶液に,DMF(50.0mL)中のNBS(18.9g,106mmol)を室温で滴加し,混合物を室温で14時間撹拌した。反応混合物をHOに加え,AcOEtで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をAcOEt/ヘキサンから再結晶して精製し,11b(44.6g,93%)を白色固体として得た。
11b:H NMR(270MHz,CDCl)δ7.20−7.52(m,15H),6.67(d,2H,J=9.2Hz),5.08(s,2H),5.06(s,2H),5.05(s,2H)
【0039】
実施例6 2,3,4−トリス(ベンゾイルオキシ)フェニルボロン酸(7b)の合成
【化29】

THF(10.0mL)中の11b(1.00g,2.10mmol)の撹拌溶液に,i−PrMgBr・LiCl(11.3mL,14.7mmol,THF中1.3M溶液)を0℃で滴加し,混合物を室温で3時間撹拌した。次に,0℃でホウ酸トリイソプロピル(1.7mL,7.35mmol)を反応混合物に加え,混合物を室温で1時間撹拌した。反応混合物を2N HClに加え,CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:AcOEt=9:1から7:3)により精製し,AcOEt/ヘキサンから再結晶して,7b(661mg,66%)を白色固体として得た。
7b:H NMR(270MHz,CDCl)δ7.52(d,1H,J=8.6Hz),7.26−7.46(m,15H),6.84(d,1H,J=8.6Hz),5.54(s,1H),5.16(d,4H,J=3.9Hz),5.07(s,2H)
【0040】
実施例7 3,4,5−トリス−ベンゾイルオキシ−安息香酸メチルエステル(13)の合成
【化30】

DMF(200mL)中の12(20.0g,109mmol)およびKCO(90.1g,652mmol)の撹拌懸濁液に,BnBr(51.7mL,434mmol)を加え,混合物を100℃で3時間撹拌した。次に反応混合物を濾過し,濾液を減圧下で濃縮した。残渣をMeOHで洗浄して,13(44.4g,90%)を白色固体として得た。
13:H NMR(270MHz,CDCl)δ7.27−7.47(m,15H),7.25(s,2H),5.14(s,4H),5.11(s,2H),3.89(s,3H)
【0041】
実施例8 メチル3,4,5−トリス(ベンゾイルオキシ)−2−ブロモベンゾエート(8)の合成
【化31】

DMF(60mL)中の13(11.6g,25.5mmol)の撹拌溶液に,DMF(20mL)中のNBS(4.77g,26.8mmol)を室温で滴加し,混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物をHOに加え,AcOEtで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をAcOEt/ヘキサンから再結晶して精製し,8(11.3g,83%)を白色固体として得た。
7:H NMR(270MHz,CDCl)δ7.26−7.52(m,16H),5.11(s,2H),5.09(s,2H),5.04(s,2H),3.93(s,3H)
【0042】
実施例9 メチル3’,4,4’,5,6−ペンタキス(ベンゾイルオキシ)ビフェニル−2−カルボキシレート(6a)の合成
【化32】

DMF(30mL)中の7a(2.26g,6.75mmol),8(3.00g,5.62mmol),Pd(PPh(325mg,0.281mmol)およびLiCl(358mg,8.40mmol)の懸濁液に,HO(6mL)中のNaCO(894mg,8.40mmol)を室温で加えた。混合物を脱気し,80℃で19時間撹拌した。反応混合物をHOに加え,AcOEtで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:AcOEt=9:1から85:15)により精製して,6a(1.06g,58%)を白色固体として得た。
6a:H NMR(270MHz,CDCl)δ7.18−7.48(m,25H),6.95(d,1H,J=8.6Hz),6.88(d,1H,J=8.6Hz),6.86(brs,1H),6.76(dd,1H,J=2.4Hz,8.6Hz),5.22(s,2H),5.16(s,2H),5.12(s,2H),5.06(s,2H),4.61(s,2H),3.46(s,3H)
【0043】
実施例10 3’,4,4’,5,6−ペンタキス(ベンゾイルオキシ)ビフェニル−2−カルボン酸(14a)の合成
【化33】

THF(29mL)中の6a(2.42g,3.26mmol)の溶液に,NaOH(432mg),MeOH(29mL)およびHO(8mL)を加えた。混合物を9時間還流した。反応混合物を2N HClでクエンチし,AcOEtで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:AcOEt=7:3から3:7)により精製し,AcOEt/ヘキサンから再結晶して,14a(1.83g,77%)を白色固体として得た。
14a:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ6.84−7.60(m,29H),5.29(s,2H),5.19(s,2H),5.18(s,2H),5.04(s,2H),4.68(s,2H)
【0044】
実施例11 3’,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシビフェニル−2−カルボン酸(15a)の合成
【化34】

THF/MeOH(2.4mL,1:1)の混合物中の14a(100mg,0.137mmol)の溶液に,Pd(OH)(10%,乾燥,96.3mg,69.0μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で2.5時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をCHClで洗浄して,15(31.3mg,82%)を白色アモルファスとして得た。
15a:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ7.01(s,1H),6.75(d,1H,J=7.9Hz),6.71(d,1H,J=2.0Hz),6.51(dd,1H,J=2.0Hz,7.9Hz)
【0045】
実施例12 (3’,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシビフェニル−2−イル)(ピロリジン−1−イル)メタノン(16a)の合成
【化35】

CHCl(1mL)中の14a(100mg,0.137mmol),EDCI塩酸塩(31.6mg,0.165mmol),およびHOBt(3.70mg,27.4μmol)の懸濁液に,室温でピロリジン(15.0μL,0.178mmol)を加えた。混合物を室温で19時間撹拌した。反応混合物を2N HClでクエンチし,飽和NaHCOで中和し,CHClで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(MeOH:CHCl=97:3)により精製して,白色アモルファス(73.1mg)を得た。
THF/MeOH(2.4mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,64.6mg,46.0μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で1.5時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=85:15)により精製して,16a(21.0mg,46%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
16a:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ7.63(d,1H,J=8Hz),6.89(d,1H,J=2.0Hz),6.74(dd,1H,J=2.0Hz,7.9Hz),6.36(s,1H),3.15−3.20(m,2H),2.88−2.92(m,2H),1.48−1.59(m,4H)
【0046】
実施例13 3’,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシ−N−フェニルビフェニル−2−カルボキサミド(16b)の合成
【化36】

CHCl(1mL)中の14a(100mg,0.137mmol),EDCI塩酸塩(31.6mg,0.165mmol),およびHOBt(3.70mg,27.4μmol)の懸濁液に,室温でアニリン(16.6mg,0.178mmol)を加えた。混合物を室温で14時間撹拌した。反応混合物を2N HClでクエンチし,飽和NaHCOで中和し,CHClで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:ヘキサン=4:1)により精製して,白色アモルファス(81.7mg)を得た。
THF/MeOH(2.8mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,70.1mg,49.9μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で2時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=85:15)により精製して,16b(24.9mg,51%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
16b:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ8.06(s,1H),6.95−7.34(m,5H),6.87(d,1H,J=2.0Hz),6.82(d,1H,J=8.0Hz),6.72(dd,1H,J=2.0Hz,8.0Hz)
【0047】
実施例14 モルホリノ(3’,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシビフェニル−2−イル)メタノンの合成(16c)
【化37】

CHCl(1mL)中の14a(100mg,0.137mmol),EDCI塩酸塩(31.6mg,0.165mmol),およびHOBt(3.7mg,27.4μmol)の懸濁液に,室温でモルホリン(15μL,0.178mmol)を加えた。混合物を室温で5時間撹拌した。反応混合物を2N HClでクエンチし,飽和NaHCOで中和し,CHClで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(MeOH:CHCl=1:99)により精製して,白色アモルファス(69.0mg)を得た。
THF/MeOH(2.4mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,60.8mg,43.3μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で4時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=85:15)により精製して,16c(22.2mg,47%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
16c:H NMR(270MHz,CDOD)δ6.84(d,1H,J=2.0Hz),6.77(d,1H,J=7.9Hz),6.71(dd,1H,J=2.0Hz,7.9Hz),6.31(s,1H),3.54−3.57(m,3H),3.17−3.24(m,1H),2.93−3.02(m,3H),2.65−2.72(m,1H)
【0048】
実施例15 N−ブチル−3’,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシビフェニル−2−カルボキサミド(16d)の合成
【化38】

CHCl(1mL)中の14a(100mg,0.137mmol),EDCI塩酸塩(31.6mg,0.165mmol),およびHOBt(3.70mg,27.4μmol)の懸濁液に,室温でn−ブチルアミン(18μL,0.178mmol)を加えた。混合物を室温で3時間撹拌した。反応混合物を2N HClでクエンチし,飽和NaHCOで中和し,CHClで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:ヘキサン=3:7)により精製して,白色アモルファス(62.0mg)を得た。
THF/MeOH(2.2mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,55.5mg,39.5μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で3.5時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=9:1)により精製して,16d(17.7mg,39%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
16d:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ6.82(d,1H,J=8.0Hz),6.78(d,1H,J=2.0Hz),6.77(s,1H),6.60(dd,1H,J=2.0Hz,8.0Hz),3.29(s,1H),3.02−3.05(m,2H),1.02−1.17(m,4H),0.79(t,3H,J=7.1Hz)
【0049】
実施例16 3’,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシ−N,N−ジメチルビフェニル−2−カルボキサミド(16e)の合成
【化39】

THF/MeOH(1.4mL,1:1)中の14a(100mg,0.137mmol),DMT−MM(49.5mg,0.178mmol),および15%NaOH(55.0μL,0.206mmol)の懸濁液に,室温でジメチルアミン塩酸塩(14.5mg,0.178mmol)を加えた。混合物を室温で14時間撹拌した。反応液を減圧下で濃縮し,飽和NHClを加え,EtOAcで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:ヘキサン=3:7から3:2)により精製して,白色アモルファス(55.5mg)を得た。
THF/MeOH(2mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,49.3mg,35.1μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で1時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=85:15)により精製して,16e(14.0mg,33%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
16e:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ6.86(d,1H,J=2.0Hz),6.76(d,1H,J=7.9Hz),6.70(dd,1H,J=2.0Hz,7.9Hz),6.35(s,1H),2.67(s,3H),2.50(s,3H)
【0050】
実施例17 メチル2−(4,4’,5,5’,6−ペンタヒドロキシビフェニル−2−イルカルボキサミド)アセテート(16f)の合成
【化40】

THF/MeOH(1.4mL,1:1)中の14a(100mg,0.137mmol),DMT−MM(49.5mg,0.178mmol),および15%NaOH(55μL,0.206mmol)の懸濁液に,室温でグリシンメチルエステル塩酸塩(25.8mg,0.206mmol)を加えた。混合物を室温で12時間撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し,飽和NHClを加え,AcOEtで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:ヘキサン=3:7から3:2)により精製して,白色アモルファス(68.0mg)を得た。
【0051】
THF/MeOH(1.6mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,58.0mg,41.7μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で2時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=85:15)により精製して,16f(10.0mg,21%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
16f:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ7.99(s,1H),6.80(d,1H,J=8.0Hz),6.78(d,1H,J=2.0Hz),6.62(dd,1H,J=2.0Hz,8.0Hz),3.80(brs,2H),3.60(s,3H)
【0052】
実施例18 3’,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシ−N−メチルビフェニル−2−カルボキサミド(16g)の合成
【化41】

THF/MeOH(1.4mL,l:1)中の14a(100mg,0.137mmol),DMT−MM(49.5mg,0.178mmol),および15%NaOH(55μL,0.206mmol)の懸濁液に,室温でメチルアミン塩酸塩(13.9mg,0.178mmol)を加えた。混合物を室温で20時間撹拌した。反応混合物を減圧下で濃縮し,飽和NHClを加え,AcOEtで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:ヘキサン=3:7から3:2)で精製して,白色アモルファス(64.3mg)を得た。
【0053】
THF/MeOH(1.6mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,57.7mg,41.1μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で1時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=85:15)により精製して,16g(11.6mg,29%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
16g:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ6.68(d,1H,J=7.9Hz),6.66(s,1H),6.58(d,1H,J=2.0Hz),6.50(dd,1H,J=2.0Hz,7.9Hz),2.38(d,3H,J=5.2Hz)
【0054】
実施例19 メチル2’,3’,4,4’,5,6−ヘキサキス(ベンゾイルオキシ)ビフェニル−2−カルボキシレート(6b)の合成
【化42】

DMF(0.5mL)中の7b(30.0mg,68.1μmol),8(30.3g,56.8μmol),Pd(PPh(3.30mg,2.84μmol)およびLiCl(3.61mg,85.2μmol)の懸濁液に,室温でHO(0.1mL)中のNaCO(9.03mg,85.2μmol)を加えた。混合物を脱気し,80℃で18時間撹拌した。反応混合物をHOに注加し,AcOEtで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:AcOEt=9:1から85:15)により精製して,6b(12.4mg,31%)を白色固体として得た。
6b:H NMR(270MHz,CDCl)δ6.96−7.18(m,30H),6.88−6.92(m,2H),6.85(s,1H),5.18(d,4H,J=7.3Hz),5.04(s,2H),4.99(s,2H),4.88(d,2H,J=5.0Hz),4.74(s,2H),3.55(s,3H)
【0055】
実施例20 2’,3’,4,4’,5,6−ヘキサキス(ベンゾイルオキシ)ビフェニル−2−カルボン酸(14b)の合成
【化43】

THF(3.5mL)中の6b(327mg,0.385mmol)の溶液に,NaOH(100mg),MeOH(3.5mL)およびHO(0.85mL)を加えた。混合物を6時間還流した。反応混合物を2N HClでクエンチし,AcOEtで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:AcOEt=9:1から7:3)により精製して,14b(286mg,77%)を白色固体として得た。
14b:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ6.78−7.50(m,33H),5.18(s,2H),5.15(s,2H),5.05(s,2H),4.99(s,2H),4.88(d,2H,J=7.0Hz),4.71(s,2H)
【0056】
実施例21 2’,3’,4,4’,5,6−ヘキサヒドロキシ−N−フェニルビフェニル−2−カルボキサミド(17a)の合成
【化44】

CHCl(1mL)中の14b(100mg,0.119mmol),EDCI塩酸塩(27.6mg,0.165mmol),およびHOBt(3.70mg,27.4μmol)の懸濁液に,室温でアニリン(16.6μL,0.144mmol)を加えた。混合物を室温で15時間撹拌した。反応混合物を2N HClでクエンチし,飽和NaHCOで中和し,CHClで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:ヘキサン=3:7から1:1)により精製して,白色アモルファス(75.1mg)を得た。
THF/MeOH(2.4mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,57.9mg,41.3μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で3時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=9:1)により精製して,17a(19.9mg,45%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
17a:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ7.43−7.44(m,2H),7.19−7.22(m,2H),6.98−7.00(m,1H),6.91(s,1H),6.49(d,1H,J=8.0Hz),6.43(d,1H,J=8.0Hz)
【0057】
実施例22 N−ベンジル−2’,3’,4,4’,5,6−ヘキサヒドロキシビフェニル−2−カルボキサミド(17b)の合成
【化45】

CHCl(1mL)中の14b(100mg,0.119mmol),EDCI塩酸塩(27.6mg,0.165mmol),およびHOBt(3.70mg,27.4μmol)の懸濁液に,室温でBnNH(16.0μL,0.144mmol)を加えた。混合物を室温で14時間撹拌した。反応混合物を2N HClでクエンチし,飽和NaHCOで中和し,CHClで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:ヘキサン=3:7から1:1)により精製して,白色アモルファス(61.8mg)を得た。
THF/MeOH(2.0mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,46.9mg,33.4μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で2時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=85:15)により精製して,17b(14.1mg,31%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
17b:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ7.42(brs,1H),7.15−7.21(m,3H),7.00−7.03(m,2H),6.69(s,1H),6.42(d,2H,J=2.0Hz),4.33(d,2H,J=6.0Hz)
【0058】
実施例23 (2’,3’,4,4’,5,6−ヘキサヒドロキシビフェニル−2−イル)(ピロリジン−1−イル)メタノン(17c)の合成
【化46】

CHCl(1.2mL)中の14b(124mg,0.149mmol),EDCI塩酸塩(34.3mg,0.179mmol),およびHOBt(4.03mg,29.8μmol)の懸濁液に,室温でピロリジン(32.6μL,0.388mmol)を加えた。混合物を室温で15時間撹拌した。反応混合物を2N HClでクエンチし,飽和NaHCOで中和し,CHClで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:ヘキサン=2:3から1:1)により精製して,白色アモルファス(105mg)を得た。
THF/MeOH(2.0mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,83.3mg,59.3μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で1.5時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=9:1)により精製して,17c(23.7mg,46%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
17c:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ6.49(d,1H,J=7.9Hz),6.41(s,1H),6.39(d,1H,J=7.9Hz),3.12−3.20(m,2H),2.85−2.91(m,2H),1.49−1.61(m,4H)
【0059】
実施例24 2’,3’,4,4’,5,6−ヘキサヒドロキシビフェニル−2−カルボキサミド(17d)の合成
【化47】

THF/MeOH(1.2mL,1:1)中の14b(150mg,0.179mmol)およびDMT−MM(99.6mg,0.359mmol)の懸濁液に,室温で25%NH(50.0μL,0.718mmol)を加えた。混合物を室温で20時間撹拌した。反応液を減圧下で濃縮し,飽和NHClを加え,EtOAcで抽出した。有機層をHOおよびブラインで洗浄し,無水MgSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(AcOEt:ヘキサン=3:7)により精製して,白色アモルファス(114mg)を得た。
THF/MeOH(2.4mL,1:1)の混合物中の白色アモルファスの反応混合物に,Pd(OH)(10%,乾燥,96.2mg,68.5μmol)を加えた。混合物をH雰囲気下で室温で2.5時間撹拌した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=9:1から85:15)により精製して,17d(23.8mg,45%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
17d:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ8.45(d,1H,J=8.0Hz),7.42(s,1H),6.82(d,1H,J=8.0Hz)
【0060】
実施例25 3’,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシビフェニル−2−カルボキサミド(16h)の合成
【化48】

実施例24と同様にして,14aから16hを得た。
16h:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ7.30-8.30(brs,5H),6.86(s,1H),6.81(d,1H,J1=8Hz),6.79(d,1H,J1=2Hz),6.64(dd,1H,J1=2Hz,J2=8Hz),6.27(brs,1H),5.83(brs,1H)
【0061】
実施例26 メチル2’,3’,4,4’,5,6−ヘキサヒドロキシビフェニル−2−カルボキシレート(18)の合成
【化49】

実施例11と同様にして,6bを脱保護することにより18を得た。
18:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ8.36(s,1H),8.32(s,1H),7.32(s,1H),6.87(s,1H),6.71(d,1H,J=9Hz),6.24(d,1H,J=9Hz),3.36(s,3H)
【0062】
実施例27 エチル−3’,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシビフェニル−2−カルボキシレート(19a)の合成
【化50】

14a(150mg,0.206mmol),WSCI・HCl(51.3mg,0.268mmol),およびDMAP(2.5mg,0.0206mmol)の混合物に,EtOH/CHCl(1:1,1mL)を室温で加えた。混合物を室温で20分間撹拌した。反応を飽和水性NH4Clを加えて反応をクエンチし,CHClで抽出した。合わせた有機層をHOおよびブラインで洗浄し,NaSOで乾燥し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:AcOEt=85:15)により精製して,白色アモルファスを得た。
白色アモルファスをTHF/MeOH(1:1,4mL)の混合物に溶解し,10%Pd(OH)/C(90.2mg,0.642mmol)で室温で1時間水素化した。反応混合物をセライトパッドを通して濾過し,減圧下で濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOH=92:8から9:1)により精製して,19a(41.9mg,67%,2工程)を白色アモルファスとして得た。
19a:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ7.50-8.10(brs,5H),6.91(s,1H),6.78(d,1H,J=8Hz),6.69(d,1H,J=2Hz),6.51(dd,1H,J=2Hz,J=8Hz),3.90(q,2H,J=7Hz),0.92(t,3H,J=7Hz)
13C NMR(68MHz,アセトン−d)δ168.6,145.2,145.0,144.5,143.9,136.7,129.4,123.9,122.9,122.5,118.2,115.6,109.6,60.5,14.0
FAB−MS m/z307,C1515(M+H)
【0063】
実施例28 プロピル−3,4,4’,5,6−ペンタヒドロキシビフェニル−2−カルボキシレート(20a)の合成
【化51】

実施例27と同様にして,14aから20aを得た。
20a:H NMR(270MHz,アセトン−d)δ7.40-8.10(brs,5H),6.93(s,1H),6.77(d,1H,J=8Hz),6.70(d,1H,J=2Hz),6.51(dd,1H,J=2Hz,J=8Hz),3.90(t,2H,J=7Hz),1.34(sext,2H,J=7Hz),0.72(t,3H,J=7Hz)
13C NMR(68MHz,アセトン−d)δ168.7,145.2,145.0,144.5,143.9,136.7,129.4,124.0,122.9,122.5,118.2,115.6,109.7,66.3,22.4,10.7
FAB−MS m/z320,C1616(M)
【0064】
実施例29 HBCA誘導体の抗インフルエンザウイルス活性試験
無血清培地(hybridoma-SFM complete DPM, Invitrogen Corp. NY, USA)に溶解した各化合物(1mg/ml)を連続2倍希釈した。各希釈液75μlにインフルエンザウイルス(A/Memphis/1/71(H1N1))懸濁液(100 FFU)75μlを混合し,4℃で1時間反応した。
【0065】
96ウエルマイクロタイタープレート(Corning Costar Corporation, Cambridge, MA)に単層培養したMDCK(Madine-Darby canine kidney)細胞に,試験化合物とインフルエンザウイルスの混合液100μlを室温で加え,34℃で1時間反応後,上清を取り除き,PBSで3回洗浄した。次いで,100μlのSFMを加え,34℃で16時間培養した。培養細胞をPBSで3回洗浄後,MeOHを加えて室温下で5分間固定した。PBSで3回洗浄後,ウイルス感染細胞を抗NPモノクローナル抗体と,西洋ワサビペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗マウス免疫グロブリンG+M(IgG+M)抗体を用いる酵素抗体法により検出した。ウイルス感染細胞は,1ウエル中で青色に染色された細胞数を三重測定した平均値として算出した。ウイルス感染の50%阻害濃度は,サンプル濃度に対して,阻害パーセントをプロットしたグラフから求めた。
【0066】
結果を下記の表に示す。本発明の化合物はいずれも,エピガロカテキン(EGC)と比較して非常に高いIC50(mM)の値を示した。
【0067】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の化合物は,抗インフルエンザウイルス剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化52】

[式中,Rは,HまたはOHであり,Rは,OH,C1−3のアルコキシ基またはNRであり,Rは,HまたはC1−3のアルキル基であり,Rは,H,C1−6のアルキル基,フェニル基またはベンジル基であり,これらの基は,ハロゲン,C1−3のアルコキシ基およびC1−3のアセチル基からなる群より選択される1〜3個の基で置換されていてもよく,または,RおよびRは,これらが結合しているNと一緒になって,ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環を形成し,前記ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環は,ハロゲンおよびC1−3アルキルから選択される1〜3個の基で置換されていてもよい]
で表される化合物またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステル。
【請求項2】
式(I)中,Rが,下記の基:
【化53】

からなる群より選択される,請求項1記載の化合物またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物またはその薬学的に許容しうる塩,溶媒和物もしくはエステルを有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤。
【請求項4】
式(Ia):
【化54】

[式中,Rは,HまたはOHである]
の化合物を製造する方法であって,
カテコールまたはピロガロールのフェノール性水酸基を保護し,ブロム化した後に,トリアルキルボロンと反応させて,式(III):
【化55】

[式中,Rは,HまたはORであり,Rはフェノール性水酸基の保護基である]
の有機ボロン酸を生成し;
没食子酸メチルのフェノール性水酸基を保護した後にブロム化することにより,式(IV):
【化56】

[式中,Rはフェノール性水酸基の保護基である]
のブロム体を生成し,
式(III)の有機ボロン酸と式(IV)のブロム体から鈴木−宮浦カップリングにより式(V):
【化57】

[式中,Rは,HまたはORであり,Rはフェノール性水酸基の保護基である]
のビフェニル化合物を生成し,そして
式(V)の化合物を脱保護することにより式(Ia)の化合物を得る,
の各工程を含む方法。
【請求項5】
式(II):
【化58】

の化合物を製造する方法であって,請求項4において定義される式(V):
【化59】

[式中,Rは,HまたはORであり,Rはフェノール性水酸基の保護基である]
で表される化合物のメチルエステル部を加水分解し,次に脱保護する,
の各工程を含む方法。
【請求項6】
一般式(Ib):
【化60】

[式中,Rは,HまたはOHであり,Rは,HまたはC1−3のアルキル基であり,Rは,H,C1−6のアルキル基,フェニル基またはベンジル基であり,これらの基は,ハロゲン,C1−3のアルコキシ基およびC1−3のアセチル基からなる群より選択される1〜3個の基で置換されていてもよく,または,RおよびRは,これらが結合しているNと一緒になって,ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環を形成し,前記ピロリジン環,ピペリジン環またはモルホリン環は,ハロゲンおよびC1−3アルキルから選択される1〜3個の基で置換されていてもよい]
で表される化合物を製造する方法であって,式(II):
【化61】

[式中,Rは,HまたはOHである]
で表される化合物のフェノール性水酸基を保護して,式(VI):
【化62】

[式中,Rは,HまたはORであり,Rはフェノール性水酸基の保護基である]
で表される化合物を形成し;
式(VII)の化合物を式(VIII):
NHR
のアミンと縮合させて式(IX):
【化63】

[式中,R,R,RおよびRは上で定義したとおりである]
で表される化合物を形成し;
式(IX)の化合物を脱保護して,式(Ib):
【化64】

[式中,R,RおよびRは上で定義したとおりである]
の化合物を形成する,
の各工程を含む方法。



【公開番号】特開2010−248111(P2010−248111A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98340(P2009−98340)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(507219686)静岡県公立大学法人 (63)
【Fターム(参考)】